第1 この記事が扱う問題
1 労働組合による交渉が非弁行為にならない範囲
労働組合が,実際の組合員の解雇,雇止め,未払賃金その他の労働関係上の問題について,その使用者と団体交渉を行い,解決金等を含む和解を成立させることは,通常,弁護士法72条に違反しない。労働組合法6条が,労働組合の代表者又は労働組合から委任を受けた者に,組合又は組合員のために使用者と交渉する権限を与えており,東京高裁令和4年12月15日判決(令和4年(ネ)第3376号)も,このような交渉・和解を労働組合に求められた正当な業務と判断したからである。
もっとも,労働組合という名称を用いれば,あらゆる示談代行,事件紹介又は成功報酬の受領が許されるわけではない。交渉対象者が実際の組合員か,労働組合法上の労働者及び使用者の関係があるか,労働条件その他の労使問題を扱っているか,本人の意思と組合規約に基づくか,金銭が正当な組合財政か個別事件の対価か,という事実を確認する必要がある。
2 記事の対象と確認時点
本記事は,令和8年8月20日までに確認できた法令,判決,労働委員会命令及び公的資料に基づき,正当な団体交渉と弁護士法72条が禁止する非弁行為の境界を整理するものである。生成AIを用いて資料を横断検索した上で,重要な条文,判旨,金額及び件数を原資料と照合した。
労働組合一般の組織・運営,団体交渉の全手続又は退職代行サービス全般を網羅するものではない。また,個別事件における未払賃金の消滅時効,解雇の争い方及び労働委員会への申立期間は,基礎となる請求・手続ごとに別途確認を要する。団体交渉を続けていることだけで,これらの期間が当然に停止するとは限らない。
第2 労働組合法6条と弁護士法72条の関係
1 労働組合の交渉権限
日本国憲法28条は,勤労者の団結権,団体交渉権その他の団体行動権を保障する。これを受けた労働組合法6条は,次のように定めている。
労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は,労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
条文が「労働協約の締結その他の事項」としているため,交渉権限は労働協約の締結だけに限られない。労働組合法7条2号は,使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを,正当な理由なく拒む行為を不当労働行為として禁止している。
2 弁護士法72条の構成要件
弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者が,報酬を得る目的で,一般の法律事件について,鑑定,代理,仲裁,和解その他の法律事務を取り扱い,又はこれらを周旋することを業とすることを,法令に別段の定めがある場合を除いて禁止する。
同条の判断では,①弁護士又は弁護士法人でない者であること,②報酬を得る目的があること,③一般の法律事件に関すること,④法律事務の取扱い又は周旋に当たること,⑤業として行うこと,⑥他の法律上の根拠がないことが区別される。一般的な構成要件と最高裁判例については,AI活用に伴う弁護士法72条見直しの動き及び非弁護士との提携の禁止でも整理している。
3 両条の関係を説明する三つの構成
正当な組合活動が弁護士法72条に違反しない理由については,①労働組合法6条が弁護士法72条ただし書の「他の法律に別段の定めがある場合」に当たる,②労働組合は固有の団体交渉権を行使しており,外部者として他人の事件に介入しているのではない,③弁護士法72条の規制趣旨に照らし,正当な団体交渉は同条の「その他の法律事務」に当たらない,という説明が考えられる。
東京高裁令和4年12月15日判決は,労働組合法6条を参照しながら,主として③の説明を採った。同判決は,労働組合に正当な組合活動を超える包括的な法律事務取扱権を認めたものではなく,具体的な組合活動が弁護士法72条の規制趣旨に反するかを判断したものと理解すべきである。
第3 東京高裁令和4年12月15日判決
1 争われた団体交渉と拠出金
プレカリアートユニオン(拠出金返還等請求)事件では,労働組合に加入した組合員が,二つの勤務先との労働問題について団体交渉を受けた。組合は,一方の勤務先との間で19万円,もう一方との間で300万円を支払う内容の和解を成立させた。
組合には,組合が関与して解決した労働争議について,組合員が受領する解決金の20%を組合活動のために拠出する旨の規則があった。組合員は,19万円の解決金について3万8000円,300万円の解決金について30万円,合計33万8000円を拠出した後,団体交渉と和解は非弁行為であり,拠出金の受領も法律上の原因を欠くなどと主張して返還を求めた。
2 東京地裁令和4年5月24日判決
東京地裁令和4年5月24日判決(令和3年(ワ)第12587号,労働判例1268号13頁)は,組合が労働組合法6条に基づき組合員のために使用者と団体交渉を行ったものであり,弁護士法72条の非弁行為に当たらないとして,拠出金の返還請求を退けた。
同判決が確認したのは,組合員が実際に組合へ加入し,その雇用主との労働問題について団体交渉が行われ,組合規則に基づいて拠出金が支払われた事案である。一般人の民事紛争を有償で引き受ける場合や,弁護士への事件紹介を組合活動と称する場合を判断したものではない。
3 東京高裁令和4年12月15日判決
控訴審である東京高裁令和4年12月15日判決(令和4年(ネ)第3376号)は,控訴を棄却した。同判決は,労働組合が組合員のために雇用主と団体交渉を行って和解を成立させることは,労働組合に求められた正当な業務であり,自らの利益のためにみだりに他人の法律事件に介入しているとはいえず,組合員その他の関係者の利益を損ねてもいないと判断した。
この判示は,最高裁昭和46年7月14日大法廷判決が示した弁護士法72条の規制趣旨に対応する。同最高裁判決は,弁護士資格がなく弁護士の規律にも服しない者が,自己の利益のため,みだりに他人の法律事件へ介入することを業とする行為を防止し,当事者その他の関係者の利益と法律秩序を守ることを同条の目的としている。
4 判決の射程
東京高裁判決から導けるのは,実体のある労働組合が,組合員本人の労働問題について,その雇用主と正当な団体交渉を行う場合の結論である。労働組合という名称だけを借りた有償示談代行,非労働者の一般民事事件,外部業者による事件周旋,本人の意思に反する和解,又は組合員の個別債権を権限なく処分する行為まで適法とするものではない。
また,解決金の20%という割合は,適法・違法を分ける上限ではない。同判決は,20%という数値だけでなく,組合加入,交渉の対象,組合規則,組合活動の実体及び本人の関与を含む事実関係の下で判断したものである。
第4 個別労働紛争を交渉できる範囲
1 解雇・未払賃金等も団体交渉事項となる
団体交渉は,全組合員に共通する賃金表又は就業規則だけを対象とするものではない。特定組合員の解雇,雇止め,未払賃金,賃金減額,人事異動その他の労働条件に関する事項で,使用者が処分可能なものは,義務的団交事項となり得る。労働組合法6条が,労働組合に「組合員のため」に交渉する権限を認めていることとも整合する。
愛知県労働委員会令和6年10月15日命令(令和5年(不)第3号)及び岐阜県労働委員会令和7年11月28日命令(令和6年(不)第3号)は,特定組合員の未払賃金等に関する団体交渉について,東京高裁令和4年12月15日判決を踏まえ,正当な組合活動であって非弁行為ではないとした。
2 訴訟係属中及び退職後の問題
労働問題について訴訟又は労働審判が係属していても,そのことだけで団体交渉事項性が失われるとはいえない。奈良県労働委員会平成26年6月26日命令(平成25年(不)第1号)は,退職者の業務上の石綿被害と補償について,退職後も義務的団交事項となり得るとし,並行する民事訴訟があることも団交義務を消滅させないと判断した。
もっとも,退職者の一般的な私生活上の紛争は,当然に団体交渉の対象となるものではない。雇用関係に由来する労働条件,災害補償,退職時の精算その他の労使関係上の問題であること,交渉相手が当該問題を処分できる使用者であることが必要である。
3 労働組合法5条の資格審査との区別
労働組合法5条の資格審査は,労働委員会の救済手続への参加や法人登記等との関係で問題となる制度であり,同法6条の交渉権限そのものと同一ではない。岐阜県労働委員会令和7年11月28日命令は,労働組合法6条の権限について,同法5条所定の要件を備えることまで要求していない。
ただし,名称だけの団体や,労働者が主体となって労働条件の維持改善等を図るという労働組合法2条の実体を欠く団体についてまで,同法6条の権限が直ちに認められるものではない。資格審査の有無と,団体が労働組合法上の労働組合に当たるかという実体判断は別である。
第5 拠出金・組合費と「報酬を得る目的」
1 組合費があるだけでは報酬目的にならない
労働組合が組合費を徴収し,組合員のために団体交渉を行っていることだけで,個々の交渉が直ちに弁護士法72条の「報酬を得る目的」によるものとなるのではない。プレカリアートユニオン事件も,規則に基づく拠出金の受領を含め,正当な組合活動の一部として非弁該当性を否定した。
他方,金銭の名称だけでは結論を決められない。「組合費」「拠出金」「寄付金」「賛助金」と表示されていても,実質が個別事件の処理手数料,弁護士への紹介料又は一般民事事件の成功報酬であれば,報酬目的を基礎付ける事情となり得る。『条解 弁護士法〔第5版〕』643頁~645頁も,直接の対価だけでなく,法律事務と経済的利益との実質的な結び付きから報酬目的を判断する必要があると整理している。
2 確認すべき金銭の流れ
拠出金の適法性を検討するときは,①加入前から規約又は規則に条件と算定方法が定められていたか,②本人に内容が説明されていたか,③組合機関による決定と会計処理があるか,④金銭が組合活動に用いられているか,⑤外部の集客業者又は弁護士への紹介料となっていないか,⑥多数の事件を反復処理する事業収入になっていないかが,主な確認事項となる。
したがって,解決金に対する拠出割合がプレカリアートユニオン事件と同じ20%であることは,適法性を保証しない。逆に,解決金に比例する仕組みであるという一点だけで,直ちに非弁行為になるともいえない。
第6 交渉権限と組合員の権利を処分する権限
1 最高裁平成31年4月25日判決
労働組合法6条に基づく交渉権限があっても,組合員の既発生賃金債権を当然に放棄又は変更する権限まで組合に与えられるものではない。最高裁平成31年4月25日第一小法廷判決(平成29年(受)第1889号)は,使用者と労働組合との間で未払賃金債権を放棄する合意がされた事案について,その効果を組合員本人に帰属させる事情がなければ,本人の債権が放棄されたとはいえないと判断した。
同判決は,具体的に発生した賃金請求権を,事後に締結された労働協約の遡及適用によって処分又は変更することは許されず,支払猶予についても本人の特別の授権を要するとした。団体交渉の場で合意を目指す権限と,個々の組合員に帰属する既発生債権を代理して処分する権限は,分けて確認しなければならない。
2 和解時に明確にすべき事項
組合が個別組合員の解雇・未払賃金等について和解する場合は,組合の交渉担当者,組合員本人及び使用者の関係を合意書上で明確にすべきである。本人が当事者として署名するのか,組合に代理権を授与するのか,組合が将来の労使関係上の約束だけをするのかによって,合意の効力が及ぶ範囲が異なるためである。
労働協約の規範的効力と既発生権利を処分できる範囲については,労働協約でも整理している。
第7 使用者が非弁行為を疑う場合の対応
1 抽象的な疑いだけによる団交拒否の危険
使用者が「交渉担当者は弁護士ではない」「個別の未払賃金を交渉している」という理由だけで団体交渉を拒否すると,労働組合法7条2号の不当労働行為となる可能性が高い。これらは労働組合法6条が予定する交渉の範囲内だからである。
大阪府労働委員会令和2年3月13日命令(平成30年(不)第54号)は,非弁行為には報酬目的及び業としての取扱い等の検討が必要であるのに,交渉担当者に権限がなく非弁になるとの不正確な説明を繰り返したことなどを,不誠実な団交対応として問題にした。京都府労働委員会令和2年12月9日命令(平成31年(不)第1号)も,組合が組合員自身の労働問題について交渉することは,外部者が他人の法律事件へ介入する場合ではなく,報酬目的も認められないとしている。
2 最初に確認する資料と事実
使用者側では,①団体交渉申入書,②組合員本人の氏名及び加入・委任の意思,③組合規約,④交渉担当者の選任又は委任,⑤要求事項と雇用関係との結び付き,⑥使用者が要求事項を処分できる立場にあるか,⑦組合費・拠出金及び外部紹介者の関係を順に確認するのが相当である。
確認のために合理的な説明又は資料を求めることはできるが,必要性の乏しい内部資料を網羅的に要求し,提出されるまで交渉しないという対応は,実質的な団交拒否と評価され得る。疑義を留保して団体交渉に応じ,非弁行為の疑いは,具体的な証拠を基に弁護士会又は捜査機関への情報提供等の別の経路で扱う方法も検討すべきである。
3 団体交渉の方法自体に問題がある場合
非弁該当性とは別に,暴力,脅迫,長時間又は多数人による著しく不相当な交渉方法などがある場合は,交渉方法の修正,人数・時間・場所等の合理的なルール設定又は具体的危険に応じた拒否が問題となる。ただし,過去に不適切な言動が一度あったというだけで,将来の団体交渉を全面的に拒否できるとは限らない。
使用者は,「交渉主体が非弁である」という主張と,「交渉方法が相当でない」という主張を混同せず,問題となる行為,必要な改善及び拒否する範囲を具体化すべきである。
第8 退職代行・フリーランス・社会保険労務士
1 退職代行と事件周旋
労働組合が実際の組合員の退職条件,未払賃金,有給休暇その他の労働問題をその使用者と交渉する場合は,労働組合法6条の対象となり得る。しかし,集客業者が退職希望者を反復して集め,弁護士又は労働組合へ有償で紹介する場合は,団体交渉とは別に,弁護士法72条の事件周旋が問題となる。
東京地裁令和8年(わ)第10808号・第11937号判決は,退職代行業者から弁護士法人への85名分の事件周旋と,67名分合計110万5500円の紹介料支払等を認定した。紹介料について,労働組合への「賛助金」である旨の虚偽の覚書を作成し,総勘定元帳に18回の虚偽記載をしたことも,犯罪収益の発生原因を仮装した行為として処罰された。
この刑事判決は,労働組合による正当な退職交渉を違法としたものではない。組合又は賛助金という名目を用いても,実体が退職代行業者から弁護士への有償の事件周旋であれば違法性を免れないことを示す事例である。裁判所公表PDFの冒頭は令和8年6月5日宣告と記載する一方,末尾には同月10日と記載されているため,本記事では正式な宣告日の記載がある同月5日判決として扱う。
2 フリーランスの労働者性
フリーランスが合同労組へ加入した場合は,契約名称だけでなく,労働組合法上の労働者に当たるかが境界となる。労働組合法上の労働者性は,事業組織への組入れ,契約内容の一方的・定型的決定,報酬の労務対価性,業務依頼に応ずべき関係,広い意味での指揮監督及び顕著な事業者性等から総合判断される。判断要素の詳細は,「労働者性」の判断基準で扱っている。
中央労働委員会「今後の労働委員会の新たな役割に係る課題検討会 最終報告」(令和8年2月)8頁~9頁は,既存の合同労組に加入したフリーランスが実際には労働組合法上の労働者でなかった場合,団体交渉又はあっせん申請が,態様によっては,みだりに他人の法律事件へ介入するものではないかという問題を提起するとした。労働者性に強い疑義がある場合には,厳密な審査・確認が必要になることも想定されるとしているが,今後の事例の蓄積を待つべき未確定の問題である。
3 使用者側の社会保険労務士等
特定社会保険労務士には,社会保険労務士法上,個別労働関係紛争の裁判外紛争解決手続について限定された代理権がある。しかし,この制度は,労働争議状態にある団体交渉について,一方当事者の代理人として一般的に交渉できる根拠にはならない。
厚生労働省は,平成17年の社会保険労務士法改正後も,労働争議時の団体交渉において一方当事者の代理人となることはできないとの取扱いを公表している。実際の関与が,事実・制度の説明又は補佐にとどまるのか,当事者に代わって交渉・和解する代理なのかが分岐点となる。
第9 裁判例・労働委員会命令の位置付け
| 裁判例・命令 | 本件との関係 | 位置付け |
|---|---|---|
| 最高裁昭和46年7月14日大法廷判決(昭和44年(あ)第1124号) | 弁護士法72条の規制趣旨 | 非弁規制の一般判例 |
| 最高裁平成22年7月20日第一小法廷決定(平成21年(あ)第1946号) | 法的紛争の発生がほぼ不可避な案件も「一般の法律事件」に含む | 非弁規制の一般判例 |
| 最高裁平成31年4月25日第一小法廷判決(平成29年(受)第1889号) | 組合の交渉権限と既発生賃金債権の処分権限を区別 | 権限の限界を示す直接関連判例 |
| 東京地裁令和4年5月24日判決・東京高裁令和4年12月15日判決 | 正当な団体交渉・和解及び規則に基づく拠出金について非弁該当性を否定 | 本件の中心判例 |
| 東京地裁令和2年1月30日判決(平成31年(行ウ)第92号) | 使用者が設定した団交開催条件の必要性・合理性 | 非弁該当性を一般的に判断せず,条件付き団交拒否を違法とした関連判例 |
| 東京地裁令和8年6月5日判決(令和8年(わ)第10808号ほか) | 退職代行業者による有償の事件周旋と賛助金名目の偽装 | 組合名義では回避できない境界事例 |
| 奈良県労委平成26年6月26日命令 | 退職者の業務上被害・訴訟係属中の補償交渉 | 団交事項性を判断し,弁護士法違反を最終判断したものではない |
| 兵庫県労委平成27年12月24日命令 | 使用者側社会保険労務士の関与 | 非弁該当性を確定しなかった命令 |
| 東京都労委令和2年2月18日命令 | 法律事務所職員が組合の交渉担当者として参加 | 後の和解認定により初審命令は失効 |
| 大阪府労委令和2年3月13日命令 | 報酬目的・業の検討を欠く非弁説明による団交阻害 | 不誠実交渉の判断資料 |
| 京都府労委令和2年12月9日命令 | 組合員自身の労働問題と報酬目的の不存在 | 非弁主張を明示的に退けた命令 |
| 中央労委令和4年8月3日命令 | 使用者側社会保険労務士等の関与 | 交渉権限・交渉態度を中心に判断 |
| 東京都労委令和4年10月18日命令 | 労働者性・組合資格に関する使用者の主張 | 団交義務を肯定し,弁護士法を独立に確定していない |
| 神奈川県労委令和4年10月28日命令 | 非弁の疑いが主張された事案 | 使用者性を否定し,弁護士法の判断に進まなかった |
| 愛知県労委令和6年10月15日命令・岐阜県労委令和7年11月28日命令 | 特定組合員の未払賃金等の団体交渉 | 東京高裁令和4年判決を踏まえて非弁主張を否定 |
労働委員会は,団体交渉拒否が不当労働行為に当たるかを審査する行政委員会であり,弁護士法72条違反の刑事責任又は契約の私法上の効力を最終判断する裁判所ではない。したがって,労働委員会命令中の非弁に関する説明は,団交拒否の正当理由を判断する文脈と射程を踏まえて読むべきである。
第10 事実関係別の判断手順
| 確認する事実 | 適法な団体交渉に近づく事情 | 非弁行為の疑いを強める事情 |
|---|---|---|
| 交渉対象者 | 実際に加入した組合員である | 非組合員の一般民事事件を受け付けている |
| 当事者関係 | 労働組合法上の労働者と使用者の関係がある | 労使関係がなく,単なる債権回収・損害賠償交渉である |
| 交渉事項 | 解雇,賃金,配置,退職条件等の労働問題である | 雇用と無関係な家族・不動産・消費者問題等である |
| 本人の意思と権限 | 加入,委任及び和解内容について本人の意思を確認できる | 本人の意思に反し,又は個別債権を無権限で処分する |
| 金銭 | 規約に基づく通常の組合費・組合活動の拠出金である | 個別事件の手数料,成功報酬又は紹介料の実質がある |
| 業務の実体 | 組合員の団結と労働条件改善を目的とする組合活動である | 大量集客した事件を反復処理する示談代行事業である |
| 外部事業者との関係 | 専門家の助言を受けつつ組合自身が団交する | 集客業者と弁護士・組合の間で紹介料が授受される |
一つの事情だけで結論を決めることはできない。組合名,拠出割合又は交渉担当者の肩書ではなく,「誰の,どの労働関係上の問題を,誰に対し,どの権限と対価構造の下で処理しているか」を具体的に確認することが,団体交渉権を不当に狭めず,非弁行為も見逃さないための判断方法である。
第11 出典・参考資料
1 法令
①日本国憲法28条(e-Gov法令検索)
②労働組合法(昭和24年法律第174号)1条,2条,5条,6条,7条2号(e-Gov法令検索)
③弁護士法(昭和24年法律第205号)72条,77条3号(e-Gov法令検索)
④社会保険労務士法(昭和43年法律第89号)2条(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所大法廷昭和46年7月14日判決(昭和44年(あ)第1124号,刑集25巻5号690頁。裁判所HPの現行検索では個別原本を取得できず,公式判例書誌及び後続裁判例により確認)
②最高裁判所第一小法廷平成22年7月20日決定(平成21年(あ)第1946号,刑集64巻5号793頁。裁判所HPの現行検索では個別原本を取得できず,公式判例書誌及び判例解説により確認)
③最高裁判所第一小法廷平成31年4月25日判決(平成29年(受)第1889号,労働判例1208号5頁。裁判所ウェブサイト)
④東京地方裁判所令和4年5月24日判決(令和3年(ワ)第12587号,労働判例1268号13頁。裁判所HP未掲載。公開された判決写しにより全文確認)
⑤東京高等裁判所令和4年12月15日判決(令和4年(ネ)第3376号。裁判所HP未掲載。公開された判決写しにより全文確認)
⑥東京地方裁判所令和8年6月5日判決(令和8年(わ)第10808号・第11937号,弁護士法違反等被告事件。裁判所ウェブサイト。PDF末尾の日付は同月10日)
⑦東京地方裁判所令和2年1月30日判決(平成31年(行ウ)第92号,不当労働行為救済命令取消請求事件。中央労働委員会命令・裁判例データベース)
3 労働委員会命令・公的資料
①奈良県労働委員会平成26年6月26日命令(平成25年(不)第1号,中央労働委員会命令・裁判例データベース)
②兵庫県労働委員会平成27年12月24日命令(平成25年(不)第8号,同データベース)
③東京都労働委員会令和2年2月18日命令(平成30年(不)第4号,同データベース)
④大阪府労働委員会令和2年3月13日命令(平成30年(不)第54号,同データベース)
⑤京都府労働委員会令和2年12月9日命令(平成31年(不)第1号,同データベース)
⑥中央労働委員会令和4年8月3日命令(令和2年(不再)第36号・第37号,同データベース)
⑦東京都労働委員会令和4年10月18日命令(令和2年(不)第77号,同データベース)
⑧神奈川県労働委員会令和4年10月28日命令(令和3年(不)第23号,神奈川県ウェブサイト)
⑨愛知県労働委員会令和6年10月15日命令(令和5年(不)第3号,中央労働委員会命令・裁判例データベース)
⑩岐阜県労働委員会令和7年11月28日命令(令和6年(不)第3号,同データベース)
⑪中央労働委員会「今後の労働委員会の新たな役割に係る課題検討会 最終報告」(令和8年2月)8頁~9頁
⑫厚生労働省「社会保険労務士制度に関する改正内容・関係通知」
⑬第5回国会衆議院労働委員会第15号(昭和24年5月7日,国立国会図書館国会会議録検索システム)
4 文献
①荒木尚志・安西愈・野川忍編『論点体系 判例労働法〔第2版〕5―集団的労使関係・紛争解決手続』(第一法規,2024年)26頁~27頁,36頁~46頁
②日本弁護士連合会調査室編著『条解 弁護士法〔第5版〕』(弘文堂,2019年)638頁~659頁
③柴垣明彦「近時の業際問題や非弁行為・非弁提携弁護士問題の状況~新しい社会情勢や技術の進歩を踏まえて~」自由と正義77巻8号(2026年)8頁~13頁