「労働者性」の判断基準


目次
1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
5 関連記事その他

1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
(1) 労働基準法における「労働者性」の判断基準の概要は以下のとおりです(業務委託契約書の達人HP「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは」参照)。
ア 「使用従属性」に関する判断基準
① 「指揮監督下の労働」であること
a. 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b. 業務遂行上の指揮監督の有無
c. 拘束性の有無
d. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
② 「報酬の労務対償性」があること
イ 「労働者性」の判断を補強する要素
① 事業者性の有無
② 専属性の程度
(2)ア  最高裁平成8年11月28日判決は,車の持込み運転手が労働基準法及び労災保険法上の労働者に当たらないとされた事例であり,最高裁平成19年6月28日判決は,作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事する形態で稼働していた大工が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例です。
イ 最高裁平成17年6月3日判決関西医科大学事件)は,臨床研修として病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する医師は,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り労働基準法上の労働者に当たるとされた事例です。
(3)ア 一人親方建設業共済会HPに載ってある「労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告 」(平成8年3月)には,建設業手間請け従事者及び芸能関係者について,労働者性の判断基準が書いてあります。
イ 社会保険労務士法人大野事務所HP「労働基準法における「労働者性」の判断基準」では,「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)」(略称は「フリーランスガイドライン」です。)で示された考え方が図解されています。
(4) 未払い残業代請求の法律相談(2022年9月20日付)261頁には「労蟇法上の労働者に該当すると判断されるリスクが相当程度あると考えられる場合には,業務従事者の労働時間の長さを確認又は推知することができる資料を収集,確保しておくことが必要となります。」と書いてあります。


2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
(1) 厚生労働省HPの「「労使関係法研究会報告書」について~労働組合法上の労働者性の判断基準を初めて提示~」(平成23年7月25日付)では,労働組合法上の労働者に該当するかどうかについては,以下の判断要素を用いて綜合的に判断すべきものとしています。
(1)基本的判断要素
  1 事業組織への組み入れ
   労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか。
  2 契約内容の一方的・定型的決定
   契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか。
  3 報酬の労務対価性
   労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか。
(2)補充的判断要素
  4 業務の依頼に応ずべき関係
   労務供給者が相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか。
  5 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
   労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務の供給を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘
  束を受けているか。
(3)消極的判断要素
  6 顕著な事業者性
   労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られるか。
(2) 労働組合法上の労働者であると判断した最高裁判例としては以下のものがあります。
① 最高裁昭和51年5月6日判決(CBC管弦楽団労組事件)
・ 民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例です。
② 最高裁平成7年2月28日判決朝日放送事件)
・ 雇用主との間の請負契約により労働者の派遣を受けている事業主が労働組合法七条にいう「使用者」に当たるとされた事例です。
③ 最高裁平成23年4月12日判決新国立劇場運営財団事件)
・  年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
④ 最高裁平成23年4月12日判決(INAXメンテナンス事件)
・  住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者が,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
・ Wikipediaの「INAX」には「INAX(イナックス)は、LIXILが展開する衛生陶器・住宅設備機器・建材のブランド名である。また、株式会社INAX(英: INAX Corporation)は、2011年3月までこれらの事業を展開していた企業で、現在のLIXILの前身の一つである。」と書いてあります。
⑤ 最高裁平成24年2月21日判決(ビクターサービスエンジニアリング事件)
・ 音響製品等の設置,修理等を業とする会社と業務委託契約を締結して顧客宅等での出張修理業務に従事する受託者につき,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)ア 人事・労働・労務相談ALG「労働組合法上の労働者性|労働基準法との違い」には以下の記載があります。
労働基準法上では、「労働者」は専用従属性を中心として判断されます。それとは異なり、労働組合法上の「労働者」は経済的従属性を中心として判断されることから、労働基準法上の労働者性よりも緩やかに認められるという点に特徴があります。
イ NHKの受託業務従事者(いわゆる地域スタッフ)は,労働基準法及び労働契約法上の労働者ではない(大阪高裁平成28年7月29日判決参照)ものの,労働組合法上の労働者ではあります(東京高裁令和元年5月15日判決参照)。
ウ vnnn’s blogの「NHK集金人には法人委託と地域スタッフの2種類います」には以下の記載があります。
あなたの部屋に何度もやってくるNHK集金人には、法人委託の集金人と地域スタッフの集金人の2種類います。法人委託の集金人は会社員でNHKが委託(仕事を頼んでいる)法人に所属している会社員です。それに対して、地域スタッフは個人事業主で個人でNHK業務委託契約を結んで、個人事業主として集金人をやっています。
(4)ア  使用者が誠実に団体交渉に応ずべき義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,使用者に対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することができます(山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件に関する最高裁令和4年3月18日判決)。
イ 東京都労働委員会は,令和4年11月25日,ウーバーイーツ配達員は労働組合法上の労働者であると判断しました(東京都労働委員会HPの「Uber Japan事件命令書交付について」参照)。 


3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
・ 平成30年(労)第219号に関する労働保険審査会の裁決は,会社及びグループの代表者である一方、実質上のトップから業務全般の指示を受けていた者は労働者ではないと判断した事例でありますところ,一般論として以下の判断をしています。
労災保険法は、労働者について定義規定を置いていないが、同法制定の経緯等からみて、同法にいう労働者とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)にいう労働者と同義であると解される。そして、昭和60年の労働基準法研究会報告書では、労働者性の判断基準が示され、仕事の依頼・業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、報酬の労務対償性の有無などの「使用従属性」に関する判断基準と「労働者性の判断を補強する要素」の諸要素を勘案して総合的に判断する必要があるとされているところであり、上記報告書の判断枠組みは当審査会としても合理性を有するものと考えるので、本件における労働者性の判断に当たっては、その判断枠組みを基準にして、判断の諸要素を総合的に検討すべきものと考える。

4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
・ 雇用保険に関する業務取扱要領20351(1)「労働者性の判断を要する場合」には「ル 在宅勤務者」として以下の記載があります(リンク先21頁及び22頁)。
    在宅勤務者(労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ、自己の住所又は居所において勤務することを常とする者をいう。)については、事業所勤務労働者との同一性が確認できれば原則として被保険者となりうる。
    この事業所勤務労働者との同一性とは、所属事業所において勤務する他の労働者と同一の就業規則等の諸規定(その性質上在宅勤務者に適用できない条項を除く。)が適用されること(在宅勤務者に関する特別の就業規則等(労働条件、福利厚生が他の労働者とおおむね同等以上であるものに限る。)が適用される場合を含む。)をいう。
    なお、この事業所勤務労働者との同一性を判断するにあたっては、次の点に留意した上で総合的に判断することとする。
(イ) 指揮監督系統の明確性
    在宅勤務者の業務遂行状況を直接的に管理することが可能な特定の事業所が、当該在宅勤務者の所属事業所として指定されていること
(ロ) 拘束時間等の明確性
所定労働日及び休日が就業規則、勤務計画表等により予め特定されていること
各労働日の始業及び終業時刻、休憩時間等が就業規則等に明示されていること
(ハ) 勤務管理の明確性
    各日の始業、終業時刻等の勤務実績が、事業主により把握されていること
(ニ) 報酬の労働対償性の明確性
    報酬中に月給、日給、時間給等勤務した期間又は時間を基礎として算定される部分があること
(ホ) 請負・委任的色彩の不存在
a 機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷(労働者の故意・過失によるものを除く。)、事業主や顧客等との通信費用等について本人の金銭的負担がないこと又は事業主の全額負担であることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
b 他の事業主の業務への従事禁止について、雇用契約書、就業規則等に明示されていること


5 関連記事その他
(1)ア 厚生労働省HPに載ってある「「労働者」について」には,労働基準法上の労働者性に関する裁判例及び労働組合法上の労働者性に関する裁判例等が載っています。
イ 労働政策研究・研修機構HPに「労働政策研究報告書 No.206 労働者性に係る監督復命書等の内容分析」(2021年2月10日付)が載っています。
(2) 労働安全衛生法の労働者は労働基準法の労働者と同じであり(同法2条2号),最低賃金法の労働者も労働基準法の労働者と同じです(同法2条1号)。
(3) インターンシップにおける学生は,以下のような実態がある場合,労働者に該当します(長野労働局HPの「インターンシップ受入れにあたって」参照)。
① 見学や体験的な要素が少ない。
② 使用者から業務に関わる指揮命令をうけている。
③ 学生が直接の生産活動に従事し、それによる利益・効果が当該事業所に帰属する。
④ 学生に対して、実態として何らかの報酬が支払われている
(4) 東京高裁令和4年5月18日判決(判例タイムズ1511号(2023年10月号)153頁以下)は,「組合規約上,「組合費及び機関で決定したその他の賦課金を納める義務」と定められているのみで,賦課金納付の条件や額についての定めがない場合には,賦課金納付義務の具体的な内容が特定されているとはいえず,また,上記規定と一体となる賦課金規程等も存在せず,機関で具体的な納付義務の内容が決定されたともいえないという事実関係の下では,上記規定に基づき,控訴人の組合員が労働争議の解決時に使用者から支払われた解決金の20%に相当する賦課金を控訴人に支払う義務を負うとは認められないとされた事例」です。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き


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