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破産者が死亡した場合の破産手続と免責手続――相続人が負う責任と熟慮期間(AI作成)

第1 この記事が扱う対象

1 問題の所在

個人の破産事件の係属中に破産者が死亡した場合,破産手続と免責手続とで帰趨が分かれる。破産手続開始決定後であれば破産手続は相続財産について当然に続行するのに対し,免責手続は破産者の死亡によって終了するというのが通説及び裁判所の運用であり,その結果,破産手続で弁済されなかった破産債権は相続債務として相続人に承継される。本記事は,破産法の条文,公表された裁判例並びに裁判所職員向けの研究書及び倒産実務書を確認した上で,死亡の時期に応じた取扱い,相続人が負う責任,申立代理人及び破産管財人が死亡を知った後にすべきことを整理する。生成AIを用いて条文及び裁判例の原典と実務書の記述を照合して構成したものであり,一般的な情報の整理であって個別の事案についての法的助言ではない。

免責不許可事由の有無や裁量免責の当否そのものについては,別稿「破産免責の許可・不許可の限界事例」で扱っており,本記事は破産者の死亡という一点に絞る。相続人側で問題となる熟慮期間の徒過については,「相続の法定単純承認(民法921条)の実務」も併せて参照されたい。

2 破産法が「死亡」という語を用いていないこと

この論点を条文から追おうとすると,最初に戸惑うのは,破産法には「死亡」という語を含む条文が存在しないという点である。破産法は,自然人である債務者又は破産者が死亡した場面を,一貫して「相続が開始したとき」と表現しており,第10章第1節(相続財産の破産)に置かれた226条及び227条がこれを規律している。したがって,条文検索で「死亡」を手掛かりにすると必要な規定に到達できない。

なお,民事再生法には破産法226条及び227条に相当する規定がなく,同法にも「死亡」及び「相続」の語を含む条文はない。相続財産について再生手続を開始する制度も設けられていないため,個人再生手続の係属中に再生債務者が死亡した場合の取扱いは,破産の場合と同列に論じることができず,本記事の対象から除く。

第2 死亡の時期による場面の切り分け

1 破産手続開始の申立て前の死亡

債務者が破産手続開始の申立てをする前に死亡した場合には,通常の個人破産の申立ては問題とならず,相続財産についての破産(相続財産の破産)を申し立てるほかない。申立権者は,相続債権者及び受遺者のほか,相続人,相続財産の管理人,相続財産の清算人並びに相続財産の管理に必要な行為をする権利を有する遺言執行者である(破産法224条1項)。申立期間には制限があり,民法941条1項により財産分離の請求をすることができる間,すなわち相続開始の時から3か月以内,及び相続財産が相続人の固有財産と混合しない間に限られ,限定承認又は財産分離があったときは相続債権者及び受遺者に対する弁済が完了するまでの間も申し立てることができる(破産法225条)。破産手続開始の原因は債務超過のみであって,支払不能は適用されない(同法223条)。

この場面では免責許可の申立てをする余地がない。免責許可の申立てをすることができるのは「個人である債務者」に限られており(同法248条1項),相続財産は個人ではないからである。

2 申立て後,破産手続開始決定前の死亡

破産手続開始の申立て後,開始決定前に債務者について相続が開始したときは,破産手続は当然には続行しない。相続債権者,受遺者,相続人,相続財産の管理人,相続財産の清算人又は遺言執行者の申立てにより,裁判所が当該相続財産について破産手続を続行する旨の決定をすることができる(破産法226条1項)。この続行の申立ては相続が開始した後1か月以内にしなければならず(同条2項),期間内に申立てがなかった場合はその期間が経過した時に,申立てがあった場合で当該申立てを却下する裁判が確定したときはその時に,それぞれ破産手続が終了する(同条3項)。却下する裁判に対しては即時抗告をすることができる(同条4項)。

旧破産法130条は,破産の申立て又は破産の宣告があった後に相続が開始したときは破産手続を相続財産に対して続行すると定め,開始決定の前後を区別していなかった。現行法が開始決定前について当然続行を採らなかった理由としては,実際に多いのは同時廃止を狙った自己破産申立ての事例であって当然続行の実際上の意義に乏しいこと,相続人の不存在,所在不明又は相続人全員の放棄の場合で相続財産の管理人等の選任もされないときに維持する意味のない破産事件を終了させる手当てが必要であったことが挙げられている(『条解破産法〔第3版〕』549頁)。

大阪地方裁判所第6民事部は,同時廃止事件の多くは免責許可の獲得を目的としているため,申立て後に死亡した場合に続行の申立てがされることはほとんどなく,続行申立期間の経過を待って当然終了となっていると説明している。その上で,口頭審査期日を実施しない場合には申立代理人からの死亡連絡前に同時廃止決定がされる余地があり,本来は続行の申立期間を待つべきであったのだから,このような同時廃止決定がされることには問題があると解さざるを得ないとして,死亡情報に接した申立代理人からの速やかな連絡を求めている(『はい6民です お答えします〔第2版〕』111頁)。

3 破産手続開始決定後の死亡

破産手続開始の決定後に破産者について相続が開始したときは,裁判所は,当該相続財産についてその破産手続を続行する(破産法227条)。この場合には続行の申立ては不要であり,破産手続が中断することもない。理由は,破産手続開始決定により破産者は破産財団に属する財産の管理処分権を喪失しており(同法78条1項),包括執行の性質を有する破産手続の開始後の破産者は執行債務者と同様に執行を甘受する消極的な地位しか有しないことから,破産者の死亡によって手続を中断し受継させる必要がないという点にある(『条解破産法〔第3版〕』552頁)。民事執行法41条1項が,強制執行はその開始後に債務者が死亡した場合においても続行することができると定めるのと同趣旨であり,民事訴訟法124条1項1号の中断及び受継の規定は働かない。

続行後の各種決定における破産者の表示は「亡○○○○相続財産」となる。「被相続人亡○○○○相続財産」とする運用もあり,住所の冒頭に「最後の住所」と付記する運用もある(『破産事件における書記官事務の研究-法人管財事件を中心として-』14頁・47頁)。

破産手続が続行される場合であっても,被相続人の代理人であった者は,破産管財人若しくは債権者委員会の請求又は債権者集会の決議に基づく請求があったときは,破産に関し必要な説明をしなければならない(破産法230条1項1号)。相続人及びその代理人並びに相続財産の管理人,相続財産の清算人及び遺言執行者も同様である(同項2号・3号)。なお,相続財産の破産では,信託財産の破産(同法244条の6第3項)と異なり,重要財産開示義務(同法41条)は課されていない。

第3 続行される破産手続の範囲

1 破産財団及び破産債権の範囲

破産法229条1項前段は,相続財産について破産手続開始の決定があった場合には相続財産に属する一切の財産を破産財団とすると定める。他方,227条により続行される破産手続は,既に開始された一般の破産事件であって,その開始時点で処理すべき破産財団及び破産債権の範囲は確定している。そこで,続行後の破産財団の範囲をどう考えるかが問題となる。

通説は,従前の破産財団のまま続行されると解する。破産手続開始決定後に破産者が取得した新得財産,及び開始決定後かつ相続開始前に発生した破産者に対する債権は,続行される破産手続の外側で処理されることになる。理由は,新得財産が破産手続開始後に登場した債権者にとっての責任財産を構成しており,固定主義(同法34条1項)にはこの新債権者の保護を図る側面があるという点にある(『条解破産法〔第3版〕』553頁,『大コンメンタール破産法』967頁,『破産実務Q&A220問』230頁)。この立場によると,新得財産の総額よりも開始決定後かつ相続開始前に発生した相続債権の総額の方が大きい場合には,別途の破産が問題となり得る。

これに対し,破産財団の固定主義は破産者の更生を趣旨とするところ,破産者が死亡すればその更生を考慮する必要がなくなるから,続行時点での破産者の財産及び破産者に対する債権をも取り込むべきであるとする見解もある(『条解破産法〔第3版〕』553頁の紹介による)。後述する高松高等裁判所平成8年5月15日決定は,「その相続財産(ただし,破産宣告後の新得財産を除く。)につき破産手続が続行される」と判示しており,通説と同じ理解に立つものと読むことができる。

2 自由財産及び自由財産拡張の申立て

相続財産の破産では,破産法229条1項が相続財産に属する一切の財産を破産財団とすると定めているため,自由財産を認める余地がない。当初から相続財産の破産として申し立てる場合には,本来的自由財産を含めた全財産を対象として申立書を作成する必要がある(『はい6民です お答えします〔第2版〕』107頁)。

もっとも,227条により従前の破産事件が続行される場合について,従前は自由財産とされていた財産(同法34条3項及び4項)の扱いは条文上明確でない。229条1項を字義どおり適用すればこれらも破産財団に含まれることになり,その限度で破産財団に変動が生ずるとの指摘がある(『条解破産法〔第3版〕』553頁)。大阪地方裁判所第6民事部も,破産手続開始時から一定期間経過後に破産者が死亡した場合には自由財産や新得財産の取扱いに注意が必要であるとし,当初の申立書に添付した財産目録において自由財産拡張の申立てがされている場合,その申立ては債務者の死亡に伴い当然終了になると考えられるとしている(『はい6民です お答えします〔第2版〕』108頁)。

3 破産手続開始決定に対する即時抗告が係属している場合

破産手続開始決定に対する即時抗告が抗告審に係属している間に破産者について相続が開始した場合の処理には争いがある。抗告審手続は破産者の財産の管理処分権の帰趨に関する手続であるから,開始決定の手続と同様に破産者の死亡により中断し,相続財産が受継して続行すべきであるとする見解がある一方,相続財産自体が抗告審で破産手続開始の申立ての棄却又は却下を求めて争うことは性質上できず,即時抗告権を有する利害関係人は自らの即時抗告権を行使すれば足りるから,中断及び受継をすべきではなく,破産者の地位を承継する者がいない以上,抗告手続は当然に終了することになるとする見解がある(『条解破産法〔第3版〕』553頁)。

これに対し,破産手続開始決定「前」に破産者が抗告を申し立てた後に死亡した場合には,抗告審手続は中断すると解されている(同書164頁)。開始決定の前後で処理が分かれる点に注意を要する。

第4 免責手続は破産者の死亡により終了すること

1 免責許可の申立権者が「個人である債務者」に限られること

破産法248条1項は,免責許可の申立てをすることができる者を「個人である債務者(破産手続開始の決定後にあっては,破産者。)」と定める。相続財産の破産では相続財産自体が破産者と扱われるため,相続財産について免責許可を申し立てることはできず,破産者でない相続人が申し立てることもできない。旧破産法366条ノ2第1項は「破産者」が免責の申立てをすることができると規定していたが,同項の下でも免責の申立ては自然人の破産者のみがすることができると考えられており,現行法はこれを明確にしたものと説明されている(『破産事件における書記官事務の研究-法人管財事件を中心として-』47頁)。

同書は,「免責許否の決定までに破産者が死亡したときは,免責事件は当然に終了する」と明記し,相続人が破産者の債務を承継したくない場合には限定承認や相続放棄をする必要があるとする(同書47頁~48頁)。学説上も,破産法226条により破産手続が当然終了する場合にはこれに伴って免責手続もその性質上当然に終了し,同法227条により破産手続が続行される場合にも免責手続は当然に終了すると解されている(『条解破産法〔第3版〕』552頁~554頁,『新基本法コンメンタール破産法』530頁)。旧法下の体系書は,免責を受ける権利が破産者の生存権を基礎として経済的更生のために誠実な破産者に認められた一身専属の権利であることを理由として,破産者の死亡と同時に事件は当然に終了すると説明していた(井上薫『破産免責概説』535頁)。

2 高松高等裁判所平成8年5月15日決定

破産者の相続人による免責の申立ての可否を正面から判断した公表裁判例として,高松高等裁判所平成8年5月15日決定(平成8年(ラ)第21号,免責申立却下決定に対する即時抗告事件)がある。事案は,破産者が平成7年3月2日に破産宣告を受けた後,同年4月11日に死亡し,その相続財産につき破産手続が続行されて同年9月19日に破産廃止の決定がされて終結した後,破産者の子らが免責の申立てをしたというものである。原審はこれを不適法として却下し,抗告審も抗告を棄却した。

抗告人らは,免責申立権が一身専属権であるとして相続人に申立権を認めないことには法律上の根拠がない,相続人は被相続人の地位を包括的に承継するから破産者たる地位も承継する,破産者死亡の場合には相続財産につき免責を認める必要があるから相続人に免責の規定の類推適用を認めるべきである,と主張した。決定は,一身専属性ではなく相続財産の破産における当事者が誰かという構成によって結論を導いており,「破産者の相続人は,破産法三三条に則り,破産者に対して有する債権につき相続債権者と同一の権利を有する者として,破産債権者たり得ることに照らすと,破産者の相続人を右破産手続の承継人とみることはできず,相続財産自体を右破産手続の当事者(破産者)とみ,法人格なき財団に破産能力を認めるのを相当とする。してみれば,破産者の相続人が右破産手続の当事者であったことを前提に,免責の申立てをする余地はないというほかはない」と判示した。ここで引用された旧破産法33条は,現行法232条1項に対応する規定である。

決定は,右の判示に括弧書きで「なお,破産者の相続人は,限定承認や相続放棄をすることにより,相続債権者が相続人の固有財産に対して権利を行使するのを阻止すべきである。」と付言している。相続人の保護は免責ではなく民法上の承認・放棄の制度によるべきであるという整理であり,後述する実務の運用もこれと同じ立場に立っている。本決定は旧破産法下のものであるが,免責許可の申立権者を「個人である債務者」と明示した現行法248条1項の下では結論が一層明確になる方向であり,現在の実務書も本決定を引用している(『破産実務Q&A220問』230頁,『破産管財人のための破産法講義』269頁)。

3 東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の運用

東京地方裁判所破産再生部については,破産法227条により破産手続が続行された場合に免責手続は当然に終了するとの扱いをしていること,破産法226条により破産手続が当然終了する場合にもこれに伴って免責手続が当然に終了すると解されていることが紹介されている(『破産実務Q&A200問』Q82)。もっとも,これは実務書による紹介であり,同部自身が運用を明らかにした資料までは確認できていない。

大阪地方裁判所第6民事部は,より詳細な説明を公にしている。同部は,破産免責手続の申立て後に申立人が死亡した場合に相続人による免責手続の受継が認められるべきとの見解があることを紹介した上で,免責の制度は債務を負った自然人について規定したものであって,相続人及びその債権者の保護は民法に基づく相続放棄若しくは限定承認又は財産分離により図られるべきものと考えられるとして,高松高等裁判所平成8年5月15日決定を参照する。そして,相続財産の破産の申立てがあっても破産法248条4項によって免責の申立てがあったものとはみなしておらず,免責手続中に破産者が死亡した場合には破産手続の続行の有無を問わず免責手続は破産者の死亡により終了したものと扱っている,と明言している(『はい6民です お答えします〔第2版〕』112頁)。

同部は,申立て前に債務者が死亡した場合に相続財産の同時廃止を申し立てて同時廃止決定をすることは理論的には可能であるとしつつ,運用上,相続財産の同時廃止決定をしていないとも述べている。理由として,免責もあり得ず,手続終了後に相続債務は相続の対象となるので,破産管財人による調査・換価業務を予定しない相続財産の破産の同時廃止申立てには実益がほとんどないことを挙げている(同書111頁)。

4 免責事件の終局日をいつとするか

免責事件が当然に終了するとして,終局日をいつとするかについては,裁判所が死亡を認識した日,すなわち破産管財人や申立代理人からの報告等により裁判所が死亡を知った日とする運用が紹介されている。理由の一つは,裁判所に死亡の報告があるまでは一件記録上は破産者が生存していたような外観を呈し手続が現実には継続していたのであるから,この扱いが実態に即しているという点である。もう一つは,破産者が死亡した日を終局日とすると,免責許否の決定後に死亡の連絡があり決定前に破産者が死亡していたことが判明したような場合に,事件の終局後に免責許否の決定がされたことになり,この決定の取扱いが問題となるという点である(『破産事件における書記官事務の研究-法人管財事件を中心として-』48頁)。

終了の形式については,破産者の死亡の事実を記録上明らかにして当然終了として処理する例が紹介される一方,一身専属の権利に係る訴訟について当然終了を宣言した最高裁判所大法廷昭和42年5月24日判決(生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は被保護者の死亡により当然終了する旨を判示したもの)のような終了宣言を決定の形式によってすべきであるとの見解も示されていた(井上薫『破産免責概説』535頁)。免責手続の終了を記録上どのように顕出するかは,現在も条文上の定めがない事項である。

第5 免責許可決定がされた後,確定する前に死亡した場合

破産法252条7項は,免責許可の決定は確定しなければその効力を生じないと定める。免責許可の決定がされると裁判書が破産者及び破産管財人に,主文を記載した書面が破産債権者に送達され(同条3項),免責許可の申立てについての裁判に対しては即時抗告をすることができる(同条5項)から,決定から確定までには一定の期間が存在する。この期間中に破産者が死亡した場合,既にされた免責許可決定が抗告期間の経過によってそのまま確定して効力を生ずるのか,それとも免責事件が終了する結果として決定が確定に至らないのかが問題となる。

もっとも,この点を正面から論じた裁判例及び文献を,公表資料の範囲で見出すことはできなかった。前記の実務書及び研究書は,いずれも「免責許否の決定までに」「免責許可の決定までの間に」「免責手続中に」という表現を用いており,決定後かつ確定前の場面を明示的に射程に含めていない。裁判所ウェブサイトの裁判例検索でも該当する裁判例は見当たらない。

推測を交えずに指摘できるのは,実務がこの問題に到達しないよう運用で回避しているという事実である。大阪地方裁判所第6民事部は,同時廃止事件の免責許可決定の多くは免責意見申述期間の満了日又は免責審尋期日から起算して概ね1週間後に決定していると説明した上で,「債務者の死亡後に免責許可決定がされることのないよう」申立代理人に対して免責係への速やかな連絡を求めている(『はい6民です お答えします〔第2版〕』112頁)。前記のとおり免責事件の終局日を裁判所が死亡を認識した日とする運用も,死亡後に決定がされてしまった場合の処理という難問を避ける趣旨を含むものと理解できる。実際にこの場面に遭遇した場合には,解釈だけで処理せず,破産裁判所に事情を上申して指示を受けるのが穏当である。

相続人の側から見れば,この点の帰趨が不明であることは,相続放棄又は限定承認を先延ばしにしてよい理由にはならない。次に述べるとおり,熟慮期間は免責の帰趨とは無関係に進行するからである。

第6 相続人が負う責任と熟慮期間

1 相続財産の破産に限定承認の効果がないこと

相続財産について破産手続が行われても,相続債務に対する相続人の責任が相続財産に限定されるわけではない。破産法229条1項は破産財団の範囲を定めるにとどまり,限定承認と同様の効果を与える規定は置かれていない。したがって,相続人が民法922条の限定承認又は同法938条の相続放棄をしていない限り,破産手続の中で弁済されなかった相続債務について,自己の固有財産をもって弁済する責任を負う。相続人の固有の債権者の側では,相続人が限定承認も相続放棄もしないときに備え,同法950条1項の財産分離(第2種財産分離)を請求しておく意味がある。なお,相続財産についての破産手続開始の決定は限定承認又は財産分離を妨げないが,破産手続開始の決定の取消し若しくは破産手続廃止の決定が確定し,又は破産手続終結の決定があるまでの間は,限定承認又は財産分離の手続は中止する(破産法228条)。

2 大阪高等裁判所昭和63年7月29日判決

この点を判示した公表裁判例が,大阪高等裁判所昭和63年7月29日判決(昭和61年(行コ)第3号,高等裁判所民事判例集41巻2号86頁)である。同判決は,「相続財産の破産に限定承認と同様の効果を与えている立法例もある(ドイツ民法一九七五条によると,相続財産に対する破産が開始されたときは,相続債務に対する相続人の責任は相続財産に限定される旨定められている。)が,わが国の相続財産破産の制度がこれを採用していないことは明らかであり,右のような明文の定めがない以上,相続財産に対して破産宣告がなされても,相続人において放棄又は限定承認をしておかなければ,相続人は右破産手続の中で弁済されなかつた債務を自己の固有財産によつて弁済する責を負うことになると解すべきである」と判示した。

3 熟慮期間の起算点をめぐる誤解

前記大阪高等裁判所判決の実務上の重みは,右の一般論よりも,むしろ結論にある。同判決の裁判要旨は,民法915条1項所定の熟慮期間内にされた限定承認の申述が右期間経過後に却下された場合において相続人が遅滞なく改めて相続放棄の申述をしなかったときは,それが相続財産に対する破産宣告により相続債務を自己が承継する余地はなくなった旨の誤解に基づくものであったとしても,その後にされた相続放棄の申述は熟慮期間を徒過したものとして無効である,というものである。相続財産について破産手続が進行していることは,熟慮期間の起算点を繰り下げる事由にならない。

同事案では,相続人が弁護士を代理人として相続財産の破産を申し立てていた。判決は,限定承認の申述が却下された当時に相続放棄の申述をするについて何らの障害があったとも認められないにもかかわらず,負担回避目的の達成のためには最も的確・簡易な相続放棄の手続をとらず,法的見解も必ずしも自己に有利とはいえない相続財産の破産の方法をとったことに首肯し得べき理由を見出し難いとして,弁護士の助言・教示を受けていたとはいえ熟慮期間内に相続放棄の申述をしなかったことの相当性を肯認することはできない,と述べている。代理人が付いていたことが救済事由として働かなかった事例であり,破産手続が続行していることを理由に相続人へ相続放棄が不要であると説明することの危険を示している。

熟慮期間は,相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月であり(民法915条1項本文),利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所において伸長することができる(同項ただし書)。期間内に限定承認又は相続放棄をしなかったときは単純承認をしたものとみなされる(同法921条2号)。破産手続の続行や免責の帰趨を待っていると,この期間を徒過する。

第7 相続人に免責許可の申立てを認めるべきかという議論

以上の帰結として,相続人が限定承認又は相続放棄をしなかった場合には相続債務を固有財産で弁済する責任が残る。そこで,この危険を除去するため,相続財産の破産手続において相続人の側から免責許可の申立てをすることを認めるべきであるとする見解が主張されてきた。破産法248条以下を類推適用するという構成であり,前記高松高等裁判所決定の抗告人らも同旨の主張をしていた。

これに対する否定説は,免責制度が特に不誠実と認められない破産者に免責を付与してその経済的更生を図る制度であることを出発点として,相続財産の破産の破産者は相続財産自体であってその更生や誠実性は問題とならないこと,仮に類推適用するとしても,破産法が相続財産の破産と相続人の破産を区別している以上,相続財産の破産手続で相続人の更生や誠実性を問題とするのは不自然であること,被相続人は既に死亡しているのであるから更生は問題となり得ず,その誠実性を基準に免責不許可事由の有無を審理することにも大きな困難が伴うことを挙げ,相続財産の破産手続において免責を認めることは免責制度の基本的理念にそぐわないとする(『大コンメンタール破産法』969頁~971頁)。肯定説を採ったとしても租税等の請求権のような非免責債権(同法253条1項)は残るから,相続人に生ずる危険がすべて回避されるわけでもない。

否定説の論者は,立法論としては,相続財産について破産手続が行われた場合に相続債務に対する相続人の弁済責任を相続財産を限度とする旨の規定を新設すべきことを提案している。平成16年の破産法全面改正の立案過程でも,相続人の弁済責任を相続財産に限定する規定を設けることが立法論的には望ましいとされつつ,そのためには限定承認制度そのものの検討が不可欠であるとして改正が見送られた旨が紹介されている(同書971頁)。現行法の下では解釈で相続人を救済する筋は乏しく,民法上の承認・放棄及び財産分離によって処理するほかないというのが現在の到達点である。

第8 死亡を知った後にすること

1 裁判所への上申

破産者の死亡を知った申立代理人又は破産管財人がまずすべきことは,破産裁判所への上申である。破産手続開始決定後の死亡であれば破産手続は当然に続行するから,相続人として特段の手続をとる必要はなく,死亡の事実を裁判所に上申すれば足りる(『実務家が陥りやすい 破産管財の落とし穴』358頁)。他方,同時廃止決定前又は免責許可決定前の段階では,前記のとおり,死亡後に同時廃止決定又は免責許可決定がされてしまう事態を避けるため,連絡の遅れが直接に手続上の問題を生む。

2 委任契約の終了と応急処分義務

破産者の死亡により,申立代理人との委任契約は当然に終了する(民法653条1号)。もっとも,委任が終了した場合において急迫の事情があるときは,受任者又はその相続人若しくは法定代理人は,委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで,必要な処分をしなければならない(同法654条)。破産手続が終盤に差し掛かっており,特段の対応をしなくても破産手続が終了する場合には必要な処分をすべき急迫の事情は認め難いのに対し,破産手続の初期段階で破産管財人に引き継いでいない資料や報告できていない事項があれば,速やかにこれを実施すべきであると整理されている(『Q&A若手弁護士からの相談374問』136頁)。委任契約終了後は,破産者から預かっていた資料等を相続人に引き継ぐことになり,相続人が判明しない場合には相続人の調査を要する。

3 相続人に説明すべき事項

相続人に対しては,破産手続は終了しないが免責手続は終了すること,したがって相続放棄又は限定承認をしない限り破産手続で弁済されなかった債務を固有財産で弁済する義務を負うこと,熟慮期間が3か月であって破産手続の帰趨を待っていると徒過することを,早い段階で伝える必要がある。『実務家が陥りやすい 破産管財の落とし穴』に収録された設例は,「破産手続と免責手続は続行するので相続人において相続放棄等をする必要はない」という理解を誤認例として掲げ,正しくは「破産手続は終了しないが免責手続は終了するので,相続人において相続放棄等の手続をする必要がある」としている(同書357頁~358頁)。被相続人の財産及び債務の調査手順については,「被相続人の財産を調べる方法」で整理している。

4 相続財産の破産を申し立てる場合

相続財産に価値のある財産が含まれていて単純に相続放棄をすることができない場合には,相続財産の破産を申し立てるという選択肢がある。破産法225条の申立期間及び同法223条の破産手続開始原因(債務超過のみ)に注意を要するほか,相続財産の破産では自由財産を認める余地がないため,本来的自由財産を含む全財産を対象として申立書を作成することになる。相続人が相続財産の破産の申立てをすることは民法921条の法定単純承認事由に当たらず,申立て後に相続放棄をすることも許されると解されている(『破産実務Q&A220問』229頁)。もっとも,相続債権者から受任することは利益相反のおそれがあるほか,従前の破産管財人が再び選任されたとしても財団からの放棄について同じ結論になるとは限らないという実務上の報告もある(『破産事件21のメソッド』97頁)。

なお,相続財産の破産手続における相続債権者及び受遺者の地位については,相続債権者の債権が受遺者の債権に優先し(破産法231条2項),相続人の債権者は破産債権者としてその権利を行使することができない(同法233条)。破産債権者の同意による破産手続廃止の申立ては相続人がすることとされ,相続人が数人あるときは各相続人がすることができる(同法237条)。相続財産の管理及び清算に関与する各種の管理人の違いについては,「相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違い」で整理している。

出典・参考資料

1 法令

破産法(平成16年法律第75号)223条・224条・225条・226条・227条・228条・229条・230条・231条・233条・237条・248条・252条・253条(e-Gov法令検索)
民法(明治29年法律第89号)653条・654条・915条・921条・922条・938条・941条・950条(e-Gov法令検索)
民事訴訟法(平成8年法律第109号)124条(e-Gov法令検索)
民事執行法(昭和54年法律第4号)41条(e-Gov法令検索)
民事再生法(平成11年法律第225号)(e-Gov法令検索)

2 裁判例

大阪高等裁判所昭和63年7月29日判決(昭和61年(行コ)第3号,高等裁判所民事判例集41巻2号86頁,裁判所ウェブサイト)
最高裁判所大法廷昭和42年5月24日判決(昭和39年(行ツ)第14号,民集21巻5号1043頁,裁判所ウェブサイト)
③高松高等裁判所平成8年5月15日決定(平成8年(ラ)第21号,判例タイムズ941号279頁,金融・商事判例1003号26頁,判例時報1586号79頁。裁判所HP未掲載。判例秘書により全文確認)

3 文献

①裁判所職員総合研修所監修『破産事件における書記官事務の研究-法人管財事件を中心として-』(司法協会,2013年)14頁・47頁~48頁
②伊藤眞ほか『条解破産法〔第3版〕』(弘文堂,2020年)164頁・549頁~555頁・559頁・1679頁
③竹下守夫編集代表『大コンメンタール破産法』(青林書院,2007年)967頁・969頁~971頁
④山本克己ほか編『新基本法コンメンタール破産法』(日本評論社,2014年)522頁・530頁~531頁・595頁
⑤川畑正文ほか編『はい6民です お答えします-倒産実務Q&A-〔第2版〕』(大阪弁護士協同組合,2018年)107頁~112頁
⑥全国倒産処理弁護士ネットワーク編『破産実務Q&A220問』(金融財政事情研究会,2019年)228頁~230頁
⑦全国倒産処理弁護士ネットワーク編『破産実務Q&A200問』(金融財政事情研究会,2012年)Q82
⑧尾島史賢編集代表『実務家が陥りやすい 破産管財の落とし穴』(新日本法規出版,2021年)357頁~358頁
⑨京野哲也=林信行編著『Q&A若手弁護士からの相談374問』(日本加除出版,2019年)134頁~136頁
⑩井上薫『破産免責概説』(ぎょうせい,1991年)535頁
⑪愛知県弁護士会倒産実務委員会『破産管財人のための破産法講義』(2012年)269頁
⑫『破産事件21のメソッド』(第一法規,2018年)96頁~98頁
⑬伊藤眞『破産法・民事再生法〔第5版〕』(有斐閣,2022年)173頁