高速道路交通警察隊は,高速自動車国道と自動車専用道路を専従で担当する都道府県警察の執行隊である。
本記事は,この隊の設置根拠が置かれている法令,一般道を担当する交通機動隊との違い,県境をまたぐ広域運営の仕組み,昭和38年(1963年)の道路交通法改正から昭和46年(1971年)の全国設置に至る沿革,そして高速道路の交通統計を,条文・国会会議録・警察白書・官庁統計といった一次資料で確認しながら整理するものである。
本記事は令和8年(2026年)7月時点の法令・公表資料に基づく。
第1 高速道路交通警察隊とは何か
1 高速道路交通警察隊の任務
高速道路交通警察隊(高速隊)は,高速自動車国道と自動車専用道路を専門に担当する都道府県警察の執行隊である。
一般に高速隊と略称される。
その任務は交通違反の指導取締りにとどまらない。
警視庁の組織規則は,高速隊の所掌事務を「交通の指導取締り,交通渋滞の解消活動,交通公害の抑止活動,交通事故事件の捜査,緊急配備等の犯罪捜査の初動活動その他必要な警察事務」と定めている。
高速道路上を逃走する被疑者の追跡や,サービスエリア・パーキングエリアなど高速道路上の施設で発生した事件の初動捜査も,高速隊の守備範囲に含まれる。
高速道路は事故や事件が起きても一般の警察官が容易に立ち入れないため,交通警察と犯罪捜査の初動を一体で担う点が高速隊の特徴である。
事故対応の実際の流れも公表されている。
警視庁高速道路交通警察隊は,110番通報や高速道路上の非常電話からの通報を受理すると直ちに出動し,負傷者の救護や事故原因の調査を行うと説明している。
取締りは,白バイ・パトカーによる現認のほか,自動速度取締り機などの機器を活用して実施される。
2 交通機動隊との違い
高速隊としばしば混同されるのが交通機動隊である。
両者はいずれも都道府県警察の交通部門に置かれる執行隊であるが,担当する道路が異なる。
交通機動隊は主に一般道(幹線道路)で白バイ・パトカーによる取締りや事故処理を担当し,高速隊は高速自動車国道と自動車専用道路を専従で担当する。
装備の面では,高速隊は速度が高く走行距離の長い高速道路の特性に合わせ,高速道路用パトカー(覆面パトカーを含む)や交通事故処理車などの四輪車両が主力である。
もっとも,高速隊が白バイをまったく持たないわけではなく,警視庁は取締りに「白バイ,パトカー」の双方を用いると明記している。
白バイが主役の交通機動隊に比べ,高速隊は四輪中心の度合いが高い,という相対的な整理が正確である。
第2 設置と権限の法的根拠
1 全国的な設置根拠――国家公安委員会規則
高速道路交通警察隊という組織名は,警察法にも道路交通法にも出てこない。
この意味で,高速隊は法律の条文が直接名付けた組織ではない。
もっとも,全国的な設置根拠となる法規命令は存在する。
それが「高速道路における交通警察の運営に関する規則」(昭和46年国家公安委員会規則第3号)である。
同規則2条は「高速道路の路線が管轄区域内に存する都道府県警察(以下『関係府県警察』という。)は,高速道路における交通警察に関する事務を行うため,高速道路交通警察隊を設けるものとする。」と定め,関係する都道府県警察に高速隊の設置を義務づけている。
同規則1条は,ここでいう「高速道路」を,高速自動車国道法4条1項の高速自動車国道と,道路交通法110条1項により国家公安委員会が指定する自動車専用道路と定義している。
この規則が昭和46年に制定されたことが,各地で高速隊が「高速道路交通警察隊」の名称に統一されていった直接の原因である。
高速隊の設置根拠は,警察法・道路交通法本体の条文ではなく,この国家公安委員会規則という法規命令にある,というのが正確な理解である。
2 内部組織は都道府県ごとの規則・訓令
国家公安委員会規則が設置を義務づける一方,隊本部・中隊・分駐隊・分駐所といった内部の編制や,隊長の階級は,各都道府県の公安委員会規則(組織規則)や警察本部長の訓令が定める。
たとえば警視庁の組織規則は「交通部に高速道路交通警察隊を附置する」と定め,隊本部と中隊を置き,分駐所を置くことができるとしている。
昭和48年(1973年)の警察白書は,分駐隊がおおむね50キロメートルごとに設けられると説明しており,長大な路線を区切って担当する構造がうかがえる。
下部単位の呼称は全国で統一されていない。
警視庁が「中隊」を用いる一方,福岡県警や静岡県警は「分駐隊」を用いるなど,府県によって用語が分かれる。
隊長の階級については,複数の府県の組織規則が「警視」と定めている。
3 権限の集約――道路交通法114条の3
高速道路は複数の警察署の管轄区域を貫いて走る。
路線上のどの区間かによって権限を行使する警察署が細切れに変わると,規制や事故処理の一体性が損なわれる。
これを避けるための特則が道路交通法114条の3である。
同条は「この法律の規定により警察署長の権限に属する事務のうち,高速自動車国道等に係るものは,公安委員会の定めるところにより,当該高速自動車国道等における交通警察に関する事務を処理する警視以上の警察官に行わせることができる。」と定めている。
これにより,本来は路線が所在する各警察署長の権限に属する事務を,路線単位で高速隊長(警視)に集約して行使させることができる。
たとえば栃木県の道路交通法施行細則は,この「警視以上の警察官」を高速道路交通警察隊長とすると明記しており,署長権限が隊長に集約される仕組みを具体的に確認できる。
第3 対象となる道路と道路交通法の特例
1 「高速自動車国道等」の意味
高速隊が担当する道路は,法令上は次の二つに整理される。
一つは高速自動車国道で,高速自動車国道法4条1項に基づき政令で路線が指定された道路をいう。
名神・東名・東北道などの全国的な自動車交通網の中核がこれにあたる。
もう一つは自動車専用道路で,道路法48条の2により道路管理者が指定し,同法48条の4で「自動車専用道路」と定義される道路である。
都市高速道路やバイパスの一部がこれにあたる。
道路交通法は,この二つを合わせて「高速自動車国道等」と呼び(75条の3),高速道路に固有の交通ルールを及ぼしている。
2 第4章の2が定める高速道路の特例
道路交通法第4章の2「高速自動車国道及び自動車専用道路における特例」は,高速道路に固有の規律を置いている。
これらは高速隊の取締りの根拠となる条文でもある。
とりわけ75条の3は,道路の損壊や交通事故の発生などにより高速道路で危険や混雑が生ずるおそれがある場合に,警察官が,進行してくる自動車の通行を禁止・制限し,路肩の通行を命じ,あるいは通常とは異なる通行方法を命ずることができると定めている。
一般道を対象とする規定では高速走行に対応しきれないため,高速道路専用の警察官権限として設けられたものである。
このほか,本線車道の最低速度(75条の4),本線上の停車・駐車の原則禁止(75条の8),走行前の燃料や積載状態の点検義務(75条の10),故障時の停止表示と本線からの速やかな移動義務(75条の11)が定められている。
近年の改正で,同章には特定自動運行(運転者がいない状態でのレベル4自動運転)の許可制度も加わった(75条の12以下,令和5年(2023年)4月1日施行)。
また,高速道路等で最高速度などの交通規制を行う際には,公安委員会は道路管理者に協議しなければならないとされており(110条の2第4項),一般道の意見聴取より重い手続が求められている。
第4 県境をまたぐ広域運営とNEXCOとの役割分担
1 県境をまたぐ管轄と共同処理
県内では114条の3により権限を隊長に集約できるが,高速道路はしばしば県境をまたぐ。
県をまたぐ場面での処理は,道路交通法ではなく警察法が支えている。
警察法66条2項は,二以上の都道府県警察の管轄区域にわたる自動車道等について,関係する都道府県警察の協議により,他県警の管轄区域内でも職権を行使できると定めている。
また,管轄区域外における権限(61条),事案の共同処理に係る指揮・連絡(61条の2),他県警への援助の要求(60条)が,県境をまたぐ追跡や共同対応の根拠となる。
先の国家公安委員会規則3条2項は,高速道路について警察法66条2項の協議を行うにあたり,交通警察の一体的な運営が図られるよう特に配慮しなければならないと明文で求めている。
2 道路管理者(NEXCO)との役割分担
高速道路の現場では,「道路という施設の管理」と「道路を使う交通の規制・取締り」が,別の主体によって併存している。
前者は道路管理者,後者は警察(高速隊)である。
両者を混同しないことが,仕組みを理解する鍵になる。
交通情報の収集・提供や施設の制御を担う道路管制センターは,高速道路会社(NEXCO等)の施設である。
そこに管区警察局の高速道路管理室が同居し,情報を共有している。
道路上を巡回して落下物の排除や故障車の支援,現場の保安にあたるのはNEXCOの「交通管理隊(道路パトロール隊)」であり,警察の高速道路交通警察隊とは別の組織である。
権限の根拠も分かれている。
交通の安全・危険防止のための通行禁止・制限は警察・公安委員会が道路交通法(4条・6条など)に基づいて行い,道路の構造保全や工事のための通行止めは道路管理者が道路法(46条など)に基づいて行う。
通報の窓口も,道路の落下物や穴などの異状は国土交通省の道路緊急ダイヤル「#9910」(道路管理者につながる),人身事故や事件は110番(警察)と使い分けられている。
第5 沿革――特例新設から全国設置まで
1 昭和38年 名神高速道路開通と道路交通法改正
高速道路に固有の交通ルールは,日本初の高速自動車国道である名神高速道路の供用開始に備えて整えられた。
昭和38年(1963年)の道路交通法一部改正で,第4章の2の特例が新設されたのである。
名神高速道路は同年7月,栗東インターチェンジから尼崎インターチェンジまでの区間が開通した。
改正の趣旨は国会会議録から確認できる。
提案理由の説明では,高速自動車国道の供用開始に伴い,高速道路における自動車の交通方法等の特例を定めることが挙げられた。
政府側の補足説明では,先に触れた75条の3(警察官による危険防止の措置)について,従来の一般規定では高速道路に十分対応できないため新たに設けるものである旨が述べられている。
2 昭和39年の前身組織と昭和46年の全国設置
組織としての高速隊には前身がある。
岐阜県警察が公表している沿革によれば,名神高速道路の運用に伴い,昭和39年(1964年)4月に「名神高速道路交通機動警ら隊」が発足した。
その後,昭和46年(1971年)に「高速道路交通警察隊」へと改組されている。
各地で高速隊が昭和46年に統一名称化された背景には,同年の国家公安委員会規則第3号がある。
警視庁高速道路交通警察隊は昭和46年9月17日に発足した。
昭和48年(1973年)の警察白書は,昭和47年末時点の体制を「17都道府県,17警察隊」とし,東名(川崎),名神(一宮・吹田),中央(八王子),東北(岩槻)に5つの高速道路管理室が置かれていたと記録している。
第6 高速道路の交通に関する統計と近年の論点
1 死亡事故率――高速道路は事故が重大化しやすい
高速道路は,事故の件数そのものより,事故が起きた場合の重大性に特徴がある。
令和7年(2025年)の交通安全白書(警察庁資料)は,高速道路における死亡事故率が2.1%で,一般道路の0.9%に比べ約2.3倍であるとしている。
ここでいう「死亡事故率」は,交通事故の発生件数に占める死亡事故の割合であり,死傷者に占める死者の割合を指す「致死率」とは定義が異なる点に注意を要する。
高速道路の事故は,追突が最も多く,車両単独の事故の割合が一般道より高いとされる。
また,違反別では安全運転義務違反が約9割を占める。
高速走行では,わずかな前方不注意や車間距離の不足が重大な結果に直結しやすいことが,これらの数字に表れている。
2 交通取締り――速度違反が7割超
高速道路の交通取締りは,交通安全白書に一般道と区別して掲載されており,高速隊の活動実態をうかがう資料になる。
令和6年(2024年)の高速道路における取締り件数は,次のとおりである。
| 違反種別(高速道路・令和6年) | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 取締り総数 | 357,251件 | 100% |
| 最高速度違反 | 259,683件 | 72.7% |
| 車両通行帯違反 | 44,197件 | 12.4% |
| 車間距離不保持 | 4,713件 | 1.3% |
| 酒酔い・酒気帯び運転 | 245件 | 0.1% |
最高速度違反が7割を超え,高速道路の取締りが速度に重心を置いていることが分かる。
車間距離不保持は件数こそ多くないが,高速道路で集中的に摘発される違反である。
自動車専門メディアが過年度についてこれより大きな総数を紹介していることがあるが,集計の範囲が異なるとみられ,年ごとの推移をたどる際は白書の系列で統一するのが安全である。
3 逆走
近年,高速道路の交通対策で特に注目されているのが逆走である。
逆走の統計は,警察が単独で公表しているのではなく,警察の協力を得て国土交通省と高速道路会社が共同で作成している。
国土交通省の道路統計と高速道路会社の公表資料によると,平成23年(2011年)から令和5年(2023年)までの13年間で逆走事案は計2,654件,年平均で約204件(おおむね2日に1回以上)発生しており,直近の令和6年(2024年)は220件であった。
発生箇所は,本線よりインターチェンジ・ジャンクションの分合流部や料金所周辺が中心で,約6割がインターチェンジ・ジャンクションで逆走を開始している。
運転者の年齢は高齢層に偏り,逆走した運転者のうち75歳以上が45%から49%を占める。
逆走事故は,死亡事故となる割合が高速道路の事故全体の約40倍にのぼるとされ,件数の割に極めて危険性が高い事象である。
対策として,道路会社は矢印の路面標示やラバーポール,カラー舗装などの物理的・視覚的対策を進めており,重点対策箇所の整備を令和10年度(2028年度)までに完了させる目標を掲げている。
かつて掲げられていた「令和2年(2020年)までに逆走事故をゼロにする」という目標は達成されておらず,逆走が高止まりしていることが,現行の対策目標の前提になっている。
4 最高速度120km/hと大型貨物車の90km/h
高速道路の最高速度120km/hは,しばしば政令で一律に引き上げられたものと誤解されるが,仕組みは異なる。
高速自動車国道の本線車道の法定最高速度は,道路交通法施行令27条により,普通自動車などで100km/hである。
120km/hや110km/hは,この法定速度を書き換えたものではなく,都道府県公安委員会が道路交通法4条に基づき標識で設定する「指定最高速度」である。
設計速度が120km/h以上で安全性が確認された区間について,公安委員会が120km/hの標識規制を敷いている。
新東名高速道路の御殿場ジャンクション付近から浜松いなさジャンクション付近までの区間が令和2年(2020年)12月に120km/hの本格運用を開始し,東北自動車道や東関東自動車道の一部区間にも広がった。
常磐自動車道の一部区間は120km/hではなく110km/hであるなど,区間ごとに上限が異なる点にも注意を要する。
貨物自動車の速度規制も見直された。
車両総重量8トン以上などの大型貨物自動車等について,高速自動車国道の本線車道での最高速度が,令和6年(2024年)4月1日から80km/hから90km/hに引き上げられた(施行令の改正)。
一方,トレーラー(けん引自動車)や大型特殊自動車は80km/hのまま据え置かれている。
5 あおり運転・自動運転をめぐる論点
あおり運転は,令和2年(2020年)の道路交通法改正で妨害運転罪として明文化された(同年6月30日施行)。
他の車両等の通行を妨害する目的で車間距離不保持や急ブレーキなどの危険行為を行う基本の類型(117条の2の2第1項8号)に加え,これにより高速自動車国道等で他の自動車を停止させるなど著しい交通の危険を生じさせた場合には,より重く処罰される加重類型(117条の2第1項4号)が置かれている。
高速道路上での停止は追突などの重大事故に直結するため,一段重い法定刑が設けられている点が特徴である。
自動運転も,高速道路交通行政の新しい論点である。
運転者がいない状態でのレベル4自動運転は,特定自動運行として公安委員会の許可制の下に置かれた(75条の12以下,令和5年施行)。
現時点では低速・限定地域の移動サービスが中心で,高速道路でのレベル4トラックは実証段階にあるが,将来的には高速隊の取締りや事故処理のあり方にも影響し得る動きである。
出典
1 法令
- 道路交通法(昭和35年法律第105号)2条,4条,6条,75条の3・75条の4・75条の8・75条の10・75条の11・75条の12,110条の2,114条の3,117条の2,117条の2の2,同法施行令27条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000105 )
- 高速道路における交通警察の運営に関する規則(昭和46年国家公安委員会規則第3号)1条~3条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/346M50400000003 )
- 警察法(昭和29年法律第162号)60条,61条,61条の2,66条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/329AC0000000162 )
- 道路法(昭和27年法律第180号)46条,48条の2,48条の4,高速自動車国道法(昭和32年法律第79号)4条,6条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/ )
- 栃木県道路交通法施行細則(栃木県公安委員会規則。高速道路交通警察隊長を114条の3の警察官に指定)
2 公文書・歴史資料
- 国会会議録検索システム(昭和38年の道路交通法一部改正案に関する提案理由説明・政府補足説明)( https://kokkai.ndl.go.jp/ )
- 昭和48年 警察白書 第6章「交通安全と警察活動」(国家公安委員会・警察庁)( https://www.npa.go.jp/hakusyo/s48/s480600.html )
- 警視庁高速道路交通警察隊(発足年月日・任務)( https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/shokai/katsudo/kosoku.html )
3 統計・データ
- 交通安全白書 令和7年版(第1編第1部第1章。高速道路と一般道の死亡事故率。警察庁資料)( https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r07kou_haku/zenbun/genkyo/h1/h1b1s1_2.html )
- 交通安全白書 令和7年版(第1編第1部第2章第5節。高速道路の交通取締り件数。警察庁資料)( https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r07kou_haku/zenbun/genkyo/h1/h1b1s2_5.html )
- 国土交通省「高速道路での逆走対策に関する有識者委員会」,同 道路統計(逆走関係。警察の協力を得て国土交通省・高速道路会社が作成)( https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/reverse_run/index.html )
4 ウェブ資料
- 国土交通省「道路緊急ダイヤル(#9910)」( https://www.mlit.go.jp/road/dia/ )