第1 民事事件の結論と税額の訂正を分ける
民事事件で代金,損害賠償金又は返還額が確定したときは,その結果を過去の申告へどう反映するかが問題となる。
ただし,判決又は和解が成立したことと,過年度の税額を減額できることは同じではない。
国税通則法23条1項は,申告した課税標準等又は税額等の計算が法令に従っていなかったこと,計算の誤りがあったことなどによって,納付税額が過大である場合等の更正の請求を定めている。
同条2項1号は,申告等の計算の基礎となった事実についての訴えに係る判決等により,その事実が計算の基礎としたところと異なることが確定した場合を扱う。
申告を減額する実体上の理由と,後発的事由による請求期間の要件を,それぞれ確認する必要がある。
本記事は,主に法人税の申告後に民事判決・和解が生じた場合を念頭に,確認の順序を整理する。
税目ごとの特則まで一律に同じ期限・処理になるとするものではない。
第2 通常の請求期間と後発的事由の期間
国税通則法23条1項による更正の請求の期間は,原則として法定申告期限から5年以内である。
同項2号の法人税の純損失等に係る所定の場合には10年の規定があり,個別税法の特則もあるため,まず税目,事業年度及び請求内容を特定する。
同条2項の後発的事由による請求は,同項に定める期間の終期が1項の期間の終期の後に来る場合に認められる。
1号の判決等による場合は,その事実が確定した日の翌日から起算して2月以内という期間である。
判決が出れば通常の5年がいつでも「2月」に短縮されるという読み方は適切ではない。
民事判決の言渡日と確定日を同一視せず,確定証明書などで起算点を確認する。
期限の計算では国税通則法10条による期間計算・休日の扱いも確認し,訴訟の終了を待つ間に通常の請求期間を過ぎないよう管理することが実務上の提案である。
第3 判決・和解のどこを申告と照合するか
国税通則法23条2項1号が対象とするのは,単に判決書に自分に有利な記載がある場合ではない。
「申告等の計算の基礎となった事実」と,判決等によって異なることが確定した事実の対応を明らかにする必要がある。
例えば,売買代金についての民事事件であれば,売上として申告した金額,訴訟物である請求,主文で命じられた給付,理由中の判断及び和解条項を分けて整理する。
引換給付判決の反対給付額の記載と,売主の代金請求についての確定判決を,同じものとして扱わないことが重要である。
民事訴訟法114条による既判力の範囲の検討と,更正の請求に必要な事実・実体要件の検討を対応させるのであって,「既判力があるから還付される」という一段の推論で済ませない。
同号は,判決と同一の効力を有する和解その他の行為も含めている。
しかし,当事者間の私的な合意書があれば当然に同号の要件を満たすわけではなく,どの手続で成立し,何が確定したかを確かめる必要がある。
契約解除その他の事情について別の後発的事由の規定が適用されるかは,その根拠と事実関係を分けて検討する。
第4 課税年度を変えられるかを別に検討する
最高裁第一小法廷令和2年7月2日判決(平成31年(行ヒ)第61号)は,貸金業者について,後の事業年度に破産手続で過払金返還請求権が確定したことを理由に,過去の事業年度の益金を減額できるかを判断した。
同判決は,法人税法の公正処理基準と事業年度ごとの所得計算を踏まえ,この事案で過年度の益金を減額する処理を認めなかった。
判決が適用したのは改正前の国税通則法及び法人税法であるため,第2で説明した現行法の請求期間とは区別して読む必要がある。
ここから確認すべきなのは,後から債務額等が確定したという事情だけで,過去の年度へ遡って申告を減額できるとはいえないという点である。
同判決は,後に破産債権が確定した本件でも,過年度の減額計算が公正処理基準に従わず,国税通則法23条1項1号の要件を満たさないと判断した。
後発的事由の存在だけで実体上の減額理由まで認められるとはいえないという点が,本記事の整理である。
この判決を,すべての民事和解について更正の請求が不可能であるという一般則に広げてはならない。
自分の案件の収益・費用の内容,発生した事業年度,適用する税法上の規定及び従来の申告との関係を確認し,過年度の訂正と事由が生じた年度の処理を分けて検討する。
第5 弁護士と税理士で共有する資料
弁護士側では,訴状・反訴状,請求変更の書面,判決書,確定証明書,和解調書又は合意書と,支払・供託等の履行資料を整理することを提案する。
税理士側では,対象年度の申告書,別表,総勘定元帳,契約書及び当初の会計処理の根拠を対応させることを提案する。
両者で作る照合表には,少なくとも「当初申告の基礎事実」「後に確定・変更した事実」「証拠の所在」「影響する年度と金額」「適用条項」「請求期限」を分けて記載すると確認しやすい。
和解条項の文言を税務上有利な形に整えることだけで結論を出さず,実際の取引と申告の対応を確認するための表として用いる。
国税庁の法人税の更正の請求手続には,更正請求書と,請求理由の基礎となる事実を証明する書類等の案内がある。
提出先・様式・添付書類は,提出時点の案内で確認する。
請求の提出と減額の実現は別であり,国税通則法23条4項は,税務署長が調査し,更正又は更正をすべき理由がない旨の通知をすることを定めている。
第6 出典・関連記事
国税通則法(e-Gov法令検索):10条,23条。
令和8年10月30日時点の施行法令を確認。
民事訴訟法(e-Gov法令検索):114条,267条。
最高裁第一小法廷令和2年7月2日判決・平成31年(行ヒ)第61号(裁判所PDF):後発的事由と過年度の益金減額の関係。
法人税及び地方法人税の更正の請求手続(国税庁)
前期損益修正-会計上の誤謬訂正と税務上の年度帰属
引換給付判決で何が確定するか―同時履行の抗弁,反対債権の既判力,代金回収と強制執行
平成29年司法試験民事系第3問(民事訴訟法)の模範解答と評価項目