第1 財産の名前がないことと,遺言の対象外であることは同じではない
遺言に記載されていない預金や不動産が見つかったときは,その財産だけを見て,直ちに相続人全員で分けると決めないことが重要である。
「その他一切の財産」等の条項や,財産全体の承継を定める記載によって,個別の名称がない財産も対象に含まれることがあるためである。
最初に,遺言全文と財産目録,ほかの遺言の有無及び新たに見つかった財産の資料をそろえる。
その上で,遺言の対象か,対象であれば誰が取得するか,対象外であればどの手続が必要かを順に検討する。
本記事は,相続人が複数いる一般的な相続を念頭に,確認の順序を整理する。
相続人がいない場合,外国法が関係する場合及び個別の権利の帰属に争いがある場合は,別の検討が必要となる。
第2 最初に分けて調べる3つの問題
1 本当に遺産に属する財産か
名義,契約,取得経緯及び死亡時の権利関係を確認する。
通帳や証券が見つかったという外形だけで,記載された金額の全てが遺産であると確定するわけではない。
財産の帰属に疑問がある場合は,その点を先に整理する。
2 遺言の別の条項に含まれていないか
個別の財産目録に名前がなくても,「全財産」「その余の財産」「その他一切の財産」等の記載がないかを確認する。
包括的な処分,相続分の指定又は遺産分割方法の指定等も含め,遺言全体との関係を読む必要がある。
民法964条は,遺言者が財産の全部又は一部を処分することを認め,908条は,遺産分割方法の指定等を定めている。
個々の財産名が列挙されていないという事情だけでは,遺言で処分されていないとは断定できない。
3 名前や番号が変わっただけではないか
金融機関の合併,支店名や口座番号の変更等があるときは,旧資料と現在の資料を照合する。
元の財産と同一なのか,解約・売却等によって別の財産になったのかを分けて調べる。
番号の違いだけで遺言の対象外と決めず,反対に,元の財産の価値が残っているという理由だけで,新しい財産まで当然に同じ条項の対象としないことが大切である。
第3 残余財産条項がある場合の確認事項
残余財産条項とは,個別に承継先を指定した財産以外の財産について,承継先等を定める条項をいう。
「その他一切の財産をAに相続させる」という記載は,その典型例である。
ただし,この一文だけで全ての事案の結論が決まるわけではない。
「その他」がどの財産を除いた範囲を指すか,別紙目録との関係,後の遺言の有無及び受益者の先死亡等を確認する。
財産目録には,発見した財産,根拠資料,関係する遺言条項,予定する取得者及び未確認事項を対応させる。
相続人や金融機関へ説明するときも,「財産名がないが,この条項に含まれると考える」という理由を示せるようにする。
受益者が先に死亡した場合等の備えは,予備的遺言で説明している。
第4 遺言で処分されていない財産はどうするか
遺言全体を確認しても承継先等の指定がなく,遺産に属する財産である場合は,相続人が複数なら原則として遺産分割の対象となる。
民法898条の共同相続財産の共有と,907条の遺産分割の仕組みを踏まえ,その財産の取得者を検討する。
ただし,財産の性質,遺言による分割禁止等の有無も確認する必要がある。
既にほかの財産について遺産分割協議をしているときは,その協議書にも,新たに発見された財産の扱いを定める条項がないかを確認する。
条項が当該財産に及ぶかを検討せず,全ての協議を最初からやり直すとも,追加の協議が一切不要とも決めつけない。
追加の協議が必要な場合は,対象財産とその取得者を特定し,ほかの財産についての既存の合意との関係も明らかにする。
相続人の範囲に変更がある場合や,相続人の一人がさらに死亡している場合は,参加すべき人も確認する。
第5 遺言執行者がいても,分け方を自由に決められるわけではない
遺言執行者の権限は,遺言の内容を実現するために必要な範囲にある(民法1012条)。
遺言が特定の財産に関するものである場合には,財産目録等に関する規定の適用範囲にも注意が必要である(1014条1項)。
したがって,遺言に記載のない財産が見つかったときは,遺言執行者へ,どの条項の対象と考えるか,どの権限に基づいて処理するかを確認する。
遺言で処分されていない財産について,相続人間の分け方を遺言執行者が一方的に決められると考えてはならない。
通知や目録,執行状況の確認は,遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点を参照されたい。
第6 生前に遺言を見直す場合の確認事項
作成時の財産目録と現在の財産を照合し,購入,売却,口座の開設・解約及び権利関係の変更を確認する。
その上で,個別に承継させる財産と,その余の財産の承継先を整理する方法が考えられる。
個別財産の条項,残余財産条項及び予備的な受益者の条項が,相互に矛盾しないかも点検する。
残余財産条項を入れれば,遺留分,債務,遺言の方式又は税務の問題まで全て解消するわけではない。
追加の財産目録や案文を作っただけで,既存の遺言が適切に変更されたと考えないことも大切である。
第7 相談時にそろえる資料
①遺言全文と別紙,②ほかの遺言の写し,③従前の遺産分割協議書等,④見つかった財産の残高・登記・契約資料,⑤遺言作成後の財産の変動が分かる資料,⑥相続関係資料,⑦遺言執行者や金融機関との連絡記録を,可能な範囲でそろえる。
資料がない項目は,存在しないと断定せず,未取得として残す。
「どの財産について,どの条項の適用が分からないのか」を一枚の一覧にすると,調査する範囲を絞りやすい。
手続全体の流れは,遺言書の執行とはを参照されたい。
第8 出典
e-Gov法令検索「民法」898条,907条,908条,964条,1012条及び1014条。https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
資料の確認日は令和8年10月26日である。
遺言の文言や財産の同一性について個別判断が必要な場合は,関係資料に基づく検討を要する。
本記事の確認順序及び資料の整理方法は,条文を踏まえた実務上の提案である。