メインコンテンツへスキップ
       

受刑者の丸刈りと髪型の自己決定権―東京弁護士会の令和8年1月勧告を読む(AI作成)

第1 東京弁護士会は何を勧告したか

東京弁護士会は,令和8年1月26日,受刑者の意思に反する丸刈りの調髪について,東京拘置所長宛てに人権救済の勧告をした。対象事件は令和3年東人権第10号であり,勧告書の発信番号は「東弁2025人権第565号」である。事件番号と発信番号は異なる。東京弁護士会の公表一覧は翌27日付けで掲載している。

勧告の内容は,髪型の基準について性別による区別をなくし,受刑者の性別を問わず適用される合理的な基準へ改めることを,法務大臣に上申するよう求めるものである。東京弁護士会自身が訓令を改正したという意味ではない。勧告書1頁

本記事は,この勧告の対象と理由を公表原文に沿って整理する。勧告後に全国の施設の運用が変わったかという問題とは分けて読む必要がある。

第2 申立人の説明と弁護士会の認定を分ける

勧告書には,令和3年3月26日に職員5名から拒絶に反してバリカンで頭髪を刈られたという申立人の説明が記載されている。他方,施設の回答は,調髪の実施を認めつつ,その他の事情については関連記録がなく回答できないというものであった。

東京弁護士会は,申立てと双方の回答を踏まえ,意思に反する調髪が行われたと認定した。「申立人が述べた具体的な行為態様」と「調査を経て弁護士会が認定した事実」を同じものとして引用しないことが重要である。裁判所がこれらの事実を認定した判決として紹介することもできない。勧告書1~2頁

第3 法律は丸刈りを直接定めているのか

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律60条1項は,受刑者の調髪とひげそりについて法務省令に委ねている。同条の条文自体が,頭髪を何センチメートルにするかを定めているわけではない。

同条2項は,自費による調髪を希望する受刑者について,刑事施設の長が処遇上適当と認める場合に許すことができるとする。希望を申し出れば当然に許可されるという条文ではない。また,3項は受刑者以外の被収容者の申出を別に規定している。受刑者についての勧告を,未決拘禁者等を含む全ての被収容者にそのまま当てはめることは避けるべきである。

勧告書3~5頁は,法律,法務省令及び法務大臣の訓令を順に示し,男性受刑者の髪型の基準と例外を検討している。そこで問題とされたのは,調髪一般の必要性だけでなく,男性の髪型を原則としてごく短い形に限る基準の合理性である。勧告書が引用する規則・訓令は勧告当時の制度説明として読む必要があり,その引用だけから現在の改正状況を判断することはできない。勧告書3~5頁

第4 髪型の自己決定権と性別による区別

東京弁護士会は,髪型が自尊心や美的意識と結び付くことを指摘し,髪型を決める自由を憲法13条の自己決定権として捉えた。その上で,受刑者についても,矯正処遇の目的に反しない限り保障されると述べている。

勧告は,男性に対する短い髪型の強制が施設管理や矯正処遇のために必要かを問い,女性に一定の髪型の自由が認められていることも比較材料にしている。以上は東京弁護士会の法的評価であり,同じ内容の裁判所の判示が示されたものではない。勧告書5~6頁

この区別を保つと,検討する問いも明確になる。施設側が挙げる衛生・安全上の理由は何か。その理由は本人の希望する髪型にも当てはまるか。より制限の小さい方法で目的を達成できるか。性別による一律の区別を維持する根拠は何か。これらを分けて確かめることが,勧告の問題提起を具体的な処遇の検討につなげる方法となる。

第5 勧告から分かることと分からないこと

この公表資料から分かるのは,東京弁護士会が調査を経て人権侵害と評価し,基準の見直しを上申するよう求めたことである。勧告書の公表をもって,損害賠償を命じる判決が出た,訓令が改正された,又は全ての調髪が違法と確定したと説明することはできない。

また,勧告書2~3頁が紹介する令和2年1月16日の不服審査の議事要旨は,本件の令和3年3月の調髪より前の別事案である。その議事要旨に記載された結論や委員の意見を,本件についての行政判断と取り違えないようにする。

記事,見出し又は要約を読む際も,「誰の判断か」「どの事案か」「何を求めたか」「その後に何が実施されたか」を別々に確認すると,勧告の意義を過大にも過小にも捉えずに済む。

第6 調髪について相談するときの資料

具体的な相談では,少なくとも次の事項を記録しておくと,事実関係と制度の問題を分けて説明しやすい。

1 施設名,調髪の日,刑の執行状況及び本人が希望した髪型。

2 希望や拒否を伝えた日時・方法と,施設から説明された理由。

3 実施された調髪の内容,身体への働き掛けの有無及びその記録。

4 自費による調髪の申出の有無,申出書,回答書及び回答日。

5 根拠として示された規則・訓令・施設内の基準の名称と適用時点。

これは資料整理のための提案であり,特定の救済手続の法定書式や成立要件を示すものではない。人権救済の申立て,施設内外の不服申立て及び訴訟では,求める結果も確認すべき要件も異なる。まず事実の記録を保ち,利用する手続ごとに対象,期限及び必要資料を確認することになる。

第7 資料と参照箇所

– 東京弁護士会「人権救済申立事件の公表(2025年度)」:事件の同定と掲載日。
– 令和8年1月26日付け勧告書:1頁が勧告の趣旨,1~2頁が事実関係,3~5頁が制度の説明,5~6頁が法的評価と結論。
– 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律:60条。
– LIBRA2026年7・8月号:誌面35頁(PDF31頁)の紹介。詳しい内容の確認には上記勧告書を用いた。