第1 納品,検査,検収と支払条件を分ける
納品したのに「まだ検収が終わっていない」と言われ,代金が支払われない。
制作やシステム開発などの取引では,合意した仕事の内容,納品・受領の状況,検収の手続及び支払期日を分けて確認する必要がある。
特に,取適法の対象となる情報成果物作成委託では,検査未了という理由だけで支払をいつまでも先延ばしにできるわけではない。
以下では,公正取引委員会の説明を踏まえ,支払が止まった場合にそろえたい資料と確認の順序を整理する。
契約書,発注書,見積書及び仕様書を並べ,次の事項を確認する。
| 確認事項 | 確認する内容 |
|---|---|
| 約束した仕事 | 何を作成し,どこまで対応する契約か |
| 納品 | 何を,いつ,どの方法で提出する約束か |
| 検査・検収 | 誰が,何を基準に,いつまでに確認するか |
| 支払 | 金額,期日及び検収との関係をどう定めているか |
「納品後に検査する」「検収完了後に支払う」「検収方法は別途協議する」では,確認すべき点が異なる。
基本契約と個別の発注書がある場合には,両方を読み,異なる定めがある場合の優先関係も確認する。
ファイルを送信した事実と,約束した仕事の完成についての説明は分けて整理する。
送付メールに加え,合意した仕様と納品物のどの部分が対応するのかを示せるようにする。
第2 検収しない理由を具体化する
検収が進まない理由を,例えば次のように整理すると,次に確認する事項が明確になる。
| 相手方の説明 | 確認したいこと |
|---|---|
| 合意した機能が動かない | 対象機能,対応する仕様,発生条件及び修正内容 |
| 機能を追加してほしい | 当初の合意に含まれるか,追加の見積り・承認があるか |
| 社内承認が終わらない | 確認担当者,止まっている手続,回答予定日及び支払予定日 |
これは問題を整理するための分類であり,請求の可否を自動的に決める基準ではない。
「使いにくい」「まだ完成していない」という指摘については,問題箇所と合意仕様との関係を具体化してもらう。
受託者側も,すべての指摘を追加作業と決めつけず,変更前後の資料と照合する。
第3 取適法の対象取引では,検査と支払期日を別に確認する
取適法の適用対象となる情報成果物作成委託について,公取委のQ86は,検査の有無にかかわらず,受領後60日以内に定めた支払期日までに支払う必要があると説明している。
検査未了だけを理由に,その先へ支払を延ばせるという説明ではない。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q86
「60日以内」は,既に定めた支払期日を60日目まで自由に延ばせるという意味でもない。
受領日と定めた支払期日を対応させて確認する。
この説明を,すべての売買や業務委託へ一律に当てはめない。
取引内容,当事者の規模及び発注時点などから適用対象かを先に確認する。
また,給付が委託内容と異なること等を理由とする返品の扱いはQ76に別の説明があるため,実際に返品等がある場合にはその事情も確認する。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q76
1 納期前の品質確認の扱い
Q87は,一定の事前合意の下で,納期前に成果物を一時的に提出してもらい,一定の水準を満たすか確認する場合の取扱いを説明している。
ただし,発注時に明示した納期に成果物が発注者の支配下にあれば,検査未了でもその納期が起算日になるとQ86は説明している。
Q88も,この取扱いは検査終了後の受領を一般に認める趣旨ではないとしている。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q86~Q88
社内で「検収済み」と処理した日だけでなく,事前合意,明示した納期及び実際の提出・管理状況を確認する必要がある。
2 請求書が未提出の場合
Q77は,請求書の提出の有無にかかわらず,受領後60日以内に定めた支払期日までに支払う必要があると説明している。
公取委「よくある質問コーナー(取適法)」Q77
受託者側でも,請求額,対象となる納品及び振込先を明確にして提出記録を残すと,照会や入金確認を進めやすい。
請求書の処理状況と,適用法上の支払期日は分けて整理する。
第4 みなし検収条項は,成立条件と効果を読む
一定期間内に異議がなければ検収を完了したものと扱う,いわゆる「みなし検収条項」がある場合には,次の事項を契約文言と記録に照らして確認する。
① 期間を,納品日,受領日又は検査開始日のどこから数えるか。
② 異議を,誰に,どの方法で通知する必要があるか。
③ 相手方から,期間内にどのような連絡があったか。
④ みなし検収によって,支払期日などのどの事項が動く定めか。
⑤ 検収後に問題が見つかった場合の対応を,別の条項が定めているか。
検収条項だけで判断を終えず,契約不適合への対応,保証及び責任制限などの条項も併せて読む。
条項が見当たらない場合も,相手方の沈黙から検収済みと結論付ける前に,合意内容と連絡経過を確認する。
第5 請求前に,資料と連絡経過を整理する
催促のメールを繰り返す前に,次の資料を時系列で整理すると,支払が止まっている理由を確認しやすい。
| 整理する事項 | 対応する資料 |
|---|---|
| 約束した作業と金額 | 契約書,発注書,見積書及び仕様書 |
| 納品の内容と日時 | 納品物,送信記録及び受領メール |
| 検査の手続と期限 | 検収条項,検査計画及び担当者との連絡 |
| 不合格とされた理由 | 指摘一覧,画面,再現手順及び議事録 |
| 修正・追加依頼 | 変更前後の仕様,追加見積り及び承認記録 |
| 請求額と支払期日 | 支払条項,請求書及び提出記録 |
相手方への照会は,例えば次のように具体化できる。
○月○日に納品した成果物について,検収未了とされている箇所と,対応する合意仕様を御教示ください。
併せて,検査結果の通知予定日及び代金の支払予定日を御回答ください。
これは事実確認のための文例であり,請求額や履行期限を特定した催告書の完成形ではない。
契約上の期限が到来している場合などには,その事情に応じた請求内容を検討する。
契約上の代金請求の問題と,取適法上の支払期日の問題は分けて整理する。
公取委の支払遅延についての説明だけで,個別事件の請求額や裁判の結論まで決まるわけではない。
第6 関連記事
① 契約書審査の進め方とチェックポイント―取引の把握,修正の優先順位及び締結前の確認
② システム開発の仕様変更と追加費用―依頼・影響評価・合意・中止時の確認事項
第7 出典・参考資料
公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q76,Q77及びQ86~Q88。
令和8年10月24日に該当箇所を確認した。
取適法の運用についての行政説明を参照し,個別事件の判例として紹介していない。
松尾剛行『実務の落とし穴がわかる!契約書審査のゴールデンルール30』(学陽書房,2024年)72頁~75頁,112頁~117頁。
検収手続,業務範囲及び完了確認に関する着眼点を参照した。
本文の確認表,分類及び照会文例は本稿の整理であり,法定書式や同書掲載の文例ではない。