第1 一方の契約違反で別の契約も終わるとは限らない
システムの導入契約と保守契約,機器の売買と利用契約など,同じ取引目的のために複数の契約を結ぶことがある。
そのうち一つの契約に違反があったとき,別の契約もまとめて解除できるかは,契約の相互関係と解除の根拠を確認して判断する必要がある。
契約書が別々であることだけで解除できないと決まるわけではない。
他方,同じ日に締結した,同じ会社と取引しているというだけで,すべての契約を当然に解除できるわけでもない。
本記事では,最高裁平成8年11月12日判決を出発点として,令和8年10月24日を基準に,企業の取引担当者が確認すべき事項を整理する。
第2 最高裁平成8年11月12日判決
1 マンション購入とスポーツクラブ会員契約の事案
この判決は,リゾートマンションの区分所有権の購入と,併設されるスポーツクラブの会員となる契約が問題となった事案である。
屋内プールの完成と利用に関する約束が履行されず,購入者が売買契約等の解除を求めた。
最高裁は,同一当事者間の複数契約について,各契約の目的が相互に密接に関連し,一方だけが履行されても契約締結の目的が全体として達成されない場合には,一方の債務不履行を理由に他方の契約も解除できるとした。
2 取引全体の目的と約束の重要性が問題となった
判決は,マンションの所有権とクラブ会員資格の関係,契約に至る事情,購入者がプールを利用することの重要性等を検討している。
屋内プールの完成・利用に関する約束は,売買契約とは無関係の些細な付随事項として扱われたものではない。
したがって,実務で確認するのは,「関連契約」と呼ばれているかだけではない。
なぜ別々の契約を結んだのか,どの給付が欠けると取引全体の目的が達成できないのか,その目的を相手方との間でどのように共有していたかが重要である。
3 異なる当事者の契約へ当然には広げられない
上記判決の一般的な判断は,同一当事者間の複数契約を対象としている。
売主と保守会社が別法人である場合,グループ会社がそれぞれ契約する場合,金融機関との資金調達契約を伴う場合等に,この判決だけで同じ結論になるとはいえない。
また,同判決が扱ったのはマンションとクラブの取引である。
以下のシステム等の例は,判決の判断枠組みを踏まえた確認方法の例であり,その類型について最高裁が直接判断したという意味ではない。
第3 企業の取引で確認する契約と資料
1 契約の組合せを図にする
まず,基本契約,個別発注,ライセンス,保守,機器の貸与及び保証等を,契約当事者ごとに並べる。
それぞれの対象,対価,期間,終了事由及び終了後の義務を確認する。
販売代理店と利用企業の契約に加え,サービス提供者の規約が関係する場合には,その位置付けも明らかにする。
例えば,同じ会社と導入・保守の契約を結んでいても,保守の一部の遅れで導入契約まで解除できるかは,その保守がなければシステムを利用できないのか,代替保守が可能か,導入契約に残る利益は何か等によって検討が必要である。
2 目的と約束を示す資料を保存する
契約書だけでなく,提案書,仕様書,説明メール,価格の組合せ及び交渉記録を確認する。
「この機能の利用が購入目的である」「この保守の提供を前提に導入する」といった説明が,誰から誰に,どの段階で伝えられたかを特定する。
自社内部の期待と,契約内容又は相手方と共有された取引目的は区別する。
提案書に記載があることだけで,そこにある全目標数値が直ちに保証されたとも考えない。
給付内容,前提条件及び契約への組入れを確認する必要がある。
3 解除自体の要件と通知を確認する
関連性が強いことを確認しても,債務不履行と解除の要件の検討は残る。
催告による解除については民法541条,無催告解除については542条,債権者の責めに帰すべき事由については543条等を確認する。
契約に独自の解除条項がある場合には,その文言も読む。
解除通知では,どの契約のどの違反を理由に,どの契約まで解除するのかを特定する。
債務不履行をしていない契約についても解除する場合には,契約の結び付きと全体目的を達成できない理由を整理する。
単に「取引一式を解除する」とだけ記載して,対象の確認を省かない。
第4 クロスデフォルト条項と解除連動条項
1 期限の利益の喪失と契約解除は別の効果である
クロスデフォルトという名称の条項では,他の債務又は他の契約で生じた不履行を,一定の契約上の効果に結び付ける設計が用いられる。
ただし,その名称だけで効果は決まらない。
他の借入金の期限の利益を失わせる条項と,別の契約を解除できる条項は,区別して読む必要がある。
他の契約の違反を解除事由に含める場合には,対象契約,対象債務,違反の重要性,金額,治癒期間,通知及び解除権を行使できる者を明らかにする。
軽微な違反や争いのある請求まで広く連動させると,取引継続への影響が大きくなる。
2 自動終了と解除権の発生を分ける
別契約が終わると自動的に終了する設計と,通知によって解除できる設計では,終了時点と必要な行動が異なる。
保守契約だけを終了させたい場面で,ライセンスまで失うことがないか,終了後もデータの取出しや移行支援を受けられるかを確認する。
条項を明記しても,その効力と行使がすべての場面で認められるわけではない。
倒産手続に関係する条項や,強行法規が関係する取引では,別途の検討が必要となる。
上記最高裁判決を,倒産解除条項一般の有効・無効の根拠にしない。
第5 解除後の精算と残る義務
関連契約を解除するとしても,支払済み代金,既履行部分,機器返還,利用権,データ,秘密保持及び移行支援を一括して消滅させてよいとは限らない。
民法545条等と契約類型・条項に従い,契約ごとに返還・精算と残る義務を確認する。
継続的な取引の終了通知や既発注分の処理は,継続的取引を終了するときの確認事項で整理している。
関連契約の解除の可否と,終了後に何を実行するかを,つなげて検討することが重要である。
第6 出典・参考資料
– 最高裁第三小法廷平成8年11月12日判決・平成8年(オ)第1056号,民集50巻10号2673頁。判例秘書の判例番号 L05110088の主文・理由を参照した。
– e-Gov法令検索・民法541条~545条。解除の要件及び効果を確認した。
– 塩野誠・宮下和昌『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』(東洋経済新報社,2015年初版)92頁~93頁。複数契約の解除と契約上の連動条項という着眼点を参照した。システム等の例と確認手順は,本記事で構成したものである。