令和4年司法試験倒産法第2問を,開始条件と弁済充当の二つの観点から解説する。
法務省の公式資料から抽出した39項目を5段階で整理し,試験時の法令に基づく模範解答を示す。
第1 この記事の対象と結論
本問は,A社の再生手続開始の可否と,D銀行が手形取立金を債務の弁済に充当できるかを問う。
設問1①では,清算による回収がはるかに有利なため,民事再生法25条2号により開始できない。
設問1②では,国税分納と譲渡代金増額の具体的な見込みを踏まえ,計画案作成等の見込みがないことが明らかとはいえず,開始できる。
設問2では,銀行取引約定を別除権行使に付随する合意と捉え,充当を肯定する構成を採る。
評価項目は39項目であり,重み5は番号1・23・24・27・33の5項目である。
第4に全項目と分布,第5に答案と解説を置く。
根拠は法務省の問題,出題の趣旨,採点実感である。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,対象問題の出題の趣旨と採点実感から独自に抽出したものであり,法務省の公式採点基準ではない。
各行は,答案だけから充足又は負例への該当を判定できるように具体化した。
誤りの回避も重みの集計に含めるが,書かなかっただけで積極的な理解が示されたとは扱わない。
番号は記事全体で連続し,設問ごとに戻さない。
約定の有効・無効は理由付けを伴う許容分岐であり,両結論を同時に要求する趣旨ではない。
高評価の理由付けを全答案に必須とはしない。
根拠欄の「記載なし」は本問の関連範囲を実読した結果であり,未確認を意味しない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は,採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのものである。
重み4は,出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項である。
重み3は,一方が明示する中核の理由付け又は基本理解を損なう負例,重み2は補強又は典型的な誤り,重み1は控えめに触れられた事項である。
必須・高評価・負例・許容分岐と重みは別の分類であり,重み合計は公式配点・得点・合格可能性を表さない。
第3 本問の概要
ラーメン製造販売業のA社は,資産処分を続けても業績が回復せず,金融機関から猶予や融資を拒絶されたため,5月末の借入金を弁済する見込みがなく,再生を申し立てた。
①は本店の低収益による事業継続と,高額の更地売却による清算との比較であり,C信金は既に破産を申し立てている。
②は唯一のスポンサーH社への事業譲渡を予定するが,現提示額では滞納国税を完済できず,分納交渉と合理化による代金増額の見込みがある。
D銀行は,申立て前に取立委任を受けた手形について商事留置権を有し,開始翌日の満期に1000万円を取り立てた。
被担保債権は3000万円である。
設問2は取立金に商事留置権の効力が及ぶことを仮定して,約定による充当を破産と比較させ,相殺禁止の検討を除外する。
第4 評価項目と重み
1 設問1の共通事項
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 開始原因21条,棄却事由25条,開始決定33条1項の構造を示す(必須) | 5 | PDF23頁・第2問(該当評価段落):再生手続開始の原因 | PDF5頁・第2問・ア 設問1:これらの条文を摘示して言及 |
| 2 | 破2条11項・15条1項に接続し,支払不能の定義を示す(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):「支払不能」(破産法第15条、第2条第11項) | PDF5頁・第2問・ア 設問1:条のみならず、項や号まで正確に摘示することが望まれる |
| 3 | 資産処分・猶予及び融資拒絶・末日弁済見込みなしを,21条1項前段のおそれへ結び付ける(必須) | 4 | PDF23頁・第2問(該当評価段落):事例に掲げられた具体的な事実に照らし | PDF5頁・第2問・ア 設問1:支払不能そのものを認定しているもの |
| 4 | 支払停止,既発生の支払不能,21条1項後段又は破産申立てだけで開始原因を代用しない(負例) | 3 | 記載なし | PDF5頁・第2問・ア 設問1:支払停止(のおそれ)を検討しているもの |
| 5 | ①と②を独立した事情として分けて検討する(負例) | 2 | 記載なし | PDF5頁・第2問・ア 設問1:①及び②の事情を一体として検討する答案 |
2 設問1①
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 6 | 25条2号の係属と債権者一般の利益という二要件を示す(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):同号所定の要件とその趣旨を摘示 | PDF5頁・第2問・ア 設問1:二つの要件及びその趣旨 |
| 7 | 係属は破産申立てで足り,開始決定まで要しないと説明する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):既に破産手続開始の申立てをしていることから | PDF6頁・第2問・ア 設問1:破産手続開始の申立てがされていれば足りること |
| 8 | 債権者一般の利益の文言を清算価値保障の原則と接続する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):はるかに高額の配当が見込まれる | PDF6頁・第2問・ア 設問1:清算価値保障の原則を表したものであること |
| 9 | 清算前の再建機会という再生優先の原則と25条2号の例外を説明する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):原則として再生手続が優先することを意識 | PDF6頁・第2問・ア 設問1:第2号はその例外的な規律 |
| 10 | 本店の低収益と更地売却の高額配当を比較して一般利益へ当てはめる(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):低額の売上げしか見込めない | PDF6頁・第2問・ア 設問1:土地を売却する方が、はるかに高額の配当 |
| 11 | 25条2号該当から開始できないと結論する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):同号の要件を満たすとの方向 | PDF6頁・第2問・ア 設問1:再生手続開始の決定はすることができない |
| 12 | 議決権額不明なのにメインバンクの申立てから可決不能を推認しない(負例) | 2 | 記載なし | PDF6頁・第2問・ア 設問1:再生債権額(議決権額)に関する記載はない |
3 設問1②
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 13 | 25条3号の作成・可決・認可の見込みと明白性の要件を示す(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):同条第3号に該当するか否か | PDF6頁・第2問・ア 設問1:見込みがないことが明らかであるとの要件とその趣旨 |
| 14 | 明白性を要求する趣旨を開始後の調査・交渉による再建機会と結び付ける(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):同号所定の要件とその趣旨を摘示 | PDF6頁・第2問・ア 設問1:「明らか」であることを要求している趣旨 |
| 15 | 国税を122条1項・2項の一般優先債権・随時弁済と分類する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):一般優先債権である滞納国税 | PDF6頁・第2問・ア 設問1:同法第122条第1項及び第2項 |
| 16 | 国税を完済できず再生債権の原資が残らないため計画案作成が問題となることを説明する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):このままでは再生債権の弁済ができず | PDF6頁・第2問・ア 設問1:再生計画が作成できないおそれ |
| 17 | 仕入れ・本社機能の合理化による譲渡代金増額の具体的見込みを評価する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):増額される見込みが十分にある | PDF6頁・第2問・ア 設問1:事業譲渡代金についても増額される見込み |
| 18 | 延滞税の分納見込みと決議までの資金繰りを原資確保の事情として評価する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):延滞税について分納の合意 | PDF6頁・第2問・ア 設問1:延滞税について分納の合意ができる見込み |
| 19 | 唯一の資金提供者と現提示額不足という不利な事情も踏まえ,明白な見込み欠如の有無を論じる(高評価) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):積極、消極の双方の事実を拾いつつ | PDF6頁・第2問・ア 設問1:反対の結論となる事情にも目を向けながら丁寧に当てはめ |
| 20 | 開始肯定なら25条1号・2号・4号に当たる事情がないことを確認する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):同条第1号、第2号及び第4号 | PDF6頁・第2問・ア 設問1:開始の決定をすることができるとの結論を採るのであれば |
| 21 | 一般優先債権者の分納合意から再生計画可決を直接導かない(負例) | 2 | 記載なし | PDF6頁・第2問・ア 設問1:一般優先債権者に議決権があるかのような疑い |
| 22 | 開始条件の当てはめに42条・43条の開始後事業譲渡の要件を混入しない(負例) | 2 | 記載なし | PDF7頁・第2問(該当評価段落):再生計画によらない事業譲渡の要件 |
4 設問2・再生手続
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | 両手続の商事留置権の取扱いと約定有効性を問題の骨格として捉える(必須) | 5 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):破産手続における取扱いとの相違を含めた検討 | PDF7頁・第2問(該当評価段落):相対的に高い評価となり、大きく差が付く |
| 24 | 53条1項の別除権と,商事留置権自体に優先弁済権がないことを区別する(必須) | 5 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):優先弁済権までは与えられていない | PDF7頁・第2問(該当評価段落):優先弁済権が与えられていないからこそ本件条項の有効性 |
| 25 | 手続外行使だけから充当肯定,優先弁済権の欠如だけから約定無効と短絡しない(負例) | 3 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):本件条項の有効性が問題となる | PDF7頁・第2問(該当評価段落):短絡的な思考にとどまっていた |
| 26 | 平成23年12月15日判決の約定有効性の判断を踏まえて自説を論じる(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):最判平成23年12月15日 | PDF7頁・第2問(該当評価段落):上記判例が存することを踏まえて自らの考え方 |
| 27 | 約定を別除権行使に付随する合意と位置付け,有効性の理由から充当可否へ到達する(必須) | 5 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):別除権の行使に付随する合意 | PDF7頁・第2問(該当評価段落):「別除権の行使に付随する合意」 |
| 28 | 取立金を留置できるため通常の再生弁済原資・事業原資に予定できないことを理由付ける(高評価) | 3 | 記載なし | PDF7頁・第2問(該当評価段落):通常は再生計画の弁済原資に充てることを予定し得ない |
| 29 | 88条・94条2項の不足額に関する権利行使・届出規律を約定の理由へ接続する(高評価) | 3 | 記載なし | PDF7頁・第2問(該当評価段落):同法第88条や第94条第2項の規律 |
| 30 | 約定の有効・無効の許容分岐を踏まえ,採用した自説を理由付けて結論する(許容分岐) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):肯定、否定の両論が考えられる | PDF7頁・第2問(該当評価段落):肯定、否定の両論が考えられる |
5 設問2・破産手続及び終点
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 31 | 破66条1項の特別先取特権擬制による優先弁済権を説明する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):特別の先取特権とみなされる | PDF7頁・第2問(該当評価段落):優先弁済権が与えられていること |
| 32 | 破2条9項・65条1項の別除権として手続外行使できることを示す(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):同法第2条第9項 | PDF7頁・第2問(該当評価段落):同法第65条第1項 |
| 33 | 優先弁済権があっても任意処分による充当まで当然には認められず,約定の有効性を検討する(必須) | 5 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):弁済充当まで直ちに認められることにはならない | PDF8頁・第2問(該当評価段落):やはり本件条項の有効性が問題となる |
| 34 | 平成10年7月14日判決を留置の存続だけでなく取立て・弁済充当の合理性に接続する(必須) | 4 | PDF24頁・第2問(該当評価段落):最判平成10年7月14日 | PDF8頁・第2問(該当評価段落):銀行による取立てや弁済充当の可否 |
| 35 | 競合先取特権の事実がないのに破66条2項の順位問題を広げない(負例) | 2 | 記載なし | PDF8頁・第2問(該当評価段落):他に競合する特別先取特権は現れていない |
| 36 | 清算型・再建型の構造を示さず,再生充当肯定・破産充当否定としない(負例) | 3 | 記載なし | PDF8頁・第2問(該当評価段落):清算型手続と再建型手続の意義 |
| 37 | 設問の終点に合わせ充当できる又はできないと明示する(負例) | 1 | 記載なし | PDF8頁・第2問(該当評価段落):設問に対して正面から解答するという姿勢 |
| 38 | 充当の問題を相殺の可否の長い論述で置き換えない(負例) | 2 | 記載なし | PDF7頁・第2問(該当評価段落):相殺の可否について長々と論じた答案 |
| 39 | 銀行取引約定を倒産解除特約と混同しない(負例) | 2 | 記載なし | PDF7頁・第2問(該当評価段落):いわゆる倒産解除特約と混同した答案 |
6 重みの分布
重み1は1項目,重み2は7項目,重み3は5項目,重み4は21項目,重み5は5項目である。
総項目数は39,重み合計は139である。
重み5は,番号1の開始判断の条文構造,番号23の両手続比較と約定有効性という問いの把握,番号24の留置と優先弁済の区別,番号27の付随合意からの充当論証,番号33の優先弁済と任意処分の区別である。
番号27は採用する有効説の骨格であり,無効説に同じ肯定結論を要求するものではない。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
令和4年5月11日に施行されていた法令を基準とし,民事再生法を「法」,破産法を「破」と略記する。
①②を独立して検討し,設問2の取立金留置の仮定を維持する。
「同旨」は確認した法廷意見の判断に沿うこと,「参照」は旧破産法の判例を現行法との対応に留意して用いることを示す。
答案本文は,見出し・句読点・字下げを含み,改行を除くUnicode文字数で2002字である。
2 答案
1 設問1
(1) 共通の開始原因
法33条1項は,法21条の開始原因がある申立てにつき,法25条の棄却事由がなければ開始決定をする構造を採る。
支払不能とは,支払能力を欠くため,弁済期にある債務を一般的・継続的に弁済できない状態であり,破産原因となる(破2条11項,15条1項)。
再生では早期の再建を可能にするため,その「おそれ」で足りる(法21条1項前段)。
A社は資産を処分して返済しても業績が回復せず,弁済猶予もつなぎ融資も断られ,5月末の弁済の見込みがない。
支払不能のおそれがある。
(2) 事情①
法25条2号は,破産手続等の係属と,その手続によることが債権者の一般の利益に適合することを棄却事由とする。
清算前に再建の機会を与えるため再生手続を原則として優先させるが,債権者の回収利益を犠牲にしてまで再建を優先しないという例外である。
後者の要件は,再生による弁済が破産配当を下回ってはならないという清算価値保障の原則を表す。
係属には開始決定まで不要であり,C信金の破産申立てによって足りる。
本店の低額の収益から弁済するより,建物を取り壊し敷地を更地で売却する方がはるかに高額の配当を見込める。
Bの事業継続への希望を考慮しても,債権者全体に有利なのは破産である。
法25条2号により申立てを棄却すべきであり,開始できない。
(3) 事情②
法25条3号は,計画案の作成・可決又は計画認可の見込みがないことが「明らか」な場合を棄却事由とする。
無益な手続による債権者の拘束を防ぎつつ,開始後の調査・交渉による再建の機会を確保するため,単なる不確実性では棄却しない。
滞納国税は一般優先債権であり,手続外で随時弁済される(法122条1項・2項)。
譲渡代金で滞納分を完済できなければ,再生債権への弁済原資が残らず,計画案を作成できないおそれがある。
しかし,J税務署は再建に理解を示し,延滞税の分納合意ができる見込みがあり,計画案の決議までの資金繰りも見通せる。
唯一の資金提供者がH社で,現提示額が不足する点は不利であるが,仕入れルートの見直しや本社機能の集約により,譲渡代金増額の十分な見込みもある。
これらは具体的な資金確保の可能性を示し,作成等の見込みがないことが明らかとはいえない。
税務署の賛意を再生計画の議決権行使と混同してはならない。
予納金は納付されており,②では破産等の係属や不当目的・不誠実申立てを示す事情もない。
法25条1号・2号・4号にも該当せず,開始できる。
2 設問2
(1) 再生手続
商事留置権は別除権であり(法53条1項),手続外で行使できる(同条2項)。
しかし,留置権の本来の効力は留置的効力であり,法53条は優先弁済権を創設するものではない。
したがって,別除権であるだけで弁済充当を認めることはできず,逆に優先弁済権がないだけで約定を無効ともいえない。
本件条項が弁済禁止(法85条1項)に反せず有効かを検討する。
仮定によりD銀行は1000万円を留置できる。
その額は被担保債権3000万円を下回り,通常,A社の計画弁済原資や事業原資として予定できない。
さらに,法88条と94条2項は,別除権者の手続上の権利行使及び届出を担保不足部分に関して定め,担保価値による満足を予定する。
留置された取立金の充当は他の再生債権者の本来の利益を害さず,債務者と債権者の権利関係を調整する再生の目的にも反しない。
よって,本件条項は別除権の行使に付随する合意として有効であり,D銀行は1000万円を本件債務の弁済に充当できる(最判平成23年12月15日同旨)。
商事留置権自体に優先弁済権を付与するものではない。
(2) 破産手続との相違
破産財団上の商事留置権は特別の先取特権とみなされ,優先弁済権が与えられる(破66条1項)。
別除権として手続外で行使できる(破2条9項,65条1項)。
これは,留置・交渉を通じた事業再生と,換価・清算を目的とする破産との違いに対応する。
ただし,優先弁済権は法律に定める手続による満足の根拠であり,任意処分による弁済充当を当然に認めるものではない。
本件条項を別に解釈する必要がある。
手形の満期取立ては,法定手続によっても通常は銀行を通じた手形交換によるのであり,銀行自身の取立てと比べ,裁量の介在しない適正な換価方法である点は変わらない。
適法な占有と優先弁済権を有する銀行に同方法による充当を認める約定は合理的である(最判平成10年7月14日参照)。
本件では被担保債権が弁済期にあり,3000万円は取立金1000万円を上回る。
競合する先取特権の存在は与えられていない。
通常の満期取立てを前提として,本件条項による1000万円の弁済充当は破産でも認められる。
再生では留置的効力に付随する合意,破産では優先弁済権を基礎とした合理的換価の合意という構成の相違がある。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1(1)は番号1~5,1(2)は番号6~12,1(3)は番号13~22に対応する。
答案2(1)は番号23~30,2(2)は番号31~39を中心として対応する。
負例の行は,対応する誤りをしないことを答案の論述範囲・分類・終点から確認する。
(2) 開始判断の順序
再生の開始原因は支払不能そのものではなく,そのおそれで足りる。
①の破産手続の係属は申立てで足り,開始決定まで必要とする読み方は採れない。
再生優先の原則は,清算価値を下回る弁済を債権者に強いる根拠にはならない。
②では国税弁済後の原資不足が,まず計画案を作成できるかに関わる。
174条2項2号による認可の見込みから論じる構成も,採点実感はそのこと自体で配点に差を設けないとしている。
分納の「合意ができる見込み」という問題文の事実を,成立済み合意へ読み替えず,代金増額と合わせて明白性を評価する。
(3) 約定有効性と両手続の違い
再生で商事留置権が別除権であることと,それ自体が優先弁済権を持つことは別である。
平成23年判決の法廷意見は,取立金を利用可能な再生原資として予定できないことと,不足額についてのみ手続参加する規律を踏まえ,約定を別除権行使に付随する合意として有効とした。
制度目的の詳細な対比は金築誠志裁判官の補足意見にも現れるが,これを法廷意見の独自理由と混同しない。
破産では特別先取特権とみなされるため優先弁済が認められるが,任意処分の方法まで当然に許されるわけではない。
平成10年判決は,手形交換を通じた取立てという適正妥当な換価方法と約定の合理性を,留置の存続とは分けて検討した。
旧破産法93条1項に関する判示を,現行破産法66条1項との対応を示して用いる。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
有効説を採った答案であり,無効説を法律上検討できないと断定するものではない。
無効説を採る場合には,弁済禁止と別除権の関係及び判例の理由に対する反論を一貫して示す必要がある。
1000万円は3000万円以下の範囲であり,被担保債権を超える取立金の帰属までは扱わない。
相殺の可否,取立金留置の成立要件,開始後の事業譲渡の許可要件及び競合先取特権の順位は本問の論述範囲から外す。
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2 本問の関連資料
①令和4年司法試験問題の公式一覧
②令和4年司法試験の採点実感
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和4年司法試験論文式試験問題・選択科目:倒産法第2問,PDF4~5頁。
②令和4年司法試験論文式試験出題の趣旨:倒産法第2問,PDF23~24頁。
③令和4年司法試験の採点実感・選択科目:PDF1頁の倒産法総論・第2問関係,5~8頁の第2問,8~9頁の関連末尾記載。
2 法令
①民事再生法・試験時の施行版:1条,21条,25条,33条,53条,85条,88条,94条,122条,174条。
②破産法:2条9項・11項,15条1項,65条1項,66条1項。
3 裁判例
①最判平成23年12月15日・平成22年(受)第16号:全9頁,法廷意見の理由4,金築誠志裁判官補足意見。
②最判平成10年7月14日・平成7年(オ)第264号:全6頁,理由四2・3。
4 確認状態
公式資料の要求と判決原文の確認は分けている。
判決原文2件を実読し,法廷意見・原審・補足意見を区別した。
本問の評価項目と重みは記事独自の分析であり,法務省の配点ではない。
通常の満期取立てによる評価は問題文からの推論であり,手形交換という語が問題文に明記されていると扱わない。