令和4年司法試験倒産法第1問について,相殺の3類型と別除権者の最後配当を検討する。
評価項目と重みは法務省の公式資料をもとにした本記事独自の分析であり,公式の採点基準や配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和4年度 倒産法第1問 |
| 問題・基準時 | 問題文と設問の指定及び第7の出典・確認範囲による。問題の与件と指定された法令の時点を前提とする。 |
| 資料 | 出題の趣旨・採点実感に基づく分析。版・対象範囲・留保は第7の確認状態を参照。 |
| 評価項目 | 46項目(重み5:8項目) |
| 重みの合計 | 173(本記事独自の整理であり,公式の配点ではない。) |
| 答案の字数 | 2228字(答案部分の見出しを含み,空白・改行を除く可視文字数) |
| 判例・法改正の留保 | 第7の法令・裁判例と資料の範囲を参照。既存の確認日・参照頁・未確認部分の留保を引き継ぐ。 |
| 年度別の案内 | 令和4年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答と評価項目(AI作成) |
本記事は,令和4年司法試験の倒産法第1問を対象とする。
開始後に譲り受けた債権による相殺を否定し,開始前の委託保証の求償権による相殺を認め,無委託保証については判例に沿って相殺を否定する答案を示す。
甲土地と乙建物は所有者が異なるため,最後配当の計算基礎は7000万円となる。
評価項目は46項目,重み5は8項目(番号7・14・21・24・27・38・42・45)である。
重みの合計173は評価項目の独自集計であり,試験の得点を意味しない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
採点上の重要性は右欄の5段階の重みで示す。
注意事項や許容される答案構成は,必要な場合に本文中で説明する。
許容分岐は,採る立場・事実評価に対応する項目を参照する。
設問が複数の立場の検討を求める場合には,その検討を省略しない。
「注意」は誤りを避けるための項目の性質であり,独立した減点ではない。
元の番号・項目数・具体的な適用条件を維持し,同じ理解や誤りを重ねて評価しない。
番号は記事全体の通し番号である。
「記載なし」は第1問と関連総論を読んだ範囲で明示がないこと,「間接」は関連する記述からの推論を意味する。
判例と異なる構成の項目26は,その構成を採る場合に限る。
項目34と35は参加方法の代替関係にあり,現実の手続で両方を累積して行うことを求めるものではない。
高評価項目がなくても当然に不良となるものではない。
負例も独自の重みを付けて全項目の集計に含めている。
2 5段階の重み付けの基準
5はその設問の判断を大きく分ける核心,4は結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ,3は通常押さえる法的処理・事情の評価,2は論証を補強する説明・個別事情・補助的注意,1は補充的な引用・記述範囲の確認を示す。
重みは本記事の独自分析であり,法務省の公式配点・予測得点ではない。
本記事の重み4は,採点実感が必ず「高く評価」と明言した項目に限るという基準ではない。
重み5も,条件付きの分岐を全答案の必須事項へ格上げするものではない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
缶詰製造販売業のA社は,令和3年10月25日に破産手続開始決定を受け,Xが管財人に選任された。
A社はB社に売掛金500万円を有し,C社に買掛金400万円を負担する。
B社は,開始後の債権譲受け,開始前の委託保証,開始前の無委託保証という三つの独立した場合について,相殺を主張している。
無委託保証の存在はA社に全く知らされておらず,C社は債権届出をしていない。
E銀行の貸金債権は開始時に8000万円であり,D所有の甲土地とA社所有の乙建物が抵当権の目的である。
担保実行により,甲から4000万円,乙から1000万円の配当を受けた場合の最後配当の計算基礎が問われる。
設問1と2は独立し,中間配当は行われず,開始後の利息・損害金は考慮しない。
事例の日時によらず,試験実施時に施行されている法令で解答する。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 答えるべき到達点 |
|---|---|---|---|
| 設問1 | 三つの場合のB社の相殺 | 譲受け・委託保証・無委託保証は独立。 | 債権分類,開始前原因と相殺禁止・類推を検討する。 |
| 設問2 | E銀行の最後配当 | 甲乙を区別。中間配当・開始後利息損害金は除外。 | 参加手続,配当基礎額と残債権額を分けて計算する。 |
第4 評価項目と重み
1 設問1共通
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 各自働債権の破産債権該当性を,2条5項の開始前原因を基準に説明する。 | 4 | PDF22頁・設問1共通(「破産債権」) | PDF1頁・設問1共通(自働債権が破産債権に当たること) |
| 2 | C社の届出の有無を,債権の性質上の破産債権該当性と混同しない。 | 2 | 記載なし | PDF2頁・設問1共通(ある債権が性質上破産債権とされることとは区別) |
| 3 | 67条1項の相殺保障を原則として示し,72条の禁止をその制限に位置付ける。 | 4 | PDF22頁・設問1共通(原則として相殺が可能である) | PDF1頁・設問1共通(相殺権の保障の原則に対する制限) |
2 設問1(1)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 4 | 開始後に譲り受けても,原材料売買の開始前原因がある債権②は破産債権であると説明する。 | 4 | PDF22頁・設問1(1)(譲り受けた売掛金債権) | PDF2頁・設問1(1)(破産手続開始前に生じた売掛金債権) |
| 5 | 11月1日の取得を72条1項1号の開始後の「他人の」破産債権取得へ当てはめる。 | 4 | PDF22頁・設問1(1)(自働債権が「他人の」債権) | PDF2頁・設問1(1)(評価に差が付く結果となった) |
| 6 | 開始後の相殺適状作出が債権者平等を害するという1号の禁止趣旨を述べる。 | 4 | PDF22頁・設問1(1)(相殺禁止の趣旨に言及しつつ) | PDF2頁・設問1(1)(相殺禁止の趣旨に言及しつつ) |
| 7 | 72条2項の例外が1項1号には及ばないことを区別する。 | 5 | 記載なし | PDF3頁・設問1(2)(1号と2~4号の条文構造の違い) |
| 8 | 原則と禁止の一般論を過大に展開して,保証求償の検討を手薄にしない。 | 2 | PDF22頁・設問1(1)(淡々と論ずる) | PDF2頁・設問1(1)(本来厚く論ずべき事項の検討が手薄) |
| 9 | 動産売買先取特権の有無を,本小問の相殺判断と無関係に論じ広げない。 | 2 | 記載なし | PDF2頁・設問1(1)(本小問との関係では特段の意味を持たない) |
3 設問1(2)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 10 | 委託保証の開始前の保証関係を原因として,事後求償権を破産債権に分類する。 | 4 | PDF22頁・設問1(2)(求償権の発生の基礎となる保証関係) | PDF2頁・設問1(2)(同債権が「破産債権」に当たり) |
| 11 | 開始時の求償権を,弁済を条件に現実化する停止条件付権利として把握する。 | 4 | 記載なし | PDF2頁・設問1(2)(「停止条件付権利」) |
| 12 | 条件成就前に受働債務を弁済するときは,70条による弁済額の寄託請求で相殺期待を保全できると示す。 | 4 | 記載なし | PDF2頁・設問1(2)(破産法第70条を摘示) |
| 13 | 自働債権はB社固有の求償権なので,72条1項1号の直接適用がないと説明する。 | 4 | 間接:PDF22頁・設問1(2)(事後求償権を自働債権とする相殺) | PDF2頁・設問1(2)(「他人の」破産債権を取得したものではない) |
| 14 | 委託保証の相殺期待を合理的として保護し,1号の類推適用を否定する。 | 5 | PDF22頁・設問1(2)(相殺に対する期待) | PDF2頁・設問1(2)(相殺への期待は合理的なもの) |
| 15 | 開始前の主債務者の委託により予定された求償関係だから,他の債権者も相殺を容認すべきだと理由付ける。 | 4 | 記載なし | PDF2頁・設問1(2)(他の破産債権者においても相殺を容認すべき理由) |
| 16 | 開始後の弁済を取得と扱い,72条1項2~4号と2項の例外だけで相殺を認める説明をしない。 | 2 | 記載なし | PDF2頁・設問1(2)(第2号以下の規律を検討することにはならない) |
| 17 | 求償権の相殺を,弁済者代位による原債権の相殺へ置き換えない。 | 2 | 記載なし | PDF3頁・設問1(2)(原債権を自働債権とする相殺の可否) |
| 18 | B社とC社がグループ会社であるという事情だけで相殺権濫用を認めない。 | 2 | 記載なし | PDF3頁・設問1(2)(B社とC社とはグループ会社) |
4 設問1(3)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | 無委託でも開始前保証関係を原因として,開始後弁済による求償権を破産債権に分類する。 | 4 | PDF22頁・設問1(3)(無委託保証人の事後求償権は「破産債権」) | PDF3頁・設問1(3)(無委託保証人の求償権も破産債権) |
| 20 | 無委託保証の求償権も固有権なので,72条1項1号を直接適用できないと明示する。 | 4 | 間接:PDF22頁・設問1(3)(第1号の類推適用) | PDF3頁・設問1(3)(同項第1号の直接適用はできない) |
| 21 | 主債務者の意思と無関係に優先回収可能な債権を作出するため,合理的期待を否定する。 | 5 | PDF22頁・設問1(3)(相殺に対する期待) | PDF3頁・設問1(3)(破産者の意思や法定の原因とは無関係) |
| 22 | A社が保証を全く知らなかった事実を用い,委託保証との期待保護の違いを示す。 | 4 | PDF22頁・設問1(3)(主債務者による委託の有無という違い) | PDF3頁・設問1(3)(委託保証人(小問⑵)との比較) |
| 23 | 開始後の債権行使者の入替えによる相殺適状作出が,開始後譲受けと類似することを説明する。 | 4 | 間接:PDF22頁・設問1(3)(第1号の類推適用) | PDF3頁・設問1(3)(破産債権を行使する者が入れ替わった結果) |
| 24 | 判例に沿う構成では72条1項1号の類推適用により相殺を否定する。 | 5 | PDF22頁・設問1(3)(第1号の類推適用により許されない) | PDF3頁・設問1(3)(第1号の類推適用により、相殺権の行使が禁止) |
| 25 | 平成24年5月28日判決と自説の関係を示し,判例の法理へ言及する。 | 4 | PDF22頁・設問1(3)(最判平成24年5月28日) | PDF3頁・設問1(3)(まずは判例の考え方に言及) |
| 26 | 判例と異なる構成を採る場合は,判例を踏まえ,委託差の法的意味を説明して自説を一貫させる。 | 4 | PDF22頁・設問1(3)(必ずしも上記判例の考え方、結論に依拠する必要はない) | PDF3頁・設問1(3)(判例とは異なる考え方、結論を採るのであれば) |
5 設問1(2)(3)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 27 | 委託の有無による分類と相殺判断について,両小問の理論的整合性を保つ。 | 5 | PDF23頁・設問1(2)(3)(両小問間における理論的整合性) | PDF3頁・設問1(2)(3)(理論的整合性に対する意識が乏しい) |
6 設問2(1)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 28 | A社所有の乙建物の抵当権を2条9項の別除権に分類する。 | 3 | PDF23頁・設問2(1)(破産者所有の乙建物) | PDF4頁・設問2(1)(第2条第9項) |
| 29 | 65条1項により抵当権を破産手続外で行使できると説明する。 | 3 | PDF23頁・設問2(1)(同法第65条第1項) | PDF4頁・設問2(1)(破産手続によらないで行使) |
| 30 | 108条1項による不足額責任主義の内容を述べる。 | 4 | PDF23頁・設問2(1)(弁済を受けることができない債権の額についてのみ) | PDF4頁・設問2(1)(不足額責任主義の内容) |
| 31 | 108条の65条2項参照を理由に,乙の抵当権を65条2項の別除権と誤分類しない。 | 4 | 記載なし | PDF4頁・設問2(1)(同条第2項の別除権に当たる) |
| 32 | 最後配当の除斥期間内に証明をする必要を示す。 | 4 | PDF23頁・設問2(1)(最後配当に関する除斥期間内) | PDF4頁・設問2(1)(最後配当に関する除斥期間内) |
| 33 | 198条3項の証明の相手方を破産管財人Xとする。 | 3 | PDF23頁・設問2(1)(破産管財人に対し) | PDF4頁・設問2(1)(破産管財人に対し) |
| 34 | 【許容分岐】開始後に全部又は一部が担保されなくなったことを証明する参加方法を示す。 | 4 | PDF23頁・設問2(1)(担保されないこととなったことを証明) | PDF4頁・設問2(1)(担保されないこととなったことを証明) |
| 35 | 198条3項に基づき,担保実行で弁済を受けられない債権額を証明する参加方法を示す。 | 4 | PDF23頁・設問2(1)(弁済を受けることができない債権の額を証明) | PDF4頁・設問2(1)(弁済を受けることができない債権の額を証明) |
| 36 | 確定不足額の証拠資料として,担保不動産競売の配当表の提出を示す。 | 3 | 記載なし | PDF4頁・設問2(1)(担保不動産競売手続における配当表) |
| 37 | 届出済みという前提を保持し,111条の届出方法の再説明を中心にしない。 | 2 | 記載なし | PDF4頁・設問2(1)(評価の対象とはしていない) |
7 設問2(2)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 38 | 甲土地と乙建物の所有主体・財団帰属を区別し,5000万円を一括処理しない。 | 5 | PDF23頁・設問2(2)(配当額とを区別して検討) | PDF5頁・設問2(2)(評価に大きな差が生ずる) |
| 39 | 乙建物の売却代金からの1000万円を,108条1項により控除する。 | 4 | PDF23頁・設問2(2)(1000万円) | PDF4頁・設問2(2)(1000万円) |
| 40 | 乙の控除を,別除権回収後の不足部分だけ破産債権として扱うという趣旨で説明する。 | 4 | PDF23頁・設問2(2)(不足額責任主義の内容とその趣旨) | PDF4頁・設問2(2)(不足額責任主義の内容とその趣旨) |
| 41 | Dを自己所有の甲土地でA社の債務を担保した物上保証人とする。 | 3 | PDF23頁・設問2(2)(物上保証人所有の甲土地) | PDF4頁・設問2(2)(その所有者Dは物上保証人) |
| 42 | 104条5項により2項を準用し,物上保証人の開始後弁済も開始時現存額主義で処理する。 | 5 | PDF23頁・設問2(2)(第104条第5項が準用する同条第2項) | PDF4頁・設問2(2)(第104条第5項が準用する同条第2項) |
| 43 | 甲の4000万円で全額が消滅していないため,その額を配当基礎から控除しない。 | 4 | PDF23頁・設問2(2)(被担保債権の全額は消滅していない) | PDF4頁・設問2(2)(被担保債権の全額は消滅していない) |
| 44 | 開始時現存額主義の趣旨を,担保の利益の確保と債権者・求償権者の参加調整に結び付ける。 | 4 | PDF23頁・設問2(2)(開始時現存額主義) | PDF4頁・設問2(2)(開始時現存額主義の内容及びその趣旨) |
| 45 | 配当の計算基礎を,8000万円から乙の1000万円だけを引いた7000万円と算定する。 | 5 | 間接:PDF23頁・設問2(2)(1000万円) | PDF5頁・設問2(2)(7000万円) |
| 46 | 債権者平等という一般論だけで104条の明文を排除し,甲の4000万円まで控除しない。 | 4 | 記載なし | PDF5頁・設問2(2)(開始時現存額主義は妥当しない) |
8 重みの分布
重み1=0件,重み2=7件,重み3=5件,重み4=26件,重み5=8件。
総項目数N=46,重み合計W=173である。
この合計は単純合計であり,公式得点・難易度・合格可能性や全答案に要求する達成率へ換算しない。
主な評価項目の番号1は,自働債権の手続分類を省略すると不良とされる入口である。
番号5は「他人の」破産債権の取得という文言で保証求償権との差を把握する分かれ目である。
番号38は,甲乙の所有者と財団帰属を区別する計算構造であり,採点実感が大きな評価差を指摘している。
重み5の項目は,番号7,番号14,番号21,番号24,番号27,番号38,番号42,番号45の8項目である。
各項目の具体的な適用条件は評価表に従い,不採用の別構成を累積要求しない。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施日の令和4年5月11日時点の法令と,それ以前の裁判例に基づく。
次の答案は空白及び改行を除いて2228字であり,指定の2500字以内である。
相殺の無委託保証については平成24年5月28日最高裁判決の法廷意見に沿う構成を採る。
公式資料は異なる構成も排除していないが,その場合は判例への言及と一貫した理由付けが必要となる。
2 答案
1 設問1について
(1) B社が債権②を譲り受けた場合
破産債権とは,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権で,財団債権に該当しないものをいう(破産法2条5項。
以下,同法の条番号のみを示す。
)。
債権②は,開始前の原材料の売買に基づく債権である。
開始後に譲渡されても債権自体の発生原因は変わらず,B社が取得した債権②は破産債権である。
67条1項は,相殺の担保的機能に対する合理的期待を保護するため,開始時に破産者に対して債務を負担する破産債権者の相殺を認める。
しかし,開始後の他人の破産債権の取得による相殺は,開始時に存在しなかった相殺適状を作出し,債権者平等を害するため,72条1項1号が禁止する。
B社は,開始決定後の11月1日にC社から債権②を取得しているから,同号により相殺できない。
72条2項の例外は同条1項2号から4号についてのもので,1号には及ばない。
B社は500万円を支払う必要がある。
(2) 委託保証に基づく求償権の場合
B社は保証債務を全額弁済したから,民法459条1項によりA社に対する求償権を取得する。
弁済は開始後でも,求償権の基礎となるA社の委託及び保証契約は3月1日に存在したので,開始前の原因に基づく破産債権である。
開始時には弁済を停止条件とする求償権を既に取得しており,C社が届け出ていないため,B社による将来求償権の手続参加は104条3項ただし書で妨げられない。
求償権はB社固有の権利であり,他人の破産債権の取得ではないから,72条1項1号は直接適用されない。
開始前のA社の委託に基づく保証は,A社の意思により将来の求償関係を予定したものである。
B社の相殺への期待は合理的で,他の債権者も容認すべきものであるため,同号の類推適用もない。
弁済による条件成就は既存権利の現実化であり,開始後に初めて権利を取得したとして72条2項の例外へ回すのは適切でない。
したがって,11月1日の全額弁済により現実化した求償権400万円を自働債権とし,開始時から負担している債権①の債務と67条1項により相殺できる。
残債務は100万円である。
条件成就前は求償権を直ちに相殺に用いることはできないが,B社が受働債務を弁済するなら,後の相殺のため求償権額の限度で弁済額の寄託を請求できる(70条)。
(3) 無委託保証に基づく求償権の場合
無委託保証人も,弁済によって民法462条に基づく求償権を取得する。
3月1日の保証契約がその発生の基礎となるから,開始後の弁済で発生した求償権も破産債権である。
C社の届出がないことによる手続参加の扱いは(2)と同じである。
もっとも,破産債権であることから相殺の許容まで当然には導けない。
固有の求償権であるため72条1項1号の直接適用はないが,A社は保証契約の存在を全く知らなかった。
相殺を認めると,A社の意思と無関係に優先回収可能な債権を作出できる。
開始後に破産債権を行使する者が入れ替わって相殺適状を生む点で,開始後の他人の破産債権の取得と同様に債権者平等を害し,保護すべき合理的期待もない。
そこで,72条1項1号を類推適用して相殺を否定する(最判平成24年5月28日)。
B社は500万円を支払う必要があり,求償権は破産債権として行使する。
2 設問2について
(1) 最後配当に参加する手続
乙建物はA社の所有物で破産財団に属し,E銀行の抵当権は別除権となる(2条9項,65条1項)。
E銀行はこれを破産手続によらず行使できる。
E銀行は別除権の行使で弁済を受けられない不足額についてのみ破産債権者として権利を行使できる(108条1項)。
本問では債権届出済みであるが,最後配当に参加するには以下の証明を要する。
E銀行は,最後配当に関する公告が効力を生じた日又は197条3項の届出の日から起算して2週間の除斥期間内に,Xに対し,抵当権の行使によって弁済を受けることができない債権額を証明する必要がある(198条1項・3項)。
競売が完了すれば,競売手続の配当表を提出して確定不足額を証明することが考えられる。
別除権を放棄するなどして全部又は一部が開始後に担保されなくなったことを同期間内に証明する方法もある。
証明があればXは配当表を更正する(199条1項3号)。
中間配当と異なり,処分への着手と不足額の疎明だけでは足りない。
(2) 配当計算の基礎となる額
乙建物からの1000万円は破産財団に属する財産についての別除権行使による弁済である。
抵当権で回収する部分について破産財団からも配当を受ければ,一般債権者の引当財産を減少させるため,108条1項の不足額責任主義により開始時の8000万円から控除する。
これに対し,甲土地はD所有で,A社の破産財団に属しない。
Dは物上保証人である。
破産開始後に物上保証人の財産から弁済を受けても,全額が消滅しない限り,債権者は開始時の債権全額を基礎に権利を行使できる(104条2項・5項)。
担保設定により確保した回収上の利益を維持し,債権者が全部の満足を受けるまで物上保証人の求償権行使を後退させるためであり,Dの将来求償権との重複参加は同条3項・4項の準用により調整される。
したがって,甲土地からの4000万円は控除せず,計算の基礎となる額は,8000万円-1000万円=7000万円である。
この7000万円は配当計算の基礎となる額であり,実体法上の残債権額3000万円とは異なる。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
評価項目と答案の対応表
評価項目の番号と答案の参照箇所を示す。
各番号の重み・具体的な適用条件は評価表に従い,採用しない別構成を一律に要求しない。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | 各自働債権の破産債権該当性を,2条5項の開始前原因を基準に説明する。 | 答案1(1)~(3) |
| 3 | 4 | 67条1項の相殺保障を原則として示し,72条の禁止をその制限に位置付ける。 | 答案1(1)~(3) |
| 4 | 4 | 開始後に譲り受けても,原材料売買の開始前原因がある債権②は破産債権であると説明する。 | 答案1(1) |
| 5 | 4 | 11月1日の取得を72条1項1号の開始後の「他人の」破産債権取得へ当てはめる。 | 答案1(1) |
| 6 | 4 | 開始後の相殺適状作出が債権者平等を害するという1号の禁止趣旨を述べる。 | 答案1(1) |
| 10 | 4 | 委託保証の開始前の保証関係を原因として,事後求償権を破産債権に分類する。 | 答案1(2) |
| 13 | 4 | 自働債権はB社固有の求償権なので,72条1項1号の直接適用がないと説明する。 | 答案1(2) |
| 14 | 5 | 委託保証の相殺期待を合理的として保護し,1号の類推適用を否定する。 | 答案1(2) |
| 19 | 4 | 無委託でも開始前保証関係を原因として,開始後弁済による求償権を破産債権に分類する。 | 答案1(3) |
| 20 | 4 | 無委託保証の求償権も固有権なので,72条1項1号を直接適用できないと明示する。 | 答案1(3) |
| 21 | 5 | 主債務者の意思と無関係に優先回収可能な債権を作出するため,合理的期待を否定する。 | 答案1(3) |
| 22 | 4 | A社が保証を全く知らなかった事実を用い,委託保証との期待保護の違いを示す。 | 答案1(3) |
| 23 | 4 | 開始後の債権行使者の入替えによる相殺適状作出が,開始後譲受けと類似することを説明する。 | 答案1(3) |
| 24 | 5 | 判例に沿う構成では72条1項1号の類推適用により相殺を否定する。 | 答案1(3) |
| 25 | 4 | 平成24年5月28日判決と自説の関係を示し,判例の法理へ言及する。 | 答案1(3) |
| 26 | 4 | 判例と異なる構成を採る場合は,判例を踏まえ,委託差の法的意味を説明して自説を一貫させる。 | 答案1(3)。判例と異なる相殺構成を選ぶ場合のみ。 |
| 27 | 5 | 委託の有無による分類と相殺判断について,両小問の理論的整合性を保つ。 | 答案1(2)・(3) |
| 28 | 3 | A社所有の乙建物の抵当権を2条9項の別除権に分類する。 | 答案2(1) |
| 29 | 3 | 65条1項により抵当権を破産手続外で行使できると説明する。 | 答案2(1) |
| 30 | 4 | 108条1項による不足額責任主義の内容を述べる。 | 答案2(1) |
| 32 | 4 | 最後配当の除斥期間内に証明をする必要を示す。 | 答案2(1) |
| 33 | 3 | 198条3項の証明の相手方を破産管財人Xとする。 | 答案2(1) |
| 34 | 4 | 【許容分岐】開始後に全部又は一部が担保されなくなったことを証明する参加方法を示す。 | 答案2(1)。条件・構成の選択は評価項目欄及び従来の解説による。別構成を累積要求しない。 |
| 35 | 4 | 198条3項に基づき,担保実行で弁済を受けられない債権額を証明する参加方法を示す。 | 答案2(1) |
| 38 | 5 | 甲土地と乙建物の所有主体・財団帰属を区別し,5000万円を一括処理しない。 | 答案2(2) |
| 39 | 4 | 乙建物の売却代金からの1000万円を,108条1項により控除する。 | 答案2(2) |
| 40 | 4 | 乙の控除を,別除権回収後の不足部分だけ破産債権として扱うという趣旨で説明する。 | 答案2(2) |
| 41 | 3 | Dを自己所有の甲土地でA社の債務を担保した物上保証人とする。 | 答案2(2) |
| 42 | 5 | 104条5項により2項を準用し,物上保証人の開始後弁済も開始時現存額主義で処理する。 | 答案2(2) |
| 43 | 4 | 甲の4000万円で全額が消滅していないため,その額を配当基礎から控除しない。 | 答案2(2) |
| 44 | 4 | 開始時現存額主義の趣旨を,担保の利益の確保と債権者・求償権者の参加調整に結び付ける。 | 答案2(2) |
| 45 | 5 | 配当の計算基礎を,8000万円から乙の1000万円だけを引いた7000万円と算定する。 | 答案2(2) |
(1) 答案と評価項目の対応
設問1の各冒頭が番号1・4・10・19の債権分類を担う。
譲受けと固有求償権の区別は番号5・13・20,委託の有無と合理的期待の比較は番号14・15・21~24に対応する。
設問2の手続は番号28~36,甲乙を分ける計算は番号38~45に対応する。
誤りの回避及び許容分岐の項目は,枠内で全文を逐一論ずる要求ではない。
(2) 保証求償権の取得と現実化
破産債権の性質と相殺の許否を分けることが,番号1と番号5の骨格である。
委託保証では,開始前の保証関係に基づく停止条件付求償権を,後の弁済により現実化させる。
弁済を新たな取得と見て72条1項2~4号及び2項へ回す説明は,番号16の負例に当たる。
番号12の70条は条件成就前の保全手段であり,本件の弁済後の相殺を認める直接根拠と混同しない。
(3) 無委託保証と許容される別構成
無委託保証でも,保証契約が開始前に存在することから,判例は求償権を破産債権とする。
その上で,A社の意思に基づかない優先債権の作出と,債権行使者の入替えによる相殺適状の形成を理由に,72条1項1号を類推する。
判例と異なって相殺を認める構成や,破産債権性を否定する構成も公式資料上は許容されるが,単に結論を置き換えるだけでは番号26・27を満たさない。
(4) 配当参加と甲乙の別扱い
最後配当への参加では,期間,相手方,証明対象を揃え,競売配当表の提出まで具体化する。
198条3項の不足額証明と,中間配当における210条の着手・疎明を混同しない。
甲土地は物上保証人Dの財産,乙建物はA社の破産財団なので,担保が共同で設定されていても同じ控除にはならない。
開始時現存額主義による配当基礎7000万円と,実体法上の残債権額3000万円を区別する。
最高裁平成29年9月12日決定は,開始後の物上保証人の一部弁済について,残債権額を超える配当を許容し,超過部分も当該債権について配当すべきであるとした。
配当後に求償権者へ不当利得として超過部分相当額を返還すべき義務を負うかは別の問題であり,残債権額をそのまま破産配当の上限にしてはならない。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
高評価事項を全て厚く書けばよいものではなく,停止条件と70条の説明は簡潔に置く。
本問では求償権400万円の成立が指定されているので,主債務の弁済期に関する事実を補ってその成立を再争点化しない。
競売の適法性,法定地上権,否認及び動産売買先取特権の処遇は,直接問われた相殺・配当の説明へ不要に加えない。
届出の有無と破産債権性,貸金債権と別除権である抵当権も区別する。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和4年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目(AI作成)
②令和4年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答と評価項目(AI作成)を参照されたい。
③令和4年度司法試験倒産法第2問の模範解答と評価項目―公式資料から抽出した39項目と5段階の重み付け(AI作成)
④令和4年度司法試験租税法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した36項目と5段階の重み付け(AI作成)
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- ②令和6年度司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
- ③令和5年司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―44項目と5段階の重み付け(AI作成)
- ④令和3年司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した38項目と5段階の重み付け(AI作成)
3 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①令和5年司法試験倒産法第1問の模範解答と評価項目―44項目と5段階の重み付け(AI作成)も参照されたい。
②破産・民事再生で相殺できるか―相殺禁止,危機時期前の原因及び三者間相殺(AI作成)
③抵当権を持つ債権者の破産債権届出―不足額責任主義,届出書の書き方,中間配当・最後配当で必要な証明(AI作成)
④破産手続開始後に保証人・物上保証人から一部弁済を受けた場合の届出債権額と配当―破産法104条(AI作成)
⑤法人の貸倒損失の計上基準―法人税・消費税(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和4年司法試験問題・選択科目:PDF2~3頁の倒産法第1問。
②令和4年司法試験論文式試験問題出題の趣旨:PDF22頁の第1問から23頁の第2問直前。
③令和4年司法試験の採点実感・選択科目:倒産法のPDF1頁の関係総論及び第1問,2~4頁,5頁第2問直前,8~9頁の共通総括。
④令和4年司法試験の実施日程:選択科目実施日は令和4年5月11日。
2 法令
破産法の令和3年4月28日施行版,民法の令和4年4月1日施行版を,法令APIの令和4年5月11日時点指定で確認した。
主な確認条文は,破産法2条5項・9項,65条,67条,70条,72条,104条,108条,198条及び民法459条・462条である。
3 裁判例
最高裁平成24年5月28日第二小法廷判決(平成21年(受)第1567号,民集66巻7号3123頁)を確認した。
法廷意見のPDF1~8頁を使用し,補足意見の独自の理由を法廷意見の理由へ混ぜていない。
最高裁平成29年9月12日第三小法廷決定(平成29年(許)第3号)も,配当基礎と残債権額,超過配当及び求償権者との清算を区別するために確認した。
法廷意見はPDF1~4頁,直接の根拠は理由4のPDF3~4頁であり,木内道祥裁判官の補足意見と区別する。
4 確認状態
| 資料 | 状態 | 確認範囲・留保 |
|---|---|---|
| 問題 | 実読済み | 原記事の資料記録に基づく。今回,新たな公式資料の閲覧はしていない。 |
| 出題の趣旨 | 実読済み | 原記事の確認記録に基づく。対象の版・頁・関連範囲は原記事から保持した記録による。 |
| 採点実感 | 実読済み | 原記事の確認記録に基づく。関連範囲,資料間の相違と未確認部分の留保は原記事から保持した記録による。 |
法令・判決原文で直接確認した命題,公式資料が述べる評価要求,本件への当てはめ及び本記事独自の重み付けは区別している。
評価項目は公式資料から独自に原子化したものであり,法務省が公表した項目別採点表ではない。
合冊PDFの別問題・別科目は,本問の根拠に用いていない。
条文番号の誤記や「対等額」と「対当額」の取り違えを避け,引用する条文と自説との対応を確認する必要がある。