令和5年司法試験の倒産法第1問を,破産財団,自由財産及び財産分与の処理から検討する。
公式の出題の趣旨・採点実感から抽出した44項目と,2500字以内の参考答案を示す。
重みは復習の優先順位を示す独自の目安であり,公式配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は令和5年司法試験の選択科目・倒産法第1問であり,基準時は試験実施日の令和5年7月12日である。
国外雑貨と死亡保険金は破産財団に属し,現金90万円と開始後に相続した預金600万円は財団に属しない。
医療保険を残すためには自由財産拡張と,返戻金相当額の組入れに伴う請求権放棄を区別して検討する。
財産分与による不動産の登記請求は取戻権と対抗要件の問題であり,未登記のDはXに所有権移転を対抗できない。
相当な分与合意に基づく150万円の支払は偏頗行為否認の問題であり,本記事の答案は有害性・不当性の阻却を否定する構成を採る。
最後の点では,公式資料も肯定・否定の両構成を許容し,説得的な論証を求めている。
本記事の答案及び評価項目は,法務省の公式答案又は公式採点基準ではない。
判例・条文を確認した範囲と,公式資料の紹介に依拠する範囲は第7に示す。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 5段階の意味
重み5は採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格,4は出題の趣旨が検討を求め採点実感も取り上げた事項,3は一方が明示する中核の理由付け,2は一方が軽く触れる補強又は典型的誤り,1は控えめな事項である。
本記事の重み4は「両資料で具体的に取り上げる」を基準とし,すべてが高評価事項であるという意味ではない。
必須,高評価,負例及び許容分岐は重みと別の区分である。
負例は避けるべき記載を示し,条件付き分岐はその立場を採る答案にだけ適用する。
一般的な答案作法と,公式資料にない補足には重みを付けず,項目数へ含めない。
2 項目数と分布
公開表の通し番号は1~44であり,内部追跡IDとは別に管理する。
重み1は0件,2は13件,3は10件,4は12件,5は9件で,項目数Nは44,重み合計Wは149である。
N=n1+n2+n3+n4+n5,W=n1+2n2+3n3+4n4+5n5として表の実際の行から計算した。
3 重み5の読み方
番号1は「破産財団の定義を2条14項により示す。」であり,必須に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号2は「34条1項により開始決定時に財団範囲を固定する。」であり,必須に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号9は「開始前の契約・受取人指定による死亡保険金請求権を34条2項の将来請求権として検討する。」であり,必須に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号14は「BがAを代理して34条4項の自由財産拡張を申し立てる手段を示す。」であり,必須に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号18は「返戻金相当額40万円の財団組入れと引換えに,Xへ解約返戻金請求権の放棄を申し入れる。」であり,高評価に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号23は「Dの所有権に基づく登記請求を62条の取戻権行使として位置付ける。」であり,必須に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号24は「民法177条の第三者性とDの登記欠缺を検討し,Xに取戻権を行使できないと結論付ける。」であり,必須に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号32は「相当な財産分与合意に基づく既存金銭債務の弁済を162条1項1号の偏頗行為否認として検討する。」であり,必須に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
番号37は「Dの清算性の反論を有害性と不当性に分けて論じる。」であり,高評価に分類した。
適用条件は「本問の当該設問に適用」である。
第3 本問の概要
1 設問1
個人事業主Aは令和4年4月1日に破産を申し立て,同月10日に開始決定を受け,Xが管財人となった。
小問⑴では,P国で保管されるA所有の雑貨500万円,現金90万円,開始後の父C死亡により相続した預金600万円及び10年前の契約でAを受取人とする死亡保険金1000万円の帰属を問う。
小問⑵では,開始時の解約返戻金40万円の医療保険について,4月30日にXが解約予定を通知した。
Aには持病があり,就職もできず,再加入すると保険料が高くなるため,代理人Bが債権者の利益も考慮して複数の手段を検討する。
2 設問2
Aは2月1日にDと離婚し,清算的財産分与として甲不動産の移転と150万円の支払を合意し,3月1日に金銭を支払った。
開始時にも甲の登記はA名義で,Dだけが居住している。
小問⑴は登記請求に対するXの応答,小問⑵は本件支払の否認とDの清算性を理由とする反論を問う。
小問⑵では分与の相当性と,Dが合意時にAの支払不能を知っていたことが指定されている。
扶養・慰謝料としての性質は,指定された清算性の反論を置き換える理由にはならない。
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 【必須】破産財団の定義を2条14項により示す。 | 5 | 19頁「破産法第2条第14項」 | 1頁「破産法第2条第14項」 |
| 2 | 【必須】34条1項により開始決定時に財団範囲を固定する。 | 5 | 19頁「破産財団の範囲」 | 1頁「破産財団の範囲」 |
| 3 | 【必須】34条1項括弧書きにより国外のA所有雑貨500万円も財団に属する。 | 4 | 19頁「財産が日本国内にあることを問わない」 | 1頁「財産が日本国内にあることを問わない」 |
| 4 | 【必須】自由財産の現金上限を66万円×1.5=99万円とし,90万円全額を除外する。 | 4 | 19頁「1.5倍相当額の金銭」 | 1頁「90万円全額が自由財産」 |
| 5 | 【必須】支払不能による生活維持の必要から通常執行の1.5倍を保護する趣旨を説明する。 | 4 | 19頁「その趣旨を指摘」 | 2頁「民事執行法上の差押禁止に係る金銭の1.5倍の額」 |
| 6 | 【必須】開始後のC死亡により取得した相続預金600万円を新得財産として除外する。 | 4 | 19頁「新得財産として破産財団から除外」 | 2頁「新得財産として破産財団から除外」 |
| 7 | 【負例】相続財産についての破産と,破産者が相続した財産の帰属を混同しない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 2頁「相続財産について破産手続が開始される場面」 |
| 8 | 【負例】相続開始後取得の預金を,将来請求権の該当性として無益に詳論しない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 2頁「あえて論ずる必要はない」 |
| 9 | 【必須】開始前の契約・受取人指定による死亡保険金請求権を34条2項の将来請求権として検討する。 | 5 | 19頁「将来の請求権」 | 2頁「将来の請求権」 |
| 10 | 【必須】開始時点ではC死亡の停止条件が未成就であることを明示する。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 2頁「停止条件が成就していないことを明示」 |
| 11 | 【高評価】事故が開始後であるため新得財産とする反対構成を検討する。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 2頁「反対説に配慮するものとして高い評価」 |
| 12 | 【高評価】最判平成28年4月28日の処分・差押可能性と財産的価値を論拠にする。 | 4 | 19頁「一定の財産的価値」 | 2頁「一定の財産的価値」 |
| 13 | 【許容分岐】判例と異なる構成を採る場合,判例の考え方に応答した説得的理由を示す。 条件:34条2項該当性を否定する構成を採る答案だけ。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 2頁「まずは判例の考え方に言及」 |
2 設問1⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 14 | 【必須】BがAを代理して34条4項の自由財産拡張を申し立てる手段を示す。 | 5 | 19頁「自由財産の拡張の申立て」 | 2頁「自由財産の拡張の申立て」 |
| 15 | 【必須】拡張は裁判所の裁量であり,法定考慮要素と破産債権者の利益を衡量する。 | 4 | 19頁「裁量的に判断する」 | 2頁「裁量的に判断する」 |
| 16 | 【高評価】持病・失職等と,現金90万円・新得預金600万円の双方を評価し,拡張困難を論じる。 | 4 | 19頁「現金90万円を有している」 | 2頁「現金90万円を有している」 |
| 17 | 【高評価】開始決定時から決定確定日以後1月を経過する日までという申立期間を示す。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 2頁「1か月の期間制限」 |
| 18 | 【高評価】返戻金相当額40万円の財団組入れと引換えに,Xへ解約返戻金請求権の放棄を申し入れる。 | 5 | 19頁「破産財団から放棄することを申し入れる」 | 3頁「破産財団から放棄することを申し入れる」 |
| 19 | 【必須】Bは申立て・申入れ,裁判所は拡張判断,Xは財団からの放棄と役割を分ける。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 3頁「誰が何を行うのか」 |
| 20 | 【負例】再加入時の保険料増額を破産財団の損失と扱わない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 3頁「破産財団を毀損することにつながる」 |
| 21 | 【負例】保険解約の検討だけから善管注意義務違反・X解任へ進まない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 3頁「破産管財人を解任すべきである」 |
| 22 | 【負例】開始後の救済として保全管理命令・包括的禁止命令を申し立てない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 3頁「保全管理命令や包括的禁止命令」 |
3 設問2⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | 【必須】Dの所有権に基づく登記請求を62条の取戻権行使として位置付ける。 | 5 | 20頁「破産法第62条」 | 3頁「破産法第62条」 |
| 24 | 【必須】民法177条の第三者性とDの登記欠缺を検討し,Xに取戻権を行使できないと結論付ける。 | 5 | 20頁「民法第177条」 | 3頁「民法第177条」 |
| 25 | 【必須】Xの第三者性を差押債権者類似の地位から説明する。 | 4 | 20頁「差押債権者と類似の地位」 | 3頁「差押債権者類似の地位」 |
| 26 | 【高評価】78条1項の管理処分権専属を実質的な包括差押えと説明する。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 3頁「実質的な包括差押え」 |
| 27 | 【高評価】Dの潜在的持分顕在化・対抗要件不要の再反論を民法254条も参照して示す。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 3頁「民法第254条参照」 |
| 28 | 【高評価】財産分与は協議・裁判による権利移転であり特定承継と同様との再々反論を示す。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 3頁「財産の特定承継と同様」 |
| 29 | 【負例】物権的取戻請求の検討を,破産債権としての登記請求権行使に置き換えない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「破産債権としての権利行使の可否」 |
| 30 | 【負例】開始後になされた登記の効力を定める49条を,登記請求の可否に直接適用しない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「破産法第49条第1項」 |
| 31 | 【負例】未登記の本問を詐害・無償・対抗要件否認による財団回復の問題にしない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「対抗要件否認」 |
4 設問2⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 32 | 【必須】相当な財産分与合意に基づく既存金銭債務の弁済を162条1項1号の偏頗行為否認として検討する。 | 5 | 20頁「偏頗行為否認」 | 1頁「偏頗行為否認」 |
| 33 | 【必須】支払による債務消滅,支払時の支払不能,Dの悪意等の要件を順次事実に当てはめる。 | 4 | 20頁「要件該当性を順次検討」 | 4頁「要件該当性を順次検討」 |
| 34 | 【負例】本件支払を160条1項の詐害行為否認そのものと扱わない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「詐害行為否認の問題とはならない」 |
| 35 | 【負例】本件支払を贈与と同じ無償行為として160条3項で処理しない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「同条第3項の無償行為否認」 |
| 36 | 【負例】Dへの支払をAが相当対価を得た処分と誤認し,161条で処理しない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「同法第161条」 |
| 37 | 【高評価】Dの清算性の反論を有害性と不当性に分けて論じる。 | 5 | 20頁「有害性又は不当性」 | 4頁「有害性の要件と不当性の要件」 |
| 38 | 【高評価】有害性阻却の反論として,清算的支払を取戻権行使相当と捉える主張に答える。 | 4 | 20頁「取戻権に該当する」 | 4頁「取戻権の行使に該当する」 |
| 39 | 【高評価】最判平成2年9月27日の金銭分与請求は取戻権として履行請求できないとの考え方で応答する。 | 3 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「最判平成2年9月27日」 |
| 40 | 【高評価】有害性阻却の反論として財団債権弁済相当という主張を検討し,財団債権該当性に答える。 | 4 | 20頁「財団債権の弁済」 | 4頁「財団債権の弁済」 |
| 41 | 【高評価】不当性阻却の反論として最判昭和58年12月19日の相当な財産分与の詐害性否定を偏頗行為にも及ぼす考えに答える。 | 4 | 20頁「最判昭和58年12月19日」 | 4頁「最判昭和58年12月19日」 |
| 42 | 【許容分岐】肯定・否定の両結論が許容されることを踏まえ,採用構成を首尾一貫して理由付ける。 条件:肯定又は否定のうち答案が採用した構成だけを評価。 | 3 | 20頁「肯定、否定の両論が考えられる」 | 関連範囲実読・直接記載なし |
| 43 | 【負例】相当な財産分与という一点だけで直ちに否認を否定しない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「直ちに否認権の行使を否定する結論」 |
| 44 | 【負例】指定された共有財産清算の反論を,扶養・慰謝料の性質で置き換えない。 | 2 | 関連範囲実読・直接記載なし | 4頁「評価の対象とはしていない」 |
5 一般的な指摘及び補足
採点実感の7頁~8頁は,条文の文言から出発し,開始前後と制度間の関係を整理して,一貫した解釈と具体的事実から結論を導くことを求めている。
条項の正確な引用,判読できる文章及び論理の一貫性は,個別項目の重み合計とは分けて点検する。
補足として,保険法89条2項の介入権は契約者本人を除外する。
本問のAは契約者本人であるため利用できず,返戻金相当額の組入れに関するXとの協議とは区別する。
この補足は公式資料の44項目には含めていない。
第5 模範解答
1 前提と表記
以下は否認を肯定する構成による参考答案である。
本文は節番号・空白・句読点を含み改行を除いて2123字であり,2500字以内に収めた。
法令・判例は原則として試験実施日時点を基準とし,答案中で破産法の条文は同法と略記する。
2 枠内答案
1 設問1⑴
(1) 破産財団は,破産手続において破産管財人に管理処分権が専属する財産であり(破産法2条14項。
以下,条文は同法),開始時に破産者が有する一切の財産を含み,国内外を問わない(34条1項)。
雑貨は開始時のA所有物なので,P国の販売店が保管していても500万円相当の全部が財団に属する。
(2) 現金は,民事執行法131条3号の66万円の1.5倍である99万円まで自由財産となる(34条3項1号)。
支払不能に陥った破産者の生活維持の必要から,通常の強制執行より広く保護する趣旨である。
90万円は全額が財団に属しない。
(3) 相続はCの死亡により開始する(民法882条)。
開始決定後の4月20日に取得した預金債権600万円は,開始時に財団の範囲を固定する34条1項により新得財産となり,財団に属しない。
(4) 保険金はAが受取人として固有に取得し,相続財産ではない。
死亡が開始後なので新得財産とする考えもある。
しかし,Aは開始前の契約成立・受取人指定により,Cの死亡を停止条件とする請求権を取得している。
開始時には条件未成就でも,死亡前から処分・差押えが可能で財産的価値があるから,34条2項の開始前原因に基づく将来請求権に当たる(最判平成28年4月28日)。
よって1000万円全額が財団に属する。
2 設問1⑵
(1) Bは,Aを代理して裁判所に自由財産拡張を申し立てることができる(34条4項)。
期間は開始決定時から確定日以後1月を経過する日までであり,4月30日には速やかに申立てと解約留保の協議を行うべきである。
裁判所はXの意見を聴き(同条5項),Aの生活状況,自由財産の種類・額,収入の見込み等から必要性を裁量的に判断する。
持病,就職困難,再加入時の保険料の高額化は継続の必要性を示す。
他方,Aには現金90万円と相続預金600万円があり,返戻金40万円を財団に残しても生活・医療を維持する余力がある。
債権者の配当原資を減らす拡張は認められない可能性が高い。
(2) そこで,BはXに対し,自由財産又は新得財産から返戻金相当額40万円を財団へ組み入れる代わりに,解約返戻金請求権を財団から放棄してもらうことを申し入れる。
Xの管理処分権(78条1項)に基づく処理であり,放棄について同条2項12号・3項による許可の要否も確認する。
財団は解約と同額を得て債権者の利益が保たれ,Aは保険を継続できる。
新たな保険料はAが財団外の財産から負担するものであり,その増額を財団の損失と扱ったり,Xの解任理由としたりしてはならない。
保険法89条2項の介入権は契約者本人を除外するので,自らを受取人とするAは行使できず,上記協議とは別である。
3 設問2⑴
(1) Dの主張は,甲が自己に帰属することを理由とする所有権に基づく登記請求を,取戻権として行使しようとするものである(62条)。
しかし,Xは総債権者の利益を代表し,開始による管理処分権の専属(78条1項)は実質的な包括差押えに当たる。
差押債権者類似の地位にあるXは民法177条の第三者であり,未登記のDは所有権移転を対抗できない。
(2) Dは,共同形成した財産の潜在的持分を顕在化させるだけで,新たな物権変動ではなく登記は不要である,と再反論できる(民法254条参照)。
しかし,民法762条の別産制の下では,実質的な寄与のみで甲の物権的共有持分が生じるわけではない。
財産分与は協議又は裁判によって分与者から相手方へ権利を移転するもので,特定承継と同様であるから登記が必要である。
Dの居住も登記を代替しない。
したがって,Dは取戻権を行使して当然に登記を求めることはできない。
開始後に実際にされた登記の効力を定める49条の問題とは区別する。
4 設問2⑵
(1) 本件支払は,相当な財産分与合意に基づく既存の150万円の債務を消滅させる行為であるから,160条の詐害行為否認ではなく162条1項1号イの偏頗行為否認が問題となる。
Aは合意時から支払不能であり,Dもこれを認識していた。
回復を示す事情がない本件では,支払時にも支払不能とDの認識が継続していたと認められる。
(2) 有害性について,Dは共有財産の清算なので,開始後なら取戻権又は財団債権として優先的に支払われるものを返したにすぎないと反論する。
しかし,分与金の支払請求は特定財産への所有権に基づく返還請求ではない。
最判平成2年9月27日も分与金債権について取戻権行使を否定する。
開始前の合意に基づく金銭債権は破産債権(2条5項)であり,148条の財団債権にも当たらない。
特定のDだけに全額を払うことは債権者平等を害する。
(3) 不当性について,Dは,相当な財産分与は詐害行為とならないとする最判昭和58年12月19日の考え方を偏頗行為にも及ぼすべきだと反論できる。
しかし,同判決は分与そのものが過大な財産処分であるかを問題とする。
適正な分与で生じた債務でも,危機時期の個別弁済を許せばDだけが優先満足を得る。
分与の相当性はこの偏りを正当化しない。
よって有害性・不当性は阻却されず,本件支払は否認できる。
Xは財団のために150万円の返還を求める。
以上
3 枠外解説
設問1⑴では,開始時の財団範囲を入口に,各財産の取得原因を分ける。
C死亡による相続預金は開始後に初めて取得するのに対し,死亡保険金は開始前の契約に基づく停止条件付請求権として処分・差押えが可能であることが,34条2項を適用する理由となる。
設問1⑵では,裁判所による自由財産拡張と,Xによる返戻金請求権の放棄を混同しない。
Aの窮状だけでなく,90万円と600万円という財団外財産を利益衡量に入れ,第二手段を組入れと放棄の交換として閉じることが重要である。
設問2⑴は取戻権の入口を示してから民法177条の第三者性を検討する。
Dの潜在的持分顕在化という反論に対して,協議による権利移転が特定承継と同様であると答えることで,清算性から直ちに登記不要へ進まない理由が明確になる。
設問2⑵では,分与合意の相当性と,その後の既存債務弁済の偏りを分ける。
有害性では取戻権・財団債権の反論を,不当性では相当な財産分与を保護する判例の考え方を扱う。
否認を否定する立場も公式資料が許容するが,相当という一点だけで結論を出すのではなく,偏頗行為否認にその保護を及ぼす理由を説明する必要がある。
第6 関連記事
1 同年度及び過去問の入口
① 令和5年司法試験論文式・主要7科目の模範解答一覧。
② 司法試験の過去問・参考答案一覧。
2 制度別の復習
第7 出典及び確認状態
1 法務省の公式資料
① 令和5年司法試験論文式試験問題・選択科目の倒産法第1問(2頁~3頁)。
② 令和5年司法試験論文式試験出題の趣旨の倒産法第1問(19頁~20頁)。
③ 令和5年司法試験の採点実感・選択科目の倒産法総論・第1問(1頁~4頁の該当部分)及び科目全体の指摘(7頁~8頁の該当部分)。
公式資料の該当記載は公式資料自身の説明であり,そこから作成した評価単位・重み・答案は本記事の分析である。
同じ合冊に含まれる他科目・第2問の記載は本問の評価根拠に用いていない。
2 法令及び裁判例
① 破産法・令和5年6月14日施行版の34条,62条,78条及び162条等をe-Gov原文で確認した。
② 最高裁平成28年4月28日第一小法廷判決(平成27年(受)第330号,民集70巻4号1099頁)は裁判所掲載の原文全4頁を確認した。
最判平成2年9月27日(平成2年(オ)第718号,集民160号373頁)及び最判昭和58年12月19日(昭和57年(オ)第798号,民集37巻10号1532頁)の本記事で用いた考え方は,法務省の採点実感4頁による紹介に依拠する。
両判決の書誌と裁判要旨は裁判所HPで確認した。
後年の財産分与制度の改正を,令和5年の設問要求へ読み込んでいない。
民法の177条・254条・762条・768条・882条,保険法の89条~91条及び民事執行法施行令の1条は,e-Gov法令APIに試験日を指定して過去版の原文を確認した。
民法768条は当時の文言によって扱い,後年の改正文言を用いていない。
3 資料の範囲
公式資料及び判決原文の確認日は令和8年10月13日~14日である。
参考記事は7部構成,評価表及び答案枠という表示形式に限って参照し,法的内容の根拠にしていない。