令和4年司法試験・環境法第2問の地下水汚染対策と民事責任を,試験当時の法令に沿って整理する。
30の評価項目と5段階の重みは公式資料からの独自分析であり,法務省の公式採点基準・配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は令和4年司法試験論文式試験・環境法第2問である。
問題文(法務省)の物理34~37頁,出題の趣旨の物理37~38頁,採点実感の環境法総論・第2問(物理35・38~40頁)を基礎とする。
地下水汚染の予防義務と汚染後の措置は区別する。
水濁法と土対法の違いは,命令対象となる地下水と飲用地点の関係から説明し,両措置が発出される場合の優先関係を確認する。
基準強化だけを理由とする完了済み措置の再実施は一般に求められないが,現在の健康リスクへの対応は別に検討する。
未規制物質による断水では,行政上の基準と民法709条上の注意義務を分け,F市自身の応急給水費用を扱う。
評価項目は30件,重みの単純合計は123である。
重み5は12件で,施設分類,地下水浄化命令,両法の地点差,再実施の原則,資料と自説の区別,不法行為の主ルート,未規制物質の扱い,過失の各要素,応急給水費用,無過失責任の適用範囲を扱う。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目を一つの判定対象として,答案の何を評価するかが分かる表現にした。
必須,高評価,負例,許容分岐の区分は重みから独立し,重み5であることを全答案の必須事項と同一視しない。
両立しない構成や条件付き分岐を,全答案への累積要求にしない。
番号は記事全体で1から30まで連続し,内部の追跡IDとは区別する。
表の「記載なし」は関連範囲を読んだ結果に限り,「間接」は記述と法構造からの推論を示す。
設問4の717条の項目は同条を採用する場合だけに適用される。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | 採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格そのもの。 |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な不十分答案の指摘を通じて取り上げた事項。 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け。 |
| 2 | 一方が軽く触れる補強又は典型的な誤り。 |
| 1 | 一方が控えめに触れる事項。 |
本稿は「採点実感も取り上げた事項」という基準を用いる。
「全て高く評価された」とはせず,根拠の取り上げ方と区分を各項目に対応させた。
件数割当ては行わず,本問で重み1が0件であることもその結果である。
第3 本問の概要
AはB県で物質Cを使用・処理する特定施設を設置している。
設問1~3ではCはトリクロロエチレンであり,地下水予防の義務,D・Eの土地にも及んだ汚染後の措置,令和2年に完了した措置と翌年の環境基準強化が問われる。
土壌環境基準は検液1Lにつき0.03mg以下から0.01mg以下に強化された。
設問4ではCの仮定が変わり,水溶性が高く塩素と反応する有機化合物となる。
Aから河川に排出されたCが,下流の浄水場で塩素と反応してホルムアルデヒドを生じ,取水停止・断水等を経てF市が応急給水を実施した。
Cの排水基準がないという事情の下で,F市の法的請求を検討する。
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Cの有害物質性と使用・処理するAの施設の有害物質使用特定施設該当性を条文に結び付ける(必須) | 5 | 37頁・設問1:有害物質使用特定施設の義務を問う。 | 38・39頁:施設該当性と条文根拠。 |
| 2 | 水濁法12条の3の特定地下浸透水の浸透禁止を内容付きで示す(必須) | 4 | 37頁・設問1:予防義務の説明。 | 38・39頁:12条の3を内容付きで示す。 |
| 3 | 水濁法12条の4の構造・設備・使用方法の基準遵守義務を内容付きで示す(必須) | 4 | 37頁・設問1:予防義務の説明。 | 38・39頁:12条の4を内容付きで示す。 |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 4 | 水濁法14条の3の地下水浄化措置命令を発動要件とともに検討する(必須) | 5 | 37頁・設問2:14条の3の浄化命令。 | 38・39頁:汚染後の措置命令を重視。 |
| 5 | 土対法5条の調査命令の要件と土地所有者等を名宛人とする構造を示す(必須) | 4 | 37頁・設問2:5条の調査命令。 | 39頁:関連規定の丁寧な説明。 |
| 6 | 調査結果と健康リスクを踏まえて土対法6条の要措置区域指定を示す(必須) | 4 | 間接(37頁):7条の先行指定。 | 39頁:6条の指定を挙げる。 |
| 7 | 土対法7条の指示・命令を示し,Aへの指示に必要な原因者要件を区別する(必須) | 4 | 37頁:7条の指示・命令。名宛人の詳細は当時法の補足。 | 39頁:7条の指定後措置。 |
| 8 | 基準不適合でも健康リスク要件を欠く分岐では土対法11条の形質変更時要届出区域を区別する(高評価)健康リスクを欠く枝に限る。 | 3 | 明示記載なし。 | 39頁:優秀答案で11条の指定を挙げる。条件付き補強。 |
| 9 | 水濁法の命令は飲用等の当該測定地点で浄化基準超過が必要であることを説明する(必須) | 5 | 37頁:当該地点の飲用等と要件。 | 39頁:測定地点の相違。 |
| 10 | 土対法は汚染拡大のおそれがある区域の周辺飲用地点等でも足り,汚染地点と離れていても適用可能と比較する(必須) | 5 | 37頁:周辺利用・離れた地点への適用。 | 39頁:土対法の広い適用範囲。 |
| 11 | 両措置が発出される場合には要件の狭い水濁法14条の3を優先すると説明する(高評価) | 3 | 37頁:両措置発出時の水濁法優先。 | 明示記載なし。 |
| 12 | 汚染後の浄化・土壌措置を落とし改善命令だけで終えない(負例) | 2 | 明示記載なし。 | 38頁:改善命令のみの答案を指摘。 |
3 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 13 | 完了済み措置に対し基準強化だけを理由とする再実施は一般に求められないと説明する(必須) | 5 | 37頁:強化のみで再実施を一般に要求しない。 | 39・40頁:資料の理解と原則。 |
| 14 | 指示に従い完了した者の信頼保護を信義則に結び付けて理由付ける(高評価) | 4 | 37頁:信義則による理由。 | 39・40頁:信義則に触れる答案。 |
| 15 | 再実施による過剰負担と健康保護上の必要性の均衡を比例原則に結び付ける(高評価) | 4 | 37頁:比例原則による理由。 | 39・40頁:比例原則に触れる答案。 |
| 16 | 残存土壌・地下水汚染・飲用等から現在の健康被害のおそれがあれば例外的対応を検討する(必須) | 4 | 38頁:健康被害のおそれへの対応。 | 39・40頁:健康リスクの例外。 |
| 17 | 例外では摂取経路遮断の指導及び5条の調査命令を根拠・要件付きで示す(必須) | 4 | 38頁:遮断の指導・調査命令。 | 40頁:根拠・要件と具体策。 |
| 18 | 資料の要旨とその趣旨を踏まえた自分の法的評価を区別して記述する(高評価) | 5 | 明示記載なし(資料解釈の要請はある)。 | 39頁:要旨の転記と自らの説明の間に採点上の差。 |
4 設問4
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | F市からAへの民法709条の不法行為損害賠償請求を主ルートとする(必須) | 5 | 38頁:709条の過失判断。 | 39・40頁:不法行為請求を主位に。 |
| 20 | Cの排水基準がないことだけから違法性・注意義務の欠如や当然の免責を導かない(負例) | 5 | 38頁:未規制という事情の評価。 | 39・40頁:基準なしを当然免責に結び付けない。 |
| 21 | Cが塩素との化合を介して有害な副生成物を生じたという特徴を注意義務の判断へ回収する(必須) | 4 | 38頁:別物質との化合という差異。 | 40頁:化合に至る事情を摘出。 |
| 22 | 下流の浄水場の存在をAが知り得たことを予見可能性判断に用いる(必須) | 4 | 38頁:浄水場を知り得る事情。 | 40頁:下流の浄水場認識。 |
| 23 | 熊本水俣病第1次訴訟の過失論を参照する際,本件の化合による損害との違いを踏まえる(高評価) | 3 | 38頁:熊本水俣病判決の過失論を参考に事実差を検討。 | 本項目の参照操作の明示はない。判決の重要性には39頁で言及。 |
| 24 | 当時の知見や調査可能性に照らし結果の予見可能性を具体的に検討する(必須) | 5 | 38頁:予見可能性の検討。 | 40頁:具体的な過失判断。 |
| 25 | 流出防止・処理等の結果回避可能性と結果回避義務違反を具体的に検討する(必須) | 5 | 38頁:結果回避義務違反。 | 40頁:回避義務の説明。 |
| 26 | 過失の肯否を結論だけで決めず,採用する結論に至る理由を一貫して示す(許容分岐) | 4 | 38頁:過失の肯否より理由付け。 | 35頁共通方針:一貫した複数の考え方を許容。 |
| 27 | F市自身の拠点給水所設置・給水車出動等の応急給水費用を損害とする(必須) | 5 | 明示記載なし。709条の一般的損害検討は前提。 | 40頁:市の応急給水費用を損害とする。 |
| 28 | 生命・身体の現実の侵害がないため水濁法19条の無過失責任を適用しない(負例) | 5 | 38頁:現実の生命・健康被害なし。 | 39・40頁:19条の対象要件を欠く。 |
| 29 | 本件事故への実効性を検討せず民事差止めに大きな分量を使わない(負例) | 2 | 明示記載なし。 | 39頁:事故への差止めの実効性と分量。 |
| 30 | 民法717条を選ぶなら設置・保存の瑕疵の有無を問題とし自動的に肯定しない(許容分岐)717条採用時に限る。 | 2 | 明示記載なし。 | 39頁:717条の検討にも一定評価,瑕疵認定に問題。 |
5 重みの分布
重み5は12件,重み4は12件,重み3は3件,重み2は3件,重み1は0件である。
総項目数は30件,単純合計は123であり,公式得点や合格可能性を示すものではない。
番号1は,Cの有害物質性と使用・処理するAの施設の有害物質使用特定施設該当性を条文に結び付けるという骨格又は評価を分ける操作である。
番号4は,水濁法14条の3の地下水浄化措置命令を発動要件とともに検討するという骨格又は評価を分ける操作である。
番号9は,水濁法の命令は飲用等の当該測定地点で浄化基準超過が必要であることを説明するという骨格又は評価を分ける操作である。
番号10は,土対法は汚染拡大のおそれがある区域の周辺飲用地点等でも足り,汚染地点と離れていても適用可能と比較するという骨格又は評価を分ける操作である。
番号13は,完了済み措置に対し基準強化だけを理由とする再実施は一般に求められないと説明するという骨格又は評価を分ける操作である。
番号18は,資料の要旨とその趣旨を踏まえた自分の法的評価を区別して記述するという骨格又は評価を分ける操作である。
番号19は,F市からAへの民法709条の不法行為損害賠償請求を主ルートとするという骨格又は評価を分ける操作である。
番号20は,Cの排水基準がないことだけから違法性・注意義務の欠如や当然の免責を導かないという骨格又は評価を分ける操作である。
番号24は,当時の知見や調査可能性に照らし結果の予見可能性を具体的に検討するという骨格又は評価を分ける操作である。
番号25は,流出防止・処理等の結果回避可能性と結果回避義務違反を具体的に検討するという骨格又は評価を分ける操作である。
番号27は,F市自身の拠点給水所設置・給水車出動等の応急給水費用を損害とするという骨格又は評価を分ける操作である。
番号28は,生命・身体の現実の侵害がないため水濁法19条の無過失責任を適用しないという骨格又は評価を分ける操作である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
法令の基準時は選択科目の試験実施日である令和4年5月11日である。
以下の答案は改行等を含め2303字,空白・改行を除いて2241字で,2500字以内である。
設問の順に主たる構成を示し,土対法の条件分岐や過失の肯否は理由を伴って区別する。
2 答案
1 設問1
(1) トリクロロエチレンは水質汚濁防止法2条2項1号・施行令2条9号の有害物質であり,Cを使用・処理するAの特定施設は,有害物質使用特定施設である(法2条8項)。
Aは設置時,排出・浸透の態様に応じ法5条1項ないし3項の届出を要する。
(2) 特定地下浸透水を浸透させる場合には,有害物質が検出される特定地下浸透水の浸透が禁止される(法12条の3,施行規則6条の2)。
汚染状態の測定,結果の記録・保存も必要となる(法14条1項)。
他方,特定地下浸透水を浸透させる者を除く有害物質使用特定施設の設置者は,地下浸透防止のための構造・設備・使用方法に関する基準を遵守する(法12条の4)。
床面・配管等の漏えい防止,適切な使用・管理を行い,定期点検と結果の記録・保存も要する(法14条5項)。
事故による浸透で健康等への被害のおそれがあるときは,直ちに応急措置を講じ,速やかに知事に届け出る(法14条の2第1項)。
2 設問2
(1) 水濁法14条の3第1項により,Aの特定事業場における有害物質を含む水の地下浸透が原因で,人の健康被害が生じ又はそのおそれがあるとき,知事はAに相当の期限を定め,必要な限度で地下水浄化措置を命ずることができる。
資料2及び施行規則9条の3によれば,飲用井戸・水道原水取水施設・災害時飲用水源等の所定地点で地下水の汚染が浄化基準を超過している場合等が対象であり,その地点で基準を達成させる。
浄化に必要な地下水の範囲は流動状況等により定めるため,Aの敷地内に限定されない。
(2) Cは土壌汚染対策法の特定有害物質でもある。
知事は,D・Eの土地が健康被害のおそれに関する施行令3条の基準に該当すれば,各土地の所有者等に土壌汚染状況調査・結果報告を命じ得る(法5条1項)。
調査結果が土壌基準に適合せず,健康リスク要件も満たせば,要措置区域に指定する(6条)。
7条1項による汚染除去等計画の作成・提出の指示は,原則として土地の所有者等にする。
ただし,Aの行為による汚染が明らかで,Aに措置を講じさせることが相当であり,D・Eに異議がないときは,Aに指示する。
計画未提出には提出命令,同計画の技術的基準不適合には変更命令,計画不履行には実施命令を行い得る(同条2項・4項・8項)。
健康リスク要件を欠くが土壌基準に不適合である場合には,11条による形質変更時要届出区域の指定となり,直ちに7条の措置は要求できない。
(3) 両法は,地下水摂取による健康リスクを防ぐ点で共通するが,適用範囲が異なる。
水濁法は飲用等の当該測定地点で浄化基準を超過する地下水を対象とする。
土対法は,土壌から地下水に汚染が生じ又は確実に生ずる等の事情があり,汚染拡大のおそれのある区域に飲用取水口等があれば足り,その周辺の取水地点で既に基準超過していることまでは必要としない(施行令3条1号イ・ロ,施行規則30条)。
汚染土壌と飲用地点が離れていても適用でき,除去以外に拡散・摂取経路の遮断も選び得る。
両法の措置が発出される場合は,より要件が狭く特別な場合を扱う水濁法14条の3を優先する。
汚染済みの対策を改善命令だけで代替してはならない。
3 設問3
(1) 資料3は,旧基準によって評価したことだけを理由に,既に講じた措置の再実施を求めないとしている。
これを本件に当てはめると,知事の指示に従い令和2年に措置を完了したAの信頼を保護する必要があり,信義則上,翌年の基準強化だけを理由とする追加措置は一般に求められない。
また,既に費用をかけて完了した者に再度の負担を課すことは,健康保護上の必要性との均衡を欠き得るため,比例原則による配慮も必要である。
環境基準の強化そのものを追加義務の直接根拠とすることもできない。
(2) もっとも,新基準不適合の土壌が現に残り,地下水汚染の状況や飲用利用等から健康被害のおそれがある場合は,単に新基準で再評価するだけの場合とは異なる。
知事は利用状況等を確認し,土対法5条1項・施行令3条の要件を満たせば,調査命令や摂取経路遮断の指導を行い得る。
調査結果に応じ6条の指定・7条の指示等にも進み得るが,答申の記述だけを強制権限の根拠としてはならない。
4 設問4
(1) F市は,水道事業上の給水を継続する利益を侵害され,応急給水費用を支出したとして,民法709条に基づく損害賠償を請求し得る。
Cの排水基準がないことは,行政上の基準違反がないことを意味しても,民事上の注意義務や違法性を当然に否定しない。
(2) 過失は,結果の予見可能性と結果回避義務違反から判断する。
Cは水溶性が高く,塩素と反応する物質であり,Aは下流の浄水場の存在を知り得る。
化学物質を扱うAには,流出物の性質を調査し,下流水道の通常の塩素処理を経て有害な副生成物が生ずる危険を把握する注意義務が認められ得る。
他方,別物質との反応を介する危険まで当時の知見で予見できたかは検討を要し,事故の発生だけから過失を推定しない。
合理的な調査により取水障害を予見でき,適切な処理・流出防止によって回避できたのにそれを怠ったと認められれば,Aに過失がある。
(3) C排出から通常の浄水処理,取水停止,断水・減水,応急給水への経過は,その危険が実現した因果経過と評価できる。
その場合,F市の合理的に必要な拠点給水所設置費・給水車出動費等が賠償対象となる。
生命・身体の被害は現実には発生していないため,水濁法19条の無過失責任は適用されない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
設問1は番号1~3,設問2は番号4~12,設問3は番号13~18,設問4は番号19~30に対応する。
番号8は要措置区域にならない条件分岐の補強であり,番号30の717条は本答案では採用していない。
番号23の原判決を用いた具体的比較は,答案本文ではなく次の設問4の解説に位置付ける。
(2) 設問1:予防の二つの枝
有害物質使用特定施設の定義から始め,12条の3の浸透禁止と12条の4の構造等の基準を両方検討する。
12条の4の括弧書きに従い,特定地下浸透水を浸透させる枝とそれをしない設置者の枝を分けた。
届出,測定,点検,事故時の応急措置は,当時法の原文に基づく補足である。
(3) 設問2:地点の比較と措置の関係
重要なのは番号9・10の対称差である。
水濁法の浄化命令で基準超過が必要となる測定地点と,土対法で汚染拡大のおそれのある区域に存在すれば足りる飲用地点を区別する。
水濁法でも浄化対象の地下水の範囲が敷地外に及ぶことと,命令発動の測定地点要件が狭いことは両立する。
番号11の優先関係は出題趣旨が望ましい説明として示す。
両法の措置が発出される場合の関係であり,水濁法の存在によって土対法が全面的に排除されるという意味ではない。
名宛人の詳細や計画提出・変更・実施命令の手順は,当時の7条の原文で補った。
原因者負担と状態責任だけを対比する説明は,採点実感が本問の採点対象としていない。
土対法にも汚染原因者への指示の例外があるため,状態責任だけの制度ともいえない。
(4) 設問3:資料の要旨から自分の理由へ
資料3の再実施を一般に求めないという記述を,完了済み者の信頼保護と過剰負担の防止へつなぐ。
番号14・15の信義則・比例原則を挙げるだけでなく,本件の指示・完了・基準強化という時系列から説明することが必要である。
現在の健康リスクがある場合の例外も,資料3のただし書に基づく別の判断として残す。
(5) 設問4:未規制物質と過失
行政上の排水基準がないことは,民事の注意義務を当然に否定するものではない。
Cの流下性・塩素との反応・知り得る浄水場という事情を,調査による予見と具体的な回避措置へ接続する。
反応による副生成物を経たという事情は,結果の有害性だけから過失を認定しないための検討点にもなる。
出題趣旨は熊本水俣病第1次訴訟判決(熊本地判昭和48年3月20日,判時696号15頁)の過失論を参考にするよう示している。
本稿は原判決全文を独立確認したという扱いをせず,判旨の逐語引用や「判例同旨」を答案に付していない。
未規制物質について安全性を調査するという考え方と,本件では浄水場での化合を介して被害が生じたという差を比較するための参照先として位置付ける。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
Aの過失を確定するには,当時の科学的知見,合理的調査で得られる情報及び実行可能な処理・流出防止策の検討が必要である。
問題文にない認識事実を追加せず,理由を伴った過失否定の結論も許容される。
717条は設置・保存の瑕疵の認定に固有の問題があり,709条の主ルートとは分けた。
事故後の費用回復を中心に扱い,差止めの長い論述は置いていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和4年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①条例は法律より厳しい規制を定められるか―自主条例・委任条例・上乗せ・横出し規制(AI作成)
後年の関連記事は比較学習の案内であり,試験当時の法源の代わりには用いない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和4年司法試験問題・選択科目(法務省):物理34~37頁の第2問及び資料1~3。
②令和4年司法試験論文式試験問題出題の趣旨(法務省):物理37頁の環境法第2問見出しから38頁の末尾まで。
③令和4年司法試験の採点実感・選択科目(法務省):物理35頁の共通方針,38頁の第2問から40頁の水準・共通事項まで。
④令和4年司法試験の実施日程(法務省):1頁。
2 法令
①水質汚濁防止法:令和2年4月1日施行版の定義,5条,12条の3・4,13条の2・3,14条,14条の2・3・4,19条等。
②土壌汚染対策法:令和2年4月1日施行版の2条,5~8条,11条。
③水質汚濁防止法施行規則:令和3年4月1日施行版の6条の2,8条の2~7,9条・9条の3等。
④土壌汚染対策法施行令:平成31年4月1日施行版の3条・5条。
⑤土壌汚染対策法施行規則:令和3年4月1日施行版の30条・31条等。
⑥民法:令和4年4月1日施行版の709条等。
リンク先の現在法と,答案に使用した試験当時の施行版は区別する。
3 裁判例
熊本水俣病第1次訴訟判決は公式資料における参照先として確認した。
原判決本文の独立した全体確認と,公式解説が述べる過失論の紹介は区別する。
4 確認状態
公式資料の評価上の記述は原文に照合し,法令の定義・義務・権限については当時施行版の条文を別に確認した。
項目の原子化,重み,一致の程度及び答案の当てはめは本稿の独自判断である。
両法の措置の優先については公式出題趣旨の説明と法構造からの解釈を用い,独立の当時通達まで確認したという表示はしていない。