第1 民事裁判の流れを先に確認する
第一審の通常の民事訴訟は,訴状の提出,訴状の送達と答弁書,口頭弁論,争点・証拠の整理,必要な証拠調べを経て,判決などにより終了する。途中で和解が成立して終わることもある。和解の検討は,証人尋問が終わってからに限られるものではない。
本記事は通常訴訟の基本的な進み方を扱う。少額訴訟,支払督促,家事調停,労働審判などは手続が異なる。事件の種類と解決方法の選び方は,民事事件とはを参照されたい。
| 段階 | 主に確認すること |
|---|---|
| 訴えを起こす前 | 相手方,求める結果,証拠,管轄,費用,回収の見通し |
| 訴状・答弁書 | 請求内容,争う事実,提出期限,指定された期日 |
| 争点・証拠の整理 | 判断に必要な事実と,それを裏付ける証拠の対応 |
| 証拠調べ | 書証,必要な証人尋問・当事者尋問等 |
| 和解・判決 | 解決条件又は裁判所の判断,不服申立ての期限 |
| 終了後 | 任意の履行,未履行の場合の回収・執行 |
第2 訴えを起こす前の準備
誰に何を請求するか,その請求を支える契約や出来事は何か,どの資料で証明できるかを整理する。契約書,送金履歴,請求書,メール等のやり取り,写真などを確認し,重要な出来事を日付順にまとめる。
あわせて,地方裁判所と簡易裁判所のどちらが担当するか,どの地域の裁判所に提起できるかを確認する。裁判所へ納める費用と弁護士費用は分けて考える。保全の必要や,相手方の資力と回収可能性も,請求内容に応じて検討する。
地方裁判所の取扱事件と管轄,訴訟費用,民事保全の基礎で詳しく説明している。
第3 訴状の提出と被告への送達
1 訴状に請求と根拠を記載する
原告は,どのような判決を求めるかを示す「請求の趣旨」と,請求を裏付ける事実を示す「請求の原因」などを記載した訴状を提出する。裁判所は訴状を確認し,不備があれば補正が必要になることがある。提出の方法と納付する費用は,事件に適用される制度と担当裁判所の案内に従って確認する。
令和8年5月21日から,民事訴訟手続のデジタル化に関する制度が施行されている。従前の事件と新制度が適用される事件を区別し,電子提出,記録の閲覧,送達等について個別の案内を確認する。民事裁判手続のデジタル化とmints及び申立手数料の計算方法を参照されたい。
2 訴状は被告に送達される
民事訴訟法138条は,訴状を被告に送達することを定める。原告が訴えを起こしたことを伝えるだけで足りるわけではない。被告は,届いた訴状,呼出し,提出の案内を確認し,答弁書の提出期限と期日に対応する。
第4 答弁書と最初の口頭弁論
答弁書は,被告が原告の請求や主張に対して回答する書面である。請求を認めるか争うか,個々の事実を認めるか否認するか,知らない事実があるかを整理する。自分の事情を述べるだけでなく,訴状のどの主張に対する回答かが分かるようにすることが大切である。
口頭弁論では,当事者又は訴訟代理人が訴状,答弁書,準備書面などに基づいて主張を述べる。民事訴訟法87条の2は,裁判所が相当と認め,当事者の意見を聴いた場合のウェブ会議による手続を定めている。本人の希望だけで,すべての期日がオンラインになるわけではない。
答弁書を提出せず,期日にも対応しない場合には,原告の主張する事実を争わないものとして扱われ,不利益な判決を受けるおそれがある。他方,最初の口頭弁論では,提出した答弁書等の記載を陳述したものとみなす制度もある(民事訴訟法158条・159条)。「欠席すると必ず負ける」「答弁書を一度出せばその後も出席しなくてよい」という理解は避け,担当裁判所の案内に従って対応する。
具体的な受領書類とmintsへの対応は,mintsで被告になった本人の対応を参照されたい。
第5 争点・証拠の整理
裁判で判断するために重要な事実のうち,双方の言い分が食い違う部分を整理する。その事実を証明する資料や,尋問で確認する事項を明確にする。裁判所は,事件の内容に応じて準備的口頭弁論,弁論準備手続,書面による準備手続などを利用する。
準備書面の提出期限,次回期日までに集める証拠,次回の検討事項を記録し,事実の主張と証拠の対応を確認する。手元にない資料が必要な場合には,入手先と収集方法を早めに検討する。
主要事実と証拠を整理する方法及び相手方・第三者の資料を集める方法で詳しく説明している。
第6 証拠調べと尋問
書類等の証拠を調べ,事件に応じて証人や当事者本人の尋問などを行う。すべての民事訴訟で証人尋問が行われるわけではない。争われている事実と証拠の状況に応じて,必要な証拠調べが問題になる。
民事訴訟法247条は,裁判所が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果を踏まえ,自由な心証によって事実の主張の真実性を判断することを定める。資料の数だけでなく,作成の経緯,内容,相互の整合性などが問題になる。証人尋問及び当事者尋問を参照されたい。
第7 和解・判決による終了
1 和解は訴訟の途中でも検討される
民事訴訟法89条は,裁判所が訴訟の進行段階を問わず和解を試みることができると定める。和解するかは,立証の見通し,解決条件,支払の確実性,期間や費用などを踏まえて判断する。金額だけでなく,支払期限,分割条件,未払への対応,解決対象となる請求の範囲も確認する。
裁判上の和解では,合意内容を調書に記録する。新制度では,裁判所書記官が和解について作成した電子調書をファイルに記録したとき,その記録に確定判決と同一の効力がある(民事訴訟法267条)。和解条件と,調書の内容・送達を確認する。具体的な条件の検討は,和解案・和解条項案を参照されたい。
2 判決と不服申立ての期限を確認する
判決によって終わる場合は,裁判所が審理を終え,請求を認めるかどうかなどを判断する。判決を受け取ったら,主文と理由,訴訟費用の負担,仮執行宣言の有無,不服申立ての期限を確認する。
第一審判決に対する控訴期間は,原則として判決書等の送達を受けた日から2週間である(民事訴訟法285条)。言渡しの日と送達の日を混同しない。具体的な期限と提出先は,送達された書類を基に確認する。
第8 判決・和解後の履行と回収
支払等を命ずる判決や和解を得ても,相手方からの履行がなければ,現実の解決は完了しない。任意の支払を確認し,未払いであれば,執行に必要な書類と条件,対象となる財産,費用を検討する。
判決では,確定の有無や仮執行宣言の有無も確認する。すべての判決について,言渡しの直後から同じ条件で強制執行ができるわけではない。債権差押えの実務を参照されたい。
第9 どのくらい時間がかかるか
送達の状況,争点の数,資料収集,尋問の必要性,和解の進み方などによって期間は変わる。各段階に必ず同じ回数の期日があるわけではない。事件類型や終局理由などを分けた統計の読み方は,民事裁判の平均審理期間と長くなる要因を参照されたい。
弁護士に依頼する際は,次回までの課題,提出期限,現時点で分かる見通しと不確かな点を確認すると,手続の進行を把握しやすくなる。
第10 主な根拠・参照資料
民事訴訟法87条の2・89条・138条・158条・159条・247条・267条・285条,裁判所「民事事件Q&A」,裁判所「民事裁判手続のデジタル化」を参照した。デジタル化の経過措置があるため,実際の事件では適用される制度と担当裁判所の案内を確認する。