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裁判所の本庁と支部の回付―移送との違い・合意管轄条項・不服申立て(AI作成)

第1 本庁と支部の「回付」とは

1 同じ地方裁判所の内部で担当を変える措置

本庁から支部へ,支部から本庁へ,又は同じ地方裁判所の支部相互間で事件を回すことは,一般に「回付」と呼ばれる。
地方裁判所の支部は,本庁とは別個の地方裁判所ではない。
同じ地方裁判所の内部で,どの庁・部が事件を取り扱うかという事務分配の問題である。

例えば,東京地方裁判所本庁と立川支部との間の回付と,東京地方裁判所から横浜地方裁判所への移送とは,法的な仕組みが異なる。
裁判所から事件を別の場所に回す旨の連絡を受けたときは,移動先の庁名だけでなく,「回付」か「移送決定」かを確認する必要がある。

2 支部の設置と事務分配の根拠

裁判所法31条1項は,地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため,最高裁判所がその管轄区域内に支部又は出張所を設けることができると定めている。
家庭裁判所については,同法31条の5がこの規定を準用する。
下級裁判所事務処理規則6条1項は,地家裁等における裁判事務の分配,裁判官の配置及び代理順序を,毎年あらかじめ当該裁判所の裁判官会議の議によって定めるとしている。

支部の一覧と事件別の取扱いは,地方裁判所支部及び家庭裁判所支部を参照されたい。
地図上の支部管轄だけでは,合議事件,裁判員裁判,労働審判,執行事件等の提出先が決まらない場合がある。

第2 最高裁昭和44年3月25日決定

1 事件と判断の対象

最高裁判所昭和44年3月25日第三小法廷決定は,事件を回付する決定に対する抗告棄却決定についての特別抗告事件である。
事件番号は昭和44年(し)第3号,掲載誌は刑集23巻3号212頁であり,最高裁は抗告を棄却した。

争点は,事件回付の措置を,訴訟法に基づく不服申立ての対象にできるかという点であった。
最高裁は,地方裁判所の支部は,原則として独立の司法行政権を与えられず,外部に対しては本庁と一体をなすとした。
支部の権限と管轄区域は,裁判所内部の事務分配の基準であると判断したのである。

2 回付に対する訴訟法上の不服申立て

同決定は,本庁と支部間又は支部相互間の事件回付は訴訟法上の手続ではないため,当事者は,回付の措置に対して訴訟法に準拠する不服申立てをすることができないとした。
回付について訴訟法上の抗告を認めた東京高裁昭和42年7月14日決定を,明示的に変更している。

この判断は,地域の支部で審理を受けることの政策的価値を否定したものではない。
法律上の管轄と,内部の事務分配に伴う住民の利便とを区別し,回付について訴訟法上の不服申立てを認めないという判断である。
移動の負担や審理の必要性を担当裁判所へ具体的に伝えることまで無意味になるわけではない。

第3 民事訴訟の移送との違い

1 移送決定には民事訴訟法の規定が適用される

民事訴訟法16条1項は,管轄違いの場合の管轄裁判所への移送を定める。
同法17条は,管轄がある場合でも,著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るために必要なときに,他の管轄裁判所へ移送できると定めている。
同法21条は,移送の決定及び移送申立てを却下した決定に対する即時抗告を認めている。

比較項目本庁・支部間の回付民事訴訟法上の移送
基本的な性質同じ地方裁判所内部の事務分配管轄等を理由に別の裁判所へ事件を移す手続
主な確認資料事務分配,担当部からの連絡,回付の理由移送決定,民事訴訟法16条以下,告知日
不服申立て回付自体への訴訟法上の不服申立てはできない移送決定・移送申立却下決定には即時抗告ができる
希望を伝える方法当該事件に即した理由を担当裁判所へ示す移送申立てや即時抗告の要件を検討する

この表は民事訴訟を中心とする比較である。
家事事件の移送,自庁処理及び不服申立ては,家事事件手続法等に即して別に検討する必要がある。
遺産分割調停・審判の管轄,移送と自庁処理も参照されたい。

2 「回付」という名称だけで判断しない

他の裁判所へ書類が送られる場面でも,事件移送,記録送付,内部回付等がある。
通知書や決定書を確認し,どの裁判所に事件が係属しているか,どの法令に基づく処理かを区別することが先決である。
移送決定に対する不服申立ての期限が問題になるときは,回付についての説明をそのまま当てはめてはならない。

第4 合意管轄条項で本庁での審理は確保できるか

1 裁判所を合意することと内部の審理場所は別である

民事訴訟法11条は,第一審に限り,一定の法律関係に基づく訴えについて,書面等による管轄合意を認めている。
ただし,「東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」との条項だけで,本庁と立川支部のどちらが担当するかまで確保できるとはいえない。
最高裁決定が示した本庁・支部の一体性と事務分配の性質から,管轄裁判所の選択と,当該裁判所内部の取扱庁の選択とは分けて考える必要があるからである。

契約書の審査では,合意管轄条項の有効性,対象となる法律関係,法定の専属管轄の有無とともに,実際の取扱庁への移動負担を確認するとよい。
支部名を書き加えれば内部の事務分配を必ず拘束できる,という前提で条項を設計することは適切でない。

2 専属的な合意があっても移送の問題は残る

当事者が合意で定めた専属管轄と,法律が定める専属管轄も同一ではない。
民事訴訟法20条1項は,移送を制限する専属管轄から,同法11条の合意で定めたものを除いている。
したがって,専属的合意管轄条項があれば,移送も回付も一切起きないと理解するのは誤りである。

第5 本庁での審理を希望する場合の実務

1 上申書についての公表された説明

東京弁護士会「LIBRA2013年8月号」の東京地裁書記官に訊く―交通部編4~5頁には,当事者双方の住所地及び交通事故発生場所が立川支部管内にあるにもかかわらず本庁に提訴される場合について,当該事件に即して本庁で審理する必要性を記載した上申書の提出を求める説明がある。
上申書の内容によっては,原則どおり回付することもあるとされている。

これは平成25年に公表された東京地裁交通部の説明であり,全国・全事件類型に共通する現在の申請手続を示したものではない。
具体的な事件では,担当部に現在の取扱いを確認する必要がある。

2 伝えるべき事情と確認事項

(1) 審理場所について希望を伝えるとき

審理場所について希望を伝える際は,単に本庁が便利という結論だけでなく,当事者や証人の所在地,関連事件の係属,証拠調べの予定,移動の負担,ウェブ会議で対応できる部分等を,事件に即して説明するとよい。
これは,個別事情を明確にするための実務上の提案であり,特定の事情があれば必ず本庁で審理されるという基準ではない。

(2) 回付の連絡を受けた後

裁判所から回付の連絡を受けた後は,新しい担当部,事件番号の取扱い,既に指定された期日と提出期限,追加書類の提出先を確認する。
本庁での審理を希望する上申をしていることだけを理由に,裁判所から示された期日・提出先・期限への対応を止めてはならない。

第6 関連記事と出典

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2 出典

裁判所法31条,31条の5。
民事訴訟法11条,16条,17条,20条,21条。
下級裁判所事務処理規則6条。
最高裁昭和44年3月25日決定全文1~2頁。
東京弁護士会「LIBRA2013年8月号」東京地裁書記官に訊く―交通部編4~5頁。