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むち打ち症の後遺障害―12級・14級・非該当を分けた裁判例の比較(AI作成)

第1 むち打ち症の等級は何によって分かれるか

1 画像の有無だけでは結論が決まらない

交通事故後に首の痛みや手のしびれが残った場合,MRIに異常があれば12級,異常がなければ14級又は非該当,と機械的に決まるわけではない。
画像に現れた変化が事故前からのものか,残った症状と対応しているか,事故直後から症状固定までどのような経過をたどったかを合わせて検討する必要がある。

本記事では,判決本文を確認した4件を比較する。
既存の頚椎椎間板ヘルニアに捻挫が加わったとして12級を認めた例,画像所見があっても14級にとどめた例,自賠責では非該当でも裁判所が14級を認めた例,画像所見があっても事故による後遺障害を否定した例を取り上げる。

対象は頚椎捻挫などの事故後の頚部症状であり,名古屋地裁の事例の診断名は頚部挫傷である。
4件は判断の違いを理解するために選んだ事例であり,認定率を示す統計ではない。
資料確認日は令和8年10月4日である。

2 自賠責の認定,裁判所の評価,支払額を区別する

現行の自動車損害賠償保障法施行令別表第二は,12級13号を「局部に頑固な神経症状を残すもの」,14級9号を「局部に神経症状を残すもの」と定めている。
古い事故の判決では,同じ神経症状について当時の12級12号,14級10号という号数が使われているため,本記事の比較表では原判決の号数を明示する。
号数の読み替えについては,後遺障害の等級・号数の対照表も参照されたい。

自賠責の認定結果と,損害賠償訴訟で裁判所が認める後遺障害は分けて読む必要がある。
さらに,後遺障害が認められても,素因減額,過失相殺,既払金の控除によって追加の支払が認められない場合がある。
逆に後遺障害が否定されても,治療費,休業損害,傷害慰謝料などまで全て否定されるとは限らない。

第2 4判決の比較表

判決自賠責の結果裁判所の評価判断の中心
広島高裁平成16年5月26日当時の12級12号同じく12級12号ヘルニア自体は既往症。ただし,既往症に事故による捻挫が加わって頚部痛等が生じたと評価。
甲府地裁平成17年10月12日当時の14級10号同じく14級10号。12級は否定椎間板等に所見があっても,残存症状を明確に説明する他覚的所見は不足。治療経過等から14級を認定。
名古屋地裁令和4年10月5日非該当14級9号。12級13号は否定軽度の既存変化と一貫した頚部痛,事故の衝撃,仕事の負担を総合評価。
京都地裁平成28年8月30日非該当主張された後遺障害を否定事故後数か月を経て症状が拡大・悪化した経過と,神経学的検査・既往症を検討し,事故との因果関係を否定。

広島・甲府・名古屋の各判決は裁判所の公開判決本文,京都の判決は判例秘書に登載された判決本文に基づく。
京都の判決については裁判所の統合検索で平成26年(ワ)第2685号を検索したが該当結果はなく,裁判所HPでの掲載を確認できなかったため,判例秘書で本文を確認した。
詳しい事件番号と該当箇所は第8の出典に掲げる。

第3 12級を認めた例―既存のヘルニアと事故による捻挫

1 広島高裁平成16年5月26日判決の判断

広島高裁平成16年5月26日判決(平成15年(ネ)第94号)は,自動車同士の衝突後,MRIで頚椎椎間板ヘルニアが確認された事案である。
自賠責では,当時の12級12号と認定されていた。

裁判所は,画像及び医師の意見,事故直後の診療経過等を検討し,ヘルニアそのものが事故によって新たに生じたという主張は採用しなかった。
後に診断書に記載された筋力低下,腱反射の低下や肩関節の運動制限についても,事故との関係を別途検討し,これらをそのまま事故による障害とは認めなかった。

一方,頚部痛等については,既往症としてのヘルニアに事故による頚椎捻挫が加わって生じた可能性を否定できないとする医師の意見や診断書の内容等を総合し,事故と因果関係のある後遺障害を12級12号と評価した。
したがって,この判決を「MRIで事故による新しいヘルニアが証明された12級の事例」と紹介するのは正確ではない。
新たな構造的損傷の有無と,既存病変に事故が加わって症状が生じたかという問題を分けている点が重要である(公開PDF2頁~3頁)。

2 12級でも追加請求は棄却された

同判決は,既往症の寄与を50%として減額し,さらに20%の過失相殺をした。
その後の賠償額が既払金を下回ったため,最終的な請求は棄却された(公開PDF3頁~4頁)。

後遺障害を12級と評価したことと,追加の支払を命じたかどうかは別である。
この事件の後遺障害慰謝料200万円や,労働能力喪失率14%・期間10年という評価だけを取り出して,現在の全ての12級事案の金額や期間の基準とすることもできない。
判決当時の事案,収入,症状及び減額・控除まで確認する必要がある。

第4 14級を認めた例―画像所見と残存症状の対応

1 甲府地裁平成17年10月12日判決

甲府地裁平成17年10月12日判決(平成15年(ワ)第438号)は,眼科医が追突事故で頚椎捻挫を負った事案である。
MRIでは頚椎の椎間板ヘルニアなどが認められたが,医師は,画像だけで頭痛,眼精疲労等を明確に説明できない旨の意見を述べていた。

裁判所は,残った頚部痛,後頭部痛,眼精疲労や手術時の左手の振戦を認めた。
ただし,残存症状を明確に説明する他覚的所見や,その症状と直接関係する他覚的所見の存在は認められないとして,原告が求めた当時の12級12号を否定し,自賠責の認定と同じ14級10号とした(公開PDF4頁~5頁)。

この事例では,「画像に異常があるか」だけでなく,「その異常が,問題となる残存症状をどの程度説明するか」が検討されている。
画像所見の一覧だけを提出するのではなく,症状の部位,診察所見,経過及び医師の説明との対応が問題になる。

2 14級でも仕事への影響は個別に評価された

同判決は,左手の振戦によって眼科手術ができなくなったことや,研究職への移行等の事情を踏まえ,労働能力喪失率を12%,期間を10年とした。
後遺障害慰謝料も,眼科手術ができなくなった事情を考慮して210万円とした(公開PDF6頁~7頁)。

これは,14級なら逸失利益は必ず5%・5年に限られる,という読み方を避けるための事例である。
同時に,この眼科医の事案を根拠に,全ての14級で12%・10年や慰謝料210万円が認められると考えることもできない。
具体的に何の作業ができなくなり,収入や職務にどのような影響が及んだかを示すことが重要である。

第5 自賠責非該当から14級を認めた例

1 名古屋地裁令和4年10月5日判決

名古屋地裁令和4年10月5日判決(令和3年(ワ)第1305号)は,交差点でパトカーが原告の車の運転席側に衝突した事案である。
原告の車は衝突後180度回転し,運転席側のドア等も大きく損傷していた。
原告は頚部挫傷と診断され,自賠責では後遺障害非該当とされた(公開PDF3頁~4頁,7頁~8頁)。

MRIには軽度の椎間孔狭窄があったが,医師は,事故前から存在し,事故を契機に頚部痛が生じたものと考えられると述べていた。
裁判所は,事故による外傷性の画像所見であるとは認めず,12級13号相当の後遺障害は否定した。

一方,頚部痛は事故後から症状固定まで一貫して訴えられており,症状固定時にも事故当時の50~60%程度の痛みが残ったとする診療記録等を認めた。
手のしびれが改善したことは,頚部痛まで消失したことを意味しないとし,事故の衝撃や診療経過等を踏まえ,頚部痛について14級9号を認めた(公開PDF6頁~8頁)。

2 日常生活に支障がないことと,仕事への支障

被告は,診療録に日常生活動作への支障がないと書かれていること等を指摘した。
裁判所は,日常生活に支障がなくても,10トントラックの運転手という身体的負担を伴う仕事の性質から,労働能力を失わせる程度の神経症状を否定できないとした。
自賠責の非該当理由も踏まえた上で,この事件の証拠を総合すると非該当の判断は採用できないとしたものである。

また,軽度の椎間孔狭窄等は年齢から通常想定される加齢性変化を超えるとは認められないなどとして,素因減額も否定した(公開PDF8頁~9頁)。
第3の広島高裁判決との比較からも,「事故前からの画像所見がある」というだけで,後遺障害の否定や素因減額の結論まで一律に決めることはできない。

第6 非該当とされた例―画像所見があっても因果関係が否定された場合

1 京都地裁平成28年8月30日判決

京都地裁平成28年8月30日判決(平成26年(ワ)第2685号,判例秘書L07151556)は,信号待ちの自動車への追突により,頚椎捻挫及び腰椎捻挫と診断された事案である。
車両の損傷は大きく,裁判所も事故の衝撃が軽くなかったことを認めている。
自賠責は非該当であり,原告は両手足のしびれ,握力低下,頚部の運動障害等が12級に該当すると主張した。

レントゲンやMRIには,多椎間の変性・膨隆,圧迫等の所見があった。
しかし,骨棘を伴う変性や,事故の約4年前に腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けていたこと等から,裁判所は,画像所見が事故の衝撃で新たに形成されたとは認めなかった。
ここでの手術歴は腰椎のものであり,頚椎の手術歴と取り違えてはならない。

2 症状の拡大・悪化と検査結果が問題になった

裁判所は,事故当日に手指に問題がなく歩行も安定していたこと,その後,左側のしびれから両側へと症状が広がり,数か月後に歩行や手の動きが悪化して症状固定に至ったことを検討した。
ジャクソンテスト,スパーリングテスト等が一貫して陰性で,徒手筋力検査も正常であったことなども踏まえ,事故による神経圧迫が原因であると説明することは困難とした。

担当医師の説明についても,ヘルニアの影響と事故による傷害の関与を区別して評価している。
結局,主張された残存症状を事故による後遺障害とは認めず,後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料を否定した(判決「第3 当裁判所の判断」1(6))。

この判決の症状発現時期に関する説明は,この事件の証拠と経過を前提にした裁判所の判断である。
「事故後数日で訴えなかった症状は,あらゆる傷害で必ず事故と無関係になる」という一般的な医学上の結論に置き換えることはできない。
実際に,発症の時期,途中の変化及びその理由を,対象となる傷害ごとに診療記録と医師の説明で確かめる必要がある。

3 後遺障害の否定と,治療中の損害の否定は別である

同判決は,症状固定までの治療を必要かつ相当と認め,治療費,休業損害,通院慰謝料等を認めている。
既払金等を控除した後の認容額は109万9280円であった。
これは後遺障害慰謝料の金額ではなく,後遺障害を否定した上で認められた他の損害等の残額である。

第7 自分の事案と比較するときに確認する資料

1 画像,症状,経過を一つの時系列にする

4件を比較すると,画像の異常の有無に加え,画像と症状の対応,事故前の状態,事故後の症状の発現・持続・変化及び医師の説明が結論に関わっていると考えられる。
本記事の事例から直ちに等級を予測するのではなく,次の資料を対応させることが実務上の出発点である。

①事故状況・車両損傷:事故の衝撃を検討するため,写真,修理資料,事故記録を確認する。
②事故前の状態:同じ部位の治療歴,手術歴,事故前画像,仕事や生活の支障を確認する。
③事故直後からの診療録:首の痛み,しびれ,左右差,改善・悪化を受診日ごとに整理する。
④画像及び検査:撮影日,部位,既存変化か外傷性変化か,診察所見との対応を確認する。
⑤症状固定時の資料:後遺障害診断書の記載と,それ以前の記録・医師の説明を照合する。

検査名の陽性・陰性一つだけで12級・14級・非該当を決めることはできない。
診断や検査の必要性は医師が判断するものであり,等級取得のために症状を誇張したり,記録を都合よく揃えたりするべきではない。
症状が変化した場合は,変わった時期,具体的内容と診察で確認された事情をそのまま残すことが重要である。

2 非該当理由と不足資料を具体的に対応させる

自賠責非該当であれば,まず認定理由を確認し,事故との因果関係,症状の残存,画像と症状の対応など,どの点が不足とされたかを整理する。
診断書をもう一度提出するだけで足りるとは限らず,既存の診療録や画像の読影,医師の補足説明がどの疑問に答えるのかを明確にする必要がある。
手続の違いは,自賠責保険の後遺障害等級認定への異議申立てを参照されたい。

名古屋の事例は,非該当でも裁判所の判断が変わり得ることを示すが,京都の事例は,同じく非該当で画像所見があっても因果関係の立証が認められない場合があることを示す。
両者の違いは,単に「裁判を起こしたか」ではなく,それぞれの症状,経過,画像,医師の意見及び事故状況にある。

3 仕事への影響と,減額・既払金を別に確認する

等級だけでなく,どの作業が難しくなったか,職務変更,減収,周囲の援助や本人の努力による補填があるかを,仕事内容と収入資料に結び付けて整理する。
眼科手術の支障を評価した甲府の事例のように,等級と労働能力喪失率が機械的に一致するとは限らない。
計算と立証については,交通事故の後遺障害逸失利益に詳しく記載している。

相談や示談の検討では,後遺障害の有無・程度,後遺障害慰謝料と逸失利益,素因減額,過失相殺,既払金という順に,判断と計算を分けて確認する。
判決の主文にある認容額だけを「むち打ちの相場」として比較すると,治療費等の混在や減額・控除を見落とすおそれがある。

第8 関連記事及び出典

1 関連記事

後遺障害等級の判断と,慰謝料の金額計算は段階を分けて確認する。治療中の精神的損害についてはむち打ちの入通院慰謝料と通院期間別の計算例,後遺障害慰謝料を含む種類・基準の整理については交通事故の慰謝料相場と計算方法を参照されたい。入通院分,後遺障害分及び最終的な支払額を同じ額として扱わないことが重要である。

①交通事故の後遺障害とは―等級・認定の流れ・慰謝料と必要資料
②交通事故の後遺障害14級―認定基準・慰謝料・逸失利益の確認
③むち打ち症の症状固定時期―判断要素,後遺障害等級及び医学的知見
④後遺障害14級9号でも画像所見はあるのか―12級13号との違い

2 出典

①自動車損害賠償保障法施行令別表第二(現行の12級13号,14級9号)。
②広島高裁平成16年5月26日判決,平成15年(ネ)第94号。公開PDF2頁~4頁(既往症,後遺障害,素因減額,過失相殺及び既払金)。
③甲府地裁平成17年10月12日判決,平成15年(ワ)第438号。公開PDF4頁~7頁(医師の意見,14級の認定,職業上の支障及び損害額)。
④名古屋地裁令和4年10月5日判決,令和3年(ワ)第1305号。公開PDF3頁~4頁,6頁~9頁(自賠責非該当,画像所見,頚部痛,仕事への支障及び素因減額)。
⑤京都地裁平成28年8月30日判決,平成26年(ワ)第2685号,判例秘書L07151556。主文,第2の2,第3の1(1)~(7)及び第3の2。裁判所の統合検索では掲載を確認できなかった。判例秘書で事件番号又は判例番号から検索できる(契約・ログインが必要)。

本記事は各判決本文に記載された認定・判断を要約したものであり,訴訟で提出された全ての画像・診療録そのものを再評価したものではない。
各判決の上訴後の経過・確定の有無は確認していないため,確定判決であるとの前提では紹介していない。