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遺言を一部執行し残りを遺産分割協議で変更する場合―代償金・税務・信託銀行報酬(AI作成)

第1 問題の所在と結論

遺言に預貯金・有価証券と不動産の取得者がそれぞれ指定されているとき,金融資産だけを遺言どおりに移し,不動産について相続人全員の協議で取得者を変更する案がある。この場合,金融資産を移した事実だけで不動産についての協議が無効になるわけではないが,「残りは未分割の遺産である」「代償金と書けば必ず相続税だけで済む」ともいえない。遺言の文言,遺産の帰属,遺言執行の進捗,協議の当事者と対象,金銭支払の実質を分けて確認する必要がある。

相続税について,国税庁の「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」は,「特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言」があり,相続人全員で異なる分割をした事例への回答である。複数の財産について取得者を定めた遺言の一部を執行し,別の財産だけについて協議する事例を直接扱っていない。この違いを踏まえずに贈与税の心配はないと断定すべきではない。

第2 最初に財産ごとに確認すること

1 遺言による帰属と執行の対象

まず,財産目録の各行について,①遺言のどの条項が取得者を定めるか,②遺言執行者は誰か,③実際に執行の対象となるか,④払戻し・名義変更・登記がどこまで進んだかを照合する。「その他一切の財産」などの残余財産条項も確認する。遺言の特定財産承継条項がある財産を,手続が済んでいないという理由だけで当然に未分割財産と扱うことはできない。

2 遺言執行者の就職と契約上の範囲

信託銀行が遺言で指定されていても,就職の有無,受任・辞退・辞任の段階,対象財産,すでに行った手続を確認する。銀行の一般的な案内でも,相続人と財産の状況を確認してから遺言執行者に就職し,調査対象は遺言執行対象財産に限ると説明されている(三菱UFJ信託銀行「お手続きの流れ」)。個別の遺言と契約の内容が優先するため,公開案内だけで当該銀行の義務や報酬を決めることはできない。

第3 協議の範囲と順序

1 遺産全体について最初の協議をする場合

相続人全員と必要な受遺者が,遺言と異なる取得関係を遺産全体について合意できる見込みがあるなら,執行前に協議書をまとめる方法がある。各財産の最終取得者,代償金,支払期限,費用負担,遺言執行者への連絡を一通の協議書と別紙財産一覧で示しやすい。ただし,遺言執行者が就職済みの場合はその権限との関係を先に整理し,銀行の辞退・辞任に要する条件と費用も確認する。

2 金融資産を執行し,別の財産だけ協議する場合

協議の対象を一部の財産に限ること自体は検討できるが,「遺言による金融資産の取得」と「別の財産の協議による取得」を時系列で説明できるようにする必要がある。協議書には対象財産と対象外財産を具体的に分け,先行する執行,遺言による取得,代償金の趣旨,残余財産の扱いを明記する。遺言で特定の人への帰属が既に定められている財産については,協議の名称だけで相続税上の取得原因まで確定するわけではない。

3 協議が成立しない場合

全員の合意が得られなければ,遺言の内容と遺言執行者の権限を基礎に手続を進めることになる。成立するか不明の段階で,協議が成立したことを前提に金融機関への指図,代償金の送金,登記を先行させるべきではない。法定の申告・登記の期限がある場合は,合意待ちと期限対応を別に管理する。

第4 代償金の性質と相続税

1 真正な代償分割の場合

国税庁の「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」は,現物を取得した人が他の共同相続人等に債務を負担する代償分割について,支払者の課税価格から代償財産の価額を控除し,受取者の課税価格に加算する取扱いを示す。代償金を支払者の固有の現金から出すこと自体は,この説明と矛盾しない。ただし,固有の現金で支払えば必ず代償分割になる,という意味ではない。

民事上の代償金は,具体的相続分と現物取得額の差額と機械的に一致しなければならないものではない。寄与分・特別受益,評価の違い,紛争解決のための譲歩などを踏まえて合意する余地がある。一方,金額を自由に合意できるという民事上の問題と,その金銭が税務上も相続に伴う代償債務と認められるかという問題は別である。協議前に遺言で定められた帰属,遺産全体の取得額,評価資料,金額の算定経緯を確認する必要がある。

2 評価方法による課税価格の違い

代償金が対象財産の分割時の通常の取引価額を基に決められた場合,相続税の課税価格に算入する代償財産の額は,単純な支払額と異なり得る。国税庁No.4173は,相続開始時の相続税評価額と分割時の通常取引価額との割合を用いる例を示している。協議書には,時価,評価基準日,評価根拠,代償金の算定方法を残し,申告書との整合を税理士と確認する。

第5 低額譲渡と評価される場合の税務

遺言で特定の人が財産を取得した後,別の人に金銭と引換えに移したと評価されれば,後の移転は真正な代償分割と異なる課税関係になり得る。国税庁の「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」によれば,個人間で財産を著しく低い価額で譲り受けた場合,時価と対価との差額は贈与により取得したものとみなされる。判定は個々の事案による。法人向けの「時価の2分の1未満」という基準を,個人間取引の一律の安全基準にすることはできない。

土地については通常の取引価額がこの検討の出発点になる。ただし,見積もった時価から代償金を差し引いた全額が直ちに課税される,と計算することもできない。まず取得原因が相続に伴う分割なのか,遺言による取得後の有償移転なのかを検討し,土地の権利関係と評価の妥当性,遺産全体の配分と他の負担,金銭の実際の授受を調べる必要がある。有償移転と整理される場合には,譲渡した側の所得税・住民税の検討も別途必要となる。

第6 信託銀行報酬を含む三つの選択肢

1 比較する三つの案

①銀行が対象の金融資産について遺言を執行し,別財産は関係者が協議する案,②執行前に遺産全体について協議し,銀行の就職や対象変更を調整する案,③協議が不成立なら遺言どおり執行する案を並べる。①には金融機関との手続を任せる便益がある一方,協議書・登記・税務申告は別の担当者と費用が必要になり得る。②は法律関係を一通の協議書と一覧表で示しやすいが,全員の合意が前提である。③は合意不成立時の現実的な経路として残る。

2 報酬額と作業範囲を三列で照合する

報酬を比較するときは,①報酬計算の基礎に入る財産,②銀行が実際に執行する財産,③相続人・他の専門家に残る仕事と費用を分けて確認する。銀行が金融資産だけを扱うことが,直ちに不合理とはいえない。口座数や証券の種類,換価・送金の負担,銀行の専門性,合意成立の見込みによって便益が変わる。一方,高額の報酬に見合う作業がどこまで含まれるかは,個別契約で確かめなければならない。

三菱UFJ信託銀行の公開料金ページには,2019年10月1日現在と明記されたプラン別の手数料,遺言執行報酬,辞任時の報酬が掲載されている。特定の契約の現在の請求額をこのページから推定せず,契約書,適用プラン,対象財産額,既に行った作業と見積書で比較する。また,遺言執行者報酬は相続税の債務控除の対象となる被相続人の債務と同列には扱えない(国税庁・相続税基本通達13-2参照)。

第7 協議書と税務申告に残す資料

①遺言全文と財産目録,②相続開始時・協議時の各財産の評価資料,③遺言執行者の就職・辞退・辞任及び作業の記録,④対象財産を特定した全員の合意書,⑤代償金の算定資料と支払原資,⑥振込記録,⑦登記と金融機関の移転記録,⑧相続税申告書の取得者別内訳を,同じ財産番号で照合できるようにする。誰がいつどの財産をどの原因で取得したかが,後から資料だけで追える状態を目指す。

課税関係に重要な不確実性が残るときは,執行や送金の前に,遺言・協議書案・評価資料をそろえて税理士と個別に検討する。特に遺言で定められた取得者と協議後の取得者が異なり,代償金と時価の隔たりが大きいときは,協議書に「代償分割」と記すだけで解決したことにしない。

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第9 出典

①国税庁「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4176.htm
②国税庁「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4173.htm
③国税庁「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」(令和8年4月1日現在法令等) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4423.htm
④国税庁「相続税法基本通達・第13条《債務控除》関係」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/03.htm
⑤三菱UFJ信託銀行「遺言信託[遺心伝心]・お手続きの流れ」 https://www.tr.mufg.jp/yuigonshintaku/yuigonshintaku_02.html
⑥三菱UFJ信託銀行「遺言信託[遺心伝心]・費用について」(ページ表示は2019年10月1日現在) https://www.tr.mufg.jp/yuigonshintaku/yuigonshintaku_03.html