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裁判所で廃棄された著名事件の記録―少年事件52件・憲法判例百選の民事事件35件と廃棄の原因(最高裁の調査報告書の別紙)(AI作成)

第1 本記事の概要

1 資料

最高裁判所事務総局は,令和5年5月,「裁判所の記録の保存・廃棄の在り方に関する調査報告書」(以下「報告書」という。)を公表した。
報告書は,神戸連続児童殺傷事件の少年保護事件記録が特別保存に付されないまま廃棄されていたこと等を受け,「事件記録の保存・廃棄の在り方に関する有識者委員会」の意見を聴きながら調査した結果をまとめたものである。

本記事は,報告書の本体のうち,廃棄された事件の一覧である別紙1-1(少年事件)・別紙2-1(憲法判例百選に掲載された民事事件等)・別紙3-1(特別保存に付された後の廃棄事案)と,廃棄の経緯と原因を分析した本文20頁~30頁を整理する。
報告書の本体は,裁判所HPの「裁判所の記録の保存・廃棄の在り方に関する調査報告書について」のページに掲載されている(令和8年9月19日確認)。

2 用語

当時の事件記録等保存規程9条には,保存期間満了後も保存する特別保存が2種類あった。
1項特別保存は,特別の事由により保存の必要がある記録を保存するもので,現在の「保存期間の延長」に当たる。
2項特別保存は,史料又は参考資料となるべき記録を保存するもので,令和6年1月30日に施行された事件記録等の特別保存に関する規則の「特別保存」(永久保存)に引き継がれた。
現在の制度は,令和6年全国統一運用・裁判所の特別保存制度で説明している。

第2 廃棄の背景

1 保存期間の短縮と記録庫の狭隘

報告書20頁によれば,記録庫の狭隘化が深刻になり,保存及び廃棄の事務が停滞していたことから,記録庫の狭隘解消と円滑な事務処理のための方策として,平成11年の保存規程の改正により保存期間が見直され,民事訴訟事件の事件記録の保存期間は10年から5年に短縮された。
その後,平成31年2月に東京地方裁判所の記録廃棄の問題が発覚して運用要領が策定されるまで,記録の保存に係る規律に大きな改正はなく,2項特別保存の件数も低調な状態が続いた。

令和8年5月21日以後に提起された訴えに係る事件の記録については,新しく定められた「電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができる事件の事件記録保存規程」(令和7年最高裁判所規程第4号)により,保存期間が原則10年とされた。
詳しくはmints後の裁判記録の保存期間で説明している。

2 運用要領の策定前の状況

報告書20頁によれば,令和2年に運用要領が策定される前は,2項特別保存の事務処理要領等を明文化していた庁は約2割にとどまり,運用通達の基準を具体的かつ客観的にし,詳細な認定プロセスまで定めた庁はなかった。
2項特別保存の認定時期が定まっていない庁も相当数あった。

第3 廃棄された少年事件(別紙1-1)

1 一覧

別紙1-1は,報道機関から問合せのあった少年事件の概要を,報道機関からの問合せや保存票の記載のまま掲げている。
番号1~52は廃棄された事案,番号53~59は2項特別保存に付されていた事案である。
類型は,次の第3の2の分類による(報告書21頁~27頁)。

番号事件の概要(報告書の記載のまま)裁判所報告書の分類
平成3年に札幌市北区内の道職員夫婦が殺害され、遺体が同市東区中沼町の原野に遺棄された事件札幌家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
平成4年3月に、高知市内において、15歳の兄が妹を殺害した事件高知家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
平成4年12月、札幌市内で両親を刺殺した事件札幌家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
平成5年4月に男子生徒2人が東淀川区の中学3年生を殺害した事件大阪家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
平成7年2月 西尾市立東部中学のいじめ自殺名古屋家裁岡崎支部廃棄(類型Ⅲ)
平成9年の神戸連続児童殺傷事件神戸家裁本庁廃棄(類型Ⅰ)
平成9年8月23日夜、稲美町の神社で、少年10人(当時14~16歳)が、被害少年(当時15歳)に集団暴行を加えた事件神戸家裁姫路支部廃棄(類型Ⅲ)
平成10年の黒磯北中学校の女性教師刺殺事件宇都宮家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
発生日・逮捕日 平成10年3月9日埼玉県東松山市立東中で1年男子が同級生に刺されて死亡した事件さいたま家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
10発生日・逮捕日 平成10年5月12日千葉県四街道市で長男らが父親を殴って殺害した事件千葉家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
11平成10年7月に、高校生が同じ学校の同級生から暴行を受けたあとに自殺した事件広島家裁福山支部廃棄(類型Ⅲ)
12御母衣湖で平成10年8月、当時22歳の男性が遺体で見つかった集団暴行事件岐阜家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
13平成10年に中学3年の少年が寝屋川市で女性を刺殺した事件大阪家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
14平成12年に愛知県豊川市で当時17歳の少年が夫婦を殺傷した事件名古屋家裁本庁廃棄(類型Ⅱ)
15発生日・逮捕日 平成12年5月13日埼玉県入間市の高校2年生が男女3人にリンチされ死亡した事件さいたま家裁川越支部廃棄(類型Ⅲ)
16平成12年7月6日に母親を金属バットで殴打した少年の殺人未遂、傷害事件岡山家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
17輪之内町で平成12年6月、高校2年の男子生徒が中学時代の元同級生らに集団リンチを受けて死亡した事件岐阜家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
18平成12年8月14日に大野郡野津町で発生した、当時15歳の少年による家族6人殺傷事件大分家裁本庁廃棄(類型Ⅱ)
19平成12年12月23日に清水市立中学校の生徒がアパートの隣人を刺殺した事件静岡家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
20兵庫県御津町タクシー運転手強盗殺人事件神戸家裁姫路支部廃棄(類型Ⅲ)
21いわゆる「〇〇君事件」①罪名 傷害致死 決定年月日 平成13年5月23日②罪名 傷害致死 決定年月日 平成13年5月16日大津家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
22平成13年9月に静岡県御殿場市内で当時15歳の少女に乱暴しようとしたとして当時16歳の少年が強姦未遂容疑で逮捕された事件静岡家裁沼津支部廃棄(類型Ⅲ)
23平成14年に中高生が逮捕された東村山市のホームレス暴行殺人事件東京家裁八王子支部(現立川支部)廃棄(類型Ⅲ)
24平成14年に発生した熊谷市の路上で中学生二、三人がホームレスを暴行し死亡させた事件さいたま家裁熊谷支部廃棄(類型Ⅲ)
25平成14年11月、山梨県塩山市の少年2人(19歳、18歳)を傷害致死と傷害の疑いで逮捕。同月15日夜駐車場で、県立高校生2人に殴る蹴るの暴行をした疑い。甲府家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
26平成15年4月24日に横浜市港北区で発生した、高校3年生の少年が父親の頭を壁に押し付けるなどして死亡させた傷害致死事件横浜家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
27平成15年の男児誘拐殺人事件長崎家裁本庁廃棄(類型Ⅰ)
28平成15年9月、岐阜市雲雀ヶ丘の市立本荘中学校で包丁を持った同中学卒業生の大工見習いの少年(15歳)が立てこもった事件岐阜家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
29平成15年11月1日に起こった当時18歳の少年と当時16歳の交際相手の女子少年が家族を殺傷した事件大阪家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
30平成16年2月に大阪地裁所長が重傷を負った強盗致傷事件大阪家裁本庁廃棄(類型Ⅱ)
31平成16年の佐世保大久保小事件長崎家裁佐世保支部廃棄(類型Ⅰ)
32平成16年8月9日に、石狩市の高校1年生の男子少年が同級生の母親をナイフで刺して殺害した事件札幌家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
33平成16年に発生した元少年(17歳)による金沢夫婦2人を強盗殺人した事件金沢家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
34平成17年6月10日に発生した光高校の爆破事件山口家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
35平成17年6月23日に福岡市南区で17歳の兄を殺害したとして中学3年の少年(当時15歳)が殺人容疑で逮捕された事件福岡家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
36平成17年に中学1年男子生徒が母親を暴行し死亡させた事件大阪家裁本庁廃棄(類型Ⅳ)
37事件名 強盗致死等,審判日 平成18年10月16日福島家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
38平成17年に静岡県伊豆の国市で当時17歳の女子高生が、母親にタリウムを摂取させ殺人未遂で逮捕された事件静岡家裁沼津支部廃棄(類型Ⅲ)
39兵庫県姫路市ホームレス焼死事件神戸家裁姫路支部廃棄(類型Ⅱ)
40平成18年1月26日に盛岡市内で発生した、高校生(当時16歳)が母親(当時39歳)を殺害した事件盛岡家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
41中津川市のパチンコ店空き店舗で平成18年4月、中学2年の女子生徒が殺害された事件岐阜家裁本庁廃棄(類型Ⅱ)
42平成18年に奈良県田原本町で発生した、高校1年生の男子生徒による自宅への放火殺人事件奈良家裁本庁廃棄(類型Ⅰ)
43稚内市内において平成18年8月28日に発生した少年2名(うち1名は被害女性の子供)の犯行による女性殺人事件旭川家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
44平成18年12月、岡崎市のホームレス襲撃事件名古屋家裁岡崎支部廃棄(類型Ⅲ)
45事件名 殺人、死体損壊,審判日 平成20年2月26日福島家裁会津若松支部廃棄(類型Ⅱ)
46平成19年8月に高校生の集団暴行により当時高校3年の男子が死亡した事件函館家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
47平成19年8月20日に発生した上関で祖父が殺害された事件山口家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
48平成19年に京田辺市で起こった警察官の父親を娘が殺害した事件京都家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
49平成20年1月に八戸で発生した母子殺害事件青森家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
50平成20年にあった熊野市の保険外交員が少年に殺害された事件津家裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
51平成22年7月9日、兵庫県宝塚市の民家で放火事件があり、家族3人が死傷した事件神戸家裁本庁廃棄(類型Ⅳ)
52平成24年に亀岡で起きた暴走事故京都家裁本庁廃棄(類型Ⅱ)・廃棄(類型Ⅳ)
53犯行当時18歳であった少年が、被害者に対する強姦致死、被害乳児に対する殺人及び被害者管理の現金等在中の財布の窃取を犯した事案(光市母子殺人事件)山口家裁本庁特別保存(2項特別保存)
54平成12年5月3日に発生した当時17歳の少年によるバス乗っ取り(バスジャック)事件(西鉄バスジャック事件)佐賀家裁本庁特別保存(2項特別保存)
55少年が、母親を多数回の殴打等により死亡させた事件山口家裁本庁特別保存(2項特別保存)
56平成22年に石巻市内で起きた少年の交際相手の親族等3人に対する殺傷事件仙台家裁本庁特別保存(2項特別保存)
57平成25年8月に起きた当時18歳の少年による三重県朝日町内における中3女子死亡事件津家裁本庁特別保存(2項特別保存)
58名古屋大学の女子大生が知人女性を殺害した事件名古屋家裁本庁特別保存(2項特別保存)
59危険運転致死、道路交通法違反(送致された事件につき検察官送致の決定がされ、地裁に起訴されたものの、地裁において少年法55条の移送決定がされ家裁に係属したが、再度検察官送致決定がされ再び地裁に起訴された後、地裁において再度移送決定がされ家裁に係属した事件)大阪家裁本庁特別保存(2項特別保存)

2 廃棄に至った経緯の分類

報告書20頁~27頁は,関係職員からの聴取結果に基づき,廃棄事案を次の類型に分けている。

① 類型Ⅰ(少年事件4件):当該事件の記録が廃棄対象に含まれることを認識し,特別保存に付すかどうかが検討された類型
② 類型Ⅱ(少年事件7件):廃棄対象に含まれることを認識したが,特別保存に付すかどうかは詳細に検討されなかった類型
③ 類型Ⅲ(少年事件39件,民事事件35件):当該事件の記録が保存されている認識がなく,廃棄対象に含まれることも認識していなかった類型
④ 類型Ⅳ:令和2年の運用要領の策定後に,運用要領が遡って当てはめられずに廃棄された類型

報告書は,これらの調査は複数の庁の廃棄事案を例として行ったもので,関係職員の認識や行動をもたらした要因には最高裁によるこれまでの不適切な対応があり,「あくまでその責任は最高裁にあることを付言しておく」と述べている(21頁)。

3 類型Ⅰの事件

(1) 神戸連続児童殺傷事件(番号6)

報告書21頁~22頁によれば,関係職員は2項特別保存の要件に当たる可能性があると考え,所長にも記録が廃棄対象になる旨の話がされていた。
しかし,所長は,自分が2項特別保存に付するか否かを検討しなければならない立場にあるとの認識を持っておらず,2項特別保存の判断はされなかった。
廃棄担当の管理職は,特別保存の権限も首席書記官にあると考えていたこともあって自分で判断しなければならないと考え,これまで神戸家裁で特別保存に付した事件はないと聞いていたこと,保存期間満了後既に2年が経過していること,少年事件は非公開であること,記録庫の狭隘などを考慮し,所長に正式に諮ることなく廃棄を指示した。
「希な事件,前代未聞の事件であり,貴重な資料となるから保存するべき」と述べる裁判官もいたが,その問題意識が所長に伝わることはなかった。

(2) その他の3件(番号27・31・42)

報告書22頁によれば,平成15年の男児誘拐殺人事件(番号27)では,相談を受けた管理職が,全国的に社会の耳目を集めた事件ではなく調査研究の対象にもならないなどとして要件に該当しないと考えた。
佐世保大久保小事件(番号31)では,管理職が地域限定的な事件との印象を受け,全国的に社会の耳目を集めた事件ではないと考えた。
奈良県田原本町の放火殺人事件(番号42)では,管理職が,先例となる事件ではなく,継続的に報道されていなかったなどと考えた。
いずれも複数の職員が記録の存在を認識していたが,所長に相談等はされなかった。

4 類型Ⅱ・Ⅲ・Ⅳの要因

報告書22頁~23頁は,類型Ⅱで検討が詳細にされなかった要因として,どのような事件が対象になるかの基準がなかったこと,特別保存は終局時に判断するものと考えられていた一方で終局時にも検討されていなかったこと,検討の話題が出ても引き継がれなかったこと,「特別保存対象事件記録」と書いた紙が記録と一緒にされていても検討につながらなかったこと,少年事件の記録はプライバシーの問題から原則廃棄と考えられていたこと等を挙げている。

報告書23頁~24頁は,類型Ⅲについて,廃棄の決裁が事件番号や冊数を記載した「廃棄目録」だけを確認する事務フローになっており,「特別保存に付すべき記録が廃棄目録にあがっていないか」という視点で検討されることがなかったと指摘している。
職員の認識として,特別保存の対象は「全国的な事件で国難に値するような事案」「法改正につながった事案」等であるとか,少年事件の記録は保存期間が満了したら廃棄するのが当然である,といったものがあった。

報告書26頁~27頁は,類型Ⅳ(番号36・51・52)について,運用要領の策定前に終局した事件に日刊紙2紙掲載基準を遡って当てはめる方策が十分でなく,最高裁が代替策として周知した下級裁判所裁判例速報には少年事件が掲載されていないことが認識されていなかったこと等を挙げている。
全国調査では,運用要領の実施日以前に終局した事件の記録について2項特別保存を検討する仕組みがなかった庁は112庁中71庁あった。

5 保存されていた少年事件(番号53~59)

報告書27頁~28頁によれば,番号53~56(光市母子殺人事件,西鉄バスジャック事件等)が運用要領の策定前に2項特別保存に付されたきっかけは,上級庁で記録を使用する可能性があったこと,著名事件の記録が事実上保存されていることに管理職が疑問を呈したこと,廃棄の準備をしていた管理職が記録の厚みから重大な事件だと考えたこと等であった。
報告書は,いずれも庁として認定プロセスが確立して機能したケースではなかったとしている。
番号57~59は運用要領の策定後に,職員のパソコンに保存されていた著名事件メモや担当者の記憶,インターネットの記事などから洗い出して特別保存に付されたものである。

第4 廃棄された憲法判例百選の民事事件(別紙2-1)

1 一覧

別紙2-1は,憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第6版〕(番号35は〔第7版〕)に掲載された事件のうち,調査の対象とした民事事件等である。
番号1~35は廃棄された事案(いずれも類型Ⅲ),番号36~38は2項特別保存に付されていた事案である。
裁判所欄は記録を保存していた裁判所である。
裁判の表示は,報告書の表記を裁判所HPの裁判例検索で照合し(令和8年9月19日確認),事件番号と裁判所HPの掲載誌の表示を括弧内に示した。
報告書が判例時報又は金融法務事情の頁で表示している番号2・12・36・38は,裁判所HPの表示(集民又は民集)に置き換えた。

番号最高裁判所の裁判事項(報告書の記載)記録を保存していた裁判所結果
最高裁大法廷平成17年1月26日判決(平成10年(行ツ)第93号,民集59巻1号128頁)外国人の公務就任権東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁第二小法廷平成16年11月29日判決(平成15年(オ)第1895号,集民215号789頁)戦後補償―韓国人戦争犠牲者補償請求事件東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁第二小法廷平成15年9月12日判決(平成14年(受)第1656号,民集57巻8号973頁)講演会参加者リストの提出とプライバシー侵害東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁第一小法廷平成20年3月6日判決(平成19年(オ)第403号,民集62巻3号665頁)住基ネットの合憲性大阪地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁第三小法廷平成12年2月29日判決(平成10年(オ)第1081号,民集54巻2号582頁)自己決定権と信仰による輸血拒否東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁大法廷平成20年6月4日判決(平成18年(行ツ)第135号,民集62巻6号1367頁)届出による国籍の取得と法の下の平等―国籍法違憲判決東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁第三小法廷平成8年3月19日判決(平成4年(オ)第1796号,民集50巻3号615頁)強制加入団体の政治献金と構成員の思想の自由―南九州税理士会政治献金事件熊本地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁第二小法廷平成23年5月30日判決(平成22年(行ツ)第54号,民集65巻4号1780頁)「君が代」起立・斉唱の職務命令と思想・良心の自由東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
最高裁第一小法廷平成8年1月30日決定(平成8年(ク)第8号,民集50巻1号199頁)宗教法人の解散命令と信教の自由―宗教法人オウム真理教解散命令事件東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
10最高裁第二小法廷平成8年3月8日判決(平成7年(行ツ)第74号,民集50巻3号469頁)宗教上の理由に基づく「剣道」の不受講神戸地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
11最高裁第一小法廷平成14年7月11日判決(平成11年(行ツ)第93号,民集56巻6号1204頁)即位の礼・大嘗祭と政教分離の原則鹿児島地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
12最高裁第三小法廷平成14年9月24日判決(平成13年(オ)第851号,集民207号243頁)プライバシー侵害と表現の自由―「石に泳ぐ魚」事件東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
13最高裁第二小法廷平成15年3月14日判決(平成12年(受)第1335号,民集57巻3号229頁)少年事件の推知報道―長良川事件報道訴訟名古屋地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
14最高裁第一小法廷平成17年7月14日判決(平成16年(受)第930号,民集59巻6号1569頁)公立図書館の蔵書と著作者の表現の自由東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
15最高裁第三小法廷平成18年10月3日決定(平成18年(許)第19号,民集60巻8号2647頁)取材源の秘匿と表現の自由新潟地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
16最高裁第三小法廷平成13年12月18日判決(平成9年(行ツ)第21号,民集55巻7号1603頁)情報公開と個人情報の本人開示―レセプト情報公開請求事件神戸地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
17最高裁大法廷平成14年2月13日判決(平成12年(オ)第1965号,民集56巻2号331頁)証券取引法164条1項の合憲性東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
18最高裁大法廷平成11年3月24日判決(平成5年(オ)第1189号,民集53巻3号514頁)接見指定の合憲性福島地裁郡山支部廃棄(類型Ⅲ)
19最高裁大法廷平成14年9月11日判決(平成11年(オ)第1767号,民集56巻7号1439頁)国家賠償責任の免除・制限と憲法17条―郵便法違憲判決神戸地裁尼崎支部廃棄(類型Ⅲ)
20最高裁第二小法廷平成19年9月28日判決(平成17年(行ツ)第246号,民集61巻6号2345頁)障害基礎年金と受給資格―学生無年金障害者訴訟東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
21最高裁大法廷平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号,民集59巻7号2087頁)在外日本国民の選挙権東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
22最高裁大法廷平成24年10月17日判決(平成23年(行ツ)第51号,民集66巻10号3357頁)参議院における議員定数不均衡東京高裁廃棄(類型Ⅲ)
23最高裁大法廷平成11年11月10日判決(平成11年(行ツ)第8号,民集53巻8号1577頁)衆議院小選挙区比例代表並立制の合憲性東京高裁廃棄(類型Ⅲ)
24最高裁大法廷平成11年11月10日判決(平成11年(行ツ)第35号,民集53巻8号1704頁)衆議院小選挙区比例代表並立制の合憲性東京高裁廃棄(類型Ⅲ)
25最高裁大法廷平成23年3月23日判決(平成22年(行ツ)第207号,民集65巻2号755頁)一人別枠方式の合理性東京高裁廃棄(類型Ⅲ)
26最高裁大法廷平成16年1月14日判決(平成15年(行ツ)第15号,民集58巻1号1頁)参議院非拘束名簿式比例代表制の合憲性東京高裁廃棄(類型Ⅲ)
27最高裁大法廷平成16年1月14日判決(平成15年(行ツ)第24号,民集58巻1号56頁)参議院非拘束名簿式比例代表制の合憲性(報告書の記載。裁判所HPの判示事項は,参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の合憲性)東京高裁廃棄(類型Ⅲ)
28最高裁第一小法廷平成9年3月13日判決(平成8年(行ツ)第193号,民集51巻3号1453頁)連座制仙台高裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
29最高裁大法廷平成8年8月28日判決(平成8年(行ツ)第90号,民集50巻7号1952頁)駐留軍用地特措法およびその沖縄県における適用の合憲性―沖縄代理署名訴訟福岡高裁那覇支部廃棄(類型Ⅲ)
30最高裁第三小法廷平成9年9月9日判決(平成6年(オ)第1287号,民集51巻8号3850頁)国会議員の免責特権―国会議員の発言と国家賠償責任札幌地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
31最高裁大法廷平成10年12月1日決定(平成10年(分ク)第1号,民集52巻9号1761頁)裁判官の政治運動―寺西事件仙台高裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
32最高裁大法廷平成18年3月1日判決(平成12年(行ツ)第62号,民集60巻2号587頁)国民健康保険と租税法律主義―旭川市国民健康保険条例事件旭川地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
33最高裁第一小法廷平成23年9月22日判決(平成21年(行ツ)第73号,民集65巻6号2756頁)租税法律における遡及的立法千葉地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
34最高裁第一小法廷平成14年1月31日判決(平成8年(行ツ)第42号,民集56巻1号246頁)立法の委任―委任の範囲奈良地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
35最高裁第三小法廷平成24年2月28日判決(平成22年(行ツ)第392号,民集66巻3号1240頁)生活保護基準改定による老齢加算廃止東京地裁本庁廃棄(類型Ⅲ)
36最高裁大法廷平成25年9月4日決定(平成24年(ク)第984号,民集67巻6号1320頁)嫡出性の有無による法定相続分差別東京家裁本庁特別保存(2項特別保存)
37最高裁大法廷平成22年1月20日判決(平成19年(行ツ)第260号,民集64巻1号1頁)神社敷地としての市有地の無償提供―空知太神社事件札幌地裁本庁特別保存(2項特別保存)
38最高裁第一小法廷平成25年3月21日判決(平成22年(行ヒ)第242号,民集67巻3号438頁)自治体の課税権―神奈川県臨時特例企業税事件横浜地裁本庁特別保存(2項特別保存)

2 保存されていた3件のきっかけ

報告書28頁によれば,番号37(空知太神社事件)は,記録廃棄の準備をしていた担当職員が,特別保存に関する首席書記官指示の改訂を担当していたこともあって著名事件であることに気付き,上司に相談したことがきっかけであった。
番号36(婚外子の法定相続分の違憲決定)と番号38(神奈川県臨時特例企業税事件)は,東京地裁で著名事件の記録が廃棄されていたことが報道されている状況の下で,大学教授からの閲覧申請や記者からの問合せをきっかけに検討されたものである。
報告書は,これらも庁として認定プロセスが確立して機能したケースではなかったとしている。

第5 特別保存に付された後の廃棄と,運用要領の策定後の廃棄

1 特別保存に付された後の廃棄(別紙3-1)

別紙3-1は,大分地方裁判所本庁の2項特別保存に付されていた民事事件等6件(平成22年(ワ)第222号,平成24年(ワ)第69号,同第557号,平成24年(行ウ)第6号,平成25年(ワ)第106号,同第554号)と,熊本地方裁判所本庁の1項特別保存に付されていた平成16年(モ)第10001号を掲げている。

報告書29頁によれば,大分地裁の事案では,2項特別保存の事務を担当していた管理職が,特別保存記録の抽出を一部しか行わず,記録表紙に朱書きをせず,事件管理システムのマニュアルと異なる箇所に入力し,後任者に引継ぎもしなかった。
その結果,システムから出力した廃棄目録に当該事件が載り,他の職員は特別保存の記録であることを認識できずに廃棄した。
報告書は,担当者のヒューマンエラーと不十分な引継ぎが直接の原因であるが,背景に担当者への業務の集中があったとしている。
熊本地裁の事案は,保存票や事件管理システムの内容の確認が不十分であったことによるとされている。

2 運用要領の策定後の廃棄

報告書27頁によれば,平成28年に終局したオリンパス内部通報事件の記録は,東京地裁が運用要領の策定後に報道状況のリストを代替策として用いていたものの,そのリストが判決で終局した事件だけを対象としていたため,和解で終局した同事件が抽出されずに廃棄された。
東京地裁では,最高裁判所刑事判例集に登載されていた医療観察事件1件の記録も,過去の登載状況の調査を行わないまま廃棄された。

第6 弁護士の実務から見た意味

① 判決で終局した事件だけが報道リストで拾われ,和解で終局した事件が漏れた例がある。和解で終わった公益的な事件や内部通報の事件は,終局時に特別保存を要望しておくことが考えられる。
② 記録庫の狭隘や「記録は原則として廃棄するもの」という認識が廃棄の背景にあった。当事者や代理人が記録の価値を具体的に伝えなければ残らないことがある。
③ 現在は,特別保存に付さない認定をしようとする場合には最高裁の「記録の保存の在り方に関する委員会」に意見を求める仕組みがある。委員会の審議状況は記録の保存の在り方に関する委員会の議事要旨で整理している。
④ 要望の期限や窓口は裁判所ごとに異なる。大阪の裁判所については大阪地方裁判所・大阪家庭裁判所に事件記録の特別保存・保存期間延長を要望する方法で説明している。
⑤ 判決原本の国立公文書館への移管の経緯は,民事事件の判決原本の国立公文書館への移管で説明している。

第7 出典

① 最高裁判所事務総局「裁判所の記録の保存・廃棄の在り方に関する調査報告書(本体)」(令和5年5月。本文20頁~30頁,別紙1-1,別紙2-1,別紙3-1)
② 裁判所「裁判所の記録の保存・廃棄の在り方に関する調査報告書について」
③ 裁判所「事件記録の保存・廃棄の在り方に関する有識者委員会について」
④ 事件記録等の特別保存に関する規則(令和5年最高裁判所規則第9号。令和8年5月14日改正まで反映したもの)
⑤ 電子情報処理組織を使用する方法により申立て等を行うことができる事件の事件記録保存規程(令和7年最高裁判所規程第4号)
⑥ 裁判所HP裁判例検索(別紙2-1の38件の詳細ページ。第4の1の表の各裁判にリンクしている)