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役員等の第三者に対する責任(会社法429条)の消滅時効は10年―最高裁昭和49年12月17日判決(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 結論

取締役等の役員等が職務を行うについて悪意又は重大な過失があり,それによって第三者に損害を与えた場合の損害賠償責任(会社法429条1項)には,最高裁判例の考え方によれば,不法行為の消滅時効(民法724条の3年)は適用されない。
最高裁昭和49年12月17日判決は,この責任の前身である商法266条の3第1項前段の責任について,消滅時効期間は10年であると判示した。

同判決は,取締役の責任は法が特に認めた責任であって不法行為責任ではないから民法724条は当然には適用されず,類推適用する余地もないとして,債権の一般原則である改正前民法167条1項(10年)を適用した。
令和2年4月1日以後に生じた請求権については,現行民法166条1項が適用され,権利を行使することができることを知った時から5年,権利を行使することができる時から10年のいずれか早い方で時効が完成すると考えられる。

したがって,不法行為構成の3年が経過していても,会社法429条1項の責任は時効にかかっていないことがある。
ただし,現行法の下では「10年」だけでなく「知った時から5年」にも注意する必要がある。

役員等の会社に対する任務懈怠責任(会社法423条1項)についても,最高裁平成20年1月28日判決は,前身の商法266条1項5号の責任の消滅時効期間を商事時効の5年ではなく民法の10年とした。

2 本記事の対象と調査基準日

本記事は,役員等の第三者に対する責任(会社法429条)の消滅時効を中心に,会社に対する責任(会社法423条)の消滅時効と遅延損害金に触れる。
責任の成立要件(悪意・重過失,損害の範囲等)は扱わない。

調査基準日は令和8年9月19日である。
条文はe-Gov法令検索(法令API)で取得した現行条文と照合し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判決全文を確認した。
消滅時効全般の論点は,ハブ記事の消滅時効に関するメモ書きで整理している。

第2 最高裁昭和49年12月17日判決

1 判示事項と結論

最高裁判所第三小法廷昭和49年12月17日判決(昭和49年(オ)第768号,民集28巻10号2059頁)の判示事項は,「商法二六六条の三第一項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間」である。
裁判要旨は,「商法二六六条の三第一項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は一〇年と解すべきである。」というものである。
上告は棄却され,同旨の原審(大阪高等裁判所)の判断が維持された。

2 理由

同判決は,第三者の取締役に対する損害賠償請求権に民法724条の適用があるかどうかは,取締役の責任の法的性質と,民法724条が短期消滅時効を設けた趣旨等の観点から検討して決すべきであるとした。

第一に,取締役の責任は,法がその責任を加重するため特に認めたものであって,不法行為責任たる性質を有するものではないから,不法行為責任に関する消滅時効の特則である民法724条は当然に適用されるものではないとした。
この点について,同判決は最高裁大法廷昭和44年11月26日判決を引用している。

第二に,民法724条が短期消滅時効を設けた趣旨は,不法行為に基づく法律関係が,通常,未知の当事者間に予期しない偶然の事故に基づいて発生するため,加害者が極めて不安定な立場に置かれるので,被害者が損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利を行使しないときは加害者を保護することにあるとした。
これに対し,取締役の責任は,通常,第三者と会社との間の法律関係を基礎として生ずるものであって,取締役は不法行為の加害者のような不安定な立場に立たされるわけではないから,民法724条を適用すべき実質的論拠はなく,類推適用する余地もないとした。

その上で,消滅時効期間については他に特に定めた規定がないから,改正前民法167条1項を適用すべきであるとした。

3 大法廷昭和44年11月26日判決との関係

最高裁判所大法廷昭和44年11月26日判決(昭和39年(オ)第1175号,民集23巻11号2150頁)は,商法266条ノ3第1項前段の規定について,取締役が悪意又は重大な過失により会社に対する義務に違反し,よって第三者に損害を被らせたときは,任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係がある限り,会社が損害を被った結果ひいて第三者に損害を生じた場合(間接損害)であると,直接第三者が損害を被った場合(直接損害)であるとを問わず,取締役が直接第三者に対し損害賠償責任を負うことを定めたものであるとした。

昭和49年判決は,この大法廷判決を引用して,第三者に対する責任を不法行為責任とは異なる法定の特別の責任と位置付け,そこから消滅時効期間を導いている。
会社法429条1項は,「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めており,同じ構造を引き継いでいる。
対象となる役員等は,取締役,会計参与,監査役,執行役及び会計監査人である(会社法423条1項)。

第3 現行法の下での時効期間

1 民法166条1項の5年・10年

昭和49年判決は,「他に特に定めた規定がない」ことを理由に債権の一般原則を適用した。
現行の会社法にも,会社法429条の責任の消滅時効について特に定めた規定は見当たらない。
そうすると,現行法の下での一般原則は民法166条1項であり,権利を行使することができることを知った時から5年(1号),権利を行使することができる時から10年(2号)のいずれか早い方で時効が完成すると考えられる。

「消滅時効は10年」という昭和49年判決の結論は,改正前民法167条1項が債権の時効期間を一律に10年としていたことによる。
現行法の下では,権利を行使することができることを知った時から5年の主観的な時効期間が加わっているから,「10年」だけを前提に時効を管理するのは危険である。
改正後の会社法429条の責任について,民法166条1項1号の5年の適用や主観的起算点の具体的な判断を示した最高裁判例は,調査基準日時点で確認できなかった。

2 起算点

客観的起算点(権利を行使することができる時)は,損害賠償請求権が成立した時,すなわち第三者に損害が発生した時と考えられる。

主観的起算点(権利を行使することができることを知った時)は,第三者が,損害の発生と,それが役員等の悪意又は重大な過失による任務懈怠によるものであることを,権利行使が可能な程度に知った時と考えるのが自然である。
例えば,取引先の会社が倒産して売掛金が回収不能となった債権者が,後に破産管財人の調査報告等で代表取締役の放漫経営を知ったという場合には,回収不能となった時ではなく,任務懈怠の事実を知った時が問題となり得る。
もっとも,この点を正面から判示した最高裁判例は確認できなかったので,実務では早い方の時点を基準に管理するのが安全である。

3 経過措置

施行日(令和2年4月1日)前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合で,その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。)の消滅時効の期間は,改正前民法による(平成29年法律第44号附則10条4項)。
会社法429条の責任は法律の規定によって生ずるものであるから,基本的には第三者に損害が発生した時期が施行日の前か後かで振り分けることになると考えられる。
施行日前に損害が発生していれば,昭和49年判決のとおり,権利を行使することができる時から10年(改正前民法166条1項・167条1項)で判断する。

経過措置の振り分けの詳細は,消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表で扱う。

4 不法行為構成との比較

第三者は,役員等に対し,会社法429条1項の責任と並んで,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求することも考えられる。
両者の期間制限を比べると,次のとおりである。

構成主観的な期間客観的な期間根拠
会社法429条1項(令和2年4月1日以後に生じた請求権)権利を行使することができることを知った時から5年権利を行使することができる時から10年民法166条1項
会社法429条1項(令和2年3月31日以前に生じた請求権)なし権利を行使することができる時から10年改正前民法167条1項,昭和49年判決
不法行為損害及び加害者を知った時から3年不法行為の時から20年民法724条

会社法429条1項の責任は,要件の面では役員等の悪意又は重大な過失を要するが,軽過失を含む不法行為よりも主観的な時効期間が長い。
他方,客観的な期間は不法行為の20年の方が長いので,損害発生から10年を超えた事案では,不法行為構成を検討する余地がある。
不法行為の消滅時効の起算点は,不法行為の損害賠償請求権の消滅時効―3年・5年・20年と「損害及び加害者を知った時」の意義で扱う。

第4 会社に対する責任(会社法423条)の消滅時効

1 最高裁平成20年1月28日判決

最高裁判所第二小法廷平成20年1月28日判決(平成18年(受)第1074号,民集62巻1号128頁)は,銀行の取締役に対する商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条1項5号に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間が争われた事案である。

同判決は,同号に基づく取締役の会社に対する損害賠償責任は,取締役がその任務を懈怠して会社に損害を被らせることによって生ずる債務不履行責任であるが,法によってその内容が加重された特殊な責任であって,商行為たる委任契約上の債務が単にその態様を変じたにすぎないものということはできないとした。
また,取締役の会社に対する任務懈怠行為は外部から容易に判明し難い場合が少なくないことを考慮すると,商事取引における迅速決済の要請は妥当しないとした。
その上で,消滅時効期間は,改正前商法522条所定の5年ではなく,改正前民法167条1項により10年と解するのが相当であると判示した。

2 現行法

商法522条(商事消滅時効)は,平成29年法律第45号による改正で削除され,商行為によって生じた債権も民法166条1項によることとなった。
したがって,現行法の下では,会社法423条1項の責任についても,第三者に対する責任と同様に,民法166条1項の5年・10年が問題になると考えられる。

株主代表訴訟で役員等の会社に対する責任を追及する場合も,請求権は会社のものであるから,時効の起算点や完成猶予・更新は会社の請求権について判断することになる。
「権利を行使することができることを知った時」を会社の誰の認識で判断するかについては,最高裁判例を確認できなかった。

役員等の責任の追及方法や会社内部の対抗手段については,完全子会社の取締役・監査役が親会社に対抗する方法―解任・報酬・監査権限及び企業不祥事の「分岐点」と内部統制―例外運用,違和感の記録及び取締役の責任も参照されたい。

第5 遅延損害金との関係

役員等の責任は法定の特別の責任であり,不法行為責任ではないという位置付けは,遅延損害金にも影響する。

最高裁判所第一小法廷平成元年9月21日判決(昭和59年(オ)第15号,集民157号635頁)は,商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段所定の損害賠償債務は履行の請求を受けた時に履行遅滞となり,その遅延損害金の利率は年5分であると判示した。
不法行為に基づく損害賠償債務のように不法行為の時から当然に遅滞に陥るのではなく,期限の定めのない債務として請求の時から遅滞に陥るということである。

会社に対する責任についても,最高裁判所第一小法廷平成26年1月30日判決(平成24年(受)第1600号,集民246号69頁)は,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条1項5号に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であって履行の請求を受けた時に遅滞に陥り,遅延損害金の利率は商事法定利率の年6分ではなく民法所定の年5分であると判示した。
同判決は,その理由として平成20年判決を引用している。

現行法の下では,期限の定めのない債務は履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負い(民法412条3項),遅延損害金の利率は債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率による(民法419条1項)。
遅延損害金の利率の経過措置と現在の法定利率は,遅延損害金の利率は年3%か年5%か―令和2年4月1日の経過措置,商事法定利率の廃止及び3年ごとの見直しで扱う。

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①ハブ記事:消滅時効に関するメモ書き
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第7 出典・参考資料

1 法令

会社法423条,429条,430条(e-Gov法令APIで令和8年9月19日に取得した現行条文)
民法404条,412条,419条,166条,724条(同上),改正前民法167条(令和2年3月31日時点)
③民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条,15条,17条
④改正前商法522条(令和2年3月31日時点。平成29年法律第45号により削除)

2 裁判例

最高裁判所大法廷昭和44年11月26日判決(昭和39年(オ)第1175号,民集23巻11号2150頁)
最高裁判所第三小法廷昭和49年12月17日判決(昭和49年(オ)第768号,民集28巻10号2059頁)
最高裁判所第一小法廷平成元年9月21日判決(昭和59年(オ)第15号,集民157号635頁)
最高裁判所第二小法廷平成20年1月28日判決(平成18年(受)第1074号,民集62巻1号128頁)
最高裁判所第一小法廷平成26年1月30日判決(平成24年(受)第1600号,集民246号69頁)