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別冊判例タイムズ39号(過失相殺率の認定基準・全訂6版)の改訂点-自転車同士の事故の新設,新しい事故類型,基本の過失相殺率の変更及び高齢者の年齢(AI作成)

第1 本記事の対象と改訂点の要約

1 対象とする資料

本記事は,令和8年3月30日に発行された別冊判例タイムズ39号『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(以下「全訂6版」という)が,前版である別冊判例タイムズ38号(全訂5版。以下「全訂5版」という)から何を変えたかを整理するものである。
全訂6版は,菊池憲久堂薗幹一郎伊東智和の3名の編であり,はしがきによれば,令和5年度及び令和6年度に東京地方裁判所民事第27部(交通部)に在籍した裁判官が中心となって検討及び執筆をしたものである(全訂6版2頁)。
同書は,昭和50年の別冊判例タイムズ1号以来,平成3年,平成9年,平成16年及び平成26年に改訂されており,全訂6版は全訂5版から約11年ぶりの全訂版となる(同書1頁)。

本記事は,全訂6版のはしがき(1頁~2頁),序章「改訂のポイント」(24頁~28頁),用語集及び改訂に関係する各基準の頁を原本で確認し,令和8年9月19日現在の道路交通法及び同法施行令の条文をe-Gov法令検索で確認した上で,AIを用いて整理したものである。
全訂6版は596頁に及ぶので,本記事は改訂された箇所に対象を絞り,改訂されていない基準の内容は扱わない。
東京地方裁判所民事第27部の担当事件や全訂6版の位置付けは,東京地裁民事第27部(交通部)―担当事件,新受件数,共通書式及び証拠提出で触れている。

2 改訂点の要約

全訂6版の改訂点は,次のとおりである。
①自転車同士の事故に関する章(第6章)を新設した(はしがき2頁,26頁~27頁)。
②第3章,第4章,第5章及び第8章に,新しい事故類型の基準を設けた(【Ⅲ-53】,【Ⅲ-57】,【Ⅳ-58】~【Ⅳ-65】,【Ⅳ-70】,【Ⅴ-58】~【Ⅴ-65】,【Ⅷ-3】,【Ⅷ-5】,【Ⅷ-6】。はしがき2頁)。
③押しボタン式歩行者用信号のある交差点で交差道路から進入した車両の基本の過失相殺率を30%から20%に下げた(【Ⅲ-9】。25頁)。
④道路外から道路に進入する車両と直進車の事故について,右折と左折の基準を統合し,直進車の基本の過失相殺率を20%から10%に下げた(【Ⅲ-50】。25頁)。
⑤転回中の事故と転回終了直後の事故の基準を統合した(【Ⅲ-59】。25頁)。
⑥高速道路上の事故で,追突車側の視認不良の修正率を-10%から-10%~-30%に広げた(27頁)。
⑦修正要素の「高齢者」の意味を,おおむね65歳以上からおおむね70歳以上に引き上げた(28頁)。
⑧路上横臥者の事故で,泥酔して横臥していた場合には児童・高齢者等の修正要素を適用しないこととした(【Ⅰ-47】,【Ⅰ-48】。24頁)。
⑨自転車が時速15キロメートル程度を大幅に超える速度で走行していた場合の扱いを定めた(25頁~26頁)。
⑩各章の冒頭にあった用語の説明を序章の用語集にまとめ,基準の番号を「章番号+章ごとの通し番号」に改めた(28頁)。

第2 全訂6版を使うときの前提

1 過失割合ではなく被害者の過失相殺率を定める

全訂6版は,各当事者の「過失割合」ではなく,被害者(損害賠償請求権の権利者)の「過失相殺率」の判断基準を定めるものである(はしがき1頁)。
過失相殺率を定めるに当たっては,事故当事者の純粋な過失割合だけでなく,被害者の要保護性,危険責任の原則及び優者危険負担の原則の観点も考慮すべきであるという考え方によっているからである(同頁,22頁~23頁)。
そのため,事故車両の種別が異なるだけで他の事故態様が同じであっても,過失相殺率が異なることがある(はしがき1頁)。

2 基準ごとの前提条件を確かめる

全訂6版の各基準は,典型的な事故態様を前提として基本の過失相殺率を定めたものであり,基準ごとに適用の前提となる条件を設けている(はしがき1頁)。
前提条件を誤ったまま基準を当てはめると,同書が想定する過失相殺率とは異なる結果になりかねないとされている(はしがき1頁)。
また,実際の事故態様は千差万別であるから,事故態様や個別事情を捨象して機械的に当てはめるのではなく,基本の過失相殺率と修正要素の背景にある考え方を理解して柔軟に用いることが望まれるとされている(はしがき1頁~2頁)。
被害者にも過失があったことを前提とする類型でも,個別の事情から被害者に過失がないと認められるときは,その類型を適用して過失相殺をするのは相当でないとされている(同2頁)。

3 基準の番号が変わった

全訂5版は,全ての図に通し番号を付けていたが,全訂6版は第6章の新設に伴い,章番号と章ごとの通し番号で表す方式に改めた(28頁)。
例えば,四輪車同士の事故の基準は【Ⅲ-1】から始まる。
全訂5版の番号と全訂6版の番号の対照表は,同書の末尾(591頁以下)に掲載されている。
以前の書面や示談交渉の記録に全訂5版の番号が書かれている場合は,この対照表で全訂6版の番号を確かめる必要がある。

また,全訂5版では各章の冒頭にも主要な修正要素の意味・内容を記載していたが,全訂6版は一覧性の観点から序章の用語集にまとめ,各章冒頭の記載を原則として削除した(28頁)。

第3 自転車同士の事故(第6章)の新設

1 新設の経緯

全訂5版は,歩行者と自転車の事故の基準を設けたが,自転車同士の事故については,議論がまだ十分でないとして基準化を見送っていた(26頁)。
全訂6版は,東京地方裁判所民事第27部の独自の集計によれば,自転車同士の事故に関する新受事件が歩行者と自転車の事故に関する新受事件よりも多い傾向にあることを挙げている(26頁,はしがき2頁)。
また,令和4年改正で全ての自転車利用者に乗車用ヘルメットの着用が努力義務とされ,令和6年改正で自転車運転中の携帯電話等の使用が禁止され,自転車の酒気帯び運転の罰則が設けられ,さらに反則金制度が令和8年4月1日に導入されるなど,自転車運転者に交通法規の遵守を求める改正が続いていることも挙げている(26頁)。
その上で,これまで発表されている研究成果や裁判例等を踏まえて,新たに基準化することにしたとされている(同頁)。

2 基準の作り方

自転車同士の事故の態様としては,基本的に四輪車同士の事故と同様の態様が考えられるから,第3章「四輪車同士の事故」の基準の四輪車を自転車に置き換えて過失相殺率を基準化することが原則とされた(26頁~27頁)。
もっとも,第5章「自転車と四輪車・単車との事故」の事故態様のうち,自転車同士の事故でも起きることがまれではないと思われるものは,第5章を参考に基準化されている(27頁)。
さらに,自転車は路側帯(歩行者用路側帯を除く)や歩道を通行することができる場合があり,生活道路を通行する場合も多いことから,対向する自転車同士の事故と同一方向に進行する自転車同士の事故は,歩道以外の道路上の事故と歩道上の事故に分けて基準化された(同頁)。

逆に,四輪車同士の事故の基準の一部は,自転車同士の事故では基準化しないこととされた(27頁)。
例えば,直進車が赤信号で進入し右折車が青(黄)信号で進入した後に赤信号で右折した場合(【Ⅲ-14】,【Ⅲ-15】),右折車同士の事故(【Ⅲ-33】~【Ⅲ-36】,【Ⅲ-46】~【Ⅲ-49】)等である(同頁)。
また,転回車と直進車の事故は,道路外出入自転車と直進自転車の事故(【Ⅵ-47】)や交差点以外における横断自転車の事故(【Ⅵ-55】,【Ⅵ-56】)を参考にして個別に検討するのが相当とされている(同頁)。

3 主な基本の過失相殺率

第6章の主な基準の基本の過失相殺率は,次の表のとおりである。
数値は,表の左側に書いた当事者:右側に書いた当事者の順である。

事故類型基準基本の過失相殺率
交差点の出合い頭(青信号車と赤信号車)【Ⅵ-1】青信号車0:赤信号車100467頁~468頁
交差点の出合い頭(黄信号車と赤信号車)【Ⅵ-2】黄信号車20:赤信号車80469頁~470頁
交差点の出合い頭(赤信号車同士)【Ⅵ-3】50:50471頁~472頁
信号機のない同幅員の交差点【Ⅵ-4】左方車45:右方車55473頁~474頁
対向車同士(歩道以外の道路上・歩道上)【Ⅵ-48】,【Ⅵ-49】50:50530頁~532頁
停車中の自転車に対する追突【Ⅵ-54】追突車100:被追突車0539頁~540頁

第6章の各基準と,日弁連交通事故相談センター東京支部過失相殺研究部会の「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」の数値との対照は,自転車の青切符とは-対象年齢,反則金一覧,赤切符になる場合及び過失割合・自転車保険との関係の第7の4で整理している。

4 類型化の限界

全訂6版は,自転車同士の事故は,その制御の容易性等から,自動車同士の事故以上に衝突の事故態様の個別性が大きく多種多様であり,類型化には相当なじみにくいと指摘されてきたとしている(26頁)。
その上で,具体的な適用に当たっては,事案により,各基準が想定している事故態様にそもそも該当するのかという点についても十分吟味し,修正要素についてもその趣旨を理解した上で,その数値を画一的に適用するのではなく,その数値を増減させるなどの柔軟な態度で利用されたいとしている(同頁)。
今後の実務における運用や批判を踏まえて,更に適切な基準に改善していく努力を重ねる必要があるとも述べている(同頁)。

第4 四輪車同士の事故(第3章)の改訂

1 押しボタン式歩行者用信号のある交差点(【Ⅲ-9】)

一方道路の車両用信号が赤色を表示し,交差道路の横断歩道に押しボタン式の歩行者用信号が青色を表示している交差点(交差道路には車両用信号がない)で,交差道路から進入した車両と,赤信号を無視して一方道路から進入した車両が出合い頭に衝突した事故の基準である(231頁~232頁)。
全訂5版は,交差道路から進入した車両の基本の過失相殺率を30%としていた(25頁)。
全訂6版は,一方道路の信号が赤信号である場合,交差道路から進入する車両は,一方道路を走行する車両が交差点に進入してくることはないと信頼して走行するのが通常であり,一方道路を走行する車両には赤信号無視という重大な過失が認められることから,これを20%に修正した(25頁,232頁)。
したがって,【Ⅲ-9】の基本の過失相殺率は,交差道路から進入した車両20:一方道路から赤信号で進入した車両80である(232頁)。

交差道路から進入した車両が狭路や非優先道路から進入した場合でも,【Ⅲ-9】はその車両の信頼を保護する観点から基準化しているものであるから,広路・優先道路等の通行方法の規制による修正はしないとされている(232頁)。

2 道路外から道路に進入する車両(【Ⅲ-50】)

全訂5版は,道路外から道路に進入する車両と直進車の事故について,路外車が右折で進入する場合と左折で進入する場合を分けていたが,全訂6版はこれを統合して【Ⅲ-50】とした(25頁)。
また,全訂5版は直進車の基本の過失相殺率を20%としていたが(全訂5版【147】,【148】),交差点において非優先道路から優先道路に右左折で進入する場合(【Ⅲ-26】,【Ⅲ-32】)の直進車の基本の過失相殺率が10%とされていることとの均衡から,【Ⅲ-50】では直進車の基本の過失相殺率を10%に修正した(25頁)。
したがって,【Ⅲ-50】の基本の過失相殺率は,直進車10:路外車90である(285頁)。

路外車が右折を完了してから直進車に追突された場合の「既右折」の修正は,路外車が右折し,直進車が左方から直進してきた場合にのみ適用され,路外車が左折する場合と直進車が右方から直進してきた場合には適用されないとされている(285頁)。
これらの場合は,いわば出合い頭事故であるからである(同頁)。

3 狭路等のすれ違いが困難な道路における事故(【Ⅲ-53】)

道路の左側部分の幅員が車両の通行のため十分でないときなどは,車両は道路の中央から右の部分にはみ出して通行することができる(道路交通法17条5項2号)。
全訂6版は,このような道路における対向車同士の事故を直進車とセンターオーバー車の事故(【Ⅲ-52】)の対象外とした上で,狭路等のすれ違いが困難な道路における事故の基準を新たに設けた(25頁)。
【Ⅲ-53】は幅員が狭い道路を前提としており,このような道路では中央を越えて走行することも想定されるので,道路の中央をはみ出したか否かは原則として考慮要素とならないとされている(291頁)。

【Ⅲ-53】の基本の過失相殺率は,50:50である(291頁)。
主な修正要素は,待避所(道路構造令30条)があるのに待避しなかった場合の30%,待避可能な場所があるのに待避しなかった場合の10%~20%,相手方と比べて車幅等が大きい場合の5%~10%,徐行しなかった場合の10%~20%であり,いずれもその事情がある当事者の側に加算される(291頁~292頁)。

4 発進車と後続直進車の事故(【Ⅲ-57】)

道路左側端に沿って駐停車した車両が発進する際,必然的に右寄りに進路を変更して他の車両が通行する進路に戻ることが多い(25頁)。
全訂6版は,発進車については,停止状態からの発進のタイミングは基本的に発進車側において制御可能である一方,後続直進車にとっては予想することが容易でないこと,速度が低速で後続直進車の進行を妨げる程度が進路変更車よりも大きいことを挙げて,同一方向に進行する車両同士の進路変更車の事故(【Ⅲ-56】)とは別に,発進車と後続直進車の事故の基準を新たに設けた(25頁,299頁)。

【Ⅲ-57】の基本の過失相殺率は,後続直進車20:発進車80である(300頁)。
進路変更車と後続直進車の事故(【Ⅲ-56】)の基本の過失相殺率が後続直進車30:進路変更車70であるのと比べて(297頁),発進車の過失が重くみられている。
なお,渋滞車列への割り込みの際に車列の車両と衝突した場合や,停留所で乗客の乗降のため停車していた乗合自動車が発進した場合は,【Ⅲ-57】の対象外とされている(299頁)。

5 転回車と直進車の事故(【Ⅲ-59】)

全訂5版は,転回中の事故と転回終了直後の事故を分けていたが(全訂5版【155】,【156】),時間的に連続性のある類型であり,既転回の場合に直進車の過失割合を修正することで足りることから,全訂6版はこれを統合した(25頁)。
【Ⅲ-59】の基本の過失相殺率は,直進車20:転回車80であり,転回車が転回を完了している場合(既転回)には直進車に10%を加算する(305頁)。

第5 単車・自転車と四輪車の事故(第4章・第5章)の改訂

1 丁字路交差点の出合い頭事故(単車と四輪車)

全訂6版は,四輪車同士の丁字路交差点での事故の各基準や単車と四輪車の十字路交差点での事故の各基準等も参考として,丁字路交差点において単車と四輪車が出合い頭に衝突した事故の基準を新たに設けた(25頁~26頁,【Ⅳ-58】~【Ⅳ-65】)。
突き当たり路から丁字路交差点に入ろうとする右左折車は,交差する直線路を通行する車両等に注意するだけで足りるので,十字路交差点におけるよりも注意がしやすいといえる一方,直線路の直進車も,突き当たり路から進入する車両等は徐行してくるであろうと期待するのが一般の運転慣行であると考えられることが理由とされている(358頁)。

各基準の基本の過失相殺率は,次の表のとおりである(359頁,362頁)。

道路の優先関係単車が直線路直進・四輪車が突き当たり路から右左折四輪車が直線路直進・単車が突き当たり路から右左折
同幅員単車20:四輪車80(【Ⅳ-58】)単車60:四輪車40(【Ⅳ-62】)
一方が明らかに広い道路(直線路が広路)単車15:四輪車85(【Ⅳ-59】)単車65:四輪車35(【Ⅳ-63】)
突き当たり路に一時停止の規制あり単車15:四輪車85(【Ⅳ-60】)単車65:四輪車35(【Ⅳ-64】)
直線路が優先道路単車10:四輪車90(【Ⅳ-61】)単車70:四輪車30(【Ⅳ-65】)

また,単車が道路外に出るために右折する場合の基準(【Ⅳ-70】)も新たに設けられた(26頁,370頁)。

2 丁字路交差点の出合い頭事故(自転車と四輪車等)

自転車と四輪車・単車の丁字路交差点における出合い頭の事故類型についても,新たに基準が設けられた(26頁,【Ⅴ-58】~【Ⅴ-65】)。
【Ⅴ-62】~【Ⅴ-65】は,自転車が突き当たり路から右左折する場合のほか,直進して直線路を横断する場合も含めて想定している(436頁)。
なお,第5章でいう自転車の右折は,特に断らない限り,自転車に右折方法違反がある場合をいい,基本の過失相殺率もこれを考慮して設定されているので,自転車がいわゆる二段階右折(道路交通法34条3項)を行っている場合は,これを直進車として考慮する等,別途の考慮が必要となるとされている(434頁)。

道路の優先関係自転車が直線路直進・四輪車等が突き当たり路から右左折四輪車等が直線路直進・自転車が突き当たり路から進入
同幅員自転車20:四輪車等80(【Ⅴ-58】)自転車30:四輪車等70(【Ⅴ-62】)
一方が明らかに広い道路(直線路が広路)自転車10:四輪車等90(【Ⅴ-59】)自転車40:四輪車等60(【Ⅴ-63】)
突き当たり路に一時停止の規制あり自転車10:四輪車等90(【Ⅴ-60】)自転車45:四輪車等55(【Ⅴ-64】)
直線路が優先道路自転車10:四輪車等90(【Ⅴ-61】)自転車50:四輪車等50(【Ⅴ-65】)

いずれの基準でも,自転車側の児童等・高齢者や自転車横断帯通行は,自転車側の減算要素とされている(435頁,437頁)。

3 自転車が時速15キロメートル程度を大幅に超える速度で走行していた場合

全訂5版は,自転車が,いわゆる普通の速度(時速15キロメートル程度)を大幅に超える速度(原動機付自転車の制限速度である時速30キロメートル程度が目安)で走行していた場合は,歩行者と四輪車・単車との事故の基準を参考にして過失相殺率を検討するのが妥当であるとしていた(25頁)。
全訂6版は,修正の有無や程度については,一律に速度を決められるものではなく,車線数,道路幅員,制限速度等の諸般の事情に応じて判断されるのが相当であるとした上で,次のとおり定めた。
①歩行者と自転車の事故では,自転車が時速15キロメートルを大幅に超える速度で走行していた場合,第1章「歩行者と四輪車・単車との事故」の基準の基本の過失相殺率を上限として,著しい過失又は重過失による修正を加えるのが相当である(25頁)。
②自転車と四輪車・単車との事故でも,自転車が時速15キロメートルを大幅に超える速度で走行していた場合,著しい過失又は重過失による修正を加えるのが相当である(26頁)。

第6 歩行者,高速道路及び駐車場の事故の改訂

1 路上横臥者の事故(【Ⅰ-47】,【Ⅰ-48】)

歩行者と四輪車・単車との事故(第1章)は,全訂5版の内容を基本的に維持しつつ,路上横臥者等の事故(【Ⅰ-47】,【Ⅰ-48】)に関して,児童・高齢者,幼児・身体障害者等の修正要素について,高齢者や身体障害者等が泥酔して路上に横臥していた場合には,判断能力や身体能力が低い者を保護するという修正要素の趣旨が妥当しないと考えられることから,その場合には当該修正要素を適用しないこととした(24頁)。

2 高速道路上の事故の視認不良

高速道路上の事故における修正要素のうち「視認不良」について,全訂5版は追突車側の視認不良の場合の修正率を-10%としていた(27頁)。
全訂6版は,高速道路も見晴らしの良い直線の高速道路ばかりではなく,一般に高速道路においては高速で走行していることもあり,視認不良の影響が大きいことがあることを踏まえて,修正率を-10%~-30%とした(同頁)。

3 駐車場内の事故

駐車場内の事故については,全訂5版で基準が設けられたが,全訂6版は,駐車場の特殊性を踏まえた注意義務の内容等を基本的に踏襲しつつ,駐車場内の四輪車同士の事故類型として,次の3つの基準を新たに設けた(27頁~28頁)。

事故類型基準基本の過失相殺率
駐車区画から通路に進入しようとする四輪車(駐車区画退出車)同士の事故【Ⅷ-3】50:50578頁~579頁
通路から駐車区画に進入しようとする四輪車(駐車区画進入車)同士の事故【Ⅷ-5】50:50583頁~584頁
駐車区画進入車と駐車区画退出車の事故【Ⅷ-6】駐車区画進入車20:駐車区画退出車80585頁~586頁

【Ⅷ-6】で駐車区画退出車の過失を重くみるのは,通路進行車が駐車区画に進入することは駐車場の設置目的に沿った行動であって,駐車区画退出車は通路に進入する前の段階では駐車区画内で停止しているので,駐車区画進入車よりも容易に安全を確認し,衝突を回避することができるからとされている(585頁)。
いずれの基準も,双方の四輪車が前進であるか後退であるかにかかわらず適用される一方,双方の退出・進入の動作の開始に有意な時間差がある場合等は,基準によらず,具体的な事実関係に即して個別的に過失相殺率を検討すべきであるとされている(578頁,583頁,585頁)。

第7 修正要素の「高齢者」の年齢の引上げ

1 おおむね65歳以上からおおむね70歳以上へ

全訂6版は,高齢者が歩行者・自転車運転者である場合に過失相殺率を減算修正することとしている修正要素の「高齢者」の意味を,初版から全訂5版までのおおむね65歳以上から,おおむね70歳以上に引き上げた(28頁)。
用語集も,「高齢者」とは,おおむね70歳以上の者をいうとしている(35頁)。
なお,用語集によれば,「児童」とは6歳以上13歳未満の者をいい,「幼児」とは6歳未満の者をいう(同頁)。

2 引上げの根拠とされた道路交通法の規定

全訂6版は,道路交通法の規定との整合性を考える必要があるとして,次の規定を挙げている(28頁)。
①道路交通法14条5項は,高齢の歩行者等の保護の規定であるが,年齢についての定義はない。
②道路交通法71条の5第4項は,普通自動車対応免許を受けた者で70歳以上75歳未満のものについて,加齢に伴って生ずる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがあるときは,標識を付けて普通自動車を運転するように努めなければならないと定める。
③道路交通法101条の4第1項は,免許証等の更新を受けようとする者で更新期間が満了する日における年齢が70歳以上のものは,高齢者講習を受けていなければならないと定める。
④道路交通法63条の4第1項2号及び同法施行令26条2号により,普通自転車の運転者が70歳以上の者であるときは,歩道を通行することができる。

全訂6版は,このように自動車や自転車の運転に関し,70歳以上の者について身体能力及び判断能力の低下が生ずるものと扱われており,高齢化が進展し健康寿命も延びているという初版以降の社会動向も踏まえて,引上げを行ったと説明している(28頁)。

3 65歳以上70歳未満の者の扱い

全訂6版は,社会的にみて特段の保護を要求される度合いが強い場合には,その能力に応じ,児童・高齢者又は幼児・身体障害者等に類似したものとして扱ってよいことは全訂5版までと同様であり,65歳以上70歳未満の者についても,そのような場合には高齢者に準じた修正をする余地もあることを念のため指摘しておきたいとしている(28頁)。
したがって,被害者が65歳以上70歳未満である事故では,全訂5版の頃と同じように当然に「高齢者」の修正がされるわけではなく,高齢者に準じた修正をすべき事情があるかを具体的に主張することになる。

第8 実務上の注意点

1 相手方の提示が全訂5版の数値のままでないかを確かめる

示談交渉や訴訟で相手方が過失相殺率を示してきた場合,その根拠が全訂5版の基準番号や数値のままになっていないかを確かめる必要がある。
特に,【Ⅲ-9】(30%→20%),【Ⅲ-50】(20%→10%)の各類型では,全訂5版の数値によると交差道路から進入した車両や直進車の過失相殺率が10%高くなる。
これに対し,被害者が65歳以上70歳未満の歩行者・自転車運転者である場合は,被害者側が全訂5版の「高齢者」の減算修正を前提に主張していないかを確かめる必要がある。
全訂6版では,この年齢層の被害者について当然に「高齢者」の修正がされるわけではないからである。

2 自転車の事故は複数の基準を見比べる

自転車同士の事故では,全訂6版の第6章のほか,赤い本に収録されている第一次試案も参照されることがある。
全訂6版は第一次試案との違いを説明していないが,前記の自転車の青切符の記事で両者を対照したところでは,主な基本の過失相殺率は共通する一方,一時停止後に進入した場合の修正値(全訂6版は15%,第一次試案は20%)のように修正要素の数値が異なるものがある。
相手方がどちらの基準を根拠にしているかを最初に確かめることになる。

3 被害者の過失が大きい事故では請求の順序も検討する

全訂6版によって被害者の過失相殺率が大きく見込まれる事故では,自賠責保険の支払基準による重大な過失による減額と訴訟の過失相殺との違いから,請求の順序によって受け取れる額が変わることがある。
この点は,被害者の過失が大きい交通事故の請求順序-自賠責の重大な過失による減額,被害者請求及び訴訟の比較と計算例で整理している。

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第10 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「道路交通法」14条,17条,34条,63条の4,71条の5,101条の4。
②e-Gov法令検索「道路交通法施行令」26条。

2 文献

菊池憲久堂薗幹一郎伊東智和編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号,判例タイムズ社,令和8年)1頁~2頁,22頁~28頁,35頁,231頁~232頁,285頁,291頁~300頁,304頁~305頁,358頁~362頁,370頁,434頁~437頁,466頁~540頁,578頁~586頁,591頁。
②判例タイムズ社「別冊判例タイムズ39号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕」。