第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,大阪家庭裁判所が令和4年2月から運用している「総合支援型後見監督人」について,その理念,対象事案,9か月の当初支援期間の流れ,親族後見人の「到達点」,支援期間の延長,支援商品(後見制度支援信託及び後見制度支援預貯金)との関係,監督人の「横滑り」の可否及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文と附則は,法務省が公表した新旧対照条文と法律案本文で確認した。
素材は,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)181頁~225頁である。
本書は月刊大阪弁護士会の連載をまとめたもので,原則として各回の初出当時の運用を記載している(本書1頁)。
本記事の範囲は,連載第27回(令和3年10月号),第28回(令和3年12月号),第29回(令和4年2月号),第30回,第39回(令和6年2月号)及び第41回前編・後編(令和6年6月号・7月号)の各初出記事である。
第30回の初出号は本文の表示が読み取れないが,同じ回の小窓(本書66頁)が令和4年4月号初出とされているから,同号と考えられる。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ(令和8年9月19日取得。以下「大阪家裁ページ」という。),「【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和8年5月1日版。以下「総合支援型ハンドブック」という。),案内書面「後見開始の申立てをお考えの方へ~後見人支援のご案内~」(令和4年2月1日版。以下「後見人支援のご案内」という。)及び同ページ掲載の書式で確認し,確認できなかった点は本書の記載にとどまるものとして区別する。
後見監督人一般の選任基準,職務及び責任は後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編で,大阪家裁後見センターの組織と沿革は大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っているので,本記事では総合支援型に固有の事項を中心に書く。
2 結論
①総合支援型後見監督人は,初めて後見人となった親族後見人の後見事務全般を監督するほか,積極的・能動的に指導・助言・相談対応を行って親族後見人を総合的に支援する専門職の後見監督人であり,大阪家庭裁判所は令和4年2月1日以降に申し立てられた後見開始事件でこれを選任する運用を続けている。
②法律上の制度ではなく,民法の後見監督人(民法849条)の職務の範囲内で行う運用上の工夫であり,監督人の「支援」は監督事務に付随する事実行為と位置付けられている。
③対象は,親族の後見人候補者がいる後見類型の事案のうち,本人の流動資産が比較的高額な事案である。
本書にも大阪家庭裁判所の現行の公表資料にも,流動資産の基準額は書かれていない。
④当初支援期間は9か月であり,監督人は審判確定日から2か月と1週間以内に初回の監督事務報告書を,9か月後に2回目の監督事務報告書を提出し,2回目の報告で親族後見人が「到達点」に達したかどうかと今後の後見体制について意見を述べる。
⑤到達点は,意思決定支援,財産管理事務,身上保護事務,報告事務及び地域における相談窓口理解の5つの観点で定められており,専門職の後見人と同程度の水準を求めるものではない。
地域における相談窓口理解の到達点は,令和8年5月版の総合支援型ハンドブックで表現が具体化されている。
⑥支援期間は,後見開始の審判確定から最長2年の範囲で延長されることがあるが,本書によれば,延長された17件はいずれも到達点に達した後の支援商品の契約支援が理由であった。
当初支援期間の経過前に到達と判断して支援を終えることは予定されていない。
⑦支援商品の報告書兼指示書は,到達点に達したことを前提とするので,早くても2回目報告の直前に,到達の判断理由と併せて提出すべきものとされている。
⑧支援終了後に同じ専門職を定期確認型の監督人又は専門職後見人として続けさせる「横滑り」は,特段の事情がない限り認められず,個別課題支援型の監督人への横滑りは事情により認められている。
⑨令和8年改正により後見類型は廃止されて補助に一元化され,成年後見監督人も補助監督人に一元化されるが,施行日前に後見開始の審判を受けた本人とその成年後見人・成年後見監督人には原則として従前の例が適用される。
改正後の対象事案をどう定めるかについて,大阪家庭裁判所の公表資料は基準日現在見当たらない。
第2 前提となる後見監督人の職務と従来型の監督
1 後見監督人の職務と権限
家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被後見人,その親族若しくは後見人の請求により又は職権で,後見監督人を選任することができる(民法849条)。
後見監督人の職務は,後見人の事務を監督すること,後見人が欠けた場合に遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること,急迫の事情がある場合に必要な処分をすること,及び利益相反行為について被後見人を代表することである(民法851条)。
後見監督人には委任の規定(民法644条)が準用され,善良な管理者の注意をもって職務を行う(民法852条)。
財産の調査と目録の作成には後見監督人の立会いが必要であり(民法853条2項),後見監督人はいつでも後見人に事務の報告を求め,調査をすることができる(民法863条1項)。
後見人が民法13条1項各号に掲げる行為(元本の領収を除く。)を被後見人に代わってするには,後見監督人の同意を得なければならない(民法864条)。
後見人に不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,後見監督人も解任を請求することができる(民法846条)。
本書181頁~182頁は,後見監督人は,これらの法律上の監督事務に付随して,後見人の不適切な事務を防止するために必要な一定の指導,助言,相談対応といった事実行為を行うことも想定されているとする。
総合支援型後見監督人は,この付随的な事実行為の部分を大きく膨らませた運用である。
2 大阪家裁の従来の選任類型
本書182頁(連載第27回・令和3年10月号初出)は,大阪家裁後見センターが従来,①管理財産が多種・多額で財産管理が複雑困難である,後見人に不適切な財産管理の疑いがある,又は本人の流動資産額が高く不適切な事務を防止する必要が大きいといった事情から,原則として管理終了に至るまで後見監督人を付する場合と,②後見事務上の課題について後見人を支援する必要があるといった事情から,課題の解決等のため短期間に限って後見監督人を選任する場合を中心に後見監督人を選任してきたとする。
連載では,①を「継続管理型」,②を「スポット型」と呼んでいた(本書182頁注6)。
もっとも,①の場合でも,資産の売却や遺産分割といった課題が生じれば,民法864条の同意に付随する指導,助言等が期待されるから,①と②の違いを過度に強調すべきではないとされている(本書182頁)。
これに対し,総合支援型後見監督人の運用は,これまでの実務とは異質の理念・思想を含んでいるとされている(本書182頁注7)。
なお,大阪家庭裁判所の現行の公表資料には,「継続管理型」「スポット型」という名称は見当たらない。
他方,後記第6の4のとおり,現行の「監督事務報告書(2回目)【総合支援型】」には,総合支援型の支援終了後に移行する先として「後見監督人(定期確認型)」と「後見監督人(個別課題支援型)」の選択肢が置かれている。
3 監督人が指導・助言をする際の留意点
本書183頁~185頁は,総合支援型の前段として,従来型の後見監督人が後見人に指導・助言をする際の留意点を挙げている。
これらは,総合支援型の監督人にもそのまま当てはまると考えられる。
(1) 本人の意思の尊重と贈与・祝儀
後見人は,事務を行うに当たって本人の意思を尊重しなければならない(民法858条)。
本書183頁は,本人の意思は後見事務の指針の一つであって,本人の利益を保護するために本人の意思に沿わない行為をすることが相当な場合があり,とくに後見類型では本人の意思を確定すること自体が難しいことが多いとする。
その上で,例えば,本人が従前から相続税対策のために定期的に贈与をしていた場合や,繰り返し儀礼的な祝儀・進物をしていた場合には,本人の推定的意思が認められても,本人の利益保護の観点からこれを中止し又は減額することは可能であり,後見人が漫然と従前どおり続けている場合には,監督人は再考を促すべきかを検討する必要があるとしている。
他方で,本人の年齢,健康状態及び財産状況から今後の生活に支障が生じるおそれがうかがわれないのに,単に財産を減らすという理由で監督人が贈与の中止を促すことも適切ではないとし,意思の尊重と利益の保護のバランスをとった監督事務を求めている(本書183頁~184頁)。
(2) 裁量の逸脱・濫用――施設の転所と不動産の換価
本書184頁は,監督人は後見人の権限行使の全てを逐一チェックする必要はないが,行動の合理性に疑義があれば個別に趣旨を確認し,必要に応じて指導することが望まれるとする。
例として,換価可能な複数の不動産があり,換価すれば今後の費用を優に賄えるのに,後見人が預貯金の減少だけを理由に本人をより廉価な施設へ転所させようとしている場合を挙げる。
この場合,監督人は,転所が本人の利益にかなうのか,不動産を換価して費用を賄えないのかを後見人に検討させ,転所でサービスの質が落ちる上,後見人が親族による不動産の相続といった本人の利益以外の理由で換価に消極的であれば,権限の濫用に当たると指摘して事務を改めるよう指導する必要があるとされている。
本人の自宅を売却する場合の許可は,成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)で扱っている。
(3) 後見人の能力が低下したとき
本書184頁~185頁は,後見人の高齢化や体調悪化による事務処理能力の低下がみられても,親族や支援者の補完で後見事務に具体的な支障がない限り,直ちに解任事由があるとまではいえないのが通常であるとする。
監督人は,能力の低下がみられたら適時に後見人と意見交換をし,必要に応じて辞任許可の申立てや後見人の追加選任の申立てを勧め,具体的な支障がうかがわれるに至ったときは,裁判所に報告して追加選任の職権発動を促し,又は解任の申立てをすることが求められている(本書185頁)。
解任の要件は成年後見人の解任理由で,辞任と交代は成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレーで扱っている。
(4) 監督人が後見事務を肩代わりしてはならない
本書185頁注9は,実務上,後見監督人自身が継続的に後見事務を行ってその報告をしている事案があり,それを積極的に評価する傾向もあったと認めつつ,監督人は「急迫の事情がある場合」に必要な処分をすることができるにとどまる(民法851条3号)から,能力が低下した後見人に代わって継続的に後見事務を行う権限はなく,そのような事務処理は適切ではないとしている。
総合支援型の監督人も,親族後見人に代わって事務をするのではなく,親族後見人が自分でできるようにすることが役割である。
第3 総合支援型後見監督人の理念
1 定義と運用開始
大阪家裁ページは,大阪家庭裁判所では令和4年2月1日以降に申し立てられた後見開始事件について「総合支援型後見監督人」を選任する運用を行っているとし,これを,初めて後見人となった親族後見人の後見事務全般について,監督を行うほか,積極的・能動的に指導・助言・相談対応を行い,親族後見人を総合的に支援する後見監督人と説明している。
総合支援型ハンドブックⅠ頁も同じ定義を置いている。
申立てを考えている人に向けて,大阪家裁ページは申立前に後見人支援のご案内と「後見人に求められる後見事務のポイント」(令和8年5月1日版)を読むよう求めている。
2 なぜ家庭裁判所が親族後見人を支援するのか
本書186頁~188頁(連載第28回・令和3年12月号初出)は,平成29年3月24日閣議決定の成年後見制度利用促進基本計画が,財産管理だけでなく意思決定支援や身上保護も重視し,中核機関等による後見人支援(日常的な相談への対応,チームによる見守り,家庭裁判所との情報共有と交代等の連絡調整)の整備を求めていることから説き起こす。
その上で,後見人にふさわしい親族がいればその者を選任するのが望ましいが,初めて後見人になった親族は知識・経験を十分に身に付けていないことが多く,他方で中核機関等による支援体制も十分には整っていないという「狭間」において,家庭裁判所が考えた運用上の工夫が総合支援型後見監督人であると説明している(本書187頁~188頁)。
目的は,親族後見人に「一通りの後見事務を概ね問題なく行うことができる程度の力」を身に付けてもらうことである(本書188頁)。
3 中核機関等の支援との違い
本書189頁は,中核機関等による親族後見人の支援は地域の福祉サービス(権利擁護支援)として提供されるのに対し,総合支援型後見監督人の支援は,民法上後見監督人の事務として許容される範囲での,監督事務に付随する事実行為にとどまるとする。
両者は具体的場面で重なることが多いが,目的と範囲は本質的に異なり,相互に代替できるものではないとされている(本書189頁)。
したがって,総合支援型の監督人が付いていることは,地域包括支援センター等の支援を使わない理由にはならない。
後記第5の2のとおり,地域の相談窓口を知ることが到達点の一つとされているのは,この考え方の表れである。
4 「見張る人」から「支援する人」へ
本書200頁(連載第30回)は,総合支援型後見監督人の制度では,成年後見監督人の役割の少なくとも重要部分が,不適切な事務や不正を防止するために後見人を「見張る人」から,後見人の自立のために「支援する人」へと移行したと表現している。
もっとも,監督がなくなるわけではなく,本書194頁は,監督の中で指導・助言すべき事項が判明するという意味で,「支援」と「監督」は表裏一体であるとしている。
本書163頁も,親族後見人等による不適切な財産管理は,悪意をもって横領するというより,本人の財産と自分の財産を混同してしまうなど制度への知識不足・理解不足が原因である場合が多いといわれているとし,知識・理解を補う「支援」は不正の未然防止につながるから,総合支援型後見監督人も将来の不正防止に資するものとしている。
親族後見人による不正の実情は成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心にで扱っている。
第4 対象事案,選任の手続及び報酬
1 対象事案
本書189頁は,本来は親族を後見人に選任する事案の全てで総合支援型後見監督人を選任するのが望ましいが,専門職の給源,報酬の確保及び利用者の理解の観点から現実的でないため,差し当たり,親族後見人候補者が存在する事案のうち,本人の流動資産が比較的高額である後見類型の事案で運用を開始するとしていた。
本書205頁(連載第39回・令和6年2月号初出)も,親族後見人の選任が相当と考えられる事案のうち,本人の流動資産が比較的高額である後見類型の事案を対象としている。
保佐・補助の類型は対象とされていない(本書187頁注4)。
大阪家裁ページも,対象を「後見開始事件」としている。
流動資産の具体的な基準額は,本書にも,大阪家裁ページ,総合支援型ハンドブック及び後見人支援のご案内にも書かれていない。
この点について別の実務書に基づく目安を紹介した記事として,後見監督人とはがある。
2 選任される専門職
総合支援型後見監督人には,大阪弁護士会,公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート大阪支部及び大阪社会福祉士会(三士会)に所属する専門職が選任される(本書205頁)。
大阪家裁ページも,総合支援型後見監督人に選任された専門職として弁護士・司法書士・社会福祉士を挙げている。
本書206頁は,社会福祉士の選任が少ないのは,対象事案では支援商品の利用が必要なことが多く,そのような事案では支援商品の検討に携わってきた弁護士又は司法書士を原則として選任しているためであり,標準的な後見実務に通じた「後見のプロ」としてアドバイザー的に関与する点では職種による有意な差はないと考えているとしている。
3 申立てから開始まで
本書207頁は,総合支援型後見監督人の選任の要件に該当する事件は書面審理の対象とせず,参与員による受理面接又は家庭裁判所調査官による面接調査を実施して,申立人や後見人候補者に総合支援型の意義・役割を説明しているとする。
説明の結果,選任に反対する意向が示された事案もあり,その多くは報酬について納得が得られない場合であるとされている(本書207頁注12)。
反対の意向が示されても直ちに選任をやめることは避け,制度のメリットを粘り強く説明しているが,なお反対されて支援の実効性が期待できないとして選任しなかった事案も僅かながらあるとされる(本書207頁)。
また,本書223頁~224頁(連載第41回後編・令和6年7月号初出)は,親族候補者を後見人に選任する際には必ず受理面接又は調査官による面接調査を実施しているが,多くの場合1回だけの面接で適格性を見極めるのは困難であるから,開始時は幅広く親族候補者を後見人に選任し,監督の中で適格性を見極めるほかないとしている。
これらの審理方法は,基準日現在の大阪家裁ページや総合支援型ハンドブックには書かれておらず,本書の記載にとどまる。
申立段階での審理の一般は大阪家裁後見センターで扱っている。
4 報酬
後見監督人には後見人の報酬の規定(民法862条)が準用され(民法852条),家庭裁判所は,後見人及び被後見人の資力その他の事情によって,被後見人の財産の中から相当な報酬を与えることができる。
後見人支援のご案内も,後見監督人の報酬は家庭裁判所が額を決定し,本人の財産から支払うものとし,制度利用の直後から本人の権利擁護を図るために必要な費用であるとして理解を求めている。
大阪家庭裁判所の「成年後見人等の報酬のめやす」(令和7年4月)は,成年後見監督人の基本報酬のめやすを示した上で,総合支援型後見監督人の報酬はこのめやすの限りではないと注記している。
報酬付与の申立てには,収入印紙800円分と郵便切手110円分が必要である。
報酬のめやすの全体は成年後見人等の報酬額の目安で扱っている。
第5 親族後見人の「到達点」
1 到達点の位置付け
本書191頁~192頁(連載第29回・令和4年2月号初出)は,望ましい後見事務を実現するには,支援を受ける親族後見人,支援をする総合支援型後見監督人,運用・監督する家庭裁判所の三者が,親族後見人に求められる一般的な知識・経験について認識を共有する必要があるとして,それを「総合支援型後見監督人による支援の目標(到達点)」として整理したとする。
到達点は,大阪意思決定支援研究会が平成30年に策定した意思決定支援のガイドライン(いわゆる大阪版)と,意思決定支援ワーキング・グループが令和2年に策定した「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(いわゆる全国版)のエッセンスを取り入れている(本書192頁)。
本書192頁注5は,到達点は必ずしも専門職の後見人と同程度を目指すものではなく,困難な課題への対処では専門職後見人の意義がなお大きいとしている。
2 到達点の内容(現行の文言)
総合支援型ハンドブックⅢ頁~Ⅳ頁は,「親族後見人の到達点」として次の5つを掲げている。
①意思決定支援の到達点は,意思決定支援ガイドラインの基本的な考え方について説明を受け,理解することであり,本人の意思を無視して決めたり後見人や支援者等の価値観を押し付けたりしてはいけないこと,一見不合理な意思決定をしたというだけで決める力がないとはされないこと,実行可能なあらゆる支援を尽くしたのでなければ意思決定ができないと判断できないこと,代行決定は意思決定を先延ばしにできず他に方法がない場合に限ることなど,7項目からなる。
②財産管理事務の到達点は,本人財産の全体を正確に把握して他人の財産とはっきり区別して管理できること,及び本人の意思を踏まえて策定した管理の基本方針に基づき適切に管理できること(後見人の思い込みだけで管理してはならないと理解すること)である。
③身上保護事務の到達点は,本人の意思を踏まえて策定した基本方針に基づき身上を適切に保護できること,並びに定期的に本人と面会する必要があること及び後見人は「チーム」の一員として必要に応じて福祉・医療等の支援者に相談することを理解することである。
④報告事務の到達点は,最新かつ的確な書式で適切な内容の書面を作成すること,提出すべき書面・資料とそうでないものを選別して前者のみを提出すること,提出期限までに提出すること,及び添付資料に資料番号を振ることである。
⑤地域における相談窓口理解の到達点は,「本人が居住する地域において後見人が利用することのできる福祉・行政の相談窓口があることについて知ること」であり,例として,成年後見制度利用促進のための地域連携ネットワークにおける中核機関,地域包括支援センター,障害者基幹相談支援センター等が挙げられ,「市町村相談窓口一覧」を参照するよう示されている。
3 本書の文言との違い
①から④までは,本書197頁~198頁に掲げられた当初の到達点とほぼ同じ文言である。
ただし,意思決定支援の到達点の7項目目は,本書197頁では「支援者と協力すること」であったものが,総合支援型ハンドブックでは「支援者等と協力すること」とされている。
⑤は,本書198頁では「本人が居住する地域における福祉・行政の窓口について,認識すること」とされていたのが,現行の総合支援型ハンドブックでは,後見人が「利用することのできる」窓口が「あることについて知ること」と改められ,具体例が付された。
なお,大阪家裁ページに掲載されている「監督事務報告書(初回)【総合支援型】」と「監督事務報告書(2回目)【総合支援型】」(いずれも令和4年2月1日版)の末尾に付された到達点は,⑤を含めて本書と同じ当初の文言のままである。
本書193頁注9が予告していた市町村相談窓口一覧のハンドブックへの掲載は,大阪家庭裁判所の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版)で実現しており,最新の一覧は大阪府のウェブサイト「成年後見制度についての市町村相談窓口一覧」(令和8年4月1日現在)で公開されている。
4 「後見人に求められる後見事務のポイント」
大阪家裁ページには,到達点を一般向けに言い換えた「後見人に求められる後見事務のポイント」(令和8年5月1日版)が掲載されている。
報告事務の項目は,到達点の文言とは異なり,本人の預貯金等の財産の客観的な状況だけでなく,本人の財産や身上に関する課題の有無とその検討状況についても分かりやすく記載すること,及び預貯金通帳の写しなどの裏付資料を整えることとされている。
身上保護事務の項目にも,課題が生じた際に相談すべき関係者や支援者を把握し,実際に課題が生じたときに相談することが加えられている。
第6 当初支援期間(9か月)の流れ
1 選任直後
本書194頁は,総合支援型後見監督人は選任後9か月間(当初支援期間)にわたり,到達点を見据えて後見事務全般の支援をするとともに,従来型の監督人と同様に監督をするとし,延長した期間を含めた全体を「総合支援型監督期間」と呼んでいる。
後見人支援のご案内も,支援の期間を概ね9か月程度と予定しつつ,家庭裁判所がもう少し支援が必要と判断した場合には長くなることがあるとしている。
本書199頁(連載第30回)によれば,監督人は,選任直後にまず後見人に最低限の注意事項(財産目録作成前に預金を引き出さないようにすることなど)を連絡した後,記録を検討し,後見人や本人と面談し,ケアマネージャーや施設職員等の支援者・関係者と連携して,本人の状況と後見事務上の課題を把握し,後見人と認識を共通にした上で,後見人の特性に応じた指導・監督の方針を立てる。
後見事務上の課題としては,財産関係が複雑な場合の整理,財産多額の場合の支援商品の利用検討,行政の支援制度や介護・福祉サービスの利用検討が,監督事務上の課題としては,後見人の事務処理能力や理解の不足,後見人の財産と本人財産が峻別されていないことが例示されている(本書200頁注9・注10)。
2 初回報告
大阪家裁ページは,総合支援型後見監督人に選任された専門職は「監督事務報告書(初回)【総合支援型】」を審判確定日から2か月と1週間以内に提出するよう求めている。
本書91頁(小窓,連載第40回・令和6年4月号初出)も,初回の財産目録等の提出期限を,自薦の後見人等は確定日から1か月以内,専門職団体推薦の後見人等は1か月と3週間以内,総合支援型後見監督人は2か月と1週間以内としている。
親族後見人は,「後見等事務報告書(初回)【総合支援型】」と,後見ポータルサイトの財産目録・相続財産目録・収支予定表を,裁判所ではなく監督人に提出する(大阪家裁ページ,総合支援型ハンドブックⅠ頁)。
その期限について,本書194頁は審判確定日から1か月と2週間以内(目安)としていたが,現行の総合支援型ハンドブックⅤ頁は,審判書謄本に同封される「手続の流れ」に記載された期限までとし,期限までに提出できない場合は監督人に相談するよう求めている。
「後見等事務報告書(初回)【総合支援型】」には,監督人から説明を受けた事項のチェック欄があり,後見人の職務と責任,到達点,最初にすべき後見事務,財産の具体的な管理方法(選択肢としての支援商品の利用可能性を含む。),意思決定支援,監督人の同意を要する行為,生計の同一回避や慶弔費の支出といった注意事項などが並んでいる。
本書200頁~201頁は,報告事務も積極的な指導の対象であり,財産管理や身上保護に問題がなくても,報告書や添付資料に不備があれば補正の指示と再発防止の指導をする必要があるとしている。
また,本書208頁(連載第39回)は,可能な限り親族候補者を後見人に選任する方向で運用しているため,円滑な事務が難しい親族が選任される事案も一定程度あり得るとし,適格性の見極めも監督人の業務であるから,およそ後見事務が困難と判断した場合は初回報告でその旨を報告して構わないとしている。
一般の後見人の初回報告は成年後見人等が就任したら最初にすること――大阪家裁への初回報告(財産目録・収支予定表)の期限と作り方で扱っている。
3 初回報告から2回目報告まで
本書201頁~202頁は,監督人は初回報告後も後見人と定期的に面談し,課題の達成状況を確認し,新たな課題が判明すれば改めて認識を共通にして助言・指導や相談対応をするとする。
とりわけ意思決定支援は,後見人が内容や重要性を十分に認識できていなかったり実践できていなかったりすることが多いので,理解度を十分確認する必要があるとされている(本書201頁注13)。
地域の相談窓口については,監督人の監督の下で実際に行政や相談支援機関に相談してもらうことも有用であり,自治体や相談機関の中には監督人の在職中に親族後見人や本人と接触しておきたいという声も少なくないとされる(本書202頁,同頁注15)。
総合支援型ハンドブックⅡ頁も,総合支援型後見監督人に報告をする間は,分からないことがあればまず監督人に相談するよう後見人に求めている。
4 2回目報告
本書202頁は,監督人は審判確定日から8か月後(目安)に後見人から「後見等事務報告書(2回目)」を受け取り,9か月後に2回目報告をして,後見人が到達点に達したかを見極め,ふさわしい後見体制について意見を述べるとする。
大阪家裁ページも,総合支援型後見監督人は第2回目以降の報告に「監督事務報告書(2回目)【総合支援型】」を用いるとしているが,8か月・9か月という時期は現行の公表資料には書かれていない。
現行の「後見等事務報告書(2回目)【総合支援型】」(総合支援型ハンドブック所収)では,後見人は,到達点の5つの観点ごとに実際に行った後見事務を振り返り(財産管理事務については支援商品利用のための支援を対象外としている。),今後の進め方として,①単独で後見人を続けたい,②監督人の支援等を受けながら続けたい,③辞任して専門職の後見人に交代したい,④その他のいずれかを必ず選ぶことになっている。
現行の「監督事務報告書(2回目)【総合支援型】」(令和4年2月1日版)では,監督人は,5つの観点ごとに到達点に至ったかを評価した上で,総合評価に応じて次のいずれかの意見を選ぶ。
①到達点に至っている場合は,監督人の辞任が相当,支援商品利用に向けた支援のため総合支援型の監督の継続が必要,理由(例として遺言書があるため支援商品の利用が相当でない場合が挙げられている。)を示して定期確認型の監督人が必要,又は専門的知見を要する課題があるため個別課題支援型の監督人が必要のいずれか。
②到達点に至っていない場合は,監督人選任から通算2年を経過していなければ,見込みがあれば延長すべき期間と理由を示して延長が相当,見込みがなければ親族後見人に辞任を促して専門職後見人を選任するのが相当のいずれか。
③通算2年を経過していれば,親族後見人に辞任を促して専門職後見人を選任するのが相当,又はその他。
5 当初支援期間中に本人が死亡した場合
本書210頁は,総合支援型用の報告書は到達点に達したかの意見を述べるためのものであるから,当初支援期間の経過前に本人が死亡して後見が終了した場合には,後見事件一般で用いる通常の監督事務報告書と後見等事務報告書を提出して構わないとしている。
本人死亡後の手続は本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限と成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで扱っている。
第7 当初支援期間の終了と延長
1 当初想定された延長の類型
本書195頁(連載第29回)は,当初支援期間の終了時に,後見人が到達点に達していて更なる支援が不要であれば,監督人はその旨の意見を述べて辞任許可の申立てをするとする。
これに対し,家庭裁判所は,②支援を一定期間続ければ到達する見込みがあるとき,③到達したかの見極めに当初支援期間では足りないとき,④把握された課題への対応を見た上で見極めたいとき,⑤到達していても支援商品の利用の適否を当初支援期間で判断できないとき又は利用に向けた支援がなお必要なときに,総合支援型監督期間を延長することがあり,これらの場合,監督人は意見を述べるにとどめて辞任許可の申立てはしない(本書195頁)。
延長の上限は,②から④までは当初支援期間を含めて選任から最長2年,⑤は到達点に達したと認定された時から更に最長3か月が予定されていた(本書195頁注12)。
総合支援型監督期間の終了後は,到達していて支援不要なら辞任許可の申立てをし,到達しているが専門職監督人の継続関与が必要な場合や到達しなかった場合は,後見体制について意見を述べた上で,原則として辞任許可の申立てをするとされている(本書196頁)。
2 裁判所が判断する5つの類型
本書210頁~211頁(連載第39回)は,裁判所は2回目報告の意見を踏まえ,次のいずれに当たるかを判断しているとする。
①到達点に達し,更なる支援も不要である。
②到達点に達しているが,支援商品の契約締結に向けた支援のため監督期間を延長する必要がある。
③到達点に達しているが,他の役割(定期確認型又は個別課題支援型)の監督人を関与させる必要がある。
④到達する見込みはあるが当初支援期間内には達していないため,監督期間を延長する必要がある。
⑤到達点に達しておらず,開始審判確定から2年経過までに達する見込みがない。
本書205頁注4と221頁は,延長の上限を「後見開始の審判確定から最長2年」と表現しており,本書203頁も支援期間は最大で開始から2年までとしている。
現行の監督事務報告書(2回目)が「監督人が選任されてから通算2年」を基準に選択肢を分けていることからすると,2年を上限とする扱いは基準日現在も維持されていると考えられるが,大阪家裁ページや総合支援型ハンドブックに上限を明示した記載はない。
3 運用の実績
本書206頁~207頁は,令和4年2月から令和5年11月末までに申し立てられた事件について,令和5年12月11日時点の概数として,次の数字を示している。
| 項目 | 件数 | 内訳・備考 |
|---|---|---|
| 総合支援型の選任を検討 | 317件 | 選任に至らなかった理由は本人の死亡が最多 |
| 総合支援型を選任 | 265件 | 弁護士111件,司法書士142件,社会福祉士12件 |
| 当初支援期間が経過 | 72件 | 期間経過前に本人が死亡した事案も多い |
| 到達と判断して監督人が辞任 | 33件 | 72件の内数 |
| 監督期間を延長 | 17件 | 72件の内数 |
| 個別課題支援型監督人を選任 | 11件 | 72件の内数 |
| 定期確認型監督人を選任 | 7件 | 72件の内数 |
| 専門職後見人を選任 | 4件 | 72件の内数 |
選任に至らなかった事案としては,本人の死亡のほか,親族の強硬な反対,親族間の対立が判明して専門職後見人が相当とされた事案,候補者の辞退,支援商品の利用を優先してまず専門職を後見人に選任し後に親族に引き継ぐ(リレー)のが相当とされた事案が挙げられている(本書206頁)。
これより新しい件数は,大阪家庭裁判所の公表資料には見当たらない。
4 延長17件はいずれも支援商品の契約支援
本書211頁は,監督期間を延長した17件は,いずれも前記2の②,つまり到達点に達した上で支援商品の契約締結に向けた支援をするためであったとしている。
延長は,到達点に達しない場合だけのものではない。
また,支援終了後に個別課題支援型の監督人を選任した事案では,遺産分割,不動産売却,訴訟対応,株式売却等への対応や,それらにより流動資産が増えた後の支援商品の利用検討が個別課題として挙げられていたとされる(本書211頁)。
5 期間の経過前に支援を終えることは予定されていない
本書208頁注13は,当初支援期間が経過する前に親族後見人が到達点に達したと判断して支援を終了することは予定していないとする。
反対に,親族後見人の能力が著しく不足するなどして到達点に達しないことが明らかな事案で,当初支援期間の経過前に支援を打ち切ることは否定されていない(本書208頁注13)。
当初支援期間を短縮する運用を示す記載は,本書の範囲にも,大阪家裁ページ,総合支援型ハンドブック及び後見人支援のご案内にも見当たらない。
6 9か月という期間の根拠
本書221頁~222頁は,アンケートで当初支援期間9か月を「ちょうどいい」とした回答が58%,「短い・やや短い」が31%(1年程度という意見が多い),「やや長い・長い」が11%であったことを紹介した上で,9か月は運用開始に当たり後見センターと三士会の協議で設定したものであり,足りなければ審判確定から最長2年の範囲で延長するので2回目報告でその旨の意見を出してほしいとしている。
その際,当初支援期間の設定に当たっては個別課題の解決に必要な期間は考慮されていないから,個別課題の解決に9か月を超える期間を要する場合も,意見を出せば後見監督の役割変更を含めて対応するとされている(本書221頁)。
他方,ケース会議への出席やチームとのつながりといった身上保護事務の到達度は短期間では評価しにくいとして,当初支援期間9か月は維持したいとしている(本書221頁~222頁)。
第8 支援商品との関係
1 報告書兼指示書を出す時期
本書203頁(連載第30回)は,支援商品の利用以外の課題が解決していれば,監督人は後見人に支援商品の内容を説明して報告書兼指示書の作成を指示し,報告書兼指示書は早ければ2回目報告と併せて提出し,2回目報告の際に出せない場合でも到達点に達したと判断されてから3か月以内には提出するよう求めている。
ところが,本書209頁~210頁(連載第39回)によれば,比較的早い段階で監督人から支援商品のための報告書兼指示書だけが提出される事案があった。
総合支援型では支援商品は親族後見人が到達点に達したことを前提に利用するものであるから,到達の見極め前に報告書兼指示書が出されるのは理論的におかしく,裁判所も2回目報告があるまでは到達の判断も指示書発行の判断もできないとされている(本書209頁~210頁)。
そのため,報告書兼指示書の提出に当たっては,到達点に達したことや支援商品の利用の判断に至った理由を併せて報告する必要があり,提出は早くても2回目報告の直前になるはずであるとされている(本書210頁)。
2 リレー方式との区別
本書210頁は,後見センターでは支援商品の利用を先行させるためにまず専門職を後見人に選任し,手続の終了後に親族後見人に引き継いでもらう運用もしており,これと区別する意味でも,総合支援型の監督人が早期に支援商品の手続をとるのは相当でないとしている。
本書175頁~176頁注4(連載第31回・令和4年6月号初出)も,総合支援型の運用の下では開始当初から親族が後見人に就任し,専門職が監督人として関与するから,支援商品の利用を目的とした後見人の交代は問題とならないとしている。
3 現行の書式
大阪家裁ページには,「報告書・指示書(信託契約の締結)【総合支援型・監督人関与】」と「報告書・指示書(契約締結)【総合支援型・監督人関与】」が掲載されている。
信託契約の書式では,後見人の報告書の下に,成年後見監督人が契約の締結に同意する旨の欄が設けられている。
現行の監督事務報告書(2回目)にも,支援商品の利用について,必要がない又は相当でない,必要かつ相当だがなお検討が必要,必要かつ相当で条件を定めて利用する(報告書兼指示書の提出予定時期を記入)という選択欄がある。
支援商品の仕組みと全国の利用状況は後見制度支援信託と後見制度支援預貯金――仕組み,専門職後見人の職務及び最新の利用状況で扱っている。
第9 「横滑り」の可否
1 問題の所在
総合支援型による支援が終わった後も,定期確認型や個別課題支援型の監督人,あるいは専門職後見人が必要になる場合がある。
そのとき,総合支援型の監督人をしていた専門職をそのまま引き続き選任してよいかが,「横滑り」の問題である(本書211頁)。
当初の本書195頁注11(連載第29回)は,総合的な支援を続ける中で本人や親族後見人と強い信頼関係を築いた総合支援型後見監督人が,従来型の後見監督人を務めることもあり得るとしていた。
その後の運用状況を踏まえて,本書211頁~212頁(連載第39回・令和6年2月号初出)は次のとおり整理している。
2 定期確認型への横滑りは原則として認めない
支援商品の利用が相当でないことを理由に定期確認型として引き続き監督人を関与させる場合は,特段の事情のない限り横滑りを認めず,別の専門職を監督人に選任するのが相当とされている(本書211頁)。
横滑りを認めると,引き続き報酬を得る目的で支援商品の利用に関する判断が歪められ,いわゆる「お手盛り」と同様の問題を生じるおそれがあるからである(本書211頁)。
支援商品の検討のために専門職後見人を選任し,検討の結果,支援商品の利用が相当でないとされた場合も,横滑りは認められていない(本書211頁注15)。
3 個別課題支援型への横滑りは認めることがある
他方,「お手盛り」の危険を排除でき,同じ専門職を監督人とする方が事務を円滑に行え,親族後見人もそれを望んでいる場合には,横滑りを認めてよいとされている(本書211頁)。
実際にも,支援終了後に個別課題支援型の監督人を選任した事案では,これらの事情に加え,課題解決までという終期があることも考慮して,横滑りを認めているとされる(本書211頁~212頁)。
4 専門職後見人への横滑りも原則として認めない
到達点に達せず,開始審判確定から2年までに達する見込みもないとして専門職後見人を選任する場合に,総合支援型の監督人を後見人に選任することも横滑りの一種である(本書212頁)。
これを認めると,親族後見人の支援を疎かにし,到達点に達したかの判断が歪められるおそれがあるから,特段の事情のない限り認めず,別の専門職を後見人に選任するのが相当とされている(本書212頁)。
ただし,初回報告までに親族後見人が辞意を表明するなど,選任当初から総合支援型が相当でなかった事案では,例外的に横滑りを認めても支障はないとされている(本書212頁注16)。
横滑りの扱いは,基準日現在の大阪家裁ページや総合支援型ハンドブックには書かれておらず,本書の記載にとどまる。
第10 アンケートに見る実情と監督人の心構え
1 アンケートの概要
本書213頁~225頁(連載第41回前編・後編)は,三士会に所属し総合支援型後見監督人に選任された経験のある専門職に実施した12問のアンケート(回答は弁護士57名,司法書士56名,社会福祉士11名。2回目報告に至っていない者や本人死亡で支援を終えた者を含む。)の結果を紹介している。
主な結果は次のとおりである。
| 質問 | 主な回答 | 本書の頁 |
|---|---|---|
| 初回面談時の親族後見人の理解度 | 十分・概ね理解63%,あまり・全く理解せず21% | 214頁 |
| 初回面談時の助言・指導 | スムーズ・概ねスムーズ89% | 215頁 |
| 初回報告までのやり取り | 1~2回40%,3回以上59% | 215頁 |
| 助言・指導が難しかった項目 | 報告事務47件,意思決定支援34件,財産管理19件,相談窓口理解9件,身上保護8件 | 220頁 |
| 到達度の評価で悩んだ項目 | 報告事務21件,意思決定支援15件,財産管理10件,身上保護4件,相談窓口理解2件 | 222頁 |
| 未到達と評価した場合の意見 | 延長13件,定期確認型へ移行4件,個別課題支援型へ移行3件 | 223頁 |
| 選任による効果 | あった73% | 223頁 |
| 支援の限界を感じたか | ない65% | 223頁 |
課題として挙がったのは,支援制度(支援信託・支援預貯金)の利用検討58件,遺産分割協議39件,不動産売却30件,その他(破産手続,相続手続等)11件であった(本書217頁)。
これより後のアンケート結果は,大阪家庭裁判所の公表資料には見当たらない。
2 親族後見人への説明
本書214頁~215頁は,参与員や調査官による説明は多くの場合1回限りであり,説明を重ねると後見開始が遅れるから,監督人の立場からも総合支援型の意義や役割を親族後見人に説明してほしいとしている。
説明事項が多く時間を要するという点については,後見センターのウェブサイトに掲載している総合支援型ハンドブックの活用や,三士会の研修の充実が挙げられている(本書215頁,同頁注8)。
3 意思決定支援はどこまで求められるか
本書215頁は,親族後見人が意思決定支援を高度に理解するのは難しいので,「親族後見人が自らの価値観で支援するのではなく,本人の思いを尊重して支援する」という基本的な考え方を理解してもらい,意識改革に努めてもらえれば十分であるとしている。
本人が意思疎通できない場合については,一般にはできるだけ情報を集めて本人の意思を推定するべきで,安易に代行決定すべきではないと説明されているとし,厚生労働省のウェブサイト「成年後見はやわかり」の「意思決定支援について総合的に学ぼう」を参考資料に挙げている(本書220頁)。
同ページは基準日現在も公開されている。
4 報告事務の到達水準――「きれいな」報告は求めない
本書216頁は,専門職である監督人が親族後見人にもつい専門職と同程度に「きれいな」後見事務を求めてしまっていないかが少し気になっているとし,親族後見人として一定レベルの事務ができる知識・経験を身に付けてもらうのが目的であることを見失わないでほしいとしている。
本書221頁も,親族後見人には必ずしも専門職と同程度の「きれいな」報告まで求めていないとする。
その上で本書222頁は,到達点として整理された基本的な事務ができない以上は報告事務について未到達と評価せざるを得ないとしつつ,令和4年3月25日閣議決定の成年後見制度利用促進基本計画は相応しい親族候補者がいれば後見人に選任すべきとの考え方に立っているから,報告事務の評価を厳しくして親族後見人に能力がないとするのはその趣旨に反しかねないとし,親族後見人が報告事務の基本的な考え方を理解し,少なくとも裁判所からの追完指示等に適切に対処できる程度に一通りの報告事務ができるようになればよいのではないかとしている。
この水準は,基準日現在の大阪家庭裁判所の公表資料には明記されていない。
令和7年4月からの全国統一書式による報告書の書き方は,令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で扱っている。
5 支援商品の説明
支援制度の利用を理解してもらうのに苦労したという回答について,本書218頁は,本人に一定額以上の財産がある場合には,後見センターを含む全国の家庭裁判所で支援制度を利用する運用をしていることを粘り強く説明して納得してもらうほかないとしている。
第11 本書の記述と現在の資料の対照
本書の記述のうち,基準日現在の大阪家庭裁判所の公表資料で確認できた点と確認できなかった点は次のとおりである。
| 項目 | 本書の記述 | 基準日現在の資料 |
|---|---|---|
| 運用の対象 | 後見類型・親族候補者あり・流動資産比較的高額(189頁,205頁) | 大阪家裁ページは令和4年2月1日以降申立ての後見開始事件と明記。基準額の記載なし |
| 当初支援期間 | 9か月(194頁) | 後見人支援のご案内は概ね9か月程度 |
| 監督人の初回報告 | 審判確定日から2か月と1週間後まで(194頁) | 大阪家裁ページも同じ |
| 後見人から監督人への初回報告 | 審判確定日から1か月と2週間以内(目安)(194頁) | 審判書謄本に同封の「手続の流れ」記載の期限まで(総合支援型ハンドブックⅤ頁) |
| 2回目報告の時期 | 8か月後(目安)・9か月後(195頁) | 書式は掲載されているが時期の記載なし |
| 延長の上限 | 審判確定から最長2年(205頁,221頁) | 監督事務報告書(2回目)が「通算2年」で選択肢を区分 |
| 到達点「地域における相談窓口理解」 | 窓口について認識すること(198頁) | 利用できる窓口があることを知ること(総合支援型ハンドブックⅣ頁) |
| 報酬 | 記載なし | 家裁が決定し本人財産から支払う。報酬のめやすの対象外 |
| 書面審理をしない運用,横滑りの扱い,早期終了をしない扱い | 207頁,211頁~212頁,208頁注13 | 公表資料に記載なし |
第12 令和8年改正後の総合支援型後見監督人
1 改正の内容
令和8年法律第45号は,法定後見を補助に一元化し,後見と保佐を廃止する。
その施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日であり(同法附則1条本文),基準日現在,成年後見に関する部分は施行されていない。
新旧対照条文によれば,改正後の民法は「補助監督人」の款を新設し,選任(改正後の民法876条の7),欠格事由(同876条の8),職務(同876条の9)及び委任・補助人の規定の準用(同876条の10)を定める。
補助監督人の職務は,補助人の事務を監督すること,補助人が欠けた場合に遅滞なくその選任を請求すること,急迫の事情がある場合に必要な処分をすること,及び利益相反行為について補助開始の審判を受けた者を代表し,又はその者がこれをすることに同意することである(改正後の民法876条の9)。
補助監督人又は家庭裁判所は,いつでも補助人に補助の事務の報告や財産の目録の提出を求め,補助の事務や財産の状況を調査することができる(改正後の民法876条の20第1項)。
補助人は,家庭裁判所の定めるところにより,毎年1回一定の時期に本人の状況等を家庭裁判所に報告しなければならない(改正後の民法876条の21第1項)。
補助監督人には補助人の解任の規定(改正後の民法876条の5)が準用され(同876条の10),解任事由は,不正な行為をしたとき(1号),任務に著しく反したことにより職務を継続させることが相当でないとき(2号),本人の利益のため特に必要があるとき(3号)である。
3号の事由で解任された者は,欠格事由である「家庭裁判所で免ぜられた法定代理人又は補助人」から除かれている(改正後の民法876条の6第2号)。
後見類型を前提とする総合支援型の運用も,改正後は補助監督人の職務の範囲で行うことになると考えられる。
2 同意権の規定の変化
現行法では,後見人が民法13条1項各号の行為をするには後見監督人の同意が必要であり(民法864条),総合支援型の初回報告の書式でも「監督人の同意を要する行為の説明」が説明事項に挙げられている。
新旧対照条文及びe-Gov法令検索の未施行版によれば,改正後の民法864条は「未成年後見監督人の同意を要する行為」を定める規定となり(「未成年後見人が、未成年被後見人に代わって営業若しくは第九条第二項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。」),補助監督人の職務(改正後の民法876条の9)にも,補助監督人に準用される規定(同876条の10)にも,補助人の行為に補助監督人の同意を要するとする規定は置かれていない。
補助監督人が同意するのは,利益相反行為について補助開始の審判を受けた者がする行為に限られる(改正後の民法876条の9第4号)。
財産の調査と目録の作成に監督人の立会いを要する規定は,特定補助人について置かれている(改正後の民法876条の15第2項)。
したがって,改正後の制度の下で総合支援型に相当する運用をする場合,監督人の同意を通じて指導する場面は現行法より限られると考えられる。
改正後の家庭裁判所の運用は,基準日現在,公表されていない。
3 経過措置
施行日前に後見開始の審判がされた場合の成年被後見人並びにその成年後見人及び成年後見監督人に関する民法の規定の適用は,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例による(改正法附則2条1項)。
したがって,施行日前に選任された総合支援型後見監督人は,原則として現行の民法の規定の下で職務を続けることになる。
同意権もその例外ではない。
施行日前に後見開始の審判を受けた本人の事件では,施行日以後も現行の民法864条が適用されるから,後見人が民法13条1項各号の行為(1号の元本の領収を除く。)をするには,引き続き総合支援型後見監督人の同意を得なければならず,その同意を得ないでした行為は,被後見人又は後見人が取り消すことができる(現行の民法865条1項)。
ただし,附則2条は,従前の例による成年後見監督人の解任については,成年後見監督人を改正後の補助監督人とみなして改正後の民法876条の5(876条の10による準用)を適用すること,従前の例による成年後見人又は成年後見監督人が本人について改正後の補助開始の審判を請求できること,及び施行日前にされた後見開始の審判の請求で施行日前に審判が確定していないものは施行日以後は補助開始の審判の請求とみなすことも定めている。
施行日をまたいで係属する後見開始の申立ては補助開始の申立てとして扱われるから,「後見開始事件」を対象とする現在の運用がそのまま当てはまるわけではない。
従前の例による成年後見人又は成年後見監督人が補助開始の審判を請求した場合,家庭裁判所は,その審判をするに当たって施行日前に後見開始の審判を受けたことを考慮しないものとされ(改正法附則2条5項),補助開始の審判をするときは,施行日前の後見開始の審判を取り消さなければならない(同条6項)。
また,本人,配偶者,四親等内の親族又は従前の例による成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により,家庭裁判所は,施行日前の後見開始の審判を取り消すことができる(同条7項)。
補助に移った事件では,前記2のとおり監督人の同意による指導という手段がなくなるから,総合支援型の支援期間中の事件について補助への移行を検討するときは,この違いも考慮することになると考えられる。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で,後見監督人制度の再編は後見監督人とはで扱っている。
第13 出典・参考資料
1 法令
民法(13条,644条,846条,849条,851条,852条,853条,858条,862条,863条,864条,865条) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)附則1条・2条(1項~8項),同法による改正後の民法(864条,876条の5,876条の6,876条の7~876条の10,876条の15,876条の20,876条の21) 法務省(法律案本文)
同法による改正後の民法(未施行版)及び改正法附則 e-Gov法令検索(民法・未施行版)
法務省「民法等の一部を改正する法律 新旧対照条文」 法務省
2 公的資料
大阪家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」(令和8年9月19日確認) 裁判所
大阪家庭裁判所「【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和8年5月1日版)Ⅰ頁~Ⅵ頁及び書式No.0-1・No.0-2 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版)はじめに,47頁 裁判所
大阪家庭裁判所後見センターほか「後見開始の申立てをお考えの方へ~後見人支援のご案内~」(令和4年2月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所後見センターほか「後見人に求められる後見事務のポイント」(令和8年5月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「監督事務報告書(初回)【総合支援型】」(令和4年2月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「監督事務報告書(2回目)【総合支援型】」(令和4年2月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「報告書・指示書(信託契約の締結)【総合支援型・監督人関与】」 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬のめやす」(令和7年4月) 裁判所
大阪府「成年後見制度についての市町村相談窓口一覧」(令和8年4月1日現在) 大阪府
厚生労働省「意思決定支援について総合的に学ぼう」(成年後見はやわかり) 厚生労働省
3 文献
大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)1頁,66頁,91頁,163頁,175頁~176頁,181頁~225頁
4 関連記事
後見監督人とは――選任基準,職務,責任及び令和8年改正による制度再編
大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務
後見制度支援信託と後見制度支援預貯金――仕組み,専門職後見人の職務及び最新の利用状況
成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続
成年後見人の解任理由
成年後見人による横領──親族後見人と第三者後見人の比較を中心に
成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)
令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方
成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理
令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備
成年後見人等が就任したら最初にすること――大阪家裁への初回報告(財産目録・収支予定表)の期限と作り方
成年後見人等の辞任と交代――正当な事由,後任選任の同時申立て,市民後見人へのリレー
本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限