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預金・給料の仮差押え―取扱店舗の特定,差押禁止の範囲及び陳述催告(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,金銭債権の強制執行を保全するための仮差押え(民事保全法20条1項)のうち,債務者の預金債権と給料債権を対象とする場合の注意点を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月17日であり,法令は同日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行条文により,民事保全規則及び民事執行規則は裁判所ウェブサイト掲載のPDFにより確認した。

仮差押えの要件,手続全体の流れ,担保,解放金,債務者の対抗手段等の総論は,仮差押えとは―要件・手続の流れ・担保・効力・解放金・担保の取戻しの全体像で扱う。
債務名義を得た後の債権差押え(本執行)は,債権差押命令の申立てと取立て・配当の実務で扱う。
家事事件の審判前の保全処分,国税の滞納処分,倒産手続における扱いは,本記事の対象外である。

2 結論

①債権の仮差押命令事件は,本案の管轄裁判所のほか,仮に差し押さえるべき債権の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し,債権は第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(民事保全法12条1項・4項)。
申立書には第三債務者を記載し,仮差押債権は「債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」を明らかにして特定しなければならない(民事保全規則18条1項,19条2項1号)。

②預金債権は,取扱店舗を示して特定するのが裁判所の書式である。
東京地方裁判所民事第9部及び大阪地方裁判所第1民事部の書式は,「○○支店扱い」と店舗を示した上で,先行の差押え・仮差押えの有無,円貨建て・外貨建ての別,預金の種類(定期預金から当座預金まで)及び口座番号の順に順位を付けている。
最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定は,差押えの事案で,大規模な金融機関の全ての店舗を対象として順位付けをする方式は差押債権の特定を欠き不適法であるとした。
最高裁判所第三小法廷平成24年7月24日決定も,差押えの事案で,普通預金債権のうち送達後1年間の入金によって生ずる部分(将来預金)を対象とする申立ては特定を欠き不適法であるとした。
ゆうちょ銀行の貯金は,店舗ではなく貯金事務センターを示して特定する記載例である。
なお,第三債務者である銀行が債務者に貸付金を有する場合,仮差押えを受けた預金と相殺されて仮差押えの実益がなくなることがある(民法511条)。

③給料債権の仮差押えには,民事執行法152条の差押禁止の規定が準用される(民事保全法50条5項)。
原則として手取額の4分の3(支払期が毎月の場合,その額が33万円を超えるときは33万円)は仮差押えの対象とならず,扶養義務等に係る金銭債権を請求する場合は「四分の三」が「二分の一」となる(民事執行法152条3項,民事執行法施行令2条)。
民事保全法50条5項は民事執行法146条から153条までを一括して準用しているので,151条の2(扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合の特例)も準用範囲に含まれる。
給料のような継続的給付に係る債権に対する効力は後に受けるべき給付に及ぶが(民事執行法151条の準用),仮差押えの実務では期間を1年程度に限定する扱いが多いとされる。

④第三債務者に対する陳述の催告は,債権者の申立てがあるときに行われ,第三債務者は送達の日から2週間以内に,債権の存否・種類・額,弁済の意思,優先権者,他の差押え・仮差押え,滞納処分による差押えの有無等を書面で陳述する(民事保全法50条5項,民事執行法147条1項,民事保全規則41条2項,民事執行規則135条)。
故意又は過失による不陳述・不実陳述には損害賠償責任がある(民事執行法147条2項)。
もっとも,陳述書に「預金なし」と記載されても,そのことだけでは担保の簡易の取戻しは認められない運用である(司法研修所の教材114頁)。

⑤第三債務者は仮差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託することができ,その供託は仮差押解放金の供託とみなされる(民事保全法50条3項・5項,民事執行法156条1項)。

⑥保全執行は債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過したときはすることができないため(民事保全法43条2項),第三債務者への送達が不能になったときは速やかに対応する必要がある。

⑦担保の額は目的物の価格を基準とし,司法研修所の教材が紹介する基準では,貸金・賃料・売買代金その他を被保全債権とする預金・給料の仮差押えで10~30%とされている(同教材28頁)。

第2 債権仮差押えの基本

1 管轄

保全命令事件は,本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し(民事保全法12条1項),この管轄は専属である(同法6条)。
本案の管轄裁判所は,第一審裁判所であり,本案が控訴審に係属するときは控訴裁判所である(同法12条3項)。

仮に差し押さえるべき物が債権であるときは,その債権は,第三債務者の普通裁判籍の所在地にあるものとされる(民事保全法12条4項本文)。
法人の普通裁判籍は,その主たる事務所又は営業所により定まる(民事訴訟法4条4項)。
したがって,預金債権の所在地は,条文上,取扱支店の所在地ではなく,銀行の主たる営業所の所在地を基準に考えることになる。
大阪地方裁判所第1民事部の債権仮差押命令申立書の書式例も,第三債務者である銀行の本店所在地を東京都とし,大阪市内の支店を送達先として記載している。

給料債権の場合は,勤務先の会社が第三債務者であり,その主たる事務所の所在地が債権の所在地となる。
本案の管轄裁判所に申し立てる場合は,債権の所在地を問題にする必要はない。

2 申立書の記載

保全命令の申立ては書面でしなければならない(民事保全規則1条1号)。
東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)では,保全事件は令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外であり,従前どおり書面を提出する必要があるとされている。

債権に対する仮差押命令の申立書には,第三債務者の氏名又は名称及び住所並びに法定代理人の氏名及び住所を記載しなければならない(民事保全規則18条1項)。
また,仮差押命令の申立ての趣旨は仮に差し押さえるべき物を特定してしなければならず,債権については「債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」を明らかにする必要がある(同規則19条1項・2項1号)。

東京地方裁判所民事第9部の【書式2-1】は,申立ての趣旨を,債務者の第三債務者に対する別紙仮差押債権目録記載の債権を仮に差し押さえ,第三債務者は債務者に対し仮差押えに係る債務の支払をしてはならない,という形で記載している。
同書式の注は,債権仮差押えでは当該債権以外に仮に差し押さえるべき財産がない状況にあることを疎明する必要があるとして,債務者の住所地等の不動産登記事項証明書やブルーマップの提出を求めている。

3 執行の方法と効力の発生

債権に対する仮差押えの執行は,保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行い,仮差押命令を発した裁判所が保全執行裁判所となる(民事保全法50条1項・2項)。
司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年)51頁は,仮差押命令の申立てにはその命令による執行の申立ても含まれていると考えられ,改めて執行の申立書を提出する必要はないとしている。

仮差押えの効力は,仮差押命令が第三債務者に送達された時に生じる(民事保全法50条5項,民事執行法145条5項)。
前記教材51頁は根拠を「民執145条4項」と表記しているが,これは平成25年当時の条文番号であり,現行の民事執行法では同条5項である。

4 保全執行期間と送達の順序

(1) 保全執行期間

保全執行は,債権者に対して保全命令が送達された日から2週間を経過したときは,することができない(民事保全法43条2項)。
前記教材51頁注4は,第三債務者への送達が「転居先不明」等で返送された場合,債権者が別の送達場所を探して上申書を提出しないと,2週間の経過により仮差押命令を執行することができなくなると注意を促している。

(2) 債務者への送達は第三債務者への送達の後になる

保全執行は,保全命令が債務者に送達される前であってもすることができる(民事保全法43条3項)。
前記教材51頁~52頁注5は,実務では,効力発生前に仮差押債権が処分されないよう,債務者に対する送達は第三債務者への送達から数日遅らせて行われているとしている。
東京地方裁判所民事第9部の案内(令和8年9月17日確認)でも,債務者あての決定正本の発送は,決定発令日の翌日から起算して1週間後にする扱いとされている。

預金の仮差押えで,債務者が先に命令を受け取れば,その間に預金を引き出すおそれがある。
この送達の順序は,預金債権の仮差押えの実効性を支える運用である。

第3 預金債権の仮差押え

1 取扱店舗の特定

(1) 裁判所の書式の記載

東京地方裁判所民事第9部の【書式2-1】の仮差押債権目録は,金額を頭書した上で,「債務者が第三債務者(○○支店扱い)に対して有する下記預金債権のうち,下記に記載する順序に従い,頭書金額に満つるまで」と記載している。
当事者目録でも,第三債務者として銀行の本店所在地・代表者を記載し,送達先として取扱支店を記載する形である。
大阪地方裁判所第1民事部の書式例も同じ構成である。

(2) 最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定

最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定(平成23年(許)第34号,民集65巻6号2710頁)は,債務名義に基づく預貯金債権の差押命令の申立てについて判断したものである。
同決定は,差押債権の特定は,送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものであることを要するとした。
その上で,大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法であるとした。

この決定は差押えの事案であるが,仮差押えの効力も第三債務者への送達時に生じ(民事保全法50条5項,民事執行法145条5項),民事保全規則19条2項1号も債権を特定するに足りる事項の記載を求めている。
そのため,本記事では,仮差押えでも同じ特定の考え方が当てはまると整理する。
同決定の補足意見も,差押命令について「仮差押命令の場合も同様であり」として双方を含めて検討している。
ただし,これは補足意見であり,法廷意見が仮差押えについて判断したものではない。

2 複数の金融機関・複数の口座

複数の金融機関の預金を仮差押えする場合,大阪地方裁判所第1民事部の書式例は,請求債権300万円について,第三債務者ごとに仮差押債権目録を分け,銀行分150万円,ゆうちょ銀行分150万円と金額を割り付けている。
同じ店舗に複数の口座がある場合は,後記3の順位付けにより,頭書金額に満つるまで仮差押えの対象が決まる。

同じ銀行の複数の支店を対象にする場合の記載方法は,本記事で確認した東京地裁・大阪地裁の書式には記載例がない。
前記平成23年決定の補足意見は,特段の事情がない限り,第三債務者の債務管理の単位を基準として差押債権の種類及び金額が特定されるべきであるとしている。
ゆうちょ銀行の記載例が貯金事務センターごとに仮差押債権額を割り付けるとしていること(後記3(2))も,同じ考え方に沿うものといえる。

仮差押えの事案では,東京高等裁判所平成18年6月19日決定(平成18年(ラ)第475号,判例タイムズ1222号306頁,判例時報1937号91頁,判例秘書登載,裁判所ウェブサイト未掲載)が,銀行の複数の支店に順序を付した預金債権の仮差押えの申立てについて,債権の特定を欠かないとした事例として紹介されている。
ただし,この決定は前記平成23年決定より5年余り前のものである。
平成23年決定が不適法としたのは大規模な金融機関の「全ての店舗」を対象として順位付けをする方式であり,支店を具体的に列挙する方式について判断したものではないが,現在の実務でどこまで複数支店の順位付けが認められるかは,申立先の裁判所に確認するのが安全である。

なお,仮差押えは債権の一部についても全部についても発することができる(民事保全法50条5項,民事執行法146条1項)。
債権の一部についての仮差押えと,残余の部分を超える差押え又は仮差押えとが競合したときは,各差押え又は仮差押えの執行の効力は債権の全部に及ぶ(民事保全法50条5項,民事執行法149条)。

3 預金の種類による順位付け

(1) 銀行の預金

東京地方裁判所民事第9部の【書式2-1】と大阪地方裁判所第1民事部の書式例は,次の順序を定めている。
①差押えや仮差押えのない預金とある預金があるときは,先行の差押え・仮差押えのないもの,あるものの順による。
②円貨建預金と外貨建預金があるときは,円貨建預金,外貨建預金の順による。
③外貨建預金は,仮差押命令が第三債務者に送達された時点における第三債務者の電信買相場により換算した金額(先物為替予約がある場合は原則として予約された相場)による。
④数種の預金があるときは,定期預金,定期積金,通知預金,貯蓄預金,納税準備預金,普通預金,別段預金,当座預金の順による。
⑤同種の預金が数口あるときは,口座番号の若い順序による。

前記教材の「主文例」10頁注①は,定期積金は預金とは性質が異なるが,便宜的に預金に併せて仮差押えの目的に加えることが多いとしている。

(2) ゆうちょ銀行の貯金

東京地方裁判所民事第9部の「仮差押債権目録等の記載例について(郵政民営化に伴うもの)」(令和8年9月17日確認)は,株式会社ゆうちょ銀行の貯金について,第三債務者を株式会社ゆうちょ銀行とし,送達先を「○○貯金事務センター」とする記載例を示している。
仮差押債権目録は「下記貯金債権(○○貯金事務センター扱い)」とし,順位は,先行の差押え・仮差押えの有無,担保権の設定の有無,定期貯金・定額貯金・通常貯蓄貯金・通常貯金・振替貯金の順,記号番号の若い順である。
同ページは,貯金事務センター又は沖縄エリア本部貯金事務管理部ごとに仮差押債権額を割り付けるとしている。

郵政民営化前に預けられた定期性の郵便貯金(定額郵便貯金等)は,独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構を第三債務者とする別の記載例になっている。

(3) JAの貯金

東京地方裁判所民事第9部は,JA貯金に対する仮差押債権目録の記載例も公表している。
第三債務者を農業協同組合とし,「○○支店扱い」と店舗を示した上で,定期貯金,積立式定期貯金,定期積金,通知貯金,貯蓄貯金,納税準備貯金,普通貯金,営農貯金,出資予約貯金,別段貯金,当座貯金の順に順位を付けている。

4 どの時点の預金が対象になるか

(1) 送達時点の預金

仮差押えの効力は第三債務者への送達時に生じるから,裁判所の書式の預金債権の仮差押えは,送達時点で存在する預金を対象とする前提で記載されている。
外貨建預金の換算基準時を送達時点としていることも,この前提と整合する。
本記事で確認した東京地裁・大阪地裁の預金の書式には,送達後に入金される預金を対象とする記載はない。

(2) 最高裁判所第三小法廷平成24年7月24日決定

最高裁判所第三小法廷平成24年7月24日決定(平成24年(許)第1号,集民241号29頁)は,債務名義に基づく普通預金債権の差押命令の申立てで,差押命令送達時に現に存する預金(現存預金)に加え,送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生ずる部分(将来預金)を差押債権として表示した事案である。
同決定は,前記平成23年決定の特定の基準を引用した上で,普通預金は将来の入出金の時期及び金額をあらかじめ把握することができず,その銀行には特定の口座への入出金を自動的に監視して残高のうち差押債権の額を超える部分についてのみ払戻しに応ずるシステムが構築されていないなどの事情の下では,将来預金に関する部分は差押債権の特定を欠き不適法であるとした。
他方,現存預金と将来預金が区別して表示されていたから,現存預金に関する部分は特定に欠けるところはないとして,その部分を原々審に差し戻した。

同決定の補足意見は,将来預金の差押えを認めると,差押え後に差押禁止債権に係る金員が口座に振り込まれた場合にも差押えの効力が及び,法が差押禁止債権を定めた趣旨に反する結果が生ずる旨も指摘している。
この決定も差押えの事案であるが,特定の考え方は前記1と同じく仮差押えにも当てはまると考えられるから,送達後の入金分まで対象とする仮差押えの申立ては認められないと考えて準備する必要がある。

(3) 実務上の意味

以上から,送達時点で残高が少なければ,仮差押えは少額にとどまる。
預金の仮差押えは,残高が増える時期と送達の時期が合うかどうかで結果が大きく変わる手続である。

振り込め詐欺等の被害回復のために加害者側の口座を仮差押えする場面は,振り込め詐欺救済法の「被害者からの権利行使の届出」―法定分配を止めて口座名義人訴訟・預金差押えに進む手続で扱う。
弁護士の預り金口座の預金が債務者の財産に当たるかは,弁護士の預り金口座に対する差押えと信託財産性-最高裁令和8年1月20日判決で扱う。

5 銀行による相殺

(1) 民法511条

民法511条1項は,「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる」と定めている。
同条2項本文は,差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときも,その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができるとし,ただし書で,第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときを除いている。

(2) 最高裁判所大法廷昭和45年6月24日判決

最高裁判所大法廷昭和45年6月24日判決(昭和39年(オ)第155号,民集24巻6号587頁)は,債権が差し押さえられた場合において,第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは,その債権が差押後に取得されたものでない限り,両債権の弁済期の前後を問わず,相殺適状に達しさえすれば,差押後においても相殺することができるとした。
また,債務者の信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合に貸付金の期限の利益を失わせ,預金等と直ちに相殺できるようにする旨の銀行との合意は,預金等を差し押さえた債権者に対しても効力を有するとした。

この判決は国税の滞納処分による差押えの事案であり,仮差押えの事案ではない。
また,仮差押えの執行を受けた債権に民法511条がどのように適用されるかについての最高裁判所の判断は,本記事では裁判所ウェブサイトで確認できなかった。
もっとも,後記第8のとおり,銀行取引約定書には預金に仮差押えの命令・通知が発送されたことを期限の利益の当然喪失事由とする例がある。
そのため,債務者に借入金がある銀行の預金を仮差押えしても,銀行が貸付金と相殺すれば,債権者が保全できる預金は残らないおそれがある。

第4 給料債権の仮差押え

1 差押禁止の範囲

(1) 4分の3と政令で定める額

民事保全法50条5項は,民事執行法146条から153条までを債権に対する仮差押えの執行に準用している。
民事執行法152条1項は,給料,賃金,俸給,退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権について,「その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない」と定めている。
退職手当及びその性質を有する給与に係る債権は,その給付の4分の3に相当する部分が差押禁止であり,政令で定める額による上限はない(同条2項)。

政令で定める額は,民事執行法施行令2条が次のとおり定めている。

支払期政令で定める額
毎月33万円
毎半月16万5000円
毎旬11万円
月の整数倍の期間ごと33万円にその倍数を乗じて得た金額に相当する額
毎日1万1000円
その他の期間1万1000円にその期間に係る日数を乗じて得た金額に相当する額
賞与33万円

この額が仮差押えにも及ぶことは,次の条文の構造による。
①民事保全法50条5項は,民事執行法152条を債権に対する仮差押えの執行に準用している。
②民事執行法152条1項は,差押禁止の上限額を「政令で定める額」として政令に委ねている。
③その委任を受けた民事執行法施行令2条1項は,「法第百五十二条第一項各号に掲げる債権(次項の債権を除く。)に係る同条第一項(法第百六十七条の十四及び第百九十三条第二項において準用する場合を含む。以下同じ。)の政令で定める額」を定めている。

施行令2条1項の括弧書きは,民事執行法の中で152条を準用する規定(少額訴訟債権執行の167条の14,担保権の実行の193条2項)だけを挙げ,民事保全法50条5項による準用には触れていない。
もっとも,仮差押えに準用される152条1項も「政令で定める額」を上限としており,これを定めた政令は施行令2条のほかにないから,本記事では,仮差押えでも同条の額(毎月払いなら33万円)によると考える。
前記教材の「主文例」6頁~7頁の給料債権の仮差押債権目録も,この33万円を前提とした記載になっている(後記3)。

(2) 扶養義務等に係る金銭債権を請求する場合

債権者が民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務(夫婦間の協力扶助,婚姻費用の分担,子の監護,扶養の義務)に係る金銭債権を請求する場合は,152条1項・2項の「四分の三」が「二分の一」となる(同条3項)。
民事保全法50条5項は「第百四十六条から第百五十三条まで」を準用しているから,152条3項も,これが引用する151条の2も,条文上は準用範囲に含まれる。

民事執行法151条の2第1項は,これらの義務に係る確定期限の定めのある定期金債権の一部に不履行があるときは,同法30条1項にかかわらず,確定期限が到来していないものについても債権執行を開始することができるとし,同条2項は,その場合に差し押さえることができるのは,各定期金債権の確定期限の到来後に弁済期が到来する給料その他継続的給付に係る債権に限るとしている。
仮差押えでは,被保全権利が期限付きであっても仮差押命令を発することができるから(民事保全法20条2項),同条の2の特例が独自の意味を持つ場面は限られると考えられる。
仮差押えで実際に問題になるのは,差押禁止の範囲を2分の1とする152条3項である。

もっとも,養育費や婚姻費用の未払分の回収は,債務名義に基づく給与差押えや家事事件の手続によることが多い。
これらは,養育費を払わない場合の回収方法―履行勧告・給与差押え・先取特権・ワンストップ執行婚姻費用が支払われない場合-履行勧告・給与差押え・令和8年の先取特権及び婚姻費用をすぐに受け取る方法-調停前の処分と審判前の保全処分の違いで扱う。

2 継続的給付への効力と期間の限定

民事執行法151条は,「給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ」と定めており,民事保全法50条5項により仮差押えにも準用される。
したがって,給料債権の仮差押えは,送達時点の給料だけでなく,その後に支給される給料にも効力が及び得る。

もっとも,前記教材50頁注2は,継続的に発生する債権を差し押さえる場合,仮差押えの暫定性や一審判決までの期間を勘案し,実務では始期と終期を明確にして,1年程度の期間に限って認める扱いとされることが多いとしている。
同教材の「主文例」8頁注①も,東京地方裁判所では,給料,賃料などの将来継続的に発生すべき債権について,必要性の審査や一審判決までに要する期間の見込みなどの観点から期間を限定する取扱いとされている(通常は1年程度)としている。

3 仮差押債権目録の記載例

前記教材の「主文例」6頁~7頁は,会社員の月給について,おおむね次の内容の記載例を示している。
①債務者が本決定送達後,一定の日までの間に第三債務者から支給される給料(基本給と諸手当。ただし,通勤手当を除く。)から給与所得税,住民税,社会保険料を控除した残額の4分の1とする。
②その残額が月額44万円を超えるときは,その残額から33万円を控除した金額とする。
③賞与についても同様に控除後の残額の4分の1(残額が44万円を超えるときは,残額から33万円を控除した金額)とする。
④これらによる金額が頭書金額に満たないうちに退職したときは,退職金から所得税,住民税を控除した残額の4分の1とする。

月額44万円という基準は,その4分の3が33万円になる額であり,民事執行法152条1項と民事執行法施行令2条1項1号を目録の記載に置き換えたものである。
月給以外の支払期の給料については,支払期の別に応じた政令で定める額の一覧表を目録に付ける記載例になっている(同「主文例」7頁~8頁)。

退職金債権だけを仮差押えする場合について,同「主文例」8頁注①は,本執行の前に退職する蓋然性についての疎明が必要とされるとしている。

4 差押禁止債権の範囲の変更

民事執行法153条1項は,執行裁判所が,申立てにより,債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して,差押命令の全部若しくは一部を取り消し,又は差押禁止部分について差押命令を発することができると定めており,この規定も民事保全法50条5項により準用される。
民事執行法145条4項も準用されるから,裁判所書記官は,仮差押命令を債務者に送達する際に,この取消しの申立てができる旨等を書面で教示する(民事保全規則41条2項,民事執行規則133条の2)。
差押禁止債権の範囲変更の申立ての要件と実務は,強制執行に対する債務者の対抗手段―執行抗告,請求異議の訴え,執行停止,差押禁止債権の範囲変更で扱う。

5 勤務先への影響

給料債権の仮差押えでは,勤務先が第三債務者として仮差押命令の送達を受け,陳述催告の申立てがあれば陳述書を提出する立場になる。
その結果,債務者が金銭トラブルを抱えていることが勤務先に知られることは避けられない。

東京地方裁判所民事第9部の【書式2-1】の注が求めるように,債権仮差押えでは当該債権以外に仮に差し押さえるべき財産がない状況にあることを疎明する必要がある。
債務者の生活や職場への影響が大きい手続であるから,保全の必要性の疎明は,不動産その他の財産の有無を具体的に調べた上で行う必要がある。

第5 第三債務者に対する陳述催告

1 申立てと催告

民事執行法147条1項は,「差押債権者の申立てがあるときは、裁判所書記官は、差押命令を送達するに際し、第三債務者に対し、差押命令の送達の日から二週間以内に差押えに係る債権の存否その他の最高裁判所規則で定める事項について陳述すべき旨を催告しなければならない」と定めており,民事保全法50条5項により仮差押えに準用される。
陳述すべき事項は,民事保全規則41条2項が準用する民事執行規則135条1項が次のとおり定めている。
①差押えに係る債権の存否並びにその債権が存在するときは,その種類及び額(金銭債権以外の債権にあっては,その内容)
②弁済の意思の有無及び弁済する範囲又は弁済しない理由
③当該債権について差押債権者に優先する権利を有する者があるときは,その者の氏名又は名称及び住所並びにその権利の種類及び優先する範囲
④当該債権に対する他の債権者の差押え又は仮差押えの執行の有無並びにこれらの執行がされているときは,事件の表示,債権者の氏名又は名称及び住所,送達の年月日並びに執行がされた範囲
⑤当該債権に対する滞納処分による差押えの有無並びに差押えがされているときは,差押えをした徴収職員等の属する庁その他の事務所の名称及び所在,債権差押通知書の送達の年月日並びに差押えがされた範囲

第三債務者の陳述は,書面でしなければならない(民事執行規則135条2項)。

陳述催告は職権で当然に行われるものではなく,債権者の申立てが必要である。
前記教材50頁は,実務上この申立てをするのが通常であり,仮差押命令申立てと同時に又は遅くとも同命令正本が第三債務者に発送される前にしなければならないとしている。
東京地方裁判所民事第9部の【書式2-2】は,陳述催告の申立ては遅くとも供託書正本の写しを提出するまでに行うよう注意を促し,大阪地方裁判所第1民事部の債権仮差押命令申立書の書式例も,陳述催告の申立書を一体として掲載している。

2 陳述の意味と不陳述の責任

東京地方裁判所民事第9部の【書式2-2】は,陳述催告は,その債権が存在しない場合に債権者が改めて他の財産に仮差押えする必要もあるので,仮差押えがその目的を達したかを確認するために行われると説明している。
陳述書が届けば,送達から2週間程度で,預金の有無や残高,給料の支給状況等がおおむね判明する。

第三債務者は,催告に対して,故意又は過失により,陳述をしなかったとき,又は不実の陳述をしたときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う(民事執行法147条2項)。

3 「預金なし」の陳述と担保の取戻し

陳述書に「預金なし」と記載された場合でも,債権者が立てた担保をそれだけの理由で簡易に取り戻せるわけではない。
前記教材114頁の「担保取戻しの運用基準」は,第三債務者への仮差押命令の送達による執行について,備考で「第三債務者の提出した陳述書に債権が不存在である旨の記載があっても,取戻しは認めない」としている。

担保の簡易の取戻し(民事保全規則17条)が認められる場面と,担保取消しの3類型は,仮差押えの担保(供託金)を取り戻す方法―担保取消しの3類型,簡易の取戻し及び所要期間で扱う。

4 仮差押えを受けた債権自体の消滅時効

仮差押えは,被保全債権(債権者の債務者に対する債権)について時効の完成猶予事由となる(民法149条1号)。
これに対し,仮差押えの目的となった債権(債務者の第三債務者に対する預金債権・給料債権・退職金債権等)の消滅時効については,別に考える必要がある。

東京高等裁判所平成25年4月18日判決(平成25年(ネ)第340号,金融・商事判例1425号33頁,判例秘書登載,裁判所ウェブサイト未掲載)は,「仮差押えは被仮差押債権の消滅時効を中断する効力を有しない。」との判決要旨で紹介されている。
事案は,財産分与請求権を保全するために元夫の国に対する退職金請求権を仮差押えした者が,その十数年後に本案の確定判決を得て差押えをし,取立訴訟を提起したというものである。

この判決は改正前民法の「中断」についての事案であり,現行民法の完成猶予について判断したものではない。
もっとも,仮差押えから本案の債務名義の取得まで長期間を要する場合には,仮差押えの目的となった債権の側の時効にも注意する必要がある。

第6 第三債務者の供託とみなし解放金

1 権利供託と義務供託

第三債務者は,差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる(民事執行法156条1項)。
民事保全法50条5項は,民事執行法156条(3項を除く。)を仮差押えの執行に準用している。
前記教材52頁~53頁は,第三債務者は仮差押えにより弁済が禁止されても弁済期経過後の履行遅滞の責任を免れないため,権利供託によりこの不利益を回避できると説明している。

差押えに係る金銭債権のうち差し押さえられていない部分を超えて仮差押命令等の送達を受けたとき等は,一定の場合に供託義務が生じる(民事執行法156条2項)。
ただし,前記教材53頁は,仮差押命令のみが競合しただけでは供託の義務はないとしている。
供託をした第三債務者は,その事情を執行裁判所に届け出なければならない(民事執行法156条4項)。

2 みなし解放金

第三債務者が仮差押えの執行がされた金銭債権の額に相当する金銭を供託した場合には,債務者が仮差押解放金の額に相当する金銭を供託したものとみなされる(民事保全法50条3項本文)。
ただし,解放金の額を超える部分は,この限りでない(同項ただし書)。

東京地方裁判所民事第9部の「解放金の取戻し」の案内(令和8年9月17日確認)は,債務者は第三債務者の供託した供託金の還付請求権を取得するが,その権利を行使するには,仮差押命令の申立てが取り下げられ,かつ,仮差押えの執行が取り消された事実を証明する必要があるとしている。
解放金の額の定め方と債権者の回収方法は,仮差押解放金とは―金額の決まり方,供託による執行の取消し及び債権者の回収方法で扱う。

第7 預金・給料の仮差押えの担保の額

仮差押命令は,担保を立てさせて発することができる(民事保全法14条1項)。
前記教材26頁~27頁は,担保の額は目的物の価格に応じて定められるのが一般的であるとし,基準を公表した裁判所はないとしている。

同教材28頁の「仮差押えの担保基準」は,目的物の価格に対する比率として,預金・給料を目的物とする場合について,例えば次のような幅を示している。
①手形金・小切手金を被保全債権とする場合は10~25%である。
②貸金・賃料・売買代金その他を被保全債権とする場合は10~30%である。
③交通事故損害賠償を被保全債権とする場合は10~25%である。
④その他の損害賠償を被保全債権とする場合は25~35%である。

これは平成25年時点の教材が紹介する一応の基準であり,実際の担保額は目的物の種類,被保全債権の内容,疎明の程度によって異なる(同教材27頁)。
担保額の算定方法の詳細は,仮差押えの担保金はいくらか―目的物の価格を基準とする算定方法,担保基準表及び立て方で扱う。

第8 債務者側への影響

預金の仮差押えは,仮差押えに係る預金の払戻しができなくなるだけでなく,その銀行との取引全体に影響することがある。
例えば,北洋銀行が公表している「銀行取引約定書 改訂のご案内」(平成16年10月)に掲載された銀行取引約定書5条1項4号は,借主又はその保証人の預金その他の銀行に対する債権について「仮差押、保全差押または差押の命令、通知が発送されたとき」を,通知催告等がなくても当然に期限の利益を失う事由としている。
具体的な効果は各金融機関との約定によるが,借入れのある銀行の預金を仮差押えすると,債務者は借入金全額について期限の利益を失うおそれがある。
その場合に銀行が預金と貸付金を相殺する問題は,前記第3の5で扱った。

仮差押えは債務名義に基づく本執行ではないため,債権者は仮差押えだけで預金や給料から回収することはできない。
仮差押えと差押えの効力の違いは,仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効で扱う。
仮差押えを受けた債務者が保全異議等で争う方法は,仮差押えを受けた債務者の対抗手段―保全異議,起訴命令,事情変更による保全取消し及び保全抗告で扱う。

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第10 出典・参考資料

1 法令・裁判所規則

民事保全法6条,12条,14条,20条,43条,50条(e-Gov法令検索)
民事執行法145条,146条,147条,149条,151条,151条の2,152条,153条,156条,167条の14(e-Gov法令検索)
民事執行法施行令2条(e-Gov法令検索)
民事訴訟法4条(e-Gov法令検索)
民法149条,511条(e-Gov法令検索)
民事保全規則1条,18条,19条,41条(裁判所ウェブサイト)
民事執行規則133条の2,135条(裁判所ウェブサイト)

2 裁判例

最高裁判所大法廷昭和45年6月24日判決(昭和39年(オ)第155号,民集24巻6号587頁)
最高裁判所第三小法廷平成23年9月20日決定(平成23年(許)第34号,民集65巻6号2710頁)
最高裁判所第三小法廷平成24年7月24日決定(平成24年(許)第1号,集民241号29頁)
④東京高等裁判所平成18年6月19日決定(平成18年(ラ)第475号,判例タイムズ1222号306頁,判例時報1937号91頁,判例秘書登載,裁判所ウェブサイト未掲載)
⑤東京高等裁判所平成25年4月18日判決(平成25年(ネ)第340号,金融・商事判例1425号33頁,判例秘書登載,裁判所ウェブサイト未掲載)

3 裁判所等の案内

東京地方裁判所民事第9部「保全事件の申立て(電子申立て不可)」
東京地方裁判所民事第9部【書式2-1】債権仮差押命令申立書・当事者目録・請求債権目録・仮差押債権目録
東京地方裁判所民事第9部【書式2-2】第三債務者に対する陳述催告の申立書
東京地方裁判所民事第9部「仮差押債権目録等の記載例について(郵政民営化に伴うもの)」
東京地方裁判所民事第9部「JA貯金に対する仮差押債権目録の記載例」
東京地方裁判所民事第9部「保全事件の発令まで」
東京地方裁判所民事第9部「解放金の取戻し(電子申立て不可)」
大阪地方裁判所第1民事部「申立書等書式のサンプル」
大阪地方裁判所第1民事部「債権仮差押命令申立書(陳述催告の申立書を含む)」
北洋銀行「銀行取引約定書 改訂のご案内」(平成16年10月)

4 文献

①司法研修所編『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』(日本弁護士連合会,平成25年)26頁~28頁,50頁~53頁,114頁
②同教材所収「主文例」6頁~8頁,10頁