目次
第1 結論
第2 参照資料とその位置付け
第3 少年事件の報道対応で検討される六つの要素
第4 少年法61条と特定少年
第5 弁護士が報道対応前に確認する事項
第6 被害者及び家族の情報への配慮
第7 一次資料及び関連記事
第1 結論
1 本記事が扱うのは,少年本人,保護者,被害者その他の関係者から依頼を受けた弁護士が報道機関の取材に対応する場面です。裁判所職員側の取材対応は,「裁判所の取材対応」及び「裁判所の報道対応の基礎」で扱います。
2 少年審判は非公開であり,弁護士は,依頼者の意思,守秘義務,少年本人の推知可能性,被害者その他の関係者のプライバシー及び手続への影響を分けて確認する必要があります。報道やSNSですでに流通している情報であっても,弁護士が確認又は提供してよい情報であるとは限りません。
3 少年法61条は,少年本人を推知できる記事又は写真の掲載を原則として禁止しています。ただし,18歳又は19歳の「特定少年」がその時に犯した罪について逆送後に起訴された場合は,略式手続を除き,その段階から同条の適用除外となります。
4 この適用除外は,少年審判の記録やそれまでの非公開手続が公開に変わることを意味せず,被害者,家族その他の第三者のプライバシーまで失わせるものでもありません。
第2 参照資料とその位置付け
1 広報ハンドブック(少年事件編)(令和2年3月版)は,最高裁判所事務総局広報課が,家庭裁判所の広報担当者向けに報道対応の考慮要素を整理した司法行政実務上の参考資料です。法令ではなく,個々の取材に対する回答義務や情報提供請求権を定めるものではありません。
2 同ハンドブックは,令和4年4月1日に施行された特定少年の制度より前の資料です。そのため,現在の報道対応では,同ハンドブックに加えて,改正後の少年法及び公式Q&Aを確認する必要があります。
3 本文でいう「ハンドブックの説明」は資料の記載内容であり,「現行法」はe-Gov法令検索等で確認した条文です。両者を区別します。
第3 少年事件の報道対応で検討される六つの要素
・ 広報ハンドブック(少年事件編)は,裁判所側が回答するか,どこまで回答するか,いつ回答するかを決める際の主な考慮要素として,次の六つを挙げています。弁護士に直接適用される規則ではありませんが,取材対応のリスクを点検するための逆向きのチェック項目として参照できます。
1 正確な報道のために回答する必要性
2 少年及びその家族等に与える影響
3 被害者その他の関係者に与える影響
4 事件の調査及び審判に与える影響
5 護送,鑑別その他の関係機関に与える影響
6 模倣性による非行の伝搬,周辺住民の安全確保等の事件固有の事情
・ これは機械的な点数表ではありません。同ハンドブックも,事件,周囲の状況及び取材事項が毎回異なるため,個別に総合考量すべきであるとしています。
第4 少年法61条と特定少年
1 少年法61条は,家庭裁判所の審判に付された少年又は少年の時に犯した罪により公訴を提起された者について,氏名,年齢,職業,住居,容貌等により事件本人であることを推知できる記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載することを禁止しています。
2 裁判所の少年事件Q&A及び法務省の少年法改正Q&Aによれば,18歳又は19歳の特定少年がその時に犯した罪について逆送後に起訴された場合,略式手続を除き,その段階から推知報道禁止の適用が外れます。
3 したがって,年齢を確認する基準は報道時ではなく行為時であり,適用除外の基準時は逮捕時,家裁送致時又は逆送決定時ではなく,公訴提起時です。また,略式命令の請求は例外から除かれます。
4 特定少年の例外は少年法61条の適用範囲の問題です。名誉毀損,プライバシー,個人情報,証拠や記録の目的外使用及び依頼者との守秘義務など,別の法的・倫理的問題は残ります。
第5 弁護士が報道対応前に確認する事項
1 誰の立場で話すのか
・ 少年本人,保護者,被害者,付添人又は代理人のどの立場で対応するのかを最初に確定します。依頼者の意思と弁護士自身の一般論を混同しないようにします。
2 手続段階
・ 捜査中,家裁送致後,審判前,審判後,逆送後,公訴提起後又は判決後のいずれかを確認します。特定少年の推知報道禁止が外れるかどうかは,特に公訴提起の有無が重要です。
3 推知可能性
・ 氏名を出さなくても,学校,勤務先,居住地域,家族関係,事件日時,写真の背景その他の情報を組み合わせれば本人を特定できることがあります。個々の情報ではなく,組合せで評価します。
4 情報源の区別
・ 裁判所の説明,審判記録,依頼者の説明,報道機関の取材結果及びSNS投稿を区別します。報道やSNSで既に流通していることだけを理由に,裁判所又は弁護士が確認してよい情報にはなりません。
5 回答範囲と記録
・ 回答可能事項,回答しない事項及びその理由を事前に整理し,可能であれば質問を文書で受けます。回答内容,提供資料,日時及び相手方を記録します。
第6 被害者及び家族の情報への配慮
1 少年本人の推知防止だけでなく,被害者その他の関係者の名誉及びプライバシー,二次的取材による負担を検討する必要があります。
2 一般の広報ハンドブックは,著名な少年事件で決定要旨を作成する場合があり,被害者等が自分たちより先に報道で結果を知ることへの不満に配慮して,審判終了直後に被害者等又は代理人に決定要旨を渡した例があると紹介しています。これは例示であって,一律の交付義務又は交付請求権を示すものではありません。
3 実務では,結果通知の予定,報道機関への説明時刻及び被害者側への説明時刻を,家裁の担当部署と事前に確認しておくことが有用です。
第7 一次資料及び関連記事
1 一次資料等
・ 最高裁判所事務総局広報課「広報ハンドブック(少年事件編)(令和2年3月版)」
・ 少年法
・ 裁判所「少年事件Q&A」
・ 法務省「少年法改正Q&A」
2 関連記事
・ 裁判所の取材対応
・ 対象裁判が著名事件等である場合の留意事項
・ 判決要旨等