第1 2判決の対象と結論
最高裁第二小法廷は,令和8年10月30日,死刑確定者による民事訴訟への出廷と,司法書士との職員立会いのない面会について,それぞれ国家賠償法(以下「国賠法」という。)上の違法性を判断した。
いずれも,原告の上告を棄却するとともに,原審が国の責任を認めた部分を破棄し,差し戻さずに自判して,その部分についても請求を認めない結論とした。
自判の形は,出廷事件では原審で追加された請求の棄却,面会事件では請求を棄却した第1審判決に対する原告の控訴の棄却である。
出廷事件は令和7年(受)第172号・第173号,面会事件は同年(受)第39号・第40号である。
前者は拘置所の外に出て期日に出頭すること,後者は拘置所内での面会に職員を立ち会わせないことが問題であり,同じ措置を扱った判決ではない。
両判決は,刑事施設の長の裁量を前提に,原告が求めた出頭又は職員立会いのない面会が特に必要であるというべき事情があるかを検討した。
ただし,死刑確定者の出廷又は立会いのない面会が,どのような場合にも認められないとしたものではない。
本記事は,裁判所公表の2件の判決全文を基礎に,それぞれの判断とその射程を整理する。
第2 民事訴訟への出廷を許可しなかった事件
1 出廷許可の申出と原審の判断
出廷事件の第1審原告は,名古屋拘置所に収容されている死刑確定者であり,平成29年1月から令和2年7月まで,自ら提起した民事訴訟の口頭弁論期日への出頭許可を合計47回求めたが,いずれも許可されなかった。
その後,原告が司法書士との面会に関する措置等の違法を主張して提起した別の国賠訴訟の控訴審で,司法書士と拘置所職員の証人尋問が予定され,原告は,令和5年12月の2つの期日についても出頭許可を求めたが,許可されなかった。
後の2期日では,原告本人が証人に質問することが予定され,控訴審裁判所から拘置所長に再検討を求める事務連絡も送られた。
原審は,先の47回の不許可について違法性を否定した一方,後の2回については,別の国賠訴訟の控訴審裁判所が証人尋問の必要を明示して出頭を要請するなどしたのに,拘置所長が出頭させない方針を貫いたため期日を取り消さざるを得なくなったとして,裁量権の逸脱・濫用があり,憲法32条にも違反して国賠法上違法となると判断した。
以上の経過は,出廷事件判決1頁~3頁による。
2 最高裁が示した判断枠組み
最高裁は,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)には死刑確定者が自ら提起した民事訴訟の期日に出頭できる場合を定めた規定はないとした上で,出頭を許可するかは,刑事施設内の実情に通じた施設の長の裁量に委ねられるとした。
死刑確定者が憲法32条の趣旨に鑑みて期日に出頭して訴訟を追行することにつき利益を有するということができるとしても,死刑確定者の拘置の趣旨・目的に照らし,出頭が制約されることは予定されていると説明した。
裁量判断では,具体的な出頭の必要性と拘置への影響等を考慮する。
その上で,死刑確定者については,その置かれた特殊な状況に鑑み,施設外に連れ出すと拘置に重大な影響が生ずる可能性が類型的に高く,護送の際の警備にも格別の配慮を要することを踏まえ,不許可が裁量権の逸脱・濫用となるのは,当該期日への出頭が特に必要といえる場合に限られるとした。
判断枠組みは,同判決3頁~4頁に示されている。
3 47回の不許可と証人尋問が予定されていた2期日への当てはめ
最高裁は,後の2期日について,証人への質問は,原告本人が出頭しなくても訴訟代理人が行うことができ,裁判官が行うことも可能であると指摘した。
証人尋問が予定されていた訴訟は,司法書士との面会について職員の立会いを許さなかった措置及び面会の際の職員の言動等の違法を主張する国賠訴訟であり,その事案の内容及び性質に照らしても,原告本人による質問が訴訟代理人等によるものでは代替し得ないものであったというべき事情はうかがわれないとした。
そのほかに,当該期日に出頭することが必要であったというべき事情も見当たらないとした。
もっとも,原告は当該訴訟で訴訟代理人を選任していなかった(同判決2頁)。
判決は,この事実を当てはめの中で取り上げておらず,訴訟代理人が質問できること及び裁判官が質問し得ることを,原告本人の質問に代わり得る方法として挙げている。
最高裁は,その控訴審裁判所が不許可の後に出頭の可否の再検討を求めたことを考慮しても,出頭が特に必要であったということはできないとして,後の2回の不許可は裁量権の逸脱・濫用に当たらず,国賠法上違法ではないと判断した(同判決4頁~5頁)。
先の47回の不許可についても,各期日への出頭が特に必要であったというべき事情はうかがわれないとして国賠法上の違法性を否定し,この点の原告の上告を棄却した(同判決4頁~5頁)。
第3 司法書士との面会に職員を立ち会わせた事件
1 61回の面会と原審の判断
面会事件の第1審原告も,名古屋拘置所に収容されている死刑確定者であり,平成30年1月から令和3年7月まで合計61回,司法書士と面会した。
拘置所で受けた処遇に関する訴訟の打合せ等を目的として,その都度,職員立会いのない面会を求めたが,拘置所長は認めなかった。
原審は,このうち4回について国賠法上の違法性を認め,さらに,そのうち2回の面会時の職員の言動(原審の認定では,大声で高圧的に怒鳴り,有無を言わせない態度を見せたこと,及び国賠訴訟に係る話に口を挟み,興奮した様子を見せたこと)についても,訴訟準備を積極的に妨害するものとして違法とした。
経過と原審判断は,面会事件判決1頁~3頁による。
最高裁は,これらの原審判断を是認しなかった。
原審が違法性を否定した残り57回の措置については,その判断を結論において是認し,原告の上告を棄却した(同判決3頁,5頁)。
2 職員立会いの原則と例外
最高裁は,刑事収容施設法121条について,死刑確定者の面会では職員の立会い等を原則とし,訴訟の準備その他の正当な利益の保護のため立会い等をさせないことを適当とする事情がある場合に,相当と認めるときは,例外的に立会いのない面会等を認めるものとし,その判断を施設の長の裁量に委ねた規定であると説明した。
心情の把握や不適切な行為・発言の制止の必要性と,面会時の発言内容を職員に知られない利益等を比較衡量する枠組みである。
そして,死刑確定者は類型的に上記の必要性が高いとして,立会いのない面会を認めない措置が裁量権の逸脱・濫用となるには,立会いのないものとすることを許すことが特に必要であるというべき事情を要するとした。
この枠組みは,同判決3頁~4頁に示されている。
3 本件司法書士の代理人資格を重視した判断
最高裁が重視したのは,本件司法書士が,打合せの対象となった地方裁判所の各訴訟について,訴訟代理人となる資格を有しなかった点である。
民事訴訟法54条1項本文と司法書士法3条1項6号イ・6項を参照し,その司法書士との打合せのために職員立会いのない面会をする利益を保護すべき必要性が高いとはいえないとした。
これらの規定によれば,司法書士が訴訟代理人となれるのは,同法3条2項の要件を満たす司法書士が簡易裁判所の一定の手続を扱う場合であり,地方裁判所の訴訟は含まれない。
原告と司法書士が共同原告となって提訴した訴訟があることを踏まえても,その必要性が高いとはいえないことは変わらないとした。
そのほかに特に必要であるというべき事情があったとはうかがわれないとして,面会に職員を立ち会わせた各措置について,国賠法上の違法性を否定した(同判決4頁)。
4 職員の言動に関する結論
最高裁は,立会いに関する判断を踏まえると,本件の職員の各言動が原告の権利利益を侵害するとまでいうことはできないとして,この点の国賠法上の違法性も否定した(同判決4頁~5頁)。
この結論を,面会中の職員の言動であれば,その内容や態様を問わず適法となるという一般命題に広げることはできない。
第4 2判決の共通点と相違点
1 共通するのは裁量審査と具体的な必要性である
2判決は,施設の長の裁量を前提に,原告が求めた取扱いが特に必要であるというべき事情があるかを検討した点で共通する。
いずれも原告側の利益に触れた上で,死刑確定者の拘置・処遇に関する事情との関係を判断している。
したがって,本人が訴訟追行又は打合せを希望しているという事情だけで,直ちに出廷又は職員立会いのない面会を認める判断ではない。
他方で,例外が成立する可能性そのものを否定する判断でもない。
2 出廷と面会では当てはめの対象が異なる
出廷事件の当てはめでは,当該期日に本人が出頭する必要性と,証人への質問を他の者が行う可能性が検討された。
施設外への護送等は,判断枠組みの理由として示された事情である。
面会事件では,発言の秘密を守る利益と処遇上の必要性に加え,面会相手が当該訴訟の代理人となる資格を有するかが重視された。
一方の事件で重視された事情を,もう一方の事件の唯一の基準として置き換えることはできない。
また,いずれも拘置所長の措置の国賠法上の違法性を判断した事件であり,出廷や面会の許可を直接命じた事件ではない。
第5 実務で確認しておきたい事項
1 出廷の必要性を期日と訴訟行為に結び付ける
本記事では,出廷を求める場合,対象期日,予定される訴訟行為,本人の出頭を必要とする理由,代理人や裁判官による対応では代替できないと考える事情を,具体的に整理することが有用と考える。
単に訴訟が係属していることや,不許可の後に裁判所が再検討を求めたことだけで,出廷事件判決の判断枠組みを満たすと説明することはできない。
もっとも,これは判決から導く実務上の検討事項であって,最高裁が申請書の記載事項を網羅的に定めたという意味ではない。
2 面会相手の資格と打合せ対象を具体化する
面会については,面会相手の肩書だけでなく,どの訴訟の,どのような立場の者との打合せかを区別する必要がある。
本件司法書士についての代理人資格の判断を,弁護士との面会や,異なる手続における司法書士の業務のすべてへ一般化することはできない。
職員立会いのない面会を求める場合には,打合せ内容とその秘密を保護する必要性について,具体的事情を整理することが考えられる。
これも本記事の実務上の整理であり,その事情を示せば必ず例外が認められるという予測ではない。
第6 2判決からは決まらないこと
出廷事件判決は,拘置所の外へ出て裁判所の期日に出頭することを扱う。
この判断だけから,ウェブ会議その他の遠隔参加の可否や,その方式による参加の要件を一律に導くことはできない。
面会事件判決も,本件司法書士との面会と,判決に記載された職員の言動についての判断である。
弁護士との秘密の面会の要件や,あらゆる被収容者の外部交通に関する基準を,2判決だけで説明し尽くすことはできない。
訴訟の期日に出頭できなかった場合の手続上の効果も,出廷不許可の国賠法上の違法性とは別に検討する問題である。
当事者双方の連続不出頭による訴え取下げ擬制については,次の関連記事で別の最高裁決定を取り上げている。
第7 関連記事
① 双方連続不出頭による訴え取下げ擬制-民訴法263条後段と期日の延期(最高裁令和5年9月27日決定)
第8 出典と確認範囲
① 最高裁第二小法廷令和8年10月30日判決・令和7年(受)第172号・第173号(出廷事件)
判決全文1頁~5頁。事実関係・原審判断は1頁~3頁,判断枠組みは3頁~4頁,当てはめ・結論は4頁~5頁を確認した。
② 最高裁第二小法廷令和8年10月30日判決・令和7年(受)第39号・第40号(面会事件)
判決全文1頁~5頁。事実関係・原審判断は1頁~3頁,判断枠組み・当てはめは3頁~4頁,職員の言動と結論は4頁~5頁を確認した。
③ e-Gov法令検索:刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律121条,民事訴訟法54条,司法書士法3条