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平成30年司法試験民事系科目第1問(民法)の模範解答と評価項目―40項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成30年司法試験の民事系科目第1問(民法)について,法務省の出題の趣旨及び採点実感を踏まえた模範解答と,独自に抽出した40項目の評価表を示す。
試験実施日の平成30年5月17日当時の法を基準にし,債権法改正後の条文を本問へ遡って適用しない。

項目内容
対象平成30年司法試験・民事系科目第1問(民法)
資料の状態出題の趣旨及び訂正済採点実感の本問関連範囲を実読・照合した類型A
採用する結論設問1はBの代金50万円請求を認め,設問2はDの両発言を正当とし,設問3はFからGへの100万円請求を認める構成
評価項目40項目。重み5は7項目。全項目の重み合計150は公式配点・満点ではない。
答案5000字以内。許容される別構成は枠外で区別する。

設問2は両小問とも結論の一方だけが正答とされているわけではない。
設問3も遺言解釈と債務承継の構成に応じた別解が許容されるため,下の答案と結論が異なるだけで誤答とはならない。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

評価表は法務省の公式採点基準ではなく,公表資料から受験指導の観点で独自に抽出したものである。
重みは統一基準R081020-EXAM-RUBRIC-UNIFIED-v1に従い,出現回数や合格率から逆算していない。

重み意味
5その設問の判断を大きく分ける核心
4結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
3通常押さえる法的処理・事情の評価
2論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
1補充的な引用・記述範囲の確認

「注意」は誤りを避けるための種別であり,一律の減点や重み2への配属を意味しない。
許容分岐は採用した構成に応じて適用し,不採用の別構成を累積して要求しない。
出典欄の実頁はPDFファイルの先頭から数えた頁であり,関連記載からの推論と明示的な指摘を区別する。

重みの分布は1が0件,2が2件,3が13件,4が18件,5が7件である。
N=40,W=150となるが,許容分岐を含む一覧全体の集計であり,一つの答案の得点分母ではない。

重み5は番号12・14・20・25・26・33・38である。
順に,注意義務軽減の根拠,軽減後の施錠評価,留保所有権の実質,Eの第三者性,建物名義人の例外責任との比較,相続分指定,弁済後の償還請求の根拠という,判断の構造を分ける箇所に限定した。
その結論を支える個々の事情や理由付けは,主として重み4に置いている。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

設問1は,Bが約定に適合する松茸5キログラムを準備し,Aへ通知した後,Aが約定時に引き取れず,翌朝に松茸が盗まれた事例である。
Bの従業員Cは,指示された二重施錠を翌朝に忘れたが,B自身のりんご等を保管する普段の簡易な錠は使用していた。

設問2は,代金完済までDが所有権と登録名義を留保するトラックがEの土地に放置され,EがDへ撤去を求める事例である。
買主Aは所在不明になった後も分割金を支払っており,支払遅滞はない。

設問3は,Cの遺言によりFに1200万円,Gに600万円の預金を相続させ,廃除されたHには200万円の預金を与えるとした事例である。
Cの借入金300万円をFが全額弁済しており,Gへの請求額を遺言の解釈から検討する。

2 設問が求めること

設問立場・指定と答案の到達点
設問1Bの代金請求の可否。特定→不能→危険負担→帰責事由と注意義務→代金債務の帰趨まで接続する。
設問2⑴Dの発言㋐の正当性。担保目的と契約上の権能分配を根拠として撤去義務を検討する。
設問2⑵㋐が正当との仮定を維持し,登録名義を理由とする請求と発言㋑の正当性を別に判断する。
設問3遺言の法的性質と債務承継割合を明示して,FがGに請求できる額と法的根拠へ到達する。利息は計算しない。

第4 評価項目と重み

1 設問1の評価表

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1乙倉庫での引取りという事実から取立債務であると示し,特定に必要な分離・準備・通知を定める。3実頁4・設問1:取立債務(実読済み)実頁2・設問1:取立債務(実読済み)
2約定適合の5キログラムの箱詰め・乙倉庫への準備・Aへの通知を401条2項へ当てはめ,特定を認定する。4実頁4・設問1:特定が認められ(実読済み)実頁2・設問1:目的物の分離(実読済み)
3特定した松茸の盗難を履行不能として捉え,別物の再調達義務と区別する。3実頁4・設問1:盗難により滅失(実読済み)実頁2・設問1:履行不能(実読済み)
4旧534条2項を適用する構成では,対価関係にある債務の牽連性を踏まえ,同項の適用を公平上の批判にも応接して理由付ける。/適用条件:旧534条2項を文言どおり適用する構成4実頁5・設問1:公平ではない(実読済み)実頁2・設問1:制限する必要(実読済み)
5【許容分岐】旧534条2項の適用を否定・制限する構成では,理由と適用範囲を一貫させ,本件での不適用を導く。/適用条件:旧534条2項を制限又は否定する構成のみ4実頁5・設問1:適用を否定又は制限(実読済み)実頁2・設問1:制限的に解する(実読済み)
6【許容分岐】旧534条を適用しない構成では,提供・受領遅滞等から対価危険が移転する根拠と本件への適用を示す。/適用条件:番号5の構成のみ4実頁5・設問1:対価危険の移転(実読済み)実頁2・設問1:対価危険の移転(実読済み)
7特定物の売主の旧400条上の善管注意義務を出発点に,帰責事由の判断基準を定める。/適用条件:通常の保存義務から検討する答案。軽減後の注意義務を適切に検討する答案は同等評価とし,本項の不記載を別に不足扱いしない4実頁5・設問1:善良な管理者の注意(実読済み)実頁2・設問1:民法第400条(実読済み)
8Cを保管に用いる狭義の履行補助者とし,その故意・過失を信義則上Bと同視する根拠を示す。4実頁5・設問1:信義則上(実読済み)実頁2・設問1:履行補助者の故意(実読済み)
9善管注意の水準で判断する場合,盗難多発・警察の注意喚起・二重施錠指示と簡易な錠を対応させる。/適用条件:善管注意の段階を明示して検討する場合。軽減後の適切な検討で代替できる4実頁5・設問1:警察が注意喚起(実読済み)実頁2・設問1:善管注意義務(実読済み)
10債権者の引取り行為を要することから493条ただし書の提供を認め,事実に即して提供の方法を示す。3実頁5・設問1:弁済の提供(実読済み)実頁2・設問1:弁済の提供(実読済み)
11Aが約定時に受領できなかったことを法的に評価し,採用した受領遅滞等の構成の成立を示す。/適用条件:受領遅滞の構成。提供又は受領義務違反による説明も許容3実頁5・設問1:Aの受領遅滞(実読済み)実頁2・設問1:受領遅滞が生じている(実読済み)
12採用した提供・受領遅滞・受領義務違反から,なぜBの保存義務が軽減されるかを説明する。5実頁5・設問1:軽減される理由(実読済み)実頁2・設問1:注意義務の程度の低減(実読済み)
13軽減後の注意内容を自己財産同一注意又は故意・重過失責任等として具体的に定義する。/適用条件:採用する注意軽減構成に応じた内容3実頁5・設問1:自己の財産に対する(実読済み)実頁2・設問1:自己の財産と同一(実読済み)
14Cの普段どおりの施錠を軽減後の基準に当てはめ,指示違反だけで結論せず帰責事由の有無を判断する。5実頁5・設問1:普段どおり(実読済み)実頁3・設問1:注意義務違反の有無(実読済み)
15特定・不能・帰責事由・危険負担を接続し,Bの50万円代金請求の結論まで導く。4実頁5・設問1:代金請求(実読済み)実頁2・設問1:諸制度の相互関係(実読済み)
16【注意】注意:旧534条をそのまま適用する構成で,提供等による同じ対価危険の移転を重複して論じない。/適用条件:旧534条文言適用構成のみ2記載なし実頁2・設問1:重ねて対価危険の移転(実読済み)
17【注意】注意:Aの延期連絡だけから,Bの承諾の記載がない履行期延期合意を補わない。3記載なし実頁6・設問1:履行期の延期(実読済み)
18【注意】注意:特定物が履行不能となった後の引渡しとの同時履行に過大な分量を割かない。2記載なし実頁2・設問1:必要以上に多くの記述(実読済み)

2 設問2⑴の評価表

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
19Eの土地所有権に基づく妨害排除請求と,相手方が現に妨害する者である原則を示す。3実頁6・設問2⑴:現に妨害をしている者(実読済み)実頁3・設問2⑴:妨害排除請求権(実読済み)
20担保目的で留保された所有権の内容を,通常の所有権と区別して妨害排除義務へ接続する。5実頁6・設問2⑴:交換価値しか把握(実読済み)実頁3・設問2⑴:担保のため(実読済み)
21返還・換価条項と支払遅滞の不存在から,Dの占有・処分権能が現にどこまであるかを判断する。/適用条件:全答案。採点実感の訂正版による4実頁6・設問2⑴:被担保債権の不履行(実読済み)実頁3・設問2⑴:Aの債務不履行(実読済み)
22AD間の制約は内部的なものとの反論又は所有権留保を選んだ者の負担との反論に応接する。/適用条件:撤去義務の肯否を理由付けるため有力な反対構成を採り上げる場合4実頁6・設問2⑴:Aとの関係で制約(実読済み)記載なし

3 設問2⑵の評価表

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23㋐が正当との仮定を,Dの通常の所有権の実質的喪失という前提として保存する。3実頁6・設問2⑵:実質的に喪失(実読済み)実頁3・設問2⑵:実質的には所有者ではなく(実読済み)
24道路運送車両法5条1項を民法177条と同趣旨に解し,法律上の利害関係に基づく第三者の意義を定める。4実頁7・設問2⑵:法律上の利害関係(実読済み)実頁4・設問2⑵:第三者(実読済み)
25Eの探索困難という利益だけでは通常の対抗関係の第三者に該当しないと判断する。5実頁7・設問2⑵:第三者には基本的に該当しない(実読済み)実頁3・設問2⑵:当然に対抗関係(実読済み)
26自ら登記名義を得て残す建物譲渡人への例外的請求を,通常の第三者性と分けて構成する。/適用条件:全答案。特定判例を引用せず同等の構成を示すことも妨げない5実頁7・設問2⑵:対抗関係にも似た関係(実読済み)実頁4・設問2⑵:例外的なもの(実読済み)
27建物の全面的・固定的な土地占有と自動車の移動性を比較し,例外の拡張の可否を理由付ける。/適用条件:全答案。必要な根幹理由の一つとして検討4実頁7・設問2⑵:全面的・固定的占有(実読済み)実頁4・設問2⑵:不動産と動産(実読済み)
28留保売買で名義を残す合理性と,車両を撤去した後も保管を続ける負担を評価する。/適用条件:名義残存の帰責性・義務履行負担から理由付ける場合4実頁8・設問2⑵:保管し続けなければならない(実読済み)記載なし
29Eの実効的救済・権利者探索困難という反対事情にも応接し,一貫した結論を示す。/適用条件:採用結論の反対方向に働く事情がある全答案3実頁8・設問2⑵:反対の結論を根拠付ける(実読済み)実頁4・設問2⑵:一応の理由付け(実読済み)

4 設問3の評価表

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
30遺言者の意思を尊重し,遺言全体の合理的な解釈をする指針を示す。3実頁8・設問3:合理的にその趣旨を解釈(実読済み)実頁5・設問3:遺言の解釈指針(実読済み)
31廃除されたHは相続人ではなく200万円の特定受遺者であり,廃除の取消しや債務相続を認めない。4実頁9・設問3:特定遺贈と解釈される(実読済み)実頁4・設問3:Hについて債務の相続承継(実読済み)
32FGへの相続させる遺言を,908条の遺産分割方法の指定として位置付け,特定遺贈との違いを示す。/適用条件:遺産分割方法指定説を採る答案3実頁8・設問3:遺産分割方法の指定(実読済み)実頁5・設問3:遺産分割方法の指定(実読済み)
33分割方法指定と相続分指定を区別し,FをGより多くする意思と金額から902条の相続分指定の有無を論じる。/適用条件:遺産分割方法指定説を採る答案5実頁9・設問3:相続分の指定(実読済み)実頁5・設問3:相続分の指定を伴うのか(実読済み)
34【許容分岐】特定遺贈説を採る場合には,分割方法指定説への批判と遺贈と解する根拠を示して債務承継に接続する。/適用条件:FGへの遺言も特定遺贈と解する答案のみ4実頁9・設問3:特定遺贈(実読済み)実頁5・設問3:特定遺贈(実読済み)
35【許容分岐】積極財産のみの処分で債務承継を変更しないと解する場合,その意思解釈の理由と法定相続分の帰結を示す。/適用条件:債務について相続分指定なしと解する答案のみ4実頁9・設問3:個別の積極財産(実読済み)記載なし
36可分な金銭債務を,427条及び相続分の規律により分割債務として承継する構成を示す。/適用条件:分割債務説を採る答案4実頁9・設問3:分割債務として承継(実読済み)実頁5・設問3:分割債務(実読済み)
37Hへの特定遺贈を相続分の分母に混ぜず,採用説の債務承継割合から100万円又は150万円を計算する。/適用条件:全答案。採用説に応じた一方の計算で足りる3実頁9・設問3:100万円(実読済み)実頁5・設問3:指定相続分3分の1(実読済み)
38他人の債務の弁済の有効性を踏まえ,分割債務説では事務管理等の費用償還根拠と上限を示す。/適用条件:分割債務説を採る答案5実頁9・設問3:事務管理等を理由(実読済み)実頁5・設問3:事務管理等による(実読済み)
39【許容分岐】不可分又は合有債務説を採る場合には,分割債務説への批判と内部負担部分を超える求償を一貫して説明する。/適用条件:不可分又は合有債務説を採る答案のみ4実頁9・設問3:不可分債務又は合有債務(実読済み)実頁5・設問3:不可分債務(実読済み)
40【注意】注意:分割承継を認めながら連帯債務と扱うなど,多数債務関係の分類を混同しない。3記載なし実頁5・設問3:連帯債務関係(実読済み)

注意項目17及び31が,問題文にない延期合意や廃除取消しを補う誤りを設問別に扱っている。
同じ注意を答案全体の別項目として重ねて集計しない。
また,番号7・9に関し,軽減後の注意義務を適切に論じた答案は,通常の善管注意の段階を別に書かなくても同等に評価されたと採点実感は述べている。

第5 模範解答

1 前提と表記

以下は,旧534条2項の文言に沿う構成,留保所有権者Dの撤去義務を否定する構成,指定相続分を伴う遺産分割方法の指定と分割債務の構成を採用した答案例である。
「旧」は試験当時の規定を意味し,答案は現在の法を説明するものではない。

2 答案

第1 設問1
1 Bは売買契約に基づき代金50万円を請求できるのが原則である。
これに対しAは松茸の引渡しとの同時履行を主張する。
まず,引渡債務が存続するかを検討する。

本件の目的物は松茸5キログラムという種類物であり,当初はBに調達義務がある。
しかし,取立債務では,契約に適合する物を分離して引渡場所に置き,引渡準備を通知して受領を求めれば,債務者が給付に必要な行為を完了したとして特定が生ずる(401条2項)。
Bは9月21日午後4時,約定に適う松茸5キログラムを箱詰めして乙倉庫に置き,準備完了を電話で通知し,Aも午後8時に引き取ると答えた。
したがって,目的物はこの松茸に特定した。

その後の盗難により,この松茸を取り戻して引き渡すことは社会通念上不能となった。
特定後は同種の松茸を別に調達する義務もない。

2 もっとも,引渡不能で代金債務も消滅するかは危険負担による。
双務契約上の両債務は対価的な牽連関係にあり,一方の給付が不能となれば反対給付も失われるのが原則である。
もっとも,旧534条2項は,種類物が401条2項により特定した後は,同条1項の債権者主義によると定める。
引渡しを受けない買主に代金を負担させる点には公平上の批判があるが,特定の要件を充足した後の不可抗力の危険を配分した明文の規律として,これを適用する。
売主に帰責事由がある場合を除くことによって買主の利益も保護される。
そこで,Cの施錠方法をBの帰責事由と評価できるかが問題となる。

Aが乙倉庫で引き取るという債権者の行為を要するため,Bは準備完了を通知して受領を催告すれば弁済の提供となる(493条ただし書)。
午後8時まで引渡準備を保っていたのにAが来訪できなかった以上,Aは受領遅滞に陥った(旧413条)。
これは受領しないことに対する法定の責任であり,Aに過失がないことだけで当然に否定されない。
提供そのものは弁済ではないが,Bは不履行責任を免れ(492条),保存についても自己の財産に対するのと同一の注意で足りると解する。
受領に協力しないAのためBに通常の善管注意を負わせ続けるのは公平でないからである。

特定後の保存には,本来,旧400条の善管注意を要する。
CはBの指示により保管・引渡しの準備を担う狭義の履行補助者であり,他人を用いて履行するBはその行為についても信義則上自己の行為と同様に責任を負う。
したがって,Cの過失はBと同視される。
盗難が続き警察の注意喚起もあるのに指示された二重施錠を怠ったCは,通常の善管注意の水準では注意義務に違反する。
しかし,Bの義務を超える注意をCに要求して帰責事由を認めることはできない。
Bは,客に渡す高価な松茸のため普段以上の二重施錠を指示した。
Cの翌朝の施錠はこの指示には反するが,B自身のりんご等と同じ倉庫に保管し,普段と同じ簡易な錠を使用した。
したがって,自己財産と同一の注意は尽くしたと評価できる。

前夜の電話に対するBの承諾は記されていないから,履行期を翌日に延期する合意を認定し,受領遅滞を否定することはできない。

よって,Bに帰責事由はなく,引渡債務が不能となってもAの代金債務は残る。
Bに免れた給付による具体的利益があるとの事情もない。

3 Aの同時履行の抗弁は,引渡不能後にも消滅した引渡債務の履行を求めて代金を拒む根拠にはならない。
以上により,Bの50万円の代金請求は認められる。

第2 設問2
1 ⑴について
Eは丙土地の所有権に基づく妨害排除として,甲トラックの撤去を求めている。
通常は,地上の動産を支配して土地への妨害を除去できる者がその義務を負う。
しかし,Dが所有権を留保していることだけで,当然に保管・撤去義務を負うかは別に判断する必要がある。

本件では,留保の目的は代金債務の担保であり,Aが車両を占有利用し,善管注意をもって管理する。
他方,Dは支払を1回怠った場合に初めて返還を求め,売却代金を残債務に充当し,余剰をAへ返す。
この権限分配からすると,履行期前のDの利益は交換価値の確保に限られ,日常の使用収益・管理及び自由な処分をする地位にはない。

Aは毎月4万円を遅滞なく支払っており,期限の利益を失っていない。
したがってDは返還・換価の段階にない。
盗難を知ったことやAの所在が分からないことは,それ自体,契約で定めた引揚げ権限を発生させない。
確かに,AD間の権能制限は契約によるものにすぎず,第三者には所有者として責任を負うとの反論がある。
しかし,その形式だけで撤去義務を認めると,通常は車両を支配できず抵当権者に類するDに,担保価値の把握を超えた管理の負担を課すことになる。
担保としての権能の実質に即して考えるべきである。
自ら投棄した事情等もない以上,限定された担保利益を有するだけのDに撤去義務を負わせるべきではない。

よって,㋐の発言は正当であり,実体的な管理の地位にあるのはAである。

2 ⑵について
㋐が正当との仮定は,Dが売買により通常の所有権を実質的に喪失したとの前提を意味する。
この前提で,登録名義の残存を理由にEが請求できるかを検討する。

道路運送車両法5条1項の第三者とは,登録欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。
Eは車両について競合する権利を取得した者ではなく,土地所有権に基づき妨害排除を求める者である。
したがって,通常の対抗要件の規律だけでDを撤去義務者とすることはできない。

ただし,自らの意思で所有権取得登記をした建物譲渡人については,名義を残す限り,土地所有者に所有権喪失を主張して収去を免れることができないと解する余地がある。
建物の所有は土地の占有を必然的に伴い,名義を残した者と,地上の所有者の探索を強いられる土地所有者との関係は,対抗関係に類似するからである。

本件でも,EにはD名義しか手掛かりがなく,Aの所在が分からないため,この考え方を及ぼして救済すべきだとの反論は強い。
しかし,自動車は土地から独立して移動・保管でき,その所有が特定の土地の占有を必然的に伴うものではない。
Dは所有名義を残すこと自体に担保目的があり,契約上の管理をAへ委ねている。
名義だけで,無遅滞のAの使用利益を制限して引き揚げ,保管・処分する負担までDに課すことは,建物の名義残存者に収去義務を負わせる場合と同一には扱えない。

したがって,建物についての例外を本件に拡張せず,Dの登録名義だけを理由とする請求は認められない。
㋑の発言も正当である。

第3 設問3
1 遺言は文言だけを切り離さず,遺言者の意思を尊重し,遺言全体の趣旨を合理的に解釈すべきである。
これに従い,本件遺言を解釈する。
Hは廃除の審判が確定しており,Cは④でも廃除の意思を変えないと明言した。
したがって,Hは相続人ではなく,200万円の定期預金を特定遺贈された受遺者である。
遺贈を受けることと相続資格の回復は別であり,この財産取得から廃除の撤回を読み込むことはできない。

F・Gへの各定期預金を「相続させる」との遺言は,それぞれの預金を直接承継させる遺産分割方法の指定と解する。
さらに,Cは①で残る積極財産を全て列挙し,②でFにはGより多く与えるとした上で,Fに1200万円,Gに600万円を割り当てた。
単なる特定財産の割当てにとどまらず,相続人F・G間の取得割合を2対1とする相続分の指定も含むと解するのが,財産全体を配分するCの意思に合う。
Hへの200万円は特定遺贈であって,その額を含めた6対3対1という相続分指定ではない。

2 金銭債務は可分債務であり,相続開始により相続分に応じた分割債務として承継される(427条,899条,902条)。
F・GはCの子であり,Hは相続資格を失っているから,本問の共同相続人はF・Gである。

本件では,遺言による指定相続分に応じて債務を承継すると解する。
積極財産を2対1で承継させる一方,債務だけを法定相続分で負担させると,Cの意図した利益配分が歪むからである。
債務について別の意思を示した事情もない。
したがって,内部負担はFが300万円×3分の2=200万円,Gが300万円×3分の1=100万円となる。

3 FがGの承継した債務を弁済することは,他人の債務の弁済である。
金銭給付であり第三者弁済を許さない事情はなく,Gの意思に反したとの事情もないから,その弁済は有効である(旧474条)。

FはGの債務については義務なく弁済し,Gのために支払う意思も有している。
その支払は弁済期が到来したGの債務を消滅させ,客観的にもGの利益に適合する。
したがって,Gの事務の管理に当たり,Fは事務管理に基づく費用償還として,Gが負担すべき100万円を請求できる(697条,702条1項)。
F自身の最終負担200万円まで転嫁することはできない。

したがって,FはGに対し,100万円を請求することができる。

3 解説と答案対応

設問1では,特定と代金請求を直結させず,不能と反対給付の問題を経由する。
注意義務を軽減する制度上の根拠が番号12,Cの指示違反と自己財産同一注意を区別する当てはめが番号14に対応する。
旧534条を文言どおり適用しながら,受領遅滞による対価危険の移転を再び論じる必要はない。

設問2では,番号20の担保としての権能の実質と,番号25・26の対抗要件及び例外的責任を分ける。
例示された比較事情の全てを列挙することまでは求められず,根幹となる理由と有力な反対事情への応接が必要である。
登録名義があることだけで通常の第三者対抗関係を肯定する答案は,この二段階を落とす。

設問3では,番号33の相続分指定から内部負担の2対1を導き,番号38で第三者弁済の有効性と償還請求の根拠を接続する。
指定相続分に応じる各自の負担を確認し,Fが自己負担分を超えて支出した100万円へ結び付ける。
事務管理による償還と法定代位は同じものではなく,請求額が合っているだけで法的根拠の説明が完成したことにはならない。

番号答案又は解説での対応
2枠内:約定に適う松茸5キログラムを箱詰め
4枠内:双務契約上の両債務は対価的な牽連関係
5不採用の許容分岐。下の別構成説明に対応。
6不採用の許容分岐。下の別構成説明に対応。
7枠内:旧400条の善管注意
8枠内:狭義の履行補助者
9枠内:通常の善管注意の水準
12枠内:公平でないからである
14枠内:B自身のりんご等と同じ倉庫
15枠内:代金債務は残る
20枠内:交換価値の確保に限られ
21枠内:遅滞なく支払っており
22枠内:権能制限は契約によるもの
24枠内:登録欠缺を主張する正当な利益
25枠内:競合する権利を取得した者ではなく
26枠内:建物譲渡人については
27枠内:土地から独立して移動・保管でき
28枠内:名義だけで,無遅滞のAの使用利益
31枠内:Hは相続人ではなく
33枠内:取得割合を2対1
34不採用の許容分岐。下の別構成説明に対応。
35不採用の許容分岐。下の別構成説明に対応。
36枠内:設問3の該当論証
38枠内:事務管理に基づく費用償還
39不採用の許容分岐。下の別構成説明に対応。

重み3以下の対応は,番号1・3・10・11・13・16〜19が設問1の取立て,提供,注意水準と結論,番号23・24・29が設問2⑵の仮定・第三者定義・反対事情,番号30・32・37・40が設問3の解釈指針・分割方法・計算と債務類型の整合に現れる。
内部対照では全40項目を個別に照合している。

4 許容される別構成と基準時の注意

番号5は旧534条の適用を制限する構成,番号6はその場合に提供・受領遅滞等による対価危険の移転を検討する構成である。
本答案の文言どおりの適用と累積して書くことを要求しない。

設問3では,F・Gへの遺言を特定遺贈と解する立場(番号34),債務承継割合まで変更する意思はないと解する立場(番号35)も,理由を示せば許容される。
その場合の法定相続分による処理では,FのGに対する請求は150万円となり得る。
不可分債務又は合有債務と解する立場(番号39)も,分割債務説への批判と内部負担の説明が必要で,連帯債務と無媒介に混同してはならない。

債権法改正後の危険負担・受領遅滞の条文や,後の相続法改正を,試験当時の答案要求へそのまま置き換えない。
本記事で紹介する判例は,出題の趣旨が挙げるものを,裁判所ウェブサイトで裁判年月日・事件番号及び判示事項を確認したうえで用いている。

第6 関連記事

1 同年度

同年度の他科目記事は,この記事の法的内容の根拠には用いていない。

2 他年度の同科目

令和8年度司法試験民事系第1問の参考答案と予想される評価項目―出題の趣旨・採点実感の公表前に問題文と判例から予想した50項目と5段階の重み付け

令和7年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した96項目と5段階の重み付け

令和6年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した60項目と5段階の重み付け

令和5年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した80項目と5段階の重み付け

令和4年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した70項目と5段階の重み付け

令和3年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した86項目と5段階の重み付け

令和2年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した68項目と5段階の重み付け

令和元年司法試験民事系科目第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した68項目と5段階の重み付け

3 関連論点

遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点
共同不法行為の連帯責任と連帯債務

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

法務省「平成30年司法試験論文式試験問題集[民事系科目]」
https://www.moj.go.jp/content/001258875.pdf
実頁2〜4の第1問を実読・画像確認。
第2問以降は本記事の根拠にしない。

法務省「平成30年司法試験論文式試験問題出題の趣旨」
https://www.moj.go.jp/content/001273705.pdf
実頁4の民事系第1問冒頭から実頁9の第2問直前まで,本問関連部分を実読。

法務省「平成30年司法試験の採点実感(民事系科目第1問)」
https://www.moj.go.jp/content/001281222.pdf
実頁1〜7を実読。
実頁3の誤記訂正を含む版である。

司法試験委員会「民法の一部を改正する法律等の施行に係る確認事項」
https://www.moj.go.jp/content/001247341.pdf
適用法令の基準を確認。

e-Gov法令API・平成30年4月1日時点の民法
https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/129AC0000000089_20180401_429AC0000000044
当時の民法を取得し,答案で使用した関連条文を確認。
現在法と区別。

2 判例の位置付けと確認の限界

出題の趣旨は,設問2について最高裁平成21年3月10日判決(第三小法廷,平成20年(受)第422号,民集63巻3号385頁)及び最高裁平成6年2月8日判決(第三小法廷,平成4年(オ)第602号,民集48巻2号373頁)を紹介し,結論だけでなく理由の理解と事案比較を求めている。
設問3では「相続させる」遺言と相続分指定についての判例の位置付けを示す。
いずれも裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,裁判年月日・事件番号・判例集の巻号頁及び判示事項を確認した。

3 公式資料と独自の評価

資料の該当範囲と試験当時の法令の確認は資料確認の結果である。
40項目への分節,重み1〜5,答案例及びその解説は独自の整理・推論であり,法務省又は裁判所の作成・承認した模範解答ではない。