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弁護士がAIを使わないことは注意義務違反になるか―善管注意義務の基準,医療水準論,経済産業省の手引及び米英の動向(AI作成)

第1 結論と本記事の射程

1 結論

生成AIを業務に使う弁護士が増えるにつれ,「AIによる処理が弁護士の注意義務の水準になるのではないか」という見方も示されるようになった。
しかし,令和8年10月17日時点で確認できた法令,会規,公的な手引及び裁判例からは,弁護士がAIを使わなかったこと自体を注意義務違反とする基準は確認できない。
弁護士の注意義務は,使った道具ではなく,通常の注意力を有する弁護士であれば行うべき調査,判断及び説明をしたかによって判断される。

他方で,AIを使った場合に,その出力を原資料で確かめずに書面や助言へ用いることは,日本,米国及び英国のいずれでも,注意義務違反又は職業上の義務違反となり得るものとして扱われている。
したがって,現時点での実務上の重点は,AIを使うかどうかよりも,AIを使った場合に何をどこまで確認したかにある。

もっとも,新しい技術が普及すれば,それを使わないことが専門家の注意義務の問題となる余地はある。
医療訴訟では,新しい治療法の知見がどこまで普及していたかによって医療水準を判断する最高裁判例があり,米国法曹協会の倫理意見も,将来,一定の作業ではAIを使わなければ適切に処理できなくなる可能性に触れている。
本記事では,これらを手がかりに,AIを使わないことが過失と評価され得る条件と,法律事務所が今から備えておくべき記録と説明を整理する。

2 本記事の対象・基準日・資料の位置付け

本記事は,弁護士が依頼者から受任した事件の処理において,生成AIその他のAIを使わなかったこと,又はAIの出力を確認せずに使ったことが,民事上の注意義務又は弁護士職務基本規程との関係でどう評価されるかを対象とする。
基準日は令和8年10月17日である。
経済産業省の手引,米国法曹協会の倫理意見及び弁護士会・会派の資料は,いずれも裁判所の判断ではなく,個別の事件の結論を決めるものではない。
医療水準に関する最高裁判例を弁護士業務へ当てはめる部分は,本記事の整理であり,判例又は確立した学説ではない。

裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認したものに限って紹介する。
有料の判例データベースによる網羅的な検索は行っていないため,裁判所ウェブサイトに掲載されていない裁判例が存在する可能性がある。

第2 弁護士の注意義務の基準は「通常の弁護士」である

1 民法と弁護士職務基本規程

弁護士と依頼者の委任契約では,民法644条が受任者の注意義務を定める。
同条は,「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。」と規定する。
同法645条は,委任者の請求があるときの処理状況の報告と,委任終了後の経過及び結果の報告を定める。
いずれの規定も,事務を処理する手段を指定していない。

弁護士職務基本規程37条1項は,「弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を怠ってはならない。」と定める。
同条2項は,事実関係の調査について「必要かつ可能な事実関係の調査を行うように努める。」と定める。
同規程82条2項は,第1章,37条2項等を行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈適用すべき条項に挙げているが,37条1項は挙げていない。
そのため,37条1項の法令調査は義務規定,37条2項の事実調査は努力目標として位置付けられる。

同規程7条は,「弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、研鑽に努める。」と定める。
7条は第1章の規定であるから,82条2項により努力目標として扱われる。
新しい技術について学ぶことは7条の研鑽に含まれ得るが,同条から特定の技術を使う義務までを導くことは難しい。

2 下級審が示す「一般的な水準」

弁護士に対する損害賠償請求では,弁護士として一般的に求められる水準が基準とされている。
さいたま地裁平成19年9月28日判決(平成17年(ワ)第829号)は,訴訟代理人が行った主張・立証が裁判所に受け入れられなかったとしても,それが「弁護士として一般的に要求される水準に比して著しく不適切・不十分である」などの特段の事情がない限り,注意義務違反とはならないとした。
同判決は,結論として弁護士の注意義務違反を否定した。

さいたま地裁平成19年3月28日判決(平成16年(ワ)第1301号)は,公正証書遺言等の作成を受任した弁護士について,事務処理が「弁護士としての一般的な水準に到底至っていない」として,慰謝料200万円の限度で請求を認めた。
これらの判決からは,基準となるのは個々の弁護士の主観的な努力ではなく,同じ立場の弁護士に一般的に求められる水準であることが分かる。

最高裁平成25年4月16日判決(平成24年(受)第651号,民集67巻4号1049頁)は,債務整理を受任した弁護士が時効の完成を待つ方針を採る場合について,委任契約に基づく善管注意義務の一環として,その方針に伴う不利益やリスク及び他の選択肢を説明すべき義務を認めた。
同判決は道具の選択を扱ったものではないが,善管注意義務の内容が,事件ごとに依頼者が判断するために必要な情報から具体化されることを示している。

3 問われるのは手段ではなく結果としての調査と判断である

以上の規定と裁判例を前提にすると,AIを使わなかったことが直ちに義務違反となるのではなく,AIを使わなかった結果として,通常の弁護士であれば見落とさない法令,裁判例,事実又は選択肢を見落としたかどうかが問題となる。
反対に,AIを使ったことも,それだけで義務を果たしたことにはならない。
AIを使ったか否かは,調査や判断の過程を説明する事情の一つにとどまる。

第3 経済産業省の手引はAI利用をどう位置付けるか

1 AIの利用は注意義務の水準を上げも下げもしない

経済産業省の「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き〔第1.0版〕」は,AIの出力を援用したことは,原則として,AI利用者に求められる注意義務の水準を引き上げも引き下げもしないとの整理を示す(本文10頁)。
同手引の想定事例2は,弁護士業務支援AIが実在しない裁判例を出力し,弁護士が自ら調査せずにその出力を信頼した結果,依頼者の請求が棄却された架空の事例である。
手引は,この事例について,「EがAIを利用したという事実は、Eの注意義務の水準を引き上げることも引き下げることもない。」と述べる(本文24頁)。
そのうえで,裁判例の実在性は事件処理に当たって非常に重要な情報であり,AIの出力のみに依拠して調査確認が不足した弁護士の責任が否定されることは考えにくいとする(同頁)。

同手引は,不法行為法上の過失は,職業や立場ごとに類型化された通常人の注意力を基準として判断されるとし,通常の注意力を有する弁護士であればどのように行動したかが問われるとする(本文24頁)。
これは,前記第2の下級審が示す「一般的な水準」と同じ方向の整理である。

2 研究会が指摘した検討課題

同手引は,本文24頁のなお書きで,研究会において次の指摘があったことを記載している。
すなわち,AIが専門家と部分的に同等以上の判断をする場面が現れつつあり,高度なAIと協調して作業すると人間の注意力が低下することが示唆されていることから,専門家がAIの誤出力を発見できなかったことをもって直ちに過失を問うことは望ましくない場面もあり得るという指摘である。
その場合の枠組みとして,当該専門領域でAIをどう活用すべきかを判断する「適切な利用方法に関する高度な判断」を専門家の注意義務と捉える考え方などの検討が重要であるとされた。
本文10頁の脚注24にも,特に高精度なAIを用いる場合に注意義務の内容に影響を及ぼすという考え方の検討が重要であるとの指摘がある。

これらは,研究会での指摘として記載されたものであり,手引の結論ではない。
また,その方向は,AIの誤りを見落とした専門家の責任を一律に重くするものではなく,AIをどの場面でどう使うかの判断そのものを注意義務の対象として捉え直す考え方である。
AIを使わないことが過失になるという趣旨の記載ではない。

第4 新しい技術が注意義務の水準になる仕組み―医療水準論との比較

1 最高裁平成7年6月9日判決

医療訴訟では,医師の注意義務の基準を「医療水準」として判断する。
最高裁平成7年6月9日判決(平成4年(オ)第200号,民集49巻6号1499頁)は,未熟児網膜症の新しい治療法に関する知見が問題となった事案で,医療水準を判断するに当たり,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであるとした。
同判決は,新規の治療法に関する知見が,当該医療機関と「類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており」,当該医療機関でもその知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,その知見は当該医療機関にとっての医療水準であるとした。
また,全ての医療機関について「医療水準を一律に解するのは相当でない」とした。

2 最高裁平成8年1月23日判決

最高裁平成8年1月23日判決(平成4年(オ)第251号,民集50巻1号1頁)は,医療水準は医師の注意義務の基準となるものであり,平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致しないとした。
同判決は,医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって,「医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」とした。
同判決は,平成7年6月9日判決を参照し,医療水準が全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではないことも述べている。

3 弁護士業務へ当てはめるときの三つの視点

医療水準論は医療契約に関する判例であり,弁護士の委任契約へそのまま適用されるものではない。
しかし,新しい技術や知見が専門家の注意義務の水準へ取り込まれる過程を考える手がかりにはなる。
本記事では,AIを使わないことが弁護士の過失として論じられ得るかを,次の三つの視点で整理する。

① 普及の程度:その作業について,類似の事件を扱う法律事務所にAI等の手段が相当程度普及し,その手段を使うことが期待される状態に至っているか。
② 回避可能性:その手段を使っていれば,問題となった見落としや誤りを避けることができたか。
③ 慣行による免責の否定:多くの弁護士がその手段を使っていないことは,それだけで注意義務を尽くしたことの理由にならないが,反対に,多くの弁護士が使っていることも,それだけで使わなかった弁護士の過失を基礎付けない。

例えば,大量の証拠資料から特定の記載を網羅的に拾い出す作業や,多数の契約書の条項を照合する作業では,将来,AIその他の検索・照合の手段を使うことが一般的になる可能性がある。
その段階では,手作業で見落とした記載について,通常の弁護士であれば用いた手段で発見できたかどうかが問われる余地がある。
他方で,令和8年10月17日時点で,AIを使わなかったことを理由に弁護士の責任を判断した日本の裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらなかった。

4 AIで調べたという主張は裏付けにならない

裁判所ウェブサイトで「生成AI」を含む裁判例を検索すると,令和8年10月17日時点で4件が表示された。
そのうち知的財産高等裁判所令和6年9月12日判決(令和6年(行コ)第10003号)では,控訴人が,代理人が生成AIを用いて調査したところ多くの法律は公布から3か月ないし6か月以内に施行されていると主張した。
同判決は,この主張について「裏付けはない」とした。
この判決は,生成AIの使用を一般に否定したものではないが,AIを使って調べたという事実が,それだけでは主張の裏付けにならないことを示している。

第5 米国・英国の議論

1 米国法曹協会の模範規則と倫理意見

米国法曹協会(ABA)の模範職務規則(Model Rules of Professional Conduct)Rule 1.1は,依頼者に対して有能な(competent)代理を提供する義務を定める。
その注釈(Comment [8])は,能力を維持するため,関連する技術の便益とリスクを含めて,法と実務の変化に遅れないよう求めている。

ABAの倫理意見 Formal Opinion 512(2024年7月29日)は,生成AIの利用について次の趣旨を述べる。
① 適切な程度の独立した検証又は見直しをせずに生成AIの出力に依拠し,又はそれを提出することは,Rule 1.1の有能な代理の義務に反し得る(3頁~4頁)。
② 必要な検証の程度はツールと作業によって異なるが,どの程度の見直しを選んでも,弁護士は依頼者のための仕事に全面的な責任を負う(4頁)。
③ 生成AIが発展し広く利用できるようになれば,弁護士が一定の作業を有能に処理するために生成AIを使わなければならなくなることも考えられる(5頁)。
④ そのような期待が成立するには,業界での受容の拡大,信頼できる結果の実績,費用面での利用可能性及び依頼者の強い需要が必要になるとみられる(5頁脚注22)。
⑤ 法律事務所の管理者は,生成AIの許される利用について明確な方針を定め,監督者は所属弁護士及び非弁護士の補助者がこれに従うよう合理的な努力をする必要がある(10頁)。

この倫理意見は,生成AIを使う義務を現在の基準として定めたものではなく,将来の可能性を条件付きで述べたものである。
米国の倫理意見であり,日本法の直接の根拠ではない。

2 英国のAyinde事件判決

英国の高等法院(King’s Bench Division,Divisional Court)は,2025年6月6日,Ayinde v London Borough of Haringey 及び Al-Haroun v Qatar National Bank の2件をまとめて判断した([2025] EWHC 1383 (Admin))。
いずれも,裁判所に提出された書面に実在しない裁判例又は不正確な引用が含まれていた事案である。

同判決は,AIを使って法的調査をする弁護士は,その調査を職業上使う前に,権威ある資料に照らして正確性を確認する職業上の義務を負うとした(第7段落)。
この義務は,自らAIで調査した弁護士だけでなく,他人がAIで行った調査に依拠する弁護士にも及ぶとした(第8段落)。
また,法律事務所の代表者等の指導的立場にある者に実効的な措置を求め,今後の審問でその責任が果たされたかを問うとした(第9段落)。
依頼者本人を引用の正確性の拠り所にすることはできないとも述べている(第81段落)。

3 技術を使えないことが問題とされた米国の例

技術を使えないことが問題とされた例は,生成AIより前の電子的な証拠開示(e-discovery)の分野にある。
米国デラウェア州衡平法裁判所の James v. National Financial LLC 事件(2014年12月5日)は,証拠開示義務の違反について,技術に疎いことは言い訳にならないとし,Rule 1.1の注釈8を引用した(判決25頁~26頁)。
ただし,同判決は,倫理違反の有無を判断したものではないことを注記している(同頁注5)。

カリフォルニア州弁護士会の倫理意見 Formal Opinion No. 2015-193は,能力の義務は新しい技術が実務に組み込まれるにつれて変化するとし,訴訟を扱う弁護士には電子的な証拠開示の基本的な理解が必要であるとした。
必要な能力がない弁護士の選択肢として,習得すること,技術者又は有能な弁護士と協働すること,受任を断ることの三つを挙げている(同意見の要旨)。

これらは,既に実務で標準となった技術について,使い方を知らないことを問題にしたものである。
生成AIを使わなかったこと自体を,過誤又は職業上の義務違反とした米国の倫理意見や判決は,本記事の作成に当たって確認した範囲では見当たらなかった。

第6 日本の弁護士会の資料とAIを使わないことのリスク

1 日本弁護士連合会・東京弁護士会の資料の位置付け

東京弁護士会の会報『LIBRA』2026年7・8月号の特集(16頁~17頁)によれば,日本弁護士連合会のAI戦略ワーキンググループは,2025年9月に「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項」を取りまとめ,2026年2月に更新版を公表した。
同特集は,この注意事項が日本弁護士連合会の公式見解を示すものではなく,綱紀・懲戒の直接の基準となるものでもないこと,会員限りの資料であることを記載している。
同特集は,東京弁護士会の「弁護士業務における生成AIサービスの適正利用ガイドライン」(2025年3月27日施行)についても,遵守を義務付けるものではなく,綱紀・懲戒の直接の基準とされるものではないが,秘密保持義務,信用,法令等調査義務等と関係するとしている(同号15頁)。

これらの資料は,生成AIを使う場合の注意を整理したものであり,AIを使わないことを義務違反とするものとしては紹介されていない。

2 会派の政策要綱が指摘するリスク

東京弁護士会の会派である法友会の2026(令和8)年度政策要綱の特集は,弁護士が生成AIの仕組みやリスクを理解していない,又は生成AIを使ったことすらない場合には,生成AIの問題点に関わる法律相談や事件処理で適切な対応ができず,弁護士法2条,弁護士職務基本規程7条等により求められる職責にもとるとの批判を免れないとする(2頁)。
同特集は,生成AIに関する理解不足が弁護過誤の原因になり得ることにも触れている(同頁)。

この指摘は,会派の政策提言であり,弁護士会の規範ではない。
また,その対象は,生成AIに関わる相談や事件を適切に扱うための理解であり,全ての業務でAIを使う義務を述べたものではない。
もっとも,依頼者の問題そのものに生成AIが関わる事件(AIの誤回答による損害,AIで作成された証拠,AIサービスの契約等)では,AIの仕組みを理解していないことが,事実調査や法令調査の不足として現れる可能性がある。

第7 法律事務所の実務上の備え

1 使った道具ではなく確認した原資料を記録する

弁護士の注意義務が調査と判断の結果で問われる以上,事件記録に残すべきなのは,AIを使ったかどうかよりも,どの法令,裁判例,事実資料を,いつ,どの資料で確認したかである。
条文はe-Gov法令検索,裁判例は裁判所ウェブサイト又は判例データベースの本文,文献は原典の該当頁というように,確認に使った資料と確認日を残しておくと,後に調査の十分性が問題となったときに説明しやすい。

2 AIによる点検は一次資料の確認に代わらない

AIに起案させた書面を別のAIで点検させる方法は,誤りの候補を拾う工程としては有用である。
しかし,前記第5の英国の判決は権威ある資料による確認を求め,経済産業省の手引も裁判例の実在性の調査確認を重視している。
AIによる点検の結果だけを根拠に,条文や裁判例を確認済みとして扱わない運用が安全である。
裁判所提出書面での具体的な確認方法は,AIエージェントを使って裁判所提出書面を作成するときに行うべきハルシネーション防止方法(AI作成)で整理している。

3 AIを使うか否かと費用を依頼者に説明する

依頼者が,弁護士にAIを使ってほしい,又は使わないでほしいと考えることがある。
AIを使うか否かは,検証にかかる時間,費用,秘密情報の扱い及び見落としの危険に影響するため,必要に応じて依頼者と協議し,方針を記録しておくことが考えられる。
報酬の決め方については,AIを使う弁護士の報酬はどう決まるか―時間報酬・定額報酬・検証費用と説明(AI作成)で整理している。

依頼者が生成AIの評価を示して弁護士の方針や書面に疑問を述べることもある。
その場合は,弁護士職務基本規程36条の報告・協議の機会として,AIの前提とした事実,証拠,法令の時点及び選択肢のどこが違うのかを説明することが考えられる。
依頼者のAIによる評価は,それだけで弁護士の義務違反を証明するものではないが,説明の不足を見直すきっかけにはなる。

4 事務職員・勤務弁護士にAIを使わせる場合

事務職員にAIを使わせる場合は,弁護士職務基本規程19条の指導監督の問題となる。
同条の義務と事務所内のルールの関係は,弁護士職務基本規程19条と事務職員の生成AI利用―指導監督・秘密保持・事務所ルール(AI作成)で扱っている。
前記第5の米国法曹協会の倫理意見及び英国の判決も,事務所の管理者又は代表者に,AIの利用方針の整備と監督を求めている。

処理の速さを理由に所内でAIの利用を求める場合でも,確認の工程を省いてよいことにはならない。
AIで速くなった分の時間を,原資料の確認と依頼者への説明に充てる設計が必要である。

第8 関連記事

AI利活用に伴う民事責任-補助/支援型AI・依拠/代替型AI・AIエージェントで誰が責任を負うか(AI作成)は,経済産業省の手引に沿って,AIの利用者,開発者及び提供者の責任の分け方を整理している。

弁護士の法令・事実調査―弁護士職務基本規程37条と調査範囲・依頼者説明(AI作成)は,37条1項の法令調査と2項の事実調査の違いを扱う。

弁護過誤訴訟とは―弁護士への損害賠償請求の要件・証拠・進め方(AI作成)は,弁護士への損害賠償請求で確認する義務違反,損害及び因果関係を扱う。

弁護士の説明義務・報告義務―弁護士職務基本規程29条・36条と見通し変更・和解提案への対応(AI作成)は,受任後の報告と協議の考え方を扱う。

第9 出典

1 法令・会規

① 民法(e-Gov法令検索)(令和8年10月17日閲覧。644条,645条)
② 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(会規第70号)(令和8年10月17日閲覧。7条,19条,36条,37条,82条2項)

2 裁判例

① 最高裁平成7年6月9日第二小法廷判決(平成4年(オ)第200号,民集49巻6号1499頁)
② 最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決(平成4年(オ)第251号,民集50巻1号1頁)
③ 最高裁平成25年4月16日第三小法廷判決(平成24年(受)第651号,民集67巻4号1049頁)
④ さいたま地裁平成19年9月28日判決(平成17年(ワ)第829号)
⑤ さいたま地裁平成19年3月28日判決(平成16年(ワ)第1301号)
⑥ 知的財産高等裁判所令和6年9月12日判決(令和6年(行コ)第10003号)

3 公的な手引・弁護士会等の資料

① 経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き〔第1.0版〕」(本文10頁,22頁~25頁)
② 東京弁護士会『LIBRA』2026年7・8月号「特集 弁護士業務における生成AIの利活用と留意点」(15頁~17頁)
③ 法友会「2026(令和8)年度政策要綱」特集「弁護士会は生成AIの技術革新・リスクとどう向き合うべきか」(2頁)

4 外国の資料

① American Bar Association, Formal Opinion 512, Generative Artificial Intelligence Tools(2024年7月29日)(3頁~5頁,10頁)
② Ayinde v London Borough of Haringey; Al-Haroun v Qatar National Bank([2025] EWHC 1383 (Admin)。第7段落~第9段落,第81段落)
③ James v. National Financial LLC, C.A. No. 8931-VCL (Del. Ch. Dec. 5, 2014)(25頁~26頁)
④ The State Bar of California, Formal Opinion No. 2015-193