令和3年司法試験の国際関係法(公法系)第1問を,模範解答と28の評価項目から解説する。
評価項目と1~5の重みは公式資料を基にした本稿独自の分析であり,法務省の公式採点基準・配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は令和3年司法試験・選択科目問題の国際関係法(公法系)第1問である。
設問1は国家承認と分離独立,設問2は外交的庇護と犯罪人引渡し,設問3は私人の行為の帰属と外交公館保護義務を問う。
本稿は,公式資料から28項目を抽出し,重みの合計を118とした。
この合計は公式得点でも難易度の数値でもない。
B国の立場から,Pの国家成立と例外的分離権を通じて承認を正当化し,甲への外交的庇護を地域慣習法に基づいて主張し,Aの作為・不作為による国家責任を区別することが中心となる。
重み5の全項目は第4の重みの分布に番号付きで掲げる。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目につき一つの判定対象を置き,必須・高評価・負例・許容分岐を重みとは別に示す。
番号は記事全体の通し番号であり,出題の趣旨と採点実感の欄にはPDF実頁と短い根拠を記す。
「間接」は当該設問の一般的記述との対応,「記載なし」は本問と関連総論を実読した範囲で個別の記載がないことを示す。
番号7は,国家成立の通常要件だけで終える答案という負例を,分離権を別に検討するという一つの判定対象にまとめた。
許容分岐である番号6や,統制の判例構成を補強に用いる場合の番号23を,採用しない答案にも累積要求するものではない。
番号10・17の判例理解も,事件名を書いただけで満たしたとは扱わない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | 採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。 |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な不足の指摘を通じて取り上げた事項。 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け。 |
| 2 | 一方が軽い表現で触れる補強,又は典型的な誤り。 |
| 1 | 一方が控えめに触れるだけの事項。 |
本問の重み4は,採点実感で全てが「高く評価された」との意味ではない。
両資料での取り上げ方を区別し,具体的当てはめが趣旨だけに現れる事項は原則として重み3に置いた。
重み5の高評価項目も,条件付き構成を全答案の必須事項に変えるものではない。
第3 本問の概要
A国内のP県では,少数民族であるβ民族が多数を占め,約50年にわたり自治を担ってきた。
しかし,資源政策はA政府が決め,予算の不平等と国政での代表の欠如が問題となっていた。
自治の終了と長期の弾圧を経て住民投票が行われ,Pは2015年5月1日に独立を宣言し,Bはその2週間後に大使館を相互に開設した。
独立運動の指導者であるA国民の甲は,爆破・暗殺等の容疑で追及され,在A国B大使館に逃げ込んだ。
両国間に犯罪人引渡条約はなく,両国は外交関係条約の当事国である。
Bが引渡しに応じないため,Aは警備を放棄し,指示を受けた民間警備会社乙の職員が,大使の許可なく館内へ侵入した。
甲の確保は阻止されたが,侵入行為自体は行われている。
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 〔必須〕大使館の相互開設・外交使節交換を黙示の国家承認と評価する。 | 5 | 38頁・設問1。「黙示的に国家としての承認」 | 39頁・設問1。「外交関係の開設が黙示の国家承認」 |
| 2 | 〔必須〕承認前にPの国家成立を論証し,未成立なら尚早の承認による内政干渉となるという時間的関係を示す。 | 5 | 38頁・設問1。「Pが主権国家として成立」 | 39頁・設問1。「相手の実体が国家として成立」 |
| 3 | 〔必須〕通常の国家成立要件として恒常的住民を挙げ,Pの住民に対応させる。 | 4 | 38頁・設問1。「恒常的な住民」 | 39頁・設問1。「恒常的な住民」 |
| 4 | 〔必須〕通常の国家成立要件として明確な領域を挙げ,P県の領域に対応させる。 | 4 | 38頁・設問1。「明確な領域」 | 39頁・設問1。「明確な領域」 |
| 5 | 〔必須〕通常の国家成立要件として実効的政府を挙げ,P自治政府の長期統治と独立時の統治能力を評価する。 | 4 | 38頁・設問1。「実効的な政府」 | 39頁・設問1。「実効的な政府の存在」 |
| 6 | 〔許容分岐〕国家成立要件に外交能力を含める構成を採る場合は,その要件も説明する。 適用条件:外交能力を独立要件とする構成を採用した場合だけ。 | 2 | 38頁・設問1。「能力を含める場合もある。」 | 個別記載なし(本問・関連総論の実読範囲)。 |
| 7 | 〔負例〕通常の国家成立要件の提示だけで終えず,少数民族の分離権を別途検討する。 | 5 | 38頁・設問1。「分離権の要件が問題となる」 | 39頁・設問1。「別途検討を行わない答案も多数あった」 |
| 8 | 〔必須〕人民の自決は原則として既存国家内の政治的地位・発展を実現する内的自決によると説明する。 | 4 | 38頁・設問1。「人民の自決権は「内的」自決」 | 39頁・設問1。間接。「「内的」自決の実現が阻害」 |
| 9 | 〔必須〕外的自決の分離独立は例外であり,植民地的支配・外国による支配又は搾取などの基準と結び付ける。 | 4 | 38頁・設問1。「「外的」自決は例外的に植民地的支配」 | 39頁・設問1。「植民地的支配に類似の状況」 |
| 10 | 〔高評価〕ケベック分離事件カナダ最高裁意見を参照し,内的自決の原則と例外的外的自決を説明する役割を示す。 適用条件:比較資料として参照する評価項目。判例名の有無だけで全答案の成否を決めない。 | 4 | 38頁・設問1。「ケベック分離事件」 | 39頁・設問1。「ケベック分離事件」 |
| 11 | 〔必須〕議会でのβ民族の代表の欠如と自治の剥奪を,政治的な内的自決の阻害に結び付ける。 | 3 | 38頁・設問1。「制度上指定された議席枠がなく」 | 39頁・設問1。間接。「「内的」自決の実現が阻害」 |
| 12 | 〔必須〕資源利益を受けられず予算にも民族差別があるという事情を,経済的な内的自決の阻害として評価する。 | 3 | 38頁・設問1。「長年その恩恵を受けられずに予算の面でも民族を理由とし」 | 39頁・設問1。間接。「「内的」自決の実現が阻害」 |
| 13 | 〔必須〕自治終了と長期弾圧を植民地支配等に類似する状況として評価し,最後の手段としての分離権から独立承認の正当化へつなぐ。 | 5 | 38頁・設問1。「住民を弾圧するに至った」 | 39頁・設問1。「最後の手段として分離権の行使」 |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 14 | 〔必須〕領域的庇護を自国領域内,外交的庇護を外国所在公館等で行う庇護と区別し,本件を後者に分類する。 | 4 | 38頁・設問2。「領域的庇護と外交的庇護」 | 40頁・設問2。「領域的庇護と外交的庇護の区別」 |
| 15 | 〔必須〕外交的庇護は接受国の主権を侵害するため一般国際法上は認められないという原則を示す。 | 4 | 38頁・設問2。「一般国際法上は認められていない」 | 40頁・設問2。「接受国の主権を侵害する行為」 |
| 16 | 〔必須〕中南米の外交的庇護について地域慣習法・特別法を援用し,南米のAB両国間での適法性を主張する。 | 5 | 38頁・設問2。「中南米諸国の地域的慣習」 | 40頁・設問2。「中南米諸国の間では必ずしも国際法に反しない」 |
| 17 | 〔高評価〕庇護事件判決は当該地域慣習の立証不足を理由に主張を退けたのであって,地域慣習の存在可能性自体を否定していないと説明する。 | 5 | 38頁・設問2。「地域的慣習の存在自体を否定したわけで」 | 40頁・設問2。「庇護事件国際司法裁判所判決に言及」 |
| 18 | 〔必須〕犯罪人引渡しについて国家は一般国際法上の義務を負わないと説明する。 | 5 | 38頁・設問2。「国家は一般国際法上の義務を負わない」 | 40頁・設問2。「犯罪人引渡しについての一般国際」 |
| 19 | 〔必須〕両国間に犯罪人引渡条約がないことから条約に基づく引渡義務も否定する。 | 3 | 38頁・設問2。「犯罪人引渡条約が締結されていない」 | 個別記載なし(本問・関連総論の実読範囲)。 |
3 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 20 | 〔必須〕国家責任の成立を,国家への行為帰属と国際義務違反の二要件に分ける。 | 5 | 38頁・設問3。「国家への帰属と当該行為の国際義務の違反」 | 40頁・設問3。「国家責任の発生要件を正確に理解」 |
| 21 | 〔必須〕乙職員が私人であることだけでは行為が当然にAに帰属しないという出発点を示す。 | 3 | 39頁・設問3。「私人の行為であって」 | 40頁・設問3。間接。「私人の行為が特定の条件」 |
| 22 | 〔必須〕Aの指示に従った乙職員の本件侵入をAの行為と評価し,国家責任条文8条又は同内容の帰属法理に接続する。 | 5 | 39頁・設問3。「国家の指示に基づき行われた私人の行為」 | 40頁・設問3。「国家責任条文第8条」 |
| 23 | 〔高評価〕統制による帰属を判例で補強するときは,ニカラグア事件の実効的支配と特定行為との結び付きを説明する。 適用条件:統制・支配の判例構成を選ぶ場合。指示による帰属のみの未読答案では非適用。 | 3 | 39頁・設問3。「ニカラグア事件国際司法裁判所本案判決」 | 個別記載なし(本問・関連総論の実読範囲)。 |
| 24 | 〔必須〕公館の不可侵と使節団の長の同意による立入り例外を外交関係条約22条1項から示す。 | 5 | 39頁・設問3。「使節団の長が同意した場合を除くほか」 | 40頁・設問3。間接。「外交関係条約上の実体義務」 |
| 25 | 〔必須〕B大使の同意のない侵入という事実を22条1項違反に当てはめ,Aの作為責任を導く。 | 4 | 39頁・設問3。「B国大使は同大使館への立入りを許可していない」 | 40頁・設問3。間接。「当該国家の作為としての義務違反」 |
| 26 | 〔必須〕条約22条2項の適当な全措置を執る特別の責務を,相当の注意を尽くす積極的保護義務として説明する。 | 5 | 39頁・設問3。「相当の注意義務」 | 40頁・設問3。間接。「不作為による外交関係条約違反」 |
| 27 | 〔必須〕警備を放棄したAの不作為を保護義務違反として評価し,国家責任を導く。 | 5 | 39頁・設問3。「警備を怠っていた」 | 40頁・設問3。間接。「不作為による外交関係条約違反」 |
| 28 | 〔必須〕私人行為の帰属を介した作為責任と,国家自身の警備懈怠による不作為責任を区別し,前者だけで検討を終えない。 | 5 | 39頁・設問3。「不作為によるその国家責任を問うこと」 | 40頁・設問3。「国家責任の2種類がある」 |
4 重みの分布
重み1は0項目,重み2は1項目,重み3は5項目,重み4は9項目,重み5は13項目である。
総項目数は28,重みの単純合計は118である。
重み5の対象は次のとおりであり,番号は直前の公開評価表と対応する。
番号1:大使館の相互開設・外交使節交換を黙示の国家承認と評価する。
番号2:承認前にPの国家成立を論証し,未成立なら尚早の承認による内政干渉となるという時間的関係を示す。
番号7:通常の国家成立要件の提示だけで終えず,少数民族の分離権を別途検討する。
番号13:自治終了と長期弾圧を植民地支配等に類似する状況として評価し,最後の手段としての分離権から独立承認の正当化へつなぐ。
番号16:中南米の外交的庇護について地域慣習法・特別法を援用し,南米のAB両国間での適法性を主張する。
番号17:庇護事件判決は当該地域慣習の立証不足を理由に主張を退けたのであって,地域慣習の存在可能性自体を否定していないと説明する。
番号18:犯罪人引渡しについて国家は一般国際法上の義務を負わないと説明する。
番号20:国家責任の成立を,国家への行為帰属と国際義務違反の二要件に分ける。
番号22:Aの指示に従った乙職員の本件侵入をAの行為と評価し,国家責任条文8条又は同内容の帰属法理に接続する。
番号24:公館の不可侵と使節団の長の同意による立入り例外を外交関係条約22条1項から示す。
番号26:条約22条2項の適当な全措置を執る特別の責務を,相当の注意を尽くす積極的保護義務として説明する。
番号27:警備を放棄したAの不作為を保護義務違反として評価し,国家責任を導く。
番号28:私人行為の帰属を介した作為責任と,国家自身の警備懈怠による不作為責任を区別し,前者だけで検討を終えない。
これらは答案の入口・法的構造又は採点実感が指摘した深度差に関わる事項である。
各項目の適用条件と必須・高評価の区分を維持し,重みの合計を得点へ読み替えない。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
令和3年5月12日の試験実施時に存在した法と判例を基準とし,三設問ともB国が行う主張を構成する。
以下の答案は改行を除いて2214字であり,1問2500字以内の目安に収めている。
国家成立,分離権,庇護の適法性,引渡義務及び国家責任をそれぞれの法的段階で区別する。
2 答案
1 設問1
(1) 相互に大使館を設置し外交使節を交換するBの行為は,P国の黙示の国家承認である。
承認前にPが国家として成立していなければ,尚早の承認としてAの内政への違法な干渉となるので,BはPの国家成立を論証する必要がある。
(2) 国家の通常の成立要件は,恒常的住民,明確な領域及び実効的政府である。
Pには継続的に居住する住民とP県という特定の領域があり,約50年間統治した自治政府が独立を宣言したことから,Bは独立国の政府を担う統治基盤も存在すると主張できる。
もっとも,自治の終了後も独立した統治が実効的に行われているかは問題となり,従前の自治の存在だけで当然に足りるわけではない。
Aの不承認それ自体が国家成立を妨げるものではない。
(3) さらに,少数民族の既存国家からの分離には,自決権に基づく分離権の検討が必要である。
自決権は原則として既存国家内で政治的地位を決定し,政治・経済・社会・文化的発展を追求する内的自決によって実現される。
外的自決による分離は,植民地支配や外国による支配・搾取などの例外的状況で問題となる。
ケベック分離事件のカナダ最高裁意見もこの区別を示し,内的自決を実質的に全面阻害された人民の最終的な分離という議論に触れたが,この第三の根拠が確立した国際法かは留保した。
Bはその留保を踏まえ,植民地的支配に類似する本件の事情に基づく最後の手段として分離を正当化する。
β民族はA人口の約2割を占めるのに議会でほぼ代表されず,公正な代表を求めた申入れも容れられなかった。
20議席の民族枠が唯一の実現方法とはいえないが,政治的な内的自決が阻害されている。
資源の生産量・卸価格をAが決め,豊富な資源の利益に反してPの一人当たり予算は他県の半分未満であることも,経済的発展への参加を奪う差別的搾取とのBの主張を支える。
加えて,自治を廃止し,1年以上の弾圧によって200名以上の死傷者と数千名以上の拘束者を生じさせたことは,平和的な内的自決の道が閉ざされたことを示す。
独立賛成約9割の住民投票は人民の意思を裏付けるが,投票だけで分離権が生じるのではない。
Bは,これらの事情が植民地支配等に類似する例外的状況を構成し,分離権行使によってPが国家として成立した後の承認であるから,尚早の承認による内政干渉ではないと反論する。
2 設問2
(1) 自国領域内で与える領域的庇護に対し,外国所在の公館等で与えるものが外交的庇護である。
B大使館はA領域内にあるので,本件は外交的庇護に当たる。
これは領域国の司法権から逃れる保護を与え,その主権を侵害するため,一般国際法上は認められない。
公館の不可侵から庇護権が当然に生じるのでもない。
しかし,中南米では外交的庇護が地域的な特別法として援用されてきた。
1950年の庇護事件判決は,コロンビアによる地域慣習の立証が不十分として主張を退けたが,地域慣習法の存在可能性自体を否定していない。
したがってBは,両国が南米諸国であることを手掛かりに,甲の保護を許す地域慣習法が両国間で拘束力を持つと主張し,それに沿う一定かつ一貫した実行と法的確信を示して,滞在継続の適法性を基礎付けることができる。
甲は独立運動の指導者であり,Aの弾圧からの政治的保護を必要とするとの議論が可能であるが,爆破・暗殺の事実がある以上,政治的目的だけで保護範囲内と断定せず,援用する慣習法の対象に当たることも説明する。
(2) これと別に,国家は一般国際法上,犯罪人を引き渡す一般的義務を負わない。
両国間に犯罪人引渡条約もないから,Bにはその条約に基づく義務もない。
甲がA国民であり殺人等を疑われることだけで,Bに引渡義務は生じない。
庇護の適法性と引渡義務の有無は別であり,仮に庇護の適法性に争いがあっても,そのことから直ちに甲を引き渡す積極的義務が導かれるわけではない。
3 設問3
(1) 国家責任の成立には,問題の行為が国家に帰属し,かつ,当該国家の国際義務に違反することが必要である。
私人の行為は原則として当然には国家に帰属しないが,国家の具体的指示に従って行われた行為は,当該国家の行為とされる。
国家責任条文8条も,指示・指揮・統制による帰属を示している。
ニカラグア事件判決が個別作戦に対する実効的支配を問題にしたように,一般的な支援関係だけでは足りないが,本件ではAが乙職員5名を大使館に差し向けるよう指示し,その一連の行動として甲を確保するため侵入したので,Bは本件侵入のAへの帰属を主張できる。
(2) 両国を拘束する外交関係条約22条1項により,公館は不可侵であり,使節団の長の同意なく接受国側が立ち入ることは許されない。
B大使の同意なく行われた本件侵入は,Aに帰属する作為による同項違反となる。
甲の確保が阻止されても,公館侵入は既に行われているので違反は否定されない。
(3) 同条2項は,侵入・損壊等から公館を保護するため適当な全措置を執る特別の責務を接受国に課す。
これは相当の注意を尽くす積極的保護義務であり,侵入を受けた結果だけを問う無過失責任ではない。
Aは警備を放棄しており,必要な保護措置を怠ったというA自身の不作為による同項違反も主張できる。
以上の作為責任と不作為責任を区別して追及する。
なお,仮にBの庇護に違法があっても,外交公館の不可侵は対抗措置によって侵せず,Aの侵入を正当化しない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
設問1の最初の二段落は番号1~5,分離権の規範は番号7~10,具体的事情の評価は番号11~13に対応する。
設問2は番号14~19,設問3の帰属は番号20~23,公館侵入と警備放棄は番号24~28に対応する。
外交能力を独立要件とする番号6の構成は採用せず,番号23の判例は具体的指示と一般的支援を区別する補強に用いた。
(2) 設問1の国家成立と分離権
普通の国家成立要件を満たすという説明だけでは,既存国家からの少数民族の分離の正当化には足りない。
他方で,分離を求める意思や弾圧があるだけで実効的な政府の存在まで自動的に認められるわけでもない。
国家成立と分離権という二つの審査を,承認の時点へ戻して接続する。
ケベック意見の第135段落は,非植民地の人民が内的自決を全面的に阻害された場合の分離という第三の根拠が,確立した国際法かを留保している。
その留保を落とさず,B国の主張として植民地支配等に類似する本件の事実を評価するのが本答案の立場である。
20議席の民族枠は内的自決を実現する提案であり,その制度を採らなかったことだけで直ちに分離権を導くものではない。
(3) 設問2の二つの義務
領域的庇護と外交的庇護を区別し,外交的庇護の一般的な不許容と中南米の地域慣習法の可能性を両方論ずる。
庇護事件判決を,地域慣習一般の不存在を確定した判決と理解してはならない。
もっとも,地域の一致だけで慣習の内容・相手国への拘束力・甲への適用まで証明されるわけではない。
引渡しは別の義務の問題である。
条約がなく一般的引渡義務もないという根拠を明示し,庇護が適法だから引渡義務がないという説明だけに依存しない。
(4) 設問3の作為責任と不作為責任
乙の職員の侵入を具体的指示によってAへ帰属させる問題と,A自身の警備放棄を保護義務違反とする問題は別経路である。
前者は外交関係条約22条1項,後者は同条2項の実体義務へ接続する。
国家責任条文8条の指示・指揮・統制は,具体的指示がある場合にも全てを重ねて立証させる累積要件ではない。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
問題文は自治終了後のPの実効的独立について十分な詳細を与えていないため,長期自治の事実を根拠にした政府の成立はB国の主張として示した。
また,特定の中南米庇護条約への加盟や,人権規約へのABの加盟は与件にないので追加していない。
外交能力を独立要件とする別構成や,具体的損害額,国際裁判所の管轄設計は本答案の主ルートに置かない。
対抗措置によって外交公館の不可侵を侵せない点は,原資料に基づく補強であり,法務省が独立して掲げた評価項目ではない。
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2 本問に関係する資料
①ケベック分離事件意見の原文(カナダ最高裁)
②庇護事件判決の公式掲載(国際司法裁判所)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和3年司法試験論文式試験問題・選択科目:PDF実頁36~37の国際関係法(公法系)第1問。
②令和3年司法試験論文式試験問題出題趣旨:PDF実頁37末尾の見出し及び38~39頁の第1問部分。
③令和3年司法試験の採点実感・選択科目:PDF実頁39~40の第1問と関連総論,41頁末尾の共通総評及び42頁の教育総論。
④令和3年司法試験の実施日程等:PDF実頁1の選択科目実施日。
2 法令・国際文書
①外交関係に関するウィーン条約:22条,41条等。
②友好関係原則宣言・国連総会決議2625:PDF実頁3~4の不干渉及び自決。
③国家責任条文と注釈・2001年:8条,50条2項(b)。
国家責任条文は条約ではなく,関係する慣習法の内容を検討する資料として用いた。
3 裁判例
①ケベック分離事件意見・1998年8月20日:第126~138段落,PDF実頁66~71。
②庇護事件・1950年11月20日判決:ICJ公式掲載判決本文の外交的庇護と地域慣習の立証に関する理由部分。
③ニカラグア事件・1986年6月27日本案判決:第111~116段落,特に第115段落の実効的支配。
4 確認状態
問題文・公式趣旨・採点実感は法務省の原資料を確認し,本問の関連範囲だけを評価の根拠に用いた。
裁判例と条約等の原文で確認した命題と,問題文から行った事実評価を区別している。
評価項目の原子化,必須等の区分,1~5の重み及び本件への当てはめは本稿独自の分析である。
本稿の完成答案が唯一の構成・結論であることや,この項目数・重みが公式配点を示すことを意味しない。