第1 公営競技とパチンコの説明は同じではない
公営競技が法律に基づいて行われる理由と、パチンコ営業が賭博罪に当たらないと説明される理由は、区別して理解する必要がある。
競馬やスポーツ振興投票について、政府は、それぞれの法律に従って行われる限り、刑法35条の法令による行為として違法性が阻却されると説明している。一方、パチンコについての平成30年の法務省答弁は、風営法の範囲内で適法に行われる営業について、刑法185条ただし書の一時の娯楽に供する物の例外を挙げた。
これらの説明は、少額の賭け事一般を許容するものではない。また、許可された営業の名称を用いれば、規制に反した営業形態まで適法になるという意味でもない。
第2 賭博罪と二つの根拠規定
刑法185条は、賭博を罰金又は科料の対象としつつ、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる場合を例外としている。同法35条は、法令又は正当な業務による行為を罰しないと定める。
「法律に基づく事業として認められること」と「185条ただし書に当たること」は、適用される根拠が異なる。個々の制度の説明では、どちらが挙げられているかを確認する必要がある。
金銭を賭ける麻雀、テンピンの意味、常習性の判断については、賭け麻雀と賭博罪―テンピン・一時の娯楽・常習性の判断を参照されたい。公営競技やパチンコ営業についての説明を、そのまま私的な賭け麻雀に当てはめることはできない。
第3 公営競技が認められる法的根拠
1 競馬法に従った競馬と勝馬投票券の販売
平成14年3月28日の参議院経済産業委員会で、法務省は、競馬などが形式的には賭博罪等に該当し得ることを前提に、法律が主催者・目的・監督・制限・罰則を定め、その枠内で行われるため、法令行為として違法性が阻却されると説明した。
競馬法1条は、畜産の振興と地方財政の改善という制度の趣旨を定め、1条の2は日本中央競馬会又は都道府県等による競馬を規定し、6条は中央競馬の勝馬投票券の発売について定めている。適法性を検討する際には、法律上認められた主催者と行為の範囲が重要である。
出典は、第154回国会・参議院経済産業委員会第5号の発言12・16である。同答弁は、条例だけで刑法上の賭博罪の成立範囲を限定することはできないとも説明している。
2 スポーツ振興投票についての政府答弁
平成30年6月14日の参議院法務委員会で、法務省は、totoの販売が賭博又は富くじに関する行為に該当し得るとしても、スポーツ振興投票の実施等に関する法律に従って行われる限り、刑法35条の法令行為として違法性が阻却されると説明した。
出典は、第196回国会・参議院法務委員会第17号の発言38である。「競技を利用した賭け」であることだけで、誰でも同種の投票券を販売できるという説明ではない。
第4 パチンコ営業についての規制と政府説明
1 風営法の許可と営業規制
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項4号は、まあじゃん屋、ぱちんこ屋等を風俗営業として位置づける。同法3条の営業許可に加え、20条の遊技料金・賞品等の規制、23条の禁止行為が問題となる。
23条1項は、対象となるぱちんこ屋等について、現金又は有価証券を賞品として提供すること、客に提供した賞品を買い取ることなどを禁止する。他方、まあじゃん屋については、同条2項が遊技の結果に応じて賞品を提供することを禁止する。営業区分ごとの規制を混同してはならない。
2 平成14年と平成30年の答弁の表現
平成14年3月28日の参議院経済産業委員会では、警察庁が、風営法で認められた範囲内で営まれるパチンコ営業について、賭博罪に当たる行為を行っているとの評価を受けないと説明した。
平成30年6月14日の参議院法務委員会では、法務省が、適法な規制の範囲内で行われるパチンコ営業について、刑法185条の賭博に該当する場合であっても、同条ただし書の例外に該当すると説明した。同会議録の発言30・32・34・36が、定義と説明の範囲を確認する手がかりとなる。
このように、担当機関・時点・質問の内容によって説明の表現が異なる。本記事は、これらの政府説明を紹介するものであり、すべてのパチンコ営業の個別行為について、裁判所の判断が確定しているという趣旨ではない。
第5 国会答弁から断定できないこと
1 いわゆる三店方式の全体を一括して評価するものではない
賞品の提供と第三者による買取りなど、いわゆる三店方式について検討する場合は、営業者と買取業者との関係、実際の行為、風営法の禁止行為との関係などを確認する必要がある。ここで挙げた答弁だけで、その全体の適法性を一律に断定することはできない。
2 私人の賭け事の金額基準にはならない
競馬等に関する法令行為の説明は、主催者・事業・監督等を法律が定めていることを前提とする。パチンコの答弁も、規制の範囲内の適法な営業を対象とする。いずれも「一定額以下なら金銭を賭けてもよい」という一般的な金額基準を示していない。
黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀問題における訓告の量定についての政府説明も、賭博罪の成立を免除する基準ではない。人事上の措置の判断、犯罪の成立、起訴するかどうかの判断を分けて読む必要がある。
第6 出典と関連記事
法令は令和8年10月12日に確認した現行条文を基礎とし、国会答弁はそれぞれの答弁時点の説明として掲載した。古い答弁に出てくる罰則・制度の説明を、改正後の現行制度として読み替えることはできない。
主要な一次資料は、上記の刑法・競馬法・スポーツ振興投票法・風営法と、平成14年3月28日及び平成30年6月14日の国会会議録である。公営競技の購入条件や各制度の実務を網羅する記事ではなく、賭博罪との関係で適法性の根拠を区別するための解説である。
黒川氏の訓告処分に関する内閣答弁書及び賭け麻雀と賭博罪も参照されたい。