第1 最高裁大法廷で16件が結審
1 対象は2025年7月20日の参院選である
共同通信及び読売新聞の2026年10月7日付報道によれば、2025年7月の参議院議員通常選挙における一票の格差を争う16件の訴訟について、最高裁大法廷が同日に弁論を開き、結審した。
対象となる選挙は2025年7月20日に行われた参院選であり、弁論が開かれた年は2026年である。
最高裁判所広報課の事件概要によれば、これらは、参議院の選挙区選出議員の定数配分規定が憲法に違反するため、これに基づく選挙も無効であるとして、各選挙区の選挙人らが提起した選挙無効訴訟である。
争点は、選挙区選出議員の定数配分規定の憲法適合性であり、比例代表の選挙を対象とする説明ではない。
2 結審と最高裁の判決を区別する
結審は、弁論を終えたという手続上の経過であり、それ自体が合憲又は違憲の判決ではない。
共同通信は、10月7日の時点では判決期日が後に指定されると報じている。
本稿の基準日は2026年10月12日である。
同日までに確認した最高裁の期日情報等の掲載範囲では、本件の最高裁判決及び正式な判決期日を確認できていない。
報道上の判決時期の見通しを、指定済みの判決期日として扱うことはできない。
第2 最大較差3.13倍と原審の判断
1 3.13倍は何を比較した数値か
公式事件概要は、選挙当時の議員1人当たり選挙人数の最大較差を3.13倍としている。
これは、各選挙区の選挙人数を議員数で割った値について、最も大きい選挙区と最も小さい選挙区を比較した数値である。
投票率や候補者の得票数の比率ではない。
広島高裁令和7年10月31日判決は、議員1人当たりの有権者数が最も少ない福井県を1とした場合、最も多い神奈川県は3.127であったと認定している。
公式概要の3.13倍は、この最大較差を概数で示したものである。
2 11件の「違憲状態」は選挙無効の判決を意味しない
最高裁の公式概要は、16件の原判決を次のように整理している。
| 原審の区分 | 件数 | 判断の意味 |
|---|---|---|
| 合憲状態 | 5件 | 投票価値の不均衡が、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあるとはしない。 |
| 違憲状態・合憲 | 11件 | 著しい不平等状態は認めるが、選挙までに是正されなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとはしない。 |
11件の原審は、投票価値の不平等を憲法上問題のある状態と評価しつつ、定数配分規定について違憲との結論までは採っていない。
したがって、この集計を「11件で選挙が無効になった」と読むことはできない。
また、原審の件数は、最高裁裁判官の賛否や投票数を表す数値でもない。
第3 違憲状態・規定違憲・選挙無効の関係
1 定数配分と選挙の効力は異なる判断である
公職選挙法14条1項は、参議院の選挙区と各選挙区で選挙すべき議員数を別表第三で定めている。
本件は、その定数配分が投票価値の平等に反するかを、選挙の効力を争う訴訟で問題にするものである。
判決を読む際には、投票価値の不均衡が著しい不平等状態に達しているか、是正されなかったことが国会の裁量の限界を超え定数配分規定を違憲とするに至っているか、選挙の効力をどう扱うかを分ける必要がある。
広島高裁令和7年11月25日判決は、違憲状態を認めた一方、過去の最高裁の合憲判断や改革に必要な時間を考慮して規定の違憲を否定し、選挙人らの請求を棄却した。
このような区別は、合理的な是正期間を考慮する判例の判断枠組みによるものである。
もっとも、後述する宇賀反対意見のように、その枠組み自体を批判する立場もある。
2 訴訟を起こしただけでは選挙の効力は停止しない
公職選挙法204条は、選挙人等が国政選挙の効力を争う訴えを、選挙の日から30日以内に高等裁判所へ提起する手続を定めている。
参院選の選挙区選挙では、所定の選挙管理委員会が被告となる。
同法214条によれば、この章の訴訟を提起しても、処分の執行は停止しない。
訴訟の提起、違憲状態という評価、選挙無効の判断を、それぞれ区別して理解する必要がある。
第4 前回の最高裁判決と国会の是正対応
1 令和5年大法廷判決は合憲としつつ更なる是正を求めた
最高裁大法廷令和5年10月18日判決(令和5年(行ツ)第54号)は、2022年7月10日の参院選を対象とする判決である。
多数意見は、最大較差3.03倍の下で行われた同選挙について、定数配分規定が憲法に違反するとはせず、選挙人らの上告を棄却した。
これは、今回の2025年選挙についての判断ではない。
多数意見は、合区の導入によって較差が縮小した経緯、参議院の選挙制度改革に伴う課題、合理的な改革案を得るために必要な時間などを考慮した。
他方で、投票価値の更なる是正を急ぐべき課題として位置付け、国会の具体的な取組を求めていた。
合憲との結論だけを取り出して、約3倍の較差を将来にわたり維持してよいと理解するのは適切でない。
2 議論の継続と具体的な是正をどう評価するか
広島高裁令和7年11月25日判決が認定した経過によれば、選挙制度に関する専門委員会は、2023年2月から2024年6月までに16回開催された。
この開催期間には令和5年10月の最高裁判決より前も含まれるため、「前回判決の後に16回開催した」という意味ではない。
同判決は、選挙制度の枠組みについて意見が分かれ、具体的な方向性がまとまっていなかったことも認定している。
これに対し、広島高裁令和7年11月25日判決は、令和4年選挙以降の議論の内容や是正の見通しを厳しく評価した。
同判決は、過去の5倍前後の較差へ戻っていないことだけでは足りず、較差を更に是正する実効的な取組が必要であるとして、違憲状態を認めている。
一方で、同判決は、従前の最高裁判断が合憲であったことや、是正には一定の時間が必要であることも考慮し、規定が違憲となるに至ったとはしなかった。
今回の最高裁判断を読むうえでも、較差の数値とともに、国会の議論の内容、具体的な制度変更への進展、必要な時間をどう評価するかが重要な検討点となる。
これは原審と前回判決からの争点整理であり、今回の最高裁の結論を予測するものではない。
第5 宇賀反対意見と判決後に注目すべき点
1 合理的期間論への批判と選挙無効の効果
令和5年10月18日判決では、宇賀克也裁判官が反対意見を述べた。
宇賀反対意見は、投票価値が等しいことを制度設計の出発点とし、著しい不均衡が避けられない理由について国会が説明すべきであるという立場を採っている。
この反対意見は、政治的な改革の難しさを合憲の理由として扱うことに批判的であり、選挙無効訴訟で違憲状態と違憲を分ける合理的期間論も採るべきでないとしている。
そのうえで、定数配分規定を違憲とし、選挙も無効とすべきであるとした。
ただし、無効の効果については、判決から2年後に発生させ、過去には遡らせないという留保を付している。
当該選挙で当選した議員による国会での審議や投票に、将来の無効判決の効果を及ぼさない構成である。
規定の憲法適合性を判断する場面で合理的期間論を否定することと、無効の効果を発生させる時期を調整することは、別の問題として扱われている。
これは2022年選挙についての反対意見であり、最高裁の多数意見でも、今回の2025年選挙についての判決でもない。
多数意見が重視した制度改革の制約と、この反対意見が重視した投票価値の平等の実現を対比することで、争点を把握できる。
2 主文・理由・個別意見を合わせて読む
本件の最高裁判決が公表された際には、まず各事件の主文と、定数配分規定についての憲法判断を確認する必要がある。
続いて、投票価値の不均衡の評価、国会の是正対応についての判断、前回大法廷判決との関係を読むことになる。
個別意見についても、結論だけでなく、理由、是正期間の扱い、選挙の効力についての留保を確認する必要がある。
「違憲状態」という語が使われたかどうかだけでは、規定の憲法適合性や選挙の効力についての結論までは判断できない。
第6 関連記事
基本概念と判例の位置付けについては、一票の格差とは何かを参照されたい。
制度変更の経緯と訴訟実務については、一票の格差是正に関する公職選挙法等の改正一覧で整理している。
昭和・平成期の判例については、参議院議員通常選挙の一票の格差に関する最高裁判決一覧を参照されたい。
既に言い渡された大法廷判決・決定については、最高裁判所大法廷の判決及び決定の一覧を参照されたい。
第7 出典
最高裁判所広報課「選挙無効請求事件(参議院議員定数訴訟)について」(1頁)。対象選挙、最大較差、16件の原審判断の集計を確認した資料である。
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/jiangaiyou_08_62.pdf
共同通信「1票格差訴訟、最高裁結審 最大3.13倍の昨年参院選」(2026年10月7日、ライブドアニュース配信)。弁論実施、結審及び同日時点の判決期日の取扱いについての報道である。
https://news.livedoor.com/article/detail/32511218/
読売新聞オンライン「2025年7月の参院選『1票の格差』訴訟が結審」(2026年10月7日、ライブドアニュース配信)。弁論実施と結審について確認した報道である。
https://news.livedoor.com/article/detail/32510554/
最高裁大法廷令和5年10月18日判決(令和5年(行ツ)第54号、民集77巻7号1654頁)。多数意見は主として9頁~13頁、宇賀反対意見は38頁~43頁を参照している。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-92430.pdf
広島高裁令和7年11月25日判決(令和7年(行ケ)第1号)。違憲状態と規定の憲法適合性の区別について、主として22頁~24頁を参照している。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95210.pdf
広島高裁令和7年10月31日判決(令和7年(行ケ)第2号)。最大較差の比較対象は2頁で確認した。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95131.pdf
公職選挙法14条、204条、214条(e-Gov法令検索)。手続の説明には、2026年10月12日時点の法令データを用いた。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100
最高裁判所「最高裁判所開廷期日情報」。判決期日についての記述は、基準日に確認した掲載範囲に限る。
https://www.courts.go.jp/saikosai/kengaku/saikousai_kijitsu/index.html