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1991年の日韓覚書とは―合意内容・国内の実施措置・現在の法的効果(AI作成)

第1 1991年の日韓覚書の位置付け

1991年1月10日にソウルで交わされた日韓外相間の覚書は,日韓法的地位協定2条1に基づく,在日韓国人の子孫の居住に関する協議の決着と,日本政府の今後の対処方針を記録した文書である。入管・外国人登録・教育・教員採用・地方公務員採用が扱われている。

覚書は,その後の特別永住者制度や外国人登録制度の見直しを理解する上で重要である。ただし,国家間の合意があること,国内の法律や通知により制度が実施されること,個人が裁判で具体的な給付や採用を請求できることは,それぞれ区別して検討する必要がある。

本記事は,2026年10月12日現在の公表資料に基づき,覚書の内容と,現在の国内制度との関係を説明する。1965年の協定全6条の解説は,日韓法的地位協定とは―全6条の内容・協定永住と特別永住の関係を参照されたい。

第2 原文の所在と資料の読み方

1 韓国政府が掲載する韓国語本文

駐日大韓民国大使館の公式ページには,「在日韓国人3世以下の子孫の法的地位に関する日韓外相間合意覚書」に当たる題名の韓国語本文が掲載されている。2005年8月24日付けのページの「가.」の項目であり,覚書自体の日付は1991年1月10日である。

本記事の覚書の説明は,この韓国政府掲載本文の要旨である。日本語正文の転載ではなく,署名原本画像との逐字照合を経たものでもない。特に,掲載本文の冒頭には,対象者の定義について文章の接続が不完全に見える部分があるため,現在の対象者の認定は覚書の冒頭だけに依拠せず,入管特例法の定義によって行う。

2 1965年協定との関係

1965年の日韓法的地位協定2条1は,協定による永住許可を受けた者の直系卑属として日本で出生した大韓民国国民の居住について,韓国政府の要請があれば,発効から25年を経過するまで協議を行うと定める。

覚書の前文は,この協議を終了したことと,日本政府の今後の方針を示す。終了するのは当該協議であり,1965年協定全体を廃止したと読むことはできない。また,25年という期間は協議に関するものであり,永住許可が25年で当然に失効するという意味ではない。

第3 覚書で扱われた五つの分野

分野掲載本文の要旨読み分ける点
入管永住許可の手続の簡素化と羈束化,退去強制事由の限定,再入国の出国期間を最大5年とする方針必要な法案の提出への努力が記載される。現在の再入国期間は後の改正まで確認する。
外国人登録指紋押捺の代替手段,登録証明書の携帯制度の継続検討と柔軟な運用覚書成立時に常時携帯義務を直ちに廃止したとの記載ではない。
教育自治体の判断で行われている課外の韓国語・文化学習への配慮,保護者への就学案内全国の正規教育課程で民族語を必修化する約束とは異なる。
教員採用日本人と同様の一般の教員採用試験の受験,身分・待遇への配慮国籍による合理的な差異についての日本政府の見解を留保している。
地方公務員採用採用機会を拡大するよう地方公共団体を指導する方針全職種の採用や,全管理職への昇任を個人に保障したものとは読めない。

このほか,末尾には地方選挙権について韓国政府の要望が表明された旨がある。これは,日本政府が選挙権の付与を約束した条項とは区別する必要がある。

第4 覚書の法的性質と個人の権利

1 「覚書」という名称だけでは決まらない

条約法に関するウィーン条約2条1(a)は,名称を問わず,国際法によって規律される国家間の文書による合意を条約と定義している。したがって,「覚書だから法的拘束力がない」と名称だけで結論を出すことはできない。

他方,この覚書には,日本政府の方針,法案提出への努力,継続検討,指導及び配慮を示す文言がある。1992年4月17日の衆議院法務委員会で,高橋雅二・法務省入国管理局長は,外国人登録法関係の合意を政治的な約束・コミットメントと説明し,改正法案と柔軟な運用によって実現すると答弁している(該当する国会会議録)。

この答弁は,外国人登録法関係の合意に関する説明である。覚書の全項目について国際法上の拘束力が一切ないと正式に分類した答弁に広げてはならない。確認できる文言と答弁を踏まえると,政策の合意・実施方針を確認する性格に着目して説明するのが適切であるが,国際法上の分類と各条項の義務の内容は別途検討を要する。

2 国内法の実施と直接の請求権

実務では,①どのような国家間の合意があるか,②それをどの国内法令・通知で実施したか,③現在の対象者と要件は何か,④個人が求める救済の法的根拠は何か,の順に確認する。

例えば,入管特例法4条2項は,所定の対象者が出生等から60日以内に申請したとき,特別永住を許可するものと定める。この許可義務は,現行の国内法の条文と要件から検討できる。

これに対し,覚書の採用機会拡大の指導という文言だけから,自治体に対して特定の人の採用や管理職昇任を請求できるとはいえない。受験資格,任用制度,職務内容及び国籍要件の合理性を確認する必要がある。政治的な合意という評価から,その後の国内法により保障された地位まで法的効果がないと扱うことも適切ではない。

第5 入管・登録関係の現在の効果

1 特別永住者制度と退去強制

現在の根拠は,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法である。同法は,韓国国籍の者だけを対象とするのではなく,平和条約国籍離脱者等という法定の区分により対象を定める。朝鮮及び台湾関係者とその子孫にも,法定要件に従って適用される。

同法3条の法定特別永住,4条の出生その他の事由による許可,5条の一定の在留資格からの許可は,それぞれ経路と要件が異なる。本人・先代の在留歴,出生地,親子関係及び申請期限を確認する。詳しくは,特別永住者の対象者・子孫の要件と申請を参照されたい。

退去強制は同法22条の限定された事由による。4号では,無期又は7年を超える拘禁刑の言渡しだけでなく,犯罪行為により日本国の重大な利益が害されたとの法務大臣の認定も要する。刑事処罰を免除する規定ではなく,退去強制を絶対に禁止する規定でもない。

2 再入国の5年と現在の6年・2年

覚書が示した再入国の出国期間は最大5年である。現在は入管特例法23条により,通常の再入国許可の有効期間の上限が6年,みなし再入国の期間が原則2年となっている。覚書の5年を現在の上限として案内してはならない。

通常の許可についても,6年が全員に当然付与されるわけではなく,実際の許可期限による。みなし再入国は通常の許可とは別の制度であり,旅券・証明書,出国時の手続及び期限を確認する。詳しくは,特別永住者の再入国許可で説明している。

3 証明書の携帯・提示と指紋

現在,特別永住者証明書の常時携帯義務はないが,入管特例法17条に基づく職務上の提示要求への応答義務はある。携帯しなくてよいことと,提示を拒んでよいことは異なる。

また,特別永住者は現在の入国審査時の指紋・顔写真の提供義務の免除対象である(在韓日本大使館の案内)。外国人登録での指紋押捺の見直しと,入国審査の個人識別情報提供は別の制度であり,犯罪捜査等のあらゆる場面で指紋を求められないという意味ではない。

第6 教育・教員採用・地方公務員採用

1 就学案内と韓国語・文化の学習

覚書の韓国語・文化学習への配慮は,自治体の判断により課外に行われている学習を対象とする。全国すべての学校で新たな民族語授業を設ける義務や,母語による正規教育課程を当然に請求する権利と同一ではない。

現在の就学機会の確保については,文部科学省の2026年8月28日改訂指針が,外国人の子がいる家庭への就学案内の送付と使用言語への配慮等を求めている。対象は韓国人の子だけではない。外国人の子の保護者に学校教育法上の就学義務を課していないことを,公立学校が受け入れなくてよいという意味に読み替えてはならない。

2 教員採用試験と任用後の身分

文部科学省の沿革説明によれば,1991年3月の通知により,日本国籍を持たない者にも採用選考試験の受験を認め,合格者を任用期限のない常勤講師として任用するため,各教育委員会が指導された。

現在の具体例として,大阪府の令和9年度教員採用選考受験案内29頁の12(7)は,日本国籍を有しない者を任用期限のない常勤講師に任用し,職名を「教諭(指導専任)」とすると定める。また,採用時に従事可能な在留資格がない場合は採用しないとしている。

受験機会が認められることと,無試験・無条件で採用されることは異なる。具体的な職名,配置,管理職への昇任等については,応募先の教育委員会の当該年度の募集要項と任用規程を確認する。大阪府の例を全国一律の現在の任用条件として扱うことはできない。

3 地方公務員の国籍要件と管理職

最高裁大法廷平成17年1月26日判決は,地方公務員法が在留外国人の任命を一律に禁止していないことを述べる一方,公権力行使等の職を含む一体的な管理職任用制度における東京都の国籍要件について,労基法3条及び憲法14条1項に反しないとした。

したがって,外国人は地方公務員になれないという一律の説明も,覚書によって全管理職への昇任が保障されたという説明も適切ではない。職務の権限,自治体の任用制度及び募集要項を確認する必要がある。同判決を,あらゆる自治体のすべての国籍要件が無条件に適法であるとの判断に広げてはならない。

第7 地方選挙権と社会保障との関係

1 地方選挙権の要望と現行法

覚書末尾の地方選挙権の記載は韓国政府の要望表明である。現行の公職選挙法9条は,国政・地方選挙とも日本国民であることを要件とする。

最高裁第三小法廷平成7年2月28日判決は,一定の永住外国人等に法律で地方選挙権を付与することは憲法上禁止されないとする一方,外国人の地方選挙権が憲法上保障されるとはしていない。立法が許されることと,既に選挙権を持つことは異なる。条例による住民投票等も,公職選挙法上の選挙権とは別の制度である。

2 生活保護・年金・医療保険の根拠

この覚書の掲載本文に,生活保護,年金及び国民健康保険を定める条項はない。教育・生活保護・国民健康保険は1965年協定4条及び合意された議事録で扱われているため,文書と年代を区別する必要がある。

生活保護については,昭和29年5月8日社発第382号通知に基づく一定の外国人への行政措置と,生活保護法上の受給権を区別する。特別永住者に行政措置としての保護を受ける経路があることから,覚書によって生活保護法上の申請権が直接付与されたと説明することはできない。

年金と国民健康保険は,各法令の加入・給付要件によって判断する。国籍要件撤廃前の期間や障害に関する問題も,覚書によって一括して遡及的に解決されたものではない。制度の沿革と現行の適用は,在日外国人への社会保障法令の適用で詳しく説明している。

また,令和8年9月9日の最高裁決定は,療養等を指定された「特定活動」の在留資格を持つ外国人の事案であり,特別永住者の事案ではない。法廷意見は上告理由の該当性を判断し,三浦反対意見による違憲判断とは区別される。詳しくは,同決定の法廷意見・補足意見・反対意見の解説を参照されたい。

第8 相談・申請で確認する資料

覚書は制度の背景を説明する資料であるが,現在の個別相談では,求める手続と処遇に応じた資料をそろえる必要がある。

在留関係では,本人と先代の証明書・旧外国人登録関係資料,出生・親子関係の資料,継続在留の記録,過去の許可処分及び現在の許可期限を確認する。教員・地方公務員の採用では,当該年度の募集要項,国籍要件,任用後の職務と昇任制度を確認する。

社会保障では,在留上の地位と,各制度の加入・納付・給付要件を分ける。生活保護の行政措置の申請先は,通知上,在留カード又は特別永住者証明書に記載された住居地を管轄する保護実施機関が基準であり,急迫時には先に保護を実施する取扱いがある。拒否された場合は,法律に基づく申請か行政措置の申請か,拒否理由と求める救済を確認する。

覚書の一文を抜き出すだけで結論を出さず,現行の法令・募集要項・通知・処分理由まで対応させることが,具体的な手続を選ぶために必要である。