メインコンテンツへスキップ
       

在日外国人への社会保障法令の適用-年金・健康保険・生活保護の現在と沿革(AIリライト)

この記事では,在日外国人に対する年金,医療保険,労働保険及び生活保護の適用を,令和8年9月9日現在の制度と沿革に分けて整理する。
結論を先にいえば,社会保障法令の適用は国籍だけで一律に決まるものではなく,国内居住,就労関係,在留資格,加入中の他制度及び社会保障協定など,制度ごとの要件によって決まる。

第1 在日外国人に適用される社会保障制度

1 国籍だけでは適用の有無は決まらない

現在の公的年金,公的医療保険及び労働保険では,外国籍であることだけを理由として適用対象から外す仕組みは採られていない。
もっとも,日本に住所があるか,適用事業所で働いているか,他の公的医療保険に加入しているかなど,制度ごとに要件と除外事由がある。
短期滞在者や一定の在留資格の人まで,すべて同じ扱いになるわけではない。

2 制度ごとの基本的な適用基準

①国民年金は,原則として日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人を被保険者とする。
②厚生年金及び健康保険は,原則として適用事業所との使用関係や労働時間などの加入要件によって適用される。
③国民健康保険は,原則として市町村の区域内に住所があり,他の被用者保険の被保険者などに当たらない人を被保険者とする。
④労災保険及び雇用保険は,就労の実態と各法令の要件に基づいて適用される。
⑤生活保護については,法律上の権利としての適用と,外国人に対する行政措置とを区別する必要がある。

第2 公的年金と健康保険

1 国民年金

国民年金法は,原則として日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の人を第1号被保険者とする。
日本年金機構も,日本に住む20歳以上60歳未満の人は国籍を問わず国民年金に加入し,保険料を納付する必要があると案内している。
ただし,厚生年金の被保険者やその被扶養配偶者は別の被保険者区分となり,医療滞在や長期観光を目的とする一定の「特定活動」の人などには除外がある。

2 厚生年金及び健康保険

適用事業所に使用される人は,国籍にかかわらず,厚生年金保険及び健康保険の加入要件を満たせば被保険者となる。
事業主は,外国人労働者についても,資格取得届など必要な届出を行う必要がある。
社会保障協定により,一時的に日本で働く人について相手国制度への加入が継続し,日本の制度への加入が免除される場合がある。

3 国民健康保険

国民健康保険法5条は,市町村の区域内に住所がある人を原則として被保険者とし,同法6条は健康保険の被保険者や生活保護受給者などの除外事由を定めている。
外国人については,住民基本台帳上の住所の有無や在留資格,在留期間などを踏まえて加入資格が判断される。
厚生労働省は,外国人向けに国民健康保険の加入,保険料及び受診方法を多言語で案内している。

4 社会保障協定

社会保障協定は,日本と相手国の制度への二重加入を防ぎ,国によっては両国の加入期間を通算して年金受給資格を判定するための仕組みである。
令和7年12月1日にオーストリアとの協定が発効した後,日本の社会保障協定の発効国は24か国となっている。
英国,韓国,中国及びイタリアとの協定には加入期間の通算措置がなく,二重加入の防止だけが定められているため,協定ごとの内容を確認する必要がある。

5 保険料免除及び脱退一時金

国民年金保険料を納付することが困難な場合には,外国人も,所得などの要件を満たせば免除又は納付猶予を申請できる。
具体的な制度は「国民年金保険料の免除・納付猶予制度」で整理している。
また,日本国籍を有しない人が日本を出国し,公的年金の被保険者資格を喪失した場合には,一定の要件の下で脱退一時金を請求できる。
脱退一時金を受けた期間は,その後に年金額や加入期間を計算する際には被保険者期間でなかったものと扱われるため,社会保障協定による通算の可能性も含めて判断する必要がある。

第3 昭和56年の国籍要件撤廃

1 難民条約加入との関係

日本は,難民の地位に関する条約及び同議定書への加入に伴い,社会保障関係法令の国籍要件を整理した。
その中心となったのが,昭和56年6月12日公布の「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」(昭和56年法律第86号)である。

2 昭和56年法律第86号

昭和56年法律第86号2条は,国民年金法の被保険者資格に置かれていた日本国民であることという要件を削除した。
同法は,児童扶養手当法,特別児童扶養手当等の支給に関する法律及び児童手当法の国籍要件も削除した。
施行日は,条約又は議定書が日本について効力を生ずる日とされ,国民年金関係の改正は昭和57年1月1日に施行された。

3 経過措置と未救済問題

同法附則4項は,施行時に国民年金法7条の要件を満たす外国人が施行日に被保険者資格を取得することを定めた。
同法附則5項は,旧国民年金法に基づいて既に生じていた福祉年金の不支給や受給権消滅の効力を維持した。
したがって,国籍要件の撤廃には経過措置があったが,撤廃前の期間を一律に加入期間へ算入する遡及的な救済までは行われなかった。
昭和56年5月27日の衆議院法務委員会でも,外国人を日本人と同様に国民年金へ加入させる一方,高齢の外国人だけを対象とする特別な年金措置は設けないという政府の考え方が説明されている。

第4 塩見訴訟と無年金問題

1 国民年金制度の発足時期

国民年金法は昭和34年4月16日に公布され,福祉年金に関する規定などは同年11月1日に施行された。
保険料を拠出する制度の主要部分は昭和36年4月1日に施行されたため,「国民年金制度の開始」を論じるときは,福祉年金と拠出制年金を区別する必要がある。

2 最高裁平成元年3月2日判決

塩見訴訟の最高裁第一小法廷平成元年3月2日判決(昭和60年(行ツ)第92号,訟務月報35巻9号1754頁,判例時報1363号68頁,判例タイムズ741号87頁)は,国民年金法の旧国籍条項などが争われた事件である。
最高裁は,障害福祉年金の支給対象を日本国民に限っていた当時の制度について,憲法14条1項及び25条に違反しないと判断した。
もっとも,この判決は旧制度についての判断であり,昭和57年1月1日以後の国籍要件撤廃後の現行制度へそのまま当てはめることはできない。

3 地方公共団体の外国人高齢者給付金

国籍要件撤廃前の制度によって老齢年金を受けられないまま高齢となった外国人に対し,地方公共団体が福祉的な給付金を設けていることがある。
大阪市の「外国人高齢者給付金」は,令和8年4月1日現在,月額1万円であり,大正15年4月1日以前に生まれ,制度上の無年金となった大阪市民などを対象としている。
年齢,居住歴,国籍取得歴,公的年金及び生活保護の受給状況などの要件と除外事由があるため,申請時点の自治体の案内を確認する必要がある。

第5 国民健康保険と外国人

1 現行制度

現在の国民健康保険は,外国人についても住民基本台帳制度を前提として適用される。
加入資格は,住所,在留資格,在留期間,他の医療保険への加入及び生活保護の受給などにより判断される。
転入,就職,退職又は出国によって加入関係が変わるため,市町村又は勤務先への届出を適時に行う必要がある。

2 最高裁平成16年1月15日判決の射程

最高裁第一小法廷平成16年1月15日判決(平成14年(受)第687号,民集58巻1号226頁)は,外国人登録制度の下で,国民健康保険法5条の「住所」をどのように判断するかが争われた事件である。
この判決は,外国人が市町村の区域内に住所を有するかについて,在留資格や在留期間だけでなく,その人が継続的に生活している実態も踏まえて判断する枠組みを示した。
ただし,平成24年7月に外国人住民が住民基本台帳制度の対象となったため,旧外国人登録制度を前提とする判決の射程には注意が必要である。

第6 外国人労働者と労働・社会保険

1 適用される法令

厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」は,労働基準関係法令,労災保険法,雇用保険法,健康保険法及び厚生年金保険法が,国籍にかかわらず適用されることを示している。
ただし,各制度には労働者性,雇用見込み,所定労働時間,事業所の適用関係など固有の要件がある。

2 事業主が確認すべき事項

事業主は,在留カードなどにより就労可能な在留資格と在留期間を確認した上で,労働条件を書面で明示し,賃金,労働時間及び安全衛生について法令に沿った管理を行う必要がある。
社会保険及び労働保険については,日本人労働者と同じく,実際の雇用条件に応じて資格取得,資格喪失その他の届出を行う。

第7 外国人と生活保護

1 生活保護法の適用と行政措置の区別

生活保護法1条は,同法による保護の対象を「すべての国民」と定めている。
最高裁第二小法廷平成26年7月18日判決(平成24年(行ヒ)第45号,訟務月報61巻2号356頁,判例地方自治386号78頁)は,外国人は生活保護法に基づく保護の対象ではなく,同法に基づく保護の申請権も有しないと判断した。
一方,一定の外国人に対しては,昭和29年5月8日付け厚生省社会局長通知に基づき,生活保護法に準じた行政措置として保護が実施されている。

2 行政措置の対象

厚生労働省の現行資料では,永住者,定住者,日本人又は永住者の配偶者等,特別永住者,認定難民など,日本での活動に制限を受けないなどの一定の在留資格を有する人が行政措置の対象として整理されている。
短期滞在者や,就労目的の在留資格を有する人一般が当然に対象となるわけではない。
実際の判断では,在留資格だけでなく,収入,資産,扶養その他の生活保護の要件も確認される。

3 申請と不服申立て

外国人に対する保護が生活保護法に基づく権利ではなく行政措置であることから,生活保護法に基づく申請権や審査請求の可否には,日本国民の場合との違いがある。
相談先は現在地を所管する福祉事務所であるが,在留資格や世帯構成によって扱いが異なるため,個別事情を示して確認する必要がある。

4 統計を読む際の注意

厚生労働省資料によれば,世帯主が日本国籍を有しない被保護世帯に属する人員は,平成27年の7万2995人から令和6年の6万4993人へ減少し,被保護人員全体に占める割合は3.37%から3.24%となっている。
この集計には外国人世帯主と同じ世帯にいる日本人が含まれる一方,日本人世帯主と同じ世帯にいる外国人は含まれない。
したがって,この割合を外国人全体の生活保護受給率とみなすことはできない。

第8 成立済みで未施行の制度変更

1 脱退一時金の見直し

令和7年6月20日に公布された年金制度改正法には,外国人の脱退一時金について,再入国許可の有効期間中は請求できない取扱いとし,支給額計算の上限を5年から8年へ引き上げる措置が盛り込まれた。
これらは公布時点で直ちに施行されたものではなく,公布日から4年以内の政令で定める日に施行される予定である。
令和8年9月9日現在,具体的な施行日は定められていないため,現行制度と将来の変更を区別する必要がある。

2 在留審査と保険料納付状況

日本年金機構は,国民年金保険料の未納が年金給付だけでなく,在留資格の変更や更新などの審査に影響する場合があると案内している。
政府は,国民健康保険料の納付状況を在留審査で確認する仕組みを令和9年6月から運用する方針を示しているが,これは令和8年9月9日現在の一律の審査制度ではない。
在留手続と社会保険料の関係は制度改正が続いているため,申請時点の出入国在留管理庁及び所管機関の案内を確認する必要がある。

第9 出典・参考資料

1 法令

①「国民年金法
②「国民健康保険法
③「生活保護法
④「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」(昭和56年法律第86号)

2 裁判例

最高裁第一小法廷平成元年3月2日判決(昭和60年(行ツ)第92号,訟務月報35巻9号1754頁,判例時報1363号68頁,判例タイムズ741号87頁)
最高裁第一小法廷平成16年1月15日判決(平成14年(受)第687号,民集58巻1号226頁)
③最高裁第二小法廷平成26年7月18日判決(平成24年(行ヒ)第45号,訟務月報61巻2号356頁,判例地方自治386号78頁。裁判所ウェブサイト未掲載)

3 所管行政機関の解説・運用資料

①日本年金機構「外国人を雇用する事業主の方・外国人の従業員の方
②日本年金機構「国民年金
③日本年金機構「社会保障協定
④厚生労働省「国民健康保険に加入している外国人のみなさまへ
⑤厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針
⑥厚生労働省「外国人と生活保護
⑦大阪市「外国人高齢者給付金
⑧厚生労働省「年金制度改正法が成立しました

4 公文書・国会会議録

①国会会議録検索システム「第94回国会衆議院法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会第1号」(昭和56年5月27日)
②外国人との共生社会の実現のための有識者会議「外国人との秩序ある共生社会の実現に向けた総合的対応策
③出入国在留管理庁「外国人との秩序ある共生社会推進室関係資料

5 文献

①岩村正彦ほか編『入門 社会保障法』(法律文化社,令和7年)
②西村健一郎ほか編『判例から考える社会保障法』(日本評論社,令和7年)
③瀧川修吾『実務裁判例 出入国管理及び難民認定法』(日本加除出版,平成28年)
④永野仁美「外国人への生活保護法の適用又は準用を否定した事例」季刊社会保障研究50巻4号464頁

6 関連記事

①「国民年金保険料の免除・納付猶予制度
②「司法修習生の国籍要件等