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専属的合意管轄があっても移送・留置はできるか―訴訟の場所を争う確認手順(AI作成)

契約書に専属的合意管轄条項があっても,指定された裁判所で必ず審理されるとは限らない。管轄合意の成立・内容,合意がなければ生じる法定管轄,移送又は受訴裁判所で審理を続ける必要性を,順に確認する必要がある。

第1 最初に管轄合意の範囲を確認する

1 合意の成立と専属性を分ける

民事訴訟法11条は,第一審に限り,一定の法律関係に基づく訴えについて書面による管轄合意を認め,内容を記録した電磁的記録による合意も書面によるものとみなしている。

確認するのは,誰と誰の合意か,どの法律関係・請求を対象とするか,どの裁判所を定めたか,他の法定管轄を排除する専属的合意か,法定管轄に管轄を付け加える合意かである。契約書の一語だけで決めず,条項全体と契約締結の経緯を読む。

合意が成立しているかという問題と,成立した合意を専属的と解するかという問題は別である。法令による専属管轄がある訴えについては,同法13条等の適用関係も先に確認する。本記事は,国内の民事訴訟における土地管轄を扱う。

2 合意がなければ管轄を持つ裁判所を特定する

被告の普通裁判籍(4条),財産権上の訴えの義務履行地(5条1号),事務所又は営業所の業務に関する訴えの所在地(同条5号)など,対象となる請求に対応する根拠を確認する。原告の住所に近いというだけで法定管轄が生じるわけではない。

義務履行地を使う場合は,どの債務の履行地かを特定する。支払方法として振込先を定めたことと,弁済場所又は管轄裁判所を合意したことの関係は,売掛金の振込先口座がある銀行支店の所在地で訴えを提起できるかも参照されたい。

第2 移送と留置を区別する

1 管轄の有無と審理場所の適切さは別の判断である

民事訴訟法16条1項は,管轄に属しない訴訟を管轄裁判所へ移送する仕組みを定める。17条は,管轄がある第一審裁判所からも,著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図るため必要な場合に,他の管轄裁判所へ移送できるとする。

20条1項は,移送を制限する専属管轄から,11条の合意で定めたものを除いている。そのため,合意で指定した裁判所に提訴されていても,17条による移送を検討する余地がある。

2 合意で指定された裁判所への移送を拒む場面

合意がなければ法定管轄を持つ裁判所に既に提訴され,指定裁判所への移送を求められた場合には,受訴裁判所で審理を続ける「留置」が問題となる。これは,事件を別の裁判所へ移すこととは区別して整理する。

名古屋高裁平成28年8月2日決定(平成28年(ラ)第223号)は,17条の趣旨に照らし,法定管轄裁判所で審理する必要性を判断し,専属的合意管轄裁判所への移送をしないことを認めた。移送と逆向きの場面だけに,別の「特段の必要性」を加える理由はないとした。

同決定は名古屋高裁の判断であり,最高裁の判断として引用してはならない。また,合意を無視してよいとしたものでもない。合意の存在も考慮した上で,遅滞の回避又は衡平のための必要性を判断する構成である。裁判所原文3~4頁で,17条の類推適用とその判断を確認できる。

第3 申立て・反論で何を示すか

1 証人の住所だけでなく立証内容を示す

17条は,当事者及び尋問を受けるべき証人の住所,使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮事項としている。名古屋高裁の上記決定は,証人の所在地を挙げるだけではなく,その証人を調べる具体的必要性が裏付けられているかも検討した。

実務では,争点,証明したい事実,予定する証人・検証物,所在地,証拠調べの必要性を対応させたメモを作るとよい。以下は条文と裁判例を踏まえた準備の提案であり,所定の全国共通様式ではない。

①契約書・合意成立を示す記録と,対象請求を整理する。
②受訴裁判所及び希望する裁判所の管轄根拠を条文と事実へ対応させる。
③各争点について,誰を何のために尋問するか,どの物を検証するかを示す。
④当事者双方の移動時間・費用・訴訟追行上の負担を,比較できる資料で説明する。
⑤合意を尊重する相手方の利益も検討し,なお移送又は留置が必要となる理由を示す。

2 管轄を争う時期と通常の訴訟対応を確認する

12条は,被告が管轄違いの抗弁を提出せずに本案について弁論等をした場合の応訴管轄を定めている。法令による専属管轄との関係も踏まえ,管轄を争う被告は,本案の対応を始める前に,管轄違いの主張と移送申立てをどの順序で行うかを代理人と確認する必要がある。

移送の決定及び移送申立てを却下した決定には,21条による即時抗告が認められる。決定を受け取った場合は,決定の内容と告知日を直ちに記録し,不服申立ての期限を確認する。移送を求めているという理由だけで,指定された期日や提出期限への対応を止めてはならない。

第4 似た手続への置換を避ける

16条2項は,地方裁判所の管轄区域内の簡易裁判所の事件を,地方裁判所が自ら審理・裁判する場合の規定である。異なる地方裁判所間の管轄争いに,この規定をそのまま直接適用することはできない。

また,同じ地方裁判所の本庁・支部間で担当を変える回付は,別の裁判所への移送と区別する。詳しくは,裁判所の本庁と支部の回付―移送との違い・合意管轄条項・不服申立てを参照されたい。

既に移送された事件の処理と,まだ移送されていない事件の留置は,手続の段階が異なる。最初の移送申立てを判断する場面では,事件が現在どの裁判所に係属しているかを前提として主張を組み立てる。

第5 契約を審査する段階での注意

法務担当者は,紛争時に想定される当事者,請求,証拠の所在と,指定裁判所での訴訟追行負担を確認した上で,条項を設計するとよい。専属的な管轄を意図するなら,その意図と対象となる法律関係を明確にする。

ただし,条項を明確にしても,17条・20条による移送の検討を一律に排除できるとはいえない。裁判所内部の本庁・支部の取扱いまで必ず固定できるという前提にも立たない。契約上の指定と,訴訟が始まった後の具体的な審理上の必要性を分けて管理することが重要である。

第6 出典と関連記事

①民事訴訟法:4条,5条,11~13条,16・17・20・21条。令和8年10月9日現在の施行本文を確認した。
②名古屋高裁平成28年8月2日決定:裁判所掲載原文全4頁,特に理由2~4。個別事件の審理継続を認めた判断であり,全事件に同じ結論を保証するものではない。
③令和元年司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目:試験問題に沿った管轄合意と留置の立論を扱う。同記事は試験実施日当時の法状態に基づくものである。