第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和6年度司法試験の論文式試験のうち,刑事系科目第1問(刑法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
評価項目と模範解答は,生成AI(Claude)が作成し,判例・条文は原文で確認した。
本問は,【事例1】で甲及び乙の罪責(暴行後に生じた財物奪取の意思と強盗罪,キャッシュカードの暗証番号を聞き出す行為と「財産上不法の利益」,誤った暗証番号を入力した行為と不能犯)を問い,【事例2】で丙に正当防衛が成立することを前提に,幇助犯である丁と共謀共同正犯である甲の罪責を,正当防衛の判断の基準者と違法性の相対性という観点から整合的に説明させるものである。
公式資料から抽出できた評価項目は51項目(答案に書くべき事項37項目と,採点実感が誤り又は不要と指摘した事項を「〜しない」の形にした14項目)であり,令和7年度の記事と同じ5段階で重み付けをした。
重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,自ら作出した反抗抑圧状態を利用した財物奪取の問題の所在,新たな暴行・脅迫を必要としその程度を示す規範,同論点での反対の考え方の意識,「持っているものを見せろ」を新たな脅迫として検討しないこと,暗証番号を財産上の利益の取得とみる考え方,本件カードを客体とする奪取罪を検討しないこと,誤った暗証番号の入力について未遂犯か不能犯かの問題の所在・区別基準・反対の考え方の意識,誰を基準として正当防衛の成立要件を判断するか,違法性の判断が共犯者間で異なることがあるか,幇助犯と共同正犯それぞれについての反対の考え方の意識,丁と甲の説明の整合性の14項目である。
第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で約5000字にまとめ,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,本問の出題の趣旨(刑事系科目第1問の部分)又は採点実感(同)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
採点実感が誤り又は不要と指摘した事項は,原則として「〜しない」の形の項目にして,同じ5段階の中で重みを付けた。
ある考え方に立った場合に限って求められる事項は,評価項目の末尾に「(許容分岐)」と付した。
出題の趣旨・採点実感の欄は,根拠となる記述の頁と見出しを示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」とした。
2 5段階の重み付けの基準
重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の公式の採点基準・配点ではない。
①重み5:答案の骨格そのもの,又は採点実感が評価の分かれ目とした事項(「著しく低い評価」,「少なかった」「ごく少数」「ごく僅か」として高く評価された事項で出題の趣旨も検討を求めるもの,問題文が明記した検討事項に「正面から答えていない答案が多く見られた」とされたもの)
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた(高く評価した又は多数の答案の不足を指摘した)事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け,当てはめ又は成立要件,若しくは評価を大きく下げる誤り
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項(簡潔に示せば足りる事項を含む。),又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項,検討の必要がないとされた事項又は許容される別の構成で求められる事項
第3 本問の概要
【事例1】では,特殊詐欺グループを率いる甲が,配下のAに暴行を加えて肋骨骨折等の傷害を負わせた後,Aが差し出した財布の中の現金が欲しくなり,Aが恐怖で抵抗できないことを知りながら「この財布はもらっておくよ。」と言って財布を自分のポケットに入れる。
甲から財布を渡された乙は,中にあったA名義のキャッシュカードに気付き,バタフライナイフをAの眼前に示して暗証番号を言わせるが,Aはカードを見誤って異なる番号を答える。
乙はその番号をATMに3回入力するが,取引が停止される。
【事例2】では,甲が,Cから殴られた機会を利用してCを痛め付けようと考え,事情を告げずに粗暴な丙を連れてC方に出向く。
Cから一方的に殴られた丙は,甲の「俺がCを押さえるから、Cを殴れ。」との言葉を聞いて1回目の殴打をし,通り掛かった丁の「頑張れ。ここで待っているから終わったらこっちに来い。」との声掛けに発奮して2回目の殴打をする。
設問1は甲及び乙の罪責(盗品等に関する罪,建造物侵入罪及び特別法違反を除く。),設問2⑴は丙に正当防衛が成立すること,設問2⑵は丁の暴行罪の幇助犯と甲の暴行罪の共同正犯の成否を,誰を基準として正当防衛の成立要件を判断するか及び違法性の判断が共犯者間で異なることがあるかの結論・論拠と,両者の説明の整合性に触れながら論じさせる。
第4 評価項目と重み
1 設問1(甲の罪責)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| R1 | 甲の暴行による肋骨骨折等について傷害罪の成立を、構成要件の充足として簡潔に示している | 2 | 17頁・設問1⑴ア | 1頁・⑵ア |
| R2 | 傷害罪を長々と論じていない | 1 | 記載なし | 1頁・⑵ア |
| R3 | 問題の所在として、暴行時点では甲に財物奪取の意思がなかったことを指摘している | 4 | 18頁・設問1⑴イ | 1頁・⑵イ |
| R4 | 問題の所在として、「この財布はもらっておくよ」と申し向ける行為は、それ単体では反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫と認められないことを指摘している | 4 | 18頁・設問1⑴イ | 1頁・⑵イ |
| R5 | 自ら作出した反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合に強盗罪が成立するかを問題として示している | 5 | 18頁・設問1⑴イ | 1頁・⑵イ |
| R6 | 新たな暴行・脅迫の要否・程度について、反対の考え方(不要説等)を意識しつつ自説の論拠を明らかにして規範を定立している | 5 | 18頁・設問1⑴イ | 1~2頁・⑵イ |
| R7 | 新たな暴行・脅迫必要説(東京高裁昭和48年3月26日判決等)に立ち、その内容・程度を反抗抑圧状態を維持・継続させるもので足りるとする等の規範を示している(現場存在説・不要説も許容) | 5 | 18頁・設問1⑴イ | 1頁・⑵イ |
| R8 | 当てはめで、特殊詐欺グループを率いる甲とその配下のAという関係性に着目している | 3 | 記載なし | 2頁・⑵イ |
| R9 | 当てはめで、財物奪取の意思を生じる前の暴行・脅迫の程度が相当強度であったことに着目している | 3 | 記載なし | 2頁・⑵イ |
| R10 | 当てはめで、B公園に人気がなく午後8時頃という時間帯であったことに着目している | 3 | 記載なし | 2頁・⑵イ |
| R11 | 維持継続説に立つ場合に、新たな脅迫の該当性を「この財布はもらっておくよ」の行為について検討し、財物奪取の意思を生じる前の「持っているものを見せろ」を新たな脅迫として検討していない | 5 | 記載なし | 2頁・⑵イ |
| R12 | 強盗罪の成否を先に検討し、これを否定する場合に窃盗罪又は恐喝罪を検討している | 3 | 18頁・設問1⑴イ | 2頁・⑵イ |
| R13 | 強盗罪を肯定する場合に、その他の構成要件要素(強取・故意等)を簡潔に示している | 2 | 18頁・設問1⑴イ | 記載なし |
| R14 | 強盗の機会説を誤用して強盗致傷罪を成立させていない(傷害時点で強盗に着手していない) | 3 | 記載なし | 2頁・⑵イ |
| R15 | 監禁罪の共同正犯の成否は必ずしも検討する必要がない(典型場面でなく具体的監禁行為もない) | 1 | 記載なし | 2頁・⑵イ |
2 設問1(乙が暗証番号を聞き出そうとした行為)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| R16 | 乙の行為が強盗罪における脅迫(反抗を抑圧するに足りる程度)に該当することを認定している | 2 | 18~19頁・設問1⑵ | 2頁・⑵ウ |
| R17 | 暗証番号の聴取がなぜ「財産上不法の利益」の問題になるのか(情報・移転性・後続行為の必要等)まで踏み込んで問題の所在を示している | 4 | 18頁・設問1⑵ | 2頁・⑵ウ |
| R18 | キャッシュカードと暗証番号を併せ持つことで事実上ATMを通して預貯金の払戻しを受け得る地位という、財物の取得と同視できる程度に具体的かつ現実的な財産的利益を得るとする考え方(東京高裁平成21年11月16日判決)を示している | 5 | 18頁・設問1⑵ | 2~3頁・⑵ウ |
| R19 | 否定する考え方(具体的・現実的な利益とは認められない、暗証番号は移転性のある利益ではない等。原判決)を意識しつつ自説の論拠を明らかにしている | 4 | 19頁・設問1⑵ | 3頁・⑵ウ |
| R20 | 当てはめで、乙が暗証番号に係る本件カードを既に所持していることに着目している | 3 | 記載なし | 3頁・⑵ウ |
| R21 | Aが誤った番号を答え乙は財産上不法の利益を得ていないので、強盗(利得)未遂罪にとどまることを指摘している | 4 | 19頁・設問1⑵ | 3頁・⑵ウ |
| R22 | 否定説に立つ場合は、脅迫により暗証番号を答えさせた点に強要罪の成立を指摘している(許容分岐) | 2 | 19頁・設問1⑵ | 記載なし |
| R23 | 乙は既に本件カードを所持しており、本件カードを客体とする奪取罪を検討していない | 5 | 記載なし | 2頁・⑵ウ |
| R24 | 暗証番号を聞き出そうとした行為を不能犯の問題として検討していない | 1 | 記載なし | 3頁・⑵ウ |
| R25 | 乙の本件財布受領について承継的共同正犯を検討していない | 1 | 記載なし | 3頁・⑵ウ |
3 設問1(乙がATMで預金を引き出そうとした行為)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| R26 | 入力した数字が暗証番号と異なり事後的・客観的には引出し不能であった事情を指摘し、未遂犯か不能犯かを問題として示している | 5 | 19頁・設問1⑶ | 3頁・⑵エ |
| R27 | 未遂犯と不能犯の区別基準として、具体的危険説(行為時に一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎に一般人の立場から判断)又は修正された客観的危険説(仮定的事実の存在可能性)等の規範を示している | 5 | 19頁・設問1⑶ | 3頁・⑵エ |
| R28 | 未遂犯・不能犯の区別について、反対の考え方を意識しつつ自説の論拠を明らかにして規範を定立している | 5 | 19頁・設問1⑶ | 3~4頁・⑵エ |
| R29 | 当てはめで、番号が誤りであった事情は一般人が認識し得ず乙も認識していなかったので判断の基礎から除かれ、危険が認められる(又は、Aは見間違えたにすぎず正しい番号を聞き出すことは十分あり得た)とする | 3 | 19頁・設問1⑶ | 記載なし |
| R30 | ATM内の現金を管理する金融機関の占有を侵害するものとしている(名義人Aの占有としていない) | 2 | 記載なし | 4頁・⑵エ |
| R31 | 不能犯の問題としてではなく実行の着手の問題として危険性を検討していない | 2 | 記載なし | 4頁・⑵エ |
| R32 | 窃盗罪の構成要件要素の充足を簡潔に示し、窃盗未遂罪の成立を肯定している | 2 | 19頁・設問1⑶ | 記載なし |
4 設問2⑴(丙の正当防衛)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| R33 | 丙の1回目殴打・2回目殴打について、具体的事実を指摘して暴行罪の構成要件と正当防衛の成立要件の充足を示している | 3 | 19~20頁・設問2⑴ | 4頁・⑶ア |
| R34 | 正当防衛の成立を長々と論じていない(簡潔に示せば足りる) | 2 | 記載なし | 4頁・⑶ア |
5 設問2⑵①(丁の幇助犯)とア・イ
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| R35 | 丁の声掛けが丙を発奮させ2回目殴打を容易にした心理的幇助であることを簡潔に指摘している | 2 | 20頁・設問2⑵ | 4頁・⑶イ |
| R36 | 問題の所在として、正犯に正当防衛が成立し違法性が阻却される場合でも幇助犯が成立するかを示している | 4 | 20頁・設問2⑵ | 4頁・⑶イ |
| R37 | 誰を基準として正当防衛の成立要件を判断するかについて、結論と論拠を示している(例:幇助犯による対抗行為を観念できないので正犯基準、共同正犯は各人基準又は実行者基準) | 5 | 20頁・設問2⑵ | 4~5頁・⑶イ |
| R38 | 違法性の判断が共犯者間で異なることがあるかについて、結論と論拠を示している(制限従属性による連帯、最小従属性を前提とする相対化、人的違法要素等) | 5 | 20頁・設問2⑵ | 4~5頁・⑶イ |
| R39 | 幇助犯の成否について反対の考え方(最小従属性を前提に、背後者が不必要に緊急状況を作出した場合などは違法性阻却の効果を援用できないとする考え方等)を意識しつつ自説の論拠を示している | 5 | 20頁・設問2⑵ | 4頁・⑶イ |
| R40 | 援用不可の考え方に立つ場合、丁が不必要に緊急状況を作出したとは認められないことを当てはめている(許容分岐) | 1 | 20頁・設問2⑵ | 記載なし |
6 設問2⑵②(甲の共同正犯)と整合性
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| R41 | 甲が丙と暴行の共謀を遂げ、丙が実行行為に及んだことを簡潔に指摘している | 2 | 20頁・設問2⑶ | 5頁・⑶ウ |
| R42 | 共謀の成立・実行を長々と論じていない | 1 | 記載なし | 5頁・⑶ウ |
| R43 | 問題の所在として、実行行為者に正当防衛が成立する場合に背後者(共謀共同正犯)の正当防衛の成否をどう判断すべきかを示している | 4 | 20頁・設問2⑶ | 5頁・⑶ウ |
| R44 | 共同正犯者それぞれを基準に判断する論拠(共同した暴行と評価し人的違法要素で違法評価が異なる、又は共同正犯は従属関係にない)を示している | 4 | 20頁・設問2⑶ | 5頁・⑶ウ |
| R45 | 反対の考え方(現実に対抗行為を行った実行行為者を基準とし、違法性阻却の効果は背後者に連帯的に及ぶが、背後者が不必要に緊急状況を作出した場合は援用できない)を意識している | 5 | 21頁・設問2⑶ | 5頁・⑶ウ |
| R46 | 当てはめで、甲の積極的加害意思を示す具体的事実を認定して侵害の急迫性を否定している(最高裁昭和52年7月21日決定、最高裁平成29年4月26日決定) | 4 | 21頁・設問2⑶ | 5頁・⑶ウ |
| R47 | 事案を具体的に分析せずに積極的加害意思を認定して結論を導いていない | 2 | 記載なし | 5頁・⑶ウ |
| R48 | 丁についての説明と甲についての説明の整合性に触れている | 5 | 21頁・設問2⑶ | 5頁・⑶ウ |
| R49 | 最高裁平成4年6月5日決定(共同正犯者各人につき過剰防衛の要件を検討)を参照し、違法性の評価の相対化の余地に触れている | 1 | 21頁・設問2⑶ | 記載なし |
7 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| R50 | 規範定立に至る論述と当てはめを区別して記載している | 1 | 記載なし | 1頁・⑴ |
| R51 | 問題文が論じる必要がないとした罪名(盗品等・建造物侵入・特別法違反)を検討していない | 2 | 記載なし | 1頁・⑴ |
8 重みの分布
51項目の内訳は,重み5が14項目,重み4が9項目,重み3が8項目,重み2が12項目,重み1が8項目であり,重みの合計は162点である。
| 設問 | 項目数 | 重みの合計 | うち重み5 |
|---|---|---|---|
| 設問1(甲の罪責) | 15 | 49 | 4 |
| 設問1(乙・暗証番号) | 10 | 31 | 2 |
| 設問1(乙・ATM) | 7 | 24 | 3 |
| 設問2⑴(丙の正当防衛) | 2 | 5 | 0 |
| 設問2⑵(丁・甲,ア・イ,整合性) | 15 | 50 | 5 |
| 答案全体 | 2 | 3 | 0 |
| 計 | 51 | 162 | 14 |
問題文には設問ごとの配点が示されていない(第1問全体で100点)ので,上の重みの合計は配点の割合を示すものではない。
重み5の14項目は,R5・R6・R7・R11(甲の強盗),R18・R23(乙の暗証番号),R26・R27・R28(ATMの不能犯),R37・R38・R39・R45・R48(設問2⑵)であり,このうちR6・R28・R39・R45の4項目は,採点実感が「自説とは反対の考え方を意識しつつ自説の論拠を明らかにして規範を定立している答案」が少なかった(又はごく少数・ごく僅かであった)として高く評価した事項である(暗証番号の論点の同種の項目R19は,「比較的多く見られ」とされたので重み4とした。)。
R11・R23は,採点実感が「著しく低い評価」とした誤りを避ける「〜しない」の項目である。
他方,傷害罪の成立と正当防衛の成立は簡潔に示せば足り,幇助行為と共謀の認定は簡潔に指摘すれば足りるとされ,いずれも長々と論じる答案が指摘されているので,重み2又は1とした。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
基準時は試験実施日(令和6年7月13日)とし,条文は,e-Gov法令検索の法令API(時点指定)で取得した試験時点の刑法による。
試験時点の法定刑は「懲役」であり,拘禁刑(令和7年6月1日施行)ではない。
判例は,裁判所ウェブサイトの判決全文又は判例秘書の判決全文で,判示の文言を確認したものだけを答案に挙げた。
この模範解答は,まず出題の趣旨・採点実感を見ないで問題文だけから答案を作り,それを固定した後に公式資料と照合して作り直したものである。
本記事では,作り直した後の答案(完成版)を示している。
答案は約5000字であり,見出しは1→(1)→ア→(ア)の順とした。
括弧書きの判例は,いずれも判決全文で判示を確認したものである(第7の3)。
2 答案
1 設問1について
(1) 甲の罪責
ア 甲は、Aの頭部を拳で殴り、腹部を繰り返し蹴って肋骨骨折等の傷害を負わせたから、傷害罪(204条)が成立する。
イ 本件財布を取得した行為に強盗罪(236条1項)が成立しないか。
甲は、暴行の時点ではAの所持品を奪うつもりがなく、財物奪取の意思はなかった。
また、その後の「この財布はもらっておくよ。」との発言は、それ単体でみれば相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫とはいえない。
そこで、自ら作出した反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合にも強盗罪が成立するかが問題となる。
(ア) この点、反抗抑圧状態を利用すれば足り、新たな暴行・脅迫は不要とする考え方もある。
しかし、強盗罪が窃盗罪より重く処罰されるのは、財物奪取の手段として暴行・脅迫を用いる点にあるから、財物奪取の意思を生じた後の暴行・脅迫が必要である(判例同旨・東京高判昭和48年3月26日)。
もっとも、既に反抗を抑圧された被害者に対しては、わずかな言動でもその状態を維持・継続させる効果を持つから、反抗抑圧状態を維持・継続させるに足りる暴行・脅迫があれば足りると解する(判例同旨・大阪高判平成元年3月3日)。
(イ) 本問では、甲は特殊詐欺グループを率いる者であり、Aはその配下である。
甲は、午後8時頃、人のいないB公園で、「殺されたいのか。」と言いながらAの腹部を繰り返し蹴り、肋骨骨折等を負わせるという相当強度の暴行を加えた直後に、1メートルの距離で倒れたままのAに対し、「この財布はもらっておくよ。」と告げている。
このような関係と状況の下で、上位者である暴行の加害者から財布を取り上げる旨を告げられれば、拒めば再び暴行を受けるとAが受け取るのが通常であるといえる。
したがって、この発言は、逆らえば更に危害を加える旨を黙示に告知するものであり、Aの反抗抑圧状態を維持・継続させるに足りる脅迫といえる。
甲は「Aが恐怖で抵抗できないことを知りながら」これを告げており、故意もある。
甲は、この脅迫により、渡したくないというAの意思に反して、Aの手元にあった本件財布を自分のズボンのポケットに入れて自己の占有に移したから、「強取」したといえ、不法領得の意思も認められる。
(ウ) よって、強盗罪が成立する。なお、Aの傷害は強盗に着手する前の暴行によるものであるから、強盗致傷罪(240条)は成立しない。仮に新たな脅迫を否定すれば、窃盗罪(235条)又は恐喝罪(249条1項)の成否を検討することになる。
ウ 財布から現金を抜き取り乙に渡した行為は、強取した財物の処分にすぎず、別罪を構成しない。
エ 以上より、甲は傷害罪及び強盗罪の罪責を負い、両者は別個の行為によるから併合罪(45条前段)となる。
(2) 乙の罪責
ア 乙は、本件カードを手にして、Aの眼前にバタフライナイフの刃先を示しながら「死にたくなければ、このカードの暗証番号を言え。」と言っており、これはAの生命に危害を加える旨の告知として、反抗を抑圧するに足りる「脅迫」に当たる。
では、暗証番号を聞き出す行為は「財産上不法の利益」(236条2項)を得ようとする行為に当たるか。
暗証番号は情報にすぎず、聞き出してもAは番号を失わないうえ、現金を得るには別にATMで払い戻す行為が必要であることから、問題となる。
(ア) この点、暗証番号を聞き出しても財物の取得と同視できる程度に具体的かつ現実的な財産的利益を得たとはいえず、移転性のある利益でもないとして、強盗罪を否定し強要罪(223条1項)にとどめる考え方がある。
しかし、キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つ者は、ATMの機械的な本人確認を経るだけで迅速かつ確実に預金の払戻しを受けられ、事実上預金を支配するに等しい。
また、236条2項の罪は処分行為を要せず(判例同旨・最判昭和32年9月13日)、行為者が利益を得る反面で被害者が財産上の不利益を被る関係があれば足り、利益が直接移転する必要はない。
よって、キャッシュカードを所持する者が暗証番号を聞き出すことは、ATMを通して預金の払戻しを受け得る地位という財産上の利益を得ることに当たると解する(判例同旨・東京高判平成21年11月16日)。
(イ) 本問では、乙は甲から渡された本件カードを既に所持しており、付近のコンビニエンスストアのATMで直ちに払戻しを受け得る状況にあったから、暗証番号を得ればこの地位を取得する。他方、Aは預金の払戻しを受けられかねないという財産上の不利益を被る。
したがって、乙の行為は「財産上不法の利益」を得ようとする行為に当たる。
(ウ) もっとも、Aは本件カードを別のカードと見誤って異なる番号を答えたため、乙はこの地位を得ていない。
よって、乙には強盗未遂罪(243条・236条2項)が成立する。
イ 乙がATMに本件カードを挿入して番号を入力した行為は、ATM内の現金を管理する金融機関の意思に反してその占有を移転させようとするものであるから、窃盗罪(235条)の実行行為に当たる。
もっとも、入力した番号は本件カードの暗証番号と異なり、事後的・客観的には預金を引き出せない状況にあったから、不能犯として不可罰とならないかが問題となる。
(ア) この点、結果が発生しなかった原因を科学的に解明し、結果を生じさせる仮定的事実が存在し得たかを一般人の立場から事後的に判断する考え方もある。
しかし、刑法は行為時の一般人に向けた行為規範であり、未遂犯の処罰根拠は行為時の一般人からみた結果発生の危険にある。
よって、行為時に一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎に、一般人の立場から危険性があると判断されれば未遂犯が成立すると解する(具体的危険説)。
(イ) 本問では、Aが脅されて答えた4桁の数字が本件カードの暗証番号と異なることは、一般人が認識し得たとはいえず、乙も「ボタンを押し間違えた」と思っていたから、この事情は判断の基礎から除かれる。
そうすると、他人のキャッシュカードを使ってATMから預金を引き出そうとする乙の行為には、一般人の立場から、金融機関の意思に反して現金の占有が乙に移転する危険がある。
なお、事後的に仮定的事実の存在可能性を判断する考え方によっても、Aは暗がりで別のカードと見誤ったにすぎず、正しい番号を聞き出すことは十分あり得たから、結論は同じである。
(ウ) よって、乙には窃盗未遂罪(243条・235条)が成立し、3回の入力は包括して一罪となる。
ウ 以上より、乙は強盗未遂罪及び窃盗未遂罪の罪責を負い、両者は被害者(Aと金融機関)と時間・場所を異にする別個の行為によるから併合罪(45条前段)となる。
2 設問2(1)について
丙の1回目殴打及び2回目殴打は、Cの顔面を拳で殴る有形力の行使として暴行罪(208条)の構成要件に該当するが、正当防衛(36条1項)が成立する。
まず、Cは丙の顔面を一方的に数回殴って転倒させ、各殴打の直前にもなお殴りかかっていたから、「急迫不正の侵害」があり、丙は話合いに付いて行くとしか聞かされておらず侵害を予期していなかったから、丙にとって急迫性も認められる。
丙は、1回目殴打は「身を守るためには」やむを得ないと考え、2回目殴打は丁の言葉に発奮しつつも「身を守るために」行っており、攻撃的意思が併存しても防衛の意思は否定されない(判例同旨・最判昭和50年11月28日)から、防衛の意思も認められる。
そして、素手で数回殴打したCに対し、丙は素手で各1回殴ったにとどまり、Cに傷害も生じていないから、防衛手段として相当性がある(判例同旨・最判昭和44年12月4日)。
3 設問2(2)について
(1) 前提(ア・イ)
思うに、違法性は、法益侵害に加え、侵害の予期と積極的加害意思、防衛の意思といった各行為者に固有の人的違法要素も加味して判断されるから、イ違法性の判断は共犯者間で異なり得ると解する。
もっとも、アの基準者は関与形態により異なる。
共同正犯は、「すべて正犯とする」(60条)とされ、一方が他方に従属する関係になく、実行行為者の行為も各共同正犯者にとって共同した暴行と評価されるから、各共同正犯者を基準に正当防衛の成立要件を判断する(最決平成4年6月5日は過剰防衛について同旨)。
これに対し、幇助犯は自ら対抗行為を行うものではなく、「正犯を幇助した」(62条1項)とあるとおり正犯の行為を介して法益を侵害するにすぎないから、正犯を基準に判断し、正犯の行為が構成要件に該当し違法であることを要する(制限従属性説)。
(2) ①丁の罪責
丁の「頑張れ。ここで待っているから終わったらこっちに来い。」との声掛けは、反撃しようとしていた丙を発奮させて2回目殴打を心理的に容易にしたから、幇助行為に当たる。
もっとも、正犯丙の2回目殴打には正当防衛が成立して違法性が阻却されるところ、それでも丁に幇助犯が成立するかが問題となる。
この点、共犯の成立には正犯の構成要件該当性で足り、背後者が不必要に緊急状況を作出した場合などには違法性阻却の効果を援用できないとする考え方もある。
しかし、適法な行為に加功した者を処罰するのは、正犯を介して法益を侵害するという幇助犯の処罰根拠を超えるから、正犯の違法性阻却の効果は幇助犯にも及ぶと解する。
本問では、正犯丙を基準とすれば正当防衛が成立し、その違法性阻却の効果は幇助犯である丁にも及ぶ。丁が「Cが先に丙を殴った事実を知らないまま」面白がって声を掛けたことは、この結論を左右しない。
なお、援用を否定する考え方に立っても、偶然通り掛かった丁が不必要に緊急状況を作出したとはいえず、結論は同じである。
よって、丁に暴行罪の幇助犯(62条1項・208条)は成立しない。
(3) ②甲の罪責
ア 甲は丙に「俺がCを押さえるから、Cを殴れ。」と言い、これを聞いた丙が1回目殴打に及び、2回目殴打も同一の侵害に対するものであるから、甲は丙と暴行の共謀を遂げ、丙がこれに基づき実行したといえる。甲は自ら計画してCを痛め付けようとしていたから正犯意思もある(60条・208条)。
イ もっとも、実行行為者丙に正当防衛が成立する場合に、背後者である甲の正当防衛の成否をどのように判断すべきかが問題となる。
この点、共謀者が対抗行為をすることは観念し難いとして実行行為者を基準とし、違法性阻却の効果は背後者にも連帯的に及ぶのが原則だが、背後者が自ら不必要に緊急状況を作出した場合には援用できないとする考え方もある。
しかし、前述のとおり、共同正犯は従属関係になく、各人に固有の人的違法要素で違法評価が分かれ得るから、甲自身を基準に判断すべきと解する。
本問では、甲は、粗暴なCから殴られるかもしれないと予期した上で、「むしろその機会を利用してCに暴力を振るい、痛め付けよう」と考え、Cにやり返させるために粗暴な丙を事情を告げずに連れて行き、Cを電話で呼び出し、Cが出て来ると「事前に予想していたとおり」と考えて後方に下がり、丙に殴打を指示している。
甲は、単に予期された侵害を避けなかったにとどまらず、その機会を利用し積極的に加害行為をする意思で侵害に臨んだといえるから、甲にとって侵害の急迫性を欠く(最決昭和52年7月21日、最決平成29年4月26日参照)。
したがって、甲に正当防衛は成立しない。なお、実行行為者を基準とする考え方によっても、喧嘩闘争目的で丙を赴かせて丙とCの衝突状況を不必要に作出した甲は違法性阻却の効果を援用できないから、結論は同じである。
ウ よって、甲には暴行罪の共同正犯(60条・208条)が成立し、2回の殴打は包括一罪となる。
(4) ①と②の整合性
①で幇助犯を否定し②で共同正犯を肯定したのは、イの違法の相対性を前提としつつ、アの基準者が関与形態により異なるからである。
すなわち、自ら対抗行為を行わず正犯に従属する幇助犯は、正犯を基準とし正犯の違法性阻却が連帯的に作用するのに対し、従属関係にない共同正犯は、各人を基準とし固有の人的違法要素により違法評価が相対化する。
したがって、両者の結論は矛盾しない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案は,第4の書くべき事項37項目のうち,本答案が採らなかった考え方に立った場合にだけ求められる2項目(R22・R40)も,反対の考え方の帰結として1文ずつ示した。
書くと評価が下がる14項目は,いずれも避けている。
とくに,監禁罪の共同正犯(R15)は,採点実感が必ずしも検討する必要はなかったとしているので書かず,「持っているものを見せろ」との発言は,強盗の新たな脅迫として検討すると著しく低い評価になる(R11)ので,答案では取り上げていない。
(2) 設問1:問題の所在を2点で示す
甲の強盗罪では,暴行の時点で財物奪取の意思がなかったことと,「この財布はもらっておくよ。」という発言はそれだけでは反抗を抑圧するに足りる脅迫とはいえないことの2点を,問題提起の段で示すことが求められている(R3・R4)。
発言の弱さを当てはめの「確かに」で触れるだけでは,なぜ問題になるのかが伝わりにくい。
当てはめでは,採点実感が挙げる3つの事情(甲とAの上下関係,先行する暴行の強さ,人のいない公園と午後8時頃という時間帯)をすべて使った(R8~R10)。
乙が暗証番号を聞き出そうとした行為では,暗証番号が情報にすぎないこと,Aは番号を失わないこと,現金を得るには別にATMで払い戻す行為が要ることから問題となる,と問題の所在を具体的に示した(R17)。
肯定説(東京高裁平成21年11月16日判決)に立ち,乙がカードを既に所持していることに着目して利益性を肯定し,Aが誤った番号を答えたので強盗未遂罪にとどまるとした(R20・R21)。
この段階は,脅迫の時点では正しい番号を聞き出す危険が明らかにあったので,不能犯の問題として論じる必要はない(R24)。
ATMの操作では,入力した番号が誤っていて事後的・客観的には引き出せなかった事情を示した上で,未遂犯か不能犯かを問題とし(R26),具体的危険説に立った。
番号が誤りであることは一般人も乙も認識できなかったので判断の基礎から除かれ,危険が認められる。
仮定的事実の存在可能性を事後的に判断する考え方によっても,Aは見誤ったにすぎないので結論は同じである(R27~R29)。
占有を侵害される者は,名義人Aではなく,ATM内の現金を管理する金融機関である(R30)。
(3) 設問2:基準者を関与形態ごとに書き分ける
出題の趣旨は,丁(幇助犯)については,幇助犯による対抗行為は観念しにくいとして正犯を基準とする考え方を,甲(共謀共同正犯)については,共同正犯は一方が他方に従属しないとして各人を基準とする考え方と,実行行為者を基準としつつ背後者が自ら不必要に緊急状況を作出した場合には違法性阻却の効果を援用できないとする考え方を,それぞれ例示している(R37・R39・R44・R45)。
答案は,違法性は人的違法要素を加味して判断されるので共犯者間で異なり得るとした上で(イ),基準者は関与形態によって異なる(ア)として,丁は正犯丙を基準に正当防衛の効果が及び,甲は甲自身を基準に積極的加害意思により急迫性を欠く,と書き分けた。
こうすると,①(丁は不成立)と②(甲は成立)の結論が分かれる理由を,基準者の違いとして一つの軸で説明できる(R48)。
なお,最高裁平成4年6月5日決定は,共同正犯の一人に過剰防衛が成立しても他の共同正犯者に当然には成立しないとしたものであり,過剰防衛に限った判断である。
出題の趣旨は,同決定が共同正犯者それぞれで違法性の評価が相対化する余地を残していることも参考になるとしている(R49)。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
答案は,乙の強盗未遂罪と窃盗未遂罪の関係を,被害者(Aと金融機関)と時間・場所が異なることから併合罪としたが,公式資料は罪数に触れておらず,この点を直接判断した裁判例は確認できていない。
出題の趣旨が維持継続説の例として挙げる大阪高裁平成元年3月3日判決は,財物奪取以外の目的で反抗を抑圧した後に財物奪取の意思を生じた場合について,強盗の手段としての暴行・脅迫を要するとしつつ,その程度は自己の先行行為によって作出した反抗抑圧状態を継続させるに足りるもので十分であるとしており,答案の規範に判例として付した。
(5) 答案作成上の重要点
本問の答案作成上の重要点は,次のとおりである。
① 論点を指摘する前に,原則どおりでは要件を満たさない理由を問題文の事実で示す(甲の強盗では2点,ATMでは事後的・客観的な不能)。
② 学説が分かれる論点では,反対の考え方を1~2文で示し,自説の論拠を明らかにしてから規範を立てる(採点実感がほぼ全論点で求めている。)。
③ 反対説を採った場合の帰結(暗証番号の利益性を否定すれば強要罪,強盗を否定すれば窃盗罪又は恐喝罪)まで書く。
④ 結果が生じなかった原因を,行為の段階ごとに確定する(暗証番号の聴取は相手方の誤答による未遂,ATMの操作は誤った番号による不能犯の問題)。
⑤ 強盗の機会説を,強盗に着手する前の傷害に当てはめない(強盗致傷罪は成立しない。)。
⑥ 「誰を基準として」という問いには,関与形態(共同正犯・幇助犯)ごとに基準者と論拠を書き分け,その違いで結論の違いを説明する。
⑦ 結論が指定された正当防衛の成立,幇助行為及び共謀の認定は簡潔にし,字数を理論の対立と事実の評価に回す。
⑧ 問題文が除外した罪名(盗品等・建造物侵入・特別法違反)や,検討を要しない罪名(監禁罪,カードを客体とする奪取罪,承継的共同正犯)を書かない。
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⑤共同正犯・幇助犯と正当防衛―急迫性・防衛意思を関与者ごとに判断する方法
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
法務省「令和6年司法試験問題」のうち論文式試験問題集[刑事系科目]
法務省「令和6年司法試験の結果について」のうち論文式試験出題の趣旨(刑事系科目第1問は17頁~21頁)
法務省「令和6年司法試験の採点実感」のうち刑事系科目(第1問は1頁~6頁)
法務省「令和6年司法試験の実施日程等について」
2 法令
刑法(明治40年法律第45号)36条,60条,62条,204条,208条,223条,235条,236条,240条,243条,249条(e-Gov法令検索。令和6年7月時点の条文を法令APIの時点指定で確認した。)
3 裁判例
最高裁昭和32年9月13日判決(刑集11巻9号2263頁)(裁判所ウェブサイト)
最高裁昭和44年12月4日判決(刑集23巻12号1573頁)(裁判所ウェブサイト)
最高裁昭和50年11月28日判決(刑集29巻10号983頁)(裁判所ウェブサイト)
最高裁昭和52年7月21日決定(刑集31巻4号747頁)(裁判所ウェブサイト)
最高裁平成4年6月5日決定(刑集46巻4号245頁)(裁判所ウェブサイト)
最高裁平成29年4月26日決定(刑集71巻4号275頁)(裁判所ウェブサイト)
東京高裁昭和48年3月26日判決(高刑集26巻1号85頁)(裁判所ウェブサイト)
大阪高裁平成元年3月3日判決(昭和63年(う)第1051号,判例秘書の判例番号 L04420089)(裁判所ウェブサイト未掲載)
東京高裁平成21年11月16日判決(平成21年(う)第1215号,判例秘書の判例番号 L06420849)(裁判所ウェブサイト未掲載)
4 確認状態
(1) 公式資料と一次資料の区別
| 事項 | 公式資料の記載 | 一次資料による確認 |
|---|---|---|
| 新たな暴行・脅迫必要説 | 東京高裁昭和48年3月26日判決を挙げる | 裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した |
| 維持継続説 | 大阪高裁平成元年3月3日判決を挙げる | 判例秘書の判決全文で確認した(裁判所ウェブサイト未掲載) |
| 暗証番号と財産上の利益 | 東京高裁平成21年11月16日判決を肯定説,その原判決を否定説として挙げる | 判例秘書の判決全文で確認した。判決は,キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つことはそれ自体財産上の利益であり,利益が直接移転する必要はないとした。出題の趣旨が肯定説の定式とする「財物の取得と同視できる程度に具体的かつ現実的な財産的利益」という言い回しは,判決中では原判決(否定)と検察官の主張に現れる。また,同事件はカードの窃取が完了していなかった事案である |
| 積極的加害意思と急迫性 | 最高裁昭和52年7月21日決定・最高裁平成29年4月26日決定を挙げる | 裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した |
| 共同正犯と過剰防衛 | 最高裁平成4年6月5日決定を参考として挙げる | 裁判所ウェブサイトの判決全文で確認した(引用部分の文言は判決本文と一致する。) |
| 強盗致傷罪が成立しないこと | 採点実感が,強盗に着手する前の傷害であるとして指摘する | 刑法240条(試験時点)の文言と強盗の機会の考え方から妥当である |
(2) 残る未確認事項
| 事項 | 状態 | 結論への影響 |
|---|---|---|
| 乙の強盗未遂罪と窃盗未遂罪の罪数 | 公式資料に記載がなく,直接の裁判例も未確認 | 小さい(併合罪とした。包括一罪とする余地もある。) |
| 監禁罪の成否 | 採点実感は検討不要とする | なし(答案では扱わない。) |