第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和6年司法試験の論文式試験のうち,公法系科目第2問(行政法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。
本問は,都市再開発法に基づく組合施行の第一種市街地再開発事業について,隣接市の法制課訟務係長(弁護士)の立場から,事業計画の変更の認可の処分性(設問1⑴),その違法性(設問1⑵)及び後行の権利変換処分の取消訴訟における違法性の承継(設問2)を検討させるものである。
公式資料から抽出した評価項目は52項目(うち「〜しない」の形の項目が18)であり,令和7年度の記事と同じ5段階で重み付けをした。
重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,事業計画の法的効果のうち30日以内の選択を余儀なくされること,事業計画(組合設立認可)により権利変換処分を受けるべき地位に立たされること,事業計画の変更によるその地位の直接的な変動,「軽微な変更」に当たらないこと,違法性の承継を否定する論拠と肯定する論拠を挙げた上での肯定の立論,及び実体法的観点の肯定論拠の6項目である。
本記事の作成過程では,まず公式資料を見ずに模範解答を作り,その後に公式資料と照合した。
その照合で明らかになった主な誤りは,権利変換処分の段階で争うと事情判決がされ得ることを処分性の論拠にしたこと(採点実感が論拠にならないと明言している。),及び違法性の承継の手続法的観点を原告個人の事情で論じたこと(採点実感は制度的・類型的に考察すべきとしている。)であり,第5の模範解答はこれらを改めたものである。
第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,本問の出題の趣旨(公法系科目〔第2問〕の部分)又は採点実感(公法系科目第2問の部分)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,PDFの頁と見出し番号(採点実感の「3⑴」は「3 答案に求められる水準」の⑴を,「4⑵」は「4 採点実感」の⑵を指す。)で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」と表示した。
採点実感が誤り又は不十分とした答案の書き方は,「〜しない」の形の項目にして,同じ5段階の中で重みを付けた。
公式資料の文章は,評価の強さを示す短い語句を除いて引用せず,根拠となる記述の趣旨を要約して示している。
この評価項目は法務省の公式の採点基準ではなく,本記事が公式資料から独自に抽出したものである。
2 5段階の重み付けの基準
重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
①重み5:答案の骨格そのもの,又は採点実感が評価の分かれ目とした事項(採点実感が「ほとんどなかった」「皆無に近く」「多かった」等と多くの答案の不足を述べ,出題の趣旨も検討を求めるもの)
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け,優秀な答案の特徴,又は評価を大きく下げる誤り
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項
第3 本問の概要
Q県R市のB地区(約2万平方メートル)では,平成28年3月1日にQ県知事の組合設立認可を受けてB地区市街地再開発組合が設立されたが,事業は停滞していた。
令和4年,R市は,B地区から河川を越えた対岸にある約2千平方メートルの空き地(C地区)を施行区域に編入する都市計画の変更をした。
C地区の周辺からB地区側へは橋が架かっておらず,C地区の土地は全て,B地区の組合員でもあるEが所有していた。
B地区組合は,C地区を施行地区に編入して公園とし,再開発ビルの設計の概要はそれ以外変更しないという事業計画の変更の認可を申請した。
Q県は,これが「軽微な変更」に当たるとして法16条の縦覧・意見書提出手続を行わず,令和5年3月6日に変更を認可して公告した(本件事業計画変更認可)。
同年9月上旬の権利変換計画の縦覧で,C地区の編入により権利床に変換されるべき宅地の総面積が増え,自己の権利床が減ったことを知ったB地区の宅地所有者Dは,同年10月10日の権利変換処分について,令和6年4月7日に取消訴訟を提起した。
設問1⑴は,本件事業計画変更認可の処分性を肯定する論拠を,施行地区内の宅地の所有者等の権利義務又は法的地位に対する法的効果を明らかにした上で検討させる。
設問1⑵は,本件事業計画変更認可が違法であることについてDがどのような主張をすることが考えられるかを,設問2は,Dが権利変換処分の取消訴訟で本件事業計画変更認可の違法性を主張できるかを,実体法的観点及び手続法的観点の双方から,B地区組合の反論を踏まえてDの立場から検討させる。
配点割合は,設問1⑴・設問1⑵・設問2が35:35:30である。
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴(本件事業計画変更認可の処分性)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 処分の定義(行訴法3条2項、最判昭39.10.29の基準又は法効果性等の要素)を示す | 3 | PDF3頁(〔第2問〕冒頭) | PDF7頁(4⑵(処分性の基準等)) |
| 2 | 組合設立認可は最判昭60.12.17と同様の考え方(事業施行権限を付与された強制加入団体の成立)で処分性を肯定し得るが、本件では強制加入団体が既に設立され新たな加入者もいないので、その根拠は使えないことを示す | 3 | PDF3頁(〔設問1〕⑴) | 記載なし |
| 3 | 最判平4.11.26・最大判平20.9.10を手掛かりにし、事案の違い(地方公共団体施行の第二種事業・土地区画整理事業の事業計画決定)と共通点(区域内の権利を強制的に異質なものに変える事業の出発点)を示す | 4 | PDF3頁(〔設問1〕⑴) | PDF5頁(3⑴(一応の水準)) |
| 4 | ①事業計画は施行地区を定め再開発ビルの設計を示すので、施行地区内の宅地所有者等の権利への影響を一定の限度で具体的に予測できる | 4 | PDF3頁(〔設問1〕⑴①) | PDF7頁(4⑵(全体について)) |
| 5 | ②組合設立認可が公告されると権利変換手続が開始され、申出者を除き特段の事情のない限り権利変換処分が当然に行われる | 3 | PDF3頁(〔設問1〕⑴②) | 記載なし |
| 6 | ③宅地所有者等は公告の日から30日以内に、金銭給付を受けて転出するか権利を取得するかの選択を「余儀なくされる」 | 5 | PDF3頁(〔設問1〕⑴③) | PDF8頁(4⑵(処分性を肯定する根拠)) |
| 7 | ④よって組合設立認可(事業計画)により宅地所有者等は権利変換処分を受けるべき地位に立たされ、法的地位に直接的影響が生じる=まず組合設立認可の処分性を事業計画の法的効果から基礎付ける | 5 | PDF3頁(〔設問1〕⑴④) | PDF5頁(3⑴(一応の水準)) |
| 8 | 事業計画変更認可は④で成立した権利・法的地位を直接的に変動させる直接的(個別具体的)法的効果を持つ(記載事項→当初認可の効果→変更認可による変化の順) | 5 | PDF3頁(〔設問1〕⑴) | PDF7頁(4⑵(全体について)) |
| 9 | 編入を伴う変更では、71条5項により変更認可の公告の日が申出期間の新たな起算日となる | 4 | PDF3頁(〔設問1〕⑴) | PDF5頁(3⑴(良好)) |
| 10 | 設計の概要を変えずに施行地区が拡大されるため、個々の組合員に割り当て得る権利床の面積が変化する | 4 | PDF3頁(〔設問1〕⑴) | PDF5頁(3⑴(良好)) |
| 11 | 法38条2項が変更認可にも原則として事業計画認可と同等の参加手続と公告を定めていることを処分性の論拠として指摘 | 3 | 記載なし | PDF5頁(3⑴(優秀)) |
| 12 | 法66条の建築行為等の制限は直接の根拠ではなく、事業の実現(手続の進行)の確実性を高める事情として言及 | 4 | PDF4頁(〔設問1〕⑴なお書き) | PDF5頁(3⑴(優秀)) |
| 13 | 権利変換の段階の取消訴訟で事情判決がされる可能性を,処分性を肯定する論拠にしない(工事は権利変換・明渡しの後に着手され,平成20年判決の土地区画整理事業と異なる) | 3 | 記載なし | PDF8頁(4⑵(処分性を肯定する根拠)) |
| 14 | 法71条の申出を「同認可により選択できる権利を得る」と捉えない(選択を余儀なくされる不利益として捉える) | 2 | 記載なし | PDF8頁(4⑵(処分性を肯定する根拠)) |
| 15 | 法66条の建築制限のみ,対象が組合員に限られることのみ,又は実効的救済のみを処分性の根拠にしない | 2 | 記載なし | PDF8頁(4⑵(平成20年判決について)) |
| 16 | 権利変換処分が財産権に及ぼす影響を論じて,変更認可の処分性を論じたことにしない | 2 | 記載なし | PDF8頁(4⑵(処分性を肯定する根拠)) |
| 17 | 「紛争の成熟性」「実効的な権利救済」を,本件に即さずお題目のように書かない | 2 | 記載なし | PDF8頁(4⑵(処分性を肯定する根拠)) |
| 18 | 処分性を事案固有の事情で論じない(処分性は根拠法令の解釈で決まる) | 2 | 記載なし | PDF8頁(4⑵(処分性の検討の仕方)) |
2 設問1⑵(本件事業計画変更認可の違法性)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | 法38条2項により変更認可の申請に法16条の縦覧・意見書手続が適用され、括弧書きの「政令で定める軽微な変更」なら不要という構造 | 4 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF5頁(3⑵(一応の水準)) |
| 20 | 本件変更は施行地区の変更を含み、施行令4条1項各号に施行地区の変更は列挙されていないので「軽微な変更」に当たらない(1号非該当。施行地区と設計の概要は並列する別個の概念=法7条の11第1項) | 5 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF7頁(4⑴(法解釈・基礎的知識等)) |
| 21 | 手続違反と処分の違法性の関係を検討し、手続の全面的不履践が変更認可を違法ならしめることを示す | 4 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF6頁(3⑵(良好)) |
| 22 | 法16条2項が意見書提出権者を事業に関係する土地の権利者に限ることから、手続は情報収集にとどまらず権利保護目的を持つ | 4 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF6頁(3⑵(優秀)) |
| 23 | 「重要な手続に瑕疵がある」ことはそれだけで取消事由。本件は権利保護手続の完全な不実施 | 3 | 記載なし | PDF6頁(3⑵(優秀)) |
| 24 | 第一種市街地再開発事業の都市計画決定に処分性がないこと、したがってその違法は後続処分の違法事由として主張し得ることを、問題の所在として明記 | 4 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF10頁(4⑶(都市計画基準違反と施行区域要件違反)) |
| 25 | 法2条の2第2項により都市計画決定された施行区域でのみ事業を実施し得るから、施行区域が違法に指定されれば事業計画も違法になる | 3 | 記載なし | PDF6頁(3⑵(良好)) |
| 26 | 都市計画法13条1項13号違反:C地区はB地区と河川で隔てられ、B地区側へ橋が架かっておらず、変更後の都市計画でも地理的接続は予定されていないから、一体的に開発・整備する必要があるといえない | 4 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF5頁(3⑵(一応の水準)) |
| 27 | 法3条4号違反:現況空き地のC地区を公園として整備しても活発な利用を見込めず、B地区と機能的に関連付けることも困難で、都市の機能の更新に貢献しない | 4 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF6頁(3⑵(一応の水準)) |
| 28 | 計画策定権者に裁量はあっても、法令上の基準(都計法13条1項13号・法3条各号)を満たす必要があり、本件はその違反を端的に指摘すれば足りる | 3 | PDF4頁(〔設問1〕⑵) | PDF7頁(4⑴(法解釈・基礎的知識等)) |
| 29 | 施行令4条1項2号(延べ面積の10分の1)をB地区・C地区の面積比に当てはめて「軽微な変更」としない | 3 | 記載なし | PDF9頁(4⑶(軽微な変更)) |
| 30 | 施行令4条1項を行政規則・裁量基準として扱わず,「軽微な変更」の該当性に裁量を認めない | 3 | 記載なし | PDF9頁(4⑶(法施行令第4条第1項の位置付け)) |
| 31 | 手続の不履践自体を違法として関係規定違反の検討を省かず,手続瑕疵が実体瑕疵に当たるかという問題設定をしない | 2 | 記載なし | PDF9頁(4⑶(手続法上の瑕疵)) |
| 32 | 都市計画基準・施行区域要件の検討で,裁量を長々と論じない(文言だけから裁量を肯定して濫用を論じない) | 2 | 記載なし | PDF10頁(4⑶(都市計画基準違反と施行区域要件違反)) |
| 33 | 都市計画基準と施行区域要件をまとめて判断せず,事実をいずれの基準で論じるかを誤らない | 2 | 記載なし | PDF10頁(4⑶(都市計画基準違反と施行区域要件違反)) |
| 34 | 法16条の手続違反・都市計画基準違反・施行区域要件違反のいずれの検討も落とさない | 2 | 記載なし | PDF9頁(4⑶(全体について)) |
3 設問2(違法性の承継)
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 35 | 平成21年判決の二要素(同一目的・相結合して初めて効果=実体法的観点、先行処分を争う手続的保障の不十分=手続法的観点)を踏まえる | 4 | PDF5頁(〔設問2〕) | PDF6頁(3⑶(一応の水準)) |
| 36 | 両観点について否定論拠と肯定論拠を挙げた上で、Dの立場から承継肯定の立論と結論 | 5 | PDF5頁(〔設問2〕) | PDF6頁(3⑶(良好)) |
| 37 | 実体法的観点の否定論拠:空間利用の態様の決定である事業計画と、その実現手法である権利変換は趣旨目的を異にする | 3 | PDF5頁(〔設問2〕実体法的観点) | 記載なし |
| 38 | 実体法的観点の肯定論拠:設計の概要は再開発ビルの各階平面図を含むなど事業の基本的内容が事業計画段階で定まり、権利変換処分はそれを個々の組合員に適用するもので、両者は一体として権利変換という法効果の実現に向けられる | 5 | PDF5頁(〔設問2〕実体法的観点) | PDF11頁(4⑷(実体法的観点)) |
| 39 | 手続法的観点の否定論拠(a):編入を伴う事業計画変更には申請前に宅地所有者等の3分の2以上の同意が必要(法38条2項・14条1項) | 3 | PDF5頁(〔設問2〕手続法的観点) | PDF11頁(4⑷(手続法的観点)) |
| 40 | 手続法的観点の否定論拠(b):事業計画変更の申請時の縦覧・意見書提出手続(法38条2項・16条)という制度上の手続保障 | 3 | PDF5頁(〔設問2〕手続法的観点) | PDF5頁(4⑷(手続法的観点)) |
| 41 | 手続法的観点の否定論拠(c):変更認可があると施行地区の変更内容が公告される(法38条2項・19条1項、規則11条3項2号) | 3 | PDF5頁(〔設問2〕手続法的観点) | PDF5頁(4⑷(手続法的観点)) |
| 42 | 手続法的観点の肯定論拠:事業計画は事業内容を客観的に示し権利変動の具体的内容は包括的には明らかでも、個々の宅地所有者等に与えられる権利床等の詳細は確定していない | 3 | PDF5頁(〔設問2〕手続法的観点) | 記載なし |
| 43 | 手続法的観点の肯定論拠:縦覧・意見書提出手続も変更認可の公告も、宅地所有者等に個別に通知する制度ではない | 3 | PDF5頁(〔設問2〕手続法的観点) | 記載なし |
| 44 | 手続法的観点の肯定論拠:権利侵害の重大性と比較すると、利害関係人への手続保障は後行処分段階での先行処分の違法主張を排除するに十分でない | 2 | PDF5頁(〔設問2〕手続法的観点) | 記載なし |
| 45 | 違法性の承継は個別事情に左右される論点ではなく、制度に内在する救済の必要性・許容性を、事業計画変更認可の制度一般を前提に論ずる | 3 | 記載なし | PDF6頁(3⑶(優秀)) |
| 46 | 公定力・出訴期間制度の趣旨や,出訴期間の徒過(日付)を長々と論じない | 2 | 記載なし | PDF10頁(4⑷(全体について)) |
| 47 | B地区組合の反論に触れないまま済ませず,違法性の承継を否定する結論にしない | 2 | 記載なし | PDF11頁(4⑷(全体について)) |
| 48 | 事業計画変更認可と権利変換処分の処分庁が同じかどうかを論じない | 1 | 記載なし | PDF11頁(4⑷(実体法的観点)) |
| 49 | 手続法的観点で,Dが不利益を認識できたかどうか等の個別的事情を論じない(制度的・類型的に考察する) | 3 | 記載なし | PDF11頁(4⑷(手続法的観点)) |
| 50 | Dが変更認可の取消訴訟を提起できたことを論拠にしない(取消訴訟を提起する機会を保障する手続が制度化されているかを論ずる) | 2 | 記載なし | PDF11頁(4⑷(手続法的観点)) |
| 51 | 法71条1項の申出手続を,変更認可の違法を争うための手続として挙げない | 2 | 記載なし | PDF11頁(4⑷(手続法的観点)) |
4 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 52 | 読替え規定・政省令への委任規定を正確に読み解き、適用条文を正確に特定する | 3 | PDF5頁(全体(末尾)) | PDF6頁(4⑴(全体的印象)) |
5 重みの分布
52項目の内訳は,重み5が6項目,重み4が12項目,重み3が19項目,重み2が14項目,重み1が1項目であり,重みの合計は164点である。
設問別では,設問1⑴が18項目・60点,設問1⑵が16項目・52点,設問2が17項目・49点,答案全体が1項目・3点であり,問題文の配点割合(35:35:30)とおおむね対応する。
重み5の6項目は,設問1⑴の選択を余儀なくされること,権利変換処分を受けるべき地位及び変更認可による地位の変動(番号6・7・8),設問1⑵の「軽微な変更」に当たらないこと(番号20),設問2の否定論拠・肯定論拠を挙げた上での肯定の立論と実体法的観点の肯定論拠(番号36・38)であり,いずれも出題の趣旨が検討の筋道として示し,かつ採点実感が多くの答案の不足を指摘した事項である。
「〜しない」の形の18項目は,採点実感が誤り又は不十分とした書き方を避ける項目であり,原則として重み2とし,採点実感が「非常に多く」「相当数」等と述べた誤り,又は処分性の論証を誤らせる誤りは重み3とした。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下の答案は,第4の評価項目をすべて満たすように作成したものであり,法制課訟務係長(弁護士)の立場で,試験の実施日(令和6年7月10日)の法令と,それまでに言い渡された判例を前提にしている。
条文は,e-Gov法令検索で試験の実施日の時点のものを確認した。
答案は,旧司法試験の時代から論文式答案で広く使われてきた型によっている。
見出しを「1」「(1)」「ア」の順に下げ,論点ごとに,問題提起(「〜に当たるか。」「〜が問題となる。」),規範の定立(「思うに,〜。よって,〜と解する。」),当てはめ(「本問では,〜といえる。」)及び結論(「よって」「したがって」「以上より」)の順に書き,反対の立場は「確かに,〜とも思える。しかし,〜。」の形で取り上げ,最後に「以上」と書く型である。
もっとも,本問の採点実感は,個別法の条文を丁寧に読んで制度の仕組みを把握することを強く求めているため,答案は,都市再開発法の条文の仕組みを示す部分に多くの字数を割いた。
答案中の「法」は都市再開発法を指す(問題文の定義による。)。
答案の括弧書きで示した判例は,裁判所ウェブサイトで実在と判示事項を確認したものに限った。
「判例同旨」は判例と同じ規範によるもの,「参照」は事案が異なるが判示の考え方を参考にしたものを示す。
ただし,会議録で示された最高裁昭和59年7月16日判決は裁判所ウェブサイトに掲載がなく,判決文を確認できなかったため,「会議録の」と付けて問題文の記載によることを示した。
字数は見出しを含めて約5,700字である。
実際の答案で分量を減らす場合は,重み5・重み4の評価項目に対応する部分を残し,その他の部分を短くすることになる。
2 答案
1 設問1(1)について
本件事業計画変更認可(以下「本件変更認可」という。)は,取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)に当たるか。
処分とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(判例同旨・最判昭和39年10月29日)。
そして,その該当性は,根拠法令の仕組み全体から,当該行為が国民の権利義務や法的地位にいかなる法的効果を及ぼすかによって判断される。
(1) 組合設立認可の法的効果
ア 組合設立認可は,事業施行権限を付与された強制加入団体(法20条1項)を成立させる行為であるから処分に当たる(最判昭和60年12月17日参照)。
しかし,本件変更認可によっては強制加入団体が新たに設立されるわけではなく,新たに加入させられる者もいない。
そこで,まず組合設立認可が強制加入以外の点でいかなる法的効果を持つかを確認し,次いで本件変更認可がその効果をどう変動させるかを検討する。
イ ところで,第二種市街地再開発事業や土地区画整理事業の事業計画の決定は処分に当たるとされている(最判平成4年11月26日,最大判平成20年9月10日参照)。
これらは地方公共団体の施行する事業の事業計画決定であって本件とは事案を異にするが,一定の区域内の土地の権利を,換地であれ権利変換であれ強制的に異質なものに変える事業の内容を示し,一連の事業の出発点となる点で本件の事業計画と共通するから,その考え方を参考にできる。
ウ 本問では,本件の事業計画は,施行地区を定め,設計の概要として再開発ビルの各階の平面図や断面図まで示すものである(法7条の11第1項)から,事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかを,一定の限度で具体的に予測できる。
そして,組合設立認可が公告されると(法19条1項),権利変換手続開始の登記がされ(法70条1項),権利変換を希望しない旨の申出の期間の経過後,遅滞なく権利変換計画が定められ(法72条1項),申出をした者を除き,特段の事情のない限り,権利変換処分が当然に行われる(法86条1項・2項)。
しかも,宅地所有者等は,公告の日から30日以内に,金銭の給付を受けて施行地区外へ転出するか,施設建築物に関する権利を取得するかの選択を余儀なくされる(法71条1項)。
また,公告後は施行地区内での建築行為等が許可制となる(法66条1項)が,これは事業の施行の障害を防ぐための制限であり,事業が事業計画のとおり確実に進行することを裏付ける事情である。
そうすると,宅地所有者等は,組合設立認可により,事業計画に従って権利変換処分を受けるべき地位に立たされるといえ,その法的地位に直接的な影響が生ずる。
(2) 本件変更認可の法的効果
ア 法は,事業計画の変更についても都道府県知事の認可を要求し(法38条1項),原則として当初の認可と同様に縦覧・意見書提出手続と公告を経るものとしている(同条2項・16条・19条1項)。
これは,変更認可が,当初の認可と同じく宅地所有者等の法的地位に影響を及ぼすことを前提とするものといえる。
イ 本件変更認可は,このようにして成立した宅地所有者等の権利変換処分を受けるべき地位の内容を,直接に変動させる。
すなわち,権利変換計画は施行地区ごとに定められ(法72条1項),宅地所有者には各宅地の価額の割合に応じた施設建築敷地の共有持分と,相互に不均衡が生じないよう定められる施設建築物の一部等(権利床)が与えられる(法76条3項・77条2項・3項)。
本件では,再開発ビルの設計の概要を変更しないままC地区を施行地区に編入して施行地区を拡大するから,本件変更認可によって,個々の組合員に割り当て得る権利床の面積が変化する。
ウ さらに,新たな施行地区の編入を伴う事業計画の変更の認可が公告されると,従前の施行地区内の宅地所有者を含め,その公告の日が改めて権利変換を希望しない旨の申出の期間の起算日となる(法71条5項・4項・1項,法施行規則11条3項5号)。
したがって,宅地所有者等は,変更後の事業計画を前提として,改めて30日以内に転出か権利取得かの選択を余儀なくされる。
(3) これに対し,事業計画の変更は事業の大枠を改めるにすぎず,具体的な権利の変動は権利変換処分によって生じるから,その段階で争えば足りるとの反論が考えられる。
しかし,前述のとおり,権利変換を受けるべき地位の内容は本件変更認可の時点で施行地区の拡大により直接変動し,選択の強制もその公告によって生ずるのであって,これらの効果は権利変換処分を待たずに生じている。
(4) よって,本件変更認可は,施行地区内の宅地所有者等の権利ないし法的地位に直接的な法的効果を及ぼすものとして,処分に当たる。
2 設問1(2)について
(1) 手続上の違法
ア 事業計画の変更の認可の申請があった場合には法16条が準用され,縦覧及び意見書提出手続を経なければならない(法38条2項)。
ただし,「政令で定める軽微な変更」はこの限りでないところ(同項括弧書き),本件ではQ県知事が軽微な変更に当たるとしてこれらの手続を行わなかった。
そこで,本件の変更が軽微な変更に当たるかが問題となる。
イ 軽微な変更は政令に委任されているから,その該当性は法施行令4条1項各号に当たるか否かによって判断される。
同項各号は,設計の概要,事業施行期間又は資金計画の変更を掲げるだけで,施行地区の変更を掲げていない。
そして,事業計画の内容として施行地区と設計の概要は並列する別個の事項である(法7条の11第1項)。
本件の変更は,公園の新設という設計の概要の変更だけでなく,C地区の編入という施行地区の変更を含む。
確かに,本件の変更は本件都市計画変更に伴うものであるから,「都市計画の変更に伴う設計の概要の変更」(同項1号)に当たるとも思える。
しかし,同号は設計の概要の変更を定めるもので,施行地区の変更を含まない。
また,同項2号は施設建築物の延べ面積の増減を基準とするもので,施行地区の面積とは関係がない。
むしろ,法38条2項は,法16条1項の「施行地区となるべき区域」を「施行地区及び新たに施行地区となるべき区域」と読み替えており,編入を伴う変更について縦覧を予定している。
したがって,本件の変更は軽微な変更に当たらず,法16条の手続を経ずにされた本件変更認可は,法38条2項・16条に違反する。
ウ 次に,この手続違反が本件変更認可を違法とするかが問題となる。
思うに,手続の違反は当然に処分の取消事由となるものではないが,処分の公正と関係者の権利保護を担う重要な手続を欠くことは,処分の結果の当否と別に,それ自体として処分の正当性を失わせる。
よって,重要な手続の瑕疵は,それだけで処分を違法とすると解する。
本件では,法16条2項は意見書を提出できる者を当該事業に関係のある土地等について権利を有する者等に限っているから,同条の手続は単なる情報収集にとどまらず,事業によって影響を受ける土地所有者等の権利保護を目的とする重要な手続である。
しかも,本件ではその手続が全く実施されていない。
よって,この瑕疵は本件変更認可を違法ならしめる。
(2) 実体上の違法
ア 第一種市街地再開発事業に関する都市計画決定は処分に当たらないとされている(会議録の最判昭和59年7月16日)から,本件都市計画変更の違法は,後続の処分である本件変更認可の違法事由として主張することになる。
組合は都市計画で定められた施行区域内の土地についてのみ第一種市街地再開発事業を施行することができる(法2条の2第2項)から,施行区域が違法に定められていれば,その区域を施行地区とする事業計画も違法となり,これを認可した本件変更認可も違法となる(法38条2項・17条2号・3号参照)。
イ 都市計画の決定権者は一定の裁量権を有するが,その裁量権は法令の定めに従って行使されなければならない。
第一種市街地再開発事業の都市計画は,都市計画基準(都市計画法13条1項13号)と施行区域の要件(法3条各号)を満たす必要があるから,本件都市計画変更がこれらに違反するかを検討する。
ウ 都市計画法13条1項13号は,市街地開発事業を「一体的に開発し,又は整備する必要がある土地の区域」について定めることを求める。
本問では,C地区はB地区と河川で隔てられ,C地区の周辺からB地区側へ橋が架かっておらず,B地区側からの人の流入も期待できない。
そして,本件の事業計画も公園の新設以外の変更を伴わないから,両地区を地理的に接続することも予定されていない。
したがって,C地区をB地区と一体的に開発し,又は整備する必要があるということはできず,本件都市計画変更は同号に違反する。
エ 法3条4号は,施行区域内の土地の高度利用を図ることが当該都市の機能の更新に貢献することを求める。
本問では,C地区は河川沿いの細長い空き地で,周辺の人通りも少なく,A駅方面へはかなりの遠回りを要する。
そのため,C地区を公園として整備しても活発な利用を見込むことはできず,橋のない対岸にあってB地区と機能的に関連付けることも困難である。
したがって,C地区を施行区域に加えることは,本件事業の施行地区及びその周辺の都市機能の更新に貢献するとはいえず,本件都市計画変更は同号の要件も満たさない。
オ よって,本件都市計画変更は違法であり,これを前提とする本件変更認可も違法である。
(3) 以上より,Dは,本件変更認可が手続上も実体上も違法であると主張することが考えられる。
3 設問2について
(1) Dは,本件取消訴訟において,先行処分である本件変更認可の違法を主張できるか,違法性の承継が問題となる。
思うに,取消訴訟の排他的管轄と出訴期間の制度は,行政上の法律関係を早期に安定させる趣旨であるから,先行処分の違法は,原則として後行処分の取消訴訟で主張できない。
しかし,先行処分と後行処分が同一の目的を達成するために行われ,両者が相結合して初めてその効果を発揮するものであり(実体法的観点),かつ,先行処分の適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられていない場合(手続法的観点)にまで,先行処分を争わなかった者に失権の不利益を負わせるのは相当でない。
よって,このような場合には,後行処分の取消訴訟において先行処分の違法を主張できると解する(最判平成21年12月17日参照)。
この判断は,個別の事情によってではなく,事業計画変更認可の制度一般を前提に行うべきである。
(2) 実体法的観点
ア B地区組合からは,事業計画は空間利用の態様を決定するものであり,権利変換はその実現手法にすぎないから,両者は趣旨・目的を異にするとの反論が考えられる。
イ しかし,本問では,事業計画のうち設計の概要は,再開発ビルの各階の柱・外壁・廊下・階段等の位置を示す平面図を含むなど,事業計画の段階で事業の基本的な内容が定められる。
そして,権利変換計画は事業計画が定めた施行地区ごとに定められ(法72条1項),各人の共有持分や権利床は,施行地区内の宅地の価額の割合と相互の均衡に従って配分される(法76条3項・77条2項)。
すなわち,権利変換処分は,事業計画で定められた事業の内容を個々の組合員に適用するものであり,事業計画の変更による施行地区の拡大の効果も,権利変換処分によって初めて個々の組合員の権利床の減少として現実化する。
そうすると,本件変更認可と本件権利変換処分は,一体として権利変換という法的効果の実現に向けられたものであり,同一の目的を達成するために行われ,相結合して初めてその効果を発揮するといえる。
(3) 手続法的観点
ア B地区組合からは,新たな施行地区の編入を伴う事業計画の変更には宅地所有者等の3分の2以上の同意が必要であり(法38条2項・14条1項),変更の申請があれば縦覧及び意見書提出手続が行われ(法38条2項・16条),変更認可があれば施行地区の変更の内容が公告される(法38条2項・19条1項,法施行規則11条3項2号)から,先行処分を争う手続的保障は十分であるとの反論が考えられる。
イ しかし,本問では,同意は3分の2以上の多数で足りるもので,反対する個々の権利者に先行処分の適否を争う機会を保障するものではない。
また,縦覧は公衆の縦覧であり,公告も施行地区の変更の内容や申出の期限を示すにとどまり,いずれも宅地所有者等に個別に通知する制度ではない。
さらに,事業計画は事業の内容を客観的に示すものであって,宅地所有者等に生ずる権利変動の内容は包括的には明らかになるものの,個々の宅地所有者等に与えられる権利床等の詳細は,権利変換計画で宅地の価額や与えられる施設建築物の一部等の明細が定められるまで確定しない(法73条1項3号・4号)。
そうすると,宅地所有者等が変更認可の段階で自己の権利への影響を具体的に把握してその適否を争うことは困難であり,不利益が現実化する権利変換処分の段階まで争訟を提起しないという判断も不合理とはいえない。
権利変換によって従前の土地の所有権が強制的に失われるという権利侵害の重大性と比較すれば,これらの手続保障は,後行処分の段階で先行処分の違法を主張することを排除するのに十分なものとはいえない。
(4) 以上より,実体法的観点及び手続法的観点のいずれからも違法性の承継が認められ,Dは,本件取消訴訟において,本件変更認可の違法性を主張することができる。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 設問1⑴(処分性)
出題の趣旨は,組合設立認可は昭和60年判決と同様の考え方で処分性を肯定できるが,本問では強制加入団体が既に設立されて新たな加入者もいないため,まず組合設立認可が強制加入以外の点でどのような法的効果を持つかを確かめ,次いで事業計画の変更の認可がその法的地位をどう変動させるかを論ずるという二段の筋道を示している(評価項目番号2・7・8)。
採点実感も,①事業計画に定められる事項,②事業計画とその認可による法的効果,③変更とその認可による法的効果の変化という順序で論じた答案はほとんどなかったとしている。
答案の1(1)がこの順序に当たる。
出題の趣旨は,平成4年判決(第二種市街地再開発事業)と平成20年判決(土地区画整理事業)は事案が異なるとしつつ,区域内の土地の権利を強制的に異質なものに変える事業の出発点という点で共通するから,両判決を手掛かりに論ずることを求めている(番号3)。
その論拠は,予測可能性,公告による手続の開始と権利変換処分が当然に行われること,30日以内の選択を余儀なくされること,権利変換処分を受けるべき地位の四つである(番号4〜7)。
採点実感は,法71条の申出を「選択できる権利を得る」と捉える答案では処分性を的確に肯定することが難しいとしている(番号14)。
答案は「選択を余儀なくされる」と書いた。
採点実感は,権利変換の段階で取消訴訟を提起しても事情判決がされる可能性が高いことを処分性の論拠とする答案が目立ったとした上で,本問では工事が権利変換と土地の明渡しの後に着手されるから平成20年判決の土地区画整理事業とは異なり,論拠にならないとしている(番号13)。
答案は,事情判決の可能性を論拠にしていない。
法66条の建築行為等の制限は,平成20年判決の多数意見では具体的な事業の施行の障害を防ぐための手段とされているから,処分性の直接の根拠ではなく,事業の確実な進行を裏付ける事情として触れるのが望ましいとされている(番号12,番号15)。
(2) 設問1⑵(違法性)
「軽微な変更」は政令に委任されているから,その該当性は都市再開発法施行令4条1項各号だけから判断される(番号20)。
採点実感は,本件の変更は施行地区の変更を含むのに1号(都市計画の変更に伴う設計の概要の変更)に当たるとした答案や,2号(施設建築物の延べ面積の10分の1)をB地区とC地区の面積比に当てはめた答案が非常に多かったとし(番号29),同項を行政規則や裁量基準であるかのように論じる答案にも驚いたとしている(番号30)。
手続違反については,関係規定に違反することを論じた上で,その違反が処分を違法とするかを別に論ずる必要がある(番号21,番号31)。
優秀な答案は,法16条2項が意見書を提出できる者を事業に関係のある土地の権利者等に限っていることから権利保護目的を導き,重要な手続の瑕疵はそれだけで取消事由になると論じ,本件では権利保護手続が全く実施されていないことを指摘している(番号22・23)。
都市計画の違法については,都市計画決定に処分性がないから後続の処分の違法事由として主張し得ることを問題の所在として明記することが求められ(番号24),法2条の2第2項により施行区域でのみ事業を施行できるから施行区域が違法なら事業計画も違法になるという接続の指摘は良好な答案の要素とされている(番号25)。
採点実感は,都市計画基準や施行区域要件を論ずる際に裁量について長々と論ずる答案が目立ったが,そのような論述は求められていないとし(番号32),二つの基準をまとめて判断する答案や,事実の振り分けを誤る答案も少なくなかったとしている(番号33)。
(3) 設問2(違法性の承継)
出題の趣旨は,平成21年判決の二つの観点のそれぞれについて,違法性の承継を否定する論拠と肯定する論拠を挙げた上で,肯定の立論をすることを求めている(番号35・36)。
実体法的観点の否定論拠は,空間利用の態様の決定である事業計画と,その実現手法である権利変換の趣旨・目的の違いであり,肯定論拠は,設計の概要が再開発ビルの各階の平面図を含むなど事業の基本的な内容が事業計画で定まり,権利変換処分はそれを個々の組合員に適用するものであることである(番号37・38)。
手続法的観点の否定論拠は,編入の際の宅地所有者等の3分の2以上の同意,縦覧・意見書提出手続及び施行地区の変更内容の公告という制度上の手続であり(番号39〜41),肯定論拠は,権利床等の詳細がまだ確定していないこと,縦覧も公告も個別に通知する制度ではないこと,及び権利侵害の重大性に比べて手続保障が十分でないことである(番号42〜44)。
採点実感によれば,制度上の手続を二つ以上挙げた答案は1割にも満たなかった。
採点実感は,違法性の承継は制度的・類型的に考察すべきであり,Dが不利益を認識できたかどうかなどの個別的事情を論ずる答案(番号49),Dが事業計画変更認可の取消訴訟を提起できたことを論拠とする答案(番号50),法71条1項の申出を事業計画変更認可の違法を争う手続として挙げる答案(番号51)を,いずれも的確でないとしている。
また,出訴期間の経過を日付を引いて長々と論ずることは全く無用とされている(番号46)。
答案の3(3)は,制度上の手続を一覧して評価し,Dの個別の事情は論拠にしていない。
(4) 処分性は判例の論理の段階を省略しない
採点実感は,最高裁判決が処分性を認めるために何を問題(ハードル)と考えて理由付けを示したかを理解していれば省略できないはずの理由付けを省略している答案が散見されたとしている。
計画の処分性では,予測可能性,後続処分が当然に行われること,現に生ずる不利益(選択の強制等),後続処分を受けるべき地位という段階を,根拠条文とともに一つずつ示す必要がある。
判例の理由付けを本件に移すときは,その理由が前提とする事実が本件の制度にもあるかを確かめる必要がある。
事情判決論は,工事が進んだ後に後続処分がされる土地区画整理事業では成り立つが,権利変換と明渡しの後に工事が着手される本問の制度では成り立たない。
(5) 委任規定と法定の基準は条文から端的に当てはめる
「軽微な変更」のように政令に委任された要件は,政令の各号の文言から判断し,裁量の問題にしない。
都市計画基準や施行区域要件のように法令が基準を定めている場合も,裁量を長々と論ずるのではなく,基準ごとに問題文の事実を振り分けて端的に当てはめる。
(6) 違法性の承継は制度一般で論ずる
違法性の承継の手続法的観点では,先行処分について法が予定する手続(同意,縦覧・意見書,公告,個別通知の有無)を一覧し,それが先行処分の適否を争う機会を保障するものかを評価する。
原告が不利益を知り得たか,誤解していたか,直接に取消訴訟を提起できたかといった個別の事情は,論拠にしない。
(7) 答案の弱点と扱わなかった事項
答案は,Q県の反論として,都市計画で定めた事項は意見書の対象とならないとする法16条2項ただし書の主張を取り上げていない。
この主張に対しては,施行区域は都市計画で定められるが,施行地区は事業計画で定められる別個のものであり,C地区を施行地区に含めるかどうかは事業計画の判断であると反論できる。
価額についての不服は,収用委員会への裁決申請(法85条)という別の手続があり,本問のDの不満は権利床の配分の前提となる施行地区の範囲に関するものであるから,答案では扱っていない。
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1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
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④令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑤令和7年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省「令和6年司法試験問題」の公法系科目の問題(PDF。第2問はPDF6頁〜14頁)
②法務省「令和6年司法試験の結果について」の「論文式試験出題の趣旨」(PDF。公法系科目〔第2問〕はPDF3頁〜5頁)
③法務省「令和6年司法試験の採点実感」の公法系科目(PDF。第2問はPDF5頁〜11頁)
④法務省「令和6年司法試験の実施日程等について」(公法系科目第2問の試験日=令和6年7月10日)
2 法令
都市再開発法(2条,2条の2第2項,3条4号,7条の11第1項,14条1項,16条,17条,19条1項,20条1項,38条,66条1項,70条1項,71条,72条1項,73条1項,76条,77条,85条,86条,87条1項),都市再開発法施行令4条1項,都市再開発法施行規則11条3項,都市計画法12条,13条1項13号,行政事件訴訟法3条2項,14条(いずれも試験の実施日の時点のもの)
3 裁判例
①最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決(昭和37年(オ)第296号,民集18巻8号1809頁)
②最高裁昭和59年7月16日第二小法廷判決(判例地方自治9号53頁。問題文の会議録の記載による。)
③最高裁昭和60年12月17日第三小法廷判決(昭和57年(行ツ)第128号,民集39巻8号1821頁)
④最高裁平成4年11月26日第一小法廷判決(昭和63年(行ツ)第170号,民集46巻8号2658頁)
⑤最高裁平成20年9月10日大法廷判決(平成17年(行ヒ)第397号,民集62巻8号2029頁)
⑥最高裁平成21年12月17日第一小法廷判決(平成21年(行ヒ)第145号,民集63巻10号2631頁)
4 確認状態
(1) 公式資料と一次資料の区別
評価項目と解説で「出題の趣旨は」「採点実感は」としている部分は,上記1の②③の記載の要約である。
これに対し,条文の内容は上記2の法令の原文で,判例の判示は上記3の裁判所ウェブサイトの記載で,本記事が別に確かめたものである。
公式資料の条文番号と判例の説明は,いずれも法令の原文及び判決文と食い違いがなかった。
答案の「同意は3分の2以上の多数で足り,反対する個々の権利者に先行処分を争う機会を保障しない」という部分は,公式資料に記載がなく,法14条1項の文言から本記事が導いたものである。
(2) 残る不明点
上記3の②の判決は裁判所ウェブサイトに掲載がなく,判決文を確認していない。
同判決が第一種市街地再開発事業に関する都市計画決定の処分性を否定したことは,問題文の会議録と出題の趣旨の記載による(同旨の下級審判決として,横浜地裁昭和57年2月24日判決(昭和53年(行ウ)第4号)の裁判要旨は裁判所ウェブサイトで確認した。)。
上記3の③の判決の掲載頁(1821頁)は,裁判所ウェブサイトの詳細画面に頁の記載がなく,同サイトでは確認できていない(巻・号は一致した。)。
出題の趣旨と採点実感のPDFには発行者の記載がなく,法務省のウェブページからのリンクによって同一性を確認した。
採点実感の一部は「権利変換計画認可」の取消訴訟と書いているが,本問の後行処分は権利変換処分(法86条2項)であり,本記事は趣旨が同じものと読んだ。