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平成26年10月の厚生労働省制度変更―教育訓練給付,最低賃金,厚生年金保険料率及び中国残留邦人等の配偶者支援の現在(AI作成)

第1 対象資料と4つの変更

厚生労働省の「厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年10月)について」は,平成26年9月26日に政策統括官付社会保障担当参事官室が公表した資料である。
同年10月に実施される変更のうち,国民生活に影響を与える事項として,雇用・労働関係2項目,年金関係1項目,援護関係1項目の計4項目を掲げている。
本記事は,令和8年(2026年)10月4日に,この資料の全項目とリンク先の資料を確認し,現在の法令及び公的資料と照合したものである。

約12年前の資料なので,掲げられた率や金額の多くは現在と異なる。
過去の賃金・保険料・給付を計算するときは当時の資料を使い,現在の相談では現行の条文と最新の公表資料を使う,という区別が実務上の出発点となる。

制度平成26年10月の内容令和8年10月4日現在
教育訓練給付専門実践教育訓練の受講費用の4割,就職等で2割追加(年48万円上限)。教育訓練支援給付金を創設(基本手当の半額,平成30年度までの暫定措置)専門実践は基本5割(年40万円),資格取得・就職で7割(年56万円),賃金上昇で8割(年64万円)。支援給付金は基本手当日額相当額の6割で,令和9年3月31日までに受講を開始した者が対象
最低賃金全都道府県で13円~21円の引上げ。全国加重平均780円令和8年度の答申では54円~65円の引上げ。全国加重平均1177円。令和8年10月1日から12月2日まで順次発効
厚生年金保険料率9月分から0.354%引上げ,17.474%平成29年9月分以後18.3%で固定
中国残留邦人等の支援特定配偶者に対する配偶者支援金の創設支援法15条。令和8年度の月額は4万6938円

第2 教育訓練給付は率と期限が変わった

1 平成26年改正の内容

提供資料は,平成26年3月に成立した改正雇用保険法により,同年10月1日から教育訓練給付制度が拡充されると説明している。
根拠となったのは雇用保険法の一部を改正する法律(平成26年法律第13号,同年3月31日公布)であり,雇用保険法60条の2の改正と附則11条の2の新設は,同法附則1条2号により同年10月1日に施行された。

当時の内容は,厚生労働大臣が指定する専門的・実践的な教育訓練(専門実践教育訓練)を受けた場合に受講費用の4割を給付し,資格取得等の上で就職したときは2割を追加する(給付上限は年間48万円)というものであった。
一般教育訓練給付金は受講費用の2割,上限10万円と紹介されている。
また,45歳未満の離職者が専門実践教育訓練を受講する場合に,訓練中,基本手当の半額を支給する教育訓練支援給付金が平成30年度までの暫定措置として創設された。

2 現在の給付率と上限

現行の雇用保険法60条の2第4項は,教育訓練給付金の額を,受講費用に「百分の二十以上百分の八十以下の範囲内において厚生労働省令で定める率」を乗じた額としている。
具体的な率と上限は雇用保険法施行規則101条の2の7及び101条の2の8が定めている。

専門実践教育訓練は,基本が受講費用の5割(年間上限40万円)である。
資格取得等の上で就職した場合は7割(年間上限56万円)となり,さらに賃金が5%以上上昇した場合は8割(年間上限64万円)となる。
8割の区分は令和6年法律第26号による改正で設けられ,令和6年10月1日以後に受講を開始した者に適用される。
一般教育訓練は2割(上限10万円),特定一般教育訓練は4割(上限20万円)で,資格取得等の上で就職した場合は5割(上限25万円)である。

平成26年当時の4割と2割(年48万円)という説明は,現在の給付額の計算には使えない。
受講者が給付を見込んで講座を選ぶ場合は,受講開始日を基準に,どの区分の率と上限が適用されるかを厚生労働省の教育訓練給付制度の案内で確認する必要がある。

3 教育訓練支援給付金は「半額」ではない

教育訓練支援給付金の額は,平成26年の創設時は基本手当日額に相当する額の5割であった。
その後,平成29年法律第14号による改正で平成30年1月1日から8割に引き上げられ,期限も延長された。
さらに,令和6年法律第26号による改正で,令和7年4月1日から6割に改められた。
同日より前に受講を開始した者には,従前の8割が適用される。

現行の雇用保険法附則11条の2第1項は,対象を「令和九年三月三十一日以前に」専門実践教育訓練等を開始した者で,「当該教育訓練を開始した日における年齢が四十五歳未満であるものに限る」としている。
期限は受講開始日で判定するので,令和9年4月以後に開始する訓練について支給を前提とした生活設計を立てることはできない。
確認日現在,e-Gov法令検索の改正履歴で見る限り,この期限を更に延長する改正は成立・施行されていない。

また,同条4項により,基本手当が支給される期間には教育訓練支援給付金は支給されない。
ハローワークインターネットサービスの教育訓練給付の案内も,6割であること,令和8年度末までの暫定措置であること,改正前に受講を開始した者は8割であることを示している。

4 受給要件で誤りやすい点

教育訓練給付金の支給要件期間は,雇用保険法60条の2第1項では原則3年以上である。
初めて受給する場合は附則11条により短縮され,専門実践教育訓練については同法施行規則附則24条により2年となる。
2回目以降は前回の受講開始日より前の期間を通算しないため,再度の受給には改めて期間を満たす必要がある。

離職後に受講する場合は,一般被保険者等でなくなった日から原則として1年以内に受講を開始する必要があり(同法60条の2第1項2号,同法施行規則101条の2の5),妊娠,出産,育児,疾病等による延長は最大20年である(同条)。
ただし,延長期間が4年を超える者は教育訓練支援給付金の対象外となる(同法施行規則附則25条)。
受講開始日前3年以内に教育訓練給付金の支給を受けたことがある場合は支給されないこと(同法60条の2第5項,同法施行規則101条の2の10)も,相談で確認しておくべき事項である。

在職者が無給の休暇を取って教育訓練を受ける場合は,令和7年10月1日に始まった教育訓練休暇給付金(同法60条の3)が別にある。
要件と失業給付への影響は,教育訓練休暇給付金の実務で整理している。

5 期限後の取扱いと受講中の離職・就職

教育訓練支援給付金の期限は,受講開始日で判定する。
雇用保険法附則11条の2第1項は,「令和九年三月三十一日以前に」教育訓練を開始した者について,「当該教育訓練を受けている日」のうち失業している日に支給するとしており,受講している日の側には期限を設けていない。
厚生労働省の雇用保険に関する業務取扱要領も,要件として受講開始日が令和9年3月31日以前であることを確認する形をとり,専門実践教育訓練給付金のリーフレット11頁も,修了見込みで受講している間はその教育訓練が終了するまで受給できるとしている。
したがって,令和9年3月までに開始した訓練であれば,同年4月以後の受講日についても修了まで支給されると読むのが条文の構造に沿う。

期限の延長は,確認日現在,決まっていない。
過去にも期限は平成31年3月31日,平成34年3月31日,令和7年3月31日,令和9年3月31日と延長されてきたが,いずれも期限の到来前に法改正で延長されたものである。
労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会では,令和8年9月4日の第211回部会の資料で「令和8年度末までの暫定措置の在り方」が論点とされているが,部会報告はまだ出ていない。
令和9年4月以後に訓練を始める予定の離職者には,延長を前提にした生活設計を勧めることはできない。

受講中に離職又は就職した場合の給付率は,受講開始日(基準日)の状況と修了後の就職の時期で決まる。
修了までは6か月ごとに受講費用の5割(年40万円まで)が支給される(雇用保険法施行規則101条の2の7第4号,101条の2の8第1項4号)。
7割の区分(同条5号)は,修了し,資格を取得等し,かつ,修了日の翌日から1年以内に一般被保険者等として雇用された者,又は修了日に被保険者として雇用されていて1年以内に資格を取得等した者が対象である。

受講中の経過給付率注意点
在職中に開始し,受講中に離職,修了後1年以内に再就職7割(賃金上昇で8割)開始日に被保険者なので教育訓練支援給付金は対象外。1年以内に就職しなければ5割のまま
離職中に開始し,修了後1年以内に就職7割(賃金上昇で8割)適用対象期間の延長が2年を超えた者は8割の対象外
在職のまま受講し,修了後1年以内に資格を取得等7割(賃金上昇で8割)賃金の比較の基準は受講開始日の前日を離職日とみなした賃金日額

8割の区分(同条6号)は,修了後に雇用された日(在職者は資格を取得等した日)から1年以内の「連続する六箇月間」の賃金から算定した賃金日額が,受講開始前の賃金日額の「百分の百五」以上となった者が対象である。
比較の基準は,受講開始日に在職していた者は開始日の前日を離職日とみなして算定した賃金日額,それ以外の者は開始日前の直近の離職に係る賃金日額である(同号ロ)。
申請期限は,7割の追加分が雇用された日の翌日から1か月以内,8割の追加分が雇用された日の翌日から6か月を経過した日から6か月以内である(同規則101条の2の13第6項,第7項)。
追加分の申請期限は短いので,修了時点で就職先と申請期限を管理しておく必要がある。

教育訓練支援給付金は,基本手当が支給される期間には支給されず(附則11条の2第4項),基本手当の受給を終えた後,2か月ごとに失業の認定を受けて支給される(同規則附則27条)。
教育訓練給付金や教育訓練支援給付金の支給を争った裁判例は,裁判所ウェブサイトの検索では見当たらなかった。

第3 最低賃金は年度と発効日で確認する

1 平成26年度の改定

提供資料が「報道発表資料」としてリンクする平成26年8月28日の厚生労働省報道発表「全都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」は,現在は厚生労働省のサイトから削除されている。
インターネットアーカイブの保存版によれば,同年度の答申額の全国加重平均は780円(前年度764円から16円の引上げ)で,最高は東京都の888円,最低は鳥取県,高知県,長崎県,熊本県,大分県,宮崎県及び沖縄県の677円であった。
同発表は,平成20年の改正最低賃金法施行後,初めてすべての都道府県で最低賃金と生活保護水準との乖離が解消される見込みであるとしている。
同発表の別紙によれば,大阪府は838円(19円の引上げ)で,平成26年10月5日発効の予定とされていた。

最低賃金法9条3項は,地域別最低賃金の考慮要素である労働者の生計費について,「生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」と定めている。
平成26年度の「乖離の解消」は,この規定を踏まえた評価である。

2 令和8年度の改定と発効日

令和7年度の全国加重平均は1121円であった。
同年度は発効日が遅れた県が多く,令和7年度地域別最低賃金改定状況では,群馬県が令和8年3月1日,秋田県が同月31日の発効となっている。

令和8年度については,中央最低賃金審議会が令和8年7月28日に目安を答申し,同年9月3日の厚生労働省報道発表で,全都道府県の地方最低賃金審議会の答申がそろったことが公表された。
答申額の全国加重平均は1177円(56円の引上げ)で,引上げ額は54円~65円,最高は東京都の1280円,最低は宮崎県の1085円である。

大阪府は1231円(54円の引上げ)で,令和8年10月1日に発効した。
他方,令和8年度の地域別最低賃金の全国一覧によれば,京都府は令和8年11月16日,岩手県及び熊本県は同年12月1日,沖縄県は同月2日の発効予定であり,確認日の時点で改定前の額が適用されている地域が残っている。
同一覧の表題は「答申された改定額」であり,異議の申出の状況等により発効日が変わることがあるので,個別の地域では各都道府県労働局の決定の公表で確認する必要がある。

3 過去の未払賃金を計算するとき

地域別最低賃金の改正の決定は,公示の日から起算して30日を経過した日(決定でそれより後の日を定めたときはその日)から効力を生ずる(最低賃金法14条2項)。
最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は,その部分について無効となり,最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる(同法4条2項)。

したがって,平成26年当時から現在までの賃金を点検する場合は,各年度の地域別最低賃金額と発効日を一覧にし,賃金計算期間を発効日の前後で分けて計算する必要がある。
平成26年度の大阪府であれば,平成26年10月5日以後の労働に838円が適用され,令和8年度は令和8年10月1日以後の労働に1231円が適用される。
年度の名称や,10月から改定されるという一般的な説明だけで発効日を決めてはならない。

月給を時間額に換算する方法,算入しない賃金及び固定残業代との関係は,最低賃金の引上げと固定残業代で扱っている。
令和7年度の改定は,同じ形式の令和7年10月の厚生労働省制度変更でも取り上げている。

4 平成26年度以降の推移と発効日の確認表

個別の事業場について過去の未払賃金を計算するには,都道府県ごとの各年度の額と発効日が必要である。
厚生労働省は,地域別最低賃金の全国一覧に「平成14年度から令和8年度までの地域別最低賃金改定状況」(Excel)を掲載しており,全都道府県の各年度の改定額と発効年月日を一覧できる。
同表から平成26年度以降の全国加重平均,大阪府及び東京都を抜き出すと,次のとおりである(括弧内は発効日。令和7年度と令和8年度は前記のPDF資料とも照合した。)。

年度全国加重平均大阪府東京都
平成26年度780円838円(平成26年10月5日)888円(平成26年10月1日)
平成27年度798円858円(平成27年10月1日)907円(平成27年10月1日)
平成28年度823円883円(平成28年10月1日)932円(平成28年10月1日)
平成29年度848円909円(平成29年9月30日)958円(平成29年10月1日)
平成30年度874円936円(平成30年10月1日)985円(平成30年10月1日)
令和元年度901円964円(令和元年10月1日)1013円(令和元年10月1日)
令和2年度902円964円(据置き)1013円(据置き)
令和3年度930円992円(令和3年10月1日)1041円(令和3年10月1日)
令和4年度961円1023円(令和4年10月1日)1072円(令和4年10月1日)
令和5年度1004円1064円(令和5年10月1日)1113円(令和5年10月1日)
令和6年度1055円1114円(令和6年10月1日)1163円(令和6年10月1日)
令和7年度1121円1177円(令和7年10月16日)1226円(令和7年10月3日)
令和8年度1177円1231円(令和8年10月1日)1280円(令和8年10月1日)

表から分かるとおり,令和2年度は大阪府及び東京都とも改定されず,前年度の額が据え置かれた。
発効日は都道府県ごとに異なり,同じ年度でも大阪府と東京都で一致しない年がある。
したがって,改定のたびに「10月1日から」と一律に扱うと,発効日が10月2日以後の地域や年度では計算を誤る。

この Excel を使う際には注意点がある。
確認日現在,同表は,令和7年度の発効日が令和8年にずれ込んだ6県(福島県,群馬県,秋田県,徳島県,熊本県及び大分県)について,年を2025年と入力しており,前記の令和7年度地域別最低賃金改定状況(PDF)と食い違う。
確認表を作るときは,年度ごとの改定状況の PDF 又は各都道府県労働局の公示で発効日を照合し,特定(産業別)最低賃金が適用される事業場では,その額と発効日も別に確認する必要がある。

さかのぼる範囲は,賃金請求権の消滅時効による。
労働基準法115条は賃金の請求権の時効を5年と定めるが,同法附則143条3項により,当分の間,退職手当を除く賃金の請求権は「行使することができる時から三年間」とされている。
現実の計算では,直近3年分の各賃金支払日について,その賃金計算期間に適用されていた最低賃金額を表から特定することになる。
時効の詳細は,賃金・残業代の消滅時効は3年か5年かで扱っている。

第4 厚生年金保険料率は18.3%で固定された

1 段階的引上げの終了

提供資料は,厚生年金保険料率を9月分から0.354%引き上げ,8月分までの17.120%を9月分から17.474%にすると説明している。
現行の厚生年金保険法81条4項の表は,平成16年10月分の千分の139.34から毎年9月分に千分の3.54ずつ引き上げる率を並べ,平成26年9月から平成27年8月までの月分を「千分の百七十四・七四」としている。
表の最後は「平成二十九年九月以後の月分」の「千分の百八十三・〇〇」であり,同月分以後の保険料率は18.3%で固定されている。

保険料は,被保険者と事業主がそれぞれ半額を負担する(同法82条1項)。
現在の一般の被保険者の本人負担は標準報酬月額の9.15%である。
平成26年当時の保険料を計算し直す場面(例えば,未加入期間の保険料の負担をめぐる紛争)では,月分ごとに当時の率を使う必要がある。
提供資料がリンクする日本年金機構の当時の保険料額表のURLは現在は表示されず,同じ額表は日本年金機構の過去の厚生年金保険料額表に移っている。

2 前月分の保険料を控除する

提供資料は,9月分の保険料は10月分給与の源泉徴収から適用されると説明していた。
これは,事業主が報酬を支払う際に被保険者の負担すべき「前月の標準報酬月額に係る保険料」を報酬から控除できるとする同法84条1項によるものである。
被保険者が使用されなくなった場合は,前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料を控除できる(同項括弧書き)。

保険料率が変わらなくなった現在でも,定時決定により9月分から標準報酬月額が変わる場合,前月分を控除する通常の運用では,その変更は10月に支払う給与から控除する保険料に反映される。
給与計算の点検では,保険料の「月分」と控除する給与の支払月を対応させて確認する。
健康保険料,介護保険料及び子ども・子育て支援金を含む現在の料率は,社会保険の加入・保険料・資格取得喪失と士業の適用で扱っている。

3 令和7年改正で変わる標準報酬月額の上限

保険料率は固定されたが,保険料の計算の基礎となる標準報酬月額の上限は変わる。
現行の厚生年金保険法20条1項の表は第31級62万円までで,第32級65万円は同条2項に基づく政令(令和2年政令第246号)で加えられた等級である。

令和7年法律第74号による改正後の同条1項の表では,令和9年9月から第33級68万円,令和10年9月から第34級71万円,令和11年9月から第35級75万円が上限となる。
いずれも確認日現在は未施行であり,報酬月額が高い被保険者では,上限の引上げに伴って本人負担と事業主負担の双方が増える。

同じ改正法により,短時間労働者の月額8万8000円の賃金要件は令和8年10月1日に撤廃された。
これに伴う保険料調整の経過措置は,保険料調整制度の実務で整理している。

4 上限引上げによる保険料の試算と役員報酬への影響

標準報酬月額の上限が引き上げられると,報酬月額が上限付近を超える被保険者の保険料は次のとおり増える。
一般の被保険者の本人負担(保険料率18.3%の半分の9.15%)で計算したもので,事業主負担も同額である。

時期上限の等級該当する報酬月額本人負担(月額)
現在第32級 65万円63万5000円以上5万9475円
令和9年9月から第33級 68万円66万5000円以上6万2220円
令和10年9月から第34級 71万円69万5000円以上6万4965円
令和11年9月から第35級 75万円73万円以上6万8625円

報酬月額が73万円以上の被保険者では,令和11年9月以後,本人負担が現在より月9150円増え,事業主負担と合わせると年21万9600円の増加となる。
厚生労働省の第16回社会保障審議会年金部会(令和6年7月3日)資料3-1の14頁は,上限を75万円とした場合について,上限該当者が259万人(6.2%)から168万人(4.0%)になり,保険料収入が年4300億円(うち事業主負担2150億円)増えると試算している。
同頁は,見直し後の上限に10年間該当した者の老齢厚生年金が年6.1万円(終身)増える例も示しており,保険料の増加は将来の年金額に反映される。

施行時の手続については,令和7年法律第74号附則9条1項が,令和9年9月の標準報酬月額が65万円である者のうち,その基礎となった報酬月額が66万5000円以上である者について,「第六号施行日において実施機関…が改定するものとし、当該改定した標準報酬月額は、同月から令和十年八月までの各月の標準報酬月額とする」と定めている。
令和10年及び令和11年の引上げにも同じ形の経過措置がある(同条4項~9項)。
令和2年9月に第32級が加えられた際,日本年金機構は事業主からの届出は不要とし,標準報酬改定通知書を送付すると案内していた。
令和9年の改定についての日本年金機構の案内は,確認日現在見当たらなかった。
前月分の保険料を控除する運用では,令和9年9月分の保険料を控除する同年10月支払の給与から,改定後の額で控除することになると考えられる。

厚生年金保険法20条2項の等級追加の基準も,令和9年9月1日から,全被保険者の標準報酬月額の平均の2倍を基準とする方式から,最高等級に該当する被保険者の割合が「百分の四を超える場合」を基準とする方式に改められる。
他方,標準賞与額の上限(1か月150万円,同法24条の4第1項)と,健康保険の標準報酬月額の上限(第50級139万円,健康保険法40条1項)は,今回の改正では変わらない。

法人の代表者や役員も,法人から労務の対償として報酬を受けていれば,法人に使用される者として被保険者となる(昭和24年7月28日保発第74号)。
役員報酬が月額73万円以上の役員がいる法人では,令和9年以後3年続けて9月に保険料が増えるので,役員報酬の改定時期と社会保険料の見込額を合わせて検討しておく必要がある。

在職中に老齢厚生年金を受ける役員等では,在職老齢年金への影響もある。
同法46条1項は,標準報酬月額と直近1年間の標準賞与額の総額の12分の1を合算した「総報酬月額相当額」と,老齢厚生年金の基本月額との合計が支給停止調整額(令和8年度は65万円)を超えるとき,超えた額の2分の1に相当する部分の支給を停止すると定めている。
既に支給停止調整額を超えている者では,標準報酬月額が65万円から75万円に上がると,支給停止額が月5万円増える計算になる。
報酬の額を変えなくても年金の受取額が減ることがあるので,役員報酬と年金の受給を併せて相談を受ける場合は,改定後の等級で試算し直す必要がある。

第5 中国残留邦人等の特定配偶者に対する支援

1 平成25年の議員立法

提供資料の援護関係の項目は,中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第106号,同年12月13日公布)の施行である。
同法は参議院議員が提出した議員立法であり,附則1条により平成26年10月1日に施行された。
この改正により,法律の題名は「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進並びに永住帰国した中国残留邦人等及び特定配偶者の自立の支援に関する法律」(以下「支援法」という。)に改められた。

2 特定配偶者と配偶者支援金

支援法2条3項は,「特定配偶者」を,13条2項に規定する特定中国残留邦人等が「永住帰国する前から継続して」その配偶者である者と定義しており,事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。
支援給付を受けている特定中国残留邦人等が死亡した場合,世帯の収入が生活保護法8条1項の基準による額に比して継続して不足するときは,特定配偶者に支援給付が行われる(支援法14条3項本文)。
ただし,特定配偶者が死亡後に婚姻(事実上の婚姻関係を含む。)したときは,この支援給付は行われない(同項ただし書)。

配偶者支援金は,14条3項により支援給付を受ける権利を有する特定配偶者に支給される(支援法15条1項)。
月額は,老齢基礎年金の額を「十二で除して得た額に三分の二を乗じた額」である(同条2項)。
提供資料がリンクする「中国残留邦人等の配偶者に対する支援策のイメージ」は,改正前は本人の死亡により本人の老齢基礎年金が支給されなくなり,配偶者は生活支援給付だけになっていたところに,老齢基礎年金の3分の2相当額の配偶者支援金を加えるという図である。

金額は老齢基礎年金の改定に連動する。
厚生労働省の令和8年度中国残留邦人等支援に係る担当者資料33頁(PDF39頁)は,令和8年度の配偶者支援金を月額4万6938円(前年度から866円の増額)としている。
支援給付及び配偶者支援金を受ける権利は譲渡,担保提供及び差押えが禁止され,支給を受けた金品を標準として租税その他の公課を課すことはできない(支援法16条)。

3 相談で確認すること

改正法附則2条は,施行時に支援給付を受けていた配偶者で特定配偶者に当たらない者について,従前の例により支援給付を続ける経過措置を置いている。
相談では,①婚姻(事実婚を含む。)の時期が永住帰国の前か後か,②中国残留邦人等の本人が死亡した時点で支援給付を受けていたか,③死亡後に再婚等をしていないか,を順に確認する。

上記担当者資料も,特定配偶者と見込まれる者の世帯に対して,毎年6月の収入申告時等に個別に配偶者支援金の制度を案内するよう求めており,申請漏れが想定されている。
後見人等が高齢の特定配偶者の財産管理をする場合は,配偶者支援金の受給の有無と,差押禁止・非課税の扱いを確認しておく必要がある。
生活保護に準じた給付の申請代理や収入認定の考え方は,成年後見人と生活保護が参考になる。

4 収入認定と配偶者支援金の請求手続

支援給付の額を決めるときに収入から除く額は,支援法施行規則が定めている。
特定中国残留邦人等の本人の世帯について定める同規則18条の2第1項1号は,本人の老齢基礎年金等のうち満額の老齢基礎年金の月額に相当する額まで(イ)と,勤労収入等の額のうち月1万5000円まで(ニ)を除き,それ以外の収入の10分の3(ト)も除くとしている。
本人死亡後の特定配偶者の世帯について定める同規則18条の4第1項1号は,配偶者支援金(ヘ)を収入から除き,それ以外の収入の10分の3(ト)も除くとしている。
厚生労働省の令和8年度中国残留邦人等支援に係る担当者資料23頁(PDF29頁)も,「配偶者支援金は、全額収入認定除外とする」とし,配偶者の年金収入や就労に伴う収入は3割を収入認定から除外することを基本とすると説明している。

したがって,配偶者支援金を受け取っても,その分だけ支援給付が減る仕組みではない。
他方,特定配偶者自身の老齢基礎年金には満額まで除く規定がないので,原則として7割が収入として認定される。
同資料23頁~24頁(PDF29頁~30頁)は,生活保護との違いとして,保有を認める資産を一時金相当額(令和8年度に一時金の支給決定を受けた者は633.6万円まで)とすること,生計を別にする子や孫には原則として直接扶養照会を行わないこと,親族訪問や墓参等の2か月程度の海外渡航費を収入認定しないことなども挙げている。

配偶者支援金の請求は,様式第三号の配偶者支援金支給申請書を,支援給付を行う都道府県知事,市長又は福祉事務所を管理する町村長に提出して行う(同規則18条の7の2第1項)。
申請書には特定配偶者であることを明らかにする書類を添付するが,戸籍等で確認できるときは省略させることができる(同条2項)。
改正法の施行前に厚生労働省が開いた配偶者支援に係る説明会の資料(平成26年2月25日)4頁は,支給の時期を特定中国残留邦人等が死亡した日の属する月の翌月以降とし,月単位で日割りをしないこと,支援給付を受けられない場合は配偶者支援金も支給されないこと(医療支援給付のみの受給の場合等は支給される)を示している。
支援給付は生活保護法の規定の例によるので(支援法14条4項,配偶者支援金について15条3項),決定の通知は原則として申請日から14日以内に行われる(生活保護法24条5項)。

支援給付や配偶者支援金の決定に不服がある場合も,生活保護法の規定の例により,都道府県知事への審査請求,厚生労働大臣への再審査請求を経ることになり,取消訴訟は審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起できない(同法64条,66条,69条)。
支援給付の申請却下処分の取消しが争われた例として,東京地裁平成31年1月15日判決(平成29年(行ウ)第140号等)がある。
同判決は,母が昭和20年9月2日に本邦に本籍を有していなかった事案で,同日以後に中国の地域で出生した原告を支援法の「中国残留邦人等」に当たらないとした。
支援の可否は,特定配偶者か否かの前に,本人が「中国残留邦人等」に当たるかという入口の要件でも争われうる。

なお,上記担当者資料の32頁(PDF38頁)は,配偶者支援金を創設した改正法を「平成25年法律第105号」と記載しているが,e-Gov法令検索の支援法の附則及び同規則18条の2第1項1号ホによれば,平成25年法律第106号である。
申請書類や意見書で法律番号を引くときは,この記載をそのまま写さないよう注意が必要である。

第6 確認範囲と残る検討事項

本記事で検討した範囲は,提供資料の4項目と,そのリンク先資料,関係条文及びこれらに関連する厚生労働省・日本年金機構の資料である。
雇用保険法,同法施行規則,最低賃金法,労働基準法,厚生年金保険法,健康保険法,支援法,同法施行規則及び生活保護法の条文は,令和8年10月4日にe-Gov法令検索で現行条文(厚生年金保険法20条及び24条の4は令和9年~令和11年の施行後の条文も)を確認した。
平成26年度の最低賃金の報道発表は,厚生労働省のサイトから削除されているため,インターネットアーカイブの保存版で確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトで東京地裁平成31年1月15日判決の判示事項・裁判要旨を確認した。

当初の記事で別途掘り下げるとしていた4つのテーマ(教育訓練支援給付金の期限後の取扱いと受講中の離職・就職,最低賃金の発効日の確認表,標準報酬月額の上限引上げの影響,特定配偶者の収入認定と請求手続)は,第2の5,第3の4,第4の4及び第5の4に反映した。
なお残る検討事項は,①教育訓練支援給付金の令和9年4月以後の取扱い(延長の有無)が今後の法改正で決まった場合の反映,②大阪府及び東京都以外の都道府県の全年度の発効日の照合,③令和9年の上限改定についての日本年金機構の実務案内,④支援給付実施要領及び配偶者支援金支給実施要領の本文(ウェブ上で原文を確認できなかった)と,申請が遅れた場合の遡及の範囲である。

第7 出典

1 法令

① 雇用保険法60条の2,60条の3,附則11条,附則11条の2(e-Gov法令検索)
② 雇用保険法施行規則101条の2の5,101条の2の7,101条の2の8,101条の2の10,101条の2の13,附則24条,附則25条,附則27条(e-Gov法令検索)
③ 最低賃金法4条,9条,14条(e-Gov法令検索)
④ 厚生年金保険法20条,24条の4,46条,81条,82条,84条(e-Gov法令検索)
⑤ 中国残留邦人等の円滑な帰国の促進並びに永住帰国した中国残留邦人等及び特定配偶者の自立の支援に関する法律2条,14条,15条,16条,平成25年法律第106号附則(e-Gov法令検索)
⑥ 労働基準法115条,附則143条(e-Gov法令検索)
⑦ 健康保険法40条(e-Gov法令検索)
⑧ 中国残留邦人等の円滑な帰国の促進並びに永住帰国した中国残留邦人等及び特定配偶者の自立の支援に関する法律施行規則18条の2,18条の4,18条の7の2(e-Gov法令検索)
⑨ 生活保護法24条,64条,66条,69条(e-Gov法令検索)
⑩ 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)附則9条(e-Gov法令検索・厚生年金保険法の附則)

2 公的資料

① 厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(平成26年10月)について」平成26年9月26日
② 厚生労働省報道発表「全都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」平成26年8月28日及び別紙(インターネットアーカイブ保存版)
③ 厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金改定状況」
④ 厚生労働省報道発表「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」令和8年9月3日
⑤ 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 全国一覧」
⑥ 厚生労働省「教育訓練給付制度」
⑦ ハローワークインターネットサービス「教育訓練給付制度」
⑧ 日本年金機構「保険料額表(平成26年9月分~)」
⑨ 厚生労働省「中国残留邦人等の配偶者に対する支援策のイメージ」
⑩ 厚生労働省社会・援護局援護企画課中国残留邦人等支援室「令和8年度中国残留邦人等支援に係る担当者資料(説明資料)」令和8年4月,33頁(PDF39頁)
⑪ 衆議院「制定法律情報」(平成26年法律第13号),参議院「議案情報」(第185回国会参第9号)
⑫ 厚生労働省「平成14年度から令和8年度までの地域別最低賃金改定状況」(Excel)
⑬ 厚生労働省「第16回社会保障審議会年金部会 資料3-1」令和6年7月3日,14頁
⑭ 日本年金機構「厚生年金保険における標準報酬月額の上限の改定」令和2年9月
⑮ 厚生省保険局長通知「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について」昭和24年7月28日保発第74号
⑯ 厚生労働省「配偶者支援に係る説明会資料」平成26年2月25日,4頁
⑰ 東京地裁平成31年1月15日判決(平成29年(行ウ)第140号等)(裁判所ウェブサイト)
⑱ 厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」(教育訓練給付・令和8年4月版)
⑲ 厚生労働省「専門実践教育訓練の「教育訓練給付金」のご案内」(リーフレット)11頁
⑳ 労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会(第211回)資料5「雇用保険部会の主な論点(案)」令和8年9月4日

同じシリーズの記事(制度変更の時期の順)
①平成26年4月の厚生労働省制度変更
②平成27年10月の厚生労働省制度変更
③平成28年4月の厚生労働省制度変更
④平成29年10月の厚生労働省制度変更
⑤平成30年4月の厚生労働省制度変更
⑥令和5年4月の厚生労働省制度変更
⑦令和5年10月の厚生労働省制度変更
⑧令和6年4月の厚生労働省制度変更
⑨令和6年10月の厚生労働省制度変更
⑩令和7年4月の厚生労働省制度変更
⑪令和7年10月の厚生労働省制度変更
⑫令和8年4月の厚生労働省制度変更