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弁護士の事件放置と懲戒――放置期間では処分が決まらない理由と公表事例(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と資料

本記事は,弁護士が受任した事件の処理を放置したことが懲戒処分の対象とされた例を整理し,処分の重さを分ける事情を検討するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月28日現在のものである。
懲戒例は,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の機関誌『自由と正義』に掲載された懲戒処分の公告の原本で,号・頁・処分の内容を確認した。
公告は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は記載しない。

2 結論

結論は次の4点である。
①事件の放置は,主に弁護士職務基本規程35条(事件の処理)と36条(事件処理の報告及び協議)の違反として懲戒の対象となる。
②放置の期間だけで処分は決まらない。
公告には,約5か月の放置から9年以上の放置まで,戒告にとどまった例がある。
③処分が重くなるのは,放置に次の事情が重なった場合である。
虚偽の報告や書面の偽造,消滅時効の完成など依頼者の権利の喪失,複数の事件・依頼者での反復,事務職員への任せきり,着手金や預り金の未清算,所在不明や弁護士会への不対応,同種の処分歴である。
④もっとも,「虚偽の報告があれば必ず重い」といった一律の基準はなく,提訴済みと虚偽の説明をした事案でも戒告の例がある。

第2 事件放置に関する規律

1 弁護士職務基本規程

弁護士職務基本規程35条は,「弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、遅滞なく処理しなければならない。」と定めている。
同規程36条は,「弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならない。」と定めている。
いずれも,同規程82条2項が行動指針又は努力目標として解釈適用すべきものとして列挙する規定には含まれず,義務規定である。

公告では,長期の放置について,35条ではなく信義誠実の義務を定める同規程5条(「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」)の違反とした例もある。
委任が終了したときの清算と返還(同規程45条),委任契約書の作成(同規程30条)が,放置とあわせて問題とされることも多い。

2 弁護士法

懲戒の根拠は弁護士法56条1項であり,「その品位を失うべき非行があつたとき」に懲戒を受ける。
懲戒の種類は,戒告,2年以内の業務の停止,退会命令及び除名の4種である(同法57条1項)。

第3 戒告にとどまった例

1 放置の期間の幅

公告で確認できた戒告の例を,放置の期間の短いものから並べると次のとおりである。
①遺産分割審判事件で,依頼者や所属弁護士会の市民窓口の要請があっても約5か月間連絡を入れず,審判の経緯を説明しなかった(京都弁護士会,36条違反,2016年8月9日効力発生,自由と正義2017年1月号104頁)。
②法テラスの援助決定を受けた後,正当な理由なく約1年5か月間,離婚請求訴訟を提起しなかった(愛媛弁護士会,35条違反,2019年9月27日効力発生,自由と正義2020年4月号56頁)。
③法テラスの代理援助契約が成立し,自己破産の申立てができる状態になった後,2年余りの間,申立てをしなかった(青森県弁護士会,35条違反,2024年9月30日効力発生,自由と正義2025年2月号83頁)。
④受任通知の発送後,剰余金や売掛金の管理を怠り,予納金の確保もせず,2年3か月余りにわたって破産事件の処理を放置し,申立てをしないまま辞任した(大阪弁護士会,5条違反,2024年8月28日効力発生,自由と正義2025年2月号79頁)。
⑤個人再生手続の申立てを受任したが,委任契約書を作成せず,必要な連絡や指示をせず,約5年半後に解任されるまで申立てをしなかった(高知弁護士会,30条1項・35条・36条違反,自由と正義2024年1月号69頁)。
⑥債権回収を受任した後7年以上着手せず,別件でも着手金の受領後4年以上事件を放置した(鹿児島県弁護士会,自由と正義2009年3月号158頁)。
⑦自己破産申立事件で,債権者に受任通知を発した後,照会にも適切に対応せず,9年以上申立てをしなかった(愛知県弁護士会,5条違反,2015年3月28日効力発生,自由と正義2015年7月号105頁)。

このように,戒告となった例の放置期間には,数か月から9年以上までの幅がある。
公表事例からは,「1年を超えれば業務停止」「2年以内なら戒告」といった期間による基準は読み取れない。

2 虚偽の説明があっても戒告の例

明渡請求事件を受任しながら2年半以上訴訟を提起せず,依頼者に「訴訟は提起済み」との虚偽の事実を述べた例も,戒告とされている(大阪弁護士会,35条・36条違反,2024年9月25日効力発生,自由と正義2025年2月号82頁)。
着手金を受領しながら約1年半事件に着手せず,交渉が行き詰まった後は何もせず,依頼者から催告書が届くまで報告もしなかった例も,戒告である(兵庫県弁護士会,35条・36条違反,2025年8月8日効力発生,自由と正義2025年12月号71頁)。

第4 処分が重くなった例

1 虚偽の報告と書面の偽造

勤務先の法律事務所で主任として担当した複数の損害賠償請求事件について,訴訟を提起していないのに「提起した」と虚偽の報告を重ね,事務所代表の弁護士らの職印を無断で使って訴状,答弁書,準備書面等を偽造して依頼者に示した例は,業務停止8月とされた(宮崎県弁護士会,2023年5月26日効力発生,自由と正義2023年11月号61頁)。
この例では,事務所代表の弁護士が懲戒請求者の1人となっている。

医療過誤の損害賠償請求について,相談から3年余り法的手続を採らずに不法行為に基づく請求権の消滅時効を完成させ,訴訟委任状を受けてからも約6年間手続を進めずに債務不履行に基づく請求権の消滅時効も完成させたうえ,訴訟や調停が進行しているかのような虚偽の説明を長期間繰り返した例は,業務停止6月とされた(東京弁護士会,2018年3月14日効力発生,自由と正義2018年6月号131頁)。

2 複数の事件・依頼者での反復

損害賠償請求訴訟について提訴が可能な状態になってから約2年8か月訴えを提起せず,別に受任した自己破産の申立てもせず,再三の問合せにも明確に答えなかった例は,業務停止1月とされた(東京弁護士会,2025年2月13日効力発生,自由と正義2025年6月号97頁)。

多数の依頼者について,依頼者に無断で訴えを取り下げ,着手金を受領しながら事件処理をせず,約2年着手しないなどの放置を重ね,委任契約の解除後も着手金の清算や記録の返還をせず,所属弁護士会からの報告の指示や預り金に関する照会にも応じなかった例は,業務停止10月とされた(東京弁護士会,2023年6月15日効力発生,自由と正義2023年11月号64頁~65頁)。

3 事務職員への任せきり

年間約100件の民事再生事件を受任して処理を事務職員に任せきりにし,事務職員が適正に処理できない状態を是正せず,依頼者の民事再生事件が約3年間着手されないまま放置されていたことに気付かなかった例は,業務停止4月とされた(東京弁護士会,2009年4月13日効力発生,自由と正義2009年7月号188頁)。
公告は,この非行が「事務職員に対する指導、監督義務を怠り、かつ事件処理のための適正な事務所の体制を整えなかったことに起因する」としている。

4 着手金・預り金の未清算と弁護士会への不対応

法人と本人の自己破産申立事件で着手金等として計120万円の送金を受けながら,受任通知も出さず,債権者の訴訟にも対応せず,申立てもしないまま音信不通になり,解任後の返金を求める紛議調停にも出席しなかった例は,職務基本規程26条・35条・45条違反として業務停止6月とされた(神奈川県弁護士会,2025年8月20日効力発生,自由と正義2025年12月号74頁)。

破産手続開始の申立てを受任しながら6年余り申立てをせず,依頼者が持つ合計約3474万円の売掛金の消滅時効を完成させ,約2877万円の預り金の記録も収支の報告もせず,解任後も返還しなかった例は,委任契約書の不作成とあわせて除名とされた(静岡県弁護士会,自由と正義2024年1月号73頁)。

5 同種の処分歴

請負代金請求訴訟を受任して着手金等を受領しながら約4年間放置し,依頼者の問合せに「訴訟を提起したが訴状の送達ができない」と虚偽の弁解をしていた例では,同種の事案で戒告の処分を受けたことがあることと,着手金等を返還していないことを考慮して,業務停止2月とされた(高知弁護士会,2009年3月30日効力発生,自由と正義2009年6月号212頁)。

6 所在不明

所在不明となり,受任していた合計60件の事件を放置して,依頼者に上訴の機会の喪失や消滅時効の完成等の不利益を生じさせた例は,会費の滞納とあわせて除名とされた(岐阜県弁護士会,2014年4月9日効力発生,自由と正義2014年7月号109頁)。

第5 処分の重さを分ける事情

公表事例を並べると,処分の重さは,放置の期間よりも次の事情によって分かれていると考えられる。
①依頼者に回復困難な不利益(消滅時効の完成,上訴の機会の喪失等)が生じたか
②虚偽の報告や書面の偽造によって,放置の発覚を遅らせたか
③一件の事件か,複数の事件・依頼者で繰り返したか
④着手金,予納金,預り金を清算・返還したか
⑤事務職員に任せきりにするなど,事務所の管理体制に原因があったか
⑥解任後の引継ぎ,紛議調停,弁護士会の照会に対応したか
⑦同種の処分歴があるか

もっとも,第3の2のとおり,虚偽の説明があっても戒告にとどまった例があり,これらの事情は処分の方向を示すものであって,機械的な基準ではない。
量定は,個々の事案の事情を総合して判断されている。

第6 弁護士が確認しておくこと

1 放置を防ぐ仕組み

①全ての受任事件に,次に作業する日,法定の期限,依頼者に次に報告する日を設定し,一定期間更新のない事件を定期的に抜き出す。
②進展がないときも,進展がないことと,その理由・今後の見通しを依頼者に報告する(36条)。
③事務職員に任せる範囲を決め,事件ごとの進捗を弁護士自身が確認する。

2 処理が遅れてしまったとき

①できていない手続を「した」と説明しない。
虚偽の報告は,放置とは別の非行として重く評価されている。
②遅れている事実,依頼者に生じ得る不利益,今後の処理方針を正直に説明し,時効等の期限が迫っていれば直ちに保全の措置を採る。
③処理できないときは,辞任や他の弁護士への引継ぎを検討し,着手金や預り金を清算して,記録を返還する。
④紛議調停や弁護士会からの照会には必ず対応する。

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第8 出典

1 日弁連の会規・法令

弁護士職務基本規程(平成16年会規第70号,令和3年6月11日改正)
弁護士法(e-Gov法令検索)

2 懲戒処分の公告

いずれも『自由と正義』(日本弁護士連合会)に掲載された公告である。
2009年3月号158頁(鹿児島県弁護士会の戒告)
2009年6月号212頁(高知弁護士会の業務停止2月)
2009年7月号188頁(東京弁護士会の業務停止4月)
2014年7月号109頁(岐阜県弁護士会の除名)
2015年7月号105頁(愛知県弁護士会の戒告)
2017年1月号104頁(京都弁護士会の戒告)
2018年6月号131頁(東京弁護士会の業務停止6月)
2020年4月号56頁(愛媛弁護士会の戒告)
2023年11月号61頁(宮崎県弁護士会の業務停止8月)
2023年11月号64頁~65頁(東京弁護士会の業務停止10月)
2024年1月号69頁(高知弁護士会の戒告)
2024年1月号73頁(静岡県弁護士会の除名)
2025年2月号79頁(大阪弁護士会の戒告)
2025年2月号82頁(大阪弁護士会の戒告)
2025年2月号83頁(青森県弁護士会の戒告)
2025年6月号97頁(東京弁護士会の業務停止1月)
2025年12月号71頁(兵庫県弁護士会の戒告)
2025年12月号74頁(神奈川県弁護士会の業務停止6月)