メインコンテンツへスキップ
       

最高裁判所判事の裁判以外の職務―裁判官会議,長官所長会同,憲法週間の視察,外国出張,判例委員会及び宮中行事(AI作成)

第1 本記事の概要

1 対象とする職務

最高裁判所判事の職務の中心は,上告事件,上告受理申立て事件及び抗告事件の審理である。
他方,裁判所法12条1項により,最高裁判所が行う司法行政事務は裁判官会議の議によるものとされているため,判事は,裁判官会議の構成員として司法行政にも関与する。
このほか,判事は,長官所長会同への出席,下級裁判所の視察,外国出張,各種委員会の委員,宮中行事への出席など,裁判以外の職務も担っている。

本記事は,最高裁判所判事を務めた3人の著作又は講演録を突き合わせ,こうした裁判以外の職務の実際を整理するものである。
持ち回り審議,期日審議,判例集登載等の審理の方式は「宇賀克也『管見 最高裁判所』から分かる最高裁判所の審理」で扱ったので,本記事では必要な範囲でのみ触れる。

2 資料と基準日

本記事が用いる資料は,次の3点である。
いずれの著者も,在任中は第三小法廷に所属していた。

資料著者の出身在任期間
藤田宙靖『最高裁回想録―学者判事の七年半』(有斐閣,2012年)行政法学者平成14年9月30日から平成22年4月5日まで
田原睦夫「最高裁生活を振り返って」金融法務事情1978号6頁~36頁(平成25年)弁護士平成18年11月1日から平成25年4月22日まで
宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)行政法学者平成31年3月20日から令和7年7月20日まで

在任期間は,藤田宙靖『最高裁回想録―学者判事の七年半』(有斐閣,2012年)3頁,田原睦夫「最高裁生活を振り返って」金融法務事情1978号(平成25年)6頁及び宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)2頁の記載による。
田原氏の講演録は,平成25年7月13日に行われた講演を基に加筆・修正したものであり,本文は6頁~32頁,別表は33頁~36頁に掲載されている(田原・前掲6頁)。
以下,各資料は「藤田・前掲」「田原・前掲」「宇賀・前掲」と略し,頁は各資料に印刷された頁で示す。

これらは,いずれも一人の判事が在任中に見聞きしたことの回想である。
在任時期が異なるため,同じ事項でも運用が変わっている部分があり,本記事ではその都度時期を示して並べる。
法令の規定は令和8年9月26日にe-Gov法令検索で確認したが,回想に記載された運用は,最高裁判所の公表資料で一つ一つ裏付けたものではない。

第2 裁判官会議と司法行政

1 法的根拠

裁判所法12条1項は,「最高裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、最高裁判所長官が、これを総括する。」と定め,同条2項は,裁判官会議が全員の裁判官で組織され,長官がその議長となることを定めている。
同法13条は,最高裁判所の庶務を掌らせるために事務総局を置き,同法53条2項は,最高裁判所事務総長が長官の監督を受けて事務総局の事務を掌理することを定める。
したがって,法律上の決定主体は15人の裁判官から成る裁判官会議であり,事務総局はそれを補佐する組織である。
裁判官会議の規程,議事録及び事前検討の仕組みは「最高裁判所裁判官会議」で,事務総長の地位は「最高裁判所事務総長とは」で説明している。

2 開催の頻度と所要時間

藤田氏の在任当時,裁判官会議は原則として毎週水曜日の午前10時30分から,裁判官棟4階の会議室で開かれ,事務総長,秘書課長及び議題を担当する局長が同席していた(藤田・前掲31頁)。
会議の時間は通常30分から1時間程度で,議題がないとして取りやめになることもあったという(藤田・前掲33頁)。

宇賀氏の在任当時も,裁判官会議は原則として毎週1回開かれ,議題がないために開かれないことが年に数回あった(宇賀・前掲100頁)。
事務総長と秘書課長は必ず出席し,人事案件がほぼ毎回議題となるため,人事局長も常に出席して説明していたとされる(宇賀・前掲100頁~101頁)。
案件が多いと1時間ほど,議題以外の出張報告等が続くと1時間半以上かかることもあった(宇賀・前掲102頁)。

3 議題の中心

宇賀氏によれば,毎週の開催が必要となる最大の理由は,下級裁判所裁判官の指名及び補職に関する人事案件の多さである(宇賀・前掲101頁)。
同氏は,憲法上裁判官会議に与えられた権限を長官等に委任すると違憲の疑義が生じ得るため,案件が大量でも付議されているのだろうと推測している(宇賀・前掲101頁)。
人事案件に次いで多いのは最高裁判所規則の制定であり,規則案を付議する前には,担当局長が各裁判官室を回って内容を説明し,質問に答える慣行があるという(宇賀・前掲101頁~102頁)。

4 原案が了承されやすい構造

藤田氏は,裁判官会議での司法行政は,事務総局の報告・提案に若干の質問が出ることはあっても,結果として了承されるのが通常であったと述べる(藤田・前掲34頁)。
その理由として,同氏は,全国の裁判所の人事,予算及び施設の詳細を15人の裁判官が一つ一つ検討することは時間的にも能力的にも困難であること,規則は規則制定諮問委員会の検討を,下級裁判所裁判官の人事は下級裁判所裁判官指名諮問委員会の答申を経ていることを挙げている(藤田・前掲34頁,163頁)。
同時に,会議の事務局には紛議を招きそうな資料を出さずに済ませたいという意識が働き得ることも指摘し,事務総長経験のある長官がこの傾向を戒めていたと記している(藤田・前掲35頁)。

田原氏も,裁判官会議で種々議論することはまずなく,懲戒案件が議論になることはあっても,事務総局で検討を重ねた後の案であるため若干の質問をする程度であったと述べる(田原・前掲28頁)。
また,裁判員制度の運用に関する通達・通知が判事の知らないうちに出され,視察先の裁判所で初めて知ることがあったとして,現場に大きな影響を与えるものは知らせてほしいとの考えを示している(田原・前掲28頁)。

5 席次

裁判官会議では,議長である長官の右隣に最も早く就任した裁判官が座り,以下就任順に席が決まるため,退官と就任が続くたびに各裁判官の席が移っていく(藤田・前掲31頁~32頁)。
宇賀氏も,会食を伴う行事や評議室での審議を含め,座席は着任順を基本とし,各小法廷で最も早く着任した「最先任裁判官」が小法廷の運営について事実上の責任を負うと説明している(宇賀・前掲78頁)。

第3 長官所長会同

1 出席者と日程

藤田氏の在任当時,長官所長会同は通常6月に開かれ,全国8高裁の長官と地方裁判所・家庭裁判所の所長76人が最高裁判所の大会議室に集まった(藤田・前掲168頁)。
所長が76人となるのは,地裁と家裁はそれぞれ50庁あるものの,24の家裁では地裁所長が家裁所長を兼ねているためである(藤田・前掲168頁)。
長官が議長を務め,全判事が就任順に着席し,その背後に事務総長以下の事務総局の要員や首席調査官・上席調査官が控えていたという(藤田・前掲168頁~169頁)。

宇賀氏の在任当時は,会同は2日間行われ,初日は判事全員が出席して長官の司会で議論し,2日目は事務総長の司会で行われて判事は出席しなかった(宇賀・前掲103頁)。
同氏は,協議のテーマにはその時の長官の関心が強く反映されるようだと述べている(宇賀・前掲103頁)。
会同の法的位置付けと開催日は「長官所長会同」で扱っている。

2 判事の関与

藤田氏の在任当時は,会議の最後に議長から判事に発言が求められることがあり,複数の判事が講評等を述べ,藤田氏自身も何回か発言したという(藤田・前掲169頁~170頁)。
これに対し,宇賀氏は,判事は完全な聞き役であり,発言するのは会同への出席が最後となる判事が長官に指名されて短いスピーチをする場合に限られたと述べる(宇賀・前掲103頁~104頁)。
両氏とも,地裁・家裁の所長の発言が途切れなかったことを記しており,所長の側の議論が活発である点は共通している(藤田・前掲169頁,宇賀・前掲103頁~104頁)。

3 懇親会と裁判官会同

宇賀氏によれば,会同初日の夜には懇親会が開かれ,判事にとって全国の高裁長官・地家裁所長と懇談する機会となっており,最高裁判所判事の経験者も招かれる(宇賀・前掲104頁)。
また,田原氏は,民事・刑事の裁判官会同にもできる限り出席し,全国の実務の状況を知る機会としていたと述べ,特に家庭裁判所の情報は普段不足しているだけに貴重であったとしている(田原・前掲28頁)。

第4 憲法週間の視察

1 割振りの方法

毎年5月の憲法週間の頃,長官を除く判事が手分けして全国の下級裁判所を視察する。
藤田氏によれば,3つの小法廷が毎年ローテーションで高裁管内を分担し,各小法廷の中で最先任裁判官を中心に各判事の希望を調整し,その結果が裁判官会議で承認された(藤田・前掲174頁~175頁)。
この期間は誰かが出張している限り審議や法廷を開くことができないため,期日審議は止まり,裁判官会議も原則として開かれなかったという(藤田・前掲175頁)。

田原氏は,全国を8ブロックに分け,広い東京高裁管内を2つに分けて9ブロックとし,1つの小法廷が3ブロックずつを担当すると説明している(田原・前掲28頁)。
1人当たり2庁程度が目安であるが義務ではなく,田原氏自身は在任中に本庁21庁と支部10か所を訪れた(田原・前掲28頁)。
宇賀氏の在任当時も9つの区分を3つのグループに分けて小法廷に割り振り,遠方への出張は1回に限り,2回目は近くの裁判所に限ること,東京高裁・地家裁は2人の判事が訪問すること,割当ては毎年交替して3年で一巡することが慣行とされていた(宇賀・前掲104頁)。
新任の判事の訪問先は着任前に確定させる必要があるため,前任者が決める扱いであったという(宇賀・前掲105頁)。

2 視察先で行うこと

藤田氏の在任当時の視察は,各長官・所長からの現況報告,裁判官との懇談会,庁内視察及び夕食懇談会から成っていた(藤田・前掲175頁)。
同氏は若い裁判官との率直な意見交換を求めて,全裁判官が集まる立食形式の懇談会を依頼したが,キャリア裁判官出身の判事の中にはそうした場を特に設けない人もいたと記している(藤田・前掲175頁)。
受け入れる側では,視察の2~3か月前から最高裁判所との間で分単位の日程が組まれ,大きな負担になっていたという(藤田・前掲176頁~177頁)。

田原氏は,あらかじめ所長が目を通した原稿を読み上げる形の形式的な説明を典型例として批判的に紹介した上で,自身は訪問先の裁判官全員を集めて第1審判決の問題点や最高裁判所から見た第1審判決の在り方を話し,質疑応答を行っていたと述べる(田原・前掲28頁,30頁)。
同氏は,本庁の視察後に中堅の弁護士との懇談を設け,支部では調停委員と懇談するなど,裁判所外の意見を聞く機会も設けていた(田原・前掲29頁)。
宇賀氏の在任当時は,現況説明の後に座談会が開かれ,大規模庁では民事・刑事・家事ごとに別々の座談会が設けられることもあった(宇賀・前掲105頁)。
同氏は,令状発付のために深夜まで作業しなければならない実情など,外部にはほとんど知られていない事実をこうした場で知ったと述べている(宇賀・前掲105頁~106頁)。

3 経費と行程

藤田氏によれば,新幹線はグリーン車,現地の移動は公用車であるが,宿泊は共済施設や標準的なホテルで,懇親会も裁判所の食堂等での立食であり,二次会や週末の私的な旅行は自己負担であった(藤田・前掲177頁~178頁)。
さらに,ある時期以降は,金曜日中に東京に帰らない場合には帰途の旅費も支給されなくなったという(藤田・前掲178頁)。
田原氏も,懇親会に参加して1泊すると帰りの交通費が出ず,随行する書記官の宿泊費や旅費まで自己負担となったが,ある判事の抗議を契機に翌年から帰りの交通費が出るようになったと述べる(田原・前掲29頁)。
また,判事の行動は情報公開の対象となるため,事務方が観光と受け取られることを避けて,視察の前後の立寄り先を厳しく制限していたことを批判している(田原・前掲29頁~30頁)。

4 視察後の報告

藤田氏の在任当時は,憲法週間の後の最初の裁判官会議で,各判事が視察の結果を順に報告した(藤田・前掲174頁)。
宇賀氏の在任当時は,裁判官と事務総局の幹部が集まる場で報告し,現場で指摘された問題について事務総局の対応を求め,後日,事務総局から措置の説明を受ける機会が設けられていた(宇賀・前掲106頁)。
視察日程の情報公開上の扱いは「憲法週間における最高裁判所判事の視察」で扱っている。

第5 外国出張

1 頻度と用務

藤田氏の在任当時,判事には3年に1度くらいの割合で外国出張の機会があった(藤田・前掲179頁)。
ただし,国際会議への出席等,最高裁判所が判事を出張させるにふさわしい用務がなければ公務出張は認められず,かつてのように判事が好きな時期に好きな場所へ出かけることはできなくなっていたという(藤田・前掲180頁)。
宇賀氏の在任当時は,特別の事情がない限り在任中1回に限られ,基本的に着任順に順番が回っていた(宇賀・前掲106頁)。
訪問先は各国の最高裁判所等の司法機関が中心であり,日本の裁判官等が留学している大学を訪ねることもあるとされる(宇賀・前掲106頁)。

2 支援体制

宇賀氏によれば,外国出張は最高裁判所事務総局秘書課の渉外第2係が中心となって支援し,参事官が訪問先の情報を詳細な資料にまとめ,随行者が現地の段取りを担う(宇賀・前掲107頁~108頁)。
訪問先への土産は公費で用意されるが,現地の大使館関係者等との会食の相手への土産は判事の私費であるという(宇賀・前掲108頁)。
秘書課の事務分掌は「最高裁判所事務総局秘書課の事務分掌」に掲載している。

3 報告と配偶者の同行

帰国後は,藤田氏の在任当時は裁判官会議で写真や資料を回覧しながら詳細な報告をし,調査官が開く昼食会でも出張の話をすることが求められた(藤田・前掲180頁)。
宇賀氏の在任当時も,他の裁判官に写真を見せながら報告して質問を受けることが慣行であり,任意で雑誌「法曹」に報告を掲載する判事もいた(宇賀・前掲108頁)。
藤田氏は,自己負担で配偶者を全行程に同行させたが,その後,自己負担であっても配偶者の同行は一切認められなくなったと聞いたと記している(藤田・前掲193頁~194頁)。

第6 判例委員会その他の委員会

1 判例委員会

藤田氏によれば,判例委員会は,最高裁判所判例集(民事判例集及び刑事判例集)の編集に責任を負う機関であり,登載する判例,判示事項及び判決要旨の文章を決める(藤田・前掲194頁)。
委員は各小法廷から2人ずつの判事で,互選により委員長を決めるが,通例は最も先任の委員が選ばれる(藤田・前掲194頁)。
藤田氏の在任当時は,原則として毎月1回,最終月曜日の午後に開かれ,首席調査官以下の調査官が幹事として出席し,調査官室が作る原案は原則として会議の1週間前に委員に配られていた(藤田・前掲194頁~195頁)。
判例集の登載は年間60~70件程度で,新受件数のおよそ1パーセントに当たり,最高裁判所での発行部数は判例集が約1500部,裁判集が毎号約60部であったという(藤田・前掲195頁,198頁)。
田原氏も在任の最後の約2年半は判例委員を務め,そのうち1年2か月は委員長であった(田原・前掲27頁)。
同氏は,調査官室が判例集の判決文に付ける傍線の部分がそのまま判例であるという見方には与せず,判例の射程は事案ごとに判断すべきだと述べている(田原・前掲27頁)。
判例委員会の現在の位置付けは「裁判所に設置されている主な委員会等」,調査官解説との関係は「最高裁判所判例解説(調査官解説)の意味・読み方・探し方」で扱っている。

2 図書館委員会と最高裁判所図書館

裁判所法14条の3は,最高裁判所に国立国会図書館の支部図書館として最高裁判所図書館を置くと定め,国立国会図書館法20条は,行政及び司法の各部門にある図書館を国立国会図書館の支部図書館とすることを定めている。
宇賀氏によれば,最高裁判所図書館の館長は刑事局長が兼ねている(宇賀・前掲96頁)。
図書館委員会は,判事等の内部委員と外国法等の研究者である外部委員から成り,外国の書籍やデータベースの購入について外部委員の評価を参考にしているという(宇賀・前掲108頁~109頁)。
宇賀氏は令和5年11月に委員となり,令和6年7月から委員長を務めた(宇賀・前掲109頁)。

他方,田原氏は,審議のために関連文献の購入を求めても入札まで待つよう言われ,判事に割り当てられた年間30万円の図書費も入札によらなければ使えなかったため,秘書官に国立国会図書館へ借りに行かせたことがあると述べている(田原・前掲23頁)。
同氏は,倒産等の実務書の蔵書に偏りがあることも指摘していた(田原・前掲24頁)。

3 その他の委員会

藤田氏によれば,事務総局が原案を作る過程では,外部の識者を交えた規則制定諮問委員会や下級裁判所裁判官指名諮問委員会等が検討を行い,それぞれ1人又は2人の判事が委員として加わっている(藤田・前掲163頁)。
藤田氏自身は,平成16年から退官まで,簡易裁判所判事選考委員会の委員長を務めた(藤田・前掲163頁)。
同氏は,在任中に下級裁判所裁判官指名諮問委員会の答申と異なる人事がされた例はないと述べている(藤田・前掲165頁)。

第7 長官代行と皇室会議

1 長官代行

長官代行は法令で定められた職ではない。
藤田氏は,長官代行は最高裁判所裁判事務処理規則8条及び最高裁判所長官の代理に関する規程(昭和22年最高裁判所規程第3号)に基づく裁判官会議の申合せによって置かれるものであり,特別の手当もないと説明する(藤田・前掲203頁)。
両規定の原文によれば,同規程は,長官に差支えがあるときに司法行政事務について長官を代理する者の順序を,裁判官会議の定める席次によるとしている(平成28年最高裁判所規程第3号による改正後のもの)。
同規則8条2項は,大法廷の裁判長である長官に差支えがあるときの代理順序について同規則4条を準用しており,その順序は毎年12月に裁判官会議の議により翌年分が定められる。
また,最高裁判所裁判官会議規程13条は,長官に差支えがあるときは,裁判官会議に関する長官の権限を,司法行政事務について長官を代理する者が行うと定めている。
申合せにより,長官を除く裁判官のうち席次が第1位の者,つまり最も早く就任した者が代行となる(藤田・前掲203頁,宇賀・前掲74頁)。
宇賀氏は,衆参両院の副議長や内閣総理大臣の臨時代理と異なり,法律に基づく地位ではないことを指摘している(宇賀・前掲74頁)。

藤田氏は,席次が第1位となるのは比較的若くして就任した学者出身又は行政官出身の判事であることが多く,同氏自身も在任期間の3分の1に当たる約2年半を長官代行として過ごしたと述べる(藤田・前掲203頁~204頁)。
同氏は,長官は司法行政の担い手であるため,高裁長官として司法行政を経験した裁判官出身者が就くのが実際上やむを得ず,代行の職務は宮中行事への参加や外国の賓客の接待等の儀典的なものがほとんどであると評している(藤田・前掲204頁)。
長官の任期,欠位及び代理の仕組みは「最高裁判所長官の任期と定年」で扱っている。

2 皇室会議

皇室典範28条2項は,皇室会議の議員に最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官1人を充てると定め,同条3項は,長たる裁判官以外の裁判官たる議員を,長たる裁判官以外の裁判官の互選によるとしている。
同法30条は,予備議員を置き,最高裁判所の裁判官たる議員の予備議員についても互選とし,その員数は議員と同数とすることを定め(同条2項,4項),同法32条は,長官以外の裁判官たる議員及び予備議員の任期を4年と定める。

藤田氏によれば,裁判官会議の申合せにより,長官代行が長官と共に皇室会議の議員となる裁判官とされている(藤田・前掲203頁)。
藤田氏の在任中には,それまで代行を務めていた席次第1位の判事が議員の任期満了の際に再任を固辞したため,席次第2位の藤田氏が代行となったという(藤田・前掲203頁)。
宇賀氏は,議員に長官代行が選ばれるのが慣例であり,予備議員には長官代行の次に先任の判事が第1順位,その次の判事が第2順位として選ばれるのが慣行であると説明している(宇賀・前掲74頁)。
藤田氏が代行を務めた約2年半の間に皇室会議が開かれることはなかった(藤田・前掲205頁)。

3 長官が欠けた期間

藤田氏は,長官の定年退官から後任の長官の就任までの3日ほどの間に宮中の行事があり,文字どおり長官の代わりとして出席したことを記している(藤田・前掲205頁)。
宇賀氏も,最高裁判所を代表して2人が行事に出席する場合は長官と長官代行が出席するのが通常であり,長官代行が長官の名代として出席することもあると述べる(宇賀・前掲74頁)。

第8 宮中行事

1 認証式と就任の挨拶

藤田氏は,就任の日の午後に皇居で認証式に臨み,天皇から言葉を受け,証書は侍立する大臣から受けたと記している(藤田・前掲23頁~24頁)。
翌日には,皇居等での記帳のほか,法務大臣,検事総長,日弁連会長,衆参両院の正副議長,内閣総理大臣及び宮内庁長官への挨拶に回った(藤田・前掲25頁~26頁)。
宇賀氏も,就任・退任の挨拶先として,内閣総理大臣,衆参両院議長,法務大臣,検事総長,日弁連会長のほか,皇室及び宮内庁長官を挙げている(宇賀・前掲112頁)。
同氏によれば,認証式等で皇居を訪れる際の男性のドレスコードはモーニングであり,任命の閣議決定の日に秘書課長からその有無を尋ねられたという(宇賀・前掲112頁)。
認証官任命式の手順は「親任式及び認証官任命式」で説明している。

2 年間の行事と出席の範囲

藤田氏は,在任最後の年に出席した宮中関係の行事を列挙した上で,行事ごとに出席の範囲が決まっていたと説明している(藤田・前掲206頁~208頁)。
同氏によれば,新年祝賀の儀,園遊会,鴨場での行事及び天皇との午餐会等は15人全員が招かれ,天皇誕生日の祝宴は長官と長官代行以外の判事が1年おきの半数交替で出席し,宮中祭祀は希望者が出席し,宮中晩餐会等は長官と長官代行だけが出席していた(藤田・前掲207頁~208頁)。
宇賀氏は,最高裁判所判事への就任と同時に,宮内庁が職務上関係する唯一の官庁になったと述べている(宇賀・前掲112頁)。

3 天皇へのお話と午餐

藤田氏によれば,平成18年までは,全国8高裁のうち4つの高裁の長官が1人10分程度,各地の司法の実情を天皇に説明し,その後に午餐会が開かれる「お話及び午餐」が行われ,判事全員と最高裁判所事務総長も陪席していた(藤田・前掲211頁)。
平成19年からは,天皇の公務負担を減らすため午餐会のみに縮小されたという(藤田・前掲211頁)。

第9 日常の執務と庁内の行事

1 一日の流れ

藤田氏の在任当時の一日は,午前8時半に専用車の迎えを受けて9時過ぎに登庁し,昼食は裁判官室でとり,夕方5時頃に退庁するというものであった(藤田・前掲57頁)。
毎週火曜日が第三小法廷の審議日(金曜日が予備日),毎週水曜日が裁判官会議であり,それ以外の時間は裁判官室で一人記録を読み続ける日々であったという(藤田・前掲57頁~58頁)。

2 裁判官室の体制

藤田氏の在任当時,各判事の「裁判官室」は,判事と専属の秘書官,事務官及び運転手の4人から成っていた(藤田・前掲36頁)。
宇賀氏の着任時も各判事に事務官が1人付いていたが,その後,事務官は秘書課での勤務を原則とする体制に変わった(宇賀・前掲99頁)。
宇賀氏は,判事が最も頻繁に意思疎通する相手は秘書官であり,1日に10回以上は会話すると述べている(宇賀・前掲110頁)。
秘書官の職務と身分は「裁判官秘書官の職務・身分・人数及び制度の沿革」で扱っている。

3 庁内の会食

藤田氏の在任当時は,原則として週1回,裁判官棟2階の「予備室」で,判事全員と首席・上席調査官,事務総局の幹部等が席を毎回替えて昼食をとる「予備室会食」があり,隔週でそのうち1回は判事だけの会食であった(藤田・前掲37頁)。
第三小法廷では,隔週の火曜日に各裁判官室を持ち回りにした昼食会が開かれていた(藤田・前掲38頁)。
宇賀氏の在任当時も,第三小法廷には隔週火曜日の昼食懇談会の慣行があり,審議事件の話は一切しないものとされていた(宇賀・前掲80頁)。

4 就任と退官の行事

藤田氏の就任記者会見は,最高裁判所の正面玄関の真上にある大応接室(貴賓室)で行われた(藤田・前掲25頁)。
就任時には,特別会議室で判事全員と事務総局の幹部等による歓迎昼食会が開かれた(藤田・前掲28頁)。
退官前の2か月は新たな事件の配点が行われず,退官の前後には,全調査官による送別会,調査官との昼食会での講話,小法廷の送別会,判事全員による送別会,記念写真の撮影等が続く(藤田・前掲216頁,222頁~225頁)。
田原氏も,民事事件については新任後1か月と退官前2か月は新たな配点がなく,退官前1か月は審議に加わらないことを説明している(田原・前掲8頁,10頁)。
記者会見と送別会の関係文書は,「最高裁判所判事の就任記者会見の関係文書」及び「最高裁判所裁判官の送別会関係資料」に掲載している。

第10 処遇と経費の規律

憲法79条6項は,最高裁判所の裁判官の報酬は在任中減額することができないと定めている。
藤田氏によれば,国家公務員の給与引下げに合わせて最高裁判所判事の報酬を下げることについて,最高裁判所が世情に鑑み自らの意思で減額することは憲法に違反しないという結論が同氏の就任前に裁判官会議で出されており,同氏が就任後に初めて出席した裁判官会議は判事の報酬の減額を承認するものであった(藤田・前掲178頁)。
同氏は,任期のほぼ半ばの時点で,退職金をそれまでの3分の1に減らす提案にも賛同することになったと記している(藤田・前掲178頁~179頁)。
これは,最高裁判所の裁判官の退職手当を,退職日の報酬月額に勤続期間1年につき「百分の六百五十」を乗じる方式から「百分の二百四十」を乗じる方式に改めた平成17年法律第117号(平成18年4月1日施行)に当たる(最高裁判所裁判官退職手当特例法2条1項)。
同法附則2項は,施行日の前日から在職していた裁判官について,施行日前の勤続期間は旧支給率で,施行日以後の勤続期間は新支給率で計算した額を合算するとしており,藤田氏が変更前の期間は旧方式で計算されたと記しているのは,この経過措置によるものである。
国会では,最高裁判所が,国家公務員の退職手当制度の見直しの機会に,独立行政法人等の役員の退職手当の改定等の社会全般の状況の変化や国の財政事情を踏まえて検討し,政府に立法を依頼したと説明されている(平成17年10月11日衆議院法務委員会における最高裁判所長官代理者の答弁)。
また,判事の宿舎は平成2年に「公邸」から「宿舎」に改められて家賃等の負担が生じ,庁内の会合や会食もすべて自己負担となっていたという(藤田・前掲20頁,28頁,178頁)。
裁判官の退職金の計算方法は「裁判官の退職金(退職手当)はいくらか」で扱っている。

第11 三つの回想から分かること

1 司法行政への関与の実際

3人の回想は,法律上は裁判官会議が司法行政の決定主体であるものの,実際の原案作成は事務総局と外部の識者を交えた委員会が担い,判事の関与は会議での承認,視察,出張報告及び委員会の委員としての活動が中心であるという点で,おおむね共通している。
他方で,田原氏は,判事15人が司法行政のトップにいるという自覚をどれだけ持っているかを問い,裁判官の外国語能力の育成など長期的な課題を司法行政として考えるべきだと述べている(田原・前掲31頁)。

2 時期による違い

長官所長会同で判事が発言する機会,外国出張の頻度,視察の日程や旅費の扱い,裁判官室の事務官の配置等は,3人の在任時期によって異なる。
回想の記述を現在の運用として引用するときは,その回想がどの時期を対象とするかを併記する必要がある。

3 資料の限界

3人はいずれも第三小法廷に所属した判事であり,他の小法廷の運用は必ずしも同じではない。
また,回想に記載された運用の多くは最高裁判所の公表資料で確認できるものではなく,本記事もそれを裏付けたものではない。

第12 出典・参考資料

1 法令

① 日本国憲法79条
② 裁判所法12条,13条,14条の3,53条及び54条
③ 皇室典範28条,30条及び32条
④ 国立国会図書館法20条
⑤ 最高裁判所裁判官退職手当特例法2条及び同法の一部を改正する法律(平成17年法律第117号)附則
⑥ 最高裁判所裁判事務処理規則4条及び8条,最高裁判所長官の代理に関する規程並びに最高裁判所裁判官会議規程13条

2 文献

① 藤田宙靖『最高裁回想録―学者判事の七年半』(有斐閣,2012年)3頁,20頁,23頁~38頁,57頁~58頁,163頁~211頁及び216頁~225頁
② 田原睦夫「最高裁生活を振り返って」金融法務事情1978号(平成25年)6頁~36頁
③ 宇賀克也『管見 最高裁判所』(有斐閣,2026年)2頁,74頁,78頁,80頁,96頁,99頁~112頁

3 国会会議録

① 第163回国会衆議院法務委員会第4号(平成17年10月11日)における最高裁判所長官代理者の答弁
② 第163回国会衆議院法務委員会第3号(平成17年10月7日)における法務大臣の趣旨説明

第13 関連記事

① 宇賀克也『管見 最高裁判所』から分かる最高裁判所の審理
② 最高裁判所裁判官会議
③ 長官所長会同
④ 憲法週間における最高裁判所判事の視察
⑤ 最高裁判所長官の任期と定年
⑥ 最高裁判所長官の地位,権限及び選任
⑦ 裁判官秘書官の職務・身分・人数及び制度の沿革
⑧ 親任式及び認証官任命式
⑨ 宇賀克也の経歴