第1 この記事の対象と資料
1 使用する資料
本記事は,最高裁判所の医事関係訴訟委員会が第37回会議(令和8年5月27日)の資料として公表した「医事関係訴訟に関する統計」(全9頁)を基に,医療訴訟の件数,審理期間,終局の仕方,判決の認容率及び診療科目別の件数を整理するものである。
統計は平成11年から令和7年までの暦年の数値を載せており,令和7年の数値は速報値である。
本記事の数値は,同資料の各頁の表とグラフの数値を転記したものであり,資料にない差や比率を示すときは「本記事の計算」と明記する。
この統計の「医事関係訴訟事件」には,地方裁判所と簡易裁判所の事件が含まれる(同資料1頁~4頁の注)。
平成16年までの数値は各庁からの報告に基づく概数であり,診療科目別の新受件数も概数である。
統計の下の欄には必ず注が付いているので,数値を引用するときは注も併せて確かめる必要がある。
2 迅速化検証報告書の数値との違い
医療訴訟の件数と審理期間は,最高裁判所の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」にも載っている。
ただし,同報告書は事件票で「医療損害賠償」に区分された訴訟を集計しており(第11回報告書63頁注1),委員会の統計とは集計の範囲と時点が異なる。
例えば,令和6年の新受件数は,委員会の統計では664件,第11回報告書では658件であり,令和6年の平均審理期間は,委員会の統計では24.7月,同報告書では24.9月である。
どちらが正しいというものではなく,出典を示して使い分ければよい。
鑑定を実施した事件の割合や,審理期間が2年を超える事件の割合は,委員会の統計にはなく,迅速化検証報告書にだけ載っている(第7で紹介する)。
医療訴訟で鑑定人がどのように選ばれるかは,医療訴訟の鑑定人はどう選ばれるかで扱っている。
第2 新受件数と既済件数
1 平成11年から令和7年までの推移
委員会の統計(1頁~3頁)による各年の数値は,次のとおりである。
平均審理期間は既済事件のものであり,地裁民事第一審通常訴訟事件の数値は医事関係訴訟事件を含む。
| 年 | 新受 | 既済 | 平均審理期間(医事) | 平均審理期間(地裁民事通常) |
|---|---|---|---|---|
| 平成11年 | 678件 | 569件 | 34.5月 | 9.2月 |
| 平成12年 | 795件 | 691件 | 35.6月 | 8.8月 |
| 平成13年 | 824件 | 722件 | 32.6月 | 8.5月 |
| 平成14年 | 906件 | 869件 | 30.9月 | 8.3月 |
| 平成15年 | 1003件 | 1035件 | 27.7月 | 8.2月 |
| 平成16年 | 1110件 | 1004件 | 27.3月 | 8.3月 |
| 平成17年 | 999件 | 1062件 | 26.9月 | 8.4月 |
| 平成18年 | 913件 | 1139件 | 25.1月 | 7.8月 |
| 平成19年 | 944件 | 1027件 | 23.6月 | 6.8月 |
| 平成20年 | 876件 | 986件 | 24.0月 | 6.5月 |
| 平成21年 | 732件 | 952件 | 25.2月 | 6.5月 |
| 平成22年 | 791件 | 921件 | 24.4月 | 6.8月 |
| 平成23年 | 771件 | 801件 | 25.1月 | 7.5月 |
| 平成24年 | 792件 | 844件 | 24.5月 | 7.8月 |
| 平成25年 | 802件 | 805件 | 23.3月 | 8.2月 |
| 平成26年 | 865件 | 795件 | 22.6月 | 8.5月 |
| 平成27年 | 832件 | 787件 | 22.8月 | 8.7月 |
| 平成28年 | 864件 | 790件 | 23.2月 | 8.6月 |
| 平成29年 | 828件 | 780件 | 24.4月 | 8.7月 |
| 平成30年 | 773件 | 806件 | 23.5月 | 9.0月 |
| 令和元年 | 800件 | 853件 | 25.2月 | 9.5月 |
| 令和2年 | 741件 | 666件 | 26.1月 | 9.9月 |
| 令和3年 | 752件 | 850件 | 26.7月 | 10.5月 |
| 令和4年 | 651件 | 806件 | 26.4月 | 10.5月 |
| 令和5年 | 611件 | 764件 | 26.4月 | 9.8月 |
| 令和6年 | 664件 | 683件 | 24.7月 | 9.2月 |
| 令和7年 | 676件 | 674件 | 24.1月 | 8.9月 |
2 件数の読み方
新受件数は平成16年の1110件が最も多く,その後は減少して,令和5年の611件が最も少ない。
令和6年は664件,令和7年は676件と,やや増えている。
令和3年から令和5年までは,既済件数が新受件数を毎年約100件から150件上回っていた(本記事の計算で,令和3年98件,令和4年155件,令和5年153件)。
令和7年は新受と既済がほぼ同じ数である。
平成16年の新受件数は,平成17年6月頃の委員会の答申では1107件とされていたが,現在の統計では1110件である。
改められているのは概数の時期だけではない。
令和7年6月30日に公表された前年の統計と比べると,新受件数は,平成29年が827件から828件に,令和元年が801件から800件に,令和2年が740件から741件に,令和3年が750件から752件に,令和5年が606件から611件に,令和6年が661件(速報値)から664件に改められている。
古い資料の数値は,最新の統計で確かめてから使う必要がある。
第3 平均審理期間
令和7年の医事関係訴訟の平均審理期間は24.1月で,地裁民事第一審通常訴訟事件の8.9月の約2.7倍である(本記事の計算)。
平成12年の35.6月から平成26年の22.6月まで短くなった後,令和3年の26.7月まで長くなり,その後の2年は短くなっている。
第11回の迅速化検証報告書は,令和2年以降の長期化について,新型コロナウイルス感染症の感染拡大と緊急事態宣言に伴う裁判所の業務の縮小の影響もあるとみている(同報告書63頁注2)。
依頼者には,第一審だけで2年前後を目安として示し,鑑定や多数の証人尋問が必要な事件はさらに長くなりうると説明するのが適切である。
第4 終局区分(和解・判決・その他)
委員会の統計(4頁)による終局区分別の割合は,次のとおりである。
「その他」には,請求の認諾,請求の放棄,取下げ等が含まれる。
| 年 | 和解 | 判決 | その他 | 地裁民事通常の和解 |
|---|---|---|---|---|
| 平成28年 | 51.1% | 34.1% | 14.8% | 35.8% |
| 平成29年 | 54.5% | 32.6% | 12.9% | 36.3% |
| 平成30年 | 52.4% | 31.4% | 16.3% | 37.1% |
| 令和元年 | 55.7% | 29.7% | 14.7% | 38.5% |
| 令和2年 | 53.3% | 30.5% | 16.2% | 35.3% |
| 令和3年 | 52.5% | 32.6% | 14.9% | 36.9% |
| 令和4年 | 52.9% | 31.8% | 15.4% | 32.8% |
| 令和5年 | 54.5% | 36.1% | 9.4% | 32.6% |
| 令和6年 | 51.0% | 37.3% | 11.7% | 31.6% |
| 令和7年 | 51.3% | 35.8% | 12.9% | 30.3% |
医事関係訴訟は,毎年,半数以上が和解で終わっている。
地裁民事第一審通常訴訟事件の和解の割合は3割台であり,医療訴訟の和解の割合はこれより15ポイントから21ポイント程度高い(本記事の計算)。
判決で終わる割合は,令和5年以降,36%前後とやや高くなっている。
第5 判決の認容率
1 平成28年から令和7年までの推移
認容率は,判決総数に対して認容(一部認容を含む)の件数が占める割合である。
医事関係訴訟の認容率は,地方裁判所の事件を基礎としている(同資料5頁の注)。
| 年 | 医事関係訴訟(地裁) | 地裁民事通常(全体) | 地裁民事通常(人証調べを実施した事件) |
|---|---|---|---|
| 平成28年 | 17.6% | 80.0% | 61.5% |
| 平成29年 | 20.5% | 84.9% | 61.4% |
| 平成30年 | 18.5% | 85.5% | 61.4% |
| 令和元年 | 17.0% | 85.9% | 61.9% |
| 令和2年 | 22.2% | 86.7% | 61.0% |
| 令和3年 | 20.1% | 84.3% | 60.3% |
| 令和4年 | 18.4% | 84.3% | 59.9% |
| 令和5年 | 20.0% | 86.3% | 58.9% |
| 令和6年 | 17.8% | 87.5% | 59.8% |
| 令和7年 | 23.9% | 87.2% | 59.2% |
2 認容率の読み方
医事関係訴訟の認容率は,10年間を通じて17%から24%の範囲にあり,令和7年の23.9%はこの10年間で最も高い。
人証調べを実施した通常訴訟でも約6割が認容されていることと比べると,判決まで争われた医療訴訟で患者側の請求が認められる割合は大きく低い。
もっとも,この認容率は判決で終わった事件だけを分母にしている。
医療訴訟の半数以上は和解で終わっており,和解の内容(解決金の有無や額)は統計に表れないから,認容率を「患者側が勝てる割合」とそのまま読み替えることはできない。
また,判決まで進むのは和解で折り合えなかった事件であり,判決に至る事件の性質自体が偏っている可能性があると考えられる。
第6 診療科目別の件数
1 令和7年の新受件数と既済件数
委員会の統計(6頁・7頁)は,地方裁判所の事件について,診療科目別の割合を示している。
複数の診療科目に当たる事件は,主要な1科目に計上されている。
資料は,この数値が各診療科における医療事故の起こりやすさを表すものではないと注意書きしている。
| 診療科目 | 新受件数 | 新受の割合 | 既済件数 | 既済の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 内科 | 139件 | 21.6% | 158件 | 24.0% |
| 外科 | 79件 | 12.2% | 88件 | 13.4% |
| 歯科 | 92件 | 14.3% | 77件 | 11.7% |
| 整形外科 | 56件 | 8.7% | 58件 | 8.8% |
| 形成外科 | 54件 | 8.4% | 38件 | 5.8% |
| 精神科(神経科) | 22件 | 3.4% | 36件 | 5.5% |
| 産婦人科 | 30件 | 4.7% | 36件 | 5.5% |
| その余の診療科目 | 173件 | 26.8% | 166件 | 25.3% |
| 合計 | 645件 | ― | 657件 | ― |
新受件数では,歯科が内科に次いで2番目に多く,形成外科も整形外科とほぼ同じ件数になっている。
形成外科の新受件数(54件)は既済件数(38件)を上回っている。
新受件数は概数,既済件数は速報値とされている。
2 既済件数の推移(平成29年から平成31年・令和元年まで)
委員会の統計(9頁)による各年の既済件数は,次のとおりである。
平成31年と令和元年は1つの列にまとめられている。
| 診療科目 | 平成29年 | 平成30年 | 平成31年・令和元年 |
|---|---|---|---|
| 内科 | 179件 | 194件 | 192件 |
| 外科 | 112件 | 122件 | 129件 |
| 歯科 | 88件 | 98件 | 84件 |
| 整形外科 | 100件 | 85件 | 108件 |
| 形成外科 | 30件 | 24件 | 35件 |
| 精神科(神経科) | 28件 | 37件 | 35件 |
| 産婦人科 | 54件 | 47件 | 44件 |
| 眼科 | 22件 | 19件 | 26件 |
| 泌尿器科 | 8件 | 16件 | 19件 |
| 皮膚科 | 12件 | 17件 | 13件 |
| 小児科 | 10件 | 7件 | 8件 |
| 耳鼻咽喉科 | 8件 | 10件 | 10件 |
| 麻酔科 | 9件 | 4件 | 8件 |
| その他 | 91件 | 90件 | 110件 |
| 合計 | 751件 | 770件 | 821件 |
3 既済件数の推移(令和2年から令和4年まで)
| 診療科目 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 |
|---|---|---|---|
| 内科 | 174件 | 238件 | 195件 |
| 外科 | 78件 | 98件 | 142件 |
| 歯科 | 76件 | 100件 | 95件 |
| 整形外科 | 73件 | 87件 | 88件 |
| 形成外科 | 32件 | 27件 | 27件 |
| 精神科(神経科) | 30件 | 26件 | 27件 |
| 産婦人科 | 38件 | 51件 | 41件 |
| 眼科 | 19件 | 17件 | 12件 |
| 泌尿器科 | 23件 | 16件 | 10件 |
| 皮膚科 | 11件 | 8件 | 10件 |
| 小児科 | 7件 | 16件 | 13件 |
| 耳鼻咽喉科 | 9件 | 10件 | 5件 |
| 麻酔科 | 5件 | 9件 | 9件 |
| その他 | 72件 | 117件 | 127件 |
| 合計 | 647件 | 820件 | 801件 |
4 既済件数の推移(令和5年から令和7年まで)
| 診療科目 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 |
|---|---|---|---|
| 内科 | 189件 | 185件 | 158件 |
| 外科 | 106件 | 76件 | 88件 |
| 歯科 | 99件 | 93件 | 77件 |
| 整形外科 | 82件 | 65件 | 58件 |
| 形成外科 | 34件 | 42件 | 38件 |
| 精神科(神経科) | 27件 | 31件 | 36件 |
| 産婦人科 | 35件 | 31件 | 36件 |
| 眼科 | 22件 | 14件 | 16件 |
| 泌尿器科 | 7件 | 17件 | 13件 |
| 皮膚科 | 10件 | 14件 | 12件 |
| 小児科 | 14件 | 8件 | 10件 |
| 耳鼻咽喉科 | 15件 | 13件 | 5件 |
| 麻酔科 | 4件 | 4件 | 5件 |
| その他 | 115件 | 84件 | 105件 |
| 合計 | 759件 | 677件 | 657件 |
5 推移の読み方
整形外科の既済件数は,平成29年の100件から令和7年の58件に減り,産婦人科は54件から36件に減っている。
他方,精神科(神経科)は令和7年に36件と,平成30年の37件に次ぐ多さである。
形成外科は令和6年に42件と,平成29年以降で最も多くなった。
医事関係訴訟委員会の議事要旨には,産科医療補償制度の導入によって脳性麻痺をめぐる訴訟が減ったとみる委員の発言が記録されている(第25回・第29回)。
もっとも,統計そのものは件数の増減の理由を示していないので,特定の診療科の件数の変化を事故の増減と結び付けて説明することはできない。
第7 鑑定と審理期間(迅速化検証報告書から)
委員会の統計には,鑑定の実施率や審理期間の分布は載っていない。
第11回の迅速化検証報告書によれば,令和6年に終わった医事関係訴訟(医療損害賠償)については,次の数値が示されている。
①平均審理期間は24.9月で,審理期間が2年を超える事件の割合は42.9%(同報告書63頁・64頁)
②和解で終局した事件の割合は51.5%(同報告書64頁)
③鑑定を実施した事件の割合は4.4%で,鑑定を実施した事件の平均審理期間は54.8月(同報告書69頁)
鑑定を実施した事件の平均審理期間は,医事関係訴訟全体の平均の2倍を超えている(本記事の計算)。
鑑定まで進む事件は争点が医学的に難しい事件なので,鑑定そのものの期間だけで長くなっているわけではない。
それでも,鑑定を実施した事件の平均が約4年半であることは,鑑定を申し出るかを依頼者と相談するときに伝えておくべき数値である。
第8 依頼者に説明するときの注意
依頼者への見通しの説明に統計を使うときは,次の点に注意する。
①平均審理期間は既に終わった事件の平均であり,係属中の事件がいつ終わるかを示すものではない。
②認容率は判決で終わった事件だけを分母にしており,和解で終わった事件の実質的な結果は反映されていない。
③診療科目別の件数は,その診療科で医療事故が起こりやすいことを示すものではない。
④令和7年の数値は速報値であり,平成16年までの数値と診療科目別の新受件数は概数である。
⑤委員会の統計と迅速化検証報告書とでは,集計の範囲が異なり,同じ年の件数や審理期間が一致しない。
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第10 出典
1 統計・報告書
①最高裁判所・医事関係訴訟委員会「医事関係訴訟に関する統計」(第37回医事関係訴訟委員会(令和8年5月27日)配付)
②最高裁判所「医事関係訴訟委員会について」(統計と議事要旨の掲載ページ)
③最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」第3章(令和7年7月)(63頁,64頁,69頁を使用)
④医事関係訴訟委員会「答申」(平成17年6月頃)
⑤最高裁判所・医事関係訴訟委員会「医事関係訴訟に関する統計」(令和7年6月30日公表・前年版)
* 本記事は特定の裁判例を根拠としていないため,判例秘書による判例本文の確認は行っていない。