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消滅時効を援用できるのは誰か―保証人・物上保証人・第三取得者,後順位抵当権者及び詐害行為の受益者(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,消滅時効を援用することができる者(援用権者)の範囲を,民法145条と最高裁判例に沿って整理するものである。
債務者本人のほか,保証人,物上保証人,担保不動産の第三取得者,後順位抵当権者,詐害行為の受益者,債務者の債権者がそれぞれ援用できるかを扱い,あわせて援用の効果の相対性と,保証人の援用と主たる債務者の承認との関係を述べる。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索(法令API)で取得した同日時点の現行民法と,平成29年法律第44号による改正前の民法で確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判示事項・裁判要旨と全文を確認した。
消滅時効の全体像は,消滅時効に関するメモ書きで整理している。

2 結論

①消滅時効は,当事者が援用しなければ裁判所はこれによって裁判をすることができず,消滅時効の当事者には保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者が含まれる(民法145条)。
②判例は,援用できる者を「権利の消滅により直接利益を受ける者」に限っており,令和2年4月1日施行の改正で置かれた括弧書は,この判例の到達点を条文化したものと位置付けられる。
③保証人,物上保証人(最高裁昭和43年9月26日判決),抵当不動産の第三取得者(最高裁昭和48年12月14日判決),詐害行為の受益者(最高裁平成10年6月22日判決)は援用できる。
④後順位抵当権者は,先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できない(最高裁平成11年10月21日判決)。
⑤債務者の一般債権者は,自らは援用権者ではないが,債権を保全するのに必要な限度で,債務者に代位して援用することができる(最高裁昭和43年9月26日判決)。
⑥主たる債務者が破産免責を受けた場合や,主たる債務者である会社が破産手続の終結で消滅した場合には,保証人は主たる債務の消滅時効を援用できない(最高裁平成11年11月9日判決,最高裁平成15年3月14日判決)。
⑦時効の利益の放棄の効果は相対的であり,債務者が放棄しても物上保証人等の援用には影響しない(最高裁昭和42年10月27日判決)。
⑧主たる債務者に対する完成猶予・更新は保証人にも効力を生ずる(民法457条1項)から,主たる債務者が時効完成前に債務を承認すると,保証人も,承認より前に経過した期間を理由に主たる債務の時効を援用することはできなくなる(承認の時から新たに進行する期間が満了すれば,改めて援用することができる。)。

第2 民法145条の構造

1 条文

現行の民法145条は,「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」と定める。
平成29年法律第44号による改正前の民法145条は,「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」と定めており,括弧書はなかった。
改正前は「当事者」の範囲が解釈に委ねられていたため,誰が援用できるかは判例によって個別に決められてきた。

2 「直接利益を受ける者」という基準

最高裁判所第二小法廷昭和42年10月27日判決(昭和39年(オ)第523号,民集21巻8号2110頁)は,民法145条の趣旨を,消滅時効については「時効を援用しうる者を権利の時効消滅により直接利益を受ける者に限定したもの」と述べた。
その後の最高裁判決も,民法145条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は,権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されるという基準を繰り返している(最高裁平成10年6月22日判決,最高裁平成11年10月21日判決)。
現行145条の括弧書が掲げる「保証人、物上保証人、第三取得者」は,この基準によって判例が援用を認めてきた者の例示であり,「その他権利の消滅について正当な利益を有する者」に当たるかどうかは,引き続き判例の基準を手掛かりに判断することになると考えられる。

3 施行日前に生じた債権

施行日(令和2年4月1日)前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合で,その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。)のその債権の消滅時効の援用については,現行145条にかかわらず,なお従前の例による(平成29年法律第44号附則10条1項)。
もっとも,改正前の判例は改正前145条の「当事者」の解釈として援用権者の範囲を定めてきたから,施行日前に生じた債権でも,本記事で紹介する判例がそのまま当てはまる。
新旧の振り分けの詳細は,消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表で扱う。

第3 援用できる者

1 保証人・連帯保証人

保証人は,主たる債務が時効で消滅すれば,保証債務の附従性により自らの保証債務も消滅するから,主たる債務の消滅時効を援用することができる。
現行145条は保証人を明示している。
保証人は,主たる債務の時効とは別に,保証債務自体の消滅時効を援用することもできる。
保証人が援用する場面に特有の問題は,第5と第6で述べる。

2 物上保証人

(1) 抵当権を設定した物上保証人

最高裁判所第一小法廷昭和43年9月26日判決(昭和41年(オ)第77号,民集22巻9号2002頁)は,「他人の債務のために自己の所有物件に抵当権を設定した者は、右債務の消滅時効を援用することができる。」とした(裁判要旨)。
同判決は,物上保証人も被担保債権の消滅によって直接利益を受ける者というを妨げないから,民法145条にいう当事者に当たるとした。

(2) 譲渡担保を供した者

これより先に,昭和42年10月27日判決は,他人の債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者も,その債務の消滅時効を援用することができるとした。
同判決は,質権又は抵当権を設定した物上保証人が民法145条の当事者に当たるとした上で,これと見解を異にする大審院明治43年1月25日判決を変更し,譲渡担保を供した者も被担保債権の消滅によって利益を受ける点で物上保証人と異ならないとした。

(3) 物上保証人による承認

物上保証人が被担保債権の存在を承認しても,その承認は(改正前民法147条3号の)承認に当たらず,物上保証人に対する関係においても時効中断の効力を生ずる余地はない(最高裁判所第一小法廷昭和62年9月3日判決,昭和58年(オ)第45号,集民151号633頁)。
物上保証人は被担保債権の債務者ではないから,被担保債権の時効を更新させる承認をする立場にないことによるものと考えられる。

3 担保不動産の第三取得者

(1) 抵当不動産の第三取得者

最高裁判所第二小法廷昭和48年12月14日判決(昭和45年(オ)第719号,民集27巻11号1586頁)は,「抵当不動産の譲渡を受けた第三者は、抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。」とした(裁判要旨)。
第三取得者は,被担保債権が消滅すれば抵当権が消滅し,所有権を全うすることができる関係にあり,逆に援用できないとすると,抵当権の実行によって所有権を失うことがあり得るからである(この対比は,後述の平成11年10月21日判決が説明している)。

(2) 仮登記のある不動産の第三取得者

最高裁判所第一小法廷平成4年3月19日判決(平成2年(オ)第742号,民集46巻3号222頁)は,売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記のされた不動産につき所有権移転登記を経由した第三取得者は,予約完結権の消滅時効を援用することができるとした。
被担保債権そのものではなく予約完結権の時効であるが,その権利が消滅すれば仮登記に基づく本登記によって所有権を失うおそれがなくなるという関係にある点で,抵当不動産の第三取得者と共通する。

4 詐害行為の受益者

最高裁判所第二小法廷平成10年6月22日判決(平成6年(オ)第586号,民集52巻4号1195頁)は,詐害行為の受益者は,詐害行為取消権を行使する債権者の債権の消滅時効を援用することができるとした。
同判決は,受益者は詐害行為取消権行使の直接の相手方とされている上,取消権が行使されると詐害行為によって得ていた利益を失う関係にあり,その反面,取消債権者の債権が消滅すれば利益の喪失を免れることができる地位にあるから,直接利益を受ける者に当たるとした。
同判決は,これと見解を異にする大審院昭和3年11月8日判決を変更している。
また,同判決は,取消債権者が主たる債務者に対して有する債権が消滅すれば連帯保証債務履行請求権も当然に消滅するとして,受益者がその主たる債務の消滅時効も援用し得るとしている。

5 債務者の債権者による代位援用

債務者の一般債権者は,債務者が他の債権者に対して負う債務が時効で消滅すれば,債務者の責任財産が増えるという関係にあるが,それは直接の利益とはいえないため,自らの立場では援用できないと解されている。
もっとも,昭和43年9月26日判決は,「債権者は、自己の債権を保全するに必要な限度で、債務者に代位して、他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することができる。」とした(裁判要旨)。
同判決は,債務者が物上保証人となっている場合の被担保債権の消滅時効についても,債務者の資力が自己の債権の弁済を受けるのに十分でない限り,債権者が債務者に代位して援用できるとした。
同判決には,時効の援用は援用権者の意思に委ねられた権利であるから代位行使は許されないとする反対意見が付されている。
現行法では,債権者代位権は民法423条1項に定められ,債務者の一身に専属する権利等は代位の対象から除かれている(同項ただし書)。

第4 援用できない者

1 後順位抵当権者

最高裁判所第一小法廷平成11年10月21日判決(平成9年(オ)第1771号,民集53巻7号1190頁)は,後順位抵当権者は,先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができないとした。
同判決は,後順位抵当権者は,目的不動産の価格から先順位抵当権によって担保される債権額を控除した価額についてのみ優先して弁済を受ける地位を有するものであるとした。
先順位抵当権の被担保債権が消滅すると順位が上昇し配当額が増加することがあり得るが,「この配当額の増加に対する期待は、抵当権の順位の上昇によってもたらされる反射的な利益にすぎない」とした。
その上で,第三取得者は援用できないと抵当権の実行によって所有権を失う不利益を受けることがあり得るのに対し,後順位抵当権者は援用できなくても従前の順位に応じて弁済を受ける地位が害されるわけではないとして,両者の地位の違いを説明している。

2 免責を受けた債務の保証人

最高裁判所第三小法廷平成11年11月9日判決(平成9年(オ)第426号,民集53巻8号1403頁)は,主債務者である破産者が免責決定を受けた場合に,免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は,その債権についての消滅時効を援用することができないとした。
同判決は,免責決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,もはや「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないことを理由とする。
免責許可の決定は,破産債権者が破産者の保証人に対して有する権利に影響を及ぼさない(破産法253条2項)から,保証人は保証債務の履行を免れない。
この場合に保証人が主張できるのは,保証債務自体の消滅時効である。
同じ理由で,免責された被担保債権の抵当権が問題となる場面は,破産免責後の抵当権の消滅時効―民法396条の不適用と最高裁平成30年2月23日判決で扱う。

3 破産手続の終結で消滅した会社の保証人

最高裁判所第二小法廷平成15年3月14日判決(平成13年(受)第751号,民集57巻3号286頁)は,破産終結決定がされて法人格が消滅した会社を主債務者とする保証人は,主債務についての消滅時効が会社の法人格の消滅後に完成したことを主張してこれを援用することはできないとした。
同判決は,会社の法人格が消滅した場合には会社の負担していた債務も消滅し,もはや存在しない債務について時効による消滅を観念する余地はなく,この理は保証人がある場合も変わらないとした。
同判決は,保証債務自体の時効消滅や,保証人による保証債務の承認の主張について審理を尽くさせるため,事件を原審に差し戻している。

第5 援用の方法と効果の相対性

1 援用の方法

援用は,時効の利益を受ける意思を表示するものであり,訴訟では抗弁として主張し,訴訟外では相手方に対する意思表示として行う。
訴訟外で援用するときは,後日の紛争に備え,内容証明郵便等の記録が残る方法で,どの債権についての時効を援用するかを特定して通知するのが通常である。
援用しなければ裁判所は時効によって裁判をすることができない(民法145条)から,訴訟で時効を主張し忘れると,時効期間が経過していても請求が認容され得る。

2 効果の相対性

昭和42年10月27日判決は,「時効の利益の放棄の効果は相対的であり、被担保債権の消滅時効完成の利益を債務者が放棄しても、その効果は物上保証人ないし本件のように右債権につき自己の所有物件を譲渡担保に供した者に影響を及ぼすものではない」とした。
援用についても,援用した者との関係でのみ効果を生じ,他の援用権者が援用するかどうかはそれぞれの判断に委ねられると一般に解されている。
例えば,物上保証人が被担保債権の消滅時効を援用して抵当権の抹消を求めても,債務者自身が援用していなければ,債権者は債務者に対して履行を求めることができると考えられる。
債務者が時効完成後に承認して援用できなくなった場合の保証人・物上保証人への影響は,時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないか―最高裁昭和41年4月20日大法廷判決と再度の時効で扱う。

第6 保証人の援用と主たる債務者の承認

1 民法457条1項

民法457条1項は,「主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。」と定める。
したがって,主たる債務者が時効期間の経過前に債務を承認し,主たる債務の時効が更新されれば,その効果は保証人にも及び,保証人は更新前の期間の経過を理由に主たる債務の時効を援用することはできない。
これは,時効の完成猶予・更新の効力は当事者及びその承継人の間でのみ生ずるという原則(民法153条)の例外である。
承認による更新そのものは,債務の承認による時効の更新―一部弁済,破産管財人の承認及び相続人への通知で扱う。

2 保証人が主たる債務を相続した場合

最高裁判所第二小法廷平成25年9月13日判決(平成23年(受)第2543号,民集67巻6号1356頁)は,保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合,当該弁済は,特段の事情のない限り,主たる債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を中断する効力を有するとした。
同判決は,主たる債務者兼保証人の地位にある個人が,主たる債務者としての地位と保証人としての地位により異なる行動をすることは想定し難いことを理由に挙げ,その中断は保証人として援用する主たる債務及び保証債務の消滅時効に対しても効力を生ずるとした(民法457条1項)。

3 保証人に対する請求・保証人の承認

保証人に対する履行の請求や保証人による承認は,原則として主たる債務の時効に影響しない(民法153条)。
連帯保証人について生じた事由のうち,主たる債務者に効力を及ぼすのは更改,相殺及び混同に限られ(民法458条による438条,439条1項,440条の準用),履行の請求や承認は含まれない。
ただし,債権者と主たる債務者が別段の意思を表示していたときは,その意思に従う(民法458条による441条ただし書の準用)。
これに対し,施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については,なお従前の例による(平成29年法律第44号附則21条1項)。
改正前民法458条は,連帯債務者の一人に対する履行の請求が他の連帯債務者に対しても効力を生ずるとする改正前民法434条等を,主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合に準用していた。
したがって,古い連帯保証契約では,連帯保証人に対する履行の請求が主たる債務の時効にも影響する余地がある点に注意を要する。

第7 援用権者ごとの整理

援用しようとする者援用の可否根拠
債務者できる民法145条
保証人・連帯保証人できる民法145条(主たる債務者が免責を受けた場合,法人格が消滅した場合を除く。平成11年11月9日判決,平成15年3月14日判決)
物上保証人できる民法145条,昭和43年9月26日判決
譲渡担保を供した者できる昭和42年10月27日判決
抵当不動産の第三取得者できる民法145条,昭和48年12月14日判決
仮登記のある不動産の第三取得者(予約完結権)できる平成4年3月19日判決
詐害行為の受益者できる平成10年6月22日判決
後順位抵当権者できない平成11年10月21日判決
債務者の一般債権者代位による場合に限りできる昭和43年9月26日判決,民法423条

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破産免責の許可・不許可の限界事例

第9 出典・参考資料

1 法令

①民法(明治29年法律第89号)145条,153条,423条,438条,439条,440条,457条,458条(e-Gov法令検索・法令APIで令和8年9月19日時点の条文を確認)
②平成29年法律第44号による改正前の民法145条,147条,434条,457条,458条(e-Gov法令APIで令和2年3月31日時点の条文を確認)
③民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条,21条(同上)
④破産法(平成16年法律第75号)253条(e-Gov法令APIで確認)

2 裁判例

①最高裁判所第二小法廷昭和42年10月27日判決(昭和39年(オ)第523号,民集21巻8号2110頁)裁判所ウェブサイト
②最高裁判所第一小法廷昭和43年9月26日判決(昭和41年(オ)第77号,民集22巻9号2002頁)裁判所ウェブサイト
③最高裁判所第二小法廷昭和48年12月14日判決(昭和45年(オ)第719号,民集27巻11号1586頁)裁判所ウェブサイト
④最高裁判所第一小法廷昭和62年9月3日判決(昭和58年(オ)第45号,集民151号633頁)裁判所ウェブサイト
⑤最高裁判所第一小法廷平成4年3月19日判決(平成2年(オ)第742号,民集46巻3号222頁)裁判所ウェブサイト
⑥最高裁判所第二小法廷平成10年6月22日判決(平成6年(オ)第586号,民集52巻4号1195頁)裁判所ウェブサイト
⑦最高裁判所第一小法廷平成11年10月21日判決(平成9年(オ)第1771号,民集53巻7号1190頁)裁判所ウェブサイト
⑧最高裁判所第三小法廷平成11年11月9日判決(平成9年(オ)第426号,民集53巻8号1403頁)裁判所ウェブサイト
⑨最高裁判所第二小法廷平成15年3月14日判決(平成13年(受)第751号,民集57巻3号286頁)裁判所ウェブサイト
⑩最高裁判所第二小法廷平成25年9月13日判決(平成23年(受)第2543号,民集67巻6号1356頁)裁判所ウェブサイト