第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,時効の完成が迫ったときに訴えを提起せずにとれる二つの手段,すなわち内容証明郵便等による催告(民法150条)と協議を行う旨の合意(民法151条)について,効果,限界及び組合せの制限を整理するものである。
調査基準日は令和8年9月19日であり,条文はe-Gov法令検索で取得した現行民法及び平成29年法律第44号附則の本文と照合した。
完成猶予と更新の区別そのものは時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧で,消滅時効全体の見取り図は消滅時効に関するメモ書きで扱っている。
2 結論
内容証明郵便で支払を求める催告をすると,その時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予されるが,時効期間が振り出しに戻るわけではない。
催告による6か月の間に再び催告をしても,完成猶予の期間は延びない(民法150条2項)。
したがって,催告をしたら,6か月以内に訴えの提起,支払督促の申立て,調停の申立て等の手続をとる必要がある。
当事者双方が話合いを続けるつもりであれば,協議を行う旨の合意を書面又は電磁的記録で交わすことにより,原則として合意から1年間,時効の完成を猶予させることができる(民法151条1項・4項)。
協議の合意は猶予期間中に繰り返すことができるが,本来の時効完成時から通算して5年を超えることはできない(同条2項)。
催告で完成が猶予されている間にした協議の合意,及び協議の合意で完成が猶予されている間にした催告は,いずれも完成猶予の効力を持たない(同条3項)。
令和2年3月31日以前に書面で交わした協議の合意には,民法151条は適用されない(平成29年法律第44号附則10条3項)。
第2 催告による完成猶予
1 条文
民法150条1項は「催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と定める。
同条2項は「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。」と定める。
催告は,債権者が債務者に対して裁判外で履行を請求することであり,方式の定めはない。
内容証明郵便(配達証明付き)を使うのは,催告をしたこと,その内容及び到達の日を後で証明できるようにするためである。
催告の効力は,相手方に到達した時に生ずると考えるのが通常であり(民法97条1項参照),6か月の起算も到達の時を基準にしておくのが安全である。
2 催告は時効期間を振り出しに戻さない
改正前民法153条は,催告は6か月以内に裁判上の請求等をしなければ時効の中断の効力を生じないと定めていた。
現行法は,催告を完成猶予事由とし,更新の効果を与えていない。
法務省民事局の説明資料も,催告などを完成猶予事由と整理している(「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」9頁)。
そのため,時効の満了まで余裕がある時期に催告しても,6か月が経過すれば何も残らず,本来の満了日がそのまま意味を持つ。
催告が役に立つのは,本来の満了日の前6か月以内にした催告によって,満了日を越えて最長6か月の猶予を得る場面である。
時効が既に完成した後に催告をしても,完成猶予の効果は生じない。
3 日付で見た例
弁済期が令和3年11月30日の売掛金債権で,債権者がその日を知っていた場合,民法166条1項1号の5年の時効期間は,令和8年11月30日の経過をもって満了する(民法140条・143条)。
債権者が令和8年10月1日に内容証明郵便で催告し,同日に到達したときは,その時から6か月を経過するまで,すなわち令和9年4月1日の経過までは時効が完成しない。
債権者は,令和9年4月1日までに訴えの提起等をすれば,民法147条1項による完成猶予に引き継ぐことができる。
これを過ぎれば,令和9年4月1日の経過によって時効が完成する。
4 再度の催告
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は,完成猶予の効力を有しない(民法150条2項)。
上の例で,債権者が令和9年3月に再び内容証明郵便を送っても,猶予の期限は令和9年4月1日のままである。
改正前民法の下でも,最高裁判所第一小法廷平成25年6月6日判決(平成24年(受)第349号,民集67巻5号1208頁)は,消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6か月以内に再び催告をしても,第1の催告から6か月以内に改正前民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6か月を経過することにより消滅時効が完成すると判示していた。
同判決は,第2の催告が,明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても,この理は異ならないとしている。
現行民法150条2項は,この考え方を条文にしたものと理解できる。
明示的一部請求の訴えと残部の時効の関係は,訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更で扱う。
5 催告書に書くこと
催告書には,どの債権について請求するのかが相手方に分かる程度に,債権を特定して書く。
記載の例としては,①債権者と債務者の氏名・名称,②債権の発生原因(契約の日付と種類,請求書番号等),③請求する金額と内訳(元本・利息・遅延損害金),④支払期限と支払方法,⑤期限までに支払がないときは法的手続をとる旨が挙げられる。
一部の債権だけを書いた催告では,書かなかった債権について完成猶予の効果を主張しにくくなるから,複数の債権があるときはすべてを列挙しておく。
債務者が複数いるときや保証人がいるときは,時効の完成を猶予させたい相手それぞれに催告書を送る(民法153条2項参照)。
6 相手方が受け取らない場合
内容証明郵便は,相手方が不在で受け取らず,保管期間が過ぎると差出人に返送される。
民法97条2項は,相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは,その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなすと定めている。
もっとも,受取を妨げたといえるかどうかは事案ごとの判断になり,満了間際に争いを残すのは危険である。
内容証明郵便が返送されたときは,同じ内容を普通郵便や特定記録郵便でも送り,電子メール等でも同じ内容を伝えておくなど,到達を裏付ける手段を重ねておく。
相手方の所在が分からないなど催告自体が難しいときは,催告にこだわらず,訴えを提起して公示送達を申し立てることも検討する。
第3 協議を行う旨の合意による完成猶予
1 条文
民法151条1項は「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。」と定め,次の三つを掲げる。
①「その合意があった時から一年を経過した時」
②「その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時」
③「当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時」
合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,書面によってされたものとみなされ(同条4項),協議の続行を拒絶する通知についても同様である(同条5項)。
法務省民事局の説明資料は,当事者が裁判所を介さずに紛争解決に向けて協議をしている場合にも,時効完成の間際になれば時効の完成を阻止するために訴訟を提起しなければならないのでは紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうとして,新たな完成猶予事由を設けたと説明している(前掲説明資料11頁)。
2 「いずれか早い時」の数え方
協議の合意による完成猶予は,①~③のうち最も早く到来する時までである。
たとえば,令和8年10月1日に協議を行う旨の合意書を交わし,期間を定めなかった場合は,合意から1年,すなわち令和9年10月1日の経過まで時効が完成しない。
同じ合意書で協議期間を6か月と定めた場合は,令和9年4月1日の経過までとなる。
期間を定めずに合意した後,相手方から令和9年1月15日に協議の続行を拒絶する書面が届いたときは,その時から6か月を経過する令和9年7月15日の経過までとなり,合意から1年より早いから,こちらが基準になる。
いずれの場合も,本来の満了日がそれより後であれば,完成猶予は意味を持たず,本来の満了日で考えればよい。
3 再度の合意と5年の上限
民法151条2項は「前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。」と定める。
したがって,協議が長引くときは,猶予期間が切れる前に改めて合意書を交わせば,猶予を延ばすことができる。
ただし,本来の満了日から通算して5年が上限である。
第2の3の例(本来の満了日が令和8年11月30日)では,何度合意を重ねても,令和13年11月30日を超えて完成を猶予させることはできない。
猶予期間が切れた後に交わした合意は,民法151条2項の「完成が猶予されている間にされた再度の」合意に当たらないから,時効が既に完成していれば効果を生じない。
4 書面・電磁的記録の意味
民法151条1項は,協議を行う旨の「合意」が書面でされることを求めている。
一方当事者が「協議したい」と書いた書面を送っただけでは,相手方の合意があったことが書面上明らかにならないおそれがある。
実務上は,双方が記名押印又は署名した合意書を作るか,電子メール等の電磁的記録であれば,申入れと承諾の双方のやり取りを残しておくのが確実である。
協議の続行を拒絶する通知も書面又は電磁的記録で行う必要があり(同条1項3号・5項),口頭で「もう話合いには応じない」と言っただけでは,同号の通知には当たらない。
5 合意書・拒絶通知に書くこと
協議を行う旨の合意書には,①当事者,②協議の対象となる権利(発生原因と金額で特定する),③その権利について協議を行う旨,④協議期間を定めるときはその期間,⑤合意の日付を書く。
②の特定が曖昧だと,どの権利について完成が猶予されたのかが後で争いになるから,請求書や契約書の日付・番号を引いて特定しておく。
債務の存在を認める文言を入れると,それ自体が債務の承認(民法152条)として時効の更新の効力を持ち得るが,相手方がこれに応じるとは限らない。
承認による更新は債務の承認による時効の更新―一部弁済,破産管財人の承認及び相続人への通知で扱う。
協議の続行を拒絶する通知には,対象となる権利と,協議の続行を拒絶する旨を明確に書き,送付の日付が残る方法で送る。
第4 催告と協議の合意の組合せの制限
1 民法151条3項
民法151条3項は「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。」と定める。
催告と協議の合意を交互に使って完成猶予を引き延ばすことはできないということである。
2 催告の後に合意した場合
第2の3の例で,債権者が令和8年10月1日に催告をし,本来の満了日(令和8年11月30日)を過ぎた令和8年12月1日に協議を行う旨の合意書を交わしたとする。
この合意は,催告によって時効の完成が猶予されている間にされたものであるから,完成猶予の効力を持たない。
債権者は,合意書を交わした後も,令和9年4月1日までに訴えの提起等をしなければならない。
債務者との話合いを続ける見込みがあるなら,先に催告をするのではなく,最初から協議の合意を交わす方が猶予期間を長くとれる。
3 合意の後に催告した場合
逆に,協議の合意による完成猶予の間に催告をしても,その催告は完成猶予の効力を持たない。
協議が決裂しそうになったときに内容証明郵便を送っても,時効の完成は協議の合意による猶予期間の終わりから先へは延びない。
協議の合意による猶予期間が終わる前に,再度の合意を交わすか,訴えの提起等をする必要がある。
4 訴えの提起等との関係
催告や協議の合意による猶予期間中に訴えの提起,支払督促の申立て,民事調停の申立て等をすれば,民法147条1項による完成猶予が始まり,確定判決等によって権利が確定すれば更新される(同条2項)。
民法151条3項の制限は,催告と協議の合意の組合せに関するものであり,猶予期間中に訴えを提起することを妨げるものではない。
改正前民法の下では,訴えを取り下げた場合でも,訴訟係属中は催告が継続していたとみて,取下げから6か月の間に改めて訴えを提起すれば時効の完成を防げるという「裁判上の催告」の考え方が判例で認められていた(前掲説明資料7頁)。
現行民法147条1項は,権利が確定することなく手続が終了した場合にも終了の時から6か月は時効が完成しないと定めており,この場面は催告ではなく同項の問題として扱われる。
支払督促の手続は,mintsによる支払督促で扱っている。
第5 効力が及ぶ人の範囲と経過措置
1 相対効
民法153条2項は,民法149条から151条までの規定による時効の完成猶予は,完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ効力を有すると定める。
したがって,連帯債務者の一人に催告をし,又はその一人と協議の合意をしても,他の連帯債務者との関係では完成猶予の効力を生じない(民法441条も参照)。
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は保証人に対しても効力を生ずる(民法457条1項)から,主たる債務者に対する催告は保証人にも及ぶ。
主たる債務者との協議の合意が民法457条1項の「その他の事由」として保証人に及ぶかについては,本記事では確認できた資料の範囲に含めていないから,保証人がいる場合は保証人も合意書の当事者に加えておくのが安全である。
2 経過措置
平成29年法律第44号附則10条3項は,民法151条の規定は,施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合(電磁的記録によってされた場合を含む。)におけるその合意については適用しないと定める。
また,施行日前に改正前民法147条の中断事由が生じた場合の効力は,なお従前の例による(同条2項)。
したがって,令和2年3月31日以前にされた催告の効力は,改正前民法153条(6か月以内に裁判上の請求等をしなければ中断の効力を生じない)で判断する。
令和2年4月1日以後にされた催告と協議の合意には,債権が改正前に発生したものであっても,民法150条・151条が適用されることになると考えられる(附則10条2項・3項が施行日前の事由と合意だけを改正前民法に委ねていることからの解釈である。)。
時効期間自体が改正前民法によるか現行民法によるかは,消滅時効は改正前民法と改正後民法のどちらで判断するか―附則10条・35条の経過措置と振り分け表で扱う。
第6 手段の選び方
時効の満了が近いときにとれる手段と効果を並べると,次のとおりである。
| 手段 | 効果 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 催告(民法150条) | 到達から6か月の完成猶予。再度の催告には完成猶予の効力がない | 満了直前で訴状等の準備が間に合わないとき |
| 協議の合意(民法151条) | 原則1年の完成猶予。再度の合意で本来の満了時から通算5年まで | 相手方が話合いに応じており,合意書に署名する見込みがあるとき |
| 承認(民法152条) | 承認の時から時効期間が改めて進行する | 相手方が債務の存在を認める書面を出すとき |
| 訴えの提起・支払督促等(民法147条) | 手続中の完成猶予と,権利の確定による更新 | 相手方が争い,又は連絡がとれないとき |
| 仮差押え(民法149条) | 事由の終了から6か月の完成猶予 | 財産の散逸を防ぐ必要があるとき |
時効の満了が近い債権を管理するときは,次の順序で確認する。
①債権ごとに,改正前民法と現行民法のどちらが適用されるかを確かめ,本来の満了日を計算する。
②過去に催告,協議の合意,承認,訴えの提起等がなかったかを洗い出し,それぞれの日付と効果(完成猶予か更新か)を記録する。
③本来の満了日の前6か月以内に入っているかを確かめ,催告をするなら到達の日を証明できる方法で送る。
④催告をした場合は,到達の日から6か月後の日を期限として記録し,その日までに訴えの提起等をする。
⑤協議の合意をした場合は,合意の日から1年後の日(協議期間を定めたときはその満了日)と,本来の満了日から5年後の日の両方を記録する。
協議の合意を提案しても相手方が応じなければ効果はないから,満了が迫っているときは,まず催告で6か月を確保し,その間に訴えの準備を進めるのが基本である。
満了まで時間があり,相手方が話合いに前向きであれば,催告をせずに協議の合意を交わす方が,民法151条3項の制限を受けずに済む。
仮差押えについては仮差押えと差押えの違い―処分禁止の効力,時効の完成猶予及び破産手続開始による失効で扱っている。
第7 関連記事
消滅時効全体については消滅時効に関するメモ書きがある。
完成猶予・更新の事由の一覧は時効の完成猶予と更新の違い―旧法の中断・停止との対応関係と事由の一覧,訴えの提起と一部請求は訴えの提起と時効の完成猶予・更新―明示的一部請求,訴えの取下げ及び訴えの変更,承認は債務の承認による時効の更新―一部弁済,破産管財人の承認及び相続人への通知で扱う。
時効完成後に債務者が支払の猶予を求めた場合などは,時効完成後に債務を承認・一部弁済したら時効を援用できないか―最高裁昭和41年4月20日大法廷判決と再度の時効で扱う。
遺留分侵害額請求の内容証明については,遺留分侵害額請求の期限と手続―内容証明・交渉・調停・訴訟・必要書類がある。
第8 出典・参考資料
1 法令
①民法(明治29年法律第89号)97条,140条,143条,147条,150条~153条,166条,441条,457条(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
②改正前民法(令和2年3月31日時点)147条,153条(e-Gov法令検索の時点指定で確認)
③民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則10条(e-Gov法令検索で確認)
2 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成25年6月6日判決(平成24年(受)第349号,民集67巻5号1208頁)裁判所ウェブサイト
3 公的資料
①法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」9頁,11頁 法務省ウェブサイト