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相続人が遺産を受け取らないとき――成年後見人の引継ぎ,受領の催告,供託,民法897条の2の相続財産管理人(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人等(以下「本人」という。)が死亡した後,成年後見人,保佐人又は補助人であった者(以下,本人の死亡後も含めて「後見人等」という。)が相続人に財産を引き継ごうとしたところ,相続人が受け取らない場合に,後見人等がどこまでの事務をし,どのような方法で引継ぎの義務から解放されるかを整理するものである。
具体的には,相続人1人に対する履行の提供,受領の催告,現金の弁済供託,通帳等の徴表書類の扱い,動産の寄託・換価・廃棄,民法897条の2第1項の相続財産管理人の選任,相続人がいない場合や財産が少額の場合の出口を扱う。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認した。
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は,法務省が公表している法律案本文及び新旧対照条文で確認した。

素材として,大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年。以下「本書」という。)226頁~239頁及び254頁~258頁を用いた。
本書は,月刊大阪弁護士会の連載(平成29年5月号~)を書籍化したものであり,原則として各回の初出当時の運用を記載し,一部だけを令和6年6月時点に修正している(本書1頁)。
本記事が扱う部分の初出は,連載第6回(平成30年4月号),第7回(平成30年6月号)及び第21回(令和2年10月号)である。
大阪家庭裁判所の現在の運用は,同庁の成年後見のページ,「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)及び同庁が公開している申立書式で確認できた範囲で書き,確認できなかった点は本書の記載として区別する。

民法873条の2の死後事務(火葬契約,債務の弁済,3号許可)の全体は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで,親族が遺体・遺骨の引取りを拒む場面は親族が遺体・遺骨の引取りを拒む・条件を付ける・連絡がつかないときで,死亡後に大阪家庭裁判所へ出す報告書類とその期限は本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限で扱っている。
本記事は,これらと重複する説明を置かず,相続人が財産を受け取らない場面に絞る。
本書の該当部分には裁判例の引用がなく,令和8年9月19日に裁判所ウェブサイトの裁判例検索で「相続財産の保存に必要な処分」を全文検索した結果(2件)にも元後見人等の引継ぎを扱ったものはなかったため,本記事は条文と大阪家庭裁判所自身が公表した運用の説明及び書式を根拠とする。

2 結論

①後見人等は,任務終了から2か月以内に管理の計算をし(民法870条),相続人に財産を引き継ぐ義務を負うが,本書は,管理計算の報告も財産の引継ぎも相続人の1人に対して行えば足りると説明している。
②「引継ぎ」の対象は,現金,動産及び権利を徴表する書類(通帳,証書,鍵等)であり,預貯金や不動産の権利そのものは本人の死亡により既に相続人の共有となっている。
③相続人が受け取らないときは,引渡しの準備をしたことを通知して受領を催告すれば弁済の提供となり(民法493条ただし書),後見人等は以後,不履行の責任を負わない(民法492条)。ただし,引継ぎの債務そのものは消えない。
④現金は,受領拒絶を理由に弁済供託をすれば債務が消滅する(民法494条1項1号)。
⑤通帳・証書・登記関係書類等は権利の徴表にすぎないので,本書は引継ぎを要しないとし,一定期間の経過後に廃棄してよいとも回答している。
⑥動産だけは,受領拒絶が続く限り引継ぎの債務が残る。本書は,月1回程度の催告を重ねた上で,民法897条の2第1項の「相続財産の保存に必要な処分」として寄託・換価・廃棄を求める申立てをし,換価金から報酬を控除した残金を供託して終える道を示している。
⑦相続財産管理人の選任は,紛争性が極めて高く,かつ継続的な弁済や管理が必要な事案に限られる。代表者を決めさせるだけの選任は必要性が否定され,後見人等をそのまま管理人に選任すること(スライド選任)も想定されていない。
⑧民法897条の2は「いつでも」処分を命ずることができるが,相続人が1人で単純承認をしたとき,遺産の全部の分割がされたとき,及び相続財産の清算人が選任されているときは使えない(同条1項ただし書)。
⑨相続人がいないとみられる場合でも,本書は,最後報酬の支払後に本人名義の財産が30万円未満であれば相続財産清算人の選任を求めず,現金を供託して終える大阪家庭裁判所の運用を紹介している。ただし,この基準は現在の公開資料では確認できなかった。
⑩令和8年改正により後見・保佐は補助に一元化されるが,改正法の施行前に開始した後見・保佐には原則として従前の例が適用される。引継ぎの出口となる民法492条~494条,897条の2及び952条は改正されない。

第2 引継ぎの法的な構造

1 管理の計算と引継ぎの義務

民法870条は,「後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」と定める。
保佐人と補助人にも,民法876条の5第3項及び876条の10第2項により同条が準用される。
後見監督人があるときは,後見の計算はその立会いをもってしなければならない(民法871条)。

本書(連載第6回・平成30年4月号初出)226頁~227頁は,「管理の計算」とは,後見人等の在職中に生じた一切の財産上の収入及び支出を明確にし,財産の現在額を計算することであり,民法870条に「報告」の文言はないものの,後見に準用される善管注意義務(民法869条,644条)の一つの現れである受任者の報告義務(民法645条)と同様の報告義務が含まれると解している。
管理計算報告義務は本人に対する善管注意義務の性質を有するので,その相手方は本人の相続人となる,というのが本書の説明である。
相続財産の「引継ぎ」についても,本書227頁は,受任者の金銭その他の物の引渡しの義務(民法869条,644条,646条1項)の性格を有する行為であるとしている。

2 相続人の1人に対して行えば足りる

本書227頁は,管理計算義務は「なす債務」として性質上不可分の債務であるから,相続人が複数ある場合,後見人等は相続人の1人に対して管理計算の報告をすれば足りるとし,根拠として民法428条を挙げる。
現行の民法428条は,「次款(連帯債権)の規定(第四百三十三条及び第四百三十五条の規定を除く。)は、債権の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときについて準用する。」という準用規定である。
準用される民法432条が,「債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。」と定めているので,現行法では民法428条と432条を併せて読むことになる。

引継ぎについても本書227頁は,動産及び徴表書類の引渡しは,後見人等からみれば性質上不可分の債務であり,相続人からみれば保存行為であるため,相続人が複数ある場合も相続人の1人に対して行えば足りるとする。
その上で本書は,法律上は管理計算報告も相続財産の引継ぎも相続人全員に対して行う必要はないと考えられ,知れたる相続人があるときはその相続人に対して行えばよいとしている。

3 引き継ぐのは現金,動産及び徴表書類である

民法896条本文は,「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と定め,民法898条1項は,「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」と定める。
本書227頁は,相続財産は本人の死亡により全相続人の遺産共有の状態となり,後見人等が受け取った金銭その他の物の権利移転は既に終了しているため,後見人等が行う「引継ぎ」とは,動産及び権利の徴表たる書類(預貯金通帳,証書,建物の鍵等)を相続人に引き渡すことを意味すると説明する。
動産の引渡しには,後見人等が代理占有していた物を相続人の直接占有とする意味がある(本書227頁注2)。

この整理が,相続人が受け取らない場合の出口を財産の種類ごとに分ける出発点になる。
現金には弁済供託という出口があり,徴表書類は引継ぎ自体を要しないと割り切ることができ,動産だけが残る,という構図である(後記第5)。

4 どこまで相続人を探すか

本書227頁は,知れたる相続人がないときは,相続人1人を発見する限度で調査を行った上でその相続人に管理計算報告及び引継ぎをすればよく,全相続人調査をするまでの必要はないと考えるとする。
同頁注3は,実務上,後見開始申立時に甥姪までは同意書が提出されることが多いため,申立時の「親族関係図」によって相続人はある程度特定されていると述べる。
戸籍調査の根拠と費用負担は,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることの第8の3で扱っている。

もっとも,大阪家庭裁判所は,引継相手が相続人であることが後見センターの保管記録から判明しない場合には,それを証する資料の提出を求めることがあるとしている(本書(連載第21回・令和2年10月号初出)255頁注9)。
例えば,甥姪に引き継ぐ場合で,後見開始時の記録では甥姪の親である本人の兄弟姉妹が死亡した事実を確認できないときである。
現在の大阪家庭裁判所の相続財産管理人選任申立書にも,添付書類として「被相続人につき相続人が存在することの裏付け資料(戸籍謄本等)」の欄がある(後記第6の8)。

第3 受領を拒まれるまでにしておくこと

1 円満な引継ぎの試みと原則への立ち返り

本書228頁は,実務では,できる限り広く相続人を調査し,判明した相続人の意向等を確認した上,相続人全員又は全員により定められた代表者に対して報告及び引継ぎを行うことが多いと思われ,文献等でも,相続人からの法律上・事実上の責任追及を避けるため,このような処理が推奨されているとする。
後見センターも,本人死亡後にまずこのような形での円満な処理を試みることには問題がなく,むしろ事実上のトラブルを回避するためには有益であると考えている,と本書は述べる。

しかし本書228頁は,相続関係が複雑な場合,連絡の取れない相続人がいる場合,引継ぎにも代表者の選定にも協力しない相続人がいる場合,相続人間の紛争が顕在化している場合等には,後見人等が管理権限を失った後も長期間にわたって相続財産を保有しなければならないという問題があったと指摘する。
そこで本書は,このような引継困難事例については,法律上の義務自体は相続人の1人に対してこれを行えば免れるという原則に立ち返った上,事案に応じた適切な処理を図れば足りるものと思われるとしている。
円満な処理を目指すことと,法律上の義務の履行先を確定することとは,別の問題として扱う必要がある。

2 大阪家庭裁判所への報告期限との関係

大阪家庭裁判所は,平成30年8月から,本人の死亡報告だけでなく,相続人に管理財産を引き継ぐまでの事務も監督する運用を採っている(本書226頁・254頁)。
本書(連載第21回)255頁は,遅くとも本人死亡後4か月以内に,死亡後の収支報告書,引継書及び引継時を基準日とする財産目録を提出し,4か月以内の提出が難しい場合は必ずその理由を後見センターに報告するよう求めている。
同頁注10は,死亡後4か月以内に何の連絡もない場合,後見センターとしては,後見人等による本人財産の使い込みのリスクも考慮し,民法863条2項の「必要な処分」として金融機関に口座の凍結を指示せざるを得ない場合もあるとする。

現在の大阪家庭裁判所の成年後見のページは,本人が亡くなった場合は2週間以内に死亡診断書又は除籍謄本のコピーを添えて裁判所に連絡し,その他に必要な書類があれば追って事務連絡で案内するとしており,4か月という期限や口座凍結の指示は同ページには書かれていない。
期限の詳細は本人死亡後に成年後見人が家庭裁判所へ出す報告書類――死亡の連絡,死亡時3点セット,収支報告書,引継書と期限で扱うが,相続人が受け取らない事案では,引継ぎが終わらない理由と見通しを裁判所に報告しておくことが前提になる。

3 相続人間の合意を待つ場合の中間報告

本書(連載第21回)255頁~256頁は,相続人間の紛争が顕在化しており,相続人がいずれも自己への引継ぎを求める事案や,相互にけん制していずれも引継ぎを拒絶する事案でも,相続人の1人に対する引継ぎ・報告を検討してほしいとする。
その際は,引継相手である相続人による使い込みを防ぐためにも,現金を預貯金口座に預け入れ,口座を凍結するのが無難であるとしている。

他方で本書256頁は,事実上のトラブルを回避する目的で相続人間の合意が整うのを待ってから引継ぎを行う取扱いも否定していない。
ただし,合意まで何の報告もしないと他の相続人に財産を渡したのではないかとの疑念を招くことがあるため,口座凍結時など収支が変動しなくなる時点の財産目録,死亡時からその時点までの収支報告書及び裏付け資料(5万円を超える収支に関するもの)を後見センターに提出し,知れたる相続人全員に送付することを検討してほしいとしている。
同頁注12は,こうすることで相続人の疑念を一定程度和らげ,後見人等の中立性・透明性を証明することにもつながる場合があると述べる。

4 引継ぎの前に清算しておくもの

(1) 報酬と後見事務費

本書(連載第6回)229頁は,本人の死期が迫った時点で家庭裁判所に報告の上,預金の一部を引き出して現金出納帳で管理し,本人の死後,その現金の中から後見人報酬,後見事務費,事務管理又は応急処分に係る費用等を清算し,残った現金を通帳類と一緒に知れたる相続人に引き継ぐ取扱いを,後見センターが特例として認めることがあるとしている。
ただし,合理的な理由のない多額の現金保管は認めないとされ,この特例が現在も運用されているかは,大阪家裁ハンドブック及び成年後見のページでは確認できなかった。
口座が凍結された後に報酬精算のための払戻しをする場合の3号許可(民法873条の2第3号)の考え方は,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで扱っている。
報酬額の水準は成年後見人等の報酬額の目安で扱っている。

(2) 相続債務の弁済は必要最小限にとどめる

本書(連載第21回)256頁は,後見人等は本人の死亡により本人財産の管理権限を失い,原則として相続債務を本人財産から弁済することはできないとする。
例外は,急迫の事情があるときの応急処分(民法874条,654条),相続人全員のための事務管理(民法697条),及び成年後見人に限った弁済期到来債務の弁済(民法873条の2第2号)である。

本書257頁は,本人死亡後,長期間経過後に相続債務を弁済することは原則として望ましくないとする。
理由の一つは,民法873条の2柱書の「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」は基本的に相続人に相続財産を実際に引き渡す時点までを指すものの,後見人が本人死亡後2か月以内に管理の計算をして相続財産を引き渡す義務を負っていることからすれば,引き渡さない限りいつまでも死後事務を行うことができると解するのは相当でない,という点にある。
本書は,後見人が引渡しの義務を履行でき,相続人もいつでも引継ぎを受けられる状態になれば,「相続人が相続財産を管理することができる」状態に至ったと解されるとしている。
その上で本書は,本人死亡後速やかに,死亡直前の医療費・住居費,火葬・埋葬費用など弁済期が到来した相続債務のうち必要最小限のものを弁済し,後見人等報酬,後見事務費を精算し,相続人,相続財産管理人(民法897条の2第1項)又は相続財産清算人(民法952条)に相続財産を引き継ぐよう求めている。

本書(連載第11回・平成31年2月号初出)264頁の小窓も,債務の弁済は本来的に相続人の義務であるから,後見人等が未払債務を清算しなければ相続人に引継ぎができないものではないと回答している。
相続人が受け取らない事案では,債務の弁済を続けて引継ぎを先延ばしにすることが,かえって後見人等の地位を不安定にする。

第4 受領の催告(弁済の提供)

1 口頭の提供で足りる

民法493条は,「弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。」と定める。
本書(連載第6回)230頁は,後見人等は,本人死亡から2か月以内(伸長可)にその管理の計算を行い,知れたる相続人に対し,管理計算報告書並びに相続財産(現金・動産)及びその徴表書類(各種証書・建物の鍵)を引き渡す準備ができた旨の通知をして受領を催告し,催告を受けた相続人が指定された日時に受領しようと思えばできる程度に引渡しの準備をする,という手順を示している。
相続人があらかじめ受領を拒んでいる場合や,引取りに相続人の来訪等が必要な場合には,同条ただし書の口頭の提供で足りることになる。

2 催告書に書くこと

本書230頁~232頁の説明を催告書の記載事項に置き直すと,次のようになる。
①管理の計算を終えたこと(管理計算報告書を同封するか,閲覧・交付の方法を示す。)
②引き渡す準備ができた財産の内容(現金の額,動産の品目と保管場所,通帳・証書・鍵等の徴表書類)
③受領の日時・場所又は受領の方法と,その期限
④期限までに受領しない場合,現金は供託する予定であること
⑤期限までに受領しない場合,動産について民法897条の2第1項本文に基づく換価処分等が行われる可能性があること
このうち⑤について,本書232頁注9は,催告に当たっては「受領を拒否した場合には,民法897条の2第1項本文に基づく換価処分等が行われる可能性があること」を明示する必要があるとしている。
後に換価を含む重要な処分がされる可能性がある以上,処分によって不利益を受ける相続人への告知を慎重に行う必要があるからである。

3 受領拒絶の効果と,それでも残る債務

民法492条は,「債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。」と定める。
本書230頁は,知れたる相続人が受領しなかった場合には全相続人について受領遅滞(受領拒絶)の効果が生じ,後見人等は以後,管理計算報告・引継ぎについて債務不履行の責任を問われることはなくなるが,それによって債務が消滅するわけではないとする。

受領遅滞の効果として,民法413条1項は,債務の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は履行の提供をした時からその引渡しをするまで,「自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。」と定め,同条2項は,受領拒絶によって履行の費用が増加したときは,その増加額は債権者の負担とすると定める。
本書はこの条文に触れていないが,受領拒絶後の動産の保管の注意の程度と,保管費用の増加分を誰が負担するかを考えるときの根拠になる。

4 催告の回数と間隔

本書232頁は,後見人等は,相続人に対し,原則として月1回の割合で2回程度引継ぎの催告を行い,催告後,一定期間経過しても相続人が動産を受領しない場合に,後記第5の3の寄託・換価・廃棄の申立て又は相続財産管理人選任の申立てをすることが考えられるとする。
同頁注9は,最初の履行の提供を含めて1月ごとに計3回の催告を行っても相続人が受領しないのであれば,処分の前の告知を慎重に行うという要請と,保管の継続により相続財産の価値が損なわれる状況にあるかを確かめるという要請のいずれも満たされていると考えられるとする。
他方,同頁注10は,極めて高額な動産や,後見人等において個人的に保管することが困難な動産(動物等)がある場合には,催告を経ないで直ちに寄託を行うべき場合もあり得るとしている。

第5 財産の種類ごとの出口

1 預貯金・株式・不動産――徴表書類は引継ぎを要しない

本書230頁は,預貯金,株式・投資信託及び不動産等について,引継ぎの対象とされる書類(本人名義の預貯金通帳・証書,登記関係書類等)は権利を徴表する書類にすぎないので,引継ぎは不要と考えられるとする。
同頁注6は,相続人は徴表書類を保有していても単独では権利を行使できない反面,相続人全員の合意を証明するか,遺産分割協議を成立させれば権利を行使できると説明する。
つまり,相続人が受け取らなくても,相続人の権利行使が妨げられるわけではない。

本書264頁の小窓は,引継ぎできない通帳を廃棄してよいかという質問に対し,相続人が引継ぎに応じない場合,通帳自体には財産的価値はなく,権利を徴表する書類にすぎないため,一定期間経過後(法令上の保管期間経過後)廃棄して差し支えないと回答している。
ここでいう「法令上の保管期間」が何を指すかは本書に書かれておらず,公開資料でも確認できなかった。
廃棄する場合は,廃棄の前に相続人に通知し,いつ何を廃棄したかを記録に残しておくのが無難である。

2 現金――弁済供託

(1) 供託の要件と効果

民法494条1項は,弁済者は,「弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき」(1号)又は「債権者が弁済を受領することができないとき」(2号)には,債権者のために弁済の目的物を供託することができ,「弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。」と定める。
本書230頁も,現金は後見人等が債務者として供託すれば債務は消滅するとする(民法494条1項1号)。
前記第4の受領の催告は,この1号の要件である「弁済の提供」を満たすための手順でもある。

なお,民法494条2項は,弁済者が債権者を確知することができないときも同様とするが,弁済者に過失があるときは供託できないと定める。
相続人の存否や所在が分からない場合がこれに当たり得るが,本書はこの類型の供託には触れておらず,前記第2の4のとおり相続人1人を発見する限度での調査を先に行うことを前提としている。

(2) 供託所と通知

民法495条1項は,供託は「債務の履行地の供託所」にしなければならないと定め,同条3項は,供託をした者は,遅滞なく,債権者に供託の通知をしなければならないと定める。
金銭その他の弁済の場所は,別段の意思表示がないときは債権者の現在の住所である(民法484条1項)。
供託法1条により,金銭の供託所は法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又は法務大臣の指定する出張所である。
複数の相続人がいる場合にどの相続人を債権者として記載し,どの供託所に供託するかは,事前に供託所に相談して確かめるのが確実である。
供託の際には既に後見人ではないことに伴う名義の注意点は,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることの第7で扱っている。

3 動産――寄託・換価・廃棄

本書231頁は,相続人が受領を拒絶している限り,動産については引継債務は消滅せず,引継債務について消滅時効が完成した後も,相続人から所有権に基づく引渡請求を受けた場合には,後見人等はこれに応じる義務があると考えられるとする。
民法166条2項が消滅時効の対象を「債権又は所有権以外の財産権」としているとおり,所有権そのものは消滅時効にかからないから,時の経過を待つだけでは動産の問題は片付かない。
そこで本書は,動産について次の二つの道を示している。

(1) 相続財産の保存に関する処分の申立て(後見・保佐・補助に共通)

民法897条の2第1項本文は,「家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。」と定める。
この審判事件は,家事事件手続法別表第一の89の項(相続財産の保存に関する処分)に当たり,相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(同法190条の2第1項)。

本書231頁は,どの相続人も強硬に引継ぎを拒絶し,後見人等による事実上の管理を継続すること自体が相続財産全体の価値を減少させるといえるような例外的な事案については,家庭裁判所に「相続財産の保存に関する処分」の申立てをして,「寄託(有償)及び寄託料の支払」又は「換価」若しくは「廃棄」を求めることが可能と考える場合もあるとする。
同頁注8は,「相続財産の保存に必要な処分」には,財産の封印,処分禁止,占有移転禁止,財産目録の調製提出命令,相続財産管理人の選任のほか,必要性が認められる場合には,個々の相続財産を換価又は廃棄して処分することも含まれると解している。
同頁注7は,個々の相続財産の処分が「必要な処分」となり得るのは,その財産の交換価値,保管期間,費用,相続財産の構成や相続財産全体の価値を総合して,その財産の保管を続けることが相続財産全体の価値を損なう場合であり,換価可能な場合は換価処分が,換価不可能(ないし無価値)の場合には廃棄処分が「必要な処分」に当たると考えられるとする。
申立てを検討するに当たっては,事前に後見センターに問い合わせるよう求められている(本書232頁)。

本書232頁は,この申立てに基づき動産を換価した場合には,家庭裁判所に死後事務終了までの報酬を請求し,動産の売得金及びその他の現金の総額から報酬を控除して残金を供託した後,相続人に対して処理の内容を通知することによって,管理計算報告と引継ぎに関する全ての事務を終了することになるとしている。
なお,大阪家庭裁判所の成年後見のページには,相続財産管理人の選任を求める申立書式は掲載されているが,寄託・換価・廃棄を求める型の書式は掲載されていなかった。
この型の申立てをするときは,事前の問合せの段階で申立ての趣旨の書き方を確かめることになる。

(2) 成年後見人の場合の民法873条の2による寄託・廃棄

成年後見人であった者には,民法873条の2による別の道もある。
本書232頁は,後見人が,①「相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為」(民法873条の2第1号)として動産を倉庫業者に寄託する,②同条3号の許可に基づき毎月保管費用を払う,③一定期間経過後(6か月~1年未満)に,保存について過分の費用を要するので「相続財産の保存に必要な行為」として3号許可の申立てをして動産を廃棄する,という運用も考えられるとする。
ただし,民法897条の2の処分の場合と同様に,①~③の各段階の前に,相続人にその旨を通告して引継ぎの催告をするのが相当であるとされている。
民法873条の2の各号の要件と,同条柱書の「相続人の意思に反することが明らかなとき」の意味は,成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで扱っている。
3号許可の申立ての費用は,大阪家庭裁判所の成年後見のページによれば収入印紙800円分(複数の行為の許可を1通で求める場合も800円)と郵便切手110円分である。

(3) 民法497条の自助売却との関係

民法497条は,弁済者は,①その物が供託に適しないとき,②滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき,③その物の保存について過分の費用を要するとき,④その他その物を供託することが困難な事情があるときは,裁判所の許可を得て,弁済の目的物を競売に付し,その代金を供託することができると定める。
本書はこの条文に触れておらず,大阪家庭裁判所の運用として示されているのは前記(1)と(2)の方法である。
動産の出口として民法497条を使うことが考えられないわけではないが,本記事の基準日時点で,元後見人等がこの方法を用いた例を公開資料で確認することはできなかった。

4 管理計算報告の債務

本書230頁注5は,管理計算報告の債務を消滅させるためには,相続人が管理計算報告を受領するか,消滅時効が完成する必要があるとしている。
報告書そのものは供託の対象にならないから,受領を拒まれた後は,催告の記録と報告書の控えを保管しておくことになる。

第6 民法897条の2の相続財産管理人

1 条文と旧918条2項との関係

民法897条の2第1項は,本文で前記第5の3(1)のとおり定めた上で,ただし書で,「相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。」と定める。
同条2項は,選任された相続財産の管理人について,不在者の財産管理人に関する民法27条から29条までを準用する。
この規定は令和5年4月1日に施行された民法改正で新設されたものであり,それ以前は民法918条2項が相続財産の保存に必要な処分を定めていた。
現在の民法918条は,相続人による管理を定める1項だけの条文である。

本書の連載版(平成30年)は旧918条2項を引いていたが,書籍版は民法897条の2第1項本文へ読み替えている。
ただし,本書231頁の本文と注8は,相続財産が熟慮期間の終了まで放棄や限定承認の可能性がある「浮動的状態」に置かれている場合の制度として説明しており,これは旧918条2項(相続の承認・放棄前の管理)の解釈枠組みを残したものといえる。
現行の民法897条の2は,ただし書の三つの場合を除き,単純承認後で遺産分割前の共同相続の状態でも「いつでも」処分を命ずることができるから,相続人間の紛争が熟慮期間の経過後に顕在化する事案でも使うことができる。
また,本書231頁は条文を「相続財産管理人の選任その他の…」と引用しているが,現行の条文の文言は「相続財産の管理人の選任その他の…」である。

2 ただし書で使えない場面

ただし書により,次の場合には民法897条の2の処分を求めることができない。
①相続人が1人で,その相続人が単純承認をしたとき
②相続人が数人で,遺産の全部の分割がされたとき
③民法952条1項により相続財産の清算人が選任されているとき
①の場合,その相続人自身が引継ぎを拒んでいても,相続財産管理人の選任という出口はない。
この場合は,前記第4の受領の催告と第5の弁済供託を基本とし,動産については民法873条の2(成年後見人の場合)又は民法497条の方法を検討することになる。
②の場合は,遺産分割で財産を取得した相続人に引き継ぐことになる。

3 大阪家庭裁判所が想定する二つの類型

本書(連載第7回・平成30年6月号初出)235頁注4は,後見センターは,民法897条の2第1項本文に基づく相続財産管理人を選任すべき類型を,「親族間紛争型」と「相続人調査型」の二つに分けて呼んでいるとする。
相続人調査型は,法律専門職以外の第三者が後見人等である場合(市民後見人等)に,財産引継ぎの前提としての全相続人調査等を目的として申し立てる類型である。
弁護士が後見人である場合は,自ら戸籍等の資料を取得して相続人調査を行うことができるため,この目的の申立ては想定されていない。

大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)の平成30年7月13日付け資料「本人死亡後の後見等監督に関する運用について」も同じ2類型を挙げ,全相続人調査のために相続財産管理人の選任申立てが必要となるのは後見人等が法律職以外(社会福祉士,市民後見人,相続人以外の親族)の場合であり,後見人等が自ら法律職に調査を委託することも可能であるとしている。
同資料は旧918条2項の表記であるから,現在は民法897条の2と読み替えることになる。

本書234頁は,大阪家庭裁判所家事第4部では,後見人等による民法897条の2第1項本文の相続財産管理人選任申立ては後見センターが担当し,民法952条の相続財産清算人選任の申立ては財産管理係が担当するとしている。
現在の成年後見のページでも,民法897条の2第1項に基づく相続財産管理人選任の申立書式は後見センターの案内の中に掲載されている。

4 要件その1――紛争性が極めて高いこと

本書235頁は,多くの事案は相続財産管理人を選任するまでもなく後見事務を終了できるとした上で,紛争性が極めて高い類型として,次の二つを挙げる。
①相続人間の対立が激しく,誰が引継ぎを受けるかも定まらない場合
②相続人が後見人等の財産管理に不信感を抱いており,引継ぎを受けると後見人等の財産管理を追認することになるとして引継ぎを拒否する場合
同頁注3は,①には,対立する相続人の双方が,自分は財産を引き継ぐ意思はないが相手が引き継ぐことにも反対する場合と,いずれも自分に引き継ぐよう求める場合があるとする。
このような類型にまで相続人1人への引継ぎを貫くと,後見人等が相続人間の紛争に巻き込まれ,管理権限を失った後も事実上長期間にわたり相続財産を保有しなければならない事態が懸念される,というのが本書の説明である。

5 要件その2――選任の必要性

本書235頁~236頁は,相続財産管理人に求められる事務が「相続人全員と交渉し,相続人代表者を決めてその者への引継ぎの同意を取る」だけであれば,管理すべき財産の価値に比べて管理費用(相続財産管理人の報酬を含む。)が不相当に高額となり,選任までの必要性はないと考えられるとする。
同頁注6は,相続財産の保存を目的とした選任によって,むしろ相続財産の減少を来すおそれがあると指摘する。
選任の必要性が認められるのは,次のような事務が期待される場合である(本書236頁)。
①相続財産中に借地権,住宅ローン付き住宅又は抵当権付きの事業用不動産があり,これらを維持するためには今後も継続的な弁済が必要となるが,相続人間の対立が激しいため,相当長期にわたり相続人全員による預金の解約や払戻しが期待できない場合
②相続財産の中に事業用不動産があり,相続発生後も継続的に家賃の入金を受け入れる必要がある場合
③相続財産の中に,財産的価値は高いが換価が困難な動産(美術品等)があり,適切な方法で保管を続ける必要がある場合

本書236頁注7は,弁済期未到来の地代や住宅ローン等の債務も,契約の解除を免れる限度での支払は「相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為」(民法873条の2第1号)として元後見人の立場で行うことができ,そのための預金の払戻しには3号許可を要するとする。
しかし,遺産分割の長期化が予測される場合に,分割成立まで元後見人の立場で本人名義の口座から弁済期未到来の債務を支払い続けることは民法873条の2の趣旨を超えており,この場合は相続財産管理人選任の必要があるといえる,と同注は述べる。
他方で,地代やローンの月額が僅少で,相続財産管理人の報酬の方が高額になる場合にまで選任の必要性を認めることは難しいとされている。

6 スライド選任はしない

本書236頁は,相続財産管理人は後見人等から管理計算報告・引継ぎを受ける立場にあり,場合によっては後見人等に対して善管注意義務違反を追及する立場にあるため,後見人等をそのまま相続財産管理人に選任することは,後見人等による財産管理の適正さをチェックする機会が失われることになり,望ましくないとしている。
前記の平成30年7月13日付け資料も,相続財産管理人には元後見人以外の弁護士を選任するとしている。
後見人等が弁護士であっても,自らが管理人となって引き続き財産を預かるという形にはならないことを前提に,申立ての準備をすることになる。

7 申立てまでの手順

本書236頁~237頁は,知れたる相続人が管理計算報告・引継ぎについて受領を拒絶し,かつ前記の二つの要件を満たす場合の流れを,次のように示している。
①後見人等は,対立する相続人双方に対し,一定の期限を定めた上で,引継ぎに応じるか,遺産分割調停及び審判前の保全処分としての財産管理者の選任(家事事件手続法200条1項)をするかを求める。
②その際,所定の期間内に引継ぎにも調停申立てにも応じなければ,大阪家庭裁判所に民法897条の2第1項本文による相続財産管理人選任の申立てをすること,相続財産管理人の報酬は相続財産の中から支払われることを伝える(本書237頁注8)。
③期限が経過しても相続人が引継ぎにも調停申立てにも応じない場合,後見人等は,後見センターに相続財産管理人選任の申立てをする。
④相続財産管理人が選任された後,同管理人に管理計算報告書類と相続財産を引き渡す。
⑤後見センターに対し,死後事務終了時までの報酬請求と終了報告をする。

家事事件手続法200条1項は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合に,財産の管理のため必要があるときは,家庭裁判所が審判の効力発生までの間,財産の管理者を選任することができると定める。
相続人自身が遺産分割の手続の中で管理者を確保できる以上,後見人等の申立てで相続財産に管理人報酬の負担を生じさせるのは最後の手段と位置付けられていると考えられる。

8 大阪家庭裁判所の申立書式

大阪家庭裁判所の成年後見のページは,「相続財産の保存に関する処分の申立て」の項目で,この手続は全国共通の案内をしている後見ポータルサイトでは案内していないとした上で,民法897条の2第1項に基づく相続財産管理人選任の申立てをする場合は掲載の書式を使うよう求めている。
掲載されている書式は,相続財産の保存に関する処分申立書(相続財産管理人選任),その記載例,相続財産目録,遺産目録及び相続関係図である。

申立書(R041001版)の申立ての趣旨は,「民法第897条の2第1項に基づき,被相続人の相続財産の管理人を選任する審判を求める。」である。
収入印紙は800円分であり,添付書類の欄には,①被相続人の死亡の記載のある戸(除)籍謄本,②被相続人につき相続人が存在することの裏付け資料(戸籍謄本等),③相続財産目録,④不動産登記事項証明書,⑤預貯金通帳写し,⑥相続関係図が掲げられている。
申立人が利害関係を有する事情として,成年後見人,保佐人,補助人又はその他を選ぶ欄がある。

記載例(R060902版)は,相続人間の対立から全員が引継ぎを拒んでいること,住宅ローンを支払うべき不動産があるのに相続人全員の合意がなく支払ができていないこと,代表者を決めるか遺産分割調停を検討するよう通知したが応じなかったことを「その他具体的事情」に書く例であり,本書の親族間紛争型の二つの要件と前記7の手順をそのまま申立書に落とし込んだ構成になっている。

大阪家庭裁判所の「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」には,相続財産の保存に関する処分(相続財産管理人選任)の欄は見当たらなかった。
郵便切手の額は,申立ての際に後見センターに確認する必要がある。

第7 相続人がいない・全員が放棄する見込みの場合

1 民法952条の相続財産清算人

民法951条は,「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」と定め,民法952条1項は,その場合には家庭裁判所は利害関係人又は検察官の請求によって相続財産の清算人を選任しなければならないと定める。
同条2項により,家庭裁判所は選任の旨と,相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告し,その期間は6か月を下ることができない。
この清算人は,令和5年4月1日施行の改正前は「相続財産管理人」と呼ばれていた。
大阪家裁ハンドブック30頁のQ21は「相続人がいない時は、相続財産管理人の選任の申立てをしてもらうことになります。」と旧称のまま記載しているので,現在の民法952条の相続財産清算人と読み替える必要がある。

本書242頁注7も,引き継ぐべき相続人が不存在である場合には民法952条に基づく相続財産清算人の選任申立てをし,選任された清算人に引継ぎを行うが,残余財産が少額の場合には申立てを行う必要がない場合もあるとしている。
大阪家庭裁判所の「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」では,相続財産清算人の選任の郵便料は,郵便切手の場合1,220円,予納金の場合2,000円とされている。
死亡届の届出人と相続人不存在の関係は死亡届の届出人で扱っている。

2 大阪家庭裁判所の少額事案の運用(本書掲載)

本書237頁は,後見人等が本人の死亡後も長期間にわたり権限なく財産を管理してきた事案には,民法952条の要件を満たし得るものの流動資産が少額で管理費用が見込めない場合が多くあったとし,そのような場合にまで全相続人を調査して清算人を選任しなければ後見事務を終了できないと考えることには疑問があるとする。
同頁注9は,戸籍を収集して第1順位から第3順位までの全相続人を調査する費用もないことがあると述べる。

そこで後見センターは,①後見人等の手持ちの戸籍資料によれば相続人が不存在である見込みが高い場合,又は②知れたる相続人が相続放棄(予定)を理由に管理計算報告・引継ぎについて受領を拒絶した場合には,次の事務フローに従って事務を終える運用を始めたとされている(本書237頁~239頁)。
①死後事務として,弁済期到来後の債務の支払,火葬・葬儀・永代供養(本人が残した少額の相続財産の限度で行う簡易な形のもの),無価値動産の廃棄(いわゆるゴミ屋敷の片付け等)を行う。本人の財産が少額で債務が多額である場合のように,どこまでの事務を行うべきか疑問があれば,事前に後見センターに相談する。
②最終の後見等事務報告書と,死亡時点を基準時として作成した財産目録を付けて報酬を請求する。後見センターは,通常の死亡時引継事務に係る付加報酬,財産僅少による過去の報酬減額を考慮した付加報酬,及び死後事務に係る付加報酬を勘案して,最後報酬の額を決める。
③最後報酬を支払った後,本人名義の財産が少なくとも30万円残っている場合には,民法952条に基づく相続財産清算人選任の申立ての必要性がある事案かどうかを後見センターに相談する。その判断は,後見・財産管理の双方を担当する家事第4部の裁判官が検討する(本書238頁注13)。
④申立て相当と判断された場合,後見人等が弁護士であれば自ら全相続人調査を行う。相続を承認する相続人が1人でもいれば,前記第4・第5の通常の流れで管理終了まで進め,戸籍上相続人がいないか,相続人全員の相続放棄が確定するなどして清算人選任の要件が満たされれば,財産管理係に清算人選任を申し立てる。全相続人調査の費用と清算人選任申立てまでの付加報酬は,清算事件の中で検討する(本書239頁注14)。
⑤申立ての必要性がないと判断された場合(本人名義の財産が30万円未満の場合を含む。),後見人等は管理中の現金を供託する。預貯金口座があっても,通帳等の徴表書類の引継ぎは要しない。
⑥後見センターに報告書を提出して,全ての手続を終了する。

この30万円という目安,付加報酬の3要素及び供託による終了の運用は,大阪家裁ハンドブック,成年後見のページ及び報酬のめやすでは確認できなかった。
したがって,本書掲載の運用(初出は平成30年6月号)として参考にとどめ,実際の事案では後見センターに相談して現在の扱いを確かめる必要がある。
なお,⑤の供託は,相続人が不存在である見込みの場合には,受領拒絶(民法494条1項1号)ではなく債権者不確知(同条2項)の構成になると考えられるが,本書はこの点を明示していない。

第8 保佐人・補助人の場合

本書は,死後の事務の説明を〔後見・保佐・補助共通〕と〔後見〕とに書き分けている。
管理の計算(民法870条),相続人1人への履行の提供,受領の催告,現金の弁済供託,徴表書類の扱い,及び民法897条の2の処分・相続財産管理人の選任は,保佐人と補助人にも共通である。
保佐人と補助人の任務終了には,民法876条の5第3項及び876条の10第2項により,民法654条,655条,870条,871条及び873条が準用されるが,民法873条の2は準用されていない。

したがって,前記第5の3(2)の民法873条の2第1号・3号による寄託・廃棄の方法は,保佐人と補助人には使えない。
保佐人・補助人が動産の処理をするときは,民法897条の2第1項の「相続財産の保存に必要な処分」の申立てによることになる。
本書(連載第19回・令和2年6月号初出)253頁も,預貯金口座が凍結されている場合,保佐人・補助人は3号許可を得ることはできないが,その代わりに民法897条の2第1項本文の「相続財産の保存に必要な処分」として預貯金の払戻しを命じる審判を得ることにより払い戻すことができるとしている。
また,大阪家裁ハンドブック30頁のQ21は,相続財産の引継ぎは,被保佐人・被補助人の財産を管理する保佐人・補助人に限るとしている。
保佐人・補助人の権限の全体は保佐人・補助人の権限と実務で扱っている。

第9 本書の記述で現在は変わっている点

項目本書の記述現在
相続財産の保存に必要な処分の根拠条文連載版は民法918条2項,書籍版は897条の2第1項本文に読替え民法897条の2第1項(令和5年4月1日施行)。別表第一89の項
897条の2の性格熟慮期間終了までの「浮動的状態」の制度として説明(231頁)ただし書の3場合を除き単純承認後・遺産分割前も「いつでも」使える
不可分債務の根拠民法428条(227頁)民法428条が準用する432条を併せて読む
相続人不存在の場合の管理人書籍版は「相続財産清算人」に読替え民法952条の相続財産清算人。大阪家裁ハンドブックQ21は旧称のまま
死亡の連絡直ちに死亡を証する書面を提出,できなければ連絡後2週間以内(254頁注5)2週間以内に死亡診断書又は除籍謄本のコピーを添えて連絡(成年後見のページ)
相続財産管理人選任の書式令和6年6月時点の書式を参考掲載(245頁)申立書R041001版,記載例R060902版,引継書R6/9/2版を成年後見のページに掲載
30万円の目安・4か月未連絡時の口座凍結指示本書237頁~239頁,255頁注10公開資料では確認できなかった

第10 令和8年改正後の扱い

1 後見・保佐の廃止と経過措置

令和8年法律第45号により,法定後見は補助に一元化され,後見と保佐は廃止される。
施行期日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日であり(附則1条),基準日の時点で施行期日を定める政令は公布されていない。

附則2条1項は,施行日前に後見開始の審判がされた成年被後見人並びにその成年後見人及び成年後見監督人に関する民法の規定の適用については,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例によると定め,附則3条1項は,保佐についても同様に定める。
したがって,施行日前に開始した後見の本人が施行日後に死亡した場合も,元成年後見人の死後の事務には改正前の民法870条,873条の2等が適用されると条文上は読める。
附則4条1項は,施行日前にされた補助開始の審判は施行日以後は改正後の補助開始の審判とみなし,その補助人も改正後の補助人とみなすと定めるので,既存の補助人には改正後の規定が適用される。

2 補助人の死後の権限と補助の計算

改正後の民法876条の26第1項は,「補助人は、補助開始の審判を受けた者が死亡した場合において、必要があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結をすることができる。」と定める。
同条2項は,補助人は,必要があるときは,相続人の意思に反することが明らかなときを除き,相続人が相続財産を管理することができるに至るまで,①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為,②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済,③前2号に掲げるもののほか相続財産の保存に必要な行為をすることができるとし,③には家庭裁判所の許可を要するとする。
ただし,同項の行為は「当該死亡した時における権限内の行為に限る。」とされている。
現行の民法873条の2が成年後見人にしか認めていない寄託・廃棄の方法(前記第5の3(2))は,改正後は,死亡時にその財産の管理について権限を有していた補助人が使えることになると条文上は読める。

管理の計算は,改正後の民法876条の23が「補助人の任務が終了したときは、補助人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「補助の計算」という。)をしなければならない。」と定め,監督人の立会いは同法876条の24に移る。
委任の終了後の処分(民法654条,655条)の準用は改正後の民法876条の27に,家庭裁判所の監督と「必要な処分」は同法876条の20に置かれる。

3 出口の規定は変わらない

受領の催告と弁済供託に関する民法492条~495条,相続財産の保存に関する民法897条の2,相続財産の清算人に関する民法951条・952条は,令和8年法律第45号の改正の対象になっていない。
したがって,相続人が受け取らない場合の出口の構造は,改正後も本記事で述べたところと変わらないと考えられる。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

第11 出典・参考資料

1 法令

民法(27条~29条,166条,413条,428条,432条,484条,492条~495条,497条,644条~646条,654条,697条,863条,869条~871条,873条の2,874条,876条の5,876条の10,896条,897条の2,898条,918条,951条,952条) e-Gov法令検索
家事事件手続法(190条の2,200条,別表第一) e-Gov法令検索
供託法(1条) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法(876条の20,876条の23,876条の24,876条の26,876条の27)及び同法附則1条~4条 法務省(法律案本文)
法務省「民法等の一部を改正する法律 新旧対照条文」 法務省

2 公的資料

大阪家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」(令和8年9月19日閲覧) 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版)30頁 裁判所
大阪家庭裁判所「相続財産管理人選任申立書」(R041001) 裁判所
大阪家庭裁判所「相続財産管理人選任申立書(記載例)」(R060902) 裁判所
大阪家庭裁判所「引継書」(R060902) 裁判所
大阪家庭裁判所「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」 裁判所
大阪家庭裁判所家事第4部(後見センター)「本人死亡後の後見等監督に関する運用について」(平成30年7月13日) 本サイト掲載のPDF

3 文献

大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)1頁,226頁~239頁,242頁~245頁,251頁~258頁,264頁

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