第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,後見制度支援信託(以下「支援信託」という。)と後見制度支援預貯金(以下「支援預貯金」といい,両者を合わせて「支援商品」という。)について,仕組み,導入の経緯,家庭裁判所が利用を検討させる案件の選び方,検討のために選任された弁護士・司法書士の職務の流れ,最新の利用状況及び令和8年改正後の見通しを整理するものである。
基準日は令和8年9月19日である。
法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文により,令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)による改正後の条文は法務省の新旧対照条文とe-Govの未施行版で確認した。
素材とした大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)は2023年時点の記述なので,その後に変わった点は最高裁判所,金融庁及び大阪家庭裁判所の公表資料で確かめ,確かめられなかった点はその旨を書く。
2 結論
①支援商品は,本人の金銭のうち日常の支払に必要な分だけを後見人の手元に残し,残りを信託銀行等への信託又は特別な預貯金にして,払戻しや解約に家庭裁判所の指示書を必要とする仕組みである。
法律で作られた制度ではなく,家庭裁判所の後見監督と金融機関の商品設計を組み合わせた運用である。
②令和7年の新規利用は支援信託615人,支援預貯金2,005人で,新規の主力はすでに支援預貯金に移っている(令和7年12月末までの累計は支援信託31,234人,支援預貯金13,511人)。
③令和7年10月から,一部の金融機関で保佐・補助でも支援預貯金を利用できるようになった。
もっとも,最高裁判所の案内では,令和7年10月1日現在で利用できるのは静岡県内の信用金庫に限られており,大阪で利用できる金融機関があるかは公表資料では確認できなかった。
④家庭裁判所が利用を検討させる案件では,原則として弁護士又は司法書士が後見人に選任され,利用の適否,手元に残す額,定期交付額,利用する金融機関を検討し,報告書を出して指示書を受け,契約後に辞任して親族後見人に引き継ぐ。
本書は,報告書の提出時期を選任後4か月(遅くとも6か月)を目安とする。
⑤大阪家裁が利用を検討させる流動資産の基準額について,本書は1200万円とし,将来は500万円程度まで下がると考えられているとする。
1200万円という数字は,大阪家裁本庁後見センターが令和5年10月に作成したとみられる「よくある質問(FAQ)」にも記載があるが,大阪家裁の現在の成年後見のページ及びハンドブックでは確認できず,500万円程度への引下げを示す公表資料も確認できなかった。
⑥令和8年改正法の新旧対照条文には,支援信託・支援預貯金・指示書に触れる規定はない。
施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例によるので,既存の利用分はそのまま続くと考えられるが,施行後に新たに開始する補助で支援商品をどう使うかは,公表資料からは分からない。
第2 支援商品の仕組み
1 支援信託
最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について―令和7年1月~12月―」(以下「令和7年利用状況」という。)は,支援信託を,成年被後見人又は未成年被後見人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みであり,平成24年2月1日に導入されたと説明している。
信託財産を払い戻したり,信託契約を解約したりするには,あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要である。
支援信託の対象は成年後見と未成年後見だけであり,保佐,補助及び任意後見では利用できない。
信託協会の説明によれば,支援信託では元本補てん契約の付された指定金銭信託が使われ,これは預金保険制度の対象となる。
また,この信託は金銭しか信託できないので,支援信託で管理できる財産は金銭に限られる。
成年後見の場合の信託期間は原則として本人が亡くなるまでであり,本人が亡くなると信託は終了し,信託財産は相続財産として相続人に承継される。
本書138頁は,民法859条1項が後見人に本人の財産の包括的な管理権を与えていることを前提に,不正を防ぐには後見人による預貯金の払戻しを制限する必要があるという発想から支援信託が作られたと説明している。
民法859条1項は,「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」と定める。
後見人は本人の法定代理人として信託契約を結ぶので,信託契約を解約する権限も持つが,契約上,解約には家庭裁判所の指示書が必要とされているため,解約の理由と必要性が家庭裁判所のチェックを受けることになる(本書138頁)。
2 支援預貯金
令和7年利用状況は,支援預貯金を,預貯金の払戻し等に家庭裁判所が発行する指示書を必要とする金融商品であり,支援信託に並立・代替する仕組みとして導入されたと説明している。
金融庁「後見制度支援預貯金・後見制度支援信託 導入状況」(令和7年11月10日)によれば,支援預貯金では,本人の金銭を本人名義の大口預貯金口座と小口預貯金口座で管理し,日常生活に用いる資金を大口口座から小口口座へ定期送金する。
家庭裁判所の指示書が必要となるのは,契約時(口座開設時),定期送金額の設定時及び大口口座からの出金時等である。
支援信託との大きな違いは,本人名義の預貯金のまま,本人がこれまで取引してきた地域の金融機関で利用できる点である。
本書139頁~140頁は,支援信託には,本人の預貯金を本人の意思にかかわらず本人の財産から切り離して信託財産にするという根本的な問題があり,取扱金融機関も大手の信託銀行など一部に限られ,都市部以外では使いにくく,地域の金融機関の預貯金が都市部の信託銀行へ流出するという問題があったと指摘する。
支援預貯金は,これらの問題への対応として作られたものである。
最高裁判所の裁判手続Q&Aは,成年後見は支援預貯金を取り扱う全ての金融機関で利用できるが,未成年後見は一部の金融機関では利用できない場合があり,任意後見はいずれの金融機関でも利用できないとしている。
また,支援信託・支援預貯金とも元本が保証され,預金保険制度(貯金保険制度)の保護対象になるが,保護される金額には上限があるとしている。
3 指示書の位置付け
裁判所ウェブサイトに掲載されている支援信託・支援預貯金関係の書式は,いずれも上段が後見人等の「報告書」,下段が裁判官の「指示書」という一枚の構成になっており,指示書には監督事件の番号を記載し,「職権により、上記報告書のとおり」契約の締結や払戻しの請求をすることを指示すると記載されている。
民法863条2項は,「家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。」と定めている。
指示書は,後見監督事件の中で,この規定による家庭裁判所の後見監督の一環として発行されるものと考えられる。
支援商品の利用そのものを定めた法律の規定はなく,金融機関が「指示書がなければ払戻しに応じない」という契約内容の商品を用意し,家庭裁判所がその指示書を監督の手段として使うことで成り立っている。
4 両者の比較
| 項目 | 支援信託 | 支援預貯金 |
|---|---|---|
| 受け皿 | 信託銀行等(元本補てん契約付きの指定金銭信託) | 銀行,信用金庫,信用組合,農業協同組合等の預貯金 |
| 名義 | 信託財産 | 本人名義の預貯金のまま |
| 対象類型 | 成年後見・未成年後見 | 成年後見・未成年後見(一部の金融機関を除く)・保佐・補助(一部の金融機関,令和7年10月から) |
| 指示書が要る場面 | 契約,一時金交付,定期交付額の変更,追加信託,解約 | 契約,払戻し,定期送金額の変更,追加預入,解約(追加預入は不要な商品もある) |
追加預入について指示書が不要な場合があることは,大阪家裁本庁後見センターのFAQ(後記第6の2)に記載がある。
第3 導入の経緯と弁護士会の批判
1 支援信託の開発
本書138頁によれば,最高裁判所が平成22年に親族後見人による後見事務の実情調査を行ったところ,親族後見人による着服等の不正事案が10か月間で182件あり,被害総額は18億3000万円に上ることが判明した。
そこで最高裁判所は,法務省民事局及び信託協会と協議して支援信託の仕組みを開発し,平成23年2月に導入を公表した。
令和7年利用状況は,支援信託が平成24年2月1日に導入されたとしている。
2 本書が挙げる問題点
本書138頁~139頁は,支援信託は「盗られるものを無くしてしまう」という発想に基づくものであるとして,次の問題点を挙げている。
①本人の意思によらず,後見人の着服という本人の関わらない事由によって,本人が自らの意思で選んできた定期預金,保険契約,株式などの保有方法を変えさせることになり,自己決定の尊重・個人の尊厳に反する。
②財産の固定化により本人のための利用が抑制され,禁治産時代の家産維持に逆戻りする。
③大きな財産は信託銀行に任せ,手元に残った小さな財産は監督もしなくなるという意味で,家庭裁判所の監督義務の放棄になる。
④特定の営利企業を利し,地域の金融機関の預貯金が減少する。
3 日弁連・大阪弁護士会の意見と本格導入
本書139頁によれば,日本弁護士連合会は平成23年2月10日に導入に慎重を求める要望を提出し,大阪弁護士会は同年3月2日に導入に反対する意見を表明した。
その後,日本弁護士連合会も導入に反対する意見を表明し,同年10月18日には導入の条件及び不祥事防止策についての意見書を提出した(本書139頁)。
本書は,親族後見人による不祥事の多くは,親族後見人の理解不足(裁判所の説明不足),問題のある親族の選任,裁判所の監督不十分によるものであり,選任時の適格性の厳格な審査,専門職選任事案と親族選任事案の的確な振り分け,複数後見を含む専門職の活用,後見監督人の「同意」の活用といった対応が求められるとしている。
このような反対を受けて,最高裁判所は日本弁護士連合会等の専門職団体と協議し,平成24年からの試行的導入を経て,平成25年から本格導入した(本書139頁)。
本記事では,これらの意見書そのものは確認していない。
令和7年利用状況によれば,支援信託の年間の利用者数は平成28年の6,963人が最多であり,同年の信託財産額は約2152億9500万円であった。
本書139頁も,平成28年を利用のピークとしている。
4 支援預貯金の開発
本書140頁によれば,平成29年3月24日に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画に,本人が自己名義での預貯金の維持を希望した場合に,これを維持しつつ後見人による不正を防止することができる,支援信託に並立・代替する新たな方策の検討が期待されることが盛り込まれた。
これを受けて,大阪では大阪府信用組合協会が積極的に取り組み,平成29年10月に,本人名義の預金口座でありながら払戻しに裁判所の指示書を必要とする「後見制度支援預金」が開発・導入された(本書140頁)。
その後,大手都市銀行,地方銀行,信用金庫,JAなどでも取扱いが始まった。
金融庁の前記資料は,全国的な経緯として,法務省を事務局とし金融庁を含む関係省庁及び業界団体等による「成年後見における預貯金管理に関する勉強会」が平成30年3月に報告書を取りまとめてモデルスキームを示し,支援預貯金の取扱いが始まったと説明している。
令和7年利用状況も,支援預貯金に関する最高裁判所の実情調査を平成30年1月から開始したとしている。
大阪の平成29年10月の取組は,全国的なモデルスキームに先行したものということになる。
第4 最新の利用状況(令和7年)
1 年間の新規利用者数
令和7年利用状況によれば,令和7年1月から12月までの1年間に新たに利用した人数と金額は次のとおりである。
①支援信託は615人,信託財産額は約283億7300万円,平均は約4614万円である。
②支援預貯金は2,005人,預入れ財産額は約585億6400万円,平均は約2921万円である。
支援預貯金の人数には,令和7年10月以降の被保佐人・被補助人を含む。
近年の年間の新規利用者数の推移は,次のとおりである(令和7年利用状況の資料1。支援預貯金は平成30年から調査)。
| 年 | 支援信託 | 支援預貯金 |
|---|---|---|
| 平成28年 | 6,963人 | - |
| 平成30年 | 2,897人 | 535人 |
| 令和2年 | 1,058人 | 1,660人 |
| 令和4年 | 830人 | 1,991人 |
| 令和5年 | 720人 | 2,020人 |
| 令和6年 | 793人 | 2,043人 |
| 令和7年 | 615人 | 2,005人 |
令和2年以降は,支援預貯金の新規利用が支援信託を上回っている。
支援商品の年間の新規利用者の合計も,平成28年の約7,000人から,近年は約2,600人から約2,800人の間で推移している。
2 累計
平成24年2月から令和7年12月までの累計利用者数は,支援信託が31,234人,支援預貯金(平成30年1月以降)が13,511人であり,信託及び預入れ財産額の累計は約1兆4873億6300万円である。
この累計額は契約時に信託又は預け入れた額を積み上げたものであり,各時点の残高とは一致しない(令和7年利用状況の資料2の注)。
また,令和7年利用状況は,数値は概数であり,従前の数値についても必要に応じて修正を行っているとしているので,過去の年の資料の数値とは多少異なることがある。
3 事件類型と金額の分布
令和7年の利用者を事件類型別にみると,成年後見が2,552人,保佐及び補助が7人,未成年後見が48人である(令和7年利用状況の資料3)。
保佐及び補助の調査は令和7年10月から始まったので,7人は3か月分の数字である。
令和7年に信託又は預け入れられた財産額の分布は,2000万円以下が1,383人(53.0%),2000万円超5000万円以下が762人(29.2%),5000万円超1億円以下が348人(13.3%),1億円超が114人(4.4%)である。
半数以上が2000万円以下であり,支援商品が一部の富裕層に限られた仕組みではないことが分かる。
4 一時金交付の状況
令和7年に,一時金の交付(払戻し)を受けるために家庭裁判所が発行した指示書は708件(支援信託280件,支援預貯金428件)であった。
請求額は100万円以上500万円未満が66.7%で最も多い。
報告書の提出から指示書の発行までの期間は,即日又は翌日が35.0%,7日以内が82.5%であり,8日以上かかったものが17.5%ある。
請求理由は,多い順に,被後見人等の生活費・学費(177件),施設入所費用(131件),後見人等報酬(108件),納税(102件)である。
後見人等の報酬も一時金交付の理由として多いことは,支援商品を利用した後の報酬の原資を考える上で押さえておいてよい。
5 取扱金融機関の状況
金融庁は,全預金取扱金融機関を対象に,毎年度3月末時点の導入状況を調査している。
令和7年11月10日公表の調査(令和7年3月末時点,調査対象1,096金融機関)によれば,支援預貯金又は支援信託を導入済みの金融機関の割合は,個人預貯金残高ベースで約73%(72.8%)であり,導入予定が20.2%,導入予定なしが7.0%である。
金融機関数ベースでは,導入済みが811,導入予定が13,導入予定なしが272である。
大口口座から小口口座への定期送金の機能がない支援預貯金を導入している金融機関を含めると,導入割合は91.7%になる。
導入予定なしの理由としては,営業店・担当者の事務負担が大きく業務体制の構築が困難であること(127件)や,顧客のニーズがないと考えていること(97件)が多い。
本書140頁は,令和4年3月末時点の導入割合を約69%,導入予定なしを約7.7%と紹介している。
金融庁の資料も,令和4年3月末時点の導入割合は約69%であり,成年後見制度利用促進基本計画等で設定された50%という目標を達成したとしている。
その後の伸びは緩やかであり,導入予定なしの割合も大きくは減っていない。
第5 保佐・補助への拡大(令和7年10月)
1 最高裁判所の公表
令和7年利用状況は,支援預貯金の対象は成年後見,未成年後見,保佐及び補助であり,保佐及び補助は一部の金融機関で令和7年10月から利用可能となったとしている。
未成年後見が利用対象となるか否か,指示書を必要とする取引の内容等は,各金融機関の商品内容によって異なる。
支援信託は,現在も保佐及び補助では利用できない。
本書146頁は,令和4年4月現在では保佐,補助及び任意後見では利用できない取扱いであるが,法務省で保佐,補助への適用拡大が検討されており,適用されることになるだろうと見通していた。
この見通しは,支援預貯金について実現したことになる。
なお,第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定)は,金融関係団体等による「成年後見における預貯金管理に関する勉強会フォローアップ会議」において,令和3年10月に保佐・補助類型を対象とする預貯金管理のしくみに関する方向性が取りまとめられたことを注記している。
2 利用できる金融機関
最高裁判所の裁判手続Q&Aは,保佐・補助について,支援預金は静岡県内の信用金庫に限って利用できる(令和7年10月1日現在)とし,静岡県外に住む本人が利用できるかは各信用金庫に確認するよう案内している。
また,保佐・補助を対象とする支援預貯金の仕組みは,後見を対象とする仕組みとおおむね同じであるが,本人が自由に取引できる本人用口座を設けることができる点が違い,支援預貯金口座から本人用口座に生活費等を定期的に振り込むように設定できるとしている。
金融庁が令和8年9月10日の成年後見制度利用促進専門家会議のワーキング・グループに提出した資料は,「保佐」「補助」類型に対象を拡大して取扱いを開始し,又は取扱いを検討している金融機関が複数認められるとしている。
しかし,基準日現在で大阪府内に保佐・補助で利用できる金融機関があるかどうかは,公表資料では確認できなかった。
3 代理権型と同意権型の書式
裁判所ウェブサイトには,保佐人・補助人用の支援預貯金の書式として,「報告書(契約締結・代理権)」と「報告書(契約締結・同意権)」が別々に掲載されている。
同意権型の書式は,被保佐人・被補助人が支援預貯金契約を締結することに保佐人・補助人が同意することが相当である旨の報告書と,「同意することを指示する」指示書の組合せになっている。
これは,保佐人・補助人には成年後見人のような包括的な財産管理権がないことによる。
保佐人・補助人が本人を代理して契約を結ぶには,民法876条の4第1項又は876条の9第1項による代理権付与の審判が必要である。
他方,民法13条1項は,被保佐人が「元本を領収し、又は利用すること」(1号)等をするには保佐人の同意を得なければならないと定め,補助人については,民法17条1項により,同項各号の行為の一部について補助人の同意を要する旨の審判をすることができる。
したがって,保佐・補助では,保佐人・補助人が代理権に基づいて契約するか,本人が保佐人・補助人の同意を得て契約するかによって,使う書式が変わる。
保佐人・補助人の権限の全体は,保佐人・補助人の権限と実務で扱っている。
4 大阪家裁の案内
大阪家裁本庁後見センターのFAQは,支援信託・支援預貯金は成年後見と未成年後見において利用することができ,保佐,補助及び任意後見では利用できないと記載している。
このFAQは令和7年10月の拡大より前に作成されたものであるから,この記載は拡大前の状態を示すものである。
大阪家裁で保佐・補助の支援預貯金を利用できるかは,利用を考える金融機関と家庭裁判所に個別に確認する必要がある。
第6 対象案件の選別と専門職後見人の選任
1 検討対象となる三つの場面
本書140頁~141頁は,家庭裁判所が支援商品の利用を検討させる案件を次の三つに分けている。
①新規案件である。
後見開始の申立て(未成年後見を含む。)で,親族が後見人候補者となっており,候補者の選任が特に不適切ではないものの,預貯金等の流動資産が一定額以上ある事案では,家庭裁判所は,申立人及び候補者に,専門職の後見監督人を付けるか支援商品を利用するかの意向を尋ね,利用を了解した場合に検討対象案件とする。
②継続中案件である。
すでに親族後見人が管理してきた事案で,相続などによって本人の流動資産が一定額以上になった場合も,家庭裁判所は後見人に意向を尋ね,了解があれば検討対象案件とする。
③後見人の希望案件である。
流動資産が基準額未満であっても,後見人が自ら利用を希望する場合は検討対象案件とする。
本書は,支援預貯金が取り扱われるようになって,この希望案件が利用しやすくなったとしている。
最高裁判所の裁判手続Q&Aは,支援商品は必ず利用しなければならないものではなく,利用しない場合には,家庭裁判所の判断により監督人が選任されることがあるとしている。
また,本人の財産額が一定額以上あり,支援商品の利用がない場合に監督人を選任している家庭裁判所が多くなってきているとしている。
つまり,一定額以上の流動資産がある事案で親族が後見人になる場合,実際上は,支援商品を利用するか,専門職の後見監督人を付けるかの選択になることが多い。
後見監督人については,後見監督人とはで扱っている。
2 大阪家裁の基準額
本書140頁は,令和4年4月現在,大阪家裁では流動資産1200万円以上を基準額としていると記載している。
本書200頁も,総合支援型後見監督人の職務として,おおむね1200万円を超える流動資産を保有している場合には,必ず監督人において支援商品の利用の相当性等を検討するとしている。
大阪家裁本庁後見センターの「よくある質問(FAQ)」(裁判所ウェブサイトに掲載されているPDF。ファイルの作成日は2023年10月25日)は,次のとおり記載している。
①大阪家裁では,後見開始時点で1200万円以上の流動資産がある場合に,支援信託又は支援預貯金の利用の検討を求めている(Q20)。
②ただし,全ての事件で検討を求めるわけではなく,専門職による継続的な関与が必要な場合や,株式等の信託できない財産が多く含まれる場合等は,利用の検討を求めずに成年後見監督人を選任することがある(Q20)。
③明確な金額の基準はないが,本人の流動資産が1200万円以上となる場合に成年後見等監督人を選任する方針であり,ただし,支援商品を利用して後見人の手元で管理するお金を100万円から500万円程度に設定したような場合には選任しないことがある(Q19)。
④支援商品を利用しない場合には,家庭裁判所の判断により成年後見監督人や未成年後見監督人が選任されることがある(支援信託・支援預貯金のQ3)。
もっとも,基準日現在の大阪家裁の成年後見のページ,後見人ハンドブック(令和8年2月1日版)及び総合支援型後見監督版ハンドブック(令和8年5月1日版)では,1200万円という基準額の記載を確認できなかった。
基準日現在の大阪家裁の成年後見のページには上記FAQへのリンクもなく,同ページに掲載されている「申立てに際してご用意いただく書類等(チェック表)」(令和8年2月1日版)にも基準額の記載はない(FAQのPDF自体は,基準日現在も裁判所ウェブサイト上で閲覧できる)。
そのため,1200万円という基準は,本書(2023年)と令和5年作成とみられるFAQに記載されたものであり,現在も同じ基準で運用されているかは公表資料では確認できない。
大阪家裁後見センターの運用全般は,大阪家裁後見センターで扱っている。
3 なぜ弁護士・司法書士が選任されるのか
本書22頁は,支援信託は親族後見人による不正防止のために平成24年に導入されたが,信託が相当かどうかの判断や信託契約の手続は法律専門職によるべきであるとして,弁護士か司法書士が成年後見人に選任される運用となり,支援預貯金が取り扱われるようになった後も,支援商品を検討すべき案件には弁護士か司法書士が選任されると説明している。
本書141頁も,今後の本人の生活に必要な財産や活用すべき財産を的確に分析する必要があること,親族後見人の適性を見極める必要があること,信託契約が法的専門性を有するものであることを理由に挙げている。
大阪家裁本庁後見センターのFAQも,利用の適否の判断,金融機関の選択,信託財産や預入の金額,定期交付金額の設定等は第三者である専門職がその知識と経験に基づいて行う必要があるから,原則として,親族後見人ではなく専門職後見人が信託契約を締結し,支援預貯金口座を開設することとしている,と説明している。
4 リレー方式・複数選任方式・監督人方式
本書141頁は,専門職の関与の仕方を次の三つに分けている。
①リレー方式である。
新規案件では,まず法律専門職を後見人として選任し,支援商品の利用後に専門職後見人が辞任して,改めて選任される親族後見人に引き継ぐ。
これが原則型である。
②複数選任方式である。
継続中案件では,すでに親族後見人がいるので,専門職後見人を追加選任して複数後見とし(民法843条3項),支援商品の利用後に専門職後見人が辞任して親族後見人の単独後見に戻る。
③監督人方式である。
後見人の希望案件では,専門職を後見監督人に選任し,専門職監督人の監督の下で親族後見人が契約等を行い,完了後に専門職監督人が辞任する。
本書は,相続等の法的処理のために専門職後見人を選任し,その処理が終わった段階で支援商品の利用を検討する事案もあるとしている。
裁判所ウェブサイトには,監督人方式に対応する「報告書(信託契約締結【監督人関与】)」と「報告書(契約締結【監督人関与】)」の書式も掲載されている。
大阪家裁のウェブサイトにも,「報告書・指示書(信託契約の締結)【総合支援型・監督人関与】」等の書式が掲載されており,大阪家裁の書式では,後見人の報告書の下に成年後見監督人が契約締結に同意する旨の欄が設けられている。
5 大阪弁護士会の推薦
本書142頁によれば,大阪では,家庭裁判所が支援商品の利用の検討が必要と判断した案件は「信託検討案件」として弁護士会に推薦依頼がされ,弁護士会は,特別の研修を受講した候補者リストの中から後見人候補者を推薦している。
本書24頁も,大阪弁護士会の高齢者・障害者総合支援センターが後見制度支援信託の研修を行い,その受講により支援信託のための成年後見人の推薦を受けることができるとしている。
第7 検討のために選任された専門職後見人の職務
1 初動
本書142頁は,関係者との面談,財産目録の調製,収支予定表の作成等の初動は通常の案件と異ならないとしている。
民法853条1項により,後見人は遅滞なく財産の調査に着手し,1か月以内に調査を終えて目録を作成しなければならない。
支援商品の検討は,この財産調査と収支予定の把握を土台にして行う。
2 利用に適さない事案
本書142頁~143頁によれば,最高裁判所は支援信託の導入に当たって「後見制度支援信託の目的と運用(イメージ)」を示し,大阪家裁も平成25年4月1日(平成26年4月1日改訂)に「後見制度支援信託の運用のめやす」を出した。
これによれば,次のような事情がある場合は支援信託の利用に適さないとされ,支援預貯金も基本的に同様と考えられる(本書143頁)。
①身上監護面について適切と見込まれる親族後見人候補者がいない場合
②財産規模が大きく管理財産が多岐にわたるなど財産管理が複雑な事案,親族間紛争その他紛争性が高い事案など,専門職後見人が継続して職務を行う必要がある場合
③不動産,有価証券,保険など信託できない財産が含まれる場合
④本人の財産に関する遺言の存在が明らかな場合
⑤本人の預貯金・現金が少ない場合
⑥本人の身上に対する配慮(病状,生活状況等)に照らし,収支予定を立てることが困難な場合
③について,本書143頁は,本人が形成してきた資産は原則として維持することが本人の意思の尊重にかなうとしつつ,自宅,山林・農地など収益見込みの乏しい不動産しかない場合や,有価証券や保険があってもその額が預貯金に比べて小規模な場合は,なお利用相当と判断することもあるとしている。
最高裁判所のリーフレットも,不動産・動産は支援信託の利用を目的として売却することは想定されておらず,株式等も財産の現状を大きく変えることになるので個別に売却・換金するかを検討するとしている。
④について,本書143頁は,遺言があるのに預貯金を預け替えるのは不相当であるとし,遺言の有無は親族への聴取や貸金庫の開披など社会通念に従った範囲の調査で確認するとしている。
⑥について,近い将来に居所を変える必要があるなど財産を柔軟に使う必要が高い場合や,病状・生活状況が安定していない場合は,財産を固定してしまう支援商品は適さない(本書143頁)。
他方,未成年後見では,不正防止と本人保護の観点から,財産規模が小さい事案でも利用相当とすることを検討する(本書143頁)。
民法858条は,成年後見人は財産の管理に関する事務を行うに当たって「成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」と定めている。
第二期成年後見制度利用促進基本計画も,支援商品の運用においては,財産の固定化によって本人の積極的な財産活用や日常生活への柔軟な対応に支障が生じないよう留意が必要であるとしている。
本書が挙げる不適事由は,いずれもこの観点から理解することができる。
3 親族後見人候補者の適性
本書143頁~144頁は,専門職後見人は,利用の適否とともに,親族後見人候補者が支援商品の利用後に単独で職務を行う適性を持つかを見極める必要があるとし,適性に疑義がある場合として次のものを挙げている。
①過去に本人の財産を勝手に費消した事実がある
②本人に対して過去に虐待(経済的虐待を含む。)をした疑いがある
③自己破産・債務整理等をした事実がある
④現在多額の負債を抱えている
⑤本人の財産に依存して生活している
⑥過去又は現在,本人との間に紛争がある
⑦親族関係にはあるが本人との関係が希薄である
⑧遠方で生活している
さらに,適性があるといえるには,後見人の職務を適切に行えることに加え,本人のために必要な場合には家庭裁判所に払戻しを求める手続をとれることも必要であるとしている。
支援商品は払戻しに手間がかかるので,必要な支出をためらう後見人では,かえって本人の生活が細ることになるからである。
支援商品を利用しても手元口座の管理は親族後見人に委ねられるので,横領の危険が消えるわけではない。
親族後見人による横領の実情と対策は,成年後見人による横領で扱っている。
4 手元口座の額と定期交付金
本書144頁は,支援商品の利用が相当と判断した場合,親族後見人が手元で管理する預貯金額と,支援商品に預ける額を決めるとしている。
手元に残す口座は基本的に年金受給口座であり,事情によっては少額の残高の複数口座でもよい。
残高は,後見人の報酬,本人が死亡した場合の葬祭費,急病の場合の医療費等を考えると,おおむね200万円程度が考えられるとしている。
前記の大阪家裁本庁後見センターのFAQは,後見人の手元で管理するお金を100万円から500万円程度に設定したような場合に監督人を選任しないことがあるとしている。
収入より支出が多くなる場合は,支援商品から一定期間ごとに一定額を手元口座に振り込む定期交付金(支援預貯金では定期送金)を設定する(本書144頁)。
裁判所ウェブサイトの支援信託の報告書(信託契約締結)の書式は,交付間隔を1・2・3・6か月のうちから選ぶものとしている。
支援預貯金の書式は,利用する商品で定めている送金間隔を確認して記載するものとしている。
逆に,収入が支出を上回り手元口座の残高が増えていく見込みの場合や,一定の時期にまとまった収入が見込まれる場合は,追加信託や追加預入の時期と金額も検討しておく(本書144頁)。
最高裁判所の裁判手続Q&Aも,黒字分が貯まって後見人が管理する金銭が多額になる見込みの時期に後見人から自主的な報告書の提出がない場合は,家庭裁判所から追加信託又は追加預入を求めることがあるとしている。
5 金融機関の選定
本書144頁は,金融機関によって手数料や利息が違うので,本人のこれまでの資産形成から推測される本人の意思,取扱支店の場所,商品の内容等を検討して選ぶとしている。
最高裁判所の裁判手続Q&Aは,利用する金融機関によっては管理報酬や口座開設手数料が必要となる場合があるとしている。
本人がこれまで取引してきた地域の金融機関が支援預貯金を扱っていれば,そこを使うことが本人の意思の尊重につながりやすい。
6 報告書の提出と契約締結
本書144頁~145頁は,検討結果を踏まえて家庭裁判所に所定の報告書を提出し,指示書を受けるとしている。
報告書の提出時期は選任後4か月(遅くとも6か月)が目安であり,この時期までに利用の可否を判断できない特別の事情がある場合は,その旨を家庭裁判所に連絡する。
報告書を提出すると家庭裁判所から指示書謄本が交付されるので,これを受領後に金融機関と契約を結ぶ。
裁判所ウェブサイトの書式では,契約申込日は「指示の日から3週間以内の日」とされている。
契約締結後は財産目録を作成し,契約書の写し等を添付して,指示書謄本の交付から2か月以内に家庭裁判所に提出する(本書145頁)。
7 利用が相当でないと判断した場合
検討の結果,利用が不可又は不相当と判断した場合も,その理由を記載した報告書を選任後4か月(遅くとも6か月)を目安に提出する(本書145頁)。
本書は,利用の適否については専門職後見人の合理的判断が尊重されるが,不可の判断の場合は家庭裁判所として再検討をすることになり,家庭裁判所は必ずしも専門職後見人の意見に拘束されないとしている。
最高裁判所のリーフレットも,専門職後見人が利用に適さないと判断した場合には,家庭裁判所がその意見を聴いて再検討するとしている。
8 辞任と引継ぎ
本書145頁によれば,財産目録の提出後,定期交付金の金額変更の必要がなければ,専門職後見人は辞任許可の申立て,後任の親族後見人の選任の申立て及び報酬付与の申立てをする。
民法844条は,「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」と定めている。
辞任許可の審判と親族後見人の選任の審判が確定すれば,親族後見人に財産を引き継ぎ,家庭裁判所に報告書(後見事務報告書(財産の引継))を提出して任務を終える。
本書145頁は,支援商品を利用しないと判断した場合でも,引き続き専門職後見人による管理が相当な場合と,親族後見人を選任して専門職監督人を付ける場合のいずれにおいても,検討を行った専門職後見人は辞任するとしている。
職務を継続するための恣意的な判断を排除するためである。
報酬は民法862条に基づき家庭裁判所が定める。
本書258頁に収録された大阪家裁の報酬付与申立事情説明書(2023年時点)には,付加報酬を求める事情として「後見制度支援信託」の「信託契約の検討まで」「信託契約締結に至った」をチェックする欄がある。
報酬の目安は,成年後見人等の報酬額の目安で扱っている。
また,最高裁判所家庭局第二課長の書簡が示した選任と報酬の考え方は,最高裁家庭局第二課長書簡「成年後見人等の選任及び報酬付与の在り方」で扱っている。
第8 総合支援型後見監督人と支援商品
1 大阪家裁の総合支援型後見監督人
大阪家裁は,令和4年2月1日以降に申し立てられた後見開始事件について,初めて後見人となった親族後見人の後見事務全般について,監督を行うほか,積極的・能動的に指導・助言・相談対応を行う「総合支援型後見監督人」を選任する運用を行っている(大阪家裁ウェブサイト)。
大阪家裁の案内書面「後見開始の申立てをお考えの方へ~後見人支援のご案内~」は,支援の期間をおおむね9か月程度とし,9か月程度経過した後も,本人が多額の預貯金や有価証券を有していてこれを後見人がそのまま管理し続けるような場合などは,後見監督人が就任し続ける場合があるとしている。
本書196頁は,総合支援型後見監督人を選任する対象を,親族後見人候補者がいる後見類型の事案のうち,本人の流動資産がおおむね500万円以上の事案としている。
2 本書198頁・200頁が示す監督人の職務
本書198頁は,総合支援型後見監督人が親族後見人との面談で説明する事項の一つとして,「財産の具体的な管理方法(選択肢としての支援商品の利用可能性を含む。)の説明」を挙げている。
大阪家裁の【総合支援型後見監督版】ハンドブック(令和8年5月1日版)に収録された「後見等事務報告書(初回)【総合支援型】」にも,監督人から説明を受けた事項のチェック欄として,同じ文言が置かれている。
本書200頁は,おおむね1200万円を超える流動資産を保有している場合には,必ず監督人において支援商品の利用の相当性等について検討した上で,利用相当と判断したときは,親族後見人に説明し,適宜の時期に協議して,利用条件,商品の選択及び利用に向けた諸手続を支援するとしている。
また,審判確定日から8か月後を目安に,親族後見人に「支援商品利用にかかる報告書兼指示書」を含む書類の提出を求め,9か月後に監督事務報告書(2回目)で支援商品の利用の要否の検討結果と利用条件を報告するとしている(本書200頁)。
なお,同ハンドブックに収録された「後見等事務報告書(2回目)【総合支援型】」では,財産管理事務の振り返りの欄に「支援商品利用のための支援については対象外。」との注記がある。
これは,親族後見人の到達点を振り返る欄から,支援商品の利用のための支援を除く趣旨であり,監督人が支援商品の利用を支援すること自体を否定する趣旨ではないと考えられる。
専門職を後見人に選任して親族に引き継ぐリレー方式と比べると,総合支援型では親族が最初から後見人となり,専門職は監督人として支援商品の検討と契約手続を支援する点に違いがある。
第9 利用開始後の後見事務
1 一時金交付・払戻し
利用開始後に本人に多額の支出が必要になり,手元口座では足りない場合は,後見人は,必要な金額と理由を記載した報告書を裏付け資料とともに家庭裁判所に提出し,指示書を受けて金融機関に提出し,払戻し(支援信託では一時金交付)を受ける(最高裁判所の裁判手続Q&A)。
支援信託の一時金交付の報告書の書式では,交付請求額及び理由の相当性を疎明する書類,受託者から受領した直近の信託財産状況報告書及び後見人が管理している本人名義の預貯金通帳の写しを添付するものとされている。
前記のとおり,令和7年の指示書の発行は,82.5%が7日以内であった。
支出の予定が分かっている場合は,余裕をもって報告書を出しておく必要がある。
2 定期交付額の変更・追加・解約
収支状況が変わって定期交付額(定期送金額)を変更する場合や,事情により契約を解約する場合も,報告書を提出して指示書を受ける必要がある(最高裁判所の裁判手続Q&A)。
臨時の収入があった場合や黒字分が貯まった場合は,追加信託又は追加預入を検討する。
3 家庭裁判所への報告
支援商品を利用しても,家庭裁判所は事案に応じて必要な後見監督を行う(最高裁判所の裁判手続Q&A)。
大阪家裁の後見人ハンドブック(令和8年2月1日版)に収録された財産目録の書式には,「支援信託」「支援預貯金」を記載し,その小計を示す欄が設けられている。
定期報告では,手元口座だけでなく,支援商品の残高も財産目録に記載して報告する。
支援商品を利用していても,手元口座からの不正な支出は起こり得る。
第二期成年後見制度利用促進基本計画も,支援商品や後見監督人等の活用が難しい親族後見人等の事案を含め,家庭裁判所に適切な監督に向けた取組を求めている。
第10 今後の拡大――本書の見通しと現状
1 対象となる後見人の拡大
本書145頁は,支援商品はもともと親族後見人の不正を防ぐために開発されたが,不正防止は親族後見人に限られないことから,現在では法人後見人や市民後見人も利用を検討する対象になっているとしている。
弁護士,司法書士,社会福祉士の専門職は対象外とされていたが,公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートに所属していない司法書士は対象とされているとし,今後は弁護士も対象とされる可能性がないわけではないとしている。
第二期成年後見制度利用促進基本計画は,支援商品は後見人等の属性を問わず広く後見人等による不正防止に有用であると述べている。
ただし,現在どの属性の後見人がどの範囲で対象とされているかを示す最高裁判所や大阪家裁の公表資料は確認できなかった。
2 基準額の引下げ
本書146頁は,大阪家裁の基準額は1200万円であるが,不正防止の観点からは後見人が管理する財産額を少なくするのが相当であるとして,今後この基準額は下げられていき,500万円程度になると考えられているとしている。
この見通しは本書(2023年)の記載であり,基準日現在,大阪家裁が基準額を500万円程度に引き下げたことを示す公表資料は確認できなかった。
前記のとおり,大阪家裁が総合支援型後見監督人を選任する目安がおおむね500万円以上とされていることとは,別の基準である。
3 類型の拡大
前記第5のとおり,本書146頁が見通していた保佐・補助への拡大は,令和7年10月から支援預貯金について一部の金融機関で実現した。
支援信託は,依然として成年後見と未成年後見に限られる。
任意後見は,支援信託・支援預貯金のいずれも利用できない。
第11 令和8年改正後の支援信託・支援預貯金
1 改正法の概要と施行時期
令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律,令和8年6月24日公布)は,法定後見を補助に一元化し,後見・保佐を廃止する。
成年後見に関する部分は,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行され,基準日現在は未施行である(同法附則1条)。
改正の全体像は,令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。
2 支援商品についての明文の手当ては見当たらない
法務省の新旧対照条文(民法等改正法及び整備法)を検索したところ,「支援信託」「支援預貯金」「指示書」「預貯金」「金融機関」に当たる語は,民法等改正法の新旧対照条文には現れなかった。
整備法の新旧対照条文で「信託」を含むのは,信託法56条1項2号(受託者の任務終了事由)等を「特定補助人を付する処分の審判」に合わせる改正であり,支援信託とは関係がない。
したがって,改正法は,支援商品の運用について直接の規定を置いていない。
3 改正後の条文で関係しそうな規定
支援商品の運用を支える条文は,改正後は次のようになる。
①家庭裁判所の監督処分である。
改正後の民法876条の20第2項は,「家庭裁判所は、補助監督人、補助開始の審判を受けた者若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、補助の事務について必要な処分を命ずることができる。」と定める。
現行の民法863条2項が「被後見人の財産の管理その他後見の事務について」としているのに対し,改正後の規定は「補助の事務について」とだけ定めている。
この文言の違いが指示書の運用に影響するかどうかは,公表資料からは分からない。
②財産管理権である。
改正後の民法859条は「未成年後見人は、未成年被後見人の財産を管理し」と未成年後見人に限った規定になり,補助人には包括的な財産管理権を定める規定がない。
補助人が本人を代理するには,改正後の民法11条1項による代理権付与の審判が必要であり,特定補助人の権限は,取消権の行使,意思表示の受領及び財産に関する保存行為である(改正後の民法10条5項)。
③同意権である。
改正後の民法9条2項1号は,補助人の同意を要する旨の審判の対象となる行為として,「預金又は貯金の預入又は払戻しの請求をすること」を明記した。
現行の民法13条1項1号の「元本を領収し、又は利用すること」は,改正後の9条2項2号として残る。
これらからすると,改正後に補助人が支援預貯金を利用するには,現在の保佐・補助と同じく,預貯金契約に関する代理権付与の審判(改正後の民法11条1項)を受けて代理するか,本人が補助人の同意を得て契約する形(改正後の民法9条1項・2項)になると考えられる。
その意味で,令和7年10月から始まった保佐人・補助人用の代理権型・同意権型の書式は,改正後の補助の枠組みにそのまま近い形をしている。
もっとも,改正後の補助で支援信託(信託銀行等への信託)を利用できるようにするのか,支援預貯金を扱う金融機関が改正後の補助全般に対象を広げるのか,家庭裁判所が基準額以上の事案でどちらを求めるのかは,基準日現在の公表資料からは分からない。
金融庁は,令和8年9月10日の前記資料で,成年後見制度の見直し等を踏まえ,金融機関へのヒアリング等を通じて補助類型等の支援預貯金等の導入状況も把握するとしている。
4 施行日前に開始した後見・保佐の扱い
改正法附則2条1項は,施行日前に後見開始の審判がされた場合の成年被後見人,成年後見人及び成年後見監督人に関する民法の規定の適用については,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例によるとしている。
保佐についても,附則3条1項が同様に定めている。
そのため,施行日前に開始した後見で利用されている支援信託・支援預貯金は,現行の民法859条・863条の下で,そのまま続くと考えられる。
ただし,附則2条2項・3項により,従前の例による成年後見人の解任と,本人の意向の尊重(改正後の民法876条の11)には改正後の規定が適用される。
また,附則2条4項により,従前の例による成年後見人等は,改正後の補助開始の審判を請求することができ,その審判がされると旧来の後見開始の審判は取り消される(同条6項)。
既存の支援商品の利用者について補助へ移行する場合に,支援商品をどう扱うかも,公表資料からは分からない。
未成年後見は改正後も未成年後見として残り(改正後の民法859条・863条),支援信託・支援預貯金の対象であり続けると考えられる。
弁護士の後見業務への影響は,令和8年成年後見制度改正で弁護士の後見業務は採算が悪化するかで扱っている。
第12 出典・参考資料
1 法令
民法(13条,17条,843条,844条,849条,853条,858条,859条,859条の2,862条,863条,864条,876条の4,876条の5,876条の9,876条の10) e-Gov法令検索
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)による改正後の民法(9条,10条,11条,859条,863条,876条の11,876条の20)及び同法附則(1条~4条) e-Gov法令検索(未施行版)
法務省「民法等の一部を改正する法律案新旧対照条文」 法務省
法務省「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案新旧対照条文」 法務省
2 公的資料
最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について―令和7年1月~12月―」(令和8年5月29日掲載) 裁判所
最高裁判所「後見制度支援信託等の利用状況等について(平成30年から)」 裁判所
最高裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」(後見制度支援信託・支援預貯金について) 裁判所
最高裁判所「成年後見人・保佐人・補助人の報告書式/後見制度支援信託・支援預貯金関係書式」 裁判所
最高裁判所「成年後見人・保佐人・補助人(これらの監督人)に選任された方へ」 裁判所
最高裁判所「~ご本人の財産の適切な管理・利用のための後見制度支援信託のご説明~」(平成23年12月) 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」 裁判所
大阪家庭裁判所本庁後見センター「よくある質問(FAQ)」 裁判所
大阪家庭裁判所後見センター「後見開始の申立てをお考えの方へ~後見人支援のご案内~」 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版) 裁判所
大阪家庭裁判所「【総合支援型後見監督版】成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」(令和8年5月1日版) 裁判所
金融庁「後見制度支援預貯金・後見制度支援信託 導入状況」(令和7年11月10日) 金融庁
金融庁「金融庁説明資料」(令和8年9月10日,成年後見制度利用促進専門家会議第3回成年後見制度の適切な運用に係るワーキング・グループ資料2-2) 厚生労働省
「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(令和4年3月25日閣議決定) 厚生労働省
一般社団法人信託協会「後見制度支援信託」 信託協会
3 文献
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)22頁,24頁,138頁~146頁,195頁~200頁,258頁
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