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被保険者の死亡後に支払われる入院給付金・手術給付金は誰のものか―相続財産性,約款の請求者条項,指定代理請求人,相続放棄及び相続税(AI作成)

第1 結論と本記事の対象

入院・手術の後,給付金を請求しないまま被保険者が死亡した場合,その給付金は,原則として被保険者の相続財産となる。
給付金の請求権は,入院・手術という給付事由が生じた時点で受取人である被保険者に発生しており,死亡保険金のように受取人が自分の固有の権利として取得するものではないからである(民法896条)。

結論を先に整理すると,次のとおりである。
①被保険者が受取人である入院給付金・手術給付金の請求権は,死亡前の入院・手術によって既に発生していれば,被保険者の相続財産となる。
②大手生命保険会社の約款には,被保険者の死亡後は法定相続人の1人が他の法定相続人を代理して請求すると定めるものがあり,請求の窓口を1人にまとめても,請求権が相続人に帰属することは変わらないと考えられる。
③指定代理請求人は,受取人に代わって請求する代理人にすぎず,給付金を自分のものとして取得する者ではない。
④相続放棄をした者は,この給付金を相続によって取得しない。
相続放棄を検討している者が受け取って使えば,法定単純承認(民法921条1号)が問題になり得る。
⑤被保険者が生前に受け取れば所得税は非課税であるが,死亡後に支払われたものは本来の相続財産として相続税の課税対象となり,死亡保険金の非課税限度額は使えない。
⑥請求権は,保険法及び約款により,行使できる時から3年で時効により消滅する。

本記事は,入院給付金等を受け取らないまま家族が亡くなった相続人,遺言執行者及びこれらから相談を受ける弁護士を対象とし,令和8年9月17日時点の法令,裁判例,国税庁の通達及び保険会社が公開している約款に基づいて整理する。
約款は保険会社・商品・契約時期ごとに異なるため,本記事で引用する約款は例であり,実際の請求では,手元の保険証券に対応する約款を確認することになる。

第2 入院給付金等の請求権は誰に帰属するか

1 給付事由の発生により被保険者に生じる金銭債権

(1) 保険法と約款上の位置付け

医療保険のように,人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行う契約は,保険法上「傷害疾病定額保険契約」に当たる(保険法2条9号)。
保険法は,保険給付を受ける者として契約で定めるものを「保険金受取人」と呼んでおり(同条5号),入院給付金・手術給付金の受取人は,約款で被保険者と定められているのが通常である。
例えば,第一生命の「総合医療一時金保険(無解約返還金)(2021)給付約款」6条2項は,「総合入院給付金の受取人を被保険者(第1項の規定が適用される場合には、保険契約者)以外の者に変更することはできません。」と定めている。

(2) 死亡前の入院・手術による請求権は相続される

入院給付金等の請求権は,約款所定の入院・手術という給付事由が生じた時点で,受取人である被保険者に金銭債権として発生する。
その後,請求しないまま被保険者が死亡した場合,既に発生していた請求権は,民法896条により,相続人が「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」対象に含まれる。
高度障害保険金,通院給付金等も,被保険者が受取人とされ,死亡前に支払事由が生じていたのであれば,同じように考えることになる。
国税庁の相続税法基本通達3-7(注)も,死亡を伴わない傷害疾病を保険事故として被保険者に支払われる保険金・給付金が死亡後に支払われた場合,「当該被保険者たる被相続人の本来の相続財産になる」としている。

2 死亡保険金との違い

(1) 受取人固有の権利となる死亡保険金

死亡保険金は,被保険者の死亡によって,契約で指定された受取人が自分の権利として取得する。
最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決(昭和36年(オ)第1028号,民集19巻1号1頁)は,受取人を「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定した養老保険について,特段の事情のない限り,保険金請求権は「右相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱している」とした。
これに対し,入院給付金等は,被保険者本人を受取人として生前に発生した請求権であるから,受取人の固有財産ではなく,被保険者の遺産に属する点で異なる。
死亡保険金と相続放棄の関係は,相続放棄をしても受け取れる権利―保険金・年金・退職金の区別で整理している。

(2) 「法定相続人とする」との定めと相続財産性

保険金の請求権者を「被保険者。ただし、被保険者が死亡した場合はその法定相続人とする。」と定める約款の文言だけで,請求権が相続人固有の財産になるわけではない。
最高裁令和7年10月30日第一小法廷判決(令和6年(受)第120号,民集79巻7号2794頁)は,自動車保険の人身傷害条項がこのように定めている場合について,被保険者が死亡したときに生ずる保険金の請求権は被保険者の相続財産に属するとした。
同判決は,ただし書について,「被保険者の相続財産に属することを前提として、通常は法定相続人が相続によりこれを取得することになる旨を注意的に規定したものにすぎない」と述べている。
同判決は人身傷害保険に関するものであり,医療保険の給付金について直接判断したものではない。
もっとも,約款の文言,他の条項の構造及び保険契約者の通常の理解から請求権の帰属を判断するという手法は,後記第3の約款条項を読むときにも参考になる。
判決の詳細は,人身傷害保険の死亡保険金請求権は相続財産であると判示した最高裁令和7年10月30日判決の解説を参照されたい。

3 受取人が被保険者以外の者である場合

(1) 保険契約者等が受取人である場合

約款によっては,被保険者以外の者が給付金の受取人になることがある。
例えば,日本生命の「治療サポート保険(有配当2026)給付約款」5条1項は,保険契約者が法人で,死亡時支払金受取人でもある場合には,保険契約者を給付金の受取人とすると定めている。
受取人が被保険者以外の者である契約では,その受取人は当然に契約の利益を享受するから(保険法71条),給付金は受取人の財産であり,被保険者の相続財産にはならない。

(2) 受取人自身が死亡した場合

被保険者以外の受取人が給付事由の発生前に死亡した場合について,保険法75条は,「保険金受取人が給付事由の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。」と定めている。
これに対し,給付事由が発生して請求権が生じた後に受取人が死亡した場合は,受取人変更の問題ではなく,発生済みの請求権が受取人の相続財産として相続される問題になる(民法896条)。
いずれの場合かは,入院・手術の日と受取人の死亡日の前後で決まるため,入院証明書等で給付事由の発生日を先に確定することになる。

第3 約款の被保険者死亡時の請求者条項

1 日本生命の約款

(1) 法定相続人の1人が他の法定相続人を代理して請求する

日本生命の「治療サポート保険(有配当2026)給付約款」5条3項本文は,「被保険者が死亡した場合、給付金については、被保険者の法定相続人のうち、つぎの各号に定める1人の者が、被保険者の他の法定相続人を代理して請求するものとします。」と定めている(「ご契約のしおり 定款・約款 ニッセイみらいのカタチ」2026年4月改訂の約款PDF113頁)。
請求する1人は,①法定相続人である死亡時支払金受取人,②指定代理請求人,③配偶者,④法定相続人の協議により定めた者の順で定まる(同項1号~4号)。
同条4項は,この規定により給付金を支払った場合には,その後重複して請求を受けても支払わないとしている。

(2) しおりでの説明

同じ冊子の「ご契約のしおり」部分も,「被保険者が死亡した場合、被保険者が受取人となっている給付金等については、被保険者の法定相続人のうち、他の法定相続人を代理する1人から請求ください。」と案内している(しおりPDF133頁)。
約款及びしおりのいずれも,請求するのは「他の法定相続人を代理する」者であるとしており,給付金が請求者1人に帰属するという書き方にはなっていない。

2 第一生命の約款と朝日生命の案内

(1) 第一生命:受取人は被保険者で,受取人が複数なら代表者を定める

第一生命の「ご契約のしおり – 約款(2026年1月版)」では,前記第2の1のとおり,総合入院給付金の受取人は被保険者とされ,被保険者以外の者に変更できない。
同冊子の「契約取扱基本約款」27条1項は,「保険金等の受取人が2人以上の場合には、代表者1人を定めてください。」と定め,代表者は他の受取人を代理するものとしている(PDF159頁)。
本記事で確認した範囲では,同冊子の約款に,被保険者の死亡後に未払の給付金を死亡保険金受取人に支払う旨の条項は見当たらなかった。

(2) 朝日生命:死亡給付金受取人に支払う契約もある

朝日生命は,よくあるご質問(No.259)で,「入院給付金受取人が被保険者の場合には、支払うべき入院給付金等を、ご契約に定めがある場合は死亡給付金受取人に、定めのない場合は相続人に支払います。」と回答している。
このように,被保険者の死亡後の給付金の支払先を死亡給付金受取人と定める契約もあることがうかがわれる。
ただし,同回答はどの商品のどの条項かを示しておらず,本記事では,そのような定めのある約款の文言自体は確認できていない。

3 請求者・支払先の条項は請求権の帰属を変えるか

(1) 代理請求型の条項

日本生命の約款のように,法定相続人の1人が「他の法定相続人を代理して」請求すると定める条項は,文言上,請求権が法定相続人に帰属することを前提に,保険会社に対する請求と受領の窓口を1人にまとめる定めと読める。
したがって,代表者として給付金を受け取った相続人は,他の相続人の分も預かっていることになり,代表者が給付金全額を自分のものにできると定めた条項ではないと考えられる。

(2) 死亡保険金受取人等に支払うと定める条項

これに対し,被保険者の死亡後は死亡保険金受取人等に「支払う」と定める条項が,給付金を死亡保険金受取人の固有財産とする趣旨なのか,保険会社が弁済する相手方(受領権限を持つ者)を定めたにとどまるのかについて,裁判所HPで確認できる裁判例は見当たらなかった。
本記事では,給付金の請求権は死亡前の入院・手術によって被保険者に発生済みであり,死亡を契機として新たに発生するものではないことからすると,前記最高裁令和7年10月30日判決の考え方に照らし,特段の文言がない限り,支払先を定めた条項と理解するのが自然であると考える。
もっとも,この点は約款ごとの文言と構造によって結論が変わり得るため,死亡保険金受取人が相続人でない場合や,相続人の一部である場合には,受け取った給付金を相続人間でどのように扱うかが争いになることがある。
約款の文言の読み方については,保険約款の文言の解釈方法も参照されたい。

第4 指定代理請求人は請求権の帰属を変えない

1 指定代理請求制度の内容

(1) 受取人が自ら請求できない場合の代理請求

指定代理請求人は,受取人である被保険者が意思表示困難などで自ら請求できない場合に,受取人の代理人として給付金を請求する者である。
第一生命の「指定代理請求特約条項」(2026年1月2日改正)は,その趣旨を,被保険者が受取人となる保険金等について,「その受取人が保険金等を自ら請求できない特別な事情があるときに」,あらかじめ指定された指定代理請求人による請求を可能とするものとしている。
同特約条項3条1項は,指定代理請求人が「保険金等の受取人の代理人としてその保険金等を請求することができます」と定めている(PDF299頁)。
日本生命の「治療サポート保険(有配当2026)給付約款」8条3項も,指定代理請求人は「給付金の受取人の代理人として給付金の請求をすることができます」としている(約款PDF114頁)。

(2) 受け取った給付金は被保険者のもの

日本生命のしおりは,「指定代理請求人はあくまでも保険金等を被保険者の代理で請求できる方であり、保険金等の受取人は被保険者ご自身となります。」と明記している(しおりPDF132頁)。
したがって,被保険者の生前に指定代理請求人が受け取った給付金も,被保険者の財産であり,その後に被保険者が死亡すれば,使われずに残っている分は相続財産として扱うことになる。
指定代理請求人に指定されていたことを理由に,家族の1人が給付金を自分のものとして取得することはできない。

2 被保険者の死亡後の扱い

指定代理請求人は受取人の代理人であるから,被保険者の死亡後に請求権を行使する立場は,本来は相続人にある(民法896条)。
日本生命の約款は,被保険者の死亡後に他の法定相続人を代理して請求する者の第2順位に指定代理請求人を置いているが,これは「被保険者の法定相続人のうち」から選ぶ定めであり,被保険者の死亡時に同約款8条1項各号の範囲内であることも求めている(同約款5条3項2号)。
指定代理請求人であっても法定相続人でなければこの順位に当たらず,法定相続人として請求する場合も,他の相続人の代理人として請求することになる。

第5 遺産分割と保険会社への請求手続

1 金銭債権の当然分割と預貯金債権との区別

(1) 可分債権は相続開始と同時に分割される

最高裁昭和29年4月8日第一小法廷判決(昭和27年(オ)第1119号,民集8巻4号819頁)は,相続人が数人ある場合に,相続財産中の金銭その他の可分債権は,「その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」とした。
入院給付金等の請求権も金銭の支払を目的とする債権であるから,この判例によれば,相続開始と同時に各相続人の相続分に応じて分割されると考えられる。

(2) 預貯金債権に関する平成28年大法廷決定との区別

最高裁平成28年12月19日大法廷決定(平成27年(許)第11号,民集70巻8号2121頁)は,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる」とした。
この決定は,口座で管理され残高が変動し得るという預貯金契約の性質等を理由とするものであり,入院給付金等の請求権について判断したものではない。
他方,給付金が被相続人名義の口座に振り込まれた場合には,入金後は預貯金債権として同決定の考え方が及ぶと考えられる。

2 保険会社への請求手続と必要書類

(1) 相続人全員の関与が求められる理由

法的には当然分割が原則であっても,保険会社の約款は,前記第3のとおり,相続人の1人が他の相続人を代理して請求する形を定めているものがある。
朝日生命の「保険金・給付金 ご請求のしおり」は,受取人が亡くなった場合,法定相続人の中から「代表受取人および同意者」を選び,所定の「代表者選任届」に署名・押印するよう案内している。
そのため,相続人の一部が行方不明である,又は相続人間で対立しているという事情があると,請求手続が進まないことがある。

(2) 一般的な必要書類

公益財団法人生命保険文化センターの「生命保険・相談マニュアル」(2021年9月改訂版)109頁は,被保険者死亡後に入院給付金等を請求する場合の連絡者を被保険者の法定相続人とし,給付金請求書,入院・手術等診断書(証明書)等のほか,「相続人代表者選任届」,「相続人全員の印鑑証明書」及び「被保険者と相続人全員の続柄が記載されている戸籍謄本」を挙げている。
同頁は,生命保険会社によっては他の書類が必要な場合もあるとしているから,まず保険会社に被保険者の死亡と未請求の入院・手術があることを連絡し,所定の書類の案内を受けることになる。
入院・手術の有無や医療機関が分からない場合は,亡くなった家族の入通院先を調べる方法―遺族のレセプト開示とカルテの取得を,加入している保険会社自体が分からない場合は,生命保険契約照会制度-死亡・認知判断能力低下・災害時の利用方法と注意点を参照されたい。

第6 相続放棄との関係

1 相続放棄をした者は給付金を取得しない

相続放棄をした者は,「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」とされる(民法939条)。
入院給付金等の請求権は相続財産であるから,相続放棄をした者は,これを相続によって取得しない。
他方,自分が受取人に指定された死亡保険金は,相続放棄をしても受け取ることができる場合があり,同じ保険会社から同時に支払われる金銭でも,給付の種類ごとに結論が分かれる。
この区別は,相続放棄をしても受け取れる権利でも扱っている。

2 受領と法定単純承認

(1) 相続放棄の前に受け取って使う場合

民法921条1号は,「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は単純承認をしたものとみなす。
相続放棄を検討している相続人が,代表者として入院給付金等を請求して受け取り,自分のために使えば,相続財産の処分として相続放棄ができなくなるおそれがある。
これは,受取人固有の財産である死亡保険金を受け取ることとは性質が異なる。
入院給付金等の受領が単純承認に当たるかについて,裁判所HPで確認できる裁判例は見当たらなかったため,本記事では,相続放棄を予定する者は請求・受領を他の相続人に委ねるか,受領した場合でも費消せずに保管しておくのが安全であると考える。

(2) 相続放棄の後に受け取って使う場合

相続放棄の後であっても,相続財産の全部又は一部を「私にこれを消費し」た場合は,単純承認をしたものとみなされる(民法921条3号)。
相続放棄の申述は,原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所にする必要があり(民法915条1項・938条),給付金の請求手続とは別に期限が進む。
処分・消費の要件と具体例は,相続の法定単純承認(民法921条)の実務で詳しく扱っている。

第7 税金の取扱い

1 被保険者が生前に受け取る場合

所得税法9条1項18号は,保険金等で「心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」を非課税としている。
これを受けた所得税法施行令30条1号は,生命保険契約に基づく給付金で「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」を挙げている。
国税庁の所得税基本通達9-21は,疾病により支払を受ける高度障害保険金,高度障害給付金,「入院費給付金等」も同号に該当するものとして取り扱うとしている。
したがって,被保険者本人が生前に受け取った入院給付金等には,所得税が課されない。

2 被保険者の死亡後に支払われる場合

(1) 本来の相続財産として相続税の対象

相続税法基本通達3-7は,相続税法3条1項1号のみなし相続財産となる保険金を,被保険者の死亡を保険事故として支払われる死亡保険金に限っている。
そして,同通達(注)は,死亡を伴わない傷害疾病を保険事故として被保険者に支払われる保険金・給付金が死亡後に支払われた場合,「当該被保険者たる被相続人の本来の相続財産になる」としている。
そのため,死亡後に支払われた入院給付金等は,預貯金等と同じく本来の相続財産として相続税の課税価格に含まれる。
相続人が相続によって取得するものであるから,相続人の所得税は課されない(所得税法9条1項17号)。

(2) 死亡保険金の非課税限度額は使えない

相続税法12条1項6号の非課税限度額(500万円に相続人の数を乗じた金額)は,相続人が取得した「第三条第一項第一号に掲げる保険金」を対象とする。
入院給付金等は,前記通達のとおり同号の保険金に含まれないから,死亡保険金と同じ保険会社から一緒に支払われても,この非課税限度額の計算には入らない。
相続税の申告では,死亡保険金と入院給付金等を支払明細で分けて計上することになる。

第8 請求期限と遺言執行者の財産目録

1 消滅時効

(1) 保険法95条1項

保険法95条1項は,保険給付を請求する権利について,「これらを行使することができる時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めている。
同法は,原則として施行日以後に締結された保険契約に適用される(保険法附則2条)。
被保険者の死亡後は,相続人の調査や代表者の選任に時間がかかりやすいため,入院・手術の日から期間を数えて早めに請求することになる。

(2) 約款の定め

日本生命の「ニッセイみらいのカタチ」の契約基本約款26条(約款PDF19頁)及び第一生命の「契約取扱基本約款」36条(PDF161頁)は,いずれも保険金等の支払を請求する権利は「これらを行使することができる時から3年間行使しない場合には消滅します。」と定めている。
保険法の施行日前に締結された古い契約では適用される規定が異なり得るため,契約日と当時の約款を確認することになる。

2 遺言執行者の財産目録への記載

遺言執行者は,遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならない(民法1011条1項)。
死亡前の入院・手術に係る未請求の入院給付金等は,前記のとおり本来の相続財産であるから,受取人固有の死亡保険金とは区別して検討する必要がある。
死亡保険金と未請求の給付金を財産目録にどのように記載するかは,遺言執行者の財産目録と保険金で整理している。
遺言執行者が指定されている場合の相続人側の注意点は,遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点を参照されたい。

第9 出典

1 法令

民法896条,898条,899条,915条,921条,938条,939条,1011条(e-Gov法令検索)。
保険法2条,71条,75条,95条,附則2条(e-Gov法令検索)。
所得税法9条1項17号・18号(e-Gov法令検索)。
所得税法施行令30条1号(e-Gov法令検索)。
相続税法3条1項1号,12条1項6号(e-Gov法令検索)。

2 裁判例

最高裁昭和29年4月8日第一小法廷判決(昭和27年(オ)第1119号,民集8巻4号819頁)。
最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決(昭和36年(オ)第1028号,民集19巻1号1頁)。
最高裁平成28年12月19日大法廷決定(平成27年(許)第11号,民集70巻8号2121頁)。
最高裁令和7年10月30日第一小法廷判決(令和6年(受)第120号,民集79巻7号2794頁)。

3 国税庁の通達

相続税法基本通達3-7(国税庁)。
所得税基本通達9-21(国税庁)。

4 保険会社の約款・案内

①日本生命保険相互会社「ご契約のしおり 定款・約款 ニッセイみらいのカタチ」2026年4月改訂:ご契約のしおり約款
②第一生命保険株式会社「ご契約のしおり – 約款(2026年1月版)」
③朝日生命保険相互会社よくあるご質問(No.259)
④朝日生命保険相互会社「保険金・給付金 ご請求のしおり」

5 公益財団法人の資料

①公益財団法人生命保険文化センター「生命保険・相談マニュアル」第8章(2021年9月改訂版)109頁。