第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,オーストラリアのフェアワーク・コミッション(Fair Work Commission。以下「FWC」という。)が,令和8年8月24日に公表し,同年10月20日に施行した「Use of generative artificial intelligence in Commission cases」(以下「ガイダンスノート」という。)を扱う。
FWCは,同国の公正労働法(Fair Work Act 2009)に基づき,不当解雇の救済申立て等を扱う機関である。
本記事は,令和8年10月25日時点でFWCのウェブサイトに掲載されているガイダンスノート,委員長声明,調査報告書,委員長講演及び決定に基づいて書いている。
ガイダンスノートは,生成AIの発展に合わせて随時改訂されるとしているので(第3項),利用する際はFWCの現行版を確認する必要がある。
2 結論
結論は,次の①~④である。
①FWCに出す書面の作成に生成AIを使った人は,令和8年10月20日以降,綴りや文法の確認等だけに使った場合を除き,生成AIを使ったこととその使い方を書面に書き,書面の内容を確かめたことも書面に書かなければならない。
②背景には申立件数の急増があり,FWCの委員長は,その主な原因を申立てを考える人の生成AIの利用にあると推認している。
もっとも,FWCが委託した調査報告書は,生成AIの寄与を労働市場その他の要因から切り分けることはできないという限界を自ら書いている。
③要件に従わない場合,書面の重みを下げられ,又は考慮されないほか,相手方の費用の負担を命じられ,又は申立てを却下されることがある。
他方で,要件を守っている限り,生成AIを使ったと開示しただけで,書面の中身の評価が変わることはないとされている。
④ガイダンスノートの施行の前から,生成AIで作った主張を,FWCから問題点を示された後も続けた申立人に,相手方の費用の一部の負担を命じた決定が出ている。
第2 フェアワーク・コミッションと申立ての急増
1 申立件数の推移
FWCが委託した調査報告書は,FWCが受け付けた申立て等の総数を,次のとおり示している(調査報告書2頁の図1)。
年度はオーストラリアの会計年度(7月1日から翌年6月30日まで)であり,2025-26年度の数値は報告書作成時の見込み値である。
| 年度 | 申立て等の総数 |
|---|---|
| 2020-21年度 | 29,631件 |
| 2021-22年度 | 34,122件 |
| 2022-23年度 | 31,523件 |
| 2023-24年度 | 40,190件 |
| 2024-25年度 | 44,075件 |
| 2025-26年度(見込み) | 53,617件 |
FWCの事務総長の令和8年5月29日付けの声明によれば,2025-26年度は4月末までに44,039件を受け付けており,前年度1年分(44,075件)に36件足りないだけであった。
2 どの種類の申立てが増えたか
委員長は,令和8年2月18日の講演で,2025-26年度の上半期(2025年7月1日から同年12月31日まで)の件数を,その前の3年間の平均と比べて示した。
| 申立ての種類 | 上半期の件数 | 3年平均 | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 解雇を伴う一般的保護の侵害(公正労働法365条) | 4,464件 | 2,757件 | 62% |
| 解雇を伴わない一般的保護の紛争(同法372条) | 1,280件 | 545件 | 135% |
| 不当解雇の救済(同法394条) | 9,725件 | 6,914件 | 41% |
| 全体(他の種類の申立て等を含む) | 27,192件 | 19,371件 | 40% |
委員長は,比較の対象とした3年間にも過去最多の年が2回含まれていると付け加えている。
また,委員長は,解雇を伴う一般的保護の申立ての多くが,不当解雇の申立てに必要な最低雇用期間を満たさない人によるものであり,実質は形を変えた不当解雇の申立てであると推認できると述べている。
3 増加の原因についての委員長の推認と調査の限界
委員長の令和8年8月24日付けの声明は,FWCの業務量が2025-26年度の終わりまでの3年間で70%を超えて増えたとした。
その上で,この増加は労働市場の動きでは説明できず,生成AIの普及と,生成AIで作った文章が申立書等に広く現れた時期と重なるとして,業務量の増加の主な原因は申立てを考える人の生成AIの利用であると推認している(声明[1])。
委員長は,同年2月の講演で,ABSの雇用移動の統計(job mobility statistics)による解雇された人の数と申立件数から,解雇を争った人の割合を粗く計算すると,2024年2月までの1年間の75.6%から,2025年2月までの1年間の84.4%へ上がったとも述べている。
同じ講演で,委員長は,自らChatGPTに解雇された者として相談した経験を紹介している。
それによれば,10分足らずで,提出できる形の申立書と,大部分が作り話の陳述書ができ,15,000豪ドルから40,000豪ドルの補償が得られる見込みも示された。
委員長は,伝えた事実を前提にすれば,勝訴の合理的な見込みがあるとはいえない事案だったとしている。
他方で,調査報告書は,生成AIが申立件数の増加に寄与しうる経路を示しつつも,労働市場の状況,FWCの利用しやすさの変化,職場の権利についての認識の広がり等の要因から,生成AIの寄与を切り分けることはできないと明記している(調査報告書の「限界」の節)。
本記事では,委員長の判断を「推認」として扱い,生成AIが申立ての増加の主な原因であると確定した事実としては扱わない。
第3 生成AIの利用についての調査報告書
1 調査の方法
FWCは,令和8年2月,当事者の生成AIの利用について調査を委託した。
調査は,申立人12名と相手方6名への面接,申立人408名と相手方211名へのアンケート,FWCの委員と職員への聞き取りとアンケート,FWCの職場相談サービス(Workplace Advice Service)の提携先及びFWCが小規模事業者の意見を聴くために設けた会議体との意見交換から成る(声明[2],調査報告書4頁)。
対象は,不当解雇の申立てと,解雇を伴う一般的保護の申立てである。
2 主な調査結果
アンケートに答えた申立人の約40%が,事件の準備や進行に生成AIを使ったと答えた。
使った人は,本人で申立てをした人,44歳以下の人,専門職・管理職に偏っており,英語を母語としない人は,母語とする人の2倍の割合で生成AIを使っていた。
生成AIを使ったと答えた申立人の約77%がChatGPTを使い,そのうち約60%が無料版を使っていた。
アンケートに答えた相手方の57%は,申立人が生成AIを使っていると感じたと答えた。
FWCの内部調査では,委員は,令和8年3月までの6か月間に扱った事件の50%~75%で,当事者の一方又は双方が生成AIを使っているとみていた。
生成AIを使った申立人のほとんどは,申立ての前の段階から使い始めており,生成AIが申立てをするかどうかの判断と勝てる見込みの評価に影響していたとされる(声明[12])。
3 生成AIが申立てを増やす経路
調査報告書は,生成AIが申立件数を増やす経路として,次の3つを挙げている(声明[13])。
①不当解雇を申し立てる資格のない人を,一般的保護の申立てへ振り向けること。
②申立ての前に手続を諦めさせていた事務的・知的・感情的な負担を下げること。
③手続の道筋と勝てる見込みを示すことで,申し立てるかどうかの迷いを減らすこと。
4 生成AIに頼り切る利用者と補助として使う利用者
調査報告書は,生成AIの出力をそのまま受け入れる利用者と,ほかの資料で出力を確かめる利用者を両端とする幅で利用の仕方を整理した。
頼り切る側に近いほど,見込みを過大に評価し,和解に応じにくく,事件の管理に手間がかかり,請求の根拠が弱い傾向があるとし,その危険は単に生成AIを使う量からではなく,使い方から生じるとしている(声明[14])。
また,利用者に迎合する出力や事実でない出力が,申立人の立場を強め,期待を高めて,事件の管理を難しくすることがあるとしている(声明[11])。
報告書の勧告には,自分の主張に反論させる,出力を他の資料と突き合わせる等の使い方を利用者に示すことが含まれており,FWCはこれに応じて,生成AIに入力する設定用の指示文例をウェブサイトに掲載した(声明別紙Bの勧告6)。
第4 ガイダンスノートの内容
1 公表・施行と適用範囲
ガイダンスノートは,令和8年8月24日に公表され,同年10月20日に施行された(第5項)。
FWCに出す申立書その他の書面を作り,書き,編集し,修正し,又はその他の方法で準備するために生成AIを使った場合に適用される(第6項)。
綴りや文法の確認,書式の整形だけに生成AIを使った場合は,ここでいう生成AIの利用に当たらない(第7項)。
FWCの解説ページは,これらの要件がFWCの全ての事件に適用されるとしている。
ガイダンスノートは,生成AIを使ってFWCに出す書面を準備した人を対象としているので(第1項,第6項),申立人に限らず,相手方や代理人も対象になると読める。
あわせて,FWCは,個別の権利に関する事件の書式に生成AIの利用の開示と宣言の欄を設け,ガイダンスノートと同じ令和8年10月20日から用いるとした(声明[5],[10])。
この欄は,生成AIを使ったかどうかにかかわらず全員が記入し,記入した内容を確かめたことを宣言するものとされている(声明[8])。
2 三つの要件
要件1は,生成AIを使ったことと,その使い方を書面に書くことである(第8項)。
書式に生成AIの欄があれば,その欄に記入すれば足り,欄がなければ,書面に「GenAI was used in preparing this document」と書き,調査・助言,事実や証拠の整理,音声の文字起こし,英語への翻訳,文章の作成,文章の編集等のうち,どのように使ったかを書く(第27項)。
要件2は,書面の全ての記載が正しく事件に関係するように確かめて直し,確かめたことを書面に書くことである(第9項)。
確かめる対象は,事実と証拠の記載が正しく実在すること,引用した裁判例・法令・教科書・論文が実在し,主張する法的な立場を支えていること,抜粋や引用が正しく,表示した出所から来ていることである(第10項)。
要件3は,陳述書と宣言書について,本人の知識に基づき,本人の言葉で書かれ,本人の知る限り真実であるように確かめて直し,そのことを書面に書くことである(第12項,第13項)。
陳述書の事実の部分を生成AIに作らせるべきではないとし,生成AIを音声の文字起こしや英語への翻訳に使うことはできるが,陳述書は本人の言葉を反映したものでなければならないとしている(第35項,第36項)。
3 生成AIに確かめさせても確認にはならない
ガイダンスノートは,記載が正しいかどうかを,同じ生成AIにも別の生成AIにも確かめさせることはできず,「the checking must be done by a person」(確認は人が行わなければならない)としている(第31項)。
確認に使える正しい情報源の例として,FWCの判例解説書(Benchbooks)と法律書,FWCの決定の検索,裁判所の判決のデータベース(AustLII,Jade),連邦の法令の登録簿を挙げている(第31項)。
引用した裁判例へのリンクを書面に入れることも勧めており,そうすれば裁判例の実在を確かめやすくなるとしている(第11項,第32項)。
4 弁護士その他の代理人の追加の義務
弁護士がFWCの事件で生成AIを使う場合には,ガイダンスノートの要件に加えて,職業上の義務を守らなければならず,守らなければ弁護士の監督機関に苦情を申し立てられることがあるとしている(第44項)。
弁護士,報酬を受ける代理人,人事担当者,労働組合・使用者団体の職員等の代理人が生成AIを使って書面を作った場合は,引用した全ての裁判例へのリンクを書面に入れなければならない(第45項。リンクが利用できる場合に限る。)。
5 個人情報と秘密の情報を入力しないよう求める
事件に関わる他人の個人情報や事件の秘密の情報を,公開型の生成AIや情報を安全に保てないおそれのある生成AIに入力すべきではないとしている(第14項,第40項)。
公開型の生成AIの例として,ChatGPT,Claude,CoPilot及びGeminiを挙げ,無料版だけでなく有料版も含むとしている(第40項,第46項の定義)。
自分の個人情報も入力しないよう勧めている(第40項)。
秘密の情報の例としては,FWCの和解の協議で出た情報,FWCの命令で得た資料,公表を禁止・制限する命令の対象となった資料,法律・財務上の助言,雇用契約の守秘条項の対象となる情報を挙げている(第42項)。
公表を禁止・制限する命令の対象となった資料を生成AIに入力すると,その命令に違反し,公正労働法上の犯罪になることがあるとしている(第23項)。
6 従わない場合の扱いと虚偽の申告
要件に従わない場合には,書面の重みを下げられ,又は考慮されないこと,相手方の費用の負担を命じられること,申立てを却下されることがあるとしている(第15項)。
他方で,生成AIを使ったと伝えても,ガイダンスノートの要件を守っている限り,書面の中身の扱いは変わらないとしている(第26項)。
また,FWCに故意に虚偽又は誤解を招く情報を出すことは刑法典(Criminal Code)137.1条の犯罪であり,FWCで宣誓して虚偽又は誤解を招く証言をすることは公正労働法678条の犯罪であって,いずれも最長12か月の拘禁刑が科されうると,囲みの注意書きで述べている。
7 FWCが公開した解説動画
FWCは,令和8年8月24日,ガイダンスノートの要件と生成AIの使い方を説明する動画「Using GenAI in your case」をYouTubeで公開している。
動画は,ChatGPT,Claude,Copilot等の生成AIが法律用語の理解や文章の整理に役立つ一方,架空の裁判例や法令を作ることがあり,勝てる見込みを過大に評価することがあるとし,確認は別の生成AIではなく人が行うことなどを説明している。
第5 生成AIで作った主張に関するFWCの決定
1 費用負担を命じた決定の事案([2026] FWC 3144)
FWCのイーストン副委員長は,ガイダンスノートの施行の前の令和8年8月19日,スーパーマーケットの元従業員が使用者を相手に申し立てた不当解雇の事件で,申立人に相手方の費用の一部の負担を命じる決定をした(Khan v Aldi Pty Ltd [2026] FWC 3144)。
申立人は,2025年9月29日に雇用され,2026年3月26日の午後4時頃に解雇を告げられ,同日午後10時2分に不当解雇の救済を申し立てた(決定[14])。
不当解雇を申し立てるには最低雇用期間を満たす必要があり,その期間は,解雇を告げられた時と解雇の直前のいずれか早い時までの6か月(使用者が小規模事業者の場合は1年)である(公正労働法382条,383条。決定[21]が引用する条文による)。
申立人は,6か月に3日足りなかった(決定[3])。
申立書は明らかに生成AIで作られており,コピーして貼り付けるための最終版である旨を述べる生成AIの作業メモがそのまま残っていた(決定[15])。
申立人の生成AIで作った主張は,基準となる解雇を告げられた日ではなく,解雇の効力が生じた日を争い続けた(決定[3])。
FWCの職員は申立ての2日後に最低雇用期間の問題を伝え,副委員長の事務室も審理の5日前の令和8年7月31日に,平易な文章で2回のメールを送り,取り下げを勧めるとともに,続ければ費用の負担を命じられることがあると伝えた(決定[16],[21],[24])。
それでも申立人は,生成AIで作った主張を2回送り,同年8月5日の審理で初めて最低雇用期間を満たしていないことを認め,申立てを取り下げた(決定[8],[9],[29])。
2 判断
副委員長は,公正労働法400A条に基づき,同年7月31日のメールを受けた後も申立てを続けたことは不合理であり,そのために相手方が審理の準備と出席の費用を負担したとして,1,230豪ドルの支払を命じた(決定[59],[60],[69])。
この金額は,規則が定める請求できる上限の単価で計算したものであり,相手方が実際に負担した弁護士費用はこれを大きく上回るとされている(決定[32],[33])。
副委員長は,生成AIを書面の作成に使うこと自体は不合理ではなく,適切に使えば当事者を助ける道具であると述べた(決定[54])。
その上で,当事者はFWCからの連絡を全て読む必要があり,生成AIの出力を自分の主張としてそのまま出したとしても,申立ての資格があるかを自ら判断し,FWCが示した懸念に答えるのは申立人の責任であるとした(決定[57],[58])。
決定は,公正労働法の手続では通常は各当事者が自分の費用を負担するとした上で,不合理な行為によって相手方に費用を生じさせた場合にはその保護を失うとし,費用の負担を命じることは「very rare step」(ごくまれな措置)であると述べている(決定[1],[53])。
なお,決定書の表紙には,この決定に対して不服申立てがされた旨の注記がある。
3 生成AIで書いた連絡を大量に送った事件の全員部の決定([2026] FWCFB 142)
FWCの全員部(Full Bench)は,令和8年6月19日,Uberのデジタル労働プラットフォームの利用を停止された人が,停止についての救済の申立てを退けた決定への上訴の許可を拒否した決定について,その訂正・変更・取消しを求めた申立てを退けた(Anwar v Rasier Pacific Pty Ltd [2026] FWCFB 142)。
全員部は,申立人を,生成AIで作った申立書,連絡,主張書面,陳述書を見直さずに出して事件を進める申立人が増えている傾向の一つとし,「generative AI is merely a tool」(生成AIは道具にすぎない)と述べ,訴訟を進めるには人の判断が必要であるとした(決定[1])。
申立人は,生成AIで書いた長いメールを,FWCから控えるよう求められた後も大量に送っていた(決定[4])。
第6 日本の手続との比較
1 訴訟費用の負担
日本の民事訴訟では,訴訟費用は敗訴した当事者の負担となるのが原則である(民事訴訟法61条)。
ただし,裁判所は,勝訴した当事者にも,権利の伸張・防御に必要でない行為で生じた費用等を負担させることができ(同法62条),訴訟を遅滞させた当事者には,勝訴した場合でも,遅滞によって生じた費用を負担させることができる(同法63条)。
もっとも,訴訟費用の範囲は民事訴訟費用等に関する法律2条の各号が定めるものに限られる。
弁護士に支払ったもので訴訟費用となるのは,法令の規定により裁判所が選任を命じた場合において当事者等が選任した弁護士又は裁判所が選任した弁護士に支払った報酬及び費用である(同条10号)。
当事者が自ら依頼した弁護士の報酬は,同条の各号に掲げられていない。
これに対し,[2026] FWC 3144は,公正労働法の手続では通常は各当事者が自分の費用を負担するとしつつ,不合理な行為をした当事者に,相手方の弁護士の作業時間に応じた費用を,規則の上限の単価の範囲で負担させた(決定[12],[32])。
費用の負担の原則と,負担させる費用の範囲の両方で,日本の民事訴訟とは仕組みが異なる。
2 訴えの提起が不法行為となる場合
日本では,敗訴した原告の訴えの提起が相手方に対する不法行為となる場合は限られている。
最高裁昭和63年1月26日判決(昭和60年(オ)第122号,民集42巻1号1頁)は,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」と判示した。
その理由として,訴えを提起する際に,提訴者に権利等の事実的,法律的根拠について高度の調査,検討を求めると,裁判制度の自由な利用が著しく妨げられることを挙げている。
生成AIで作った訴えであっても,この基準に照らして判断されることになると考えられ,生成AIを使ったこと自体から直ちに違法とされるものではない。
他方で,[2026] FWC 3144のように,裁判所から主張の問題点を具体的に示された後も同じ主張を続けた場合には,そのことが「通常人であれば容易にそのことを知りえた」かどうかの判断に影響しうると考えられる。
3 日本で生成AIを使って書面を作る場合
日本の本人訴訟で生成AIを使って訴状・準備書面を作る場合の確認方法は,「生成AIを使った本人訴訟-訴状・準備書面の作成,架空判例の確認及び裁判所への提出」で整理している。
AIエージェントで裁判所に出す書面を作る場合の確認手順は,「AIエージェントを使って裁判所提出書面を作成するときに行うべきハルシネーション防止方法」で説明している。
従業員から生成AIで作った要求書面を受け取った会社の対応は,「従業員からAIで作成した要求書面が届いたら」で扱っている。
外国の裁判所の当事者のAI利用に対する規律は,「中国の裁判所におけるAI利用」及び「韓国の裁判所におけるAI利用」で紹介している。
第7 出典
1 フェアワーク・コミッションの公表資料
①Fair Work Commission, “Guidance note: Use of generative artificial intelligence in Commission cases”(令和8年8月24日公表,同年10月20日施行,全9頁):https://www.fwc.gov.au/documents/resources/guidance-note-use-of-generative-ai-in-commission-cases.pdf
②Justice Hatcher, President, “President’s statement: Use of AI in Fair Work Commission proceedings”(令和8年8月24日,別紙A・Bを含む全10頁):https://www.fwc.gov.au/documents/consultation/presidents-statement-use-of-ai-in-fwc-proceedings-2026-08-24.pdf
③“GenAI user research Fair Work Commission Final Report”(令和8年8月18日付け):https://www.fwc.gov.au/documents/resources/fwc-gen-ai-use-for-dismissal-cases-final-report-2026-08-18.pdf
④Justice Adam Hatcher, “A disrupted future: Artificial intelligence and the Fair Work Commission”(令和8年2月18日の講演):https://www.fwc.gov.au/documents/reporting/presidents-presentation-ai-bar-association-2026-02-18.pdf
⑤General Manager statement(令和8年5月29日):https://www.fwc.gov.au/documents/resources/gm-statement-change-at-the-commission.pdf
⑥Fair Work Commission, “Using AI to help you with your case”:https://www.fwc.gov.au/genai
⑦Fair Work Commission「Using GenAI in your case」(YouTube,令和8年8月24日公開):https://www.youtube.com/watch?v=WJkxOAFVyVM
2 フェアワーク・コミッションの決定
①Khan v Aldi Pty Ltd [2026] FWC 3144(令和8年8月19日,イーストン副委員長):https://www.fwc.gov.au/documents/decisionssigned/pdf/2026fwc3144.pdf
②Anwar v Rasier Pacific Pty Ltd [2026] FWCFB 142(令和8年6月19日,全員部):https://www.fwc.gov.au/documents/decisionssigned/pdf/2026fwcfb142.pdf
3 日本の法令・裁判例
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)61条~63条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
②民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)2条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/346AC0000000040
③最高裁昭和63年1月26日判決(昭和60年(オ)第122号,民集42巻1号1頁):https://www.courts.go.jp/hanrei/52197/detail2/index.html