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兵庫県弁護士会副会長経験者に対する懲戒請求-日弁連の異議申出棄却と三つの争点(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,兵庫県弁護士会の副会長経験者である弁護士に対する懲戒請求について,兵庫県弁護士会が懲戒しない旨の決定をし,日本弁護士連合会がその決定に対する異議申出を棄却した事案を扱うものである。
対象会員,懲戒請求者,破産者その他の個人を特定する氏名等は記載しない。
他方,公表済みの決定書,議決書及び異議申出書から確認できる事案固有の経過と判断は,懲戒制度の理解に必要な範囲で記載する。
法令,国税庁の質疑応答事例及びその後の裁判例・解説については,令和8年9月27日を基準日として確認した。

2 結論

この事案で争われたのは,①破産管財人が破産財団所属不動産の売却に関する消費税の確定申告をしなかったこと,②個人破産事件で免責不許可事由がない旨の意見を提出したこと,③破産管財人の任務終了後,元破産者の訴訟代理人となったことの三点である。
兵庫県弁護士会懲戒委員会は,三点のいずれも弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」には当たらないと議決し,兵庫県弁護士会は平成31年3月28日,対象会員を懲戒しない旨を決定した。
日弁連懲戒委員会は令和元年9月9日,新たに提出された証拠を検討しても原議決に誤りはなく,原決定は相当であるとして異議申出を棄却する旨を議決し,日弁連は同月12日に異議申出棄却の決定をした。
日弁連議決書の理由は,兵庫県弁護士会懲戒委員会の議決書を参照して是認する方式であり,理由が全くないものではない。
しかし,異議申出で具体的に示された反論や追加証拠に対する個別の応答は記載されておらず,判断過程の説明として十分であったかは別に検討する余地がある。
また,この一件の不処分決定から,破産管財人の無申告,簡略な免責意見又は任務終了後の後続受任が一般に許されると理解すべきではない。

第2 事案の概要と手続経過

1 三つの懲戒事由

(1) 破産管財人による消費税の無申告

対象会員は,法人の破産管財人として,平成25年5月及び同年7月に破産財団所属の不動産を売却した。
兵庫県弁護士会懲戒委員会の議決書によれば,対象会員は,管財業務が終了するまでにその売却に関する消費税の確定申告をしなかった。
懲戒請求者は,この無申告が破産管財人としての善管注意義務等に反し,弁護士の品位を失うべき非行に当たると主張した。

(2) 免責不許可事由に関する意見

対象会員は,別の個人破産事件の破産管財人でもあった。
破産債権者は,親族への偏頗弁済の可能性,帳簿類の廃棄,貸金債権の債権者一覧表からの脱落及び銀行借入金の使途不明という四点を指摘し,免責について反対意見を述べた。
対象会員が平成27年5月7日に提出した意見書の記載は,「免責不許可事由はない」という趣旨の簡潔なものであった。
もっとも,その後の債権者集会では,債権者一覧表から脱落した貸金について,金銭の移動は認められるものの返還合意が明確でないため債権として掲げなかった旨が口頭で説明された。
破産裁判所及び抗告審は免責許可の判断を維持し,抗告審は返還合意が明確でないと判断した。

(3) 元破産者の訴訟代理人への就任

懲戒請求者側は平成28年1月28日,元破産者に対し,前記の金銭移動に関係する貸金返還等を求める訴訟を提起した。
対象会員は同年3月9日,元破産者の訴訟代理人となり,第一審及び控訴審で代理した。
第一審は平成29年4月21日,返還合意の存在を認定し,控訴審は同年10月26日に元破産者の控訴を棄却し,平成30年4月10日の上告不受理決定により確定した。
懲戒請求者は,対象会員が破産管財人として調査し,免責意見を述べた事項について,任務終了後に元破産者側の代理人となったことは,管財人の公正らしさに対する信頼を損なうと主張した。

2 手続の時系列

日付手続・出来事文書上確認できる内容
平成30年4月20日懲戒請求兵庫県弁護士会懲戒委員会議決書記載の請求日
平成30年4月23日懲戒請求書受付同議決書記載の受付日
平成30年4月27日調査開始同議決書記載の調査開始日
平成31年3月18日兵庫県弁護士会懲戒委員会の議決対象会員を懲戒しないことを相当とする議決
平成31年3月28日兵庫県弁護士会の決定対象会員を懲戒しない旨の決定
令和元年5月30日異議申出日弁連に対する異議申出書の日付
令和元年6月3日日弁連の審査開始通知異議申出に関する審査開始
令和元年9月9日日弁連懲戒委員会の議決異議申出を棄却することを相当とする議決
令和元年9月12日日弁連の決定異議申出を棄却する旨の決定
令和元年9月13日決定通知日弁連から異議申出人に対する通知

第3 兵庫県弁護士会懲戒委員会の判断

1 消費税の無申告

(1) 一般的な申告義務を認めたこと

兵庫県弁護士会懲戒委員会は,破産管財人には破産会社の税務申告を行う一般的な義務があるとした。
対象会員は,破産財団の維持・増殖に注力し,税務申告は配当や財団債権の処理に関わる問題として強く意識していなかった旨を説明した。
また,破産裁判所から消費税の確定申告をするよう個別の指示を受けていなかったとされた。

(2) 懲戒事由該当性を否定した理由

同委員会は,確定申告をしないことが破産管財人の損害賠償責任を生じさせる可能性を認めながらも,それだけで直ちに弁護士法56条1項の品位を失うべき非行に当たるものではないとした。
その判断では,破産財団の維持・増殖を優先したという対象会員の説明を業務上の判断として扱い,裁判所の監督下で職務を行っていたことも考慮した。

2 免責意見の記載

(1) 書面だけを見れば説明が短かったこと

同委員会は,免責不許可事由がない旨だけを記載した意見書について,簡潔に過ぎ,債権者の四つの指摘に具体的に答えていないことを認めた。
したがって,議決は,この意見書の書き方を積極的に推奨したものではない。

(2) 口頭説明と裁判所の判断を併せて考慮したこと

他方,対象会員は債権者集会で,貸金と主張された金銭の移動は認められるものの返還合意が明確でない旨を説明していた。
免責許可決定及びその抗告審も,返還合意が明確でないとの前提で免責許可を維持した。
同委員会は,これらの事情を併せて,対象会員が不適切な免責意見を述べたとか,必要な調査を怠ったとまではいえないとした。

3 任務終了後の元破産者の代理

(1) 明文の受任禁止規定への該当を否定したこと

同委員会は,弁護士職務基本規程27条4号及び5号が,破産管財人の任務終了後に元破産者の代理人となる場合を直接禁止する規定ではないとした。
同規程は懲戒処分の根拠となり得る規範であるため,禁止類型を安易に類推して広げるべきではないという考慮も示した。

(2) 「安易な受任」と評価したこと

もっとも,同委員会は,対象会員が破産管財人として免責に関する意見を述べた後,同じ金銭関係を争点とする訴訟で元破産者の代理人となったことについて,中立性への疑念を生じさせかねず,「安易な受任」であったと評価した。
また,弁護士職務基本規程5条の理念に沿わない面があるとも述べた。
それでも,元破産者を利するために管財人としての職務を意図的にゆがめたなどの悪質な動機は認められないとして,弁護士法56条1項の品位を失うべき非行にまでは当たらないと判断した。

第4 日弁連の異議申出棄却

1 異議申出で問題にされたこと

異議申出人は,兵庫県弁護士会懲戒委員会が,消費税申告の法的義務と懲戒責任を過度に切り離したこと,免責意見書の不十分さを軽視したこと,元破産者の後続訴訟を受任したことによる公正らしさの毀損を十分に評価しなかったことなどを主張した。
異議申出書とともに追加の証拠も提出された。
これらは異議申出人の主張であり,その内容がすべて日弁連に事実認定されたという意味ではない。

2 日弁連懲戒委員会の理由

日弁連懲戒委員会議決書が示した実質的な理由は,新たに提出された証拠を検討しても,原議決に誤りはなく,原決定は相当であるというものであった。
つまり,兵庫県弁護士会懲戒委員会議決書の事実認定と評価を参照し,これを維持する方式である。
異議申出書の各主張や追加証拠に逐一答える記載はない。

3 議決,決定及び裁決の区別

兵庫県弁護士会懲戒委員会及び日弁連懲戒委員会が行うのは「議決」である。
弁護士会又は日弁連は,その議決に基づいて「決定」をする。
本件で日弁連がしたのは,弁護士法64条の5第5項に基づく異議申出棄却の「決定」であり,日弁連懲戒委員会がしたのは異議申出を棄却することを相当とする「議決」である。
これに対し,懲戒処分を受けた弁護士がした審査請求に対する日弁連の判断で用いられる「裁決」と混同しないことが必要である。

4 全員一致であったかは分からないこと

公表された日弁連懲戒委員会議決書には,出席委員数,賛成票数,反対票数又は少数意見の有無は記載されていない。
したがって,反対意見が本文に記載されていないというだけで,全員一致であったと断定することはできない。
確認できるのは,日弁連懲戒委員会として異議申出棄却の議決が成立し,日弁連がこれに基づく決定をしたことまでである。

第5 現在の法制度とその後の資料を踏まえた検討

1 破産管財人と消費税申告

(1) 納税義務者と手続を行う者

国税庁の質疑応答事例は,破産管財人が破産財団に属する課税資産を譲渡した場合,納税義務者は破産法人であり,その納税義務の履行手続は破産管財人が行うとしている。
破産手続中であっても破産法人は存続し,破産財団が破産法人に帰属することを前提とする整理である。
したがって,破産管財人は,課税事業者該当性,課税資産の譲渡,控除税額,申告期限及び財団債権としての処理を具体的に確認する必要がある。

(2) 税法上の義務と懲戒責任は同じ問題ではないこと

税務申告をすべき義務があること,無申告等によって損害賠償責任が成立すること及び弁護士法56条1項の懲戒事由に当たることは,それぞれ要件が異なる。
兵庫県弁護士会懲戒委員会が本件で懲戒事由該当性を否定したのは,この区別を前提とする事例判断である。
しかし,そのことは,破産管財人が財団の資金不足や裁判所からの個別指示がなかったことだけを理由に,申告要否の検討を省略してよいという意味ではない。
名古屋高裁金沢支部平成20年6月16日判決は,破産管財人による期限内申告の有無をめぐる無申告加算税の事案であり,少なくとも,破産事件であることだけから申告実務が免除されるわけではないことを示す資料となる。

2 免責意見の作成

(1) 破産法上の位置付け

破産法250条1項は,裁判所が定めた期間内に,破産管財人が免責不許可事由の有無等について意見を記載した書面を提出する仕組みを定めている。
また,破産債権者も,同法248条3項に基づき,免責について意見を述べることができる。
もっとも,破産管財人が,債権者から提出されたすべての主張に対し,書面上,項目ごとの反論を必ず記載しなければならないとする明文はない。

(2) 実務上望ましい記載

明文の個別応答義務がないことと,理由を全く示さないことが適切であることは同じではない。
免責不許可事由を示す具体的資料が提出された場合は,争点,調査した資料,破産者の説明,認定及び結論を簡潔に分けて記載する方が,裁判所と債権者の理解に資する。
本件議決も,対象会員の意見書が簡潔に過ぎたこと自体は認めており,口頭説明及び免責裁判の結論を併せて初めて懲戒事由該当性を否定したものである。

3 破産管財人の任務終了後の受任

(1) 第四版の解説を踏まえた規範

令和8年9月発行の解説「弁護士職務基本規程」第四版は,破産管財人を職務基本規程80条の官公署から委嘱された職務の例に挙げている。
同規程81条は,職務の公正を保ち得ない事由があるときに委嘱を受けることを禁止する規定であり,任務終了後の受任を直接禁止する文言ではない。
任務終了後の受任は,職務基本規程5条・6条,弁護士法56条1項及び弁護士法25条・職務基本規程27条の趣旨を踏まえ,後続事件との関係を具体的に検討することになる。

(2) その後の裁判例

最高裁令和4年6月27日決定は,取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が,会社の代理人として元取締役に損害賠償を請求した事案で,弁護士法25条2号・4号の類推適用による訴訟行為の排除を否定した。
この最高裁決定は,弁護士法25条の禁止を第三者的職務一般に広げることに慎重な判断であるが,あくまで判示された事実関係の下での判断である。
これに対し,福岡地裁令和5年8月30日決定(判例時報2584号107頁,裁判所ウェブサイト未掲載)は,マンション管理組合法人の理事職務代行者として訴訟に関与した弁護士が,後の同内容の訴訟で同法人の相手方の代理人となった事案で,弁護士法25条1号又はその類推適用により訴訟行為を排除した。
両決定は結論が異なるが,前者では会社側という立場が連続し,後者では同じ紛争で立場が反転しているという違いがある。

(3) 本件の位置付け

本件では,対象会員は,破産管財人として貸金関係と免責不許可事由の有無を調査した後,同じ金銭関係を争点とする訴訟で元破産者側を代理した。
福岡地裁決定のように,管財人として当事者の一方を訴訟代理した後に相手方へ転じた事案とは異なるため,直ちに同じ結論になるとは限らない。
他方,管財人として行った認定や判断が後の依頼者の利益に直結し,公正らしさへの疑念が生じる構造は軽視できない。
兵庫県弁護士会懲戒委員会の「安易な受任」及び職務基本規程5条の理念に沿わない面があるとの指摘は,現在も実務上重要である。

第6 日弁連議決書の理由の評価

1 法的には参照型の理由が示されていること

弁護士法67条の2は,懲戒委員会が議決をしたときは,速やかに理由を付した議決書を作成しなければならないとしている。
本件の日弁連懲戒委員会議決書は,新証拠を検討しても原議決に誤りがなく,原決定が相当であると明示している。
原議決書には三つの懲戒事由に関する事実認定と評価が記載されているため,これを参照して維持する形式の理由が全く存在しないとはいえない。

2 説明の十分性は別問題であること

他方,異議申出は,原議決の判断枠組みと証拠評価を具体的に争い,追加証拠も提出したものである。
それにもかかわらず,日弁連議決書には,どの追加証拠をどのように評価したか,三つの争点に対する反論をなぜ採用しなかったかが示されていない。
法定の「理由」があるかという最低限の問題と,異議申出人及び一般の読者が判断過程を検証できる程度に説明されているかという問題は区別すべきである。
本件議決書は前者を満たす一方,後者については説明が乏しいという評価が可能である。

3 この事案から一般化できないこと

懲戒判断は,行為の態様,認識,動機,結果,その後の対応等を総合した個別判断である。
本件で不処分となったことから,破産管財人が消費税申告をしなくてもよい,免責意見を一行で済ませてもよい,又は任務終了後に元破産者の代理人となっても常に問題がない,という一般的な規範を導くことはできない。
とりわけ後続受任については,最高裁令和4年決定と福岡地裁令和5年決定が示すように,先行職務と後続事件の同一性,依頼者側の連続又は反転,先行職務で得た情報・行った判断及び当事者の信頼を個別に検討する必要がある。

第7 実務上の確認事項

1 破産管財人の側

破産財団に属する資産を換価した場合は,破産法人の課税事業者該当性,課税取引の有無,申告期限,税理士への照会,財団債権の処理及び裁判所への報告を記録化する必要がある。
免責について具体的な反対意見が出された場合は,少なくとも主要な争点ごとに,資料,破産者の説明,管財人の認定及び結論を整理して意見書又は報告書に残すことが望ましい。
任務終了後に元破産者その他の関係者から受任を求められた場合は,先行職務で扱った事実・法律問題との重なり,立場の反転,秘密・情報の利用可能性,公正らしさへの影響及び任務中の受任交渉の有無を確認する必要がある。

2 懲戒請求者・異議申出人の側

懲戒請求では,法令又は規程の条文に形式的に当てはめるだけでなく,いつ,誰が,どの地位で,どの資料を把握し,どの判断をし,後の事件でどのように立場を変えたかを時系列で示すことが重要である。
異議申出では,原議決の認定事実,規範,評価及び結論のどこを争うかを分け,追加証拠がどの判断を変えるものかを明示する必要がある。
もっとも,異議申出棄却の議決書が原議決を参照する簡潔な理由にとどまる場合があることは,本件から確認できる。

第8 関連資料

1 法令及び制度

① 弁護士法
② 破産法
③ 弁護士の懲戒制度(日弁連)

2 本件の公表文書

① 平成31年3月28日付け兵庫県弁護士会決定書及び同月18日付け懲戒委員会議決書
② 令和元年5月30日付け異議申出書
③ 令和元年9月13日付け日弁連通知書,同月12日付け決定書及び同月9日付け懲戒委員会議決書

3 現在の実務を確認する資料

① 破産財団に属する課税資産の処分に係る納税義務者(国税庁)
② 最高裁令和4年6月27日決定
③ 破産管財人による破産法人の消費税申告-不動産売却,課税期間,申告・納付及び無申告の問題(AI作成)
④ 破産管財人の免責調査報告-債権者の反対意見,調査結果及び裁量免責の整理(AI作成)
⑤ 解説「弁護士職務基本規程」第四版(日弁連,令和8年9月)
⑥ 福岡地裁令和5年8月30日決定(判例時報2584号107頁,裁判所ウェブサイト未掲載)

第9 関連記事

1 懲戒手続

① 弁護士会の懲戒手続―綱紀委員会・懲戒委員会と異議申出
② 弁護士の懲戒制度の概要

2 破産管財人の任務終了後の受任

① 職務代行者・管理人等を務めた弁護士は後にその紛争の代理人になれるか
② 取締役責任調査委員会の委員弁護士は後続訴訟を代理できるか
③ 解説「弁護士職務基本規程」第三版と第四版の主な変更点