弁護士山中理司

同一労働同一賃金

目次
1 総論
2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
3 無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外であること
4 派遣労働者の同一労働同一賃金
5 福利厚生施設の利用の機会の付与
6 関連記事その他

1 総論
(1) 令和2年4月1日の同一労働同一賃金の導入は,①同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と②非正規雇用労働者(有期雇用労働者,パートタイム労働者及び派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものであります(厚生労働省の「同一労働同一賃金特集ページ」参照)。
(2)ア ①正規雇用労働者と非正規雇用労働者の業務内容に違いがあれば,違いに応じた賃金を支払うというのが均衡待遇であり,②「職務内容」並びに「職務内容及び配置の変更の範囲」の2点で同じ業務内容であれば同じ賃金を支払うというのが均等待遇です(株式会社夢テクノロジーHPの「人事担当者が知っておきたい同一労働同一賃金:均等待遇と均衡待遇」参照)。
イ ①均衡待遇は,平成25年4月1日施行の労働契約法20条(有期雇用労働者を対象としたもの)及び平成27年4月1日施行の改正パートタイム労働法8条(短時間労働者を対象としたもの)で定められるようになりました。
    ②均等待遇は,平成20年4月1日施行の改正パートタイム労働法9条(短時間労働者を対象としたもの)で定められるようになりました。
ウ 独立行政法人日本スポーツ振興センターが被告となった東京地裁令和3年1月21日判決(判例秘書掲載)では,令和2年4月1日施行のパートタイム・有期雇用労働法8条(不合理な待遇の禁止)は旧労働契約法20条の内容を明確にして統合したものであるから. 同条に関する当事者の主張をパートタイム・有期雇用労働法8条の主張と整理した上で、判断されています。
エ 派遣労働者と派遣先の通常の労働者とに係る均等待遇を定めた改正労働者派遣法30条の3第2項は令和2年4月1日に施行されました。


2 同一労働同一賃金に関する最高裁判例
(1)ア 労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めたものであり,令和2年4月1日以降のパートタイム・有期雇用労働法8条に相当する条文です。)に基づく同一労働同一賃金に関する最高裁判例としては以下のものがあります(東京都労働相談情報センターHPの「2-2-2 同一労働・同一賃金をめぐる最高裁判所判例」参照)。
① 最高裁平成30年6月1日判決ハマキョウレックス事件)
→ 原告はドライバーとして働く有期雇用労働者であり,通勤手当,皆勤手当,休職手当,作業手当及び無事故手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
② 最高裁平成30年6月1日判決長澤運輸事件)
→ 原告は定年後に再雇用された嘱託乗務員であり,精勤手当及び時間外手当を支給しない待遇差は不合理であるとされました。
③ 最高裁令和2年10月13日判決大阪医科大学事件)
→ 原告はアルバイト職員であり,賞与のほか,私傷病による欠勤中の賃金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
④ 最高裁令和2年10月13日判決メトロコマース事件)
→ 原告は有期労働契約社員であり,退職金を支給しない待遇差は不合理ではないとされました。
⑤ 最高裁令和2年10月15日判決(日本郵便事件。東京大阪及び佐賀があります。)
→ 原告は有期の時給制契約社員(いずれも契約更新を繰り返している社員)であり,年末年始勤務手当,年始期間の勤務に対する祝日給,扶養手当,病気休暇及び夏季冬季休暇を与えない待遇差は不合理であるとされました。
イ 名古屋自動車学校事件に関する最高裁令和5年7月20日判決は, 無期契約労働者と有期契約労働者との間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違の一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(2) 東京高裁令和2年6月24日判決(裁判長は36期の白井幸夫)は,家族手当及び住宅手当を大学の非常勤講師に支給しないことは不合理ではないと判断しました(note 9thの「中央学院事件・東京高判令2.6.24 ~職務の内容の相違は住宅手当等の不支給の不合理性判断に影響するか~【前編】」参照)。
(3) ビジネス法務2023年10月号75頁には,①基本給,賞与及び退職金については事業主の裁量が広く認められるのに対し,②諸手当及び福利厚生については裁判所が介入して適法・違法が判断されやすい傾向にあるという趣旨のことが書いてあります。


3 無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外であること
(1) COMPANY HP「同一労働同一賃金における企業が対応すべきポイントと手順【対応状況アンケート公開】」には以下の記載があります。
    厚生労働省によると、
・有期雇用契約労働者
・パートタイム労働者
・派遣労働者
の3種類を「非正規雇用労働者」と表現し、同一労働同一賃金の対象としています。
反対に、同一労働同一賃金の対象とならないのは「正社員(無期雇用フルタイム労働者)」と示されています。
(2)ア 無期雇用フルタイム労働者についても適用される労働契約法3条2項は「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」と定めています。
イ 日本の人事部HPの「同一労働同一賃金に対応して無期転換することについての解説」には以下の記載があります。
    無期雇用フルタイム労働者は同一労働同一賃金の対象外ですが、同じ仕事を同じ責任の度合いで行っているのであれば、無期転換した社員はその待遇の差に不満を感じてしまいます。社員からの訴えによる労使トラブルやモチベーション低下、それらに伴う会社全体の生産性低下につながることもあるでしょう。
    既存の正社員との間に待遇格差を設けるのであれば、仕事内容や労働条件、責任度合いなどの違いを明確にし、無期転換する社員が納得できる合理的な理由の説明が必要です。

4 派遣労働者の同一労働同一賃金
(1)ア 派遣労働者の待遇について,派遣元事業主には,①派遣先均等・均衡方式(派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇)(労働者派遣法30条の3)又は②労使協定方式(一定の要件を満たす労使協定による待遇)(労働者派遣法30条の4)のいずれかを確保することが令和2年4月1日より義務化されました。
イ 労使協定方式の場合,派遣先から派遣元に派遣契約締結前に提供する待遇情報は,①業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の内容,及び②福利厚生施設(食堂,休憩室及び更衣室)の内容となります(労働者派遣法施行規則24条の4第2号)ところ,①及び②については,派遣先の通常の労働者との均等・均衡確保が必要となります(労働者派遣法40条2項及び3項)。
ウ 令和5年6月1日現在,派遣先均等・均衡方式が7.9%であり,労使協定方式が88.8%であり,併用が3.3%となっています(第365回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会(令和6年1月26日開催)労使協定書の賃金等の記載状況(一部事業所の集計結果(令和5年度))について(資料1-2)参照)。
(2) 派遣先指針9(1)には「派遣先は、その指揮命令の下に労働させている派遣労働者について、派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、労働者派遣法第40条第1項から第3項までに定めるもののほか、セクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持並びに派遣先が設置及び運営しセクシュアルハラスメントの防止等適切な就業環境の維持並びに派遣先が設置及び運営し、その雇用する労働者が通常利用している物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設等の施設の利用に関する便宜の供与の措置を講ずるように配慮しなければならないこと。」 と書いてあります。
(3)ア 厚生労働省HPの「派遣労働者の同一労働同一賃金について」「派遣労働者の≪同一労働同一賃金≫の概要(平成30年労働者派遣法改正~令和2年4月1日施行~)」が載っています。
イ パーソナルエクセルHRパートナーズHP「【おさらいリーガル知識】派遣先から派遣元への待遇情報の提供とは?」が載っています。
(4) ミカタ社会保険労務士法人HP「事業報告書の集計結果が、毎年1月・3月に公表されます」が載っています。

5 福利厚生施設の利用の機会の付与
(1) 給食施設,休憩室及び更衣室は健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものですから,これらの施設について通常の労働者に対して利用の機会を与える場合,短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法12条及び同法施行規則5条のほか,短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成31年1月30日付の厚生労働省労働基準局長等の通知)第3・7(1)参照)。
(2) 給食施設,休憩室及び更衣室は業務の円滑な遂行に資するものですから,これらの施設について通常の労働者に対して利用の機会を与える場合,短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければなりません(労働者派遣法40条3項及び同法施行規則32条の3のほか,働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令等の公布について(平成30年12月28日付の厚生労働省職業安定局長の通知)第6・3(4)参照)。

6 関連記事その他

(1) パートタイム・有期雇用労働法8条の「待遇」には,基本的に,全ての賃金,教育訓練,福利厚生施設,休憩,休日,休暇,安全衛生,災害補償,解雇等の全ての待遇が含まれます(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成31年1月30日付の厚生労働省労働基準局長等の通知)第3・3(6))。
(2) 同一労働同一賃金について事業者側が抱える問題点としては,①人件費が高くなること,②賃金格差が消えるわけではないこと,及び③労働者への説明が必要になることがあるみたいです(jinjerBlog「同一労働同一賃金の問題点と日本・海外との考え方の違い」参照)。
(3)ア 厚生労働省HPの「配偶者手当の在り方の検討」に,「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会報告書」 (平成28年4月)が載っています。
イ 厚生労働省HPの「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」には「令和4年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正がされ、情報公表項目に「男女の賃金の差異」を追加するともに、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対して、当該項目の公表が義務づけられることとなりました。」と書いてあります。
(4) 厚生労働省職業安定局の人材サービス総合サイト「許可・届出事業所の検索」において,労働者派遣事業の事業主を検索できます。
(5) ビジネス法務2023年10月号に「同一労働同一賃金
重要判例総まとめ」が載っています。
(6) 以下の記事も参照してください。
・ 労働協約
・ 職業安定法及び採用活動に関するメモ書き
・ 就業規則に関するメモ書き
・ 労働基準法に関するメモ書き

「労働者性」の判断基準

目次
1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
5 関連記事その他

1 労働基準法における「労働者性」の判断基準
(1) 労働基準法における「労働者性」の判断基準の概要は以下のとおりです(業務委託契約書の達人HP「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和60年12月19日)とは」参照)。
ア 「使用従属性」に関する判断基準
① 「指揮監督下の労働」であること
a. 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b. 業務遂行上の指揮監督の有無
c. 拘束性の有無
d. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
② 「報酬の労務対償性」があること
イ 「労働者性」の判断を補強する要素
① 事業者性の有無
② 専属性の程度
(2)ア  最高裁平成8年11月28日判決は,車の持込み運転手が労働基準法及び労災保険法上の労働者に当たらないとされた事例であり,最高裁平成19年6月28日判決は,作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事する形態で稼働していた大工が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないとされた事例です。
イ 最高裁平成17年6月3日判決関西医科大学事件)は,臨床研修として病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する医師は,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り労働基準法上の労働者に当たるとされた事例です。
(3)ア 一人親方建設業共済会HPに載ってある「労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告 」(平成8年3月)には,建設業手間請け従事者及び芸能関係者について,労働者性の判断基準が書いてあります。
イ 社会保険労務士法人大野事務所HP「労働基準法における「労働者性」の判断基準」では,「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)」(略称は「フリーランスガイドライン」です。)で示された考え方が図解されています。
(4) 未払い残業代請求の法律相談(2022年9月20日付)261頁には「労蟇法上の労働者に該当すると判断されるリスクが相当程度あると考えられる場合には,業務従事者の労働時間の長さを確認又は推知することができる資料を収集,確保しておくことが必要となります。」と書いてあります。


2 労働組合法における「労働者性」の判断基準等
(1) 厚生労働省HPの「「労使関係法研究会報告書」について~労働組合法上の労働者性の判断基準を初めて提示~」(平成23年7月25日付)では,労働組合法上の労働者に該当するかどうかについては,以下の判断要素を用いて綜合的に判断すべきものとしています。
(1)基本的判断要素
  1 事業組織への組み入れ
   労務供給者が相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか。
  2 契約内容の一方的・定型的決定
   契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか。
  3 報酬の労務対価性
   労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか。
(2)補充的判断要素
  4 業務の依頼に応ずべき関係
   労務供給者が相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか。
  5 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
   労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務の供給を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘
  束を受けているか。
(3)消極的判断要素
  6 顕著な事業者性
   労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られるか。
(2) 労働組合法上の労働者であると判断した最高裁判例としては以下のものがあります。
① 最高裁昭和51年5月6日判決(CBC管弦楽団労組事件)
・ 民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例です。
② 最高裁平成7年2月28日判決朝日放送事件)
・ 雇用主との間の請負契約により労働者の派遣を受けている事業主が労働組合法七条にいう「使用者」に当たるとされた事例です。
③ 最高裁平成23年4月12日判決新国立劇場運営財団事件)
・  年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
④ 最高裁平成23年4月12日判決(INAXメンテナンス事件)
・  住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者が,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例です。
・ Wikipediaの「INAX」には「INAX(イナックス)は、LIXILが展開する衛生陶器・住宅設備機器・建材のブランド名である。また、株式会社INAX(英: INAX Corporation)は、2011年3月までこれらの事業を展開していた企業で、現在のLIXILの前身の一つである。」と書いてあります。
⑤ 最高裁平成24年2月21日判決(ビクターサービスエンジニアリング事件)
・ 音響製品等の設置,修理等を業とする会社と業務委託契約を締結して顧客宅等での出張修理業務に従事する受託者につき,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)ア 人事・労働・労務相談ALG「労働組合法上の労働者性|労働基準法との違い」には以下の記載があります。
労働基準法上では、「労働者」は専用従属性を中心として判断されます。それとは異なり、労働組合法上の「労働者」は経済的従属性を中心として判断されることから、労働基準法上の労働者性よりも緩やかに認められるという点に特徴があります。
イ NHKの受託業務従事者(いわゆる地域スタッフ)は,労働基準法及び労働契約法上の労働者ではない(大阪高裁平成28年7月29日判決参照)ものの,労働組合法上の労働者ではあります(東京高裁令和元年5月15日判決参照)。
ウ vnnn’s blogの「NHK集金人には法人委託と地域スタッフの2種類います」には以下の記載があります。
あなたの部屋に何度もやってくるNHK集金人には、法人委託の集金人と地域スタッフの集金人の2種類います。法人委託の集金人は会社員でNHKが委託(仕事を頼んでいる)法人に所属している会社員です。それに対して、地域スタッフは個人事業主で個人でNHK業務委託契約を結んで、個人事業主として集金人をやっています。
(4)ア  使用者が誠実に団体交渉に応ずべき義務に違反する不当労働行為をした場合には,当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても,労働委員会は,使用者に対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することができます(山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件に関する最高裁令和4年3月18日判決)。
イ 東京都労働委員会は,令和4年11月25日,ウーバーイーツ配達員は労働組合法上の労働者であると判断しました(東京都労働委員会HPの「Uber Japan事件命令書交付について」参照)。 


3 労災保険法における「労働者性」の判断事例
・ 平成30年(労)第219号に関する労働保険審査会の裁決は,会社及びグループの代表者である一方、実質上のトップから業務全般の指示を受けていた者は労働者ではないと判断した事例でありますところ,一般論として以下の判断をしています。
労災保険法は、労働者について定義規定を置いていないが、同法制定の経緯等からみて、同法にいう労働者とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)にいう労働者と同義であると解される。そして、昭和60年の労働基準法研究会報告書では、労働者性の判断基準が示され、仕事の依頼・業務に従事すべき旨の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、報酬の労務対償性の有無などの「使用従属性」に関する判断基準と「労働者性の判断を補強する要素」の諸要素を勘案して総合的に判断する必要があるとされているところであり、上記報告書の判断枠組みは当審査会としても合理性を有するものと考えるので、本件における労働者性の判断に当たっては、その判断枠組みを基準にして、判断の諸要素を総合的に検討すべきものと考える。

4 在宅勤務者が雇用保険の被保険者となる場合
・ 雇用保険に関する業務取扱要領20351(1)「労働者性の判断を要する場合」には「ル 在宅勤務者」として以下の記載があります(リンク先21頁及び22頁)。
    在宅勤務者(労働日の全部又はその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ、自己の住所又は居所において勤務することを常とする者をいう。)については、事業所勤務労働者との同一性が確認できれば原則として被保険者となりうる。
    この事業所勤務労働者との同一性とは、所属事業所において勤務する他の労働者と同一の就業規則等の諸規定(その性質上在宅勤務者に適用できない条項を除く。)が適用されること(在宅勤務者に関する特別の就業規則等(労働条件、福利厚生が他の労働者とおおむね同等以上であるものに限る。)が適用される場合を含む。)をいう。
    なお、この事業所勤務労働者との同一性を判断するにあたっては、次の点に留意した上で総合的に判断することとする。
(イ) 指揮監督系統の明確性
    在宅勤務者の業務遂行状況を直接的に管理することが可能な特定の事業所が、当該在宅勤務者の所属事業所として指定されていること
(ロ) 拘束時間等の明確性
所定労働日及び休日が就業規則、勤務計画表等により予め特定されていること
各労働日の始業及び終業時刻、休憩時間等が就業規則等に明示されていること
(ハ) 勤務管理の明確性
    各日の始業、終業時刻等の勤務実績が、事業主により把握されていること
(ニ) 報酬の労働対償性の明確性
    報酬中に月給、日給、時間給等勤務した期間又は時間を基礎として算定される部分があること
(ホ) 請負・委任的色彩の不存在
a 機械、器具、原材料等の購入、賃借、保守整備、損傷(労働者の故意・過失によるものを除く。)、事業主や顧客等との通信費用等について本人の金銭的負担がないこと又は事業主の全額負担であることが、雇用契約書、就業規則等に明示されていること
b 他の事業主の業務への従事禁止について、雇用契約書、就業規則等に明示されていること


5 関連記事その他
(1)ア 厚生労働省HPに載ってある「「労働者」について」には,労働基準法上の労働者性に関する裁判例及び労働組合法上の労働者性に関する裁判例等が載っています。
イ 労働政策研究・研修機構HPに「労働政策研究報告書 No.206 労働者性に係る監督復命書等の内容分析」(2021年2月10日付)が載っています。
(2) 労働安全衛生法の労働者は労働基準法の労働者と同じであり(同法2条2号),最低賃金法の労働者も労働基準法の労働者と同じです(同法2条1号)。
(3) インターンシップにおける学生は,以下のような実態がある場合,労働者に該当します(長野労働局HPの「インターンシップ受入れにあたって」参照)。
① 見学や体験的な要素が少ない。
② 使用者から業務に関わる指揮命令をうけている。
③ 学生が直接の生産活動に従事し、それによる利益・効果が当該事業所に帰属する。
④ 学生に対して、実態として何らかの報酬が支払われている
(4) 東京高裁令和4年5月18日判決(判例タイムズ1511号(2023年10月号)153頁以下)は,「組合規約上,「組合費及び機関で決定したその他の賦課金を納める義務」と定められているのみで,賦課金納付の条件や額についての定めがない場合には,賦課金納付義務の具体的な内容が特定されているとはいえず,また,上記規定と一体となる賦課金規程等も存在せず,機関で具体的な納付義務の内容が決定されたともいえないという事実関係の下では,上記規定に基づき,控訴人の組合員が労働争議の解決時に使用者から支払われた解決金の20%に相当する賦課金を控訴人に支払う義務を負うとは認められないとされた事例」です。
(5) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

公益通報制度に関するメモ書き

目次
1 総論
2 令和4年6月1日施行の改正公益通者保護法の概要
3 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
4 消費者庁の指針及びその解説
5 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
6 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
7 関連記事その他

1 総論
(1) 公益通報者保護法(平成16年6月18日法律第122号)は平成18年4月1日に施行されました。
(2) 公益通報者保護制度は,国民生活の安心や安全を脅かすことになる事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る観点から,公益のために事業者の法令違反行為を通報した事業者内部の労働者に対する解雇等の不利益な取扱いを禁止するものです(厚生労働省HPの「公益通報者の保護」参照)。
(3) 消費者庁消費者制度課が令和2年2月及び3月に内閣法制局に提出した,公益通報者保護法の一部を改正する法律案に関する説明資料及び用例集を掲載しています。


2 令和4年6月1日施行の改正公益通者保護法の概要
(1) 令和4年6月1日に改正公益通報者保護法が施行された結果,例えば,以下のとおり取扱いが変わりました(消費者庁HPの「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)」参照)。
① 常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は,内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設置,調査,是正措置等)を義務付けられることになりました(法11条1項及び2項)。
② 公益通報対応業務従事者は,通報者を特定させる情報について刑事罰(30万円以下の罰金)を伴う守秘義務を負うことになりました(法12条及び21条)。
③ 退職後1年以内の労働者のほか,役員も公益通報者として保護されることになりました(法2条1項1号及び4号参照)。
④ 公益通報に伴う損害賠償責任が免除されることになりました(法7条)。
・ 通報先が事業者内部(法律事務所等を含む。)である場合,通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合であれば,損害賠償責任が免除されます。
・ 通報先が行政機関又はその他の事業者外部(例えば,報道機関及び消費者団体)の場合,一定の保護要件を満たす必要があります。
(2) 東弁リブラ2022年10月号「どう変わった?公益通報者保護法-改正による実務への影響-」には,公益通報対応業務従事者の守秘義務を履行する上での留意点等が書いてあります。

3 消費者庁の指針に関するパブコメへの意見
(1) E-GOVパブリック・コメントの「「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に関する意見募集の結果について」「寄せられた意見の概要」
18頁ないし24頁記載の意見は,公益通報制度の問題点を詳しく記載したものになっています。
(2) 上記のパブコメに寄せられたコメントは196件でありますところ,項目別の件数としては,①従事者として定めなければならない者の範囲が23件,②公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置が21件,③公益通報対応業務の実施に関する措置が20件,④労働者及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置が20件,⑤内部公益通報受付窓口の設置等が18件,⑥範囲外共有等の防止に関する措置が12件となっています(デロイトトーマツHPの「第1回 11条指針の公表~パブリックコメントに見る社会の関心事~」参照)。

4 消費者庁の指針及びその解説
(1) 法11条4項に基づく文書として,消費者庁HPの「公益通報者保護法と制度の概要」には以下の文書が掲載されています。
① 公益通報者保護法に基づく指針
② 公益通報者保護法に基づく指針の解説
(2) 知識連鎖ブログ「指針の法的拘束力」には「第25回研究会(7/26)における指摘事項」からの引用として以下の記載があります(「菅野座長」は,労働法を専門分野とする菅野和夫(すげのかずお)東大名誉教授です。)。
○  厚生労働省から出版する法律の解説と、法律に根拠をもって出されている指針は異なるが、指針は法律ではない。指針の性格はなかなか難しい。(内田先生)
○  法律に書けないものを、努力すべきこととして指針に書くなどの振り分けができれば、指針は法的拘束力がないと言えるだろう。しかし、例えば整理解雇について裁判例を整理して指針を書くとすれば、法的拘束力はないとすることは誤解を招くのではないか。指針において法律に定められていることを再び書いている場合がある。指針そのものに法的拘束力がないことと、そこに書かれていることに法的拘束力がないこととは異なる。そのことを明らかにした方がよいのではないか。(西村先生)
○  指針に書いてあることにより法的拘束力があるわけではない。(菅野座長)

5 消費者庁が指針に関して内閣法制局に説明していた内容
・ 公益通報者保護法の一部を改正する法律案 説明資料(令和2年3月の消費者庁消費者制度課の文書)72頁及び73頁には,「内閣総理大臣が策定する指針に定める事項としては、現時点において、以下のものを想定している。」として以下の記載があります。
① 公益通報対応業務従事者の配置及び教育訓練の実施
・ 公益通報対応業務従事者として、事業者の実情に応じ、社外取締役、監査役、コンブライアンス部門、総務部門、人事部門、社外法律事務所等から適任者を選び、公益通報対応業務に従事させること。
・ 公益通報対応業務従事者が、公益通報対応業務を適切に実施することができるよう、必要な知識やスキルの向上を図るための教育訓練を実施すること。
② 公益通報を受け付ける窓口の設定及び制度の周知
・ 当該窓口における業務の実施要領に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 当該窓口を含む制度の周知の実施に関する内規を定め、これに従い周知を実施すること。
③ 公益通報に基づく調査及び是正措置等
・ 公益通報を受けた場合は、特段の事情がない限り31、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、その行為者の懲戒その他適当な措置並びに再発防止及び是正のために必要と認める措置(国及び地方公共団体の場合には国家公務員法、地方公務員法(昭和25年法律第261号)等の規定に基づく措置その他適当な措置。以下「公務員法に基づく措置」という。)をとることに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報を受けて実施した調査及び是正措置又はこれらを実施しない理由について、公益通報者に通知するよう努めることに関する内規を定め、これに従い通知すること。
・ 上記の調査及び是正措置等の進捗を管理し、内規に基づき実施されていないことが確認された場合には監督指導(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)することに関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
④ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止及び公益通報者に閨する情報漏えいの防止並びに事後の措置
・ 公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止、当該禁止に違反した者の懲戒その他適当な措置並びに当該不利益取扱いの再発防止及び是正に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 公益通報者に関する情報の共有範囲を最小限(窓口担当者、調査担当者等公益通報に対応する担当者並びにそれらの管理責任者)にとどめ、その範囲から漏らした者の懲戒その他適当な措置(国及び地方公共団体の場合には公務員法に基づく措置)、漏えい拡大防止及び再発防止に関する内規を定め、これに従い業務を実施すること。
・ 上記の不利益取扱い及び情報の漏えいが発生した旨の申出の受付、事実関係の調査並びに進捗管理及び監督指導については、上記②及び③に準じること。

6 公益通報制度に関する弁護士会の懲戒事例
(1) 令和4年9月6日発効の第二東京弁護士会の懲戒処分の公告(戒告)には「処分の理由の要旨」として以下の記載があります(自由と正義2023年1月号95頁)
    被懲戒者は、同じ事務所に所属するA弁護士が、B法人から、B法人の設置したハラスメント相談窓口の担当者の代行を受任し、2017年7月5日及び同年9月1日にA弁護士が懲戒請求者から事情聴取したことを知りつつ、A弁護士が聴取した事実関係と同一の事実を含む事実関係に基づき懲戒請求者がB法人を被告として提起した地位確認等請求訴訟において、A弁護士と共にB法人の訴訟代理人として、懲戒請求者の主張を争った。
    被懲戒者の上記行為は、弁護士職務基本規程第5条に違反し、弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
(2) 上記懲戒処分は,令和5年10月30日付の日弁連の裁決により取り消されました(自由と正義2023年12月号64頁及び65頁)。


7 関連記事その他
(1) 裁判手続内で是正されることが予定されている裁判事務にかかわる行為は,裁判所の公益通報及び準公益通報の対象とはなりません(裁判所HPの「裁判所における公益通報について」参照)。
(2) 福岡地裁令和3年10月22日判決(裁判長は47期の松葉佐隆之)は,郵便局の内規違反を内部通報したことに対し,郵便局長でつくる団体の役員3人からパワーハラスメントを受けたとして,団体所属の郵便局長7人が総額2950万円の損害賠償を求めた訴訟で,約200万円の賠償を命じました(朝日新聞HPの「内部通報者捜しの違法性認定 郵便局長団体の幹部らに賠償命令」(2021年10月22日付)参照)。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

男女雇用機会均等法に関するメモ書き

目次
1 総論
2 昭和61年3月31日以前の女性保護
3 募集・採用,配置・昇進についての差別解消
4 深夜業の解禁
5 坑内労働の解禁
6 セクハラ等の防止
7 セクハラ等に関する判例
8 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止
9 女性労働者に対する積極的差別解消措置
10 国際婦人年
11 女子差別撤廃条約
12 関連記事その他

1 総論
(1) 男女雇用機会均等法は,勤労婦人福祉法(昭和47年7月1日法律第113号)の一部改正により成立しました(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を促進するための労働省関係法律の整備等に関する法律(昭和60年6月1日法律第45号)参照)。
(2) 男女雇用機会均等法制定後の大きな改正法は以下のとおりです。
① 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律(平成9年6月18日法律第92号)
→ 原則として平成11年4月1日施行でした。
② 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律(平成18年6月21日法律第82号)
→ 原則として平成19年4月1日施行でした。
(3) 男女雇用機会均等法の制定当初の名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」でしたが,平成11年4月1日以降は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」となっています。
(4) ①勤労婦人福祉法が施行された昭和47年7月1日以降は「勤労婦人」という表現であり,②男女雇用機会均等法が施行された昭和61年4月1日以降は「女子労働者」という表現であり,③改正男女雇用機会均等法が施行された平成11年4月1日以降は「女性労働者」という表現になっています。

2 昭和61年3月31日以前の女性保護
(1) 男女雇用機会均等法は昭和61年4月1日に施行されましたところ,それ以前の女性保護は以下のとおりでした(厚生労働省HPの「男女雇用機会均等法の変遷」参照)。
① 残業:原則として1日2時間,週6時間,1年150時間まで
② 深夜業(夜10時から昼5時まで):原則禁止。一部の業務のみOK
③ 危険有害業務:ボイラー,クレーン等の取扱い,5メートル以上の高所作業,深さ5メートル以上の穴の中の作業その他の禁止
④ 帰郷旅費支給の義務付け
⑤ 母性保護
(2) 日本看護協会HP「看護職の夜間勤務に関連する社会と行政の動き」が載っています。

3 募集・採用,配置・昇進についての差別解消
(1) 昭和61年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進についての均等な取扱いについては事業主の努力義務となりました。
(2)ア 平成11年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進について,女性であることを理由とする差別的取扱いが禁止されることとなりました。
イ 労務安全情報センターHP「「改正男女雇用機会均等法・改正労基法」解説とQ&A」には以下の記載があります。
① 現行法では、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない」(事業主の努力義務)こととなっており、均等な機会が確保されていない場合には、改善の努力が求められます。
    平成11年4月の改正法施行後は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない」と女性に対する差別を禁止する規定となります。この改正によって、事業主は法違反状態がある場合には、直ちに是正を求められることとなります。
② 配置・昇進については、現行法では、「事業主は、労働者の配置及び昇進について、女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをするように努めなければならない」(事業主の努力義務)こととなっていますが、平成11年4月の改正法施行後は、「事業主は、労働者の配置、昇進及び教育訓練について、労働者が女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをしてはならない」と女性に対する差別を禁止する規定となります。
    また、教育訓練について、現行法においては労働省令で差別が禁止される対象範囲を限定していますが、平成11年4月の改正法施行後は、この限定がなくなります。
(3)ア 平成19年4月1日以降,募集・採用,配置・昇進等について,男女双方に対し,性別を理由とする差別的取扱いが禁止されることとなりましたし,差別的取扱いの禁止の対象に,降格,職種の変更,雇用形態の変更,退職勧奨及び労働契約の更新が追加されました。
イ 栃木労働局HPに「平成19年4月1日から改正男女雇用機会均等法が施行されました」が載っています。

4 深夜業等の解禁
(1) 昭和61年4月1日以降,女性の深夜業可能な業務が拡大されました。
(2)ア 平成11年4月1日以降,改正労働基準法に基づき,女性労働者にかかる時間外労働,休日労働及び深夜業の規制が解消され,母性保護以外の女性保護規定が廃止されました。
イ 厚生労働省HPに「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」(平成10年3月13日付の労働省女性局長の文書)が載っています。
ウ 厚生労働省HPの「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」に,①男女雇用機会均等法における母性健康管理の措置及び②労働基準法における母性保護規定が載っています。
(3)ア 事業主は,妊産婦が請求した場合,深夜業をさせてはなりません(労働基準法66条3項)。
イ 事業の正常な運営を妨げる場合を除き,家族的責任を有する労働者の深夜業は原則として禁止されています(育児介護休業法19条)。

5 坑内労働の解禁
(1)ア 坑内労働としては,鉱山におけるものと,ずい道工事その他鉱山以外におけるものがありますところ,厚生労働省HPの「女性の坑内労働に係る専門家会合報告書(案)」には以下の記載があります。
最近のずい道工事等を用途別に見ると、道路41%、鉄道24%、水路21%、洞道管路6%、地下街等1%、その他7%であり、道路、鉄道及び水路で全体の8割以上を占めている。近年の傾向としては、ずい道工事等全体は請負額、工区数ともにやや減少しているが、その中で道路の割合はやや増加している。
イ ①隧道(ずいどう)とは,トンネルのことであり,②洞道(とうどう)とは,通信ケーブル,送電線,ガス管等のインフラ用として,地下に設けられたトンネルのうち,人間が入れるものをいい,③管路(かんろ)とは,洞道から分岐して人間が入れない管をいいます。
(2) 昭和61年4月1日以降,臨時の必要のため坑内で行われる業務については,女性の坑内労働が解禁されました。
(3) 平成19年4月1日以降,妊産婦でない18歳以上の女性は坑内労働に従事できることになりました。

6 セクハラ等の防止
(1) 平成11年4月1日以降,事業主は,職場におけるセクシュアルハラスメント(いわゆる「セクハラ」です。)を防止するため,雇用管理上必要な配慮をしなければならなくなりました。
(2)ア 平成19年4月1日以降,セクハラの保護対象が男性にも広がるとともに,事業主の配慮義務が措置義務になりました。
イ 大阪労働局HPに「男女雇用機会均等法におけるセクシュアルハラスメント対策について」が載っています。
(3)ア 平成29年1月1日以降,事業主は,妊娠・出産等に関するハラスメント(いわゆる「マタニティ・ハラスメント」(略称は「マタハラ」です。)です。)の防止措置義務を負うことになりましたから,事業主としては,例えば,セクハラに関する相談窓口を設置する必要があります。
イ THE STAR社会保険労務士法人HP「平成29年1月男女雇用機会均等法改正!マタハラ防止対策が義務化」(2016年9月16日付)が載っています。
(4)ア 令和2年6月1日以降,パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)に基づき,パワハラ防止について事業主の責任が強化されましたから,事業主としては,例えば,パワハラに関する相談窓口を設置する必要があります。
イ ツギノジダイHP「パワハラ防止法への具体的対応とは 中小企業は2022年4月から義務化」が載っています。

7 セクハラ等に関する判例
(1) 最高裁平成27年2月26日判決は, 職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例です。
(2) 最高裁令和4年6月14日判決は,地方公共団体の職員が暴行等を理由とする懲戒処分の停職期間中に同僚等に対して行った同処分に関する働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。
(3)  最高裁令和4年9月13日判決は,部下への暴行等を繰り返す行為をした地方公共団体の職員が地方公務員法28条1項3号に該当するとしてされた分限免職処分が違法であるとした原審の判断に違法があるとされた事例です。


8 妊娠・出産等を理由とした不利益取扱いの禁止 
(1) 昭和61年4月1日以降,婚姻・妊娠・出産を理由として女性労働者を解雇することができなくなりました。
(2)ア 平成19年4月1日以降,婚姻・妊娠・出産を理由として女性労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをすることができなくなりました。
イ  最高裁平成26年10月23日判決は,女性労働者につき妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置の,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いの該当性について判断した事例です。
(3) 女性にやさしい職場づくりナビ「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」が載っています。


9 女性労働者に対する積極的差別解消措置
(1) 平成11月4月1日以降,「事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」という定めが追加されました(現在の男女雇用機会均等法8条(女性労働者についての措置に関する特例)です。)。
(2) 労務安全情報センターHP「「改正男女雇用機会均等法・改正労基法」解説とQ&A」には以下の記載があります。
    女性は細かい作業に向いている、女性特有の感性があるなどの先入観に基づき、一定の職務・職種について女性のみを募集・採用することは、かえって、女性の職域を限定したり、女性と男性の仕事を分離してしまうという弊害をもたらすものです。
    このように、一定の職種・職務について女性のみを募集、配置する等、女性のみを対象として又は女性を有利に取り扱うものとして実施される措置の中には、女性の職域の固定化や男女の職務分離をもたらすという弊害が認められるものがあります。
    そのー方で、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置の中には、女性の能力発揮を促進し、男女の均等な機会及び待遇を実質的に確保するために望ましい措置もあります。
    今回の改正においては、「女性のみ」又は「女性優遇」の措置は、男女の均等な機会及び待遇を実質的に確保することを目的とした措置については、法に違反しない旨を明記するとともに、それ以外の措置については、女性に対する差別として禁止することとしました。
(3) 女性労働者の募集及び採用に関する優遇措置のうち,以下の取扱いは男女雇用機会均等法5条及び6条に違反しません(厚生労働省HPの「男女雇用機会均等法のあらまし」(令和4年10月)24頁及び25頁参照)。
女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない雇用管理区分*1における募集又は採用や、女性労働者が男性労働者と比較して相当程度少ない*2役職についての募集又は採用に当たって、情報の提供について女性に有利な取扱いをすること、採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用することその他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること。
*1 「雇用管理区分」とは職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者についての区分であって、当該区分に属している労働者と他の区分に属している労働者と異なる雇用管理を行うことを予定しているものをいいます。
(中略)

*2 「相当程度少ない」とは、日本の全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいいます。4割を下回っているかについては、雇用管理区分ごとに判断するものです。


10 国際婦人年
・ 1975年6月から7月にメキシコシティで国連が開催した国際婦人年世界会議では,国際婦人年の目標達成のためにその後10年にわたり国内,国際両面における行動への指針を与える「世界行動計画」が採択されました(内閣府男女共同参画局HPの「第2章 国際婦人年(昭和50年)から平成元年まで」参照)。

11 女子差別撤廃条約
・ 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(略称は「女子差別撤廃条約」です。)は1979年12月18日に国連総会で採択され,1981年9月3日に発効し,1985年7月25日に我が国について発効しました(内閣府男女共同参画局HPの「女子差別撤廃条約」参照)。

12 関連記事その他
(1) おかんの給湯室HP「男女雇用機会均等法とは?差別となる取り扱いや措置について解説」(2022年7月14日付)に「男女雇用機会均等法の改正の流れ」等が載っています。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 労働基準法に関するメモ書き

刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)

目次
第1 刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)
第2 関連記事その他

* 「刑事の再審事件」も参照してください。

第1 刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)
* 弁護側に有利な判断は赤文字表記とし,無罪判決は太字下線表記にしています。

令和8年

2月24日,日野町事件第2次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。

令和7年

7月18日,福井女子中学生殺人事件第2次再審請求において,名古屋高裁金沢支部が無罪判決を出した。
3月21日,鶴見事件第3次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
2月25日,大崎事件第4次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。

令和6年

10月23日,福井女子中学生殺人事件第2次再審請求において,名古屋高裁金沢支部が再審開始決定を出した。
9月26日,袴田事件において,静岡地裁が無罪判決を出した。

5月31日,鶴見事件第3次再審請求において,東京高裁が即時抗告棄却決定を出した。
1月29日,名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。

令和5年

11月7日,鶴見事件第3次再審請求において,横浜地裁が再審請求棄却決定を出した。
6月5日,大崎事件第4次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が即時抗告棄却決定を出した。
3月13日,袴田事件第2次再審請求において,差戻審としての東京高裁が再審開始決定を出した。
2月27日,日野町事件第2次再審請求において,大阪高裁が再審開始決定を出した。

令和4年

12月12日,小石川事件再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
10月14日,福井女子中学生殺人事件第2次再審請求が出された。
6月22日,大崎事件第4次再審請求において,鹿児島地裁が再審請求棄却決定を出した。
4月7日,小石川事件再審請求において,東京高裁が即時抗告棄却決定を出した。
3月30日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月3日,名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。

令和3年

11月11日,鶴見事件第2次再審請求が請求人死亡により終了した。
6月30日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,大阪高裁が即時抗告棄却決定を出した。
4月12日,恵庭殺人事件第2次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
令和2年
12月22日,袴田事件第2次再審請求において,最高裁が破棄差戻決定を出した。
6月15日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,差戻審としての神戸地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月31日,湖東記念病院事件において,大津地裁が無罪判決を出した。
同日,小石川事件再審請求において,東京地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月30日,大崎事件第4次再審請求が出された。

平成31年→令和元年

11月5日,難波ビデオ店放火殺人事件第2次再審請求が出された。
7月17日,難波ビデオ店放火殺人事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
6月25日,大崎事件第3次再審請求において,最高裁が再審開始取消決定を出した。
3月28日,松橋事件において,熊本地裁が無罪判決を出した。
3月18日,湖東記念病院第2次再審請求において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
1月25日,豊川事件再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。

平成30年

10月10日,松橋事件において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
10月9日,難波ビデオ店放火殺人事件において,大阪高裁が即時抗告棄却決定を出した。
6月11日,袴田事件第2次再審請求において,東京高裁が再審開始取消決定を出した。
3月20日,恵庭殺人第2次再審請求において,札幌高裁が即時抗告棄却決定を出した。
3月12日,大崎事件第3次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が検察側の即時抗告棄却決定を出した。

平成29年

12月27日,鶴見事件第2次再審請求が出された。
12月20日,湖東記念病院第2次再審請求において,大阪高裁が再審開始決定を出した。
12月8日,名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
11月29日,松橋事件再審請求において,福岡高裁が検察側の即時抗告棄却決定を出した。
10月30日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
7月15日,豊川事件再審請求が出された。
6月28日,大崎事件第3次再審請求において,鹿児島地裁が再審開始決定を出した。
1月10日,恵庭殺人事件第2次再審請求が出された。

平成28年

8月10日,東住吉事件において,大阪高裁が無罪判決を出した。
6月30日,松橋事件再審請求において,熊本地裁が再審開始決定を出した。
6月13日,恵庭殺人第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月30日,難波ビデオ店放火殺人事件第1次再審請求において,大阪地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月15日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,大阪高裁が破棄差戻決定を出した。

平成27年

11月6日,名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求が出された。
10月23日,東住吉事件再審請求において,大阪高裁が検察側の即時抗告を棄却した。
10月15日,名張毒ぶどう酒事件第9次再審請求が請求人死亡により終了した。
9月30日,湖東記念病院第2次再審請求において,大津地裁が再審請求棄却決定を出した。
7月17日,恵庭殺人第1次再審請求において,札幌高裁が即時抗告棄却決定を出した。
7月8日,大崎事件第3次再審請求が出された。
6月24日,小石川事件再審請求が出された。
5月15日,名張毒ぶどう酒事件第9次再審請求が出された。
2月2日,大崎事件第2次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
1月9日,名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求において,名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。

平成26年

12月10日,福井女子中学生殺人事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
7月15日,大崎事件第2次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が検察側の即時抗告棄却決定を出した。
5月28日,名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
同日,難波ビデオ店放火殺人事件において第1次再審請求が出された。
4月21日,恵庭殺人事件第1次再審請求において,札幌地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月28日,姫路郵便局強盗事件再審請求において,神戸地裁姫路市部が再審請求棄却決定を出した。
3月27日,袴田事件第2次再審請求において,静岡地裁が再審開始決定のほか,死刑及び拘置の執行停止決定を出した。

平成25年

11月5日,名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求が出された。
10月16日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
7月16日,マルヨ無線事件第7次再審請求が出された。
6月26日,マルヨ無線事件第6次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月6日,大崎事件第2次再審請求において,鹿児島地裁が再審請求棄却決定を出した。
同日,福井女子中学生第1次再審請求において,名古屋高裁が再審開始取消決定を出した。

平成24年

11月7日,東電OL殺人事件において,東京高裁が無罪判決を出した。
10月5日,恵庭殺人事件第1次再審請求が出された。
9月28日,湖東記念病院第2次再審請求が出された。
7月31日,東電OL殺人事件再審請求において,異議審としての東京高裁が検察側の異議申立棄却決定を出した。
6月7日,東電OL殺人事件再審請求において,東京高裁が再審開始決定を出した。
5月25日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
5月23日,湖東記念病院第1次再審請求において,大阪高裁が即時抗告棄却決定を出した。
4月13日,鶴見事件第1次再審請求において,横浜地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月30日,日野町事件第2次再審請求が出された。
3月29日,マルヨ無線事件第6次再審請求において,福岡高裁が即時抗告棄却決定を出した。
3月12日,松橋事件再審請求が出された。
3月7日,東住吉事件再審請求において,大阪地裁が再審開始決定を出した。
3月2日,姫路郵便局強盗事件再審請求が出された。

平成23年

11月30日,福井女子中学生殺人事件第1次再審請求において,名古屋高裁金沢支部が再審開始決定を出した。
8月24日,湖東記念病院第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
5月24日,布川事件において,水戸地裁土浦支部が無罪判決を出した。
3月30日,湖東記念病院第1次再審請求において,大津地裁が再審請求棄却決定を出した。

平成22年

9月21日,湖東記念病院事件第1次再審請求が出された。
8月30日,大崎事件第2次再審請求が出された。
3月26日,足利事件において,宇都宮地裁が無罪判決を出した。

平成21年

12月14日,布川事件第2次再審請求において,最高裁が検察側の特別抗告棄却決定を出した。
8月7日,東住吉事件の女性被告人から再審請求が出された。
7月7日,東住吉事件の男性被告人から再審請求が出された。
6月23日,足利事件再審請求において,東京高裁が再審開始決定を出した。

平成20年

7月14日,布川事件第2次再審請求において,東京高裁が検察側の即時抗告棄却決定を出した。
4月25日,袴田事件第2次再審請求が出された。
4月5日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,最高裁が破棄差戻決定を出した。
3月26日,マルヨ無線事件第6次再審請求において,福岡地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月24日,袴田事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
2月13日,足利事件再審請求において,宇都宮地裁が再審請求棄却決定を出した。

平成18年

12月26日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が再審開始取消決定を出した。
4月16日,鶴見事件第1次再審請求が出された。
3月27日,日野町事件第1次再審請求において,大津地裁が再審請求棄却決定を出した。
1月30日,大崎事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。

平成17年

9月21日,布川事件第2次再審請求において,水戸地裁土浦支部が再審開始決定を出した。
4月5日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求において,名古屋高裁が再審開始決定を出した。
3月24日,東電OL殺人事件再審請求が出された。

平成16年

12月9日,大崎事件第1次再審請求において,福岡高裁宮崎支部が再審開始取消決定を出した。
8月26日,袴田事件第1次再審請求において,東京高裁が即時抗告棄却決定を出した。
7月15日,福井女子中学生殺人事件第1次再審請求が出された。

平成14年

12月25日,足利事件再審請求が出された。
4月10日,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求が出された。
4月8日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
3月26日,大崎事件第1次再審請求において,鹿児島地裁が再審開始決定を出した。

平成13年

12月6日,布川事件第2次再審請求が出された。
11月27日,日野町事件第1次再審請求が出された。

平成11年

9月10日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。

平成10年

10月30日,マルヨ無線事件第6次再審請求が出された。
10月27日,マルヨ無線事件第5次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。
10月8日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。

平成9年

1月30日,名張毒ぶどう酒事件第6次再審請求が出された。
1月28日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。

平成7年

4月19日,大崎事件第1次再審請求が出された。
3月28日,マルヨ無線事件第5次再審請求において,福岡高裁が即時抗告棄却決定を出した。

平成6年

8月9日,袴田事件第1次再審請求において,静岡地裁が再審請求棄却決定を出した。
3月22日,榎井村事件において,高松高裁が無罪判決を出した。

平成5年

11月1日,榎井村事件再審請求において,高松高裁が再審開始決定を出した。
3月31日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求において,異議審としての名古屋高裁が異議申立棄却決定を出した。

平成4年

9月9日,布川事件第1次再審請求において,最高裁が特別抗告棄却決定を出した。

平成2年

3月19日,榎井村事件再審請求が出された。

昭和63年

12月14日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求において,名古屋高裁が再審請求棄却決定を出した。
10月5日,マルヨ無線事件第5次再審請求において,福岡地裁が再審請求棄却決定を出した。
2月22日,布川事件第1次再審請求において,東京高裁が即時抗告棄却決定を出した。

昭和62年

3月31日,布川事件第1次再審請求において,水戸地裁土浦支部が再審請求棄却決定を出した。

昭和58年

12月23日,布川事件第1次再審請求が出された。

昭和56年

4月20日,袴田事件第1次再審請求が出された。

昭和54年

2月1日,マルヨ無線事件第5次再審請求が出された。

昭和52年

5月18日,名張毒ぶどう酒事件第5次再審請求が出された。


第2 関連記事その他
1 えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議(2019年10月4日付)には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    1970年代から1980年代にかけては、「死刑再審4事件」で相次いで再審無罪判決が出たことによって、市民の関心が高まった時期もあった。
    しかし、その後の検察による激しい抵抗と裁判所の姿勢の後退によって、「再審冬の時代」、「逆流現象」などと言われるように、再審をめぐる状況は非常に厳しくなり、1990年代、当連合会の支援事件で再審が開始されたのは、榎井村事件(1993年(平成5年)11月に再審開始決定、1994年(平成6年)3月に再審無罪判決)のわずか1件にとどまった。
2 以下の記事も参照してください。
・ 刑事の再審事件
・ 刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て
・ 司法研修所刑事裁判教官の名簿

高井吉夫裁判官(9期)の経歴

生年月日 S1.12.28
出身大学 早稲田大
退官時の年齢 47 歳
S49.4.10 依願退官
S46.4.10 ~ S49.4.9 東京家裁判事
S42.4.6 ~ S46.4.9 静岡地家裁判事
S40.4.1 ~ S42.4.5 静岡地家裁判事補
S37.4.10 ~ S40.3.31 宮崎家地裁判事補
S34.4.16 ~ S37.4.9 東京家地裁判事補
S33.6.10 ~ S34.4.15 福島地家裁郡山支部判事補
S32.4.6 ~ S33.6.9 仙台家地裁判事補

*1 以下の記事も参照してください。
・ 刑事の再審事件
*2の1 袴田事件(昭和41年6月30日未明,静岡県清水市で発生した,味噌製造・販売会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人・放火事件)に関して,静岡地裁昭和43年9月11日判決(担当裁判官は石見勝四,9期の高井吉夫及び15期の熊本典道)は死刑判決であり,東京高裁昭和51年5月18日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和55年11月19日判決は上告棄却判決でした。
*2の2 Wikipediaの「熊本典道」には「2007年(平成19年)に袴田事件の第一審で死刑判決を出した他2人の裁判官が死亡したことを確認後、同年3月9日に衆議院議員会館で行われた「死刑廃止を推進する議員連盟」の院内集会に参加し、元担当判事として袴田巌の無実を訴える。」とか,「2018年(平成30年)1月9日、熊本が入院中の病院において、地裁の法廷以来約50年ぶりに袴田巌と対面する。」と書いてあります。
*2の3 袴田事件に関して,差戻審としての東京高裁令和5年3月13日決定(裁判長は38期の大善文男)は再審開始決定となりました(NHK静岡放送局HPの「【詳報】袴田事件 再審開始決定! 東京高裁」(2023年3月13日付)参照)ところ,同決定では証拠捏造の可能性にまで言及しています。


熊本典道裁判官(15期)の経歴

生年月日 S12.10.30
出身大学 九州大
退官時の年齢 31 歳
S44.4.10 依願退官
S41.12.8 ~ S44.4.9 静岡地家裁判事補
S41.4.20 ~ S41.12.7 福島地家裁白河支部判事補
S38.4.9 ~ S41.4.19 東京地家裁判事補

*1 以下の記事も参照してください。
・ 刑事の再審事件
・ 判事補時代に退官した元裁判官507人の名簿(昭和時代及び平成時代)
*2の1 袴田事件(昭和41年6月30日未明,静岡県清水市で発生した,味噌製造・販売会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人・放火事件)に関して,静岡地裁昭和43年9月11日判決(担当裁判官は石見勝四,9期の高井吉夫及び15期の熊本典道)は死刑判決であり,東京高裁昭和51年5月18日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和55年11月19日判決は上告棄却判決でした。
*2の2 刑事弁護OASIS「袴田事件で「無罪を主張した」裁判官、熊本典道さんが逝去」(2020年12月9日公開)には以下の記載があります。
 袴田さんは逮捕から起訴まで1日平均12時間、最長で16時間超もの取調べを受けており、自白の任意性に疑問を持った。刃渡り13㎝ほどの小刀だけで、しかも単独で、4人を殺害できるのか。これだけの事件を起こす動機があったのか。逃走経路とされる裏木戸は留め金がかかっていたのに通れたのか──。精査するほどに疑念は募り、3人の裁判官による合議で熊本さんは「無罪」を主張した。
 しかし、他の2人は有罪を唱え、説得を試みたものの実らず、判決は「死刑」に決まる。その理由として、熊本さんは「マスコミの犯人視報道の影響」を挙げていた。
*2の3 Wikipediaの「熊本典道」には「2007年(平成19年)に袴田事件の第一審で死刑判決を出した他2人の裁判官が死亡したことを確認後、同年3月9日に衆議院議員会館で行われた「死刑廃止を推進する議員連盟」の院内集会に参加し、元担当判事として袴田巌の無実を訴える。」とか,「2018年(平成30年)1月9日、熊本が入院中の病院において、地裁の法廷以来約50年ぶりに袴田巌と対面する。」と書いてあります。
*2の4 袴田事件に関して,差戻審としての東京高裁令和5年3月13日決定(裁判長は38期の大善文男)は再審開始決定となりました(NHK静岡放送局HPの「【詳報】袴田事件 再審開始決定! 東京高裁」(2023年3月13日付)参照)ところ,同決定では証拠捏造の可能性にまで言及しています。


在日外国人への社会保障法令の適用

目次
1 昭和57年1月1日以降,在日外国人も国民年金に加入できるようになったこと
2 昭和56年の国民年金法改正当時の国会答弁
3 外国人と生活保護法
4 関連記事その他

1 昭和57年1月1日以降,在日外国人も国民年金に加入できるようになったこと
(1) 昭和36年4月1日にスタートした国民年金制度には当初,日本国民だけを対象とするという国籍条項(国民年金法7条1項)がありました(ただし,軍人を除く在日アメリカ人は日米友好通商航海条約(昭和28年4月2日署名)3条に基づき,例外的に国民年金制度に任意加入できました。)。
 しかし,難民条約(1951年7月28日署名。1951年1月1日以前の原因に基づく難民を対象とした条約。)及び難民議定書(1967年1月31日署名。難民条約の適用対象を1951年1月1日以後の原因に基づく難民に拡大したもの。)に日本国が加入するに際して,難民条約24条1項は,難民に対し,社会保障に関して自国民に与える待遇と同一の待遇を与えることを定めていましたから,国籍条項の維持は難民条約及び難民議定書に抵触することとなりました。
 そのため,日本政府は,①難民条約24条1項等について留保するか,②社会保障法令を難民についてだけ適用できるように改正するか,又は③社会保障法令を外国人全般に適用できるように改正するかといった選択が検討した結果,社会保障法令を外国人全般に適用できるように改正することとなりました。
  その結果,昭和57年1月1日以降,在日外国人も国民年金に加入できるようになったものの,無年金状態を解消するための経過措置等は定められませんでした。
(2) 難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律(昭和56年6月12日法律第86合)2条ないし5条によって改正された社会保障法令は,国民年金法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法及び児童手当法です。
(3)ア 国民年金制度が開始した昭和34年11月1日以前に後遺障害の症状が固定した在日外国人に対して障害福祉年金(昭和61年4月1日以降の,20歳前の傷病による障害基礎年金に相当するもの)を支給しないことは憲法25条及び14条1項に違反しません(第一次塩見訴訟に関する最高裁平成元年3月2日判決)。
イ 難民条約及び難民議定書が日本国について発効した昭和57年1月1日以降も,昭和34年11月1日以前に後遺障害の症状が固定した在日外国人に対して障害福祉年金を支給しないことは憲法25条及び14条1項に違反しません(第二次塩見訴訟に関する最高裁平成13年3月13日判決(判例秘書に掲載))。

2 昭和56年の国民年金法改正当時の国会答弁
(1) 村山達雄厚生大臣は,昭和56年5月27日の法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会において以下の答弁をしています(ナンバリング及び改行を追加しています。)。
① 今回の条約の加盟に伴う内外人平等、具体的には国籍要件の撤廃ということに伴ういま御指摘のような制度についての厚生行政の基本的な考え方でございますが、これはやはり、今度の加入に伴いまして外国人についても適用範囲を拡大するという考え方に立っているわけでございます。もう一つは、日本人と平等の取り扱いをする、こういう趣旨でございまして、まさにその限りにおきましては、今度の提案は十分なる条件を満たしておると私は考えております。
 ただ、おっしゃるように、制度創設当時、たとえば国民年金につきまして強制的な経過措置を設けたじゃないか、これは制度発足のときでございますから、二十五年間掛けなくちゃならぬという基本法がございます。二十五年掛けられない者はどうするんだ、こういう問題は基本的にあるわけでございますから、これはやむを得ざる措置といたしまして、それは経過年金を設けたわけでございます。これはいつの場合でも、制度をつくるときには、その基本的な要件、それからそれを満たされない人たちについて経過措置も設けることは当然であろうと思うのでございます。
 今度の場合は、内外国籍要件撤廃によって加入者がふえるということでございます。ですから、経過年金を設くべし、こういうようなことになりますれば、これは永久に続くわけでございます。どんどん入ってくる、これが一つの問題点でございましょう。
② それから、今度はもし外国に長くおった日本人がやってきた。これは日本人は適用にならないわけですね、御承知のように。
 そうなれば外国人だけ適用するのか。これはやはり内外の差別撤廃という趣旨から見るとおかしい。
③ それからまた、第三番目には、やはり保険会計でございますから、当然保険数理に立ちまして年金計算をしているわけでございます。通常でございますと、二十五年掛ける者を基本にいたしまして、保険数理に基づいて、そして負担と給付の関係が整合性を持っているわけでございます。
 したがって、そうでない者について年金を設けるということ、これは定額にいたしまして、やはり何といっても国庫の三分の一の補助という問題等がございまして、やはり保険数理の上からいって保険財政は相当苦しいものになるんじゃないか。
④ まあ、いろいろな点がございまして、私は、これは今度の措置によりまして、内外人を平等という原則のもとに適用範囲を拡大するんだ、また、それで難民条約で定めている趣旨は達成できる、かように考えているわけでございます。

(2) 大和田潔厚生省保険局長は,昭和56年5月27日の法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会において以下の答弁をしています。
  国民健康保険でございますが、御承知のように、国民健康保険につきましては市町村が条例でもって外国人の適用を行う。その前に、日韓協定によりますところの永住許可を受けた者につきましても強制適用であるということは御承知のとおりでございますが、こういった市町村の条例、これは財政事情その他の問題もございます、まだ適用していないところもあるわけでございますが、これにつきましては行政指導を強化いたしまして、外国人にすべて適用できるような方向で強化をしてまいる、こういうふうに考えているわけでございます。

3 外国人と生活保護法
(1) 最高裁平成26年7月18日判決(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています(ナンバリングを①,②,③に変えています。)。
① 前記2(2)アのとおり,旧生活保護法は,その適用の対象につき「国民」であるか否かを区別していなかったのに対し,現行の生活保護法は,1条及び2条において,その適用の対象につき「国民」と定めたものであり,このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって,外国人はこれに含まれないものと解される。
 そして,現行の生活保護法が制定された後,現在に至るまでの間,同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず,同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。
 したがって,生活保護法を始めとする現行法令上,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。
② また,本件通知は行政庁の通達であり,それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても,そのことによって,生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく,生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく,前記2(3)の我が国が難民条約等に加入した際の経緯を勘案しても,本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。なお,本件通知は,その文言上も,生活に困窮する外国人に対し,生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に,それとは別に事実上の保護を行う行政措置として,当分の間,日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続により必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。
③ 以上によれば,外国人は,行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり,生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく,同法に基づく受給権を有しないものというべきである。
 そうすると,本件却下処分は,生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって,適法である。
(2) 最高裁平成26年7月18日判決(判例秘書に掲載)の「外国人に対する生活保護の措置」には,以下の記載が含まれています。
昭和29年5月8日,厚生省において,各都道府県知事に宛てて「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」と題する通知(昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知。以下「本件通知」という。)が発出され,以後,本件通知に基づいて外国人に対する生活保護の措置が行われている。
 本件通知は,外国人は生活保護法の適用対象とはならないとしつつ,当分の間,生活に困窮する外国人に対しては日本国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うものとし,その手続については,当該外国人が要保護状態にあると認められる場合の保護実施機関から都道府県知事への報告,当該外国人がその属する国の代表部等から必要な保護等を受けることができないことの都道府県知事による確認等を除けば,日本国民と同様の手続によるものとしている。
 平成2年10月,厚生省において,本件通知に基づく生活保護の対象となる外国人の範囲について,本来最低生活保障と自立助長を趣旨とする生活保護が予定する対象者は自立可能な者でなければならないという見地からは外国人のうち永住的外国人のみが生活保護の措置の対象となるべきであるとして,出入国管理及び難民認定法別表第2記載の外国人(以下「永住的外国人」という。)に限定する旨の取扱いの方針が示された。
(3) 山下眞臣 厚生省社会局長は,昭和56年5月27日の法務委員会外務委員会社会労働委員会連合審査会において以下の答弁をしています。
① 生活保護につきましては、昭和二十五年の制度発足以来、実質的に内外人同じ取り扱いで生活保護を実施いたしてきているわけでございます。去る国際人権規約、今回の難民条約、これにつきましても行政措置、予算上内国民と同様の待遇をいたしてきておるということで、条約批准に全く支障がないというふうに考えておる次第でございます。
② 難民条約で、難民の方に対しましても日本国民と同じ待遇を与えるようにと書いてあるわけでございますが、それはその形がどうであれ、実質が同じ取り扱いをしておれば差し支えないという解釈であることは先ほど申し上げたとおりでございます。
 生活保護法につきまして今回なぜ法律改正を行わなかったかということでございますが、一つには、国民年金等につきましては給付するだけではございませんで、どうしても拠出を求めるとか、そういった法律上の拠出、徴収というようなことにどうしても法律が必要だろうと思うのでございますが、生活保護で行っております実質の行政は、やはり一方的給付でございまして、必ずしもそういう法律を要しないでやれる措置であるということが一つの内容になるわけでございます。
③ ただ、改正してもよろしいではないかという御議論もあろうかと思うのでございます。その辺につきましては十分検討いたさなければならぬと思うわけでございますが、いろいろむずかしい問題がございます。
 たとえば出入国管理令でございますか、今度は法で、出入国の拒否事由といたしまして貧困者等国、地方公共団体の負担になる者、これにつきましては入国を拒否することができるという規定があるわけでございまして、そういった規定との関連を、この生活保護を法律上のものとして改正する場合にどう調整していくかというような問題等もございます。あるいは生活保護につきましては国民無差別平等にやるわけでございますが、補足性の原理というのが強くあるわけでございますが、そういった外国人の方の親族扶養の問題等をどう解決していくか等々非常に詰めなければならぬ問題が多うございますので、今回は、とにかくこういった条約の批准には何ら支障がないし、実質的には同じ保護をいたしておるのであるからこれによって御了解をいただきたい、かように考えているわけでございます。
(4) 地方自治研究機構(RILG)HP「平成25年改正前の生活保護法第78条に基づく徴収額の算定に当たって基礎控除相当額を控除しないことが違法であるとはいえない」には以下の記載があります。
    外国人に対する生活保護は、「行政庁の通達等に基づく行政措置」として実施されているものであり、本来の意味での生活保護法の「準用」によって実施されているものではないのであるから、法第78条を準用する形で徴収額の決定を行ったとしても、本来の行政処分としての効力を有するものではないと言わざるを得ないことになる。


4 関連記事その他

(1) 大正15年(1926年)4月1日以前に生まれた人の場合,1986年4月1日時点で60歳を超えていましたし,カラ期間(合算対象期間)が認められませんでしたから,被用者年金の受給権がある人を除いて公的年金をもらえません。
 ただし,自治体によっては高齢者給付金を支給しているところがあります(例えば,大正15年4月1日以前に生まれた人を対象としている大阪市HPの「在日外国人高齢者給付金」参照)。
(2) 日韓法的地位協定4条(a)に基づき,日本国政府は,協定永住者となる在日韓国人に対する教育,生活保護及び国民健康保険に関する事項について妥当な考慮を払うものとされていましたが,同協定には,国民年金に関する定めはありませんでした。
(3)ア 出入国在留管理庁HPに「「難民該当性判断の手引」の策定について」(令和5年3月24日付の報道発表資料)が載っています。
イ 以下のHPが参考になります。
・ 国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)HP「社会保障法判例」
・ 立木茂雄研究室HP「第三節 在日韓国・朝鮮人と公的年金制度」
・ 外国人HR Lab.「外国人の社会保険のまとめ」
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 外国人登録法の廃止に伴い回収された外国人登録原票に係る開示請求手続について(平成23年12月13日付の法務省入国管理局登録管理官の事務連絡)
・ 外国人登録法の廃止に伴い回収された外国人登録原票に係る開示請求手続について(平成24年3月21日付の日弁連事務総長の依頼)
・ 弁護士法23条の2の規定に基づく外国人登録原票の照会への対応について(平成24年7月30日付の法務省入国管理局出入国管理情報官付補佐官の事務連絡)
イ 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の国籍条項に関する経緯

刑事の再審事件

目次
第1部 未確定の再審事件(日弁連支援事件に限る。)
第1 日弁連支援の再審事件
1 再審事件に日弁連が支援するかどうかの基準
2 再審事件に対する日弁連の支援の内容
第2 再審開始決定が確定し,再審公判開始待ちの事件
1 日野町事件(最初の再審開始決定は平成30年7月11日,直近の決定は令和5年2月27日)
第3 再審開始決定が出たものの,特別抗告中の事件
(令和8年3月1日現在なし。)
第4 再審開始決定が出たことがあるものの,その後に取り消されたため,改めて再審請求をしている事件(事件発生順)
1 大崎事件(最初の再審開始決定は平成14年3月26日。再審開始決定は3回)
2 名張毒ぶどう酒事件(唯一の再審開始決定は平成17年4月5日)
3 福井女子中学生殺人事件(唯一の再審開始決定は平成23年11月30日)
第5 再審開始決定が出たことがない事件(事件発生順)
1 マルヨ無線事件
2 鶴見事件
3 恵庭殺人事件
4 姫路郵便局強盗事件
5 豊川事件
6 小石川事件
7 難波ビデオ店放火殺人事件
第2部 日弁連支援事件で再審無罪が確定した事件
第1 個別の事件(免田事件以降の日弁連支援事件であり,無罪判決の年月日順)
1 免田事件(昭和58年7月15日無罪判決)
2 財田川事件(昭和59年3月12日無罪判決)
3 松山事件(昭和59年7月11日無罪判決)
4 徳島ラジオ商殺し事件(昭和60年7月9日判決無罪判決)
5 梅田事件(昭和61年8月27日無罪判決)
6 島田事件(平成元年1月31日無罪判決)
7 榎井村事件(平成6年3月22日無罪判決)
8 足利事件(平成22年3月26日無罪判決)
9 布川事件(平成23年5月24日無罪判決)
10 東電OL殺人事件(平成24年11月7日無罪判決)
11 東住吉事件(平成28年8月10日無罪判決)
12 松橋事件(平成31年3月28日無罪判決)
13 湖東記念病院事件(令和2年3月31日無罪判決)
14 袴田事件(令和6年9月26日無罪判決)
第2 日弁連支援の再審無罪が確定した事件又は再審開始が確定した事件において,有罪方向の判断をした下級裁判所の裁判官
第3部 日弁連支援事件以外の再審事件
1 氷見事件(検察官の再審請求に基づき,平成19年10月10日無罪判決)
第2 再審無罪となった再審事件(事件発生日順)
1 暴力団組長覚醒剤密輸偽証事件(平成13年7月17日無罪判決)
2 ロシア人おとり捜査事件(平成29年3月7日無罪判決)
3 大阪市強姦虚偽証言再審事件(平成25年10月16日無罪判決)
第3 再審で免訴となった横浜事件
第4 有罪の判断が維持されている再審事件(事件発生日順)
1 三鷹事件
2 菊池事件
3 砂川事件
4 狭山事件
5 日産サニー事件(平成4年3月23日決定に再審開始決定が出たものの,その後に取り消された。)
6 飯塚事件(平成20年10月28日死刑執行)
7 和歌山毒物カレー事件
8 北陵クリニック事件
9 美濃加茂市長汚職事件
第4部 再審請求等に関する最高裁判例
第1 再審請求に関するもの
1 刑訴法435条6号の一般論に関する最高裁判例
2 再審事由の存否等の判断資料
3 前審に関与した裁判官の取扱い
4 再審請求事件の手続終了宣言
5 再審の審判手続は再審が開始した理由に拘束されないこと
6 その他の最高裁判例
第2 国家賠償請求に関するもの
1 司法警察員による留置の違法性
2 検察官による公訴の提起及び追行の違法性
3 裁判の違法性
4 公務員個人の責任は追及できないこと
第5部 関連記事その他
第1 日弁連HPの掲載資料
第2 再審に関する下級裁判所の決定を破棄した最高裁決定
第3 再審冬の時代
第4 再審請求で世論をあおるような行為は慎むべきとされていること
第5 再審事件の不服申立ての期限
第6 少年事件の再審制度
第7 民事事件の再審の請求期限
第8 関連記事その他メモ書き

*1 「刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)」も参照してください。
*2 私は,面識のない方からの刑事の再審事件のご依頼は一切取り扱っていません。

第1部 未確定の再審事件(日弁連支援事件に限る。)
第1 日弁連支援の再審事件
1 再審事件に日弁連が支援するかどうかの基準
(1) 「弁護士白書2022」「日弁連が支援している再審事件」には以下の記載があります。
    いわゆるえん罪は、基本的人権を踏みにじる最たるものである。日弁連人権擁護委員会は、次の3点を総合的に考慮して、人権侵犯事件として取り扱うか否かの判断を行っている。
(1)有罪の言渡をした確定判決又は控訴若しくは上告を棄却した確定判決が誤判である可能性
(2)再審請求に必要とされる新証拠が発見される可能性
(3)当該刑事事件の内容、性質、社会的影響等に照らし、本会が当該刑事事件の再審支援を行う必要性の程度及び相当性
    上記に基づき、再審の支援が決定された場合、同委員会内に当該事件の再審事件委員会が設置され、弁護人を派遣したり必要な費用の援助を行ったりするなどして、再審弁護活動を支援していくこととなる
(2) Wikipediaの「日本弁護士連合会が支援する再審事件」には「日本弁護士連合会が支援する再審事件が、冤罪ではなく確定判決の内容通り有罪だったと社会的に認知される形で支援を取り下げた例は一度もない。 」と書いてあります。
2 再審事件に対する日弁連の支援の内容
・ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾101頁には「(3) 支援の内容」として以下の記載があります。
    再審請求の支援が決定されると,日弁連人権擁護委員会内に当該事件の再審事件委員会が設置される。再審事件委員会の構成としては,日弁連から当該事件の再審請求弁護人として派遣される弁護士が委員に選任されるほか,すでに当該事件の弁護団が編成されている場合は,その弁護団からも数人の弁護人が委員に選任され,これらの委員は当該事件の弁護人として再審請求の弁護活動に当たることになる。
    そして,再審事件委員会が設置されると,日弁連職員が担当事務局として配置され,記録の管理・謄写等の事務手続を担うことになる。また,再審事件委員会の会議費や委員の旅費のほか,再審開始・再審無罪を獲得するために必要な鑑定・実験等の費用の援助を日弁連から受けることができる。ただし,後者については,人権擁護委員会第1部会(再審部会)及び同常任委員会の承認が必要である。
    日弁連が当該事件には誤判の疑いがあると認定し,その再審請求の支援を決定することは,当該事件の当事者や支援者,そして弁護人にとって大きな励みになり,社会的には当該事件の再審開始・再審無罪獲得のための大きな原動力になっている。
    なお,日弁連が支援する再審事件の弁護活動は無償で行われており,上記各支援についても日弁連が費用を負担している。他方,日弁連が支援した再審事件につき無罪判決が確定したときは,申立人(当該事件の再審請求人)の御厚意により,今後の日弁連の再審請求支援活動の費用として役立てるため,申立人に支給される刑事補償金や費用補償金の一部を人権特別基金に寄付していただいている。


第2 再審開始決定が確定し,再審公判開始待ちの事件
1 日野町事件(最初の再審開始決定は平成30年7月11日,直近の決定は令和5年2月27日)
(1) 日野町事件は,滋賀県日野町豊田で酒店を営む女性店主が,昭和59年12月28日夜から翌朝までの間に行方不明となり,昭和60年1月18日,日野町内の宅地造成地の草むらの中で死体が発見され,さらに,同年4月28日,同町内の山中で被害者所有の手提げ金庫が発見された,強盗殺人事件です。
(2) 昭和63年4月2日に起訴され,大津地裁平成7年6月30日判決(担当裁判官は19期の中川隆司39期の坪井祐子及び42期の片山憲一)は無期懲役判決であり,大阪高裁平成9年5月30日判決(裁判長は13期の田崎文夫)は控訴棄却判決であり,最高裁平成12年9月27日決定(裁判長は7期の千種秀夫)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成13年11月27日に大津地裁に第1次再審請求が出されて,大津地裁平成18年3月27日決定(裁判長は37期の長井秀典)は再審請求棄却決定であり,平成23年3月18日に再審請求人が死亡したため,同月30日に終了しました。
イ 37期の長井秀典は,令和2年6月12日付の人事異動の結果,大阪高裁の裁判長として,日野町事件に関する第二次再審請求を担当することとなりましたところ,この点については,「日野町事件」について公平な裁判所による審理を求める会長声明(令和2年6月25日付)等で批判された結果,同月26日,裁判長を外れました。
(4)ア 平成24年3月30日に大津地裁に第2次再審請求が出されて,大津地裁平成30年7月11日決定(担当裁判官は52期の今井輝幸57期の湯浅徳恵及び63期の加藤靖之)は再審開始決定を出し,大阪高裁令和5年2月27日決定(裁判長は39期の石川恭司)は検察側の即時抗告を棄却し,最高裁令和8年2月24日決定が検察側の特別抗告を棄却しました。
イ 日弁連HPに「「日野町事件」再審開始決定についての会長声明」(平成30年7月11日付)及び「「日野町事件」即時抗告棄却・再審開始維持決定についての会長声明」(令和5年2月27日付)が載っています。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾23頁ないし29頁に日野町事件が載っています。


第3 再審開始決定が出たものの,特別抗告中の事件

(令和8年3月1日現在,なし。)

第4 再審開始決定が出たことがあるものの,その後に取り消されたため,改めて再審請求をしている事件(事件発生順)
1 大崎事件(最初の再審開始決定は平成14年3月26日。再審開始決定は3回)
(1) 大崎事件は,昭和54年10月15日に鹿児島県曽於郡(そおぐん)大崎町の自宅併設の牛小屋堆肥置き場で,当時42歳で農業を営む家主の遺体が発見された殺人及び死体遺棄事件です。
(2) 鹿児島地裁昭和55年3月31日判決(裁判長は12期の朝岡智幸)は懲役10年の有罪判決であり,福岡高裁宮崎支部昭和55年10月14日判決(裁判長は9期の杉島廣利)は控訴棄却判決であり,最高裁昭和56年1月30日決定(裁判長は中村治朗)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成7年4月19日に第1次再審請求が出されて,鹿児島地裁平成14年3月26日決定(裁判長は32期の笹野明義)が再審開始決定を出し,福岡高裁宮崎支部平成16年12月9日決定(裁判長は24期の岡村稔)が検察官の即時抗告に基づき再審開始決定を取り消し,最高裁平成18年1月30日決定(裁判長は藤田宙靖)が特別抗告を棄却しました。
イ 日弁連HPに「会長談話(大崎事件再審開始決定の取消決定にあたって)」(平成16年12月10日付)が載っています。
(3) 平成22年8月30日に第2次再審請求が出されて,鹿児島地裁平成25年3月6日決定(裁判長は43期の中牟田博章)が再審請求を棄却し,福岡高裁宮崎支部平成26年7月15日決定(裁判長は30期の原田保孝)が弁護側の即時抗告を棄却し,最高裁平成27年2月2日決定(裁判長は21期の金築誠志)が特別抗告を棄却しました。
(4)ア 平成27年7月8日に第3次再審請求が出されて,鹿児島地裁平成29年6月28日決定(担当裁判官は47期の冨田敦史51期の山田直之及び57期の福田恵美子)が再審開始決定を出し,福岡高裁宮崎支部平成30年3月12日決定(担当裁判官は34期の根本渉56期の渡邉一昭及び57期の諸井明仁)が検察官の即時抗告を棄却したものの,最高裁令和元年6月25日決定(担当裁判官は29期の小池裕29期の池上政幸,29期の木澤克之,山口厚及び34期の深山卓也)が検察官の特別抗告に基づいて全員一致で再審開始決定を取り消しました。
イ 最高裁令和元年6月25日決定は,一,二審で認められた再審の開始を最高裁が覆した初のケースとされています(日弁連委員会ニュース2019年9月号所収の「日弁連人権ニュース81号」参照)。
    ただし,一審棄却で二審で認められた再審の開始を最高裁が覆したケースとしては,最高裁平成29年3月31日決定及び最高裁平成29年12月25日決定があります。
ウ 29期の池上政幸裁判官は,最高裁平成27年2月2日決定及び最高裁令和元年6月25日決定の両方に関与しました(西日本新聞HPの「大崎事件2次・3次最高裁決定 再審棄却 同じ判事関与 識者「公正中立さ欠く」」参照)。
エ 最高裁令和元年6月25日決定は,理由付けの結論として以下の判示をしています(改行を追加しています。)。
    以上の検討を踏まえると,O鑑定にM・N新鑑定を含むその余の新証拠を併せ考慮してみても,確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるに足りるものとはいえない。
したがって,O鑑定が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原決定の判断には刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があり,O鑑定及びM・N新鑑定がそのような証拠に当たるとした原々決定の判断にも同様の違法があるといわざるを得ず,これらの違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり,これらを取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。


(5)ア 令和2年3月30日に第4次再審請求が出されて,鹿児島地裁令和4年6月22日決定(判例秘書に掲載。担当裁判官は46期の中田幹人,60期の冨田環志及び新64期の此上恭平)は再審請求を棄却しましたから,令和4年6月27日に即時抗告の申立てがありました。
イ 日弁連HPに「「大崎事件」再審請求棄却決定に関する会長声明」(令和4年6月22日付)が載っています。
ウ 日弁連委員会ニュース2022年9月号2頁の「真実から目をそらす裁判所 大崎事件第四次再審請求を鹿児島地裁が棄却」には以下の記載があります。
    第四次請求では、救命救急医による医学鑑定で、四郎の頸椎前出血は転落事故で生じ、頸椎前出血に伴って生じた頸髄損傷をIとTの不適切な救護活動が一気に悪化させ、死亡時期を早めたと明らかにする「澤野鑑定」、また、1.T供述について、犯罪捜査で採用されるテキスト・マイニングを用いたコンピュータによる供述分析の「稲葉鑑定」、供述者の「物語」ではなく「言葉」に焦点を当てたスキーマ・アプローチによる供述心理分析の「大橋・高木鑑定」を揃えました。これらの医学鑑定と供述鑑定は、車の両輪として、四郎は自宅到昔時に死亡していた可能性が高く、生きている四郎を土間に運んだという1.T供述が信用できないことを明らかにし、アヤ子さんらによる犯行が成立しないことを明らかにする「大崎事件史上、最強の証拠」でした。
    対する検察側の反論は不十分と言わざるを得ないもので、鑑定人の法医学者は、頸椎前出血が転落事故以外で起きたとするために、絞殺時に頸部の過伸展が生じて頸椎前出血が生じたという、自験例はもとより、法医学界で報告されたこともない機序を示したのです。
     裁判所は、五名の証人尋問を実施し、高齢のアヤ子さんを慮り迅速に審理すると明言するなど、積極的な姿勢を見せました。勝利を確信した弁護団は、再審開始決定を前提とした準備を始めました。私を含む三名の若手弁護士が「再審開始決定」の旗出し役を任され、決定日に備えました。

エ 15期の木谷明 元裁判官は,判例時報2535号(2022年12月21日号)に「再審における「明白性」の考え方──大崎事件第4次再審請求棄却決定に接して」を寄稿しています。
オ 福岡高裁宮崎支部令和5年6月5日決定は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和7年2月25日決定は特別抗告棄却決定でした。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾20頁ないし23頁に大崎事件が載っています。


2 名張毒ぶどう酒事件(唯一の再審開始決定は平成17年4月5日)
(1) 名張毒ぶどう酒事件は,昭和36年3月28日の夜,三重県名張市葛尾の公民館で開かれた住民の懇親会において,ぶどう酒を飲んだ女性のうち,5名が死亡し,12名が入院した,殺人及び殺人未遂事件です。
(2) 津地裁昭和39年12月23日判決は無罪判決であり,名古屋高裁昭和44年9月10日判決は死刑判決であり,最高裁昭和47年6月15日判決は上告棄却判決でした。
(3) 昭和48年から昭和52年までの第1次ないし第4次再審請求は本人が行いました。
(4) 日弁連の支援を受けて昭和52年5月18日に第5次再審請求が出されて,名古屋高裁昭和63年12月14日決定(裁判長は3期の山本卓)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁平成5年3月31日決定(裁判長は12期の本吉邦夫)は異議申立て棄却決定であり,最高裁平成9年1月28日決定(裁判長は6期の大野正男)は特別抗告棄却決定でした。
(5) 平成9年1月30日に第6次再審請求が出されて,名古屋高裁平成10年10月8日決定(裁判長は12期の土川孝二)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁平成11年9月10日決定(裁判長は14期の笹本忠男)は異議申立て棄却決定であり,最高裁平成14年4月8日決定は特別抗告棄却決定(裁判長は13期の町田顕)でした。
(6)ア 平成14年4月10日に第7次再審請求が出されて,名古屋高裁平成17年4月5日決定(裁判長は19期の小出錞一)は再審開始決定を出し(13期の町田顕が最高裁判所長官をしていた時期です。),異議審としての名古屋高裁平成18年12月26日(裁判長は22期の門野博)は再審請求棄却決定を出し,最高裁平成22年4月5日決定(裁判長は19期の堀籠幸男)は原決定を取り消して事件を名古屋高裁に差し戻しました。
イ 差戻審としての名古屋高裁平成24年5月25日決定(裁判長は26期の下山保男)は再審請求を棄却し,最高裁平成25年10月16日決定は特別抗告を棄却しました。
(7) 平成25年11月5日,第8次再審請求が出されて,名古屋高裁平成26年5月28日決定(裁判長は30期の石山容示)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁平成27年1月9日決定(裁判長は29期の木口信之)は異議申立棄却決定であり,平成27年5月15日に特別抗告が取り下げられました。
(8) 平成27年5月15日,第9次再審請求が出されたものの,同年10月4日に再審請求人が死亡したため,同月15日に終了しました。
(9)ア 平成27年11月6日,第10次再審請求(死後再審)が出されて,名古屋高裁平成29年12月8日決定(裁判長は34期の山口裕之)は再審請求棄却決定であり,異議審としての名古屋高裁令和4年3月3日決定(裁判長は37期の鹿野伸二)は異議申立棄却決定であり,令和4年3月8日に特別抗告したものの,最高裁令和6年1月29日決定は特別抗告を棄却しました(裁判官宇賀克也の反対意見の反対意見が付いています。)。
イ 日弁連委員会ニュース2022年6月号1頁に「科学的証拠を無視した不当決定 名張毒ぶどう酒事件第10次再審請求 ただちに特別抗告申立て」が載っています。
(10)ア 日弁連HPに「名張毒ぶどう酒事件」が載っている他,「「名張毒ぶどう酒事件」第10次再審請求異議申立棄却決定に対する会長声明」(令和4年3月3日付)が載っています。
イ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾9頁ないし13頁に名張毒ぶどう酒事件が載っています。

第5 再審開始決定が出たことがない事件(事件発生順)
1 マルヨ無線事件
(1) マルヨ無線事件は,昭和41年12月5日にマルヨ無線株式会社で発生した強盗殺人事件及び現住建造物放火事件です。
(2) 福岡地裁昭和43年12月24日判決は死刑判決であり,福岡高裁昭和45年3月20日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和45年11月12日判決は上告棄却判決でした。
(3) 第1次ないし第4次再審請求は被告人本人が請求しました。
(4) 昭和54年2月1日に日弁連支援により第5次再審請求が出されて,福岡地裁昭和63年10月5日決定(裁判長は19期の小出錞一)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁平成7年3月28日決定(裁判長は12期の池田憲義)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成10年10月27日決定(裁判長は12期の金谷利廣)は特別抗告棄却決定でした。
(5) 平成10年10月30日に第6次再審請求が出されて,福岡地裁平成20年3月26日決定(裁判長は30期の林田宗一)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁平成24年3月29日決定(裁判長は28期の服部悟)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成25年6月26日決定(裁判長は26期の山浦善樹(元弁護士))は特別抗告棄却決定でした。
(6) 平成25年7月16日に第7次再審請求が出されました。
(7) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾16頁ないし19頁にマルヨ無線事件が載っています。

2 鶴見事件
(1) 鶴見事件は,昭和63年6月20日に横浜市鶴見区で発生した強盗殺人事件です。
(2) 横浜地裁平成7年9月7日判決(裁判長は17期の上田誠治)は死刑判決であり,東京高裁平成14年11月14日判決は控訴棄却判決(裁判長は20期の中西武夫)であり,最高裁平成18年3月28日判決は上告棄却判決(裁判長は19期の堀籠幸男)でした。
(3) 平成18年4月16日に第1次再審請求が出されて,横浜地裁平成24年4月13日決定(裁判長は32期の大島隆明)は再審請求棄却決定であり,平成29年8月25日に日弁連が支援決定をして,同年12月27日に第1次再審請求が取り下げられました。
(4) 平成29年12月27日,第2次再審請求が横浜地裁に出されたものの,令和3年11月11日,再審請求人の死亡により再審請求終了決定が出ました。
(5) 令和3年12月24日,第3次再審請求(死後再審)が出されて,横浜地裁令和5年11月7日決定(裁判長は45期の丹羽敏彦)は再審請求棄却決定であり,東京高裁令和6年5月31日決定(裁判長は42期の齊藤啓昭)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和7年3月21日決定は特別抗告棄却決定でした。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾32頁ないし35頁に鶴見事件が載っています。

3 恵庭殺人事件
(1) 恵庭殺人事件は,平成12年3月16日に北海道恵庭市で発生した殺人・死体損壊事件です。
(2) 札幌地裁平成15年3月31日判決(裁判長は32期の遠藤和正)は懲役16年の有罪判決であり,札幌高裁平成17年9月29日判決(裁判長は23期の長島孝太郎)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年9月25日決定(裁判長は16期の島田仁郎)は上告棄却決定でした。
(3) 平成24年10月5日に第1次再審請求が出されて,札幌地裁平成26年4月21日決定(裁判長は41期の加藤学)は再審請求棄却決定であり,札幌高裁平成27年7月17日決定(裁判長は33期の高橋徹)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成28年6月13日決定(裁判長は26期の山浦善樹(元弁護士))は特別抗告棄却決定でした。
(4) 平成29年1月10日に第2次再審請求が出されて,同年10月18日に日弁連が支援決定をして,札幌地裁平成30年3月20日決定(裁判長は47期の金子大作)は再審請求棄却決定であり,札幌高裁平成30年8月27日決定(裁判長は37期の登石郁朗)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和3年4月12日決定は特別抗告棄却決定でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾35頁ないし39頁に恵庭殺人事件が載っています。

4 姫路郵便局強盗事件
(1) 姫路郵便局強盗事件は,平成13年6月29日午後3時頃に兵庫県姫路市で発生した強盗事件です。
(2) 神戸地裁姫路支部平成16年1月9日判決(裁判長は43期の小倉哲治)は懲役6年の有罪判決であり,大阪高裁平成17年11月24日判決(裁判長は20期の瀧川義道)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年4月19日決定(裁判長は18期の才口千晴)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成24年3月2日に再審請求が出されて,平成25年4月19日に日弁連が再審支援を決定し,神戸地裁姫路支部平成26年3月28日決定(裁判長は44期の溝國禎久)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁平成28年3月15日決定(裁判長は32期の笹野明義)は破棄差戻しであり,最高裁平成29年10月30日決定(裁判長は林景一)は特別抗告棄却決定でした。
イ 差戻審としての神戸地裁令和2年6月15日決定は再審請求棄却決定であり,大阪高裁令和3年6月30日決定(裁判長は35期の村山浩昭)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和4年3月30日決定(裁判長は山口厚)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾39頁ないし42頁に姫路郵便局強盗殺人事件が載っています。

5 豊川事件
(1) 豊川事件は,平成14年7月28日に愛知県豊川市で発生した未成年者略取及び殺人事件です。
(2) 名古屋地裁平成18年1月24日判決(裁判長は26期の伊藤新一郎)は無罪判決であり,名古屋高裁平成19年7月6日判決(裁判長は22期の前原捷一郎)は懲役17年の有罪判決であり,最高裁平成20年9月30日決定は上告棄却決定(裁判長は21期の古田佑紀)でした。
(3) 平成28年7月15日に再審請求が出されて,名古屋高裁平成31年1月25日決定(裁判長は34期の山口裕之)は再審請求棄却決定であり,令和4年12月20日現在,異議審が係属中です(読売新聞オンラインの「豊川男児殺害で弁護団が意見書 再審請求異議審」(2022年12月20日付)参照)。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾42頁ないし45頁に豊川事件が載っています。

6 小石川事件
(1) 小石川事件は,平成14年7月31日に東京都文京区小石川所在のマンションで発生した強盗殺人事件です。
(2) 東京地裁平成16年3月29日判決は無期懲役判決であり,東京高裁平成16年12月21日判決は控訴棄却判決であり,最高裁平成17年6月17日決定は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成27年6月24日に再審請求が出されて,東京地裁令和2年3月31日決定(裁判長は44期の小森田恵樹)は再審請求棄却決定であり,東京高裁令和令和4年4月7日決定(裁判長は38期の大善文男)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和4年12月12日決定(裁判長は40期の渡邉恵理子(元弁護士))は特別抗告棄却決定でした。
イ 日弁連委員会ニュース2023年3月号4頁に「不当決定三たび~小石川事件 最高裁特別抗告棄却~」が載っています。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾46頁ないし51頁に小石川事件が載っています。

7 難波ビデオ店放火殺人事件
(1) 難波ビデオ店放火殺人事件は,平成20年10月1日に大阪市浪速区難波のビデオ店で発生した,殺人,殺人未遂,現住建造物放火殺人事件です。
(2) 大阪地裁平成21年12月2日判決(裁判長は34期の秋山敬)は死刑判決であり,大阪高裁平成23年7月26日判決(裁判長は28期の的場純男)は控訴棄却判決であり,最高裁平成26年3月6日判決(裁判長は24期の横田尤孝)は上告棄却判決でした。
(3) 平成26年5月28日に大阪地裁に再審請求が出されて,大阪地裁平成28年3月30日決定(裁判長は39期の橋本一)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁平成30年10月9日決定(裁判長は34期の樋口裕晃)は即時抗告棄却決定であり,令和元年6月20日に日弁連が再審支援を決定し,最高裁令和元年7月17日決定(裁判長は31期の宮崎裕子)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 令和元年11月5日に第2次再審請求が出されました。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾53頁ないし56頁に難波ビデオ店放火殺人事件が載っています。

第2部 日弁連支援事件で再審無罪が確定した事件
第1 個別の事件(免田事件以降の日弁連支援事件であり,無罪判決の年月日順)
1 免田事件(昭和58年7月15日無罪判決)
(1) 免田事件は,昭和23年12月30日に熊本県人吉市で発生した強盗殺人事件であり,免田栄が犯人として逮捕されました。
(2) 熊本地裁八代支部昭和25年3月23日判決は死刑判決であり,福岡高裁昭和26年3月19日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和26年12月25日判決は上告棄却判決でした。
(3) 第3次再審請求では,熊本地裁八代支部昭和29年5月18日決定は再審開始決定であり,福岡高裁昭和34年4月15日決定は再審開始取消決定であり,最高裁昭和34年12月6日決定は特別抗告棄却決定でした。
(4) 昭和47年に第6次再審請求が出されて,熊本地裁八代支部昭和51年4月30日決定(担当裁判官は松村利教,21期の神吉正則及び23期の牧弘二)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁昭和54年9月27日決定(裁判長は1期の山本茂11期の川崎貞夫及び17期の矢野清美)は再審開始決定であり,最高裁昭和55年12月11日決定(判例秘書に掲載)は特別抗告棄却決定でありますところ,特別抗告棄却決定の理由付けは「記録によれば、請求人提出にかかる証拠の新規性及び明白性を認めて本件再審請求を認容すべきものとした原決定の判断は、正当として是認することができる。」というものでした。
(5)ア 再審公判において検察官は2度目の死刑求刑を行いましたが,熊本地裁八代支部昭和58年7月15日判決(担当裁判官は16期の河上元康,期外の豊田圭一及び32期の松下潔)は無罪判決となり,昭和58年7月28日に検察官は控訴を断念しました。
イ 死刑囚に対しては初となる再審無罪判決でした。
ウ 日弁連HPに「免田事件の無罪判決確定にあたって」(昭和58年7月28日付)が載っています。

2 財田川事件(昭和59年3月12日無罪判決)
(1) 財田川事件は,昭和25年2月28日,香川県三豊郡(みとよぐん)財田村(さいたむら)(現在の三豊市)で発生した強盗殺人事件です。
(2) 高松地裁昭和27年2月20日判決は死刑判決であり,高松高裁昭和31年6月8日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和32年1月22日判決は上告棄却判決でした。
(3) 昭和32年3月30日に第1次再審請求が出されて,高松地裁昭和33年3月20日決定は再審請求棄却決定であり,即時抗告されずにそのまま確定しました。
(4)ア 昭和44年4月に申立人が裁判所に提出した無実を訴える私信が第2次再審請求として受理されて,高松地裁昭和47年9月30日決定は再審請求棄却決定であり,高松高裁昭和49年12月5日決定は即時抗告棄却決定でしたが,最高裁昭和51年10月12日決定は破棄差戻しであり,高松地裁昭和54年6月7日決定は再審開始決定でした。
イ(ア) 第2次再審請求を受理した矢野伊吉高松地家裁丸亀支部長は再審請求人の無実を確信するに至ったものの,他の陪席裁判官の反対にあって再審を断念し,昭和45年8月6日に任期終了退官し,同年11月24日に高松弁護士会(現在の香川県弁護士会)で弁護士登録をしました。
(イ) 矢野伊吉は弁護人として財田川事件の再審請求をするようになったものの,無罪判決が出る前の昭和58年3月18日に死亡しました。
(5)ア 高松地裁昭和59年3月12日判決(担当裁判官は7期の古市清,21期の横山敏夫及び33期の横山光雄)は無罪判決となり,検察官は控訴を断念しました。
イ 日弁連HPに「財田川事件の無罪判決確定について」(昭和59年3月23日付)が載っています。

3 松山事件(昭和59年7月11日無罪判決)
(1) 松山事件は,昭和30年10月18日に,宮城県志田郡松山町(現在の大崎市)で発生した放火殺人事件です。
(2) 仙台地裁古川支部昭和32年10月29日判決は死刑判決であり,仙台高裁昭和34年5月26日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和35年11月1日判決は上告棄却判決でした。
(3) 昭和36年3月20日に第1次再審請求が出されて,仙台地裁古川支部昭和39年4月30日決定は再審請求棄却決定であり,仙台高裁昭和41年5月13日決定は即時抗告棄却決定であり,最高裁昭和44年5月27日決定は特別抗告棄却決定でした。
(4)ア 昭和44年6月7日に第2次再審請求が出されて,仙台地裁古川支部昭和46年10月26日決定は再審請求棄却決定であり,仙台高裁昭和48年9月18日決定は差戻し決定でした。
イ 仙台地裁昭和54年12月6日決定は再審開始決定であり,
仙台高裁昭和58年1月31日決定は即時抗告棄却決定でした。
(5)ア 仙台地裁昭和59年7月11日判決(担当裁判官は11期の小島建彦,26期の片山俊雄及び30期の加藤謙一)は無罪判決であり,検察官は控訴を断念しました。
イ 日弁連HPに「松山事件再審無罪判決言渡しについて」(昭和59年7月11日付)が載っています。

4 徳島ラジオ商殺し事件(昭和60年7月9日無罪判決)
(1) 徳島ラジオ商殺し事件は,昭和28年11月5日に徳島市で発生した強盗殺人事件であり,被告人は殺害されたラジオ商の内縁の妻でした。
(2) 徳島地裁昭和31年4月18日判決は懲役13年の有罪判決であり,高松高裁昭和32年12月21日判決は控訴棄却判決であり,被告人が昭和33年5月10日に上告を取り下げたために有罪判決が確定しました。
(3)ア 第6次再審請求に基づき,徳島地裁昭和55年12月13日決定は再審開始決定となりました。
イ 徳島地裁昭和60年7月9日判決は無罪判決でした。

5 梅田事件(昭和61年8月27日無罪判決)
(1) 梅田事件は,昭和25年10月10日,北海道北見市の山径上で北見営林局の職員が現金19万円を奪われて殺害され,現場付近に埋められていたのが6か月後に発見された
という事件であり,本件の主犯とされる者は,当初は単独犯行であると供述していたが,その後,梅田義光に殺害させたと供述したことから,その供述を根拠に梅田義光が逮捕・起訴されました。
(2) 釧路地裁網走支部昭和29年7月7日判決は無期懲役判決であり,その後の控訴及び上告は棄却されました。
(3) 第2次再審請求に基づき,釧路地裁網走支部昭和57年12月20日決定は再審開始決定となり,札幌高裁昭和60年2月4日は即時抗告棄却決定でした。
(4) 釧路地裁昭和61年8月27日判決は無罪判決であり,同年9月8日,検察官が控訴断念を発表しました(日弁連HPの「梅田事件再審無罪判決確定にあたって」(昭和61年9月8日付)参照)。

6 島田事件(平成元年1月31日無罪判決)
(1) 島田事件は,昭和29年3月10日に静岡県島田市で発生した幼女誘拐殺人,死体遺棄事件です。
(2) 静岡地裁昭和33年5月23日判決は死刑判決であり,東京高裁昭和35年2月17日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和35年12月5日判決は上告棄却判決でした
(3)ア 昭和44年5月9日に第4次再審請求が出されて,静岡地裁昭和52年3月11日決定は再審請求棄却決定であり,東京高裁昭和58年5月23日判決は差戻決定でした。
イ 静岡地裁昭和61年5月30日決定は再審開始決定であり,東京高裁昭和62年3月25日決定は即時抗告棄却決定であり,検察官は特別抗告をしませんでした(日弁連HPの「島田事件再審開始決定に対する検察官の特別抗告断念にあたって」(昭和62年3月31日付)参照)。
(4)ア 再審公判において検察官は2度目の死刑求刑を行いましたが,静岡地裁平成元年1月31日判決(担当裁判官は14期の尾崎俊信,28期の高梨雅夫及び37期の桜林正己)は無罪判決であり,検察官は平成元年2月10日に控訴を断念しました。
イ 日弁連HPに「島田事件無罪判決への控訴断念について」(平成元年2月10日付)が載っています。
(5) Wikipediaの「紅林麻雄」(袴田事件発生前の昭和38年7月に警察を辞職しました。)には以下の記載があります。
自身が担当した幸浦事件死刑判決の後、無罪)、二俣事件(死刑判決の後、無罪)、小島事件無期懲役判決の後、無罪)、島田事件(死刑判決の後、無罪)の各事件で無実の者から拷問自白を引き出し、証拠捏造して数々の冤罪を作った。
(中略)
上記4事件のうち島田事件を除く3事件が一審・二審の有罪判決の後に無罪となり、島田事件も最高裁での死刑判決確定後の再審で無罪が確定した。

7 榎井村事件(平成6年3月22日無罪判決)
(1) 榎井村事件は,昭和21年8月21日午前2時頃に香川県仲多度郡(なかたどぐん)榎井村(えないむら)(現在の琴平町)で発生した殺人事件です。
(2) 高松地裁昭和22年12月8日判決は無期懲役判決であり,高松高裁昭和23年11月9日判決は懲役15年の有罪判決であり,最高裁昭和24年4月28日決定は上告棄却決定でした。
(3) 平成2年3月19日に再審請求が出されて,高松高裁平成5年11月1日決定(担当裁判官は9期の村田晃18期の山脇正道及び26期の湯川哲嗣)は再審開始決定でした。
(4) 高松高裁平成6年3月22日判決(担当裁判官は13期の米田俊昭18期の山脇正道及び26期の湯川哲嗣)は無罪判決でした。

8 足利事件(平成22年3月26日無罪判決)
(1) 足利事件は,平成2年5月12日,栃木県足利市にあるパチンコ店の駐車場から女児が行方不明になり,翌日の朝,近くの渡良瀬川の河川敷で女児の遺体が発見された,殺人・死体遺棄事件です。
(2) 宇都宮地裁平成5年7月7日判決(裁判長は22期の久保真人)は無期懲役判決であり,東京高裁平成8年5月9日判決(裁判長は14期の高木俊夫)は控訴棄却判決であり,弁護人の求めを拒否してDNA型鑑定の再鑑定がされないまま出された最高裁平成12年7月17日決定(裁判長は10期の亀山継夫)は上告棄却判決でした。
(3) 平成14年12月25日に再審請求があり,宇都宮地裁平成20年2月13日決定(裁判長は31期の池本寿美子裁判官)は再審請求棄却決定であり,平成20年12月24日に23期の田中康郎東京高裁裁判長がDNA型の再鑑定を決定し,平成21年6月4日に再審請求人が釈放され,東京高裁平成21年6月23日決定は再審開始決定(26期の矢村宏裁判官)でした。
(4) 宇都宮地裁平成22年3月26日判決(裁判長は45期の佐藤正信裁判官)は無罪判決となり,同日,宇都宮地検が上訴権を放棄して即日確定となりました。
(5)ア 検察庁HPに載っていた「いわゆる足利事件における捜査・公判活動の問題点等について(概要)」(平成22年4月の最高検察庁の文書)を掲載しています。
イ 警察庁HPに載っていた「足利事件における警察捜査の問題点等について(概要)」(平成22年4月の警察庁の文書)を掲載しています。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾63頁ないし67頁に足利事件が載っています。

9 布川事件(平成23年5月24日無罪判決)
(1) 布川事件は,昭和42年8月30日の朝,茨城県北相馬郡利根町布川(ふかわ)で,独り暮らしだった大工の男性(当時62歳)が,仕事を依頼しに来た近所の人によって自宅8畳間で他殺体で発見された殺人事件です。
(2) 水戸地裁土浦支部昭和45年10月6日判決は無期懲役判決であり,東京高裁昭和48年12月20日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和53年7月3日決定は上告棄却決定でした。
(3) 昭和58年12月23日に第1次再審請求申立てがありましたところ,水戸地裁土浦支部昭和62年3月31日(裁判長は21期の榎本豊三郎)は再審請求を棄却し,東京高裁昭和63年2月22日決定(裁判長は7期の小野幹雄裁判官)は弁護側の即時抗告を棄却し,最高裁平成4年9月9日決定(裁判長は3期の大堀誠一)は弁護側の特別抗告を棄却しました。
(4)    平成13年12月6日に第2次再審請求がありましたところ,水戸地裁土浦支部平成17年9月21日決定(裁判長は32期の彦坂孝孔)は再審開始決定を出し,東京高裁平成20年7月14日決定(裁判長は22期の門野博裁判官)は検察側の即時抗告を棄却し,最高裁平成21年12月14日決定(裁判長は竹内行夫)は検察側の特別抗告を棄却しました。
(5) 水戸地裁土浦支部平成23年5月24日判決(担当裁判官は47期の神田大助,52期の朝倉(吉田)静香及び59期の信夫絵里子)は,再審無罪を言い渡しました。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾56頁ないし60頁に布川事件が載っています。

10 東電OL殺人事件(平成24年11月7日無罪判決)
(1) 東電OL殺人事件は,平成9年3月19日に東京都渋谷区にあるアパートの1室から東京電力に勤務していた女性の死体が発見された殺人事件です。
(2) 東京地裁平成12年4月14日判決(裁判長は25期の大渕敏和)は無罪判決であり,東京高裁平成12年12月22日判決(裁判長は14期の高木俊夫)は無期懲役判決であり,最高裁平成15年10月20日決定(裁判長は藤田宙靖)は上告棄却決定でした。
(3) 平成17年3月24日に再審請求が出されて,東京高裁平成24年6月7日決定(裁判長は29期の小川正持)は再審開始決定であり,異議審としての東京高裁平成24年7月31日決定(裁判長は28期の八木正一)は異議申立棄却決定でした。
(4) 東京高裁平成24年11月7日判決(裁判長は29期の小川正持)は無罪判決でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾67頁ないし71頁に東電OL殺人事件が載っています。


11 東住吉事件(平成28年8月10日無罪判決)
(1) 東住吉事件は,平成7年7月22日午後4時50分頃,大阪市東住吉区内の自宅において火災が発生し,小学6年生の女児が焼死したという事件であり,被告人は女児の母親及びその内縁の夫です。
(2)ア 内縁の夫に関しては,大阪地裁平成11年3月30日判決(裁判長は29期の川合昌幸)は無期懲役判決であり,大阪高裁平成16年12月20日判決(裁判長は21期の近江清勝)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年11月24日決定(裁判長は15期の上田豊三)は上告棄却決定でした。
イ 母親に関しては,大阪地裁平成11年5月18日判決(裁判長は32期の毛利晴光)は無期懲役判決であり,大阪高裁平成16年11月2日判決(裁判長は18期の白井万久)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年12月11日決定(裁判長は津野修)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成21年7月7日及び同年8月7日に再審請求が出されて,大阪地裁平成24年3月7日決定(裁判長は32期の水島和男)は再審開始決定であり,大阪高裁平成27年10月23日決定(裁判長は30期の米山正明)は即時抗告棄却決定でした。
イ 大阪地裁平成28年8月10日判決(裁判長は46期の西野吾一)は無罪判決でした。
(4) 被告人の背景事情については,デイリー新潮HPの「新聞は一切書かない東住吉放火冤罪「釈放男」が女児に許されざる暴行」が参考になります。)。
(5) 大阪高裁令和5年2月9日判決(担当裁判官は39期の牧賢二42期の和久田斉及び49期の西森みゆき)は,元金ベースで大阪府に対して1224万4094円の支払を命じた大阪地裁の判決に対する女児の母親及び大阪府の控訴を棄却しました。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾71頁ないし75頁に東住吉事件が載っています。


12 松橋事件(平成31年3月28日無罪判決)
(1) 松橋事件は,昭和60年1月上旬頃,熊本県下益城郡松橋町(まつばせまち)(現在の宇城市)で発生した殺人事件です。
(2) 熊本地裁昭和61年12月22日判決(裁判長は12期の荒木勝己裁判官)は懲役13年を言い渡し,福岡高裁昭和63年6月2日判決(裁判長は2期の生田謙二裁判官)は被告人の控訴を棄却し,最高裁平成2年1月26日決定(裁判長は高輪2期の大内恒夫裁判官)は被告人の上告を棄却しました。
(3)ア 平成24年3月12日に再審請求があり,熊本地裁平成28年6月30日決定(裁判長は44期の溝国禎久裁判官)が再審開始を決定し,福岡高裁平成29年11月29日決定(裁判長は32期の山口雅高裁判官)が検察官の即時抗告を棄却し,最高裁平成30年10月10日決定(裁判長は32期の菅野博之裁判官)が検察官の特別抗告を棄却しました。
イ 熊本地裁平成31年3月28日判決(裁判長は44期の溝国禎久裁判官)は無罪判決でしたた。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾60頁ないし63頁に松橋事件が載っています。

13 湖東記念病院事件(令和2年3月31日無罪判決)
(1) 湖東記念病院事件は,平成15年5月22日,滋賀県愛知郡湖東町(現在の東近江市)の湖東記念病院で人工呼吸器のチューブが外れて入院中の男性患者が死亡したという事件です。
(2) 湖東記念病院の看護助手(平成16年7月逮捕)に対し,大津地裁平成17年11月29日判決(裁判長は37期の長井秀典)は懲役12年の有罪判決であり,大阪高裁平成18年10月5日判決(裁判長は26期の若原正樹)は控訴棄却判決であり,最高裁平成19年5月21日決定(裁判長は15期の泉徳治)は上告棄却決定でした。
(3) 平成22年9月21日に第1次再審請求が出されて,大津地裁平成23年3月30日決定は再審請求棄却決定(裁判長は39期の坪井祐子)であり,大阪高裁平成23年5月23日決定(裁判長は26期の松尾昭一)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成23年8月24日決定は特別抗告棄却決定でした。
(4)ア 平成24年9月28日に第2次再審請求が出されて,大津地裁平成27年9月30日決定(裁判長は47期の川上宏)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁平成29年12月20日決定(裁判長は35期の後藤真理子)は再審開始決定であり,最高裁平成31年3月18日決定(裁判長は32期の菅野博之)は特別抗告棄却決定でした。
イ 大津地裁令和2年3月31日判決(裁判長は47期の大西直樹)は無罪判決でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾52頁及び53頁に湖東記念病院事件が載っています。

14 袴田事件(令和6年9月26日無罪判決)
(1) 袴田事件は,昭和41年6月30日未明,静岡県清水市で発生した,味噌製造・販売会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人・放火事件です。
(2)ア 昭和41年8月18日に袴田巌が逮捕され,同年9月6日に自白し,同月9日に起訴され,昭和42年8月31日,犯行現場近くの工場内味噌タンクから血痕が付着したズボン等「5点の衣類」が発見されました(自白調書では,犯行時の衣類はパジャマになっていました。)。
イ 袴田さん支援クラブHP「刑事司法の暗闇」には以下の記載があります。
    袴田事件の捜査会議では、こんな指示がありました。
8月29日静岡市内の本件警察寮芙蓉荘において本部長、刑事部長、捜一、鑑識両課長をはじめ清水署長、刑事課長、取調官による検討会を開催し、取調官から取調の経過を報告させ、今後の対策を検討した結果、袴田の取調べは情理だけでは自供に追込むことは困難であるから取調官は確固たる信念を持って、犯人は袴田以外にはない、犯人は袴田に絶対間違いないということを強く袴田に印象づけることにつとめる。

(中略)
    弁護士の面会(接見といいます)も制限してもよいことになっています。「捜査の都合」でほとんど接見を拒否するか、ほんのわずかな時間しか与えないのです。袴田事件の場合、捜査官の取り調べ時間は1日平均12時間、延べ280時間であったのに対して、その間の弁護人との接見時間はたった3回、ものの32分間でした。

(3) 静岡地裁昭和43年9月11日判決(担当裁判官は石見勝四,9期の高井吉夫及び15期の熊本典道)は死刑判決であり,東京高裁昭和51年5月18日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和55年11月19日判決は上告棄却判決でした。
(4) 日弁連は,昭和56年11月13日,袴田事件委員会を設置して再審支援を開始しました。
(5) 昭和56年4月20日に袴田巌本人から第1次再審請求が出されて,静岡地裁平成6年8月9日決定(裁判長は20期の鈴木勝利)は再審請求棄却決定であり,東京高裁平成16年8月26日決定(担当裁判官は21期の安廣文夫27期の小西秀宣及び28期の竹花俊徳)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成20年3月24日決定(担当裁判官は16期の今井功(元東京高裁長官),津野修(元内閣法制局長官),16期の中川了滋(元一弁会長)及び21期の古田佑紀(元次長検事))は特別抗告棄却決定(全員一致)でした。
(6)ア 平成20年4月25日に袴田ひで子(袴田巌の姉)から第2次再審請求が出されて,静岡地裁平成26年3月27日決定(担当裁判官は35期の村山浩昭51期の大村陽一及び新62期の満田智彦)は再審開始決定であり,その主文は「本件について再審を開始する。有罪の言渡を受けた者に対する死刑及び拘置の執行を停止する。」でありました。
    翌日午後6時頃,生き残っていた被害者一家の長女が亡くなっているのが自宅で発見されました。
イ 東京高裁平成30年6月11日決定(担当裁判官は32期の大島隆明39期の菊池則明及び57期の林欣寛)は再審請求棄却であり,最高裁令和2年12月22日決定裁判長は34期の林道晴)は破棄差戻決定でした。
    なお,最高裁令和2年12月22日決定の裁判官林景一,同宇賀克也の反対意見には,「原決定を取り消した上,本件を東京高等裁判所に差し戻すのではなく,検察官の即時抗告を棄却して再審を開始すべきであると考える。」とか,「私たちは,確定審におけるその他の証拠をも総合して再審を開始するとした原々決定は,その根幹部分と結論において是認できると考える。このような理由から,単にメイラード反応の影響等について審理するためだけに原裁判所に差し戻して更に時間をかけることになる多数意見には反対せざるを得ないのである。」と書いてありました(リンク先の21頁ないし32頁です。)。
ウ 差戻審としての東京高裁令和5年3月13日決定(裁判長は38期の大善文男)は再審開始決定となりました(NHK静岡放送局HPの「【詳報】袴田事件 再審開始決定! 東京高裁」(2023年3月13日付)参照)ところ,同決定では証拠捏造の可能性にまで言及しています。
エ 静岡地裁令和6年9月26日判決(裁判長は46期の國井恒志)は無罪判決であり,検察官は,令和6年10月8日付の検事総長談話の発表後に控訴権を放棄しました。


(7)ア 日弁連HPに「袴田事件」のほか,「「袴田事件」再審開始支持決定を評価し、検察官特別抗告の断念を求める会長声明」(2023年3月13日付)が載っています。
イ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾13頁ないし19頁に袴田事件が載っています。
ウ 「袴田事件 真犯人 自殺」で検索すれば,色々な憶測のネット記事が出てきます。
(8)ア 中日新聞HPの「家族で読み事件知って 袴田さん姉を漫画に」(2020年5月6日付)には「秀子さんは六人きょうだいの三女。中学卒業後に税務署に就職。民間の税理士事務所に移り、六六年の事件後は食品会社勤務を経て、袴田さんの弁護団の法律事務所で八十一歳まで働いた。」と書いてあります。
イ 平成21年3月,袴田ひで子が袴田巌の保佐人に選任され,令和4年4月,弁護団の弁護士が追加で袴田巌の保佐人に選任されました(あなたの静岡新聞HPの「袴田巌さん保佐人、弁護団から追加選任 東京家裁、姉高齢を考慮」(2022年6月30日付)参照)。

15 福井女子中学生殺人事件(令和7年7月18日無罪判決)
(1) 福井女子中学生殺人事件は,昭和61年3月19日の夜に福井市内のアパートで発生した殺人事件です。
(2) 福井地裁平成2年9月26日判決(裁判長は20期の西村尤克)は無罪判決であり,名古屋高裁金沢支部平成7年2月9日判決(裁判長は14期の小島裕史)は懲役7年の判決であり,最高裁平成9年11月12日決定(裁判長は5期の大西勝也)は上告棄却決定でした。
(3)ア 平成16年3月19日に日弁連が再審支援を決定し,同年7月15日に再審請求が出されて,名古屋高裁金沢支部平成23年11月30日決定(裁判長は26期の伊藤新一郎)は再審開始決定であり,名古屋高裁平成25年3月6日決定(裁判長は27期の志田洋)は再審開始取消決定であり,最高裁平成26年12月10日決定(裁判長は24期の千葉勝美)は特別抗告棄却決定でした。
イ 福井弁護士会HPに「福井事件再審請求最高裁決定に対する会長声明」(平成26年12月18日付)が載っています。
(4)ア 令和4年10月14日に名古屋高裁金沢支部に第2次再審請求が出されて(中日新聞HPの「福井女子中学生殺人事件 前川さん第2次再審請求 「無罪勝ち取るまで戦う」 」参照),名古屋高裁令和6年10月23日決定(裁判長は42期の山田耕司)は再審開始決定でした。
イ 検察側は,令和6年10月28日,再審開始を認めた名古屋高裁金沢支部決定に対し,異議を申し立てないと発表しました(産経新聞HPの「前川さん「安堵した」 福井中3女子殺害、再審開始へ 検察が異議断念、無罪の公算大きく」参照)。
(5)ア 日弁連HPに「「福井女子中学生殺人事件」再審異議審決定(請求棄却)に関する会長声明」(平成25年3月6日付)が載っています。
イ 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾29頁ないし32頁に福井女子中学生殺人事件が載っています。
(6) 名古屋高裁金沢支部令和7年7月18日判決(裁判長は46期の増田啓祐)は無罪判決であり,検察官は,令和7年8月1日に上告権を放棄しました。


第2 日弁連支援の再審無罪が確定した事件又は再審開始が確定した事件において,有罪方向の判断をした下級裁判所の裁判官
・ 2期の生田謙二
→ 松橋事件

・ 7期の小野幹雄
→ 布川事件

・ 9期の高井吉夫
→ 袴田事件

・ 12期の荒木勝己
→ 松橋事件

・ 13期の田崎文夫
→ 日野町事件

・ 14期の高木俊夫
→ 足利事件,東電OL殺人事件

・ 14期の小島裕史
→ 福井女子中学生殺人事件

・ 18期の白井万久
→ 東住吉事件

・ 19期の中川司
→ 日野町事件

・ 20期の鈴木勝利
→ 袴田事件

・ 21期の榎本豊三郎
→ 布川事件

・ 21期の安廣文夫
→ 袴田事件

・ 21期の近江清勝
→ 足利事件

・ 21期の神吉正則
→ 免田事件

・ 22期の久保真人
→ 足利事件

・ 23期の牧弘二
→ 免田事件

・ 26期の松尾昭一
→ 湖東記念病院事件

・ 26期の若原正樹
→ 湖東記念病院事件

・ 27期の小西秀宣
→ 袴田事件

・ 27期の志田洋
→ 福井女子中学生殺人事件

・ 28期の竹花俊徳
→ 袴田事件

・ 29期の川合昌幸
→ 東住吉事件

・ 31期の池本寿美子
→ 足利事件

・ 32期の大島隆明
→ 袴田事件

・ 32期の毛利晴光
→ 東住吉事件

・ 37期の長井秀典
→ 湖東記念病院事件,日野町事件

・ 39期の坪井祐子
→ 湖東記念病院事件,日野町事件

・ 39期の菊池則明
→ 袴田事件

・ 42期の片山憲一
→ 日野町事件

・ 47期の川上宏
→ 湖東記念病院事件

・ 57期の林欣寛
→ 袴田事件

第3部 日弁連支援以外の再審事件
第1 氷見事件(検察官の再審請求に基づき,平成19年10月10日無罪判決)
1 氷見事件は,平成14年1月14日及び同年3月13日に富山県氷見市(ひみし)で相次いで発生した強姦および強姦未遂事件であり,犯人としてタクシー運転手の男性Xが誤認逮捕された冤罪事件です。
2 富山地裁高岡支部平成14年11月27日(担当裁判官は43期の中牟田博章)は,氷見事件で起訴されたXに対し,懲役3年・未決勾留日数130日算入の有罪判決を言い渡しました。
3(1) 平成19年1月19日に真犯人が逮捕され,富山地検高山支部は同年2月9日に真犯人を起訴するとともに,Xへの無罪判決を求める再審を請求しました。
(2) 富山地裁高岡支部平成19年10月10日判決(裁判長は33期の藤田敏)は無罪判決となりました(Wikipediaの「氷見事件」参照)。
4(1) NAVERまとめに「【冤罪も謝罪無し】氷見事件の様子が放送され富山県警に批判殺到で大荒れ #アンビリバボー」が載っています。
(2) 桜井昌司『獄外記』「鹿児島入り」(2012年11月14日付)に以下の記載があります。
   大崎事件の再審請求を担当する中牟田博章裁判長は、富山地裁在任当時、氷見事件を担当して、柳原さんを有罪にした。
   その後、真犯人が鳥取県で犯行を重ねて逮捕され、中牟田裁判長の誤判も明らかになったのだ。
5 検察庁HPに「いわゆる氷見事件及び志布志事件における捜査・公判活動の問題点等について」(平成19年8月の最高検察庁の文書)が載っています。
6  公文書毀棄の公訴事実を肯認しうる証拠として犯行を目撃したとするYの証言しかなく,被告人は一貫として犯行を否認し,被告人にとって有利なFほか四名の証言も存在する場合に,上告審になって,真犯人が別におり起訴猶予処分に付された旨の検察官の答弁書が提出されたときは,前記Yの証言を信用して被告人に対し有罪の言渡をした一,二審判決には重大な事実誤認の疑いがあるものとしてこれを破棄すべきものとなります(最高裁昭和47年2月10日判決)。
7 氷見事件の元被告人が提起した国家賠償請求事件において,富山地裁平成27年3月9日判決(裁判長は42期の阿多麻子)は,以下のとおり判示して1500万円の慰謝料を認めました。
   原告(山中注:氷見事件の元被告人)は、平成一四年四月八日以降、被告Y1ら本件警察官らにより強い心理的圧迫を伴う取調べを受け、犯行態様の主要な部分について漫然と「確認的」取調べ方法を行うという違法な誘導により虚偽自白を余儀なくされ、これに基づき、無実の罪で約二年一か月間服役することとなった。原告は、家族からも、未成年の女性に対する連続強姦及び強姦未遂事件の犯人と認識され、刑務所での服役中は面会に訪れる者もなく、仮出獄後も家族に身元引受人を断られ、更生保護施設での生活を余儀なくされた。また、原告は、刑の執行後も、家族や周囲から「強姦犯人として逮捕され、服役した者」として排斥されて事実上自宅に住めなくなり、運転他行業、ホテルや不燃ごみの仕分け等により収入を得ることはあったものの、十分な労働の機会は得られなかった。さらに、再審無罪判決が確定し、性犯罪者でないことが公になった後も、平成一四年の有罪判決及び服役の影響が完全に消失しなかったことから、原告は、周囲からの好奇の目により富山県内に居づらくなり東京に転居し、現在もPTSD症状とみられる、突発的な希死念慮、侵入性想起、回避症状等を訴えている。

第2 再審無罪となった再審事件(事件発生日順)
1 暴力団組長覚醒剤密輸偽証事件(平成13年7月17日無罪判決)
(1) 暴力団組長覚醒剤密輸偽証事件は,昭和56年7月に元暴力団組長が傷害罪及び覚せい剤取締法違反等で逮捕された事件です。
(2) 福岡地裁昭和57年9月30日判決は懲役16年の有罪判決であり,控訴及び上告を経て昭和60年4がつ4日に確定しました。
(3) 平成5年7月1日に第3次再審請求が出されて,福岡地裁平成8年3月31日決定は再審開始決定であり,福岡高裁平成12年2月29日決定は即時抗告棄却決定であり,同年3月7日に再審開始決定が確定しました。
(4) 福岡地裁平成13年7月17日決定(担当裁判官は22期の濱崎裕41期の向野剛及び53期の岡崎忠之)は無罪判決でした(ただし,再審開始事由ではない傷害罪については懲役1年6月となりました。)。

2 ロシア人おとり捜査事件(平成29年3月7日無罪判決)
(1) ロシア人おとり捜査事件は,ロシア人船員であった請求人(当時27歳)が,平成9年11月13日,けん銃1丁,実包16発等を持って小樽に来航し,翌14日,けん銃及び実包を持って船舶から降り,船舶が停泊していた場所から
ほど近い現場で,北海道警察本部生活安全部銃器対策課の警察官らにより,銃刀法違反の罪で現行犯逮捕された事件です。
(2) 札幌地裁平成10年8月25日判決(裁判長は26期の矢村宏)は懲役2年の判決であり,同年9月9日に確定しました。
(3) 平成25年9月25日に再審請求が出されて,札幌地裁平成28年3月3日判決(裁判長は46期の佐伯恒治)は再審開始決定であり,
札幌高裁平成28年10月26日決定(裁判長は33期の高橋徹)は即時抗告棄却決定であり,同年11月1日に同決定が確定しました。
(4) 札幌地裁平成29年3月7日判決(裁判長は中桐圭一)は無罪判決であり,同日に確定しました。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾91頁ないし93頁にロシア人おとり捜査事件が載っています。

3 大阪市強姦虚偽証言再審事件(平成25年10月16日無罪判決)
(1) 大阪市強姦虚偽証言再審事件は,請求人(当時61歳)が平成16年頃から繰り返し少女を強姦していたとして逮捕され,平成20年9月30日に強制わいせつ罪で,同年11月12日に強姦罪で起訴された事件です。
(2) 大阪地裁平成21年5月15日判決(裁判長は34期の杉田宗久)は懲役12年の判決であり,大阪高裁平成22年7月21日判決(裁判長は26期の湯川哲嗣)は控訴棄却判決であり,最高裁平成23年4月21日決定(裁判長は28期の岡部喜代子)は上告棄却決定でした。
(3) 平成26年9月12日に再審請求が出されて,大阪地裁平成27年2月27日判決(裁判長は37期の登石郁朗)は再審開始決定となり,同決定は即時抗告されずに確定しました。
(4) 大阪地裁平成27年10月16日判決(裁判長は40期の芦高源)は無罪判決でした。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾94頁及び95頁にロシア人おとり捜査事件が載っていますところ,「⑤確定審の裁判所の判断」として以下の記載があります。
    「弱冠14歳の少女がありもしない強姦被害等をでっち上げるまでして親族を告訴することは非常に考えにくい」「そのような稀有なことがあるとすればよほどの特殊な事情がなければならない」などとして,少女の供述が虚偽である可能性は基本的に乏しいという見方をした。そして客観証拠が無く,前記のように変遷や不自然があるにもかかわらず,いずれも小さな問題であるとして,少女の供述の信用性を肯定した。
    控訴審においては,弁護人は前記のように,少女の医療機関の受診歴を調査するための事実取調べ請求を行ったが,裁判所はその請求を却下した。

第3 再審で免訴となった横浜事件
1(1) 横浜事件は,治安維持法違反の容疑で編集者,新聞記者ら約60人が逮捕され,約30人が有罪となり,4人が獄死した刑事事件であり,元中央公論編集者の妻ら元被告人5人の遺族AないしEが平成10年8月14日に第3次再審請求を申し立てていました。
(2) 横浜事件の被告人らは,大赦令(昭和20年10月17日勅令第579号)に基づき大赦を受けていました。
2 第3次再審請求に基づき,横浜地裁平成15年4月15日決定(担当裁判官は26期の矢村宏45期の柳澤直人及び53期の石井芳明)は再審開始決定となり,東京高裁平成17年3月10日決定(担当裁判官は20期の中川武隆32期の毛利晴光及び37期の鹿野伸二)は検察側の即時抗告棄却決定であり,特別抗告なしに確定しました。
3 横浜地裁平成18年2月9日判決は刑訴法337条2号に基づく免訴判決であり,東京高裁平成19年1月19日判決(担当裁判官は22期の阿部文洋28期の高梨雅夫及び40期の森浩史)は控訴棄却判決であり,最高裁平成20年3月14日判決は上告棄却判決でした。
4(1) 横浜事件の別の被告人の遺族V及びWは平成14年3月15日に第4次再審請求をしたところ,横浜地裁平成20年10月31日決定は再審開始決定であり,横浜地裁平成21年3月30日決定(担当裁判官は32期の大島隆明,53期の五島真希及び59期の横倉雄一郎)は免訴判決でした。
(2) 横浜地裁平成21年3月30日決定は,名誉回復は刑事補償請求の中で,一定程度は図ることができると判示しため,控訴されずに確定しました。

第4 有罪の判断が維持されている再審事件(事件発生日順)
1 三鷹事件
(1) 三鷹事件は,昭和24年7月15日午後9時24分(当時のサマータイムの時間で,現在の午後8時24分),東京都北多摩郡三鷹町(現在の三鷹市)と武蔵野市にまたがる日本国有鉄道中央本線三鷹駅構内で起きた無人列車暴走事件であり,再審請求人だけが有罪となり,残り9人の被告人は無罪となりました。
(2)ア 東京地裁昭和25年8月11日判決(裁判長は鈴木忠五)は無期懲役判決であり,東京高裁昭和26年3月30日判決(裁判長は田中薫)は死刑判決であり,最高裁大法廷昭和30年6月22日判決(裁判長は田中耕太郎)は上告棄却判決であり,最高裁昭和30年12月23日決定は判決訂正申立棄却決定でした。
イ 最高裁大法廷昭和30年6月22日判決では,8対7という意見の相違がある事件(意見の内訳は,8人が上告棄却(死刑確定),7人が破棄差戻し(死刑判決の審理やり直し))であり,かつ,地裁判決の無期懲役が書面審理だけの高裁判決で死刑に変更された重大事件であるにもかかわらず,「理由がないことが明らかである」場合にのみ適用される刑訴法408条に基づき(判決文12頁),弁論を開かないで判決をしたことが物議を醸しました。
   そのため,最高裁大法廷昭和30年6月22日判決より後は,どの小法廷においても,また,大法廷においても,死刑事件については必ず弁論を開くようになりました(「最高裁判決の内側」(昭和40年8月30日発行)142頁及び143頁参照)。
(3) 昭和31年2月3日に第1次再審請求が出されたものの,昭和42年1月18日に収監先の東京拘置所で病死したため,昭和42年6月7日に再審請求手続が終了しました。
(4) 平成23年11月10日に長男から第2次再審請求が出されたものの,東京高裁令和元年7月31日決定(担当裁判官は35期の後藤眞理子47期の金子大作及び51期の福島直之)は再審請求棄却決定となり,異議審としての東京高裁令和4年3月1日決定(裁判長は40期の伊藤雅人)は異議申立棄却決定となり,令和5年3月18日現在,特別抗告が係属中と思います。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾75頁ないし77頁に三鷹事件が載っています。

2 菊池事件
(1) 菊池事件(別名は「藤本事件」です。)は,熊本県菊池郡において,①昭和26年8月1日に発生したダイヤマイトによる爆破事件(第1事件),及び②昭和27年7月7日に第1事件の被害者が惨殺されているのが発見された殺人事件(第2事件)であり,被告人がハンセン病療養者であったことから,ハンセン病療養所内の特別法廷で公判が実施されました。
(2) 第1事件に関しては懲役10年の有罪判決となり(昭和28年9月15日上告棄却決定),第2事件に関しては,熊本地裁昭和28年8月29日判決(裁判長は竜口甚七)は死刑判決であり,福岡高裁昭和29年12月13日判決(裁判長は西岡稔)は控訴棄却判決であり,最高裁昭和32年8月23日判決(裁判長は小西勝重)は上告棄却判決でした。
(3) 昭和37年9月13日,熊本地裁が第3次再審請求を棄却し,同月14日,福岡刑務所に移送された上で死刑が執行されました。
(4) 熊本地裁令和2年2月26日判決(判例秘書に掲載)は,菊池事件の審理が憲法違反だったかどうかが焦点となった訴訟において,「特別法廷での審理は人格権を侵害し、患者であることを理由とした不合理な差別で、憲法に違反する」との判断を示したものの,賠償請求は棄却しました(東京新聞HPの「ハンセン病特別法廷 違憲 熊本地裁判決「不合理な差別」」参照)。
(5) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾77頁ないし81頁に菊池事件が載っています。

3 砂川事件
(1) 砂川事件は,昭和32年7月8日,特別調達庁東京調達局が強制測量をした際に,在日米軍立川基地の拡張に反対するデモ隊の一部が立ち入り禁止の境界柵を壊し,立川基地内に数メートル立ち入ったとして,デモ隊のうち7名が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(日米地位協定の前身です。)違反で起訴された事件です。
(2)ア 東京地裁昭和34年3月30日判決(裁判長は伊達秋雄)は無罪判決であり,跳躍上告に基づく最高裁大法廷昭和34年12月16日判決(裁判長は田中耕太郎)は破棄差戻し判決でした。
イ 差戻審としての東京地裁昭和36年3月27日判決(裁判長は岸盛一)は罰金2000円の有罪判決であり,最高裁昭和38年12月7日決定は上告棄却決定でした。
(3) 平成26年6月17日に再審請求が出されて,東京地裁平成28年3月8日決定(裁判長は41期の田邊三保子)は再審請求棄却決定であり,東京高裁平成29年11月15日決定(裁判長は33期の秋葉康弘)は即時抗告棄却決定であり,最高裁平成30年7月18日決定(裁判長は32期の菅野博之)は特別抗告棄却決定でした。

4 狭山事件
(1) 狭山事件は,昭和38年5月1日,埼玉県狭山市で女子高校生が下校後行方不明となり,その夜に身代金を要求する脅迫状が届けられ,脅迫状で指定された翌日,警察が犯人を取り逃すという大失態を犯し,同月4日に農道に埋められていた被害者の死体が発見された事件です。
(2) 浦和地裁昭和39年3月11日判決(裁判長は内田武文)は死刑判決であり,東京高裁昭和49年10月31日判決(裁判長は寺尾正二)は無期懲役判決であり,最高裁昭和52年8月9日決定(裁判長は吉田豊)は上告棄却決定でした。
(3) 昭和52年8月30日に第1次再審請求が出されて,東京高裁昭和55年2月5日決定(裁判長は1期の四ツ谷巌)は再審請求棄却決定であり,異議審としての東京高裁昭和56年3月23日決定(裁判長は2期の新関雅夫)は異議申立棄却決定であり,最高裁昭和60年5月27日決定(裁判長は大橋進)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 昭和61年8月21日に第2次再審請求が出されて,東京高裁平成11年7月8日決定(裁判長は14期の高木俊夫)は再審請求棄却決定であり,異議審としての東京高裁平成14年1月23日決定(裁判長は20期の高橋省吾)は異議申立棄却決定であり,最高裁平成17年3月16日決定は特別抗告棄却決定(裁判長は16期の島田仁郎)でした。
(5) 平成18年5月23日に第3次再審請求が出され,令和5年3月14日現在,東京高裁に係属中です(毎日新聞HPの「冤罪訴える石川一雄さん「次は狭山だ」 袴田事件の再審開始決定で」参照)。
(6) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾81頁ないし84頁に狭山事件が載っています。

5 日産サニー事件(平成4年3月23日決定に再審開始決定が出たものの,その後に取り消された。)

(1) 日産サニー事件は,昭和42年10月27日に福島県いわき市の日産サニー福島販売で発生した強盗殺人事件です。
(2) 福島地裁いわき支部昭和44年4月2日判決は無期懲役判決であり,仙台高裁昭和45年4月16日判決は控訴棄却判決であり,最高裁昭和46年4月19日決定は上告棄却決定でした。
(3) 福島地裁平成4年3月23日決定(担当裁判官は22期の西理,24期の園田小次郎及び35期の中村俊夫)は再審開始決定であったものの,仙台高裁平成7年5月10日決定(担当裁判官は11期の藤井登葵夫,17期の田口祐三及び21期の富塚圭介)は再審開始取消決定であり,最高裁平成11年3月9日決定(裁判長は7期の尾崎行信)は特別抗告棄却決定でした。

6 飯塚事件(平成20年10月28日死刑執行)
(1) 飯塚事件は,平成4年2月20日に福岡県飯塚市で小学1年生の女児2名が行方不明になり,翌日に他殺体となって発見された事件です。
(2) 福岡地裁平成11年9月29日判決(裁判長は24期の陶山博生)は死刑判決であり,福岡高裁平成13年10月10日判決(裁判長は19期の小出錞一)は控訴棄却判決であり,最高裁平成18年9月8日判決(裁判長は15期の滝井繁男)は上告棄却判決であり,平成20年10月28日に死刑が執行されました。
(3) 平成21年10月28日に再審請求(死後再審)が出されて,福岡地裁平成26年3月31日決定(裁判長は44期の平塚浩司)は再審請求棄却決定であり,福岡高裁平成30年2月6日決定(裁判長は34期の岡田信)は即時抗告棄却決定であり,最高裁令和3年4月21日決定(裁判長は小池裕)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾84頁及び86頁に飯塚事件が載っています。

7 和歌山毒物カレー事件
(1) 和歌山毒物カレー事件は,平成10年7月25日に和歌山市園部で発生した毒物混入・無差別大量殺傷事件であり,カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒となり,そのうちの4人が死亡した事件です。
(2)ア 和歌山地裁平成14年12月11日判決(裁判長は28期の小川育央)は死刑判決であり,大阪高裁平成17年6月28日判決(裁判長は18期の白井万久)は控訴棄却判決であり,最高裁平成21年4月21日判決(裁判長は21期の那須弘平(元弁護士))は上告棄却判決でした。
イ 最高裁平成21年4月21日判決は,「カレー毒物混入事件の犯行動機が解明されていないことは,被告人が同事件の犯人であるとの認定を左右するものではない。」と判示しています。
(3) 平成21年7月22日に第1次再審請求が出されて,和歌山地裁平成29年3月29日決定(裁判長は40期の浅見健次郎)は再審請求棄却決定であり,大阪高裁令和3年3月24日決定(裁判長は34期の樋口裕晃)は即時抗告棄却決定であり,令和3年6月20日付で特別抗告が取り下げられました。
(4) 令和3年7月9日に第2次再審請求が出されて,福岡地裁令和6年6月5日決定(裁判長は48期の鈴嶋晋一)は再審請求棄却決定でした。
(5) 令和3年5月31日に第2次再審請求が出されました。

8 北陵クリニック事件

(1) 北陵クリニック事件(Wikipediaでは,「筋弛緩剤点滴事件」です。)は,平成12年に宮城県・仙台市泉区の北陵クリニック(平成15年3月31日廃院)で発生した患者殺傷事件です。
(2) 仙台地裁平成16年3月30日判決(裁判長は27期の畑中英明)は無期懲役判決であり,仙台高裁平成18年3月22日判決(裁判長は24期の田中亮一)は控訴棄却判決であり,最高裁平成20年2月25日決定(裁判長は藤田宙靖)は上告棄却決定でした。
(3) 平成24年2月10日に再審請求が出されて,仙台地裁平成26年3月25日決定(裁判長は45期の河村俊哉)は再審請求棄却決定であり,仙台高裁平成30年3月28日決定は即時抗告棄却決定(裁判長は32期の嶋原文雄)であり,最高裁令和元年11月13日決定(裁判長は林景一)は特別抗告棄却決定でした。
(4) 2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書 末尾86頁ないし91頁に北陵クリニック事件が載っています。

9 美濃加茂市長汚職事件
(1) 美濃加茂市長汚職事件は,藤井浩人 美濃加茂市長(平成25年6月2日当選)が市議時代に自身の出身中学校への雨水濾過機設置に便宜を図った見返りに,名古屋市北区の浄水設備業者社長から,現金30万円を2回に分けて受け取った疑いがあるとして,平成26年6月24日,愛知県警・岐阜県警による合同捜査本部は事前収賄容疑等により藤井を逮捕した事件です。
(2)ア 名古屋地裁平成27年3月5日判決(裁判長は45期の鵜飼祐充56期の伊藤大介及び64期の柘植明子)は無罪判決であり,名古屋高裁平成28年11月28日判決(担当裁判官は35期の村山浩昭50期の大村泰平及び55期の赤松亨太)は逆転有罪判決(懲役1年6月・執行猶予3年・追徴金30万円)であり,最高裁平成29年12月13日決定(裁判長は27期の山崎敏充)は上告棄却決定でした。
イ Wikipediaの「藤井浩人」には「2021年夏、藤井の陣営は電話による世論調査を実施し、市民の反応を探った。「無実だと思う」「わからない」がそれぞれ4割、「有罪だと思う」は2割にとどまった。」と書いてあります。
(3) 令和3年11月30日に再審請求が出されて,名古屋高裁令和5年2月1日決定(裁判長は41期の田邊三保子)は再審請求棄却決定でした。



第4部 再審請求等に関する最高裁判例
第1 再審請求に関するもの
1 刑訴法435条6号の一般論に関する最高裁判例
(1)ア 最高裁昭和50年5月20日決定(白鳥事件に関するものですから,「白鳥決定」といいます。)の裁判要旨は以下のとおりです。
① 刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる盡然性のある証拠をいう。
② 刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、はたしてその確定判決においてされたような事実認定に到達したであろうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきである。
③ 刑訴法436条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」であるかどうかの判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が適用される。
イ 白鳥事件は,昭和27年1月21日に札幌市で発生した,日本共産党による白鳥警部射殺事件です。
(2) 刑訴法435条6号の再審事由の存否を判断するに際しては,F作成の前記書面等の新証拠とその立証命題に関連する他の全証拠とを総合的に評価し,新証拠が確定判決における事実認定について合理的な疑いをいだかせ,その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠(最高裁昭和50年5月20日決定最高裁昭和51年10月12日決定財田川事件に関するもの),名張毒ぶどう酒事件に関する最高裁平成9年1月28日決定参照)であるか否かを判断すべきであり,その総合的評価をするに当たっては,再審請求時に添付された新証拠及び確定判決が挙示した証拠のほか,たとい確定判決が挙示しなかったとしても,その審理中に提出されていた証拠,更には再審請求後の審理において新たに得られた他の証拠をもその検討の対象にすることができます(マルヨ無線事件に関する最高裁平成10年10月27日決定)。
2 再審事由の存否等の判断資料
・ 狭山事件に関する最高裁平成17年3月16日決定(判例秘書に掲載)は以下の判示をしています。
① (山中注:4つの鑑定書)は,第1次再審請求で上記と同一の論点について刑訴法435条6号の再審事由として主張されて既に判断を経たものであり,これを今回の第2次再審請求で再び再審事由として主張することは,刑訴法447条2項に照らし不適法である。
② (山中注:異議審において初めて提出された鑑定書が)異議申立ての趣意の理解に資する参考資料とする趣旨であるならばともかく,これらを再審事由として追加的に異議審で主張する趣旨であるとすれば,再審請求審の決定の当否を事後的に審査する異議審の性格にかんがみ,不適法といわざるを得ない。
③ 
弁護人は再審請求審でその主張する他の論点の裏付けとなる資料として上記供述調書(山中注:第一審の第1回公判で撤回された検察官請求証拠)を援用したものであるが,再審請求手続に上程した以上は,これを再審事由の存否等の判断資料として考慮することは許されると解すべきである。
④ 再審請求段階で検察官が提出した反論のための証拠を再審事由の判断資料として考慮し得ることは,最高裁平成7年(し)第49号同10年10月27日第三小法廷決定・刑集52巻7号363頁参照

3 前審に関与した裁判官の取扱い
(1)ア 再審請求の目的となつた確定判決に関与した裁判官であっても再審請求事件の裁判に関与することができます(最高裁昭和34年2月19日決定)。
イ 関連事件の控訴審の審判を担当した裁判官が,再審請求事件の抗告審の審判に関与しても,憲法37条1項の公平な裁判所の裁判でないとはいえません(最高裁昭和47年10月23日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年4月12日判決)。
(2)  裁判官が公訴棄却の判決をし,又はその判決に至る手続に関与したことは,その手続において再起訴後の第1審で採用された証拠又はそれと実質的に同一の証拠が取り調べられていても,再起訴後の審理において,刑訴法20条7号本文所定の除斥原因に当たりません(最高裁平成17年8月30日決定)。
4 再審請求事件の手続終了宣言
(1) 最高裁平成3年1月25日決定は,旧刑訴法による再審請求事件の特別抗告審において申立人の死亡により再審請求事件の手続の終了宣言がされた事例です。
(2) 最高裁平成16年6月24日決定は,再審請求事件の特別抗告審において申立人の死亡により再審請求事件の手続の終了宣言がされた事例です。
(3) 最高裁平成25年3月27日決定は,再審請求事件の特別抗告審において有罪の言渡しを受けた者の兄である申立人の死亡により再審請求事件の手続の終了宣言がされた事例です。
(4) 最高裁平成26年1月27日決定は,有罪の言渡しを受けた者の養子である申立人の死亡を理由とする旧刑訴法による再審請求事件の手続終了宣言に対する特別抗告が棄却された事例です。
5 再審の審判手続は再審が開始した理由に拘束されないこと
・ 再審制度がいわゆる非常救済制度であり,再審開始決定が確定した後の事件の審判手続が,通常の刑事事件における審判手続と,種々の面で差異があるとしても,同制度は,所定の事由が認められる場合に,当該審級の審判を改めて行うものであって,その審判は再審が開始された理由に拘束されるものではありません(横浜事件に関する最高裁平成20年3月14日判決)。
6 その他の最高裁判例
(1)  海軍軍法会議が言い渡した有罪の確定判決に対しては,旧刑訴法485条による再審の請求が許されます(最高裁昭和63年4月12日決定)。
(2)  旧刑事訴訟法の下において有罪の確定判決を受けた事件に対する再審請求につき高裁がした決定に対し,刑訴応急措置法18条により最高裁判所に申し立てられた特別抗告については,刑訴法411条3号は準用されません(最高裁平成2年10月17日決定)。
(3)  再審判決の一部有罪部分についての執行猶予付き本刑に裁定算入及び法定通算された未決勾留は,再審判決確定当時既に執行猶予期間が満了し本刑の執行の可能性がない場合には,刑事補償の対象となります(最高裁平成6年12月19日決定)。
(4) 高等裁判所のした再審請求棄却決定に対し再度の事実審理を受ける機会を設けなかった裁判所法,刑訴応急措置法,刑訴法施行法の各規定は憲法11条,13条,14条1項,31条,32条に違反しません(最高裁平成15年10月20日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和23年2月6日判決,最高裁大法廷昭和23年3月10日判決,最高裁大法廷昭和23年7月19日判決及び最高裁平成2年10月17日決定参照)。
(5)  即時抗告の申立てを受理した裁判所は,刑訴法375条を類推適用してその申立てを自ら棄却することはできません(最高裁平成18年4月24日決定)。
(6)ア 旧刑訴法適用事件について再審が開始された場合,その対象となった判決の確定後に刑の廃止又は大赦があったときは,再審開始後の審判手続においても,同法363条2号,3号の適用を排除して実体判決をすることはできず,免訴判決が言い渡されます(最高裁平成20年3月14日判決)。
イ 再審の審判手続が開始されてその第1審判決及び控訴審判決がそれぞれ言い渡され,更に上告に及んだ後に,当該再審の請求人が死亡しても,同請求人が既に上告審の弁護人を選任しており,かつ,同弁護人が,同請求人の死亡後も引き続き弁護活動を継続する意思を有する限り,再審の審判手続は終了しません(最高裁平成20年3月14日判決)。
(7) 再審請求人により選任された弁護人が記録確認を目的として当該再審請求がされた刑事被告事件に係る保管記録の閲覧を請求した場合には,同弁護人は,刑事確定訴訟記録法4条2項ただし書にいう「閲覧につき正当な理由があると認められる者」に該当し,保管検察官は,同項5号の事由の有無にかかわらず,保管記録を閲覧させなければなりません(最高裁平成21年9月29日決定)。
(8)  第1審裁判所と控訴裁判所に再審請求が競合した場合において,控訴を棄却した確定判決に対する再審請求が適法な再審事由の主張がないため不適法であることが明らかなときは,控訴裁判所は,刑訴規則285条1項による訴訟手続の停止をすることなく,当該再審請求を棄却することも許されます(最高裁平成24年2月14日決定)。
(9)  刑訴法448条2項による刑の執行停止決定に対しては,同法419条による抗告をすることができます(最高裁平成24年9月18日決定)。
(10) 再審請求人が,住居の届出をした後,裁判所に対してその変更届出等をしてこなかった一方で,裁判所も,同人の所在を把握できず,その端緒もなかったなどの判示の事実関係の下では,同人が別件で刑事施設に収容されていたとしても,上記届出住居に宛てて行った同人に対する再審請求棄却決定謄本の書留郵便に付する送達は,刑訴規則63条1項によるものとして有効です(最高裁平成27年3月24日決定)。
(11) 刑訴法435条1号にいう「確定判決」とは,刑事の確定判決をいうものと解すべきであり,民事の確定判決やこれと同一の効力を有する和解調書等は含まれません(最高裁平成31年2月12日決定)。

第2 国家賠償請求に関するもの
1 司法警察員による留置の違法性
 司法警察員による被疑者の留置については,司法警察員が,留置時において,捜査により収集した証拠資料を総合勘案して刑訴法203条1項所定の留置の必要性を判断する上において,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて留置したと認め得るような事情がある場合に限り,右の留置について国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けます(最高裁平成8年3月8日判決(判例秘書に掲載))。
2 検察官による公訴の提起及び追行の違法性
(1) 刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに公訴の提起が違法となるということはなく、公訴提起時の検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証と異なり、右提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により被告人を有罪と認めることができる嫌疑があれば足りるものと解すベきである(最高裁平成5年11月25日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁昭和53年10月20日判決)。
(2)ア 公訴提起時において,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により被告人を有罪と認めることができる嫌疑があれば、右公訴の提起は違法性を欠きます(最高裁平成5年11月25日判決(判例秘書に掲載)。なお,先例として,最高裁平成元年6月29日判決)。
イ 最高裁平成26年3月6日判決(判例秘書に掲載)は, 強制わいせつ致傷罪で起訴され,無罪判決を受けた元被告人が,検察官の公訴提起は,有罪判決を得る合理的な根拠がないのにされた違法なものと主張し,国賠法に基づく損害賠償を求めた事案において,国の上告に基づき原判決を破棄した上で,元被告人の請求を棄却しました。
(3) 再審により無罪判決が確定した場合であっても,公訴の提起及び追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったときは,検察官の公訴の堤起及び追行は国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為に当たりません(最高裁平成2年7月20日判決)。
3 裁判の違法性
・ 再審により無罪判決が確定した場合であっても,裁判官がした裁判につき国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が認められるためには,当該裁判官が,違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合であることを要します(最高裁平成2年7月20日判決)。
4 公務員個人の責任は追及できないこと
    国家賠償法1条1項は,公務員が,公権力の行使にあたって故意又は過失によって違法に他人に損害を与えたときにおいて,国又は公共団体が賠償責任を負うとしており,同項により,公務員個人の責任を追及できないとする最高裁判例としては例えば,以下のものがあります。
・ 最高裁昭和30年 4月19日判決
・ 最高裁昭和40年 3月 5日判決
・ 最高裁昭和40年 9月28日判決
・ 最高裁昭和46年 9月 3日判決
・ 最高裁昭和47年 3月21日判決
・ 最高裁昭和52年10月25日判決
・ 最高裁昭和53年10月20日判決
・ 最高裁平成 9年 9月 9日判決
・ 最高裁平成19年 1月25日判決

第5部 関連記事その他
第1 日弁連HPの掲載資料
1 日弁連HPの「再審法改正に向けた取組(再審法改正実現本部)」以下の資料が載っています。
・ 再審における証拠開示の法制化を求める意見書(2019年5月10日付)
・ えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議(2019年10月4日付)
 刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」(2023年2月17日付)

2 日弁連HPの「弁護士白書2022」に,「日弁連が支援している再審事件」及び「日弁連が支援した再審事件の成果」が載っています。
3 日弁連HPに2019年10月3日の日弁連人権擁護大会シンポジウム第3分科会基調報告書が載っています。
第2 再審に関する下級裁判所の決定を破棄した最高裁決定
1 下級裁判所の再審開始決定を破棄した最高裁決定としては以下のものがあります。
① 最高裁平成29年 3月31日決定(刑訴法411条1号準用)
② 最高裁平成29年12月25日決定(刑訴法411条1号準用)
③ 大崎事件に関する最高裁令和 元年 6月25日決定(刑訴法411条1号準用)
2 下級裁判所の再審請求棄却決定を破棄した最高裁決定としては以下のものがあります。
① 財田川事件に関する最高裁昭和51年10月12日決定
② 名張毒ぶどう酒事件に関する最高裁平成22年4月5日決定
③ 袴田事件に関する最高裁令和2年12月22日決定
3 上記6つの最高裁決定はすべて,原決定には刑訴法435条6号の解釈適用を誤った違法があるということで刑訴法434条・426条2項・411条1号に基づく職権発動としての破棄決定であって,刑訴法433条・405条所定の抗告理由に基づくものではありません。
第3 再審冬の時代

・ えん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議(2019年10月4日付)には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    1970年代から1980年代にかけては、「死刑再審4事件」で相次いで再審無罪判決が出たことによって、市民の関心が高まった時期もあった。
    しかし、その後の検察による激しい抵抗と裁判所の姿勢の後退によって、「再審冬の時代」、「逆流現象」などと言われるように、再審をめぐる状況は非常に厳しくなり、1990年代、当連合会の支援事件で再審が開始されたのは、榎井村事件(1993年(平成5年)11月に再審開始決定、1994年(平成6年)3月に再審無罪判決)のわずか1件にとどまった。
第4 再審請求で世論をあおるような行為は慎むべきとされていること
・ 財田川事件(さいたがわじけん)に関する最高裁昭和51年10月12日決定には「矢野弁護人(山中注:矢野伊吉弁護士(元裁判官)のこと。)は、正規の抗告趣意書を提出したほか、累次にわたり印刷物、著書等により、世間に対して申立人の無実を訴え、当裁判所にもそれらのものが送付されたが、弁護人がその担当する裁判所に係属中の事件について、自己の期待する内容の裁判を得ようとして、世論をあおるような行為に出ることは、職業倫理として慎しむべきであり、現に弁護士会がその趣旨の倫理規程を定めている国もあるくらいである。」と書いてあります(リンク先のPDF9頁及び10頁)。
第5 再審事件の不服申立ての期限
1 再審開始決定(刑訴法448条1項)又は再審請求棄却決定(刑訴法446条又は447条1項)に対する即時抗告(刑訴法450条)は3日以内にする必要があり(刑訴法422条),即時抗告棄却決定に対する特別抗告は5日以内にする必要があります(刑訴法433条2項)。
2 例えば,即時抗告棄却決定が月曜日に届いた場合,週明けの月曜日が特別抗告の期限となります。
第6 少年事件の再審制度
1(1) 柏の少女殺し事件に関する最高裁昭和58年9月5日決定は以下の判示をしています。
少年法三五条は、抗告棄却決定に対する再抗告事由を、憲法違反、憲法解釈の誤り及び判例違反のみに限定しているが、刑訴法上の特別抗告につき同法四一一条の準用を認める確立された当審判例の趣旨に照らせば、たとえ少年法三五条所定の事由が認められない場合であつても原決定に同法三二条所定の事由があつてこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるときは、最高裁判所は、その最終審裁判所としての責務にかんがみ、少年法及び少年審判規則の前記一連の規定に基づき、職権により原決定を取り消すことができると解すべきである。
(2) 「千葉県柏市少女刺殺事件について」(昭和58年9月9日付の日弁連会長の文書)には以下の記載があります。
このたび、最高裁判所は、千葉県柏市の少女刺殺事件について、現行少年法において、従来実務上行われてきた非行事実の不存在を理由とする保護処分取消の申立を運用上ほぼ確立したものとして容認し、かつ、新たに右申立につき保護処分を取消さないとの決定がされた場合、これに対しても抗告ができる旨の決定をした。
これにより、少年の保護処分に関しても、いわゆる「再審」が、抗告をも含めて、現行法上できることが、最高裁判所によって確認され、無実の少年を救済する途が一層大きく開かれた。
2(1) 少年法27条の2第1項は,保護処分の決定の確定した後に処分の基礎とされた非行事実の不存在が明らかにされた少年を将来に向かって保護処分から解放する手続等を規定したものであって,同項による保護処分の取消しは,保護処分が現に継続中である場合に限り許され,少年の名誉の回復を目的とするものではありません(最高裁平成3年5月8日決定。なお,先例として,最高裁昭和58年9月5日決定最高裁昭和59年9月18日決定及び最高裁昭和60年5月14日決定参照)。
(2) 平成13年4月1日以降に終了した保護処分については,少年法27条の2第2項(保護処分が終了した後においても、審判に付すべき事由の存在が認められないにもかかわらず保護処分をしたことを認め得る明らかな資料を新たに発見したときは、前項と同様とする。ただし、本人が死亡した場合は、この限りでない。)に基づき,保護処分が終了した後においても保護処分の取消しが認められるようになりました(平成12年12月6日法律第142号附則2条4項)。
第7 民事事件の再審の請求期限
1 民事事件の再審の場合,①当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき,又はこれを知りながら主張しなかったときは再審の事由とはなりませんし(民訴法338条1項ただし書),②判決確定後に再審事由を知った日から30日以内に再審の訴えをする必要がありますし(民訴法342条1項),③判決確定日から5年を経過したときは再審の訴えをすることができません(民訴法342条2項)。
2 民訴法338条1項ただし書後段に規定する「これを知りながら主張しなかったときとは,再審事由のあることを知ったのにかかわらず,上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴を提起しないで判決を確定させた場合も含むものと解すべきあり,判断遺脱のような再審事由については,特別の事情のない限り,終局判決の正本送達により当事者は,これを知ったものとして取り扱われます(最高裁昭和41年12月22日判決)。
第8 関連記事その他メモ書き
1 再審請求棄却決定があったときは,何人も,同一の理由によっては,更に再審の請求をすることはできません(刑訴法447条2項)。
2 日弁連の再審支援事件であるとともに,日本国民救援会の支援中の事件としては,小石川事件,福井女子中学生殺人事件,袴田事件,豊川事件,名張毒ぶどう酒事件,日野町事件及び大崎事件があります(日本国民救援会HP「国民救援会の支援事件」参照)。
3(1) 死刑再審無罪者は,無罪判決確定日から1年以内に死刑判決確定日以降の国民年金保険料を納付すれば,死刑判決確定日以降に係る国民年金を受給できます(死刑再審無罪者に対し国民年金の給付等を行うための国民年金の保険料の納付の特例等に関する法律2条)。
(2) 参議院HPの「これからの冤罪補償を考える」立法と調査270号)に刑事補償のことが書いてあります。
4 死刑の確定裁判を受けた者につき長期間にわたる拘置を継続したのちに死刑を執行することは,憲法36条にいう「残虐な刑罰」に当たりません(最高裁昭和60年7月19日決定)。
5(1) 東弁リブラ2023年10月号「今こそ変えよう!再審法-えん罪被害者の速やかな救済のために-」が載っています。
(2) 自由と正義2023年10月号に「特集 再審法改正にむけて」が載っています。
6 以下の記事も参照してください。
・ 刑事の再審事件の各種決定及び無罪判決(榎井村事件以降の日弁連再審支援事件に限る。)
・ 刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て
・ 冤罪事件における捜査・公判活動の問題点
・ 司法研修所刑事裁判教官の名簿

中尾隆宏裁判官(49期)の経歴

生年月日 S39.4.15
出身大学 不明
退官時の年齢 61歳
R7.10.31 依願退官
R6.4.1 ~ R7.10.30 東京地家裁立川支部判事
R3.4.1 ~ R6.3.31 横浜家裁家事第1部判事
H30.4.1 ~ R3.3.31 静岡地家裁富士支部長
H27.4.1 ~ H30.3.31 東京地裁23民判事
H25.4.1 ~ H27.3.31 広島地家裁判事
H24.4.1 ~ H25.3.31 広島高裁第2部判事(弁護士任官・東弁)

木山智之裁判官(54期)の経歴

生年月日 S51.11.3
出身大学 大阪大
定年退官発令予定日 R23.11.3
R5.4.1 ~ 大阪地裁12民判事
R2.4.1 ~ R5.3.31 岡山家地裁倉敷支部判事
H29.4.1 ~ R2.3.31 高松地家裁判事
H27.4.1 ~ H29.3.31 鳥取家地裁米子支部判事
H25.4.1 ~ H27.3.31 東京地裁判事
H24.4.1 ~ H25.3.31 東京高裁19民判事(弁護士任官・大弁)

* 中本総合法律事務所News&Topics第2号(2012年8月)1頁には「当事務所では、3月末までパートナー弁護士であった木山智之が裁判官に任官し、現在、東京高等裁判所で判事として執務しています。」と書いてあります。

山根良実裁判官(59期)の経歴

生年月日 S55.1.18
出身大学 中央大
定年退官発令予定日 R27.1.18
R6.4.1 ~ 東京地裁6民判事
R3.4.1 ~ R6.3.31 宇都宮家地裁足利支部判事
H30.4.1 ~ R3.3.31 大阪地裁1民判事(保全部)
H28.10.16 ~ H30.3.31 熊本地家裁判事補
H27.4.1 ~ H28.10.15 熊本地家裁判事補
H24.4.1 ~ H27.3.31 名古屋地裁判事補(弁護士任官・福岡弁)

永田早苗裁判官(48期)の経歴

生年月日 S44.10.14
出身大学 不明
定年退官発令予定日 R16.10.14
R6.4.1 ~ 宇都宮地裁2民部総括
R3.4.1 ~ R6.3.31 東京地家裁立川支部判事
H30.4.1 ~ R3.3.31 福岡地裁2民判事
H27.4.1 ~ H30.3.31 知財高裁第2部判事
H24.4.1 ~ H27.3.31 横浜地裁4民判事
H23.4.1 ~ H24.3.31 大阪地裁24民判事
H21.4.1 ~ H23.3.31 大阪高裁8民判事(弁護士任官・二弁)

* 弁護士任官をした時点の氏名は「片岡早苗」でした。

吉田祈代裁判官(54期)の経歴

生年月日 S49.12.26
出身大学 中央大
定年退官発令予定日 R21.12.26
R5.4.1 ~ 新潟地家裁高田支部長
R2.4.1 ~ R5.3.31 東京地裁13民判事
H29.4.1 ~ R2.3.31 富山地家裁判事
H26.4.1 ~ H29.3.31 神戸地裁2民判事(行政部)
H24.4.1 ~ H26.3.31 福岡地裁5民判事
H23.10.17 ~ H24.3.31 福岡高裁2民判事
H23.4.1 ~ H23.10.16 福岡地裁判事補(弁護士任官・東弁)

*1 中央オンラインに「弁護士から裁判官に 吉田 祈代さん/福岡地方裁判所判事」が載っています。
*2 令和5年3月1日の最高裁判所の裁判官会議議事録には「佐野祈代(54)」と書いてあります(リンク先のPDF30頁)。

長丈博裁判官(56期)の経歴

生年月日 S55.3.16
出身大学 大阪大
定年退官発令予定日 R27.3.16
R5.4.1 ~ 大阪地裁18民判事
R2.4.1 ~ R5.3.31 大分地家裁日田支部判事
H29.4.1 ~ R2.3.31 広島高裁第2部判事(民事)
H26.4.1 ~ H29.3.31 鹿児島地家裁判事
H23.4.1 ~ H26.3.31 大阪地裁判事補(弁護士任官・熊本弁)