冤罪事件における捜査・公判活動の問題点


目次
1 法務省HP又は検察庁HPにある,冤罪事件に関する捜査・公判活動の問題点をまとめた報告書
2 平成22年9月21日の,大阪地検特捜部証拠改ざん事件に関するスクープ記事
3 司法行政文書開示手続の場合,法解釈を示している部分等は不開示情報であること
4 関連記事その他

1 法務省HP又は検察庁HPにある,冤罪事件に関する捜査・公判活動の問題点をまとめた報告書
① 平成19年8月付の「いわゆる氷見事件及び志布志事件における捜査・公判活動の問題点について」
② 平成22年4月付の「いわゆる足利事件における捜査・公判活動の問題点等について(概要)」
・ リンク切れにつき,かつて掲載されていた文書を私のブログに載せています。
・ 警察庁HPに「足利事件における警察捜査の問題点等について(概要)」(平成22年4月)が載っています。
③ 平成22年12月付の「いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査・公判活動の問題点等について(公表版)」
・ 検察庁内部において,逮捕の判断,起訴の判断,捜査・処理における取調べ・決裁,公判遂行中の対応が具体的にどのようになされているかが非常によく分かるのであって,例えば,末尾20頁(PDF25頁)には以下の記載があります(本件というのは厚労省元局長無罪事件のことであり,A氏というのは村木厚子 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長(平成21年6月14日逮捕)のことです。)。
    最高検における本件の検討は,担当のP3検事が,高検刑事部長から,報告書等の資料の送付を受け,電話で報告・説明を受けて,その検討の結果を最高検刑事部長,次長検事及び検事総長に報告して,その了承を得るという形で行われた。ただし,A氏の処分に関する検討の際は,高検刑事部長が,別事件に関する報告も併せて最高検を訪れ,最高検のP3検事と協議の上,検事総長室において,検事総長及び次長検事に対し,報告書に基づき,処分の方針を報告し,その了承を得た


2 平成22年9月21日の,大阪地検特捜部証拠改ざん事件に関するスクープ記事
(1) 平成22年9月21日の,大阪地検特捜部証拠改ざん事件に関するスクープ記事については,「大スクープはこうして生まれた 大阪地検特捜部証拠改ざん事件報道を,朝日・板橋洋佳記者と語る」が大変,参考になります。
(2) リンク先の文中の「第8回 公開議論・質疑応答 (2)報道機関と権力の関係」には以下の記載があります。
(石丸)
権力との関係ということに集中してお訊きしたいと思います。
大阪高検の三井さんが裏金事件を暴露しようとした直前に逮捕されました。三井さん自身は検察の中の人でした。外部の、たとえばジャーナリストを口封じ的に、報復として逮捕するようなことがあれば、大変な問題です。
検察との関係のなかで、どの程度までの危険を想定しながら取材していたんでしょうか。
(合田)
それは記者の逮捕もありうるということですが、その容疑はなんでしょうか。
(板橋)
考えていたのは守秘義務違反、つまり国家公務員法違反です。それ以外では、警戒しすぎだと思われるかもしれませんが、例えば書店に行った際に、鞄に本を入れられて万引きで逮捕されるとかですね。いろいろ想定はしましたが、尾行されたことも結果的にありませんでした。
つまり、杞憂におわったのが実情です。
検察組織にも、改ざんをした検事とは違って、証拠と法に基づいて真面目にやっている検事たちがいます。組織全部がだめというわけではありません。
当然、きちんと物事を判断できる検察幹部や現場の検事たちもいますから、おそらく逮捕はないだろうと思っていましたが、危機管理としては想定していました。
(3) 報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといって,直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく,それが真に報道の目的からでたものであり,その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは,実質的に違法性を欠き正当な業務行為です(最高裁昭和53年5月31日決定)。


3 司法行政文書開示手続の場合,法解釈を示している部分等は不開示情報であること
・ 46期の岡口基一裁判官が平成30年5月17日頃にツイートで紹介した事件の第1審判決及び控訴審判決(平成30年6月12日付の東京高裁事務局長報告書の別紙)に関する令和2年度(情)答申第37号には以下の記載があります。
     苦情申出人は,①本件第1審判決のうち法解釈を示している部分,②犬の犬種等を記載した別紙物件目録及び写真,③担当裁判官の氏名については,明らかに法5条1号の不開示情報に相当しない旨主張する。
     しかしながら,上記①及び②の各情報は,上記1及び2(1)のとおり,いずれも法5条1号に規定する個人識別情報であり, 同号ただし書イからハまでに掲げる情報に相当する事情は認められない。そして,上記①について,これが公にされた場合には,特定の訴訟当事者間における特定の民事訴訟の事実関係や主張内容,訴訟の勝敗を分けた原因等を推知される可能性があり,また,上記②についても,これが公にされた場合には,上記民事訴訟における返還請求の対象となった犬を特定される可能性があるといえ,当該訴訟当事者の権利利益が害されるおそれがあると認められるから, これらについて,いずれも取扱要綱記第3の2に定める部分開示をすることはできない。
    また,上記③については,本件対象文書において不開示とされたのは裁判官の署名であり,法5条1号に規定する個人識別情報に相当すると認められ,職務の遂行に係る情報には当たるものの,その固有の形状が文書の真正を示す認証的機能を有しており, これが公にされた場合には,偽造など悪用されることを誘発して,個人の権利利益が害されるおそれがあることからすれば,同号ただし書に規定する情報に相当するとはいえない。このことからすれば,苦情申出人が指摘する事案において裁判官の氏名が開示されていたことと同視することはできない。


4 関連記事その他
(1) 日弁連HPに「「足利事件」調査報告書」(2011年5月6日付)が載っています。
(2) 大阪地裁平成25年9月4日判決(判例秘書に掲載。裁判長は41期の中垣内健治裁判官)は,大阪地検特捜部証拠改ざん事件に関して大阪地検特捜部副部長が提起した懲戒免職処分取消等請求を棄却しました。
(3) 平成21年度初任行政研修「事務次官講話」「国家がなすべきことと民間とのコラボレーション-裁判員制度からの示唆-」と題する講演(平成21年5月26日実施)において,小津博司法務事務次官は以下の発言をしています(PDF22頁)。
    痴漢冤罪でありますけれども、冤罪って何かというのは難しいのですが、ただ、やはり無罪になったので冤罪と言っているのだと思いますね。このタイプの事件というのは非常に難しい事件です。たくさん起こっているけれども、一対一であって、その立証に非常に検察側も難渋しているということがあります。そのときそのときで、この被害者の言っていることは信用できる、こういう証拠があるということで起訴はするわけですけれども、それがほかのタイプの事件と違って、何かそれが裁判所で信用できないと言われてしまう、どうしてもそういう立証構造になるというところと、それからもう一つは、やはりみんな、えっ、おれだって言われるのではなかというふうに思ってしまうところが余計にこの問題は切実なのであります。
(4) 東北大学HPの「裁判官の学びと職務」(令和5年11月22日に東北大学法科大学院で行われた、法科大学院学生を対象とした47期の井上泰士の講演原稿に大幅に加筆したもの)には以下の記載があります(改行を追加しています。)。
    過早な決断をしてしまうことは、実は犯罪捜査官にありがちです。すなわち、「スジ読み」とも言われるのですが、優秀で練達の捜査官は、断片的な証拠から事件の全体像を実に見事につなぎ合わせていくのです。その結果、「ここにはこういう証拠があるはずだ。」という目利きができるので、そこに捜査の資源を投入すると、見事ビンゴ!ということになるわけです。
しかし、無謬の捜査官はおりません。そのため、「スジ読み」を間違えて妙なところに捜査の資源を投入すると、出るべき証拠が出てこない焦りから、しばしば無理な取調べや違法捜査につながってしまうのです。無罪事件や冤罪事件が生まれる一つのパターンです。捜査官たるもの、出るべきところで証拠が出てこないのであれば、「スジ読み」自体を柔軟に見直す勇気と度量が必要なのです。

(5) 以下の記事も参照して下さい。
・ 判決要旨の取扱い及び刑事上訴審の事件統計
・ 刑事事件の上告棄却決定に対する異議の申立て
 最高裁判所事件月表(令和元年5月以降)


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