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司法研修所弁護教官の業務と破産管財人業務にいう「弁護士の業務」―弁護士法と所得税法の区別(AIリライト)

第1 「弁護士の業務」の意味は法令ごとに異なること

1 単純な対比が正確でない理由

司法研修所弁護教官の事務と破産管財人の業務を比較する場合,「弁護士の業務」という語がどの法令上の意味で用いられているかを区別する必要がある。平成30年度(最情)答申第64号における弁護教官の事務の位置付けは,司法行政文書の開示における個人識別情報該当性を判断するためのものであり,弁護教官謝金の所得区分を判断したものではない。

これに対し,破産管財人報酬が「弁護士の業務に関する報酬」に当たるという最高裁判決及び国税庁の説明は,所得税法204条1項2号に基づく源泉徴収に関するものである。しかも,国税庁は,破産管財人の業務は弁護士法3条1項の「一般の法律事務」には該当しない一方,所得税法204条1項2号にいう「弁護士の業務」には含まれると説明している。

したがって,「弁護教官の業務は弁護士業務ではないが,破産管財人の業務は弁護士業務である」と単純に対比することは正確でない。

2 区別すべき四つの問題

本記事では,次の四つの問題を区別する。

① 弁護士法3条1項の「一般の法律事務」に該当するか。

② 所得税法204条1項2号の源泉徴収対象である「弁護士の業務に関する報酬又は料金」に該当するか。

③ 受領した謝金又は報酬が事業所得,給与所得又は雑所得のいずれに該当するか。

④ 司法行政文書の開示において,事業を営む個人の事業情報として扱われるか,個人識別情報として扱われるか。

第2 司法研修所弁護教官の事務と謝金

1 弁護教官の事務

司法研修所は,司法修習生に対する司法修習を担当する最高裁判所の附属機関である。集合修習では,民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護及び刑事弁護の各科目について,教官が講義,起案の添削・講評及び討論の指導等を行っている。

平成30年度(最情)答申第64号における最高裁判所事務総長の説明も,弁護教官の事務は,司法修習生に対する講義,研究・演習及び起案講評等を内容とするとしている。

2 平成30年度(最情)答申第64号の射程

平成30年度(最情)答申第64号は,弁護教官等の謝金の単価,支給額,税額及び差引支給額等の不開示が妥当かを扱った答申である。苦情申出人は,これらの情報は事業を営む個人の事業に関する情報であると主張した。

これに対し,最高裁判所事務総長は,弁護教官の事務は弁護士業務を相当程度犠牲にして行う講義,研究・演習及び起案講評等であり,弁護士法3条1項の弁護士の業務とはいえないと説明した。同時に,謝金が事業所得に当たるかは専ら税法上の問題であり,当該開示判断には直接関係しないと明記した。情報公開・個人情報保護審査委員会は,この説明を踏まえ,対象情報を事業を営む個人の事業情報ではなく,個人識別情報として扱うことが不合理ではないと判断した。

したがって,同答申から「弁護教官謝金は事業所得ではない」と結論付けることはできない。また,同答申は裁判所の判決ではなく,司法行政文書の開示に関する答申であるから,その射程を弁護士法又は所得税法の一般的解釈に拡張すべきではない。

3 職務説明文書及び謝金増額要望書に関する別の答申

平成30年度(最情)答申第20号によれば,新たに委嘱された弁護教官には,必要に応じて他の弁護教官等が職務内容を説明しており,司法研修所は当時,そのための説明文書を作成又は取得していなかった。この答申が認定したのは,特定の説明文書を最高裁判所が保有していないことであり,弁護教官の職務内容を説明する資料が一般に存在しないことではない。

平成30年度(最情)答申第9号によれば,日弁連が司法研修所に提出した弁護教官及び所付に対する謝金増額要望書は,司法研修所が対応した後,短期保有文書として廃棄したと説明されている。したがって,この答申についても,要望書が作成又は提出されなかったという意味ではない。

4 日弁連による待遇改善要望及び経済的支援

日弁連の令和7年度会務報告書によれば,日弁連は,令和7年12月22日付けで,司法研修所に対し,司法修習生研修委託費の増額に関する要望書を提出した。同会務報告書は,司法研修所が弁護教官及び所付に支払う謝金額について,日弁連が引き続き増額を求める予定であることも記載している。

十分な増額が実現するまでの措置として,日弁連は平成28年度から弁護教官及び所付に対する経済的支援を実施しており,令和7年度も支援を実施したとされている。このように,弁護教官の活動は,司法修習を担う公的な教育活動である一方,その謝金及び経済的負担については現在も待遇改善の対象となっている。

第3 破産管財人の業務と源泉徴収

1 現行破産法上の地位

破産法74条によれば,破産管財人は裁判所が選任し,法人も破産管財人となることができる。破産管財人は裁判所の監督を受け,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は破産管財人に専属する(破産法75条及び78条)。

したがって,破産管財人は常に弁護士でなければならないわけではなく,破産管財業務が当然に弁護士法3条1項の「一般の法律事務」となるわけでもない。

2 弁護士法3条の業務ではないが,弁護士法が予定する業務であること

国税庁の質疑応答事例「破産管財人報酬」は,破産管財人の業務は,弁護士法3条1項の「一般の法律事務」には該当しないと明記している。一方,弁護士法24条は,弁護士が,正当な理由なく,法令により官公署から委嘱された事項等を行うことを辞することができないと定めている。

また,弁護士法30条の5に基づく法務省令1条1号は,弁護士法人の業務として,官公署の委嘱等により管財人等の地位に就き,他人の財産を管理又は処分する業務を掲げている。国税庁は,これらの規定から,弁護士法は弁護士が破産管財人の地位に就いて業務を行うことを予定していると説明している。

3 破産管財人報酬は源泉徴収の対象であること

所得税法204条1項2号は,弁護士の業務に関する報酬又は料金の支払をする者に源泉徴収義務を課している。国税庁は,この「弁護士の業務」を弁護士法3条1項の「一般の法律事務」に限定する理由はなく,弁護士としての専門的知識をもって行う業務も含まれるとしている。そのため,国税庁は,弁護士が受ける破産管財人報酬は,所得税法204条1項2号の「弁護士の業務に関する報酬又は料金」に当たり,源泉徴収の対象になると説明している。

最高裁平成23年1月14日第二小法廷判決(平成20年(行ツ)第236号,民集65巻1号1頁)も,法人の破産手続において,弁護士である破産管財人が破産財団から自らの報酬を支払う際,所得税を源泉徴収して国に納付する義務を負うと判断した。ただし,同判決の事案は平成16年法律第75号による廃止前の旧破産法に基づくものであり,所得税法204条2項2号が定める個人からの支払に関する例外との関係を一般論として判示したものではない。同判決中の旧破産法の条文番号を現行法の条文番号として引用してはならない。

4 開始前の退職手当等の債権に対する配当との区別

前記最高裁判決は,破産管財人自身の報酬について源泉徴収義務を認めた一方,破産手続開始前の雇用関係に基づく退職手当等の破産債権に対する配当については,源泉徴収義務を否定した。破産管財人は破産者から独立した地位にあり,開始前に雇用されていた労働者との間に使用者と労働者に準ずる密接な関係がなく,破産者の源泉徴収義務者としての地位を当然に承継する根拠もないためである。

したがって,破産手続における金銭の支払であることだけから,すべての支払について源泉徴収義務が生じるわけではない。

5 平成14年裁決の位置付け

国税不服審判所平成14年2月25日裁決(裁決事例集63号212頁)は,特定の弁護士が受けた破産管財人報酬について,弁護士法3条1項の職務に伴う報酬であり,所得税法204条1項2号の対象となると判断した。

しかし,同裁決は旧破産法を前提とし,管財業務を弁護士法3条1項の業務に位置付けた点でも,破産管財人の業務は同項の「一般の法律事務」には該当しないとする国税庁の現行説明と異なる。現行破産法74条2項は,法人が破産管財人となることができる旨を明記している。

そのため,同裁決が引用する旧破産法59条,76条,162条及び244条以下を現行法の根拠として掲げたり,同裁決の弁護士法3条に関する説明を現在の国税庁見解として紹介したりすべきではない。

第4 弁護教官謝金の所得区分

1 源泉徴収と所得区分は別の問題であること

報酬が所得税法204条の源泉徴収対象となるかという問題と,受領者においてどの所得区分に属するかという問題は,同一ではない。本件との関係では,事業から生ずる事業所得,俸給,給料,賃金その他これらの性質を有する給与に係る給与所得及び他の各種所得のいずれにも該当しない雑所得が主な検討対象となる(所得税法27条,28条及び35条)。

平成30年度(最情)答申第64号も,弁護教官謝金が事業所得に当たるかは専ら税法上の問題であり,情報公開上の判断には直接関係しないとしている。

2 事業所得と給与所得の判定

最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(昭和52年(行ツ)第12号,民集35巻3号672頁)は,弁護士の顧問料が事業所得か給与所得かは,一般的・抽象的に決めるのではなく,業務及び所得の具体的態様に応じて判断すべきであるとした。同判決は,自己の計算と危険における独立性,営利性・有償性,反復継続の意思及び社会的地位が客観的に認められるかを事業所得の判断要素とし,使用者の指揮命令の下で提供した労務の対価か,場所的・時間的拘束を受けるかなどを給与所得の判断要素とした。

ただし,同判決は弁護士の顧問料に関するものであり,弁護教官謝金を直接判断したものではない。

3 平成15年裁決の射程

国税不服審判所平成15年3月11日裁決(裁決事例集65号103頁)は,弁護士の著書の印税収入及びその広告費を扱った裁決であり,弁護教官謝金又は一般的な講演料を直接扱ったものではない。

同裁決は,講演料,出演料,印税及び原稿料等についても,弁護士の立場で行われたか,又は弁護士としての知識・経験に基づき本来の弁護士職務と直接の結び付きが客観的に認められる場合には,弁護士業に係る事業所得の総収入金額に含まれ得るとした。したがって,弁護士が受けた講演料等が常に事業所得になるわけではなく,弁護士業との直接の結び付きを客観的に検討する必要がある。

弁護教官謝金についても,委嘱及び業務の具体的態様,独立性,指揮命令関係,場所的・時間的拘束,継続性並びに弁護士業との直接の結び付き等を検討せず,一律に事業所得,給与所得又は雑所得のいずれかであると断定することはできない。

第5 関連記事

① 司法研修所教官

② 司法研修所弁護教官の任期,給料等

③ 弁護士業務と源泉徴収義務

④ 司法研修所の教官組別表,教官担当表及び教官名簿

⑤ 司法研修所の職員配置図,各施設の配置及び平成24年8月当時の門限

⑥ 司法研修所教官会議の議題及び議事録

第6 出典

① e-Gov法令検索「弁護士法

② e-Gov法令検索「弁護士法人,外国法事務弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人の業務及び会計帳簿等に関する規則

③ e-Gov法令検索「破産法

④ e-Gov法令検索「所得税法

⑤ 最高裁判所「司法研修所」及び「司法修習の概要

⑥ 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会平成30年度(最情)答申第64号同第20号及び同第9号

⑦ 最高裁平成23年1月14日第二小法廷判決(平成20年(行ツ)第236号,民集65巻1号1頁)

⑧ 最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(昭和52年(行ツ)第12号,民集35巻3号672頁)

⑨ 国税庁質疑応答事例「破産管財人報酬」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づくもの)

⑩ 国税不服審判所平成14年2月25日裁決(裁決事例集63号212頁)及び同平成15年3月11日裁決(裁決事例集65号103頁)

⑪ 日本弁護士連合会『令和7年度会務報告書』PDF実頁55頁~56頁(会員用ページ)