第1 この記事の対象と結論
平成30年司法試験民事系第3問(民事訴訟法)を,法務省の出題の趣旨及び採点実感に基づいて検討する。
重複起訴と反訴,診療記録の文書提出義務,補助参加人による控訴が中心となる。
評価項目と重みは独自の分析であり,法務省の公式採点基準・配点・予測得点ではない。
| 確認項目 | 本記事の内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成30年司法試験民事系科目第3問(民事訴訟法) |
| 公式問題 | 法務省の問題PDF・PDF9~13頁 |
| 基準時 | 平成30年5月17日・試験実施時 |
| 公式資料の状態 | 問題・出題の趣旨・採点実感の本問関連範囲は実読済み |
| 評価項目 | 40項目・重み5は12件・重み合計159 |
| 答案の分量 | 改行を除き3637字。上限5000字以内 |
| 確認日 | 令和8年10月24日 |
設問1は乙地裁での反訴及び共同訴訟的反訴を許容し,甲地裁への別訴も本件の事情に限定して適法と立論する。
設問2は患者Aの当事者性と開示行為を踏まえ,関連範囲でDの提出義務を肯定する。
設問3は同時の参加申出・控訴を認める一方,参加の利益を否定する立場を採り,控訴却下まで論じる。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
各行は,答案から充足の有無を判断できる一つの評価対象である。
「注意」は誤りや過剰記載の回避を示し,独立の減点配点ではない。
許容分岐は採用した構成に応じて適用し,反対構成まで累積的に要求しない。
根拠欄の「記載なし」は本問関連範囲を実読した結果であり,資料未読の意味ではない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認 |
両公式資料に登場するかどうかだけで重みを決めず,設問内の役割で判断した。
重み5は判断構造を左右する事項に限定し,その構造を支える主要な理由付けは重み4とした。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
乗客Aが,Bの運転するタクシーとCの自動車との衝突事故で負傷した。
Bは乙地裁で150万円を超える賠償債務の不存在確認を求め,AはB及びCに400万円を請求しようとする。
その後,甲地裁の給付訴訟で診療記録の提出が問題となり,第一審はBに250万円の支払を命じてCへの請求を棄却した。
BがAを補助する参加申出と控訴をしたところ,Cが異議を述べた。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 修習生PからL1への説明 | 乙・甲のいずれでも適法と立論。甲乙の管轄は前提。不法行為のみ | 先訴の訴訟物を特定し,Cの共同被告追加を含めた適法性 |
| 2 | 修習生QからL2への説明 | 挙証者B,所持者D。Dの反論を考慮し,条文に即して提出義務を肯定 | 秘密保護と免除の具体的評価 |
| 3 | 丙高裁の判断 | (ア)(イ)を別々に検討。費用・仮執行は対象外 | 参加の利益と控訴の適法性の結論 |
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Bの訴えの訴訟物を不法行為損害賠償債務の150万円超過部分と特定する。 | 5 | PDF12頁・第3問。「150万円を超える部分」 | PDF18頁・第3問。「150万円以下の部分」 |
| 2 | 訴状副本の送達で先訴が係属していることを示す。 | 3 | PDF12頁・第3問。「訴状がAに送達されて」 | PDF18頁・第3問。「事件が裁判所に係属している」 |
| 3 | 当事者の地位逆転・C追加にかかわらず,AB間の重複部分に事件の同一性を認める。 | 5 | PDF12頁・第3問。「当事者と訴訟物の同一性」 | PDF18頁・第3問。「当事者が同一ではない」 |
| 4 | 142条を審理重複・矛盾判断・応訴負担を避ける趣旨から解釈する。 | 4 | PDF12頁・第3問。「重複起訴禁止の趣旨」 | PDF18頁・第3問。「重複起訴の禁止の趣旨」 |
| 5 | A対Bの給付請求を反訴として提起する構成を示す。 | 4 | PDF12頁・第3問。「反訴を提起することができ」 | PDF18頁・第3問。「反訴として提起されれば」 |
| 6 | 反訴なら統一審理でき142条に抵触しない理由を述べる。 | 5 | PDF12頁・第3問。「重複起訴禁止の趣旨に反しない」 | PDF18頁・第3問。「重複起訴の禁止の趣旨に抵触しない」 |
| 7 | 同一事故の共同不法行為で38条前段の共同訴訟要件を満たすと当てはめる。 | 4 | PDF12頁・第3問。「共同訴訟の一般的要件」 | PDF19頁・第3問。「同法第38条前段」 |
| 8 | 第三者Cへの請求の併合が法定外の主観的追加的併合となる障害を検討する。 | 5 | PDF12頁・第3問。「主観的追加的併合」 | PDF19頁・第3問。「法定外の主観的追加的併合」 |
| 9 | 初回期日前からCが関与できるなど,Cの手続的利益を理由付きで保障する。 | 4 | PDF12頁・第3問。「それが許されるとの立論」 | PDF19頁・第3問。「Cの利益に配慮した論述」 |
| 10 | 共同給付別訴を選ぶ場合は,反訴を選ばない理由と弁論併合による重複起訴解消を説明する。【適用条件:乙地裁で別訴・併合構成を採用する答案】 | 3 | PDF12頁・第3問。「口頭弁論が併合されることにより」 | PDF18頁・第3問。「なぜ別訴とすべきであるのか」 |
| 11 | 給付反訴の判断で先行確認の利益が失われることを,反訴事案の判例の射程とともに補足する。 | 3 | PDF12頁・第3問。「確認の利益が認められなくなる」 | PDF19頁・第3問。「更に確認の利益についても言及する」 |
| 12 | 異なる裁判所の別訴は反訴によれず,直ちに弁論併合もできないと区別する。 | 4 | PDF13頁・第3問。「直ちに口頭弁論を併合することも」 | PDF19頁・第3問。「直ちには弁論の併合を求めることができない」 |
| 13 | 確認判決と異なる給付判決の執行力を,別訴許容の必要性へ結び付ける。 | 4 | PDF13頁・第3問。「執行力が認められる」 | PDF19頁・第3問。「執行力が認められる」 |
| 14 | 150万円以下は先訴と重ならず,給付別訴による救済が必要な点を検討する。 | 3 | PDF13頁・第3問。「150万円については訴訟物の重なりがない」 | PDF19頁・第3問。「訴訟物の重なりがない」 |
| 15 | Bの先行提訴がAの甲地裁で訴える地位を損なう不利益を評価する。 | 4 | PDF13頁・第3問。「Aが甲地裁で訴えを提起できる」 | PDF19頁・第3問。「地位を損なうこと」 |
| 16 | 先訴第1回口頭弁論前で審理未進行であることを重複負担の小ささへ評価する。 | 4 | PDF13頁・第3問。「第1回口頭弁論期日前」 | PDF19頁・第3問。「審理が進んでいる状態ではない」 |
| 17 | 本件事情に即して142条の趣旨が妥当しない理由を述べ,一般的な給付別訴優先へ飛躍しない。 | 5 | PDF13頁・第3問。「適法と認めるべき必要性」 | PDF19頁・第3問。「常に適法である」 |
| 18 | 【注意】管轄があるとの設問前提を維持し,甲乙の土地・事物管轄論を展開しない。 | 2 | PDF12頁・第3問。「管轄の有無を論ずる必要はない」 | PDF20頁・第3問。「無益な論述」 |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | 挙証者B・所持者D・秘密利益主体Aを区別し,挙証者をAとしない。 | 4 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF21頁・第3問。「申立てをしたBを指す」 |
| 20 | 220条4号の一般的文書提出義務を根拠とする。 | 4 | PDF13頁・第3問。「一般的な文書提出義務」 | PDF20頁・第3問。「民事訴訟法第220条第4号」 |
| 21 | 220条4号ハと197条1項2号を接続し,医師の守秘義務の除外事由を検討する。 | 5 | PDF13頁・第3問。「第197条第1項第2号」 | PDF20頁・第3問。「秘密文書」 |
| 22 | 病状・治療経過の患者の秘密利益を認め,提出義務との対立を明らかにする。 | 3 | PDF13頁・第3問。「Aについての情報」 | PDF20頁・第3問。「Aのプライバシーに属する事柄」 |
| 23 | A自身が訴訟当事者として開示義務を負う情報かを検討し,Dの秘密保護の限界へ接続する。【適用条件:本人の開示義務に着目する構成を採用する答案】 | 5 | PDF13頁・第3問。「当該訴訟の当事者に対して負う守秘義務」 | PDF20頁・第3問。「A自身がAの訴えに係る訴訟の当事者として開示義務を負」 |
| 24 | Aの当事者性と診療記録の一部提出を,利益放棄又は不公正という理由付けで評価する。【適用条件:開示行為から免除・保護利益を論じる構成】 | 4 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF21頁・第3問。「Aが当該訴訟の手続において既に診療記録の一部を提出」 |
| 25 | 保護利益が及ばない理由を「黙秘の義務が免除されていないもの」に当たらないという条文評価へ戻す。 | 5 | PDF13頁・第3問。「除外事由に当たらないことの理由」 | PDF21頁・第3問。「医師が黙秘の義務を免除されている」 |
| 26 | 本人開示義務に関する金融機関判例と,医師固有の守秘義務との差を比較して射程を論じる。【適用条件:金融機関判例の趣旨を及ぼす構成を採用する答案】 | 4 | PDF13頁・第3問。「平成19年12月11日」 | PDF20頁・第3問。「同質性の有無」 |
| 27 | 利益文書構成ではAでなくBの利益のために作成されたといえる理由を示す。【適用条件:220条3号前段の利益文書構成を採用する答案】 | 4 | PDF13頁・第3問。「第220条第3号前段」 | PDF21頁・第3問。「Aの訴訟の相手方であるB」 |
| 28 | 利益文書構成では1~3号と4号の関係及び除外事由の適用・類推を検討する。【適用条件:利益文書構成を採用する答案】 | 3 | PDF13頁・第3問。「除外事由の適用又は類推適用」 | PDF21頁・第3問。「同条第1号から第3号までの提出義務」 |
| 29 | 【注意】自己利用文書の検討だけで秘密文書の問題に代答しない。 | 3 | PDF13頁・第3問。「自己利用文書の該当性を論ずる必要はない」 | PDF21頁・第3問。「同号ハ・第197条第1項第2号を検討せず」 |
| 30 | 【注意】当事者性・一部提出又は真実発見から,媒介理由なしにDの提出義務を断定しない。 | 4 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF21頁・第3問。「このような論述が短絡的」 |
| 31 | 【注意】220条各号の網羅的列挙に紙幅を費やさず,4号ハ等の核心へ焦点を合わせる。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF21頁・第3問。「各文書について網羅的に言及する」 |
3 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 32 | 43条2項により補助参加の申出と控訴を同時にできることを示す。 | 5 | PDF13頁・第3問。「第43条第2項」 | PDF22頁・第3問。「同法第43条第2項」 |
| 33 | 45条1項の上訴権と結び,第一審不参加だけでは控訴できないとの主張を退ける。 | 4 | PDF13頁・第3問。「第45条第1項」 | PDF22頁・第3問。「補助参加人は控訴の提起をすることができる」 |
| 34 | 法律上の利益を要することと「訴訟の結果」の意味を明示する。 | 5 | PDF13頁・第3問。「補助参加の利益」 | PDF22頁・第3問。「「訴訟の結果」の意義」 |
| 35 | AC間訴訟の実体法上・訴訟法上の効果が当然にはBC間に及ばないと示す。 | 5 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF22頁・第3問。「実体法上及び訴訟法上の効果」 |
| 36 | 参加利益を否定する構成では,Bが後の求償訴訟で主張立証できる機会を論じる。【適用条件:参加利益否定説を採る答案】 | 4 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF23頁・第3問。「主張立証をする機会」 |
| 37 | 参加利益を肯定する構成では,法的拘束がないのに求償へ生じる事実上の影響を丁寧に説明する。【適用条件:参加利益肯定説を採る答案】 | 4 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF23頁・第3問。「求償関係に事実上影響」 |
| 38 | 訴訟の結果の定義と参加利益の当てはめを整合させ,A勝訴でB債務が当然減るなどとしない。 | 4 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF23頁・第3問。「自身の述べる考え方と整合しない」 |
| 39 | 両主張の検討を受け,丙高裁が控訴の適法性をどう判断するかまで結論を示す。 | 5 | PDF13頁・第3問。「Bの控訴が適法か否かの結論」 | PDF23頁・第3問。「丙高裁が控訴の適法性について」 |
| 40 | 【注意】被参加人の意思との抵触,訴訟の程度,控訴・審級の利益など本問で不要な論述を重ねない。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF22頁・第3問。「全く必要がない」 |
4 重みの分布
重み1=0件,2=3件,3=7件,4=18件,5=12件である。
総数N=40,重み合計W=159となる。
この合計は公式得点ではなく,異なる構成の項目を全て満たすべきことも意味しない。
重み5は,番号1(Bの訴えの訴訟物を不法行為損害賠償債務の150万円超過部分と特定する),番号3(当事者の地位逆転・C追加にかかわらず,AB間の重複部分に事件の同一性を認める),番号6(反訴なら統一審理でき142条に抵触しない理由を述べる),番号8(第三者Cへの請求の併合が法定外の主観的追加的併合となる障害を検討する),番号17(本件事情に即して142条の趣旨が妥当しない理由を述べ,一般的な給付別訴優先へ飛躍しない),番号21(220条4号ハと197条1項2号を接続し,医師の守秘義務の除外事由を検討する),番号23(A自身が訴訟当事者として開示義務を負う情報かを検討し,Dの秘密保護の限界へ接続する),番号25(保護利益が及ばない理由を「黙秘の義務が免除されていないもの」に当たらないという条文評価へ戻す),番号32(43条2項により補助参加の申出と控訴を同時にできることを示す),番号34(法律上の利益を要することと「訴訟の結果」の意味を明示する),番号35(AC間訴訟の実体法上・訴訟法上の効果が当然にはBC間に及ばないと示す),番号39(両主張の検討を受け,丙高裁が控訴の適法性をどう判断するかまで結論を示す)である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施時の法令を基準とする。
設問1・2の指定された立論方向を守り,設問3では参加の利益を否定する立場を一貫させた。
別構成・別結論の許容は枠外解説で示す。
答案は改行を除き3637字である。
2 答案
第1 設問1
1 Bの訴えの訴訟物と重複起訴
(1)Bの訴えの訴訟物は,本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務のうち,150万円を超える部分である。
Bが義務を自認する150万円以下の部分を含まないと解する。
AのBに対する400万円の給付請求とは,150万円超過部分,すなわち請求額中250万円について審判対象が重なる。
(2)Bの訴状副本がAに送達され,先訴は係属している。
民訴法142条は,重複審理による負担と矛盾判断を防ぐため,同一事件について更に訴えを提起することを禁ずる。
当事者の原被告の地位が逆でも当事者は同一であり,確認と給付という形式の差やCの追加だけで,AB間の重なりが失われるわけではない。
したがって,重複部分について142条との関係を検討する。
2 課題⑴
(1)Aは,乙地裁で,Bに対する400万円の給付を反訴として請求することができる。
同一事故に基づく損害賠償請求であるから,146条の本訴請求との関連性がある。
管轄は前提とされ,共通する事故及び損害を審理するため著しい遅滞も生じない。
反訴なら同一手続における審理・判断が確保され,重複審理や矛盾判断という142条の弊害は生じない。
よって,反訴は適法である。
給付反訴について判断されれば,権利の存否を確定するだけでなく執行力によって救済できるため,重なる先訴の確認の利益も失われると解する。
(2)AのB及びCに対する請求は,同一事故による共同不法行為に基づき,同一の事実上及び法律上の原因に基づくので,38条前段を満たす。
もっとも,本訴原告でないCへの請求をBへの反訴に併合すると,法定外の主観的追加的併合になる。
38条を満たすだけで,当然に許されるものではない。
しかし,請求の関連が強く,追加される者の手続的利益を害さず,著しい遅滞を生じない場合には,共同訴訟的反訴を認めるべきである。
本件では,Bの訴えの第1回口頭弁論期日前であり,Cは審理の最初から関与して,自己の過失及び損害額について十分に防御できる。
Cの過失は独立に判断する必要があるが,事故態様及び損害額の証拠は共通し,一括審理による負担軽減と紛争の統一的解決が期待できる。
したがって,Cへの訴状送達と十分な防御の機会を確保し,Cを共同被告とする反訴を適法とする立論ができる。
3 課題⑵
(1)甲地裁への提訴は,先訴と裁判所を異にする別訴である。
乙地裁の先訴への反訴とはできず,直ちに両事件の弁論を併合することもできない。
しかし,先訴が消極的確認訴訟であることに加え,本件の提訴時期と紛争全体を考慮すると,142条の趣旨はそのまま妥当しないと立論できる。
(2)給付判決には確認判決と異なり執行力があり,Aには400万円の現実の回収を図る必要がある。
特に,150万円以下はBの訴えの対象でなく,確認訴訟への応訴だけではその部分も含めた給付を得られない。
反訴での救済が可能であるとしても,Bが自己に便利な乙地裁で先に確認訴訟を起こしただけで,Aが甲地裁で給付を求め得る地位を奪うべきではない。
A及びCは甲市に居住し,Aの代理人の事務所も甲市にあって,AがB及びCを共同被告として甲地裁で訴訟追行する合理性がある。
他方,先訴審理が進行していれば,給付別訴の許容による審理重複の不利益は大きい。
しかし,本件の提訴は第1回口頭弁論期日前であり,先訴の審理は進んでいない。
給付訴訟による一回的な解決を優先し,重なる先訴について確認の利益を否定すれば,矛盾する本案判断も避けられる。
移送等で審理を調整する余地もあるが,その裁量的処理だけをAの救済の前提とすべきでない。
よって,以上の本件事情の下では,A対Bの給付別訴を許し,38条前段を満たすCへの請求と共同訴訟にできる。
消極的確認訴訟の後なら給付別訴が常に許されるという一般化はしない。
第2 設問2
1 一般的提出義務と秘密文書
文書提出命令を申し立てる挙証者はB,診療記録の所持者はD,記載情報の秘密利益主体はAである。
Dの提出義務は,220条4号の一般的文書提出義務を根拠とする。
Dからは,同号ハが引用する197条1項2号により,医師が職務上知り得た患者の秘密を記載した文書であるとの反論が予想される。
病状及び治療経過は,一般に知られておらず,患者が秘匿することについて客観的に保護に値する利益を有するため,原則として「黙秘すべきもの」に当たる。
2 Aの当事者性と開示義務
もっとも,220条4号ハは,黙秘の義務が免除されていない事項に限って提出義務を除外している。
そこで,守秘義務が保護する本人が当該訴訟の当事者であり,その情報を開示すべき立場にあるとき,第三者の守秘義務による保護をなお認めるべきかを検討する。
金融機関が契約上等の守秘義務を負う顧客情報でも,顧客本人が受訴裁判所から開示を求められれば開示義務を負う情報は,金融機関固有の保護利益がなければ,職業の秘密による保護を受けないとする考え方がある。
医師の守秘義務は,単なる契約上の秘密保持にとどまらず,患者が安心して診療を受けるためにも必要である。
したがって,金融機関の場合と同じ結論を機械的に適用することはできない。
しかし,本件で問題となるのは一般的な診療秘密の公表でなく,A自身が賠償請求の根拠として訴訟に持ち込んだ治療及び後遺症に関する情報である。
Aがその記録を自ら所持して引用すれば,220条1号により提出を拒めず,保管先が医療機関であるというだけで同じ情報への反証を全面的に遮断する合理性は乏しい。
D又は医師に,患者Aの利益から独立して当該情報を秘匿すべき具体的利益があるとも認め難い。
この範囲では,第三者が所持していることのみで保護を強めるべきでない。
3 一部開示の評価と免除の範囲
さらに,Aは,治療及び後遺症が事故に起因すると主張し,診断書及び診療記録の一部を提出している。
これらは,Aが当該病状と治療経過を訴訟上の検討に供し,少なくとも関連情報について秘密利益を放棄し,医師の黙秘義務を黙示に免除したことを示す。
有利な部分だけを開示し,不利な関連部分を守秘義務で隠すことはBの反証機会を不当に制約する。
Bは損害の証明責任を負わないが,Aの書証に対して反証するには,関連する診療経過全体を検討する必要がある。
よって,事故と治療・後遺症との関係を検討するために必要な関連記載は,「黙秘の義務が免除されていないもの」には当たらず,4号ハによる提出拒絶はできない。
ただし,訴えを起こしただけで全ての診療秘密が失われるわけではない。
事故と無関係で開示・免除の対象でもない記載は区別し,必要に応じ223条1項後段による一部提出で調整する。
以上により,Dには必要な関連範囲の診療記録について提出義務がある。
第3 設問3
1 主張(ア)
43条2項によれば,補助参加の申出は補助参加人としてできる訴訟行為とともにすることができ,45条1項本文は上訴の提起を認めている。
したがって,第一審で補助参加していなくても,参加申出と同時に控訴を提起できる。
Bは控訴期間内に両者をしているので,(ア)は理由がない。
2 主張(イ)
(1)A対BとA対Cは通常共同訴訟であり,39条の共同訴訟人独立の原則が妥当する。
BもAC間の訴訟関係では第三者として参加を申し出る余地はあるが,42条の参加の利益を要する。
これは単なる感情上又は経済上の関心では足りず,法律上の利益を要する。
私は,「訴訟の結果」を主文中の訴訟物たる権利関係についての判断と捉え,その判断により参加人の法律上の地位が影響される場合に参加の利益を認める。
(2)AC間の判決は,AのCに対する損害賠償請求権の存否を判断するもので,BのCに対する求償権を判断するものではない。
その実体法上及び訴訟法上の効果は,当然にはBC間に及ばない。
Cの責任を認める判決だけでBのAに対する賠償債務が減るわけでもなく,通常共同被告BC間に既判力が生じるわけでもない。
確かに,Cの過失を否定する判断は,Bが将来求償するときに事実上不利な資料となり得る。
しかし,BはAC間の判決にかかわらず,求償権の成立要件を満たせば別途Cに求償でき,その訴訟でCの過失や負担部分について独自に主張立証できる。
この機会が保障される以上,事実上の影響を主文判断による法律上の地位への影響と同視しない。
よって,Bには参加の利益がなく,(イ)は理由がある。
3 丙高裁の判断
丙高裁は,Cの異議を受け,44条1項によりBの参加を許さない旨の決定をする。
不許可が確定するまでは45条3項が適用され,確定後もAの援用があれば同条4項の問題となるが,本件にその事実はない。
したがって,不許可確定後,Aによる援用等がないことを確認した上で,Bのした控訴を不適法として却下すべきである。
口頭弁論を経ないで却下する場合も,290条に従い判決による。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
対応表は重み5・4と条件付き項目を個別に示す。
採らなかった構成は欠落とせず,次の説明と区別する。
| 番号 | 答案・解説の対応 |
|---|---|
| 1 | 第1。Bの訴えの訴訟物を不法行為損害賠償債務の150万円超過部分と特定する。 |
| 3 | 第1。当事者の地位逆転・C追加にかかわらず,AB間の重複部分に事件の同一性を認める。 |
| 4 | 第1。142条を審理重複・矛盾判断・応訴負担を避ける趣旨から解釈する。 |
| 5 | 第1。A対Bの給付請求を反訴として提起する構成を示す。 |
| 6 | 第1。反訴なら統一審理でき142条に抵触しない理由を述べる。 |
| 7 | 第1。同一事故の共同不法行為で38条前段の共同訴訟要件を満たすと当てはめる。 |
| 8 | 第1。第三者Cへの請求の併合が法定外の主観的追加的併合となる障害を検討する。 |
| 9 | 第1。初回期日前からCが関与できるなど,Cの手続的利益を理由付きで保障する。 |
| 10 | 不採用。後記の別構成の解説。共同給付別訴を選ぶ場合は,反訴を選ばない理由と弁論併合による重複起訴解消を説明する。 |
| 12 | 第1。異なる裁判所の別訴は反訴によれず,直ちに弁論併合もできないと区別する。 |
| 13 | 第1。確認判決と異なる給付判決の執行力を,別訴許容の必要性へ結び付ける。 |
| 15 | 第1。Bの先行提訴がAの甲地裁で訴える地位を損なう不利益を評価する。 |
| 16 | 第1。先訴第1回口頭弁論前で審理未進行であることを重複負担の小ささへ評価する。 |
| 17 | 第1。本件事情に即して142条の趣旨が妥当しない理由を述べ,一般的な給付別訴優先へ飛躍しない。 |
| 19 | 第2。挙証者B・所持者D・秘密利益主体Aを区別し,挙証者をAとしない。 |
| 20 | 第2。220条4号の一般的文書提出義務を根拠とする。 |
| 21 | 第2。220条4号ハと197条1項2号を接続し,医師の守秘義務の除外事由を検討する。 |
| 23 | 第2の2。当事者本人の情報開示との関係。A自身が訴訟当事者として開示義務を負う情報かを検討し,Dの秘密保護の限界へ接続する。 |
| 24 | 第2。Aの当事者性と診療記録の一部提出を,利益放棄又は不公正という理由付けで評価する。 |
| 25 | 第2。保護利益が及ばない理由を「黙秘の義務が免除されていないもの」に当たらないという条文評価へ戻す。 |
| 26 | 第2の2。金融機関と医師の相違を明記。本人開示義務に関する金融機関判例と,医師固有の守秘義務との差を比較して射程を論じる。 |
| 27 | 不採用。後記の別構成の解説。利益文書構成ではAでなくBの利益のために作成されたといえる理由を示す。 |
| 28 | 不採用。後記の別構成の解説。利益文書構成では1~3号と4号の関係及び除外事由の適用・類推を検討する。 |
| 30 | 第2。【注意】当事者性・一部提出又は真実発見から,媒介理由なしにDの提出義務を断定しない。 |
| 32 | 第3。43条2項により補助参加の申出と控訴を同時にできることを示す。 |
| 33 | 第3。45条1項の上訴権と結び,第一審不参加だけでは控訴できないとの主張を退ける。 |
| 34 | 第3。法律上の利益を要することと「訴訟の結果」の意味を明示する。 |
| 35 | 第3。AC間訴訟の実体法上・訴訟法上の効果が当然にはBC間に及ばないと示す。 |
| 36 | 第3。参加利益を否定する構成では,Bが後の求償訴訟で主張立証できる機会を論じる。 |
| 37 | 不採用。後記の別構成の解説。参加利益を肯定する構成では,法的拘束がないのに求償へ生じる事実上の影響を丁寧に説明する。 |
| 38 | 第3。訴訟の結果の定義と参加利益の当てはめを整合させ,A勝訴でB債務が当然減るなどとしない。 |
| 39 | 第3。両主張の検討を受け,丙高裁が控訴の適法性をどう判断するかまで結論を示す。 |
重み3以下の通常項目は,番号2・11・14が答案第1,番号18が前提の維持,番号22・29~31が答案第2の秘密文書への集中,番号40が答案第3の(ア)の簡潔な処理に対応する。
(2) 設問1の別構成と具体的事情
訴訟物には150万円以下を含む見解もあり,公式資料は立場自体で評価を区別しないとしている。
本答案は150万円超過部分説を採るため,150万円以下の非重複と250万円部分の重複を区別した。
共同訴訟的反訴を否定する場合には,B及びCへの給付別訴を乙地裁で提起し,裁判所による弁論併合を通じて142条の弊害を避ける構成が考えられる(番号10)。
反訴なら統一審理を求められる点との違い,及び法定外の主観的追加的併合を避ける理由を述べる必要がある。
甲地裁では直ちの併合ができないため,これと同じ処理をそのまま使えない。
課題⑵では,先訴第1回期日前で審理が進んでいない事実を,審理重複の不利益が小さいことへ評価する点が重要である。
給付の反訴が提起された場合に債務不存在確認の訴えの確認の利益が失われるとした最高裁第一小法廷平成16年3月25日判決(平成13年(オ)第734号,民集58巻3号753頁)の考え方を,別裁判所のあらゆる給付訴訟へ無条件に広げない。
(3) 設問2の規定の接続と別構成
金融機関の顧客情報に関する最高裁第三小法廷平成19年12月11日決定(平成19年(許)第23号,民集61巻9号3364頁)の趣旨は,公式資料が比較を求めている。
金融機関の契約上等の守秘義務と,診療の信頼を支える医師の職業上の守秘義務との差を認めた上で,患者本人が当事者として開示すべき情報か,所持者固有の保護利益があるかを検討する。
本答案はさらに,Aによる一部提出とその主張内容から,関連範囲の黙示的免除を理由付けている。
220条3号前段の利益文書構成も許容され得る(番号27・28)。
採る場合は患者Aの利益のための文書であるというだけでは足りず,Bの利益のために作られたと評価する理由と,1~3号と4号の除外事由の関係を論じる。
本答案は4号の構成を採るため,この別構成を重ねて論証するものではない。
自己利用文書だけの検討で4号ハに代答しない。
また,真実発見の必要性や一部提出という事実のみから結論を出さず,保護利益と免除という文言へ接続する。
無関係の秘密に対する一部提出の限定は,民訴法223条1項後段と,試験前の名古屋高裁平成25年5月27日決定(平成24年(ラ)第267号)による補足である。
(4) 設問3の許容される結論
「訴訟の結果」に理由中判断や将来の求償関係への影響を含めて考え,参加の利益を肯定する立場もある(番号37)。
その場合も,AC間判決の効果がBC間へ当然に及ぶとはせず,法的な求償関係に対する事実上の不利益を具体的に説明する。
本答案は主文中判断に限定する立場を採り,Bに求償訴訟での主張立証機会があることを理由に否定する。
どちらの結論でも,定義と当てはめの整合が必要である。
最高裁第三小法廷昭和51年3月30日判決(昭和46年(オ)第1057号,集民117号323頁)は,共同不法行為を理由とする損害賠償請求訴訟の第一審で共同被告の一方に対する請求が認容され,他方に対する請求が棄却された場合に,控訴しない前者が,原告と他方との間の判決について控訴するため原告に補助参加することを認めた。
本問はこの判決の事案と同じ構図であり,出題の趣旨も同判決の趣旨等を意識しつつ自らの考え方を述べることを求めている。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
共同訴訟的反訴及び給付別訴の許容は,異論のある解釈について設問の指定に沿って立論したものである。
個々の利益を理由付きで比較し,すべての場合に許されるとの一般命題にはしない。
設問3の否定説は,同じ構図で補助参加を認めた最高裁昭和51年3月30日判決の結論と異なり,本答案は同判決と結論を異にする理由を明示していない。
損害額の実体的算定,契約責任,遅延損害金,管轄原因,費用・仮執行は論じない。
試験後の法改正・判例を本件当時の答案の根拠へ混入させていない。
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当該年度の問題全体は,法務省「平成30年司法試験問題」で参照できる。
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3 本問の論点に関連する記事
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省・平成30年司法試験論文式試験問題集(民事系科目)。
本問はPDF9~13頁。
https://www.moj.go.jp/content/001258875.pdf
②法務省・平成30年司法試験論文式試験問題出題趣旨。
本問はPDF11頁「第3問」から13頁の刑事系見出し直前まで。
https://www.moj.go.jp/content/001273705.pdf
③法務省・平成30年司法試験の採点実感(民事系科目第3問)。
本問は民事系PDF17~24頁。
https://www.moj.go.jp/content/001281222.pdf
2 法令
民事訴訟法(平成8年法律第109号)。
e-Gov法令APIの平成30年5月17日時点を使用した。
https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109?occasion_date=20180517
3 裁判例
名古屋高裁平成25年5月27日決定(平成24年(ラ)第267号)は,診療録の秘密,開示された範囲の黙秘義務免除,一部提出の調整について原文を確認した。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-83365.pdf
最高裁第三小法廷平成19年12月11日決定(平成19年(許)第23号,民集61巻9号3364頁)は,公式PDF1~4頁の法廷意見を確認した。
顧客本人が開示義務を負う情報について,金融機関固有の保護利益がなければ職業の秘密による保護を受けないとする判断である。
本記事では,これを医師へ機械的に適用せず,守秘義務の違いと本件情報の性質を検討した。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-35493.pdf
最高裁第一小法廷平成16年3月25日判決(平成13年(オ)第734号,民集58巻3号753頁)は,債務の履行を求める反訴が提起されている場合には,その債務の不存在確認を求める訴えは確認の利益がないとした判決である。
https://www.courts.go.jp/hanrei/57042/detail2/index.html
最高裁第三小法廷昭和51年3月30日判決(昭和46年(オ)第1057号,集民117号323頁)は,共同不法行為を理由とする損害賠償請求訴訟の第一審で共同被告の一方に対する請求が認容され,他方に対する請求が棄却された場合に,自己に対する判決について控訴しない前者は,原告と他方との間の判決について控訴するため原告に補助参加することができるとした判決である。
https://www.courts.go.jp/hanrei/64064/detail2/index.html
この2件は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,裁判年月日・事件番号・判例集の巻号頁・判示事項及び裁判要旨を確認した。
4 確認状態
公式資料が述べる要求,記事独自の重み及び解釈,採用しなかった許容分岐を区別した。
問題は本問関連頁,出題の趣旨及び採点実感は上記の本問関連範囲を実読した。
法令原文,名古屋高裁決定及び最高裁平成19年12月11日決定の法廷意見を確認し,最高裁平成16年3月25日判決及び昭和51年3月30日判決は判示事項及び裁判要旨を確認した。
同決定の補足意見全体は,本記事の独立した根拠に用いていない。
評価項目数や重みの合計から公式得点又は合格可能性を推定することはできない。