第1 日米地位協定の全文と全28条を確認する
日米地位協定は,在日米軍の施設・区域の使用と,日本における米軍及び関係者の取扱いを定める全28条の協定である。刑事裁判権だけでなく,基地の提供・返還,出入国,税金,調達・労務,損害賠償,駐留経費及び合同委員会も扱う。
この記事では,何条を読めばよいかを探せるよう,各条の主な内容と読み落としやすい条件を一覧にする。表の説明は条文の要旨であり,個々の事件について全ての要件・例外を列挙したものではない。具体的な判断には,該当する項・号,合意議事録,補足協定及び関連する国内法の確認が必要である。
制度の全体像と刑事事件・被害救済の詳しい説明は,日米地位協定の内容をわかりやすく解説を参照されたい。
1 公式の全文と条文別の索引
外務省掲載の日米地位協定全文(日本語・英語)には,前文,全28条及び署名欄が収録されている。末尾の署名文は,日本語と英語が等しく正文であると定める。
外務省の条文・関連合意一覧は,各条の文書と,関係する合意議事録・合同委員会合意を探すための索引である。全文が掲載される文書と概要だけが掲載される文書,日本語の正文と仮訳を区別して読む必要がある。以下の条文番号のリンクは,同一覧で確認した公式文書に接続する。ただし,17条については全文PDFに接続する。
2 日米安保条約との違い
日米安全保障条約6条は,日本及び極東の安全のため,米軍が日本の施設・区域を使用する基本的な枠組みを定める。地位協定は,その使用と米軍関係者の地位に関する具体的な制度を定める。日本防衛のための行動に関する安保条約5条と,地位協定17条の刑事裁判権は,異なる問題を扱う条文である。
根拠は,現行の日米安全保障条約の5条・6条及び地位協定の前文である。旧日米安保条約,昭和27年の行政協定及び現在の地位協定の関係は,平和条約と旧日米安保条約の違いで説明する。
第2 1条~8条―定義・基地の提供と運営
| 条文・テーマ | 主な内容と読み方 |
|---|---|
| 1条 対象者の定義 | 米軍の構成員,軍属及び家族を区別する。軍属は米国籍の文民を基本とし,通常日本に居住する者や14条1項の者を除く。家族には年齢・扶養の条件がある。基地で働く全ての人が軍属になるわけではない。 |
| 2条 施設・区域の提供と返還 | 個々の施設・区域は合同委員会を通じて両政府が取り決める。協定の目的のため不要となった施設は返還する。一時的な日本側の使用には,米軍の正規の使用を妨げない旨の両政府間の合意等の条件がある。 |
| 3条 施設・区域の管理 | 米側による設定・運営・警護・管理のための必要な措置を認める一方,交通等を不必要に妨げないこと,作業で公共の安全に妥当な考慮を払うことも定める。日本側の立入りが常に自由であるという条文ではない。 |
| 4条 返還時の原状回復と補償 | 米側は提供時の状態への回復又は回復に代わる補償の義務を負わず,日本側も改良や残された建物等について補償義務を負わない。ただし,特別取極に基づく建設にはこれらの規定を適用しない。環境調査の制度とは区別する。 |
| 5条 船舶・航空機の出入と移動 | 米国等が公の目的で運航する船舶・航空機の港・飛行場への出入や,基地間の移動,入港料等の取扱いを定める。免除対象でない貨物・旅客には,日本側への通告と日本法による出入国等の取扱いがある。 |
| 6条 航空交通・通信と航行施設 | 非軍用・軍用の航空交通管理と通信の協調・整合,航行補助施設等の様式,位置・特徴の通告や変更前の予告を定める。具体的な管制の範囲や手続は,関係する当局間の取極も確認する。 |
| 7条 公益事業・公共の役務 | 日本政府が所有・管理・規制する公益事業等を,日本の省庁等に適用される条件より不利でない条件で米軍が利用し,利用上の優先権を持つことを定める。 |
| 8条 気象業務 | 両政府の当局間の取極に従う気象観測,気象資料,航空運航に必要な気象通信及び地震・津波に関する資料の提供を定める。 |
施設・区域の数,国内法,土地使用及び主要裁判例は,在日米軍基地の法的根拠と施設数を参照されたい。基地騒音については,米軍基地騒音訴訟の判例で,米軍機・自衛隊機,差止め・損害賠償を分けて説明する。
第3 9条~16条―出入国・車両・税金・労務
| 条文・テーマ | 主な内容と読み方 |
|---|---|
| 9条 出入国と身分確認 | 構成員は旅券・査証法令の適用から除かれ,構成員・軍属・家族には外国人の登録・管理法令の適用除外がある。構成員の身分証明書・旅行命令書と,軍属・家族の文書を区別する。永久的な居所等を要求する権利を与えるものではない。 |
| 10条 運転免許・車両 | 米側が発給した運転免許等の承認,公用車両の識別表示,私有車両の日本の登録番号標を定める。運転資格の取扱いと,日本国内での交通事故についての責任は別に判断する。 |
| 11条 関税と税関検査 | 原則として日本の税関法令に服することを前提に,一定の公用輸入や私用財産の例外,税関検査を行わない場合,免税品の処分・再輸出及び違反防止の協力を定める。全ての私用の輸入品を無条件に免税とする規定ではない。 |
| 12条 調達と労務 | 契約・現地調達,一定の公用調達に関する税,現地労務の確保,賃金等の労働条件や解職後の特別な手続を定める。5項の労務規定と,7項の軍属の雇用条件に関する適用除外は区別する。個人的購入の免税はこの条だけから導けない。 |
| 13条 所得・財産への課税 | 米軍の財産,関係者の勤務等による所得,一定の動産について課税・免除を定める。日本の源泉から生ずる所得,投資・事業用財産等には例外がある。あらゆる所得・財産が免税となる制度ではない。 |
| 14条 特殊契約者 | 通常米国に居住し,米軍のための契約履行のみを目的に日本にいる指定された人・法人や被用者の制度である。指定条件・取消し,限られた利益や課税,刑事裁判権を規定する。1条の軍属と同じ身分と扱わない。 |
| 15条 販売所等の諸機関 | 米軍当局が公認・規制する販売所,食堂,社交クラブ等の歳出外資金諸機関について,設置,規制・課税,物品の処分等を定める。販売への課税と日本国内での購入への課税,認められる利用者を区別する。 |
| 16条 日本法令の尊重 | 構成員・軍属・家族に日本法令を尊重し,協定の精神に反する活動,特に政治的活動を慎む義務を課す。この義務と,個々の国内法の適用・執行・立入りの条件は同じ問題ではない。 |
対象者を確認するときは,1条の定義に加え,平成29年の軍属補足協定の認定・見直し等の枠組みも確認する。12条の表には協定上の制度を記載した。現在の雇用契約や個々の税目について判断するには,関係する合意・国内法の確認が必要である。
第4 17条~23条―裁判権・損害賠償とその他の制度
| 条文・テーマ | 主な内容と読み方 |
|---|---|
| 17条 刑事裁判権・身柄・捜査協力 | 日本側と米側の裁判権,専属的裁判権,競合時の第一次の権利,身柄,捜査協力,裁判を受ける者の権利等を定める。裁判権があることと起訴前の身柄を持つことを区別する。5項(c)の継続拘禁は,構成員・軍属の身柄が米側の手中にある場合の規定である。 |
| 18条 民事請求権・損害賠償 | 両国間の請求権,公務中の行為等による第三者の損害の日本側処理と費用分担,公務外の不法行為についての補償手続,裁判・執行等を定める。5項と6項の制度,対象となる人,除外される請求を分けて読む。 |
| 19条 外国為替管理 | 構成員・軍属・家族が日本の外国為替管理に服することと,公金や勤務等・国外源泉から得たドル等の移転を妨げない取扱い,濫用・管理の回避を防ぐ措置を定める。 |
| 20条 軍票と軍用銀行施設 | 認可された者の基地内取引に用いる軍票,認可されない使用や偽造への措置,軍用銀行施設の指定・分離等を定める。条文があることと,現在の具体的な発行・利用の実態は区別する。 |
| 21条 軍事郵便局 | 構成員・軍属・家族のため,米軍の施設・区域内に軍事郵便局を設置・運営することを認める。日本国内の軍事郵便局間及び他の米国郵便局との送達を対象とする。 |
| 22条 在留米国市民の予備役編入・訓練 | 日本に在留する適格な米国市民で,米軍の予備役団体への編入を申請した者の編入・訓練を認める。日本の住民一般を徴兵する規定ではない。 |
| 23条 軍・関係者・財産の安全 | 軍,構成員,軍属,家族及び財産の安全確保について両国の協力を定める。設備・記録・公務上の情報等の保護や,日本の法令に基づく処罰のため,必要な立法その他の措置を求める。 |
17条の起訴前拘禁を調べるときは,平成7年の刑事裁判手続に関する合意も読む。殺人・強姦の特定の場合の日本側要請に対する好意的考慮などを定める合意であり,全事件の自動的な起訴前引渡しを定めたものではない。
刑事裁判権の配分,身柄引渡し,公務中・公務外の被害救済及び国家免除の詳しい区別は,総合解説の第3~第5を参照されたい。
第5 24条~28条―経費・協議・発効・改正・終了
| 条文・テーマ | 主な内容と読み方 |
|---|---|
| 24条 経費の分担 | 日本側が負担する施設・区域・路線権の提供等を除き,米軍の維持経費は米側が負担するという基本を定める。現在の駐留経費負担は,この条だけでなく特別協定や年度予算等も確認する。 |
| 25条 日米合同委員会 | 協定の実施について必要な協議をする両政府間の機関を設置し,施設・区域の決定,代表者,補助機関等を定める。解決できない問題はそれぞれの政府に移す。本文の改正を一方的に行える機関ではない。 |
| 26条 承認・発効と国内措置 | 国内手続による承認,公文交換,安保条約の発効日に効力を生ずること,旧行政協定の終了及び必要な予算・立法措置を定める。署名日と発効日を区別する。 |
| 27条 改正の要請 | いずれの政府も,どの条についても改正を要請でき,両政府が交渉する。改正が制度上できないという意味でも,一方の要請だけで変更できるという意味でもない。 |
| 28条 存続と終了 | 安保条約が有効な間は協定と合意された改正が有効であるとし,それ以前に両政府の合意によって終了させる場合を除く。特定の年に自動的に満了するとの規定ではない。 |
費用の内訳は,駐留経費・思いやり予算・同盟強靱化予算の解説を,協議機関と合意の公開は,日米合同委員会の解説を参照されたい。
第6 条文から関連合意へ進む読み方
1 協定本文・合意議事録・補足協定を分ける
まず問題に対応する条文と,対象となる人・物・行為を確認する。次に外務省の条文別索引から,関係する合意議事録や合同委員会合意を探す。文書の日付,全文か概要か,日本語が正文か仮訳か,後の変更の有無,条件・例外を確認する。
環境の問題では,3条の管理・公共の安全及び4条の原状回復だけでなく,環境補足協定と実施のための合意を読む。環境補足協定4条は,事故・漏出が現に発生した場合と,返還に関連する現地調査について,特定された日本側当局の立入りの手続を合同委員会が定める枠組みである。自治体が常に自由に立ち入れるとの規定ではない。
具体的な申請の根拠や手続の使い分けは,環境問題・PFAS・基地への立入りの解説で説明する。
2 制度の内容と,個別事件での実施を分ける
身柄引渡しの要請や環境調査の申請ができる制度と,実際に引渡し・許可・調査が行われた事実は区別する。具体的な事件を調べる場合には,申請書・回答・実施結果等の日付と作成主体を確認する。条文や合意だけから実施済みとは判断できない。
問題点や改定論を検討するときも,現行の文言,政府の解釈及び制度を変更すべきだという提言を分ける。日米地位協定の問題点と改定論と,ドイツ・韓国との比較を参照されたい。
第7 出典
①外務省掲載日米地位協定全文(日本語・英語,前文・1条~28条・署名欄)。各条の表は正文の要旨である。条文別の文書と関連合意の所在は,外務省の公式索引で確認した。
②外務省掲載日米安全保障条約5条・6条。
③外務省掲載刑事裁判手続に係る平成7年10月の合意及び17条5項(c)。
④環境補足協定3条・4条・6条(平成27年9月28日署名)及び軍属補足協定3条~5条・7条(平成29年1月16日署名)。